ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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イチバンになりたかった

ただ、それだけで良かった

でもそれは...

それは...




ピエタ、そして

 

 

ポタッ...

 

 

 

ポタッ...

 

 

 

ポタッ...

 

 

 

「あ、あれ?」

 

暖かい雫が頬を伝う

それが自身の涙であると気付いたアタシは驚愕する

 

そう、ブルボンさんに言われたアタシは、そこで始めて自分が泣いていることに気が付いた

でも

 

「え?え?な、なんで?」

 

その理由が、アタシには全く分からない

だから、溢れ出る涙を前にして狼狽えることしかできない

そしてその間にも、理由が分からない涙はどんどん溢れていく

 

 

 

ポタッ...

 

 

 

ポタッ...

 

 

 

ポタッ...

 

 

 

「スカーレットさん...?」

 

「ち、違うんですブルボンさん!こ、これは...えっと...」

 

ブルボンさんが、どうすれば良いのか分からないというような顔でこちらを見ているが、涙は止まらない。

いや、本人であるアタシですら、その止め方が分からない

 

だってそうでしょ?

アタシはライスさんとブルボンさんのじゃれ合いを見て、その微笑ましさに思わず笑ってしまった、それだけのはずなのだ。なのに、どうしてアタシは今泣いているの?

おかしいじゃない!

今のやり取りのどこに、泣くような要素があったって言うの?そんなものどこにもないはずなのに、なんで?

 

視界が涙で霞んでよく見えない。

突如溢れ出した理由の分からない感情に掻き乱されて、考えがうまく纏まらない。

 

分からない

分からない!

分からない!!

 

アタシは一体なんでこんなに泣いているのか

アタシは一体何がこんなにも苦しいのか

 

分からない

何も...何も分からない

 

「...っ!!」

 

だからアタシは強引に涙を止めようとする

何が何だが本当によく分からないけど、少なくともこれが尋常な事態でないことだけは分かる

それならば、まずはこの意味が分からない涙を...――

 

 

 

「――...ダメだよ、スカーレットちゃん」

 

 

 

突如として目の前が真っ暗になる

だからアタシは余計に混乱する

まさか今日は世界の終わりなのだろうか?

そんなバカみたいなことさえ思いながら、それでもまずは涙を止めようと...

 

 

 

「...心が泣きたいって叫んでいる時に、無理に泣くのを止めちゃダメだよ、スカーレットちゃん

でないと...」

 

 

 

「!」

 

そしてアタシは気が付く

目の前が見えなくなったのは、誰かに抱き締められているから

そして、アタシを抱き締めているのは、いつの間にかアタシの目の前にいたライスさんで...

 

「本当に泣きたい時に泣けなくなっちゃうから。ね?」

 

「ラ、ライスさん...」

 

驚くアタシを、ライスさんはその小さな体でそっと抱き締める

そして、そんな彼女が耳元でアタシに呟いたのは...

 

「...大丈夫だよ、スカーレットちゃん」

 

「な、何を...」

 

 

 

「ライスもブルボンさんも、スカーレットちゃんのせいで不幸になんかなったりしないから...」

 

 

 

「!?」

 

その瞬間だった

 

(「...うぁぁぁああああっっっ!!」)

 

アタシの脳裏を過るのは

 

(「ごめんなさい!...ごめんなさい!!...ごめんなさい!!!トレーナーさん!!」)

 

アタシが...アタシが壊してしまった夢の欠片達

 

(「答えなさいよ!スカーレットぉぉぉおっっ!!」)

 

もうどうしようもない、そんな絶望の光景で...

 

「アタシは...アタシは...」

 

だからこそ、アタシは愕然とする

今まで自分がしてきたことの罪の重さに恐れ戦く

 

そうだ

アタシは今までたくさんのウマ娘達の夢を、祈りを、嘆きを、全部端から叩き折ってきた

 

イチバンになりたい自己満足のため、それだけの為に何人も、何人も...アタシはこの手で!この手で殺してきたんだ!!

