ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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渡された遺書
本来読むべきではないタイミングで開けられたそれは、
一体何を語るのか




バカ

 

 

スカーレットへ

 

これを読んでいるということは、きっと僕は死んでいるのだろう

だからまずは謝罪をさせてはくれないだろうか

 

ごめん

君と一緒に夢を叶えられなくて

一緒にイチバンになる、その約束を一緒に果たせなくて

最後まで君と一緒にいてあげられなくて

本当に、本当にごめん

謝っても許されるようなことではないのは分かってる。

だけどそれでも、君との約束を果たせずに一人であの世に旅立つことを、せめて謝らせて欲しい

ごめん

 

だけどスカーレット、それでも僕は君のトレーナーだから。ただでは死なないし、死んでなんかやるもんか

この手紙を書いている時期は秋で、お医者さんが言うには次の秋を迎えられるかどうかは分からないって話だったけど、それでも僕は諦めないよ

例え病魔の苦しみでのたうち回ることになったとしても、血反吐を吐く事になったとしても、それでも僕は自分が死ぬまで君がイチバンを掴める方法を模索し続ける覚悟だし、きっと今これを読んでいる君の手元にはその集大成があるはずだ

 

だって僕は君の走る姿が大好きだから

あの日僕が見た君の姿は、誰よりも輝いていたから

支えたい。誰よりも真摯に、誰よりも真っ直ぐに夢を追いかける君の背中を支えたい。イチバンになる、そんな君の夢を叶える手助けがしたいって、心からそう思ったから

 

だから僕は絶対にやり遂げるよ

今まで何の意味も無かった僕の人生に、初めて意味を与えてくれた君の為に

生意気で傲慢で、それでも本当は誰よりも優しくて強い、そんな自慢の愛バである君の為に、僕はこの命を使うよ

 

だからスカーレット、お願いだ君の夢を叶えてくれ

もちろん、最初に約束を破ることになる僕が言えたセリフでないことなんて分かってる。

だけどスカーレット、それでも僕は君の走っているところを見るのが大好きなんだ 

だから僕は見たいんだ。君が夢を叶えるところを、君の走りが歴史に名前を刻むところを、イチバンのウマ娘として君の走りが皆に祝福されるところを、僕はどうしても見たいんだ。

これが僕の自慢の愛バなんだぞって、誰よりも強くて誰よりも優しくて、そして誰よりも美しい大切な大切な僕の愛バなんだぞって

皆の前で胸を張って自慢したいんだ

そして君ならそれが出来る

君ならきっと自分の夢を叶えられる、僕はそう信じてるから

 

だから僕は待ってるよ

君がイチバンのウマ娘になる日を、天国で待ってる

世界中の誰よりも、君の夢が叶うことを願っているよ

 

            君の元トレーナ■■■■より

 

 

・・・・・・

 

 

 

「...バッカじゃないの」

 

 

 

読み終わるなり思わずそう呟いてしまったアタシは悪くないと思う。

だって...

 

「何が自分が死んだらアタシに渡せ、よ...

こんなこと思ってたんなら最初からアタシに直接言いなさいよバカ...」

 

そう、そうなのだ

この遺書の中にはアイツの全部が詰まってる

それこそ普段は絶対にアタシに言わなかったことまで全部

だからこそアタシは憤る。そういうことは生きてる内に直接言えと

だけど...

 

「ホントに...ホントに...」

 

だけど...あぁ

怒っているはずなのに

この秘密主義の朴念仁の平和ボケした顔に、拳の一つでも叩き込まなければ収まらないほどに怒っているのは事実なのに...

 

「バカな...奴...」

 

ぽたりぽたりと雫が手紙の上に落ちていく

 

あぁ、それなのに...どうして涙が止まらないのだろう?

どうしてこんなにも、嬉しくて嬉しくて仕方がないのだろう?

 

アタシは一旦涙を拭くと、手に持っていた手紙をそっと下ろし、ウオッカから押し付けられたもう一つの封筒を取り出した

 

それはさっきの手紙が入っていたものとは違い、A4サイズのそれなりに大きな封筒だ

便箋一枚の先の封筒と違い、パンパンに詰まったそれの封を解き中身を検めるとその中には沢山の資料が入っていて...

