ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
最近ちょっと不思議に思うのは、この小説の文字数なんですよね
別に前作の時から書き方を変えたわけでもないですし、もちろん手抜きなんか一切してません。なのに、一話一話の文字数が明らかに前作より少ない...
いえ、別に文字数が作品の質を左右するわけではないんですが、体感的に同じくらい頑張って書いてるのに、どうして今回の作品の方が一話一話の文字数が少なくなるのかが不思議なんですよね...
どうしてなんでしょうか?
世界が凍る、だなんて陳腐な比喩は、しかし比喩でもなんでもなかった
「.........バ、バカねウオッカ」
永遠のような沈黙の中、それでもなんとか絞り出せたその言葉は、だけど
「そ、そんなわけ...」
「...」
「そんな、わけ...」
「...」
「...」
「...」
こちらをまっすぐに見つめるウオッカの目の前で何故か続けることが出来ない
故にこそ、それは途中で力を失う
尻切れトンボになって消えていく
そして、そんなアタシの様子を何も言わずにウオッカは静かに見つめる
「...」
「...」
草木も眠る丑三つ時
とまではいかなくても、静まり返った夜の中庭を、月が照らす
漆黒の帳に沈んだ中庭に差し込むそれは、満月のはずなのにどこか寒々しい
そして、そんな酷薄な光に照らされたウオッカの顔もまた、どこか薄ら寒い影を落としているような気がして...
「...もう一度だけ聞くぜ、スカーレット?
...お前、走るのが怖くなったんだろ?」
呆然とするアタシに再びかけられたその言葉に、だけどアタシはまた何も言えない
「...アタシ...は...」
「違うって?嘘だな
いつものお前なら、即座に反論できる
それが出来ない時点で答えは出てるも同然だ」
それでもなお言いすがろうとするアタシを、だけど目の前のコイツはバッサリと切り捨てる
「今のお前は道を見失っている
夢も矜持も、大切にしていたものを全て失ってしまったお前は、どうして良いか分からず途方にくれている
...違うか?」
風が吹く
昼に比べて涼やかなそれが、アタシとウオッカの間を軽やかに吹き抜けていく
それは塵を巻き上げ、木々をざわめかせ、アタシ達の髪をなびかせる
だけどそれでも、それはアタシ達の間に横たわるどうしようもない沈黙だけは吹き飛ばしていくことが叶わない
だから
「.........はぁ」
それを吹き飛ばしたのは目の前で佇むウオッカのため息に他ならない
「...まったく、しばらく会わない間に随分と腑抜けたもんだなスカーレット」
「...」
「”鮮血の女王”
同世代だろうが上の世代だろうが、ことごとく打ち倒す圧倒的な姿からそんな異名が付いてるって聞いてたが...ダメだな
今のザマなら"貧血の女王"に変えた方が良いんじゃねぇか?」
「...」
「.........なぁ、何とか言ったら――...
「...だったら」
...――ん?」
「だったら、どうしろって言うのよ...」
アタシは目の前のウオッカを睨む
「そうね、確かにアタシは今道を見失ってる
それは事実よ、認めるわ」
だけど、と続けるアタシの脳裏を過るのは
「だけど...じゃあどうすれば良いって言うのよ!?」
イチバンになる
そんな曖昧で浅はかで自分勝手な欲望のままに蹴散らしてきたウマ娘達の姿で...
「もうアタシには何も残ってない!それどころかもうアタシの手は!体は!今更平然と立ち上がるにはあまりにも血に塗れすぎてる!!」
思い出すのは悲劇の光景
ターフに手をつき慟哭するウマ娘に、土砂降りの雨の中大切な人の名前を呼び続けるウマ娘の姿
彼女達だけじゃない
今まで意識していなかった、自分が蹴散らしてきたたくさんのウマ娘達の絶望と悲哀の顔が浮かぶ
そして
「イチバンのウマ娘になる?とんだお笑い草じゃない!
結局アタシがやってきたことは、自分のエゴの為に他のウマ娘の夢を叩き潰すことでしかなかった!それは夢だなんて言えるほどに尊いものでも、まして素晴らしいものでもなかった!!
いつかアンタが言った通り、アタシは自分でびっくりするくらい空っぽだった!!」
(『...スカーレットちゃんは、いつも自分のことばっかりだよね』)
その言葉と共に浮かび上がるイメージは、まさに地獄そのもの
積み上げられ白い骨の山に、足元を満たすどす黒い血の海
不気味なほどに赤く染まった空の下に広がる、いつか見たような気がするその光景はつまるところ.........
「そんなアタシに!アンタは今更どうしろって言うのよ!?」
冷たい夜の闇の中に、叫んだ声が消えていく
まるで木霊のように反響するそれは、しかしプールに落とした一滴の絵の具が溶けて消えていくように、虚空の彼方へと吸い込まれていく
そしてそれが完全に消えた時、そこに残るのは完全な静寂だ
誰も何も喋らない
時が止まったかのような静けさの中で、それでも丸々と太った月だけが明るい
額縁に入れられた絵のようにある種幻想的なその光景はしかし、それ以上にもそれ以下にもなれず、ただ時間だけが流れていく
だからこそ
「.........なるほどな」
そう言って静かに口を開いたコイツの言葉は、やけに大きく響くような気がして...
