ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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お待たせしました!
第6部本編開始です!!

クライマックスまでフルスロットルで飛ばしていくので、どうぞお楽しみください!!




女王の帰還

 

 

 

 

 

――彼は深き淵を大釜のように沸騰させ

海を香料をつくるなべのように変える

 

――彼の後に川は道となり

淵は乾いた所と見なされる。

 

――地の上に彼に比すべきものはなく

彼は恐れを知らぬものに作られた。

 

――すべての高ぶる者も彼の前に恐れ

彼はすべての誇り高き獣の王である

 

 

 

 

(『ヨブ記』第41章23~26節)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とあるウマ娘side

 

 

 

――その日、東京競バ場は異様な空気に包まれていた

 

 

 

『さぁ、やって来ました秋の大一番、天皇賞(秋)!紅葉色づく季節のここ東京競バ場において、果たして栄光をその手に掴むのは一体誰なのか!?』

 

見上げれば、そこには抜けるような青空

晴れ渡る蒼穹の下に広がる広大なターフを見守る観客席は既に満員御礼

そんな活気に満ちたレース場一杯に実況の声が響き渡る

 

ワァァァアアアアァァァァアアッッ!!

 

そんな実況の言葉に対して、集まった観客達もまた歓声をあげる

人々のボルテージは最高潮、今から始まるメインレースに対する熱狂は

高まるばかりであり、それはまるでパンパンに膨らんだ風船のように爆発する瞬間を今か今かと待っている

 

ただ、普段のそれに比べて今日のそれにはどこか緊張感が混じっている

それはまるで何かを恐れているような、始まって欲しいけど始まって欲しくない、そんな矛盾した思いが見え隠れするような...

そんな奇妙な空気に包まれた観客席からの歓声をよそに、彼らが見つめるターフの上では淡々と本バ場入場が進む

 

『さぁ出てきました!本日の3番人気、キソグカメハメハ選手以来の史上2番目の変則二冠を成し遂げたウマ娘、2番ディープブルー選手!!』

 

『今年のダービーウマ娘ですね

前年のダービーウマ娘も出走する本レース、新旧ダービーウマ娘対決という構図が楽しみですね』

 

「...」

 

紹介と共に地下バ道から出てきたウマ娘の姿をチラリと横目で見てから視線を戻す

多少異常な雰囲気に包まれているとは言え、春のそれと並ぶ由緒正しき天皇賞

それに相応しい盛り上がりを見せる観客席とは対照的に、ターフの上のウマ娘達は私を含めて静かなものだ。周囲の喧騒を一切意に介さず、一人一人順番に地下バ道から粛々と姿を現す

 

でも、それは別に周りに対して無関心だという訳じゃないし、だからと言って、同時にそれは落ち着いているというわけでもない

単に目の前のレースに集中しているというだけ

自身の胸の内に滾る闘争本能を然るべき時が来る、まさにその瞬間まで押さえ込んでいるというだけなのだ

 

あぁ、そうだ

そもそも皆忘れてはいないだろうか?

ウマ娘である自分で言うのも何だが、確かに私達ウマ娘というのは非常に容姿が端麗な美少女ばかりで構成される種族だ

そして基本的に普通の人間と同じような知性と感性を持ち、また争いを好まない穏やかな者が多いため、有史以来私達は普通の人間と共生することが出来ている

 

だけど...

 

軽く目を閉じ、そして開ける

風にそよぐターフの芝を前に、自分の中の走りたいという強烈な原始的欲求を押さえ付ける

飛び出そうとする身体を、必死に理性の鎖で押さえ付ける

 

そうだ、だけどそれでも私達ウマ娘は普通の人間とは決定的に違う

可憐な容姿の、特異な身体的特徴以外は普通の人間

しかし一皮むけば、その下にあるのはどうしようもない程に獣じみた獰猛な本能

走ることに至上の喜びを見いだし、それ故にわずか数分の短く、そしてこの世の何よりも激しい熾烈なレースという時間に文字通り命をかける、そんなある種の戦闘種族

それが私達ウマ娘だ

 

だからターフの上でレースの始まりを待つウマ娘達は静かに闘志を燃やす

絶対に勝つと

今日までの努力の価値を、今ここで証明してみせると

そしてそれは私とて例外ではない

 

それに何と言っても、今日のこの場はかの天皇賞(秋)の舞台

中央における最も規模の大きなレースである八大競争の一つであり、秋シニア三冠という栄誉ある称号の最初の頂

そして同時に、中距離ウマ娘最強決定戦としての側面もある至高のレース

 

だからこそ、私もいつにも増して気合いを入れる

選ばれたウマ娘の中でも更に選ばれたウマ娘のみが立つことを許される夢の舞台

その場に立てたという事実を噛み締めながらも、しかし闘志だけはそのままに

むしろだからこそ、普段よりも熱く、強くそれを燃やす

そしてそれは、単に自身の為だけではない

 

私はちらりと一瞬だけ観客席を見る

するとそこにはこれまで応援してくれたお母さんが、お父さんが

それだけじゃない、私の夢を応援してくれるたくさんの人達が固唾を飲んで私を見守っている

それを確認して、私は再び目の前へと目を向ける

 

(そうだ、私は負けるわけにはいかないんだ)

 

背負ってきた夢を、希望を叶える義務が私にはあるんだ

だからこそ

 

(絶対に負けない)

 

負けてたまるもんか

そんな想いと共に拳を握り締める

 

そして

 

(その為には!!)

