ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
最初に言っておきます
恐らく、トレセン学園ではよくあることです
...あの日は、良く晴れた日だった
(『一着はダイワスカーレット!ダイワスカーレット選手です!!』)
ワアアアァァァァアアァァッッ!!
歓声が大空へと木霊する
レース場は、アタシが一着でゴールへと飛び込むと共に、熱狂の渦に包まれる
そしてそんな中、興奮に湧く観客席の一角から、トレーナーがアタシに声をかける
(「おめでとう!スカーレット!!まずは一勝だね!!」)
そう言って笑うトレーナーの顔は、とても嬉しそうで...見ていると不思議とこっちまで胸が暖かくなってくる
だけど、それがなんだか恥ずかしかったアタシは
(「...ふん!当然よ!!アタシはイチバンのウマ娘なんだから!!」)
そう言って、照れ隠しにそっけない態度を取る
とは言え、勝利は勝利
喜ばしいことであることは変わらない
(「はは、まぁそうだね
よしっ、それじゃあ、次はウイニングライブだ!
僕は先に控え室の方に戻るから、後で打ち合わせをしようか」)
(「......うん♪」)
そう言って一足先に去っていくトレーナーの背中をアタシは見送る
そして勝利の余韻に浸りながら、一旦地下バ道へとアタシが降りようとしたタイミングだった
(「うぅ...」)
(「?」)
気が付いたのは偶然だった
ターフの片隅
レースが終わり、もう誰もいないそこにいたその子はボロボロだった
泥だらけの勝負服
泣き腫らして真っ赤になった両目
そしてそれ以上に、悔しさと悲しさと絶望に満ちた表情...
だけど、誰もそんな彼女のことを見ようとはしない。
レース場に響く観客達の歓声は、全てこのレースで一番になったアタシに向けられるもの
だからこそ...
(「...うぁぁぁああああっっっ!!」)
大地に手を付き、彼女が慟哭する
ごめんなさい!ごめんなさい!!
負けてしまった!
あんなにも応援してくれたのに!
それに応えられなかった!!
夢を、叶えられなかった!!
ごめんなさい!
ごめんなさい!!
ごめんなさい!!!
そんな胸をかきむしられるような痛ましい慟哭がターフに響き渡る
でも、そんな彼女の悲しい叫びは誰にも届かない
会場に満ちる歓声の中に、それはいつのまにか消えてしまっていて...
(「...っ!」)
見ていられなくてアタシは彼女から背を向ける
そして歩き出してしばらくすると、アタシはそれをすっかり忘れてしまう
イチバンになる
それ意外のことにアタシは興味がなかったから
自分が歩んできた道のりを、振り返ることなどなかったから
それでも...
(「...」)
忘れてしまった、そのはずなのに
(「.........」)
何故だか、アタシの頭の片隅からその光景が離れなくて...
...それは、メイクデビューを果たしてから2年目の記憶
トリプルティアラの一つ目、桜花賞を制した日の記憶...
..........
.........
...
ビクトリーside
月のない夜でした
「...泣かないで、トレーナーさん」
薄暗い街灯の下、私はそう言って泣きじゃくるトレーナーさんに微笑みます
だけど...
「あなたのせいじゃない。私が...私があなたの期待に応えられなかった、ただそれだけのこと」
「そんなこと...そんなことない!!
全部!全部、俺が君の実力を活かし切れなかったからっ...!!」
困ったことに、トレーナーさんは頑なにそれを認めようとしません。
もう何度も何度も同じことを言ったのに、この人は相も変わらず、全部が自分のせいだと信じて疑わない
(...本当に困った人)
だからこそ、私は少し呆れます
こうなると手強いのを、私はよく知っています。えぇ、よく知っていますとも。
ですが...
「...本当に、あなたはいつもそうですね、トレーナー」
...それが、少しかわいいとも思うのは、きっと私も困ったウマ娘だから
でしょうか?
そんな感慨を抱きつつ、私はこの人との思い出を振り返ります
...そう、思えば初めて会ったときからそうでした。
頑固で、自分の意見を絶対に曲げない、そんな人
選抜レースで私に一目惚れし、私が根負けするまで追いかけ回した困った人
猪突猛進、まさにそれを体現したかのような人
...普通に考えたら、厄介きわまりない不審人物かもしれませんね
それでも...
「いつでも、どんな時でも私を信じてくれる。
私の頑張りが足りなかったなんて、私の才能が劣っていたなんて、絶対に言わないし、思いもしない。
そんなどこまでも愚かで、甘くて...そして優しい人」
私は彼の手を握ります
そう、そんなあなただからこそ、私は思うのです。
「あなたなら、きっと良いトレーナーになれる。
全部を自分のせいだと思い込んでしまうところがあなたの悪いところだけど...それでもあなたほど真摯に自分の担当のことを信じられる人になら、私達ウマ娘も安心して自分の夢を預けられる」
暖かくて大きな手...それを見つめながら私は思います
これ以上、この人を縛り付けてはいけない、と
私のような、もうこれ以上先にいけないウマ娘と心中させてはいけない、と
だから
「私との旅路はここでお仕舞いだけど...それでも、あなたにはまだ次がある。この経験を次に繋げるチャンスが、まだあなたにはある。
...あなたは、こんなところで足踏みしていて良い人じゃないんです」
「び、ビクトリー...」
私は、自分からこの手を離します
夢の終わり、それでもそれはお互いに新しい夢を始めるための終わり
そして、だからこそ
「だから、ね?笑ってください、トレーナーさん」
一つだけ...もう二度と会うことはできない
それならせめて...