「要するに、お前はこう言いたいわけだ
イチバンになる、それは自分が思っていたよりも遥かに残酷で救いようのない所業だった」
そう続けられる言葉に、だけどアタシは何も言えない
「走って走って走って...そうして走り抜けた先にはしかし、何もなかった
周囲に広がるのは物言わぬ屍の山だけ
無数の罪を抱えて、一人ぼっちでその場に立ち尽くすしかなかった」
淡々と語られるそれを否定することができない
だってコイツの言っていることは間違ってないから
それが、それこそがアタシというウマ娘の原罪に他ならないから
だからこそ...
「だからもう、自分には走る資格なんてない
たくさんの夢と希望をその手で叩き潰し、誰からも忌み嫌われるようになった返り血まみれの自分はもう走るべきじゃない...いや、むしろ走っちゃいけない...
そう言いたいんだな?」
そう締め括られたウオッカの言葉に、アタシは何も答えない
だけど、それは質問への否定を意味しないから...
また風が吹く
アタシ達の間をもう一度吹き抜けていく風は自由だ
どこへだって行ける
だけど、アタシはもうどこにも行けない
罪悪感と後悔に押し潰されて、その場に立ち尽くすしかない
故に
「なるほど、実に正確な分析だ。まさにその通りだし、実際恐ろしく理に敵ってる。誰も反論できない完璧な主張だ。この辺りは流石は優等生って感じだな」
そう静かに口にするウオッカの言葉が、まるで鋭い剣のようにアタシを貫く
何故ならそれはただの事実だから
彼女の口にするそれには、一切の嘘や誤魔化しが含まれていない
それが逆に、悪意ある言葉よりもアタシを傷つける
そう、純粋な言葉はそれだけで強いのだ
そしてだからこそ...
「だからこそ、もしそれを本気で言ってるってんなら
...これ程人をバカにしたことはねぇよな?
」
その言葉に、アタシは思わずウオッカの顔を見る
するとそこには、これまでに見たことのないほどの憤怒の表情を浮かべたウオッカがいて...
「.........ついてこい、スカーレット」
かと思うと、そんなことを言うなり背中を向けるウオッカの行動にアタシは困惑する
だけど、振り返ったウオッカが言った言葉は、更にアタシを困惑させるもので...
「...勘が悪い奴だな
こんな時にオレ達ウマ娘がすることなんて、一つしかないだろ?」
......................
.................
.........
月が綺麗な夜だった
「芝1400、天気晴れ、馬場状態良...
まぁ、こんなもんだろ
ところでスカーレット、本当にハンデはいらないんだな?」
静まり返った夜のグラウンド
誰もいないそこに立ち、正規のものではないとは言え、久しぶりのレースに向けて気持ちを落ち着けるアタシに、隣に立つウオッカが訪ねる
だけど
「...不要よ」
そう答えたのは、半分意地だ
確かに、アタシはここ数ヶ月間怪我でまともにトレーニングをしていない
それに比べて、コイツは今日まで海外で走り続けてきただけあって、コンディションは万全
そんな絶好調の競技レースウマ娘に、同じ競技レースを走るウマ娘とはいえ、ブランクがある今のアタシでは勝てないことなんて、それこそ火を見るより明らかだ
だけど...
「...ハッ!良い度胸だ
負けても吠え面かくんじゃねぇぞ?」
そう言って獰猛に笑うコイツにだけは、ナメられたくないから
そう、何度も何度も...それこそあのレースの日から数えきれない程にぶつかって、それでもなんとか勝利してきたコイツには
...それでも、何度勝っても、それでも常に自身が負けるビジョンを抱いてしまう...そんな唯一の相手であるコイツだけには、アタシは弱みを見せるわけにはいかなくて...
それに何より...
(「約束するよ、スカーレット」)
何より...
(「君を...――」)
「...御託は良いわ。始めましょう」
だからきっと、これはアタシの怠慢で...
「.........わかった。それじゃあこのコインが地面に落ちたらスタートだ」
これはきっと、アタシの驕りだ
勝てっこないことなんて分かってるし、この後死ぬほど後悔するんだろうなってことも、なんとなく分かってる
それでも
「...いくぜ」
それでも...アタシは...
キンッ!
ウオッカの手から離れたコインが宙を舞う
クルクルと回転するそれは、金色に輝きながら空高くへと上がっていき、限界まで上がりきったところで月の光を反射して一瞬だけキラリと光る
それはまるで夜空に輝くもう一つの小さな月
星がない夜に、明るすぎる満月をバックに、それでも尚自身の存在を示すかのように、宙を舞うコインはほんの一瞬だけ輝く
それは一瞬の、だけど永遠の光景
重なる二つの月の輝きに、一瞬だけアタシは見とれる
でも...
(!)
そう、だけどそれはやはり一瞬の光景
天へと至ったコインは、しかし失墜する
飛翔する力を失い、母なる大地へとコインは帰還し...
「「!!」」
それがアタシとウオッカ、二人だけのレースが始まりだった
と言うわけで、今回の更新はここまでです
レース内容まで書いてから~とも思ったのですが、
区切りを考えると恐らくここがちょうど良いかと
さて、ついに始まったウオッカとの模擬レース
誰もいない、それこそ夜空に浮かぶ月しか知らない二人だけのレースは、一体どんな結末を迎えるのか
その果てにダスカは何を見るのか
最近更新の話数が少ないですが、展開を考えると次の更新はそれなりの数になりそうだなというのが今の作者の見立てです。
それに伴い、ちょっと時間が懸かるかもしれませんが...某ネコ型ロボットの如く、生暖かい目で見守っていただけると幸いです