ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

14 / 48


前回の最後であんなことを言いましたが、
今回はちょっとした息抜き回です。

いえ、別に暗くないわけではないんですが、
本格的な絶望の回へと至る前の、ちょっとした箸休めですね

それではどうぞ



窓際のプレリュード

 

 

???side

 

絶望

 

それが、目の前に横たわる惨状の名前だった

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

くらり、と

声すら出さず、目の前の人物はゆっくりとその場に倒れ伏す

それを見てざわめく聴衆の中、オレは倒れ伏すそいつの元へと駆け寄り、その肩を必死で揺する

 

だが反応は、ない

弛緩した手足に、血の気のない顔

周囲に散らばる赤い液体に溺れるように倒れ伏すその顔は安らかで...

まるで眠るように閉じられたその目が開くことは二度となく...

 

「...バカ野郎!!」

 

それを見て、思わずオレは叫ぶ

なぜ!?どうしてオレはもっとコイツを強く止めなかった!?

そんな言葉が心の中で空転する

後悔が、後から後から心の底から溢れ出てくる

それでも覆水は盆に返らない

湯のみからこぼれ落ちた水のごとく、ぶちまけられた赤い染みは静かに広がっていく

そんな中で

 

(「...大丈夫」)

 

思い出すのは

 

(「信じて」)

 

アイツの最後の姿

向かう先が死地であることを自覚しながらも、それでもオレを心配させまいと笑う姿で...

 

(だからオレは言ったんだ!)

 

ギリッと噛み締めた奥歯が音を立てる

あれ程止めとけって言ったのに!

あれ程無理をするなって言ったのに!!

だが、結局オレの声はコイツには届かなかった

オレの忠告を無視したコイツは!

そのまま駆け抜けていったコイツは...!!

 

目の前の事態をまともに直視できず、オレは膝をつきそうになる

絶望、まさにそんな状況に目の前が暗くなっているかのように感じる

 

...だけど!

 

(そうだ!このまま...!)

 

このまま、終わらせるわけにはいかない!

だってコイツは...オレにとってコイツは...!!

 

崩れかけていた膝を立て直し、オレはしっかりと大地を踏みしめて立ち上がる

そして、今この状況で出来ることを必死で考える

 

そう、状況は最悪だが、それでも幸いまださほど時間は経っていない。

だからこそ、初期対応をしっかりと行えば、事態を収集することは不可能ではないはずだ。

 

それに

 

「いるんだろ!?さっさと出てこい!!」

 

オレはすぐさま後ろを振り向き、そう怒鳴る

その声に応じて、いつの間にそこにいたのか、オレ達の回りに黒服姿のウマ娘がぞろぞろと何人も集まってくる

 

そう、それに幸いにも今日のコイツは一人じゃない。

オレを含めて、これだけ人数がいるなら幾らでも対処は可能なはすだ

だからこそ...

 

「牛乳と胃薬!そこら辺からありったけかき集めてきてくれ!!」

 

オレはそいつらに指示を出す

こういうことは本来専門外なんだが...それでもネットで齧った知識を元に対応策を頭の中で練り上げ、指示を出していく

 

「早く買ってきてくれ!でないと...でないと!!」

 

そして、普段ありとあらゆる事態を想定しているであろう彼女達にとっても、流石に想定外の状況に戸惑う黒服のウマ娘達にオレが叫んだのは...

 

 

 

 

 

激辛ラーメン喰って玉砕したファインこのバカ腹壊すぞ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

(「これが噂の、誰一人として完食したことがないという激辛ラーメンですね!そのジンクス壊させていただきます!!それではいただきま」ピタッ)

 

(「?ダイヤちゃん?」)

 

(「......スゲーッ 爽やかな気分だぜ 新しいパンツをはいたばかりの正月元旦の朝のよーによォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ」)

 

(「!?」)

 

(「.........きゅう」パタン)

 

(「ダ、ダイヤちゃーん!?」)

 

 

 

(「あらあら。見てくださいドーベル。川の向こうでメジロのご先祖様方が手を振っておられますわ!

うふふ。さぁ、わたくし達も行きましょう♪」ブクブクブクブク...)

 

(「ブライト!ブライト!!

お願いだから目を覚まして!ラーメンの器から顔を上げて!!