 

その答えに行き着いた瞬間に、アタシの胸は後悔と懺悔の念でいっぱいになる

かきむしりたくなるほどの激情が、全身を駆け巡る

 

だってそうでしょ!?これを罪と言わずして何と言うの!?

これがまだ、何か理由があったならどんなにマシだっただろう!

 

日本一のウマ娘になる

無敗の三冠ウマ娘になる

一族の悲願である天皇賞を取る

 

そんな夢や大義の為に走っていたのなら...やっていること自体は変わらなくても、こんなにも罪悪感に駆られることなんて無かった!

当然胸が痛むことはあったかもしれない

それでも、きっとアタシも、一緒に走った皆も、お互いに後腐れ無く進めたはずだ!!

 

だってそれがウマ娘にとってのレースだから!

自身の信念を、生き様を、大切な夢を、背負った祈りを、自分の全てをかけて全力でぶつかり合う、それがウマ娘にとってのレースだから!

なのに!!

 

自分の顔が青ざめていくのが分かる

だけど、それほどまでにアタシの受けた衝撃は大きい

 

だってそれなのに...ウマ娘にとって、人生をかけて挑むべき神聖なものであるレース、それに挑むアタシには何の夢も、信念もなかったと気付いてしまったから

 

ただイチバンになりたい、たったそれっぽっちの底が浅い、自分本意の低俗な欲望のためだけに走っていたということに、気付いてしまったから

 

これでイチバンのウマ娘になりたいなどと...一体どの口でアタシはほざいていたというのだろうか!!

やっていることは快楽殺人者のそれと大して変わらないと言うのにか!?

イチバンになりたい、そんなしょうもないエゴだけのために、一緒に走るウマ娘達の尊い夢を、託された祈りを、ゴミのように蹴散らしてきたと言うのにか!?

 

だとしたら...だとしたら...!!

 

「アタシは...アタシなんかに...!!」

 

走る...資格なんて...――

 

 

 

「――...落ち着いて、スカーレットちゃん」

 

 

 

「...あ」

 

ライスさんの言葉に、アタシは我に返る

気が付くと、そこは保健室のベッドの上

随分と長い時間がたったような気がしたけど、実際にはほとんど時間は過ぎていない

そして、変わらずアタシを抱き締めるライスさんの手は、とても柔らかく、そして暖かで...

 

「嫌なこと考えさせちゃってごめんね、スカーレットちゃん

でもきっと、必要なことだと思うから...」

 

そう言って、申し訳なさそうな顔をしたライスさんはそれでも

 

「さっきも言ったけど、泣きたい時には泣くべきだってライスは思うんだ。

そして、その時には中途半端じゃ絶対ダメ。

本気で泣かなきゃ意味がないんだよ」

 

「ライス...さん...」

 

あぁ、それでも彼女はアタシを離さない

まるで子供を守る母親のように、その小さな体で精一杯彼女はアタシを抱き締めてくれる

 

そしてそんな彼女に抱かれていると、何だがアタシも体から力が抜けてきて...

 

「アタシ...」

 

「...うん」

 

「アタシ...は...」

 

声が掠れる

言葉も途切れ途切れになるけど、ライスさんはアタシの一言一言にちゃんと反応しながら続きを促してくれる

だからアタシも何とか言葉を続けることが出来て...

 

「アタシ...とんでもないこと...しちゃったんです」

 

「...うん」

 

「ウマ娘として...ううん、人間として、最低のことを...しちゃって...」

 

「...うん」

 

「...もう...みんなに顔向けできない...」

 

「...うん」

 

「...アタシ...これからどうしたら...!!」

 

涙が溢れる

でもそれは、決して美しいものなんかじゃない

 

それは後悔の涙

それは懺悔の涙

 

罪人が自らの罪を悔い、犯した過ちの重さに耐えきれず流す、そんな涙

もうどうにもならない、そんな現実に、自分が成してしまったにも関わらず絶望する偽善者の涙で...

