ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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それは積み上げてきた物の上にしかない

それは積み上げてきた者の上にしかない

だけどそれは...そうして掴み取ったそれは...




イ繝√ヰン

イチバンになる

 

 

 

それが、これまでの人生におけるアタシの至上命題だった

 

 

 

タッタッタッタッ...

 

 

 

アタシはターフを駆け抜ける

地を蹴り、風を切り、何もかもを置き去りにして、ひたすらに目の前のコースを走り抜ける

 

(「...くっ!!」)

 

 

 

タッタッタッタッ...

 

 

 

疾走するアタシの後ろから、誰かの声がする

でもそんなことをアタシはいちいち気にしない

 

(「ま、待ちなさい!」)

 

 

 

タッタッタッタッ...

 

 

 

その声を、後ろから聞こえる誰かの声を、アタシは振り切って走る

だって後ろなんて、アタシには振り向いている暇がないから

 

(「待ちなさいよ!ダイワスカーレット!!」)

 

アタシはイチバンにならなければいけないから

イチバンでなければいけないから

だから、後ろなど振り向いていられない

そんなことをする暇があるなら一歩でも前に進まなければいけないから

 

(「待って...待ってよスカーレット!!」)

 

後ろから聞こえる声が徐々に遠ざかる

でもだからこそ、余計にアタシはスピードを上げる

それは、決して追い付かれないため

後ろに残してきたものに、足を掬われないため

だから、アタシは振り返らない

後から聞こえる悲痛な叫びを、それでも無視してアタシは駆け抜ける

 

(「お願い...だから...」)

 

だってもし立ち止まったら...アタシはイチバンじゃなくなってしまう。

イチバンじゃない、普通のウマ娘に成り下がってしまう

それはアタシにとって屈辱なんてレベルではない

存在定義の侵害、アイデンティティーの消滅に等しいことだから

だからこそ、アタシは走る

そうしなければ、アタシは自分を保てない。自分を認められない。

そして...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「ゴール!一着はスカーレットさん!!」)

 

(「...ふぅ」)

 

(「流石ね、スカーレットさん。あなたならきっと、来月の中央トレセン学園の入学試験も大丈夫ね!」)

 

(「...ありがとうございます」)

 

ゴール板の前を駆け抜けたアタシに、チームのコーチが声をかけてくれる。

それに応えながらアタシはターフの外へと足を向ける

 

 

(「...なんで!なんでなのよ!!」)

 

聞こえてきた声に、アタシは振り向く

すると、そこにいたのは当然その声の主で...

 

(「どうして!どうして一度も勝てないのよ!?」)

 

先ほどまでアタシが走っていたターフ、そこに手をついた一人のウマ娘が燃えるような瞳でアタシを睨んでいて...

 

(「私だって頑張ってるのに!私だって努力してるのに!!

どうして!?なんでなの!?」)

 

ゆっくりと夕日が沈んでいく

赤く、まるで血のように染め上げられた景色の中で、その色彩に溺れるように目の前のウマ娘の体が深紅に染まっていく。

だけど...

 

(「...」)

 

(「!!待ちなさい!待ちなさいよ!!」)

 

(「...」)

 

(「答えなさいよ!スカーレットぉぉぉおっっ!!」)

 

アタシはその声に背を向ける

そして、そのまま歩き去る

 

そんなアタシにその子は...同じ時期にこの幼少ウマ娘レースのチームに入った時から、ずっと仲良くしていたかつての親友だった子は、なおも問いかける

 

どうして何も答えてくれないのか

どうしてこちらを見てくれないのか

 

鮮やかな赤に染まったターフに、彼女の悲しみに満ちた絶叫が響き渡る

 

だけど...

 

(「...」)

 

アタシは歩き続ける

背後から聞こえてくる恨みと憎しみに溢れた呪詛のような言葉を、アタシを呪い殺さんばかりに突き刺さるその視線を、それでも無視して歩き続ける

 

何故なら、アタシはイチバンでなければならないから

ここで立ち止まる訳にはいかないから

 

故にこそ、アタシは決別を告げる

かつての親友

少しずつ、少しずつ実力の差が開くと共に心の距離が開いていき、今日この時を持って遂にその断絶が決定的になってしまったその子に、アタシは別れを告げる

 

...きっとそれが、一番良いと思うから

きっとそれが、アタシだけでなくあの子のため

二人が前に進む為に必要なことだと思うから

アタシは大好きだったその子から手を離す

 

それをアタシは後悔なんてしてない

それでも...

 

(「...」)

 

空を見上げる

夕焼けに染まったそれは、目が冴えるような赤一色だ

だからこそ、思い出すのは

 

 

 

 

(「スカーレットちゃんのおなまえって『赤』っていみなんだね!かっこいいね!!」)

 

(「うん!ありがとう!!」)

 

 

 

遠い遠い...いつかの日の記憶

 

 

 

(「じゃーん!おたんじょうびプレゼントだよ!!」)

 

(「わぁっ!ありがとうスカーレットちゃん!!」)

 

 

 

まだ、ただの仲良しでいられた頃の

 

 

 

(「アタシ、しょうらいはイチバンのウマむすめになる!!」)

 

(「だったらわたしは、さんかんウマむすめになるよ!!」)

 

 

 

幸せだった頃の思い出で...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「ずっと、いっしょにいようね!スカーレットちゃん!!」)

 

(「うん!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつけば、もう日は沈んでいた

どころか、そこはチームの練習場ですらない

アタシは周囲を見渡す

そこはアタシの家までの帰り道の途中

たった一本の電灯があたりを照らすだけの、誰もいない薄暗い道

 

だからきっと...