溺れる!溺れちゃうから!!」)

 

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

 

 

「...」

 

「今回も付き合ってくれてありがとね!シャカール♪」

 

ラーメン屋の外

さっきまで完全に目を回していたくせに、なぜかご満悦といった感じで話しかけてくるラーメンバカファイン

 

「まったくだな...

本当に今回ばかりは、一緒に行って正解だったな...」

 

と、背後から聞こえる阿鼻叫喚の地獄絵図の様子を努めて意識から追い出しながらオレも答える

が、それでも思い出すのは、当然つい先ほどの一悶着だ

 

そう、無類のラーメン好き...というより最早ラーメン凶人の域に片足突っ込んでるこの殿下殿には、美味しいラーメンがあるという噂を聞いただけで、すぐにそれを食べに飛び出してしまうという習性がある

そして、それだけなら別にオレも何も言わないんだが、何故かコイツがラーメン巡りに行く度に、毎回オレもそれに巻き込まれて同行している

 

...まぁ、別にその事事態は良い

と言うか、もう慣れた

だから、いまさらそれに対して何か言おうとはオレも思わない

 

ただ、今回はそのファインが食べに行ったラーメンに問題があって...

 

「それにしても、あんなに辛いラーメンがあるなんて...

ラーメンの世界は奥が深いね♪」

 

ニコニコ笑顔で上機嫌のファインの台詞に、オレは先のラーメンを思い出す。

すなわち、血よりも赤いおどろおどろしい液体に満たされた件のラーメン、「ウルトラスーパーDX北極天元突破紅蓮ラーメン」とかいう、あらゆる意味で地獄のようなラーメンを、だ

 

(「シャカール!準備して!!

究極の激辛ラーメンを食べに行くよ!!」)

 

そんな言葉と共に、休日だからと自室で作曲をしていたオレを拉致した部屋から連れ出したコイツに付いていったアタシが見たのは、濃縮された小型の地獄

 

ぼこぼこと泡立つマグマのような真っ赤なスープと、それをたっぷり吸ってパンパンに膨れ上がった大量のもやし

その周囲にはプカプカと鷹の爪らしきものがいくつも浮かび、器の底にはハバネロやらなんやらを練り込んだとかいう、特製のどす黒い麺が静かに沈んでいる

 

つんと鼻を突くどころか、催涙弾レベルの強烈な刺激臭をばら蒔く、これは本当にラーメンなのか?と言いたくなるような...食べ物というより、むしろ拷問器具とか処刑道具とかの方があってるかもしれない、そんなとんでもない一品

それにコイツは無謀にも挑み、案の定一瞬で玉砕したのだ

 

「..もう二度と挑まないでくれ」

 

それを思い出したオレは、ため息まじりにコイツにそう言う

別に自分で喰ったわけでもないのに、思い返しただけでそのあまりの存在感にげんなりしてしまう。

ただ、御機嫌な様子で鼻歌まじりのコイツは、恐らくまったく懲りてない

それが分かってるから、オレも再びため息をつく

 

昼下がりの眠くなるような陽気が辺りを包む

そんなのんびりとした空気の中にいると、ますます精神的疲労が増すような気がする

 

そもそもだ。この程度で止まるようならオレも苦労はしない

なにせコイツは、以前どれだけラーメンが好きなのかと聞いたとき

 

(「全てのラーメンを、人々の記憶から消え去る前に完食したい!

全ての宇宙、過去と未来の全てのラーメンを、この手で!!」)

 

とドヤ顔で即答したくらいだ

...言っちゃ悪いが、素面で言える台詞ではない

正直ドン引きである

 

とは言え

 

(まぁ、この位はっちゃけてるほうが、案外コイツにとっては良いのかもな)

 

と頭の片隅で考えながら、ふと隣を歩くファインの顔を見る

そこにはとても楽しそうに、次はどんなラーメンを食べに行こうかな、などと呑気に考える一人の少女がいて...

 

「?なぁに、シャカール?」

 

「...なんでもねぇよ」

 

不思議そうにこちらを見つめ返してくるファインから目をそらす。

それを見たファインは、え~?なになにシャカール~!教えてよ~!などとオレに絡んでくるが

 

「えーい、鬱陶しい!なんでもねぇッつってるだろ!!」

 

「ぶぅ~!貴様~、私のお願いが聞けぬと申すか~!!」

 

シャカールなんてキラ~い!(チラッ)

もうお話ししてあ~げない(チラッチラッ)

などと、微妙にウザい絡み方をしてくるコイツは、それでも今この瞬間だけは年相応の普通の女の子のようで...

