ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
そう言えば、ライスシャワーの育成って初心者にはかなり難しいとよく言われますよね。
皆さんは彼女の初うまぴょいまでどの位かかりましたか?
作者ですか?
正確には覚えていませんが確か52か53回位です。
適性が皆無な追い込み以外の全ての脚質を試し、因子やサポカも何度も編成しなおして、間で育てた他の子達の育成ノウハウもすべて駆使した上で、何度も何度も攻略wikiを読み漁って、その上で何とか彼女を念願のうまぴょいの舞台に立たせることができました。
まだアオハルすらない頃の話
始めたばかりでろくな因子もサポカもない状態で頑張っていたころの話ですがね
(「...アンタと初めて出会ったのは、確か保健室だったかしら」)
そう言いながら、アタシはトレーナーのベッドの横に置いてあった椅子に座る
どこにでもありふれたパイプ椅子はしかし、落ち着いて話すには実に都合が良い
だから偶々そこにあったそれにゆったりと腰掛けながら続けた言葉は、ふと思ったことで
(「それを考えると、今こうして話している場所が病院ってのも感慨深いものよね。よっぽどアタシ達はこういう空間に縁があるみたいね」)
...もっとも、あの時とは立場が丸っきり逆だけど、とアタシは苦笑する
そしてその間もトレーナーは反応を示さない
開いた窓から入る風が、白いカーテンを揺らす
誰もが寝静まった夜の病室
その一角に差し込む月の光が、真っ白な病室の床をぼんやりと照らす
そんな中、眠り続けるトレーナーの顔を見つめながらアタシは続ける
(「だけど、あれが始まりだった
...あの時はまさかアンタとこうして契約を結ぶことになるだなんて思いもしなかったけど...それでもあの瞬間があったから、アタシ達は始まった
あの瞬間があったから、ここまで走ってこれた
あの瞬間があったから、今アタシはここにいる
それだけは疑いようのない事実だから」)
そこまで言うと、アタシはニッコリと笑う
(「だからね、トレーナー
アタシこれでもアンタには感謝してるのよ?」)
そう言って述べるのは感謝の言葉で
(「アンタは間違いなく、アタシにとっては唯一無二のトレーナーなのよ?」)
青白い月の下で、アタシは素直にそれを口にした...
...今一度、時を少しだけ巻き戻す
地下バ道にはライスさんがいた
「...久しぶりだね、スカーレットちゃん!」
「ラ、ライスさん!?それにブルボンさんまで!!」
予想だにしなかった人物の登場にアタシは驚く
そんなアタシの様子を、ブルボンさんの押す車椅子の上で、まるでイタズラが成功した子供のようにニコニコと微笑みながら見つめていたのはライスさん...あの宝塚記念で足を負傷し、現役を退いたという彼女だった
そんな彼女の後ろからブルボンさんも挨拶をしてくれる
「こんにちは、お久しぶりですねスカーレットさん」
「驚きました!二人とも来るならそうと言ってくれれば良かったのに!!」
そう言って慌てて二人のもとへと駆け寄るアタシに、ライスさんはてへへと頬をかく
「ご、ごめんね?でも折角だから驚かせようと思って...」
「...本当、あなたという人はこういう時だけは大胆ですよね、ライスさん」
ペロリと舌を出すライスさんに、やれやれとブルボンさんが肩をすくめる
そんな相変わらず仲が良さげな二人の様子を見ていると、アタシも明るい気分になってくる
冷えきったコンクリートでできた地下バ道の一角に、暖かい空気が流れる
だけど
「...ライスさん、その足は...」
「まぁ、見ての通りかな
左足はもう完全にダメになっちゃった
だから今日はブルボンさんに頼んで一緒に来てもらったんだ」
そう言ってまだ包帯が巻かれた左足を撫でるライスさんに悲壮感はない
だけどそれがどれだけ重い怪我なのか、それを受け入れるためにどれだけの葛藤があったのか
同じウマ娘であるだけにアタシは容易に想像できてしまうから...
「そう、ですか...」
思わずアタシは項垂れる
ずっと気になっていて...でも今日までレースのためのトレーニングや調整に必死で調べる機会がなかった...ううん
それを言い訳に敢えて真実を知ることを避けていた目の前の事実に、アタシは閉口する
薄々予想はしていたのだ
だけどそれを改めて、しかも本人の口から告げられたアタシにはなにも言えない
ウマ娘にとって命と同じくらい大事な足に負った致命的な怪我、あまりにも絶望的なそれに対してアタシはかける言葉がない
だからアタシは一瞬黙り込む
地下バ道にもなんとも言えない空気が流れて...
「...ねぇ、スカーレットちゃん。ちょっと屈んでくれるかな?」
「?分かりました」
不意にそう言われ、アタシは首をかしげる
とは言え別に断るようなことでもない
だからスッとアタシがライスさんの前に目線を合わせるように屈み込んだ瞬間だった
「...えいっ!」
「いたっ!?」
おでこに衝撃が走る
慌てて額を押さえると、どうもデコピンを喰らったらしい
突然のことに目を白黒させながらライスさんを見ると、彼女はちょっとだけ頬を膨らませて言う
「違うでしょ?スカーレットちゃん」
「ラ、ライスさん?」
「今はライスのことはどうでも良いの。あなたが今心配しなくちゃいけない唯一のことは、もうすぐ始まるレースのことだけ
...そうでしょ?」
「!」
そう言われてハッとしたアタシは、改めてライスさんを見る
するとそこには優しげな表情を浮かべた彼女がいて...
「...走るんだよね?」
――もう一度走る理由、見つかったんだね?
「...はい」
「...走れそう?」
――走り抜く覚悟、決めたんだね?
「...はい」
「.........もう、一人でも大丈夫?」
――ライスの伝えたかったことは、ちゃんと伝わった?
「.........はいっ!」
「そっか...そうだよね。それならライスから言うことはもう何もないかな?」
そう言うとライスさんはニッコリと微笑む
その顔には心からの安堵と、そして今からレースへと赴くアタシへの揺るぎない信頼が浮かんでいたから...
「頑張って!スカーレットちゃん!!
あなたの走る先にある未来に、とびっきりの祝福がありますように!!」
「はい!ありがとうございますライスさん!!」
晴れやかな笑みで答えたアタシは、二人と分かれ、地下バ道の出口へと歩いていく...
・・・・・・
ライスシャワーside
「...ところで、ブルボンさんは何も言わなくて良かったの?」
スカーレットちゃんが去った後、ライスはふと気になって後ろを向きます
するとブルボンさんはゆるゆると首をふります
「他の誰でもないあなただからこそ、あの時傷付いたスカーレットさんにその言葉が届いたんです
私が何か言ったところで蛇足ですし、それはさっきでも同じですよ」
「そんなことないと思うけど...」
「それに、もう見させていただきましたから」
そう言ってスカーレットちゃんが去った方向を眩しそうに見つめるブルボンさんは続けます
「...あんな力強い目をしているのなら、彼女はもう大丈夫
あなたもそう思ったから、笑顔で送り出したんでしょう?ライスさん」
「...そうだね、ブルボンさんの言う通りだよ」
そう言いながら思い出すのはさっき見たスカーレットちゃんの目
初めてトレセンの中庭で会った時の、今にも泣き出してしまいそうな、まるで迷子になった子供のような目をしていた彼