ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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青いバラの花言葉は...




Blue rose bridal

 

 

とあるレースファンside

 

 

 

自分の意見を言うのが、苦手だった

 

「本当、ライスシャワーってムカつくよな」

 

「あぁ!せっかくのミホノブルボンの無敗三冠を阻止するなんて、本当に空気読めない奴だよな!」

 

「まったくだ!」

 

「うんうん!お前もそう思うよな?」

 

「俺は...」

 

(むしろ好きだけど...)

 

「?...どうかしたのか?」

 

「.........いいや、なんでもない。俺も同じ意見だよ」

 

 

 

だって怖かったから

他の人と違う意見を言って、白い目をされるのが怖かったから

だって楽だったから

自分の意見を貫くよりも、みんなに会わせる方が楽だったから

 

だからいつも周りの皆に話を合わせていた

彼女へのブーイングを見て見ぬふりをしていた

だけど

 

 

 

「ちっ...今度はメジロマックイーンの春天三連覇の阻止かよ!いい加減にしてほしいよな!!」

 

「あぁ、まったくだ!」

 

(すごい...すごいよライスシャワー!あのメジロマックイーンに勝つなんて!君はなんてすごいウマ娘なんだ!!)

 

 

 

「はっ!何だかんだ言って、あの春天以降ほとんどレースで勝ててないじゃないか!淀の刺客だなんて、とんだお笑い草だったな!!」

 

「ざまぁないな」

 

(大丈夫だライスシャワー...君なら...きっと乗り越えられる。俺はそう信じてるから...)

 

 

 

本当は苦しかった

だって彼女は、なんの取り柄もない平凡な俺に、夢を与えてくれた大切なウマ娘だったから

だって彼女は、本当はずっと前から応援している一番好きなウマ娘だったから

 

だから、そんな彼女の悪口を言うのが辛かった

そんな彼女のブーイングを聞くのが辛かった

そんな彼女を...素直に応援できないのが辛かった

 

それでも俺はそうせざるを得なかった。なぜならそれが社会と言うものだから。一度つまはじきにされた人間は、もうそこでは生きていけないから。

だから俺はこの気持ちに蓋をして、彼女へのブーイングを許容し続けた。彼女へと届けられ続ける誹謗中傷も、それで傷付く彼女の顔も全部見ないふりを決め込んで、周囲の意見に逆らわないように、波風立てないように細心の注意を払って

 

 

 

だけど...

 

 

 

観客席は異様な空気に包まれていた

それは、特定の選手に対する賞賛の空気でもなければ、真逆のブーイングの空気でもない

なぜなら観客席に座る人々は、皆困惑していたから

目の前で、何度も転び何度も立ち上がりながら進むライスシャワーに、なんと声をかければ良いか分からなかったから

 

そして、そんな観客達に紛れてその様子を眺める俺の中には、堪えきれない後悔の念が渦巻いていて...

 

(俺は...今までなんてことをしていたのだろう)

 

そんなことを思いながら見るターフの上では、またライスシャワーがこけていて...

 

(あんなに...あんなにも小さな女の子が、それこそ命をかけて頑張っているんだぞ!?)

 

それなのに、俺はそんな一生懸命がんばっている子に、今まで何をしてきた?

それが、良い大人のすることか?

それが、目の前で必死にもがく少女にすることか?

 

そして何より、それが本当にあの子を応援したいと思う奴のすることか?

 

「...っ!」

 

だから俺は、もう取り繕うのを止めることにした

 

「がん...ばれ」

 

今まで一度も出すことのなかったからだろうか?俺の口から出たその言葉はひどくかすれていて...

だけど

 

「がんばれ...ライス...シャワー」

 

今度は少しだけ大きな声が出た

だから次はもっと大きな声を出そう

そう思い、俺は思いっきり息を吸う

 

...本音を言うと、実は少し怖い

周囲の意見と真っ向から衝突することを口に出すのだ。それなりの恐怖はまだある

 

だけどもう決めたから

俺は俺を偽らないって

例え人がどう言ったとしても、それでも俺は自分の好きを貫くって

 

だから俺は叫ぶ

 

今まで怖くて言えなかったけど...それでも君は、俺にとってはヒーローなんだって

だから負けないでほしいって

諦めないでほしいって

俺は、君のがんばる姿が大好きなんだって!

 

だから...さぁ、始めよう

随分と遅くなってしまったけど、それでも...それでも、俺の声が少しでも彼女の力になると信じて

 

不可能を可能にする、そんな青薔薇を掲げる少女に、今こそ祝福を!!