 

「...っ!」

 

それに気付いた瞬間に、アタシは吐き気がする程の自己嫌悪に襲われる

だってそれはあまりにも身勝手な涙だったから

壊しておいてから、ごめんなさいだなんて、一体どの口が言うのだろうか?

あまりの自分勝手さに目眩すらしてくる

だからアタシはもう一度涙を止めようとして...

 

 

 

「...良いんだよ?スカーレットちゃん」

 

 

 

ぎゅっと抱き締められ、思考が一瞬停止する

でも、それよりも

 

「泣いても、良いんだよ?」

 

そう言って微笑むライスさんは、まるで聖母のような穏やか笑みを浮かべていて...

 

「でも...!」

 

アタシには...!!

その先を紡ぐ前に、ライスさんは続ける

その言葉は、あまりにも優しくて...

 

「そんな資格がない?そんなわけないよ。だってスカーレットちゃんは、こんなにもボロボロになるまで頑張ったんだよ?そんな頑張りやさんに、泣く権利が無いわけないよ」

 

「ライス...さん...」

 

...うっかり、勘違いしてしまいそうになる

こんなにも罪深いアタシでも、せめてその罪を悔い、懺悔の涙を流すくらいは許されるんだと...そんな自分にとって都合の良い勘違いをしてしまいそうになる

 

だけど、ライスさんは止まらない

ぽんぽん、とそっとアタシの背中を叩きながら彼女が紡ぐ言葉は、泣きたくなるほどに温かく、そして優しくて...

 

「悲しいから、苦しいから、辛いから

泣く理由なんて、それで良いんだよ」

 

だからアタシは溢れそうになる涙を精一杯堪える

だけど、まるで乾いた地面に水が染み込むように、ライスさんの言葉はアタシの中にじわりじわりと染み込んできて...

 

「だからね、スカーレットちゃん

良いよ。ライスの胸ならいくらでも貸して上げる。だから...」

 

あぁ...だからそんなこと...そんなこと言われたら...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........おいで?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~~~~~~~~~っ!!」

 

アタシは...!!

 

 

 

 

 

 

ライスシャワーside

 

 

 

地平線の彼方に太陽が沈んでいく

そして今日もまた、一日が終わる

 

それはほとんど永遠と言っても良いほどの、長い長い間続いていた光景

多分世界が始まったその日から、何度も何度も繰り返されてきた光景

きっと世界が終わるその日まで、何度も何度も繰り返されるだろう光景

 

そんな光景を窓から眺めていると、

しばらく何も言わなかったブルボンさんがようやく口を開いた

 

「...寝てしまいましたね」

 

「...そうだね」

 

だから、苦笑しながらライスはそう返す。

そして、向けた視線の先では、少し前に眠ってしまったスカーレットちゃんが、静かにベッドに体を預けている

 

その寝顔は、さっきまでライスの胸の中で大泣きしていたとは思えないほどに安らかだったから...

 

「余程、疲れたのでしょうね」

 

「うん。だから、ゆっくり寝かせてあげよう、ブルボンさん」

 

そう言ってライスは、スカーレットちゃんに布団をかける

その様子を、ブルボンさんは黙って見つめる

 

誰も何も言わない保健室に、静かな時間が流れる

 

だけど、思い出すのは...

 

(「ごめん...なさい」)

 

「...」

 

さっきのスカーレットちゃんの様子

あの後...まるで箍が外れたように泣き始めた彼女の様子で...

 

(「ごめん...なさい、ごめんな...さい」)

 

「...」

 

思わず耳を塞ぎたくなるほど悲痛な声で、泣きながら謝り続けていたスカーレットちゃんの姿で...

 

「...ライスさん」

 

「...」

 

「あなたは...もしかして...――」

 

「...ううん」

 

だからこそ、ブルボンさんの言葉を遮ってライスは言う

 

「...知らないよ。

スカーレットちゃんを苦しめているものが、何かなんて」

 

そう言って、そっとライスは眠るスカーレットちゃんの前髪を触る

 

「...んぅっ」

 

くすぐったかったのかな?

