ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
今回は前回で言った通り、主に背景解説です
前回までの大阪杯、その裏で何が起こっていたのか
それの解説がメインです
それではどうぞ
Another view 2
「...スカーレットが大衆からの支持を失った理由は、至ってシンプルだ」
そう言って、隣の人物はグラスを煽る
そして、その口からポツリと溢れた言葉は...成る程、確かに本人が言う通りシンプルそのものだ
それはすなわち...
「...アイツは、勝ちすぎたんだよ」
そう言って、隣の人物はグラスを置くと、問いかけてくる
「なぁ...ウマ娘レースに限らず、スポーツ観戦という行為が娯楽として成り立つ理由って、なんだか分かるか?」
そう言われて、少しだけ考えてから私見を述べる
「...観戦者が競技者に一方的に同化することで、勝利のカタルシスを自分のものとして追体験できるから?
成る程、確かにそういう側面もあるだろうが...少々行儀が良すぎるな。
じゃあ正解は何かって?
...思うに、皆見たいんだよ。
血湧き肉踊る...そんなギリギリの、互いの誇りを、教示を、信念をぶつけ合う、そんな命がけの戦いがな」
それは歴史を見ても明らかだ、と隣の人物は続ける
「例えば古代ローマの剣闘士
アイツらはそれこそ本当に命懸けで戦ってた訳だが...普通に考えてみろ
文字通りアイツらは血塗れで戦ってるんだ
そりゃ古代の人間の精神性は今の人間とは大分違うだろうが、それでも普通に考えてグロいのは間違いない。
そして、人間は基本的には他者の痛みを自分のものとして想像できる生き物だ。
殴り合い、切り合い、ボロボロになっていく奴らの戦いなんて、普通こっちまで痛々しくなって、見てられなくなるはずだ
...例えは悪いが、スナッフムービーなんて胸くそ悪いもん、普通の人間は見ようともしないだろ?
シリアルキラーでもない限りは、無意味な暴力や殺生なんて、普通は単に不快なだけなんだよ」
けどな、と言葉は続く
「それでも、剣闘士のショーは古代ローマにおいて最大の娯楽の一つだった。二人の鍛え上げられた戦士が、互いの命を懸けて本気でぶつかり合う...そんな光景に、かつてのローマ市民達は歓声を上げ熱狂した
そして、この構図は本来全く違うものであるはずのウマ娘レースでも同じ
集まったウマ娘達が、各々全力を振り絞って、たった一つの勝利を目指して人生懸けて勝負するんだ
そこで生じる本気の戦いが、友情が、ドラマが、どれだけ人を引き付けるものなのか、なんてことは今さら言うまでもないはずだ」
そして
と、隣の人物は一旦言葉を切ると
「...だからこそ、アイツは疎まれたんだ」
そう苦々しげに呟く
チッ、チッ、チッ、チッ...
壁にかけられた時計が、静かに時間を刻む
薄暗いバーの中、間接照明に照らされたグラスの縁ががきらりと光る
そんな中、トクッ、トクッ、トクッと空っぽになったグラスに新しいお酒を注ぎながら、隣の人物は話を再開する
「...さっき、アイツが嫌われたのは勝ちすぎたから...と言ったが、正確にはこうだ。
他のウマ娘達が勝負という土俵に立てないほどに、圧倒的に勝ちすぎたから、だ」
黄金色の液体が、グラスに注がれる
まるで琥珀のように輝くそれが、完全にグラスを満たしたタイミングで、続きが語られる
「アイツの脚質は逃げだった
それは、最初から最後まで先頭にいれば一番だ、なんて至極当然の、しかし実行難易度を考えればイカれてるとしか言い様のない戦法だ
だけど、アイツはそれで戦い抜いた
現役時代、ほとんど全てのレースにおいて、アイツは先頭を譲ることなく最初から最後まで一番であり続けた。...結果はどうなると思う?」
そう改めて問いかけてくるその言葉に
「...正解
答えは、恒常的な独り勝ちの状況の大量生産
しかもアイツが出た全てのレースにおいて、そのレース展開はほとんど同じ
最初から最後までアイツが一番前を走り、変わらない...それがアイツのレースだった」
だからこそ、と
「それが...あの当時の観客達やメディアには好意的に受け入れられなかった...
それどころか、アイツらは次第にスカーレットの敗北をこそ望むようになった...!」
ドンッ!
テーブルに拳を叩きつけ、隣の人物は叫ぶ
そこにはまるで、それが自分のことであるかのような、猛烈な怒りと
「見飽きた?面白くない?もっとワクワクするようなレースが見たい?ふざけるな!!
お前らは、アイツがどれだけの研鑽の上でその勝利を手にしたのか分からないのか!?
圧倒的、そう呼ばれるまでに至ったその勇姿を!なぜ素直に認めてやれないんだ!!」
そして
「なんで...なんで頑張ったアイツが!誰よりもひた向きに、イチバンであり続けようとしたアイツが!!
祝福されるどころか、その不幸を願われなきゃいけないんだ!!」
そんな彼女、ダイワスカーレットを取り囲む状況に対して何もできなかった
そんな後悔と悲しみが満ちているような気がして...
「...すまん、感情的になっちまったな」
そうこちらに頭を下げる隣の人物に、別に気にしなくても良いと手を振る
何故ならその振るまいそのものが...
(「...ねぇ■■■」)
あの日の彼の言葉が...
(「お願いだ
君だけでも...」)
きっと杞憂だったって...
(「彼女の側にいてあげてくれないか?」)
そんなことを心配する必要なんて無かったんだって、証明してくれた気がしたから...
「?どうした?」
...怪訝そうにこちらを見つめる隣の人物に、なんでもないと答える。
そして自身もグラスを煽るが、勢いが良すぎたのか、喉に入ってむせてしまう。
...そう、だから目元に浮かぶ涙はきっと、その時の咳が原因で...
こちらを心配する隣の人物に、続きを話すよう促す
隣の人物はしばらくこちらのことを案じてくれていたが、まぁあんたがそれで良いなら、と言って話を再開してくれる
しかし
「結局のところ、どのみちスカーレットが壊れるのは時間の問題だったんだよ」
その口から語られる事実は絶望的なもので...
「トレーナーの病気に、無茶なスケージュールでの出走、おまけに世間からの冷遇...それらを背負って無茶してた代償が大阪杯で一気に表面化したスカーレットは、その後しばらくレースの世界から姿を消す
...当然だよな。一つでも辛いのにそれが三つも積み重なっているんだ
普通のウマ娘なら、どこかで心がぽっきり折れてるだろうし、事実スカーレットも折れかけた」
しかし、だからこそ、と後に続く言葉には
「もしあの人がいなければ、本当にアイツは立ち直れなかったんだろうな...」
ほんの一欠片の、しかし確かな希望が垣間見えて...
カランッ...
夜はまだ長い
薄暗いバーでの昔語りは、まだまだ続く
それでも、話は遂に佳境に入ろうとしていた...
ということで、今回の更新はこれで終了です
ダスカ好きの方には本当に申し訳ありませんが、
この小説はこういう設定でいかせていただきます
もちろん、もし公式に怒られたらこの小説は消しますが、
そういうことで、どうかよろしくお願い致します