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ!ライスシャワー!!」

 

 

 

 

 

 

 

........................

 

 

 

.................

 

 

 

.........

 

 

ライスシャワーside

 

 

 

それが、始まりでした

 

 

静まり返る観客席、そこに座っていた一人の男の人の突然の応援の言葉は、個人の言葉にしてはやけに大きく鳴り響き、レース場全体へと染み渡っていきます

 

誰も何も言いません

でも、それでもそこにいる皆がその言葉に耳を傾けているような気がして...

 

そしてその言葉の余韻が途切れた瞬間です

 

 

 

「い...け...」

 

 

 

聞こえてきたのは

 

 

 

「頑張れ...ライスシャワー」

 

「君なら...君ならできる!!」

 

 

 

今まで聞いたことのない程の声援で

 

 

 

「負けるなライスシャワー!!」

 

「あとちょっとだ!!」

 

「立て!立ってくれライスシャワー!!」

 

 

 

そんなライスを応援する声が、レース会場全体を震わせます

 

 

 

わあああぁぁぁぁあああぁぁぁあぁっっ!!

 

 

 

それは積み重ねられた祈り

それは今まで言えなかった願い

そしてそれは...ライスのためだけに紡がれる初めてのエール

 

観客席で爆発した無数のそれは、空気をビリビリと揺らし、その振動がターフにいるライスにまで物理的な圧力となって押し寄せてきます。そしてそれは、ライスがビックリするほど温かく、そして優しいもので...

 

「.........」

 

呆気に取られるライスはしかし、それを聴きながら遠い昔のことを思い出します

 

 

........................

 

 

 

.................

 

 

 

.........

 

 

 

「そんなある日、この庭に一人の男の人が立ち寄ります。

遠い町からの旅の途中で庭に立ち寄った彼は、とても心の優しい人で、その笑顔はすぐにそこにいたみんなを幸せにしました。

そんな彼は、ふと庭の片隅で、ひっそりと萎んでいた青いバラの蕾を見つけ、こう言います

 

「やあ!青いバラだなんてとっても素敵だ!きっと綺麗に咲くに違いない。ぜひ買い取らせてください!」」

 

そうしてとある男の人、お兄様に引き取られた青いバラは、ページが進み、お兄様が大切にすればするほどに、どんどん元気を取り戻していって...

 

「やがて綺麗な花を咲かせた青いバラの蕾は、お兄様のおうちの窓辺に飾られます。そして、そこを通る人達はみんな、窓辺に飾られた珍しい、そして綺麗な青いバラの花を見て、幸せな気持ちになったのでした。めでたしめでたし...」

 

そう言って最後のページ、お兄様の家の窓辺で美しい大輪の花を咲かせた青いバラの絵を見せた後、お母様は本を閉じます。

でもライスの興奮は治まらなくて...

 

「ねぇ、お母様!ライスもいつか、お兄様みたいな人に出会えるかな?」

 

そう聞くライスの頭を撫でなから、お母様は微笑みます

 

「えぇ、きっと!ライスが頑張っていれば、きっとそんな人に出会えるわよ」

 

そんなお母様の言葉に心を踊らせながら、ライスはお母様にもう一度この本を読んでくれるよう頼みます。

そして結局、その日ライスは何度も何度もこの本を読むことになります

 

 

 

...それが、ライスの原点

ライスと大好きな本との初めての出会い

 

それ以来ライスは心のどこかで思うようになります

きっといつか、頑張っていれば、お兄様が迎えに来てくれるって

辛くても、悲しくても、それでもいつかライスの手を取ってくれる、そんなお兄様が現れるって

 

 

 

だけど...

 

 

 

.....................

 

 

 

.................

 

 

 

.........

 

 

 

ライスは顔を上げます

 

見上げた先、ゴール板までの距離はまだあります

折れた足にボロボロの体

そんな今のライスには、まるでそれは月に手を伸ばすような、そんなあまりにも途方もない距離に思えます

 

それでも

 

「っ!!」

 

ライスはターフに手をつき、ぐっと力を込めます

当然痛みはあるし、体がガクガクと震えます

もう立ちたくない

そんな風に体が訴えています

 

だけど

 

「いっけぇぇぇっっ!!」

 

「頑張れぇぇぇっっ!!」

 

「負けるなァァっっ!!」

 

あぁ、それでも...それでも、みんなの声が聞こえるから

さっきまで、もう指一本動かせなかったはずなのに...何だか今なら何でも出来るような気がしたから...

 

だからライスは

 

「...ああああぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

もう一度だけ立ち上がりたいって、そう思ったから!