「最後なんです。お互い笑顔でいたいじゃないですか...」
せめて、そんなささやかなわがままの一つくらいは許してくださいと、そんな私の視線を受けたトレーナーさんは、そのまま黙って俯いてしまいます。
トレセン学園の片隅、誰もいない暗がりの中に、ポツンと一つ街灯が佇んでいます
そして、その明かりの下で、私は静かにトレーナーさんを見つめます
俯くトレーナーさんの顔に浮かぶ表情は、私には分かりません。
ですが、頑固な彼のことです。きっと苦虫を100万匹噛み潰したような、そんなとんでもなく苦渋に満ちた表情をしているに違いありません
それが、私には申し訳ない
もし私がもっと強ければ、彼にそんな表情をさせることなどなかったのに、そう考えると悔しくて悔しくて仕方がない
でも、それでも...
「...落ち着きましたか?トレーナーさん」
「...あぁ、すまな...いや、ありがとうビクトリー」
そっと、トレーナーさんは私の手を振りほどき、顔をあげます。
その顔には、やはり、それでも堪えきれない悔しさと悲しさが滲んでいます。
それを見ていると私は悲しくなります
彼に、こんな顔をさせなければいけない自分自身が、どうしようもなく嫌になります
だけど
「.........ビクトリー」
「はい」
この人は、強い人だから...
「俺の...初めての担当ウマ娘」
「...はい」
私は信じています
「君と過ごした日々を、俺は絶対に忘れない
君に教えてもらったことを、絶対に無駄になんてしない」
「...」
例え、私がいなくても
「必ず...立派なトレーナーになる
いつか君が自慢できるような...そんな立派なトレーナーに、俺は必ずなってみせる!」
「...」
この人ならきっと...
「だから.........だから!!」
一瞬言い淀んだトレーナーさんは、しかし
「今まで、ありがとう!ビクトリー!!
そして...お疲れ様!!」
そう言って彼は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔で、笑顔を浮かべてくれます
悲しいでしょう、苦しいでしょう、悔しいでしょう、つらいでしょう
手に取るようにわかります。だって私も同じ気持ちだから
それが分かるくらいには、ずっとあなたと一緒にいたから
それでも、彼は私のために笑顔を浮かべてくれます
私の最後のわがままを、精一杯叶えてくれようとしています
だから
「...はい!トレーナーさん!!」
私もまた、ニッコリと微笑みます
「私こそ、今までありがとうございました!!」
それで、私達の物語は終わりました
最後は笑顔で
私の望んだその通りに
だから、これで私は満足です
満足しているのです
だけど...
「もし、あの大阪杯で勝っていたなら...」
あの後、トレーナーさんが去った街灯の下で私はふと考えます
「もし、スカーレットさんのいないレースで走れていたなら...」
こんな未来は訪れなかったのでしょうか
そんなことが、一瞬だけ脳裏を過ります
勿論、それでも結果が変わらないであろうことは分かっています
例えあのレースで勝っていたとしても、きっとその次で負けていたに違いありません。
そして、もしそうでなくても結局私はレースの道から去ったことでしょう
きっかけになったのがあのレースというだけで、私はすでに以前から自身の成長に薄々見切りをつけていました。それを考えると、もしあのレースに勝っていたとしても、どこかの段階でまったく同じ決断をしたであろうことは、なんとなく想像がつきます。
それはスカーレットさんのことにしてもそう。
そもそも私の大阪杯での成績は9着なのです。
例え彼女が出ていなくとも、私の敗北が決定的であったことは目に見えています
ですから、それ以上私は考えるのを止めます
「...未練、ですね」
ポロリと口からこぼれ出たその一言こそが全てなことくらい、とっくに分かっています。
...ですがそれでも
(「トレーナーさん!私、私やりましたよ!!」)
(「あぁ!よくやった、ビクトリー!!皐月賞優勝、本当におめでとう!!」)
叶うならば
(「ぶふぉっ!?ビクトリー!お前またコーヒーの砂糖を塩とすり替えただろ!?」)
(「...はて?なんのことでしょうか?」ニコニコ)
(「こ、このお転婆娘めぇ!!」)
私は
(「綺麗な花火でしたね!」)
(「あぁ!また来年も一緒に見に来よう!!」)
(「...はい!!」)
私は...
(「こんにちは、トレーナーさん。今日もトレーニングお願いしま...あら、寝ているのですか?」)
(「zzz」)
(「ふふ...良いんですか、トレーナーさん?私の前にそんな無防備な姿をさらしてしまって...いたずらしちゃいますよ?」)
(「うちの...だぞ」)
(「あら、寝言まで...