 

(「たくさんのお友達ができて、ずっと行きたかったお店にもいけて、あんなにもキラキラしたレースをうんと近くで見ることができて...

うん。だからね、シャカール」)

 

その姿は、あの頃より...知り合って間もないあの頃よりも

 

(「だから、私はもうこれ以上何もいらない。

きっと、この思い出があれば私は歩いていける...そう思うんだ」)

 

ずっとずっと生き生きとしていて、そして楽しそうに見えたから...

 

(...まっ、この位なら別に付き合ってやらんでもないか...)

 

...本人には、絶対に言ってやんねぇけどな

と心の中でオレは密かに嘆息する。

そんなオレの内心も知らず、相変わらずファインは

うぇ~ん!シャカールが無視する~!!

なんてわめいているわけだが...まぁ、帰りにもう一件、とっておきのラーメン屋に梯子でもしてやれば機嫌も治るだろう

...言っておくが、他意はない。

ないが...まぁ、少しはこいつも喜ぶだろうと思って調べてたのが、まさかこんなところで役に立つなんてな、等と思いながら、早速ファインに話しかけようとしたときだった

 

 

 

『さぁ、今年もこの時期がやってきましたね。

春シニア三冠の最後の一つ宝塚記念!』

 

『そうですね、残すところあと一週間と少し!待ち遠しいですね!!

と言うわけで、今回の番組では来る宝塚記念、それに出走する注目選手やレースの見所などについて紹介していきます!!』

 

 

 

聞こえたその声に顔を上げると、ビルに備え付けられた大型テレビが目に入る

そして、それは隣を歩いていたファインもまた同じだったようで

 

「あ、そっか!もうすぐ宝塚記念なんだよね!!楽しみだな~!今年はどんなレースになるんだろうね!!」

 

と目を輝かせているが...オレとしてもその辺りは同感なので、特に何か言うことはない

 

オレ達だけでなく、周囲の人々も見つめる中で、家庭用サイズの何倍ものデカさの街頭テレビに映る番組は順調に進んでいく。

そして、その中でも盛り上がるのはやはりこのレースに出走するウマ娘の話題だ

 

 

 

宝塚記念

 

 

 

1960年に創設されたこのレースは、ウマ娘レースにおける格付けの中でも最高位のG1レースであり、同時に大阪杯、天皇賞(春)と並ぶ春シニア三冠の最後の一角でもある格式高いレースだ。

ファンの人気投票上位のウマ娘に優先的に出走権が回されることも相まって、このレースに出るウマ娘は人気と実力を兼ね備えた本物の強豪ばかり

だからこそ、その選手紹介には熱が入るというもので

 

「わぁ...強そうな人ばっかりだね、シャカール!」

 

「...ったりめぇだろ。仮にもグランプリレース...それに上半期で最強のウマ娘を決めるレースとも言われる一大レースなんだぞ?んなもん、強い奴らばっかりに決まってんだろ」

 

次々と紹介されていく有力選手の情報に目を輝かせるファインに、オレは軽く嘆息しながらそう答える。

とは言え、かくいうオレもこれでもウマ娘。

自分が出ないとは言え、レースに胸が踊るのはファインだけでなくオレだって同じだ

 

だからこそ、オレもまたテレビから流れてくる音声にしっかりと耳を傾ける。

そして情報を整理しながら、どのようなレース展開があり得るか、その中で、もし自分ならどんな風にレースを進めていくか

そんなことを密かにシュミレーションしている時だった

 

 

 

『...ところで、ダイワスカーレット選手は今回の宝塚記念には出走しないんですね』

 

 

 

「!」

 

「...」

 

その言葉と共に、一瞬周囲の空気が変わる。

それまで各々の都合で動いていた通行人達の動きと声が、ピタリと止まり、まるで張り詰めた糸のような異様な緊張感が辺りに漂う。

それは文字通り異常な光景

休日の真っ昼間にも関わらず、まるで絞首台の足元の板が外れる瞬間を待つような、そんな不気味な沈黙と緊迫した空気に包まれる中番組は続いていて...