 

震える足を、ボロボロの体を、逃げ出したいって思う弱い心を、それでも律してライスは立ち上がります

 

そして、その瞬間に

 

 

 

わあああぁぁぁぁあああぁぁぁあぁっっ!!

 

 

 

世界が、はち切れんばかりの祝福に満たされて...

 

 

 

(...ねぇ、お母様)

 

だからこそ、ライスは思います

それはうすうす勘づいていたこと

だけど、それでも今まで認めたくなかったことで...

 

 

 

(お兄様なんて...この世界にはいないんだよ)

 

 

 

そんな確信を抱きながら、ライスは歩き始めます

だってそうでしょ?

菊花賞の時も春の天皇賞の時も、ライスは一人ぼっちだった

ライスを守ってくれる都合の良いお兄様なんて、世界のどこにもいなくて...

赤いバラが咲き誇る広大な庭から、慎ましくも幸せな、そんな小さな窓辺へとライスを連れて行ってくれるお兄様なんて、どこにもいなくて...

だからきっと、お兄様なんてこの世界にはいない...いないんです。

だけど

 

 

 

(それでも...ライスは歩き続けるよ)

 

 

 

一度立ち上がったからと言って、足の骨が折れた事実は変わらない

そして...その状態で無理をし続けたという事実も

 

だからきっと...もうこのレースが最後

ライスがターフに立てるのは、このレースが最後なんです

もともとそうするつもりではあったんだけど、この分だと下手をするともう歩くことすら難しいかもしれない...そんな状態で、それでも歩き続ける自分がなんだかおかしくて...またライスは少しだけ笑ってしまいます

 

そんなライスの背中を、観客席のみんなの声援が支えてくれて...

 

 

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!!本当は俺も君のことが大好きだったんだ!だけど、怖くて言い出せなくて...」

 

「アタシもなの!だけど、もう迷わない!!あなたを応援することを躊躇わない!だから!!」

 

「お願いだ!ライスシャワー!!無事に帰ってきてくれ!俺達はただ、君が笑っていてさえくれれば、それだけで良いんだ!!」

 

 

 

ゆっくりと、ゆっくりとライスは歩きます。時にはバランスを崩して転び、時にはボロボロになった勝負服を更に泥で汚しながら、ライスは歩きます

 

もう使い物にならない左足を、それでも引きずりながら、全身を苛む痛みに耐えて、それでも一歩足を踏み出します

 

限界なんてものはもうとっくの昔に越えているし、精神力でどうにかできる段階もすでに遥か彼方

霞む視界からは色彩が消え、朦朧とする意識の中で、観客席からの声援だけがやけに大きく聞こえます

...正直、ライスも自分でもどうやって歩いているのか、そもそも自分が今生きているのかすら分かりません

 

それでも、そんな状況でもライスが歩くのは、諦めないのは...

 

 

 

(だって...ライスは、ヒーローだから...)

 

 

 

そうだ

例えたくさんの人に忌み嫌われたとしても、それでもライスの走りに救われている人は確かにいる

ライスが...ううん、ライスにしか救えない人達が確かにいる

それをライスは、もう知ってるから...

 

 

 

(だったら...情けないところ、見せられないよね?)

 

 

 

だからこそライスは進みます

もしかしたら、ライスのしていることは本当は間違っているのかもしれません。またたくさんの人達をがっかりさせてしまうかもしれません

それでも...それでもライスは決めたから

例え幸せな窓際に連れていってくれるお兄様がいなくても、咲いて見せるって

この辛く苦しい現実の赤いバラ園で、それでも咲いて見せるって、皆を笑顔にして見せるって、そう決めたから...

 

青く晴れ渡った空の下、たった一人だけのレースは続きます。

それはレースと呼ぶのもおこがましい程の酷い惨状

すでに誰もいないターフを、ライスはたった一人で歩き続けます

だけど、どんなレースにも終わりはあります。

気が付けばその終着点はもう目の前に近づいていて...

 

「頑張れぇぇっ!ライスシャワー!!」

 

「あともうちょっと!もうちょっとだよ!!」

 

「私達もついてます!だから先輩!!私達に見せてください!名ウマ娘ライスシャワーの実力を!かつて淀の刺客と言われた強豪、その底力を!!」

 

観客席からのエールだけではありません

ライスの目指すゴールの先には、一緒に走ったウマ娘達が...もうとっくにレースなんて終わってるのに、それでも彼女達は、ゴール板の向こうでライスを待っていてくれています

 

だからライスも最後の力を振り絞って...