 

私が、いや他のすべてのウマ娘がその方向に意識を向けた瞬間だった

 

 

 

『それでは、本日の一番人気を紹介しましょう!!』

 

 

 

その言葉と共に、周囲の気温が一気に下がる

まるで背中に氷の柱を直接ぶちこまれたかのような悪寒と、骨をも軋ませるようなとてつもない重圧に、思わず私は戦慄すると共に膝を着きかける

 

「...っ!?」

 

無論現実には何も起きていない

青く晴れ渡った空は、天地開闢の頃から変わらない姿のままであるし、とっさに見回した周囲の様子もまた同様

並べて世は事もなし

それを疑う余地はない

 

だがそう錯覚する程の途方もない圧力が...まるで数百トンはある重りのような、その場に立つだけでも命を磨り減らすような規格外の重圧が周囲一体を支配している

ただ、それだけなのだ

 

あまりの重圧によろめく身体を必死に支えながら改めて周囲を見ると、周囲のウマ娘は勿論のこと、あれ程までに騒がしかったレース場も、今ではすっかり水を打ったかのように静かになっている

驚くべきことに、数万人はいるはずの人間が、誰も何も喋れないのだ

ハッキリ言って異常と言わざるを得ない。

だが、そんな状況下でも実況の声は続く

だけど、その口から語られる言葉は...

 

 

 

『桜花賞、オークス、秋華賞...――』

 

 

 

カツーン...カツーン...カツーン...

 

静まり返ったターフに響く蹄鉄の音

それを尻目に読み上げられるいくつものG1の名前

ウマ娘レースにおける最高位の格付けのレースであり、一つ勝つだけでも歴史にその名を刻まれるそうそうたるタイトル達の名前、でもそれは...

 

 

 

 

『――...エリザベス女王杯、有マ記念、フェブラリーS、大阪杯...――』

 

 

 

カツーン...カツーン...カツーン...

 

その音ともに、ゆっくりと一人のウマ娘が地下バ道から姿を見せる

だけどそれは...その姿と合わせて読み上げられる実況の言葉は、ターフにいる全てのウマ娘を絶望させて余りあるもの

まさに黙示録の喇叭、全ての終わりを告げる終世の音色と言われても、誰もそれを否定できない

何故なら...何故なら...――

 

 

 

『――...これら7つ

...これら全てのG1の戦場を無敗・・で切り抜けた絶対女王は、果たして今日の勝利を掴み、あのシンボリルドルフでさえ成し遂げられなかった八冠、それを一度の黒星もつけることなく成し遂げてしまうのか!?』

 

 

 

カッ...

 

そして足音は止まる

沈黙の中佇むのはたった一人のウマ娘

だけどそのオーラは、纏う気迫はあまりにも桁外れなもので...

 

あぁ、だからこそ私は悟ったんだ

彼女が遂に帰ってきたのだと

大阪杯以来、しばらく表舞台に顔を出さなかった彼女だったが、その威風堂々たる立ち姿はまったく変わっていないと

 

彼女こそが最恐のウマ娘

彼女こそが最凶のウマ娘

...そして今この時代において、彼女こそが最強のウマ娘

 

故にこそ私は笑う

ガクガクと震える足を押さえ、だらだらと流れ出る脂汗を手でぬぐい、畏怖と、そしてある種の敬意を持ってしてつぶやく

 

「...化け物め」

 

そして奇しくも同じタイミングで実況はそのウマ娘の名前を読み上げる

高らかに、天の果てまで届かんばかりに読み上げられたその名前が示すことはただ一つ

それはすなわち王の帰還

久しくレースの世界を離れていた彼女が、かつてターフに鏖殺と惨殺と虐殺の山を築いた彼女が、今再びこの世界へと舞い戻るということ

今一度、この国を絶望と混沌の坩堝へと叩き込む為に彼女が戻ってきたということ

 

だからこそ、震えが止まらない

でも、だからこそ彼女を乗り越えなければ私達は前に進めない

 

故にこそ私は屈しない

心を押し潰さんばかりの恐怖に、しかし必死に抗い私は彼女を見る

目の前の絶望を、だけど逃げることなく真っ直ぐに見つめる

その絶望の名前は...――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『前人未到の無敗トリプルティアラ!

七つの冠を抱きし絶対にして無敵の"鮮血の女王"!

 

 

 

...――7番ダイワスカーレット選手!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――...刹那、観客席は悲鳴と恐慌に包まれた

 

 






はい、と言うわけで前書きにも書いた通りのミスパーフェクトなダスカさんです
恐ろしいことに史実的に出走を回避したフェブラリーステークスとオークス以外(有馬記念も正確には本編の次の年ですが)全部史実でも勝ってるんですよね、ダスカ。
連対率100%という話自体は知っていましたが、自分で調べてびっくりですよ
史実ダスカ、マジで強くないですか?

それからちょっと詳しい方がいたら教えていただきたいんですが、
小説における聖書の引用ってこんな感じでも大丈夫なんですかね?
一応今回引っ張ってきた岩波文庫の『ヨブ記』が1971年出版なので、ギリギリ著作権的には大丈夫だとは思うのですが…
調べてもよく分からなかったので、もし良かったら教えていただけるとありがたいです!



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