 

『そうみたいですね。

そもそも彼女は、前回の大阪杯で脚を負傷したそうですからね。

しばらくは活動休止とのことですよ』

 

『あぁ、そう言えばそうでしたね

いやぁ、それはまったくもって...――』

 

 

 

「...行きましょう、シャカール」

 

「あ、おい!」

 

最後までそのレポーターの台詞を聞くことなく、隣にいたファインが不意にオレの手を引っ張る

だから、アタシはそいつの台詞の続きを聞き逃す

 

「ちょ、ちょっと待てよファイン!そんなに引っ張るなって!!」

 

「...」

 

いつになく強いファインの力に引っ張られながら振り向いた時には、その番組は終わっていた

だから、テレビの中でそいつが最後に何て言ったのか、それをオレが知ることはもうないだろう。

 

ただ...

 

「...」

 

「...」

 

黙々と歩き続けるファインに引っ張られ、オレもまた歩き始める

 

気が付くと、あれほど張りつめていた空気はいつの間にか霧散していた

時間が止まったように硬直していた辺り一帯の人々も普通に動き出している

それはまるで、さっきの一瞬がたちの悪い白昼夢だったかのようだ。

 

だけど...

 

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

ファインモーションside

 

 

 

「...おい」

 

あの後、しばらく歩いたところでシャカールが声をかけてきた

 

「...何?シャカール?」

 

「...痛い」

 

「え?...あ!」

 

と、そこで私はシャカールの手を強く握りすぎていたことにようやく気が付く。

 

「ご、ごめんなさいシャカール!大丈夫!?」

 

「まぁ、良いけどな...ん?」

 

だから私が慌ててシャカールの手を離して謝罪した時だった

 

ポツ...ポツ...ポツ...

 

そんな音ともに降ってきた雫が手の平を濡らす

 

そして、その量は次第に増していって...

 

「おい、なにボサッと突っ立ってる!」

 

とそこで腕を引かれる

見るとそれはシャカールの手で

 

「取り敢えず避難だ避難!あそこの軒先まで走るぞ!!」

 

と急かす彼女と共に、私達は雨宿りの為に、近くの建物の影へと駆け込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァー...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきまで雲一つなかった空は、すっかり雨雲に覆われてしまっている

日本は雨が多い国だとは聞いていたけど...こんなに突然雨に降られるなんて思っても見なかった

だから私は降り続く雨を見ながら、ちょっとだけため息をつく

だって、天気予報でも雨がふるなんて特には言ってなかったのだ

当然傘なんて持ってないし、かといってこの雨足だと走って帰るわけにもいかない

 

「う~ん、これは長引きそうだね...」

 

そんな所感が思わず口をついた時だった

 

「...なぁ、ファイン。さっきは...」

 

「聞くに耐えなかった。

それ以上の理由なんてないし、シャカールだってそう思うでしょ?」

 

おずおずと、彼女にしては珍しくはっきりとしない言葉に、私はきっぱりと自分の意見を述べる

 

「まぁ、そりゃそうなんだがな

...それにしてもあれは...」

 

「...そうだね。スカーレットちゃんが世間から良く思われていないのは知ってたけど、まさかあそこまでなんてね...」

 

そう言いながら思い出すのは、さっきのテレビで流れてた番組。

その出演者の最後の台詞

反応から察するに、恐らくシャカールは聞き逃しているそれは...

 

 

(『あぁ、そう言えばそうでしたね

いやぁ、それはまったくもって...――』)

 

 

 

(『良かったですね』?)

 

思い返すだけで腸が煮えくり返る

それが...それが文字通り命をかけて走るウマ娘に...スカーレットちゃんに良識のある大人が言うことなの!?

そう叫びそうになるのを押さえて、ぐっ、と私は拳を握りしめる

 

そしてそれだけではない。

あの時、一緒にテレビを見ていた周囲の人達もまた、見られるようなものではなかった。

なぜなら彼らは、あの時笑みを浮かべていたから

スカーレットちゃんが宝塚記念に出ないという言葉を聞いた瞬間に、彼らはまるで、ホッとしたかのような表情をしていたからで...

 

 

 

ザァー...

 

 

 

すっかり押し黙ってしまった私達を尻目に、雨は降り続いている

そんな中、その沈黙に耐えかねたかのようにシャカールが口を開く

 

「.........なぁ、ファイン。なんとかできないのか?オレ達は何もできないのか?」

 

だけど...