 

「...やああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

今、ようやく待ち望んだゴールへと...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わあああぁぁぁぁあああぁぁぁあぁっっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ライスシャワー選手!ついに!ついに今、ゴール板を通り抜けました!!凄惨な事故を乗り越え、それでも淀の黒い刺客.........

いえ!淀のヒーローとしての勇姿を、我々に見せつけてくれました!!』

 

 

 

晴れ渡った空に祝福の声が響き渡ります

なんとかゴール板を越えたライスは、その時点で本当に限界を向かえて倒れこみ、それを周囲のウマ娘達が慌てて支えてくれます

 

だけど

 

「だ、大丈夫ですか!ライス先輩...ってあぁ!?」

 

「ど、どうしたの?」

 

「き、気付いてないんですか、ライス先輩!?」

 

アタシを抱え起こしたウマ娘の一人がすっとんきょうな声をあげると共に、周りのウマ娘も...それだけではありません、観客席のみんなも、またざわめき始めます

 

だからライスは不安になります

もしかしたら、また何かライスがみんなを不幸にさせるようなことをしてしまったのかもって

でもそんなライスの不安は、まったくの的外れだったみたいで...

 

「服!服ですよライス先輩!!勝負服!!」

 

「服?...あ」

 

そう言われて自身の勝負服を見たライスは、驚きます

そう、気が付くとライスのボロボロになったはずの勝負服はまったく違うものになっていて

 

「これって...」

 

それは淡い青色のドレスでした

でも、それはただのドレスではありません

薄い色彩をベースに、フリルやリボンで綺麗に飾り付けられたそれは、すべての女の子の憧れる服

ライスシャワー、そんなライスの名前の由来になったそれを行う時に、世界で一番幸せな女の子が着ている衣装で...

 

「...そっか」

 

それが何なのか、それを理解した瞬間に、思わず涙が溢れてしまいます

 

「わ!わ!ど、どうしたんですか、ライス先輩!!どこか痛いところでも!?」

 

「ううん...そうじゃない...そうじゃないの」

 

そして、そんなライスの様子にあわてふためくウマ娘に、ライスはかぶりを振って、いつの間にか右手に持っていたブーケを両手に持ちかえます

 

すると脳裏に浮かぶのは、あの頃の自分...周囲からの悪意に傷付き、涙するしかなかったかつてのライスの背中

...そして、それに重なるように一人うちひしがれるあの子の小さな背中だったから...

 

(ねぇ...スカーレットちゃん。確かに、世界は残酷だよ)

 

だけどね...

 

ライスはブーケを構えます

 

それでも...それでもスカーレットちゃん

あなたは一つ、大切なことを忘れている。

それは多分スカーレットちゃんのことをよく知らないライスが言ったとしても、あなたの心の奥に届かない。だから、ライスはスカーレットちゃんに言うことができない。それでも...

 

そして、何をする気なのかを悟ったウマ娘達が周囲から離れると共に、ライスは手に持っていたブーケを思いっきり大空に投げ上げます

 

それでも...きっとあなたなら分かるはずだから

ライスの走りを見たなら、それにきっとあなたは気付けるはずだから...

 

どこまでも広がる青い空を、祝福のブーケが鮮やかに飛んでいきます

そして、それを見た観客席からまた一際大きな歓声が上がります

そして、そんな光景を尻目にライスは呟きます

 

「...だからね、頑張ってスカーレットちゃん。あなたなら...きっと...」

 

ライスの小さな独り言は、レース場に満ちる大きな歓声の中に溶け込み、消えていきます

だけど、多分それでも良い

だってライスが伝えたかったことは、全部ライスの走りの中にあったから

それさえ見ていれば、もう十分のはずだから...

 

そんなことを思いながら、ライスは自分で投げたブーケが飛んでいくのを、じっと眺めます

そして、そんなライスの後ろの観客席には、いまだに歓喜と祝福の声が満ちていたから...

 

レース場に満ちるライスを讃える詩は、いつまでも、いつまでも、遠い空の彼方まで響き渡るのでした

 

 






はい、と言うわけで今回の更新はここまで
そして、同時に劇中における宝塚記念もまた終了しました

ここからまたダスカのお話に戻っていきます

ヒール、そう呼ばれたライスシャワーのラストラン
それを見たダスカは何を思い、どう動くのか
ライスシャワーが見抜いた、ダスカが忘れていることとはなにか
そして迫る運命の日

加速していく物語は、一体どこへと向かっていくのか
次回の更新をお楽しみに

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