 

(「...ごめんなさい」)

 

誰も見ていないし

 

(「...ごめんなさい、■■ちゃん」)

 

誰も聞いていない

 

(「それでも...それでもアタシは...」)

 

電灯の光で闇から切り取られたその場所は、その瞬間だけは確実にこの世界の外にあるはずだった

だから、ぼんやりと、しかし確実に闇を照らすその光の中から、アタシは光の外側、闇の向こうを見つめる

 

けれども、そこには何もない

周囲を囲む闇は、まるで世界の全てを覆ってしまったようで...アタシ以外全てのものがなくなってしまったような気がして...

何もない、そんな空っぽな闇の中、電灯に照らされたアタシは、一人ポツンと佇む

 

 

それは、トレセン学園に入る直前の記憶

アタシが、親友を失った日の記憶...

 

 

 

..........

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

即座に頭を過ったのは

またか、という感想

文字通り夢にまで見た光景なだけに、一瞬だけアタシはうんざりとした気持ちになる

だけど...

 

「...?」

 

周囲を見渡す

そこにあるのは、いつものように呆れるほどに高い空と、飽きるほどに広大な草原

しかし...

 

「あ...」

 

それを見た瞬間に理解する

いつもはないそれ...途方もなく広がる草原の彼方から差し込む暖かな光

それを見たアタシは理屈ではなく感覚でそれを理解する

それは、タキオンさんの推測...この場所の正体に関する予想は、きっと間違っていないということだ

 

風が吹く

 

アタシは呆然と光の先を見つめる

そんなアタシを取り囲む無限の草原には一点の淀みもない

日の光を浴びて、艶やかに輝くそれらは、何ら他のものに邪魔されることなくどこまでも広がっていて...

 

草原という概念のイデア

そう言われても納得できるその光景の中心で呆気にとられて佇んでいたアタシは、やがて我に返ると目の前の光へと改めて意識を向ける

 

そう。ここはきっと、タキオンさんの言う通りウマ娘の可能性の果て

サイレンススズカ、彼女の訪れたそこと同じ場所であり、そして...

 

アタシは歩きだす

 

遠くにあるような...しかし近くにあるような...そんな不思議な光

でもアタシは何故か、手を伸ばしさえすればそれに届くことを知っていて...

 

アタシは走り出す

 

一歩足を進めるごとに予感が確信へと変わる

この光の先には真理がある。

それはきっと、今のアタシが求めるもの

ずっとイチバンのウマ娘であり続けることができるもので...だからこそ

 

(「...だからこそ、スカーレット君

君は絶対にそこから先に行ってはいけないよ」)

 

瞬間タキオンさんの忠告が脳裏をよぎる

その顔は、見ているこちらの胸が締め付けられるほどに悲しそうで、悔しそうで...

 

(「私は...もうあんな悲劇を見たくないんだ...」)

 

話終え、白衣を翻して去っていくタキオンさんの後ろ姿は、常に自信に溢れたタキオンさんには似合わない程に小さく見えて...

 

だけど

 

 

 

(ごめん...なさい)

 

 

 

それでも...アタシは止まらない

止まれない

 

ぐんぐんと、アタシと目の前の光との距離が縮まっていく

それに伴い、周囲の景色が光に呑まれて白く漂白されていく

 

だけど、それは同時に、そこに近づこうとするアタシの存在自体も漂白していくようで...

 

「くっ!?」

 

五感が曖昧になる

何も見えないし、何も聞こえない

周囲の芝の匂いも、肌をなでる風の感触も消える

そして訪れたのは完全な虚無で...

 

「...あぁ!?」

 

それでも足を踏み出すと、今度は時間と空間の感覚も狂う

自分が今どこを走っているのか、いつからどのくらい走っているのかすらも分からなくなってしまって...

 

...本当に、今アタシは前に進んでいるのだろうか?

実は立ち止まっているのではないか?

いやむしろ、進んでいると思っているだけで、実は後退しているのではないか?

 

そんな悪魔のような囁きが、アタシの足を止めようとする

じわりじわりと焦燥と諦念と無力感と絶望感がアタシの心を削っていく

 

それでも...

 

「アタシ...は...」

 

諦めない

感覚のない足で、それでも確かにあるはずの地面に一歩踏み出す

 

「アタシは...イチバンじゃなきゃいけない!」

 

絶対に、諦めない!!

アタシは進む

きっと前へと向かっている、そう信じてアタシは自らの足で一歩を踏み出す

 

「アタシは...――!」

 

だって

 

「アタシは...――!!」

 

だってアタシが諦めたら...

イチバンじゃなくなっちゃったら...!!

 

(「今まで、ありがとう」)

 

手を、伸ばす

 

思い出すのは夕陽に染まる病室の光景

赤く染まった景色の中で、寂しそうに微笑むあの人の姿

それは、アタシにとっての絶望の光景

すべての終わり

だからこそ

 

「っ!!」

 

認めない!絶対に認めてやるもんか!!

そんな思いだけで、アタシは前に踏み出す

 

そうだ!アタシはアイツと約束したんだ!!

必ず一緒にイチバンのウマ娘になるって!!

だったら!

 

「まだ...まだアタシは!!」

 

こんなところで倒れてる暇なんてない!!

そんな意地だけで、アタシは崩れそうになる膝を支える

 

そうだ!アタシはイチバンじゃなきゃいけない!!

イチバンであり続けなければならない!!

それこそがアタシ、ダイワスカーレット!!

そして、アタシはまだアイツと...アイツと――!!

 

「...アイツと...一緒に――!!」

 

気が付けば、いつの間にかアタシの目の前には目指す光がある

だから、アタシは迷わずその先へと手を伸ばす

そしてその手は、ようやく光の先の何かへと...――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『...スカーレットちゃんは、いつも自分のことばっかりだよね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........え?」

 

 

 

 




次回、大阪杯決着
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