 

「...無理だよ、シャカール」

 

私にはそう返すことしかできない。

自身の無力を、改めて口に出すことしかできない

 

...確かに、少し汚い話ではあるが、私には王室の一員としての権力が少しばかりある

だからこそ、ちょっとしたゴシップ程度なら揉み消せないことはない。

...あまり誉められたことじゃないけど

 

ただ、今回ばかりはあまりにも規模が大きすぎる。

日本全国にここまで広がってしまったスカーレットちゃんの風聞を今更ゼロに戻すのは、私でなくてももう不可能だ。

 

それに...

 

「...今下手にあの子に手を出すと、最悪あの子は壊れかねない。

キミだってわかってるでしょ?」

 

「...っ」

 

私の指摘を受けて、シャカールはおし黙る

だけどそれは仕方がないこと

 

そう、実際彼女は限界ギリギリなのだ。

確かに、彼女は大阪杯の後も普通に過ごしている。

あんなことがあった後だというのに、普通に学校に通い、普通に友達と話し、普通に生活している。

流石に怪我があるからトレーニングに関しては本格的にはしてないみたいだけど、それでもあの子は普通に日常生活を...ううん、むしろ他のどの子よりも完璧にそれをこなしている。優等生、まさにその言葉通りに。

 

でも私や、彼女と仲が良いウマ娘などの一部のウマ娘達は、みんな気付いている

それが虚勢だってことに

大切なトレーナーが倒れ、ただでさえ不安定な状態だった彼女に、大阪杯の件はあまりにもダメージが大きすぎたってことに

...そして恐らく、本人が気付いているかどうかは分からないが、そう遠くない内に彼女はその重みに耐えられなくなるであろうことも...

 

「...くそっ!」

 

シャカールが苛立たしげに近くの壁を叩く

 

「確かに、オレはお前やタキオン達ほどスカーレットとは接点がねぇ...

だから正直な話、スカーレットに対する思い入れなんてもんがあんまりねぇのは事実だ。

 

...だがな!それでもこんな状況は狂ってる!!まったくロジカルじゃないし、何よりスカーレットが報われねぇ!!」

 

そうシャカールは叫ぶ

だけど届かない

大海に一滴の墨を落としたところで、海を黒く染め上げることが出来ないように、彼女の理不尽を叫ぶ声もまた、降りしきる雨にかき消されて消えていく...

 

それでも

 

「...そうだね、シャカール。

確かに現状は間違ってるし、私達にできることは何もない。

でも、だからこそ...」

 

私は空を見上げる

しかし、真っ黒な雲に覆われたそれの先を見通すことはできない

雨雲はまるで壁のように、地上にいる私達から青い空に浮かぶ暖かな太陽の光を遮っている。

でも、それでも

 

「...だからこそ、私達はあの子から目を離しちゃダメなんだよ、シャカール

確かに今は何もできないけれど...それでもいつか、私達の助けがあの子に必要な時が来るかもしれないから...

 

相変わらず降りしきる雨の勢いは治まらない。むしろ時間と共にどんどん酷くなっている。

それはまさに聖書にある世界を洗い流す大雨、かのノアの大洪水を引き起こしたという40日40夜の間降り続いたという雨のようだ

 

それでも

 

「ファイン...」

 

「...」

 

やまない雨はない

私はそう信じている。

確かにノアの大洪水は地上のすべてを飲み込んだけど、それでも逆に言えば、神様の力を持ってしても結局40日しか雨を降らせることはできなかったのだ

それならきっと、雨はやむ

それがいつになるかは分からない。

だけどきっと、永遠なんてことはないはずだから...

 

 

 

6月のとある昼下がり

雨はいつまでも、いつまでも降り続くのだった

 

 

 






と言うわけで、唐突なシャカファイ回でした!

...正直作者も想定してなくて、お前らマジでどっから出てきやがった!?、というのが本音です
ですから困惑する読者の皆さん、安心してください。
作者も同じ気持ちです(白目)


さて...と言うわけで"プレリュード=前奏"は終わりました。
ここからいよいよ前半戦の終わり、ダスカの絶望へと物語は動き始めます。何度も言うようですが、ここから先は本当に辛い展開になるので、その辺りの覚悟だけはよろしくお願いします。


それではまた次回!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。