少しだけむず痒そうな顔をしたスカーレットちゃんだったけど、起きることはない

少しして、また静かな寝息をたて始めたスカーレットちゃんの、幼い子供のようなあどけない顔を見ていると、余計に彼女が泣いている時の悲痛な叫びが思い出される

だけど

 

「わかるわけ...ないよ」

 

それでも、ライスには本当のところは分からない。

何となく、こうなんじゃないかなっていう予想はあるけど、正確なところは何も分からない

 

だって、スカーレットちゃんは何も喋ってくれないかったから

もちろん、お互いに会って間もないライス達に、そんなにペラペラと教えてくれる訳がないことくらい分かってる

だから、これは本当に当然の結果。まだ偶然彼女と出くわした他人に過ぎないライス達にとって、これは必然の結果なんだ

 

だけど...似ていたから

 

(「ごめんなさい...」)

 

あの悲痛な泣き声を、ライスは知っていたから

 

(「ごめんなさい...ごめんなさい...」)

 

明かりのない、部屋の隅っこで泣いていた自身の姿そのものに、慟哭するスカーレットちゃんの姿は少しだけ似ていたから...

 

 

 

「...走らなきゃいけない理由が、また一つできちゃったね」

 

 

 

そんなライスの呟きに、ブルボンさんがハッとしたように振り向く

だけど

 

「やはり...やめる気はないのですね」

 

「当たり前だよ、ブルボンさん」

 

「ライスさん...」

 

もう、決めたことだから

そんな決意を込めた眼差しを向けると、ブルボンさんは押し黙る

 

それに内心、少しだけ罪悪感を覚えながらも、ライスは再び窓の外を見る。けど、日が落ちた外は真っ暗で何も見えない

気がつけば、外は夜の帳に覆われていて...

 

「...」

 

窓ガラスが反射して鏡のようにこちらを写し出す

そこに映る自分の顔が問いかけてくる

本当に良いの?と

 

だけど

 

「ライスは、ヒーローだから」

 

「...」

 

「逃げないよ。例えその先に、何が待っていたとしても」

 

そう呟くライスの声が、真っ暗な夜の闇の中に吸い込まれていく...

 

 

 

 

 

...――かくして役者は揃った

 

であれば、もう我々にできるのは舞台の幕が上がるのを待つことのみ

その先に待つもの、それが何かを知るものなど誰もいない

全てはただ、移ろい流れ行くのみである

 

しかし、だ

 

やがて訪れるそれが、何事もなく平穏無事に終わる...そんな誰もが笑っていられる平和な結末だけは...恐らくあり得まい

 

なぜならそれは、これから始まるレースが運命のレースだから

 

いつかどこかで、彼女ではない誰かが挑んだそれは、あまりにも惨く悲しい結末に終わってしまったから

 

走り抜けたその先に、待っていたのが絶望だと、一体誰が想像できただろう?

 

あぁ、故にこそ語ろう

その呪われたレースの名前を

ヒーローになる、そう言って走り続けた彼女の挑む、最後の舞台の名前は...

 

 

 

「ライス出るよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宝塚記念に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、と言うわけで、短いですが今回の更新はこれでお仕舞いです。
次回の更新?
...さぁ、いつになるやら(遠い目)

それはともかくとして、これが作者がダスカを主人公にした理由です。
いただいた感想の中にもありましたが、劇中のダスカと似たような境遇に置かれたウマ娘は何人かいます。ですが、そんな彼女達を差し置いて、どうしてわざわざダスカを選んだのかというと、アプリのストーリー的にもキャラクターの性格的にも、こういう理由の不純さみたいなところでかなり悩みそうなウマ娘だったからです。
実際アプリでも作中にも出ていたウオッカとの会話でかなり悩んでいたみたいですし、根が真面目ですから、トレーナー不在で自身のイチバンについての考察を深められなかったダスカならこういうルートに行くんじゃないかという妄想から、このお話は始まっています

さて、それでは次は、いよいよライスさんが、宝塚記念に挑みます
史実を知っている方なら分かると思いますが...果たしてこのお話ではどうなるのか
続きを期待してくださると幸いです


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