うふふ...これは当分起きませんね♪ますますいたずらのしがいが...」)
(「...ビク...トリー...」)
(「?」)
(「うちのビクトリーが...一番なんだぞ...」)
(「...」)
(「...最強...なんだぞ...」)
(「.........本当にしょうがない人ですね」)
(「zzz」)
(「でも嬉しいです、そんな風に思って頂けて。
本当にありがとうございます、トレーナーさん」)
(「zzz」)
(「ふふ、可愛い寝顔ですね♪
...そうです!せっかく寝ているのなら、それ相応のイタズラというものがありますね!!それではお耳を拝借...」)
(「う~ん...」)
(「.........ねぇ、トレーナーさん」)
(「むにゃむにゃ...」)
(「私.........あなたのことが...――」)
ポツ...ポツ...ポツ...
不意に周囲に雨が降り始める
それはゆっくりと静かにあたりを濡らし、少女の体もまた同時に濡らしていく
けれど彼女は動かない
なぜなら、もう彼女の物語は終わってしまったから
流れるエンドロールを前に立ち竦むことしか、今の彼女には許されていないから
降りしきる雨の中、いつまでもいつまでも彼女は立ち尽くす
だからこそ、彼女はついぞ気が付かなかった
自身の物語の終わり、それがとある人物に覗き見されていたことに
偶然目撃してしまったそれを前にして、その人物が思わず見いってしまったことに
...そして、そのやり取りがその人物の心に止めを指してしまったことに
その人物が、いつの間にかその場からいなくなっていたことに、結局最後まで彼女が気が付くことはなかったのだ...
〈ビクトリー(ウマ娘)〉
ダスカの同期で、クラシック三冠の一つ皐月賞を勝ち取った紛れもない名ウマ娘であるが、それ以降の成績が振るわず、ダスカと共に走った大阪杯で勝ちきれなかったことから、これ以上走っても自身に未来はないと、トレセン学園を去ることを決意した
穏やかで大人しい、おっとりとしたお姉さん...に見えるが、これで結構やんちゃでいたずら好きなところがあり、友人曰く実はSより
人狼ゲームなんかをすると平気な顔で平然と大嘘ついたりするあたり、結構イイ性格をしているのだが、外面が完璧な為、ちょっと見た程度では清楚なお嬢様にしか見えないという強かな面も
とは言え、基本的には見た目どおりの優しい性格なので友人は多く、またトレーナーとの関係も良好であった模様。
むしろ周囲としては、普段はイタズラと称して自身のトレーナーに色々とちょっかいをかけているくせに、肝心なところで踏み込めないビクトリーと、それに全く気付いていないトレーナーに歯痒い思いをしていたとのこと。
もし、彼女があと一歩踏み込めていたら.........それで何かが変わったのかは誰にも分からない
ちなみに激辛料理が大好きで、たまに激辛料理屋巡りをするのが趣味。
〈ビクトリーのトレーナー〉
中央トレセン学園に配属されたばかりの新人トレーナーにして、ビクトリーの担当
かつてウマ娘レースを見て以来その魅力に取り憑かれ
自分もそれに関わりたい、自身で走ることができないなら、せめてそこで走るウマ娘の育成に携わりたいと勉学に励み、見事トレーナー資格を取得してトレセン学園へやって来た
別に名家出身でもなんでもない普通の家庭出身であり、また何か実績があるわけでもない身の上の為、スカウトにはかなり苦労したが、それでもたまたま目にしたビクトリーのレースを見て、その走る姿に一目惚れ。他の名家出身の同期や経験豊富なベテラントレーナー達を、ありあまる熱意の一点だけで退け、彼女とトレーナー契約を結ぶことに成功した。
トレーナーとしての能力は平均程度だったが、ポテンシャル自体は十分にあり、ウマ娘レースに対する熱意も人一倍。そして何より、自身の担当のことを誰よりも信じた彼と、その期待に応えようとしたビクトリーの相性は最高であり、それ故に彼女はクラシック三冠の一つ、皐月賞を勝ち取ることができた。
しかし、新人故の経験の無さから、低迷期に入ったビクトリーの成績を回復させることができず、大阪杯の後、彼とビクトリーは契約を打ち切ることになる
よく言えば真っ直ぐ、悪く言えば人の話を聞かない人であり、それが最大の長所であり短所
また、ビクトリーの遠回しなアプローチに1ミリも気付いていなかったが、それはそれとして、初めての担当ウマ娘である彼女のことは本当に大切に思っていた。
もし彼が、自身の担当の気持ちに気付いていたら...それで何かが変わったのかは誰にも分からない
ちなみに割りと甘党で、コーヒーには角砂糖を7個は入れる
それにも関わらず、一度止めようとするビクトリーを押し切り、彼女の趣味である激辛料理屋巡りに同行し、三途の川を渡りかけている。
それでもアプリ版のストーリー見ていると、この二人の別れ方はかなりマシな方ですよね
彼女達の未来に、せめて祝福があらんことを...
さて、次はいよいよ今回の更新の最終回
何度でも言いますが、本当に辛いのでご注意を
それではまた次回!