ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
さて、今回からまた新しく作品を書いていこうと思います。
読者の皆さま方には、某○ラえもんの如き暖かい目で見守っていただけると幸いです
それでは、どうぞ!!
ポッ...
手に触れた冷たい感触に、思わず空を見上げる。
すると案の定、見上げた憂鬱な曇天からは、堪えかねたとばかりに小さな雫が溢れ落ちてくる。
ポッ...ポッ...ポッ...
最初は一滴、次に二滴。
三滴、四滴と続いて行くにつれ、初めは恐る恐るといった様子だった雨も、次第にその勢いを増していく。
それはまるで子供のイタズラのよう。怒られるかも、そんな不安と、それでも抑えきれないイタズラ心。
故にこそ、最初はビクビクと、しかし見つからないなら後少し、ほんの少しだけと調子にのっていく...そうやって段々とエスカレートするイタズラのように、空の上の神様の手から溢れ落ちる雫は、次第にその量を増していく
ザァー...
雨が降る。
小降りだった雨は、すでに本降りになっている。
ふと気付くと、傘を手に佇む自分以外、周りには誰もいない
...まぁ、元々誰もいなかったんだけど、それでも降りしきる雨の中、佇む自身の姿は、余計に孤独感に溢れたものに見えるに違いない。
ザァー...
雨が降る。
天から落ちてくる誰かの涙は、まるで世界を洗い流さんとでも言うかのように、地上に注がれ続ける。
暗く沈んだ景色の中で、降りしきる雨は傘では防ぎきれない足元をも濡らしていく
でも思えば...
(あの日も...)
...たしか、こんな天気だったな
そう思いながら、じんわりと濡れていく足元から視線を空へと上げる。
すると当然ながら、そこにあるのは曇天。陰鬱な、灰色の雲がどこまでも横たわった、そんな光景で...
(...あぁ)
それを見て思わず嘆息してしまったのも...まぁ、仕方のないことだろう。
なぜなら、あの日もたしかこんな天気だったから。
全てが終わり、建物から出た先に待っていたのは、これと同じ車軸を流すような雨。
それは、まるでかのノアの方舟の如く、世界を押し流す濁流。汚れきった世界などいらない、そう言って全てをリセットする神様の怒り。そして...
(...)
それはまるで、悲しみの涙。
失ってしまったものを、もう二度と返ってこないものを悼む、そんなどうしようもない悲しみに満ちた涙のようだったから...
ザァー...
雨が降る
雨が降る
雨が...降る
そして、そんな中で脳裏を過るのは全ての始まり...いや、終わりの始まり。
伏せた目蓋の裏に浮かぶのは、過ぎ去ってしまったあの頃の情景だったから...
ザァー...
降りしきる雨の中、一人のウマ娘は、傘をさしたまま暫し立ち尽くす...
.......................
.................
.........
チンッ...
小気味良い音と共に目の前に置かれたグラスを、そっと口につける。
すると口の中に広がるのは、爽やかな林檎の風味だ。
リキュール、蒸留酒に果物や香草なんかを入れた上で、更に砂糖やシロップを加えて作るこのお酒は、それ故に甘い。
そして、他のお酒に比べてアルコールの風味が弱いからこそ、飲みやすいという特徴がある。
グラスを少し傾ける。
ジュースのような軽い飲み口で、甘い液体が喉を通り、下へ下へと落ちていく。
だけど、それでもこれはれっきとしたお酒。故にこそ、瑞々しい林檎の風味の中には、どこかツンとしたアルコールの風味がほんの僅かに混ざり、それが喉を抜けると共に、体が少し温かくなる。
(あるいは...)
これこそがお酒を飲む醍醐味なのだろうか、なんてことを頭の片隅でなんとなく思う。
冷たいものを飲んでいるはずなのに、何故か体が温かくなってくる。そんな矛盾した感覚がなぜか楽しくて、そんな明らかに不健康な感覚に、倒錯的な快感を見いだすからこそ、人はお酒を楽しめるのだろうか?
(だとしたら...)
少しだけ、自嘲するかのような笑みを顔に浮かべる。
お酒とは随分と罪深いものだ。
自壊衝動を引き起こす飲み物なんて、ろくなものじゃない。
(でも...)
グラスから口を離す。
そして、見つめたテーブルに置いたグラスの中、注がれたリキュールの表面には、自分の顔が写っていて...
(それでもみんながお酒を飲むのは...)