 

「これは...オリジナルのトレーニングメニュー?

こっちはアタシの体に合わせた調整用食事メニューに、こっちは日本各地の...ううん、世界各地のレース場の詳細なデータ...」

 

それだけじゃない。他にも他にも他にも...多種多様なたくさんの資料が封筒からは出てくる

そして驚くべきはその量だけじゃない

一体何年分、そして何種類あるのか分からないそれらの資料は全部、アタシが使うためだけに考えられた専用の資料で...

 

"それでも僕は自分が死ぬまで君がイチバンを掴める方法を模索し続ける覚悟だし、きっと今これを読んでいる君の手元にはその集大成があるはずだ"

 

「...っ!」

 

それに気付いた瞬間にアタシは思わずパンパンに膨らんだ封筒を抱き締める

だってそれは...手の中のそれは...

 

"だって僕は君の走る姿が大好きだから"

 

拭ったはずの涙が後から後から溢れ落ちてくる

だけど仕方がない、仕方がないのだ

だってそれは...アタシの手の中にあるそれは、トレーナーのアタシへの想いの結晶で...

 

"だから僕は見たいんだ。君が夢を叶えるところを"

 

...全部アタシは失ったと思っていた

アタシの手の中には何一つとして残っていない、そう思っていた

だけど...ねぇトレーナー?

 

もう涙を止めることはできない

今のアタシに出来ることは、ただただこの封筒を抱き締めることだけだ

だけど絶対に誰にも渡したりなんかしない

そんな想いを込めて、アタシは封筒を強く、強く抱き締める

 

まだアタシの手の中に残っているものはあるのかな?

 

まだアタシは走っても良いのかな?

 

まだ...――

 

"世界中の誰よりも、君の夢が叶うことを願っているよ"

 

 

 

...まだアタシはアンタの愛バでいても良いのかな?

アンタと一緒に見た夢を、もう一度だけ見たいって思っても...良いのかな?

 

 

 

抱き締めた封筒は、中に入っているものが紙だけのはずなのに驚く程に重く、そして暖かくて...

資料の所々に混じる不自然に乱れた筆跡や、拭き取ろうとしたのだろうけど、それでも完全には拭き取れなかったのだろう血の痕までもが、何故かたまらなく愛おしくて...

 

「...バカよね、男って」

 

それまで何も話さなかったマルゼンさんが、不意に口を開く

 

「いつでも自分が満足できればそれで良いって思ってる。ロマンやこだわりだなんて言って誤魔化しても、それは結局単なる独りよがりの自己陶酔でしかない。それでもそれに殉じちゃうんだから、バカとしか言いようがない生き物よね」

 

でも、そう言ってマルゼンさんは苦笑する

 

「それでも、そんなバカでバカでどうしようもない生き物のことを可愛いと思ってしまう、そんなバカな男達のことを心の底から愛おしいと思ってしまう。

そんなあたし達もまた、同じ穴の狢なのかもね?」

 

「...っ!」

 

「大丈夫、きっとあなたのトレーナーは助かるわ。何たってこんなにも一途で可愛らしい女の子がその無事を祈っているんだもの。例え神様でも野暮なことなんてできやしないわ

なんとかを邪魔する奴は...、昔からそう言うでしょ?」

 

だから、そう言ってマルゼンは改めてハンドルを握る

 

「絶対に間に合わせて見せる!アクセル全開!チョベリグで行くわよ、スカーレットちゃん!!」

 

その言葉と共にたっちゃんは更に加速する

まるで暗い夜空を切り裂いて飛んでいく流れ星のように、真っ赤なランボルギーニは無人の首都高を駆け抜けていくのだった

 

 






マルゼンさん...本当あんたマジで何歳なんだ...
※『たっちゃんをフルスロットルで乗り回すマルゼンさん...見たくない?』なんてしょうもない理由で出しただけなのに、なんか勝手に色々話し出して困惑する作者

次回第五部最終回です


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