ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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注意

先に謝っておきますが、ダスカ関連で胸クソ要素があります
それでも良いという方のみお通りください




望まれなかった結末

アグネスタキオンside

 

 

(いけない!!)

 

ゴール直前

その時のスカーレット君の姿を見た瞬間に、私は走り出していた

 

「っ!!モルモット君!!」

 

「委細承知!!」

 

以心伝心とばかりにこちらの考えを的確に読み取り、真逆の方向へと走り出すモルモット君を尻目に、私は観客席の手すりを飛び越える

ふわり、と白衣を翻し、観客席の外に着地する私に周囲の人々がざわつく

 

だが、そんなことは今どうでも良い!衆目の視線など、今この瞬間において何の価値もない!!

 

故にこそ、ターフに降り立った私はそれらを一切無視して疾走する

 

(間に合えっ!!)

 

それはかつての皐月賞を始めとした数々の激戦、それらに勝るとも劣らない閃光のようなスタートダッシュ

煌めく流れ星のような一瞬の閃き

だからこそ、一瞬にしてターフを駆け抜けた私は...

 

 

 

「スカーレット君っ!!」

 

 

 

ゴール板を駆け抜けた勢いのまま、頭からその場に倒れそうになっていたスカーレット君の身体を、何とか抱き抱えることに成功する

だが事態は一刻の猶予も許さない

 

「しっかりしたまえ!スカーレット君!!」

 

そう呼び掛ける私の言葉に、彼女は一切反応しない

走りながら気を失ったらしい彼女の頬は死人のように蒼白だ

それはまるであの時の...

 

(「スズカ!スズカ!!

返事をしてくれ!スズカァッ!!」)

 

あの時の...

忘れもしない絶望の光景の焼き直しのようで...

 

トラウマのフラッシュバックに、こちらまで一瞬意識が飛びかける

 

(私は...!!)

 

また、繰り返すのか!?

あの日を!あの悲劇を!!

 

そんな底無しの絶望に呑まれかけた時だった

 

「...うぅ」

 

「!気が付いたのかい!?スカーレット君!!」

 

僅かに、しかし確かにスカーレット君が目を開ける

それは、間違いなく目の前の彼女がまだ生きている証であって...

 

「...こ、ここは」

 

「安心したまえ、まだこの世だよ!

それよりも...!!」

 

それに安堵しながらも、私は抱き止めたスカーレット君の身体を入念に見渡す

と言うのも、一命を取り留めたとは言え、彼女は...スカーレット君は明らかに、かつてのサイレンススズカが至った領域に踏み込んでしまったからだ

だからこそ、念入りに私はその身体をチェックする。

とは言え

 

「...っ」

 

「足が腫れている...これは後で要検査だねぇ...

だけど」

 

それ以外の目立つ外傷は特にない

顔が青ざめているというのはあるが、それは恐らく極度の疲労

少し休めばすぐになんとかなるだろう

 

だからこそ

 

「...どうやら、命に関わるような怪我だけはないみたいだねぇ」

 

私は胸を撫で下ろす

 

先のゴール直前での不自然な加速

そこに、まるであの日のスズカのような不吉な気配を感じたからこそ、一瞬本気で肝を冷やしたものだが...

今回に限っては私の杞憂で済んだようだ

 

 

「タキオン!」

 

「...良いタイミングだねぇ」

 

救護班を引き連れて、モルモット君がこちらへ向かってくる

それを見ていると、なんだか私もホッとしてしまって...

 

「運が...良かったみたいだねぇ...」

 

全身から力が抜ける

何にせよ、スカーレット君は無事だったのだ

あの走りを見るに、私の忠告を恐らく無視したことに関しては、後で少し説教が必要だが...それでも事態は都合良く収まったのだ

それならもう、私の役目は終わり

後はモルモット君が呼んできてくれた救護班の人達に任せて...

 

と、その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ~...またスカーレットの勝ちか...』

 

『だよな~ホント最近のレースはつまらないよな~

たまには負けないかな~スカーレット』

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........なん...だって?」

 

ポツリと観客席から聞こえてきたあまりにもあんまりな言葉に、私は思わず呆然とする

だが、その間にも声は止まらない

 

『てかさ、もう今回のレースもスカーレットの圧勝だったじゃん?

可哀想にな~一緒に走ってたウマ娘達』

 

『そうそう

スカーレットがいる限り、もう他の子達勝てないじゃん

いい加減スカーレットもその辺考えるべきなんじゃないかなw』

 

それは走り続け、遂に力尽きて今倒れ伏しているスカーレット君をバカにするかのような言葉

いや、それはスカーレット君の、ウマ娘レースのことだけに留まらない

すべての勝負事において、前向きに頑張る人々の、ひた向きな努力を貶めるような最悪の言葉だ

 

だからこそ

 

「今.........なんと言ったかね?」

 

私は呟く

今だかつて経験したことのないほどの熱量の怒りが、私の身体を駆け巡る

だからこそ、私はそれに従い、抱き抱えていたスカーレット君を優しくターフに寝かせてから、ゆっくりと立ち上がる

 

「誰だ...」

 

そんな私の様子を見て何か感じたのだろうか

普段は冷静沈着なモルモット君が珍しく慌てているのが横目に映るが...悪いねぇ、モルモット君

私のような人間でも、絶対に譲れないラインというものはある

まして、かわいい後輩が文字通り命懸けで得た勝利を冒涜されたんだ

その罪は万死に値する

...八つ裂きにしても足りないくらいだ

 

だからこそ

 

「今の言葉を言ったのは、誰だぁぁぁぁっっ!?」

 

私は振り返る

あらんかぎりの憤怒と憎悪をもってして、声のした方向を睨み付ける

 

貴様らにこの子の何が分かる!?

大切なトレーナーが倒れ、それでも必死に頑張ってきたこの子の何が、一体何が分かると言うんだ!!

 

そんな思いを込めて、私は観客席を睨み付け...――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...――そうして返ってきたたくさんの無言の視線に、呆気にとられる

 

それは何故なら...

 

「...はは」

 

成る程、確かに先に聞こえてきた発言がいきすぎていたものだったのは間違いないだろう。

現に、私の逆鱗に触れるセリフを吐いたのであろう二人の男は、私の怒りを直接浴びて青ざめ、周囲からも白い目で見られている。

だけど

 

「...おいおい...冗談だろう?何かの間違いだろう?

なぁ、モルモット君

そうだと言っておくれよ...」

 

私を制止しようとでもしたのか、いつの間にか近くに来ていたモルモット君に、思わず問いかける

 

しかし

モルモット君は何も言わない

辛そうな顔をして彼は私から目をそらす

そして、私を見つめ返す観客席からの、無数の視線から読み取れるメッセージは一つであり...

 

 

 

「.........っ!!じゃあ何かい?君達は最初から、願っていたというのかい!?」

 

 

 

認めない!

そんな現実はあまりにも惨すぎる!!

それでは...あまりにもスカーレット君が報われない!あんまりじゃないか!!

だからこそ

 

(否定してくれ!)

 

私は科学者だ

故にこそ、実際に見たもののみを信じ、神などというオカルトを信じることはない

...だがそれでも、柄にもなく私は神へと祈る

きっと、きっと誰かが否定してくれる

違うと言ってくれる

そう信じた私への解答は...――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君達は!スカーレット君に負けてほしかった・・・・・・・・とでも言うのかい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...――沈黙

誰も何も話さない

だが、それは何よりも雄弁に、そして残酷に私の予感を肯定していて...

 

 

 

「ふっ...――!!」

 

 

 

ふざけるな!!

そのあまりの事態を前にして、そう叫ぶ、その直前だった

 

 

 

「...ありがとうございます、タキオンさん」

 

 

 

そっと肩を叩かれる

振り返ると、そこにはまだ辛そうなスカーレット君がいて...

 

「...それと、申し訳無いんですが、ターフから出るのを手伝ってくれませんか?

早くウイニングライブの準備をしなきゃいけないですし...」

 

そんなことを言い出すものだから

 

「し、しかしスカーレット君!!」

 

と私は反論しようとする

確かに、ウマ娘レースにおいてウイニングライブは重要な要素だ

だけど、いくらなんでもこれはあんまりだ!

君にだって怒る権利位はある!

君自身の掛け替えのない努力と祈り、それを否定する者達のためになど、そんなことをする必要はない!!

そう言おうと思って覗き込んだスカーレット君の目は

 

「いいんです」

 

辛そうで、苦しそうで、悲しそうで...

今にも壊れてしまいそうなほどに傷ついたその目は

 

「...それでも、このレースに勝ったのは...今この場において、イチバンのウマ娘はアタシなんです」

 

だから、とそう言って、精一杯の意地を張るその目は

 

「アタシは...イチバンのウマ娘として、しなければならないことをしなきゃいけないんです」

 

あぁ...それでも、それでも意地を張りたい...いや、意地を張らなければ逆に彼女はそのままその場に崩れ落ちてしまうだろう、と雄弁に語っていたから...

 

「.........それで、いいんだねスカーレット君...」

 

「...はい」

 

形ばかりの確認を終える。そして

 

「...残念だが、私の身長では君に肩を貸したところで、地面を引きずるのが目に見えている。

故に、モルモット君」

 

「...うむ」

 

モルモット君に協力してもらって立ち上がったスカーレット君は、ゆっくりとターフを後にする

仮にもG1、それも春シニア三冠の一角を決めるレースの直後にも関わらず、針を落としても聞こえそうな程の異様な沈黙に包まれるターフを

 

だけど、私には何も出来ない

大切なトレーナーを失い、さらに応援してくれる人達まで失った

そんな後輩に対して、何も出来なくて...

 

「...すま...ない」

 

段々と小さくなっていくその背中を、せめて見守ることしか、今の私には出来なくて...

 

「すまない......スカーレット君...」

 

いつまでもいつまでも、私はその場に立ち尽くすのだった

 

 





これにて大阪杯は終了です


なぜこんなことになってしまったのかについては、次回です

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