お酒を飲む人物が、それを楽しめるからで...
だとしたらそれは、お酒を楽しめる人物が、自らが壊れるということ自体を楽しんでいるということで...
(それは...つまり...)
...もしかしたら、みんな誰もが死にたがっているのではないか。
この辛く厳しい現実の中で、誰もがそれから逃げ出したいと、心の底で思っている。だからこそ、目の前に迫る緩やかな崩壊を、心のどこかで嬉しく思ってしまうのではないだろうか?
...なんて、そんなことを考えていた時だった。隣の席からからかうような声がする。
曰く
「お前はもっと強い酒を飲むもんだと思ってたぜ」
とのこと。
それを聞いて、苦笑しつつ少し考える。
...なるほど。
まぁ確かに、別に自分が下戸であると思ったことはない。どころか、どちらかと言えばお酒には強い方だろう。
だからこそ、もう少しアルコール度数の高いお酒だって、飲もうと思えば飲めるし、事実普段ならもう少し強いお酒を飲んでいる。でも...
「...気分?なら仕方ねぇな。そうだな、気分は大切だ。酒は楽しんで飲まなきゃな」
返ってきた返答に対して納得したらしく、隣の人物は笑いながら自身もグラスに口をつける。
そして、そのまま互いに言葉を交わすこともなく、その場は暫しの沈黙に包まれる。
カランッ
グラスの中の氷が音をたてる。
注がれた琥珀色の液体は、薄暗いバーの照明の中で、僅かな明かりに照らされて、テーブルに波打つ光を写し出す。
客が二人しかいない、そんな店内を、恐らくジャズであろうトランペットの演奏が、静かに満たしていく...
テーブルに映る不定形に煌めく光の波を、ぼんやりと眺める。
それは一定の形を持たず、移ろい続ける。ゆらゆら、ゆらゆらと。ただただ移ろい続ける。そしてそれをじっと見つめ続ける。
夜は長い。故にこそ、沈黙に沈む夜のバーの中の時間は、まるで引き伸ばされたかのようにゆっくりと進んでいく。
ゆらゆら、ゆらゆら
光の波は移ろい続ける。際限のない停滞の中、視界の中で動くものはもうそれくらいで...永遠、そんな言葉を連想する程度には長く長く沈黙が流れる。
長い夜は、まだまだ続くかに思えた。
だからこそ
「...いいぜ」
沈黙を破って紡がれたその言葉は、声量の割にやけに大きく響いた気がして
「...話してやるよ。アイツのことを」
もともと、それが目的だったんだろ?
そうこちらに問いかける隣の人物の視線を、真っ直ぐに受け止める。
故にこそ...
「...それじゃあ、まずは何から話そうか...」
その口は開かれる。
恐らくは誰も知らない、とあるウマ娘の語られないはずの物語が、その重い口から語られ始める。
そう、とあるウマ娘。
その口から語られるのは、とあるウマ娘の物語。
「...そうだな」
もう一度だけグラスを煽った隣の人物は、グラスをテーブルに置く
...それはかつて広大なターフを、その魂を燃やして走り抜けた、誇り高きあるウマ娘の物語。
その生涯において一度の黒星も許さず...無敗
そんな子供の妄想みたいな、しかし誰もが一度は夢見るような功績を現実に叩き出し、その圧倒的な強さで全てをねじ伏せてからレースの世界から去った...そんな一人のウマ娘の物語
「さしあたってはまず...」
鮮血の女王
そう呼ばれた、真紅の少女の物語で...
「...アイツが...スカーレットが、絶望の淵に叩き落とされた話から始めるべきかな?」
カランッ...
どこか遠くで、氷が音をたてたような気がした...
さて、1話はこれで終了です。
このシーンがそれぞれいつのシーンなのか、雨の中に佇むウマ娘や、バーで話す人物が一体誰なのか
...そしてダスカに何があったのかは、この後の物語で徐々に分かっていくことでしょう。
続きをお楽しみに
ちなみに、今回は前作と違って不定期で更新していきます。
本来なら前作と同じように全部書いてからあげたかったのですが、量がかなりあるのと、前回以上に筆が進む速度が遅いので、今回はリアルタイムで更新していきます
(とは言っても前半部分は少しだけストックあるので、その分は順次上げていきますが)
読者の皆さま方にはご迷惑をお掛け致しますが、
どうか途中で作者がエタらないよう応援していただけると幸いです(山のようなプロットを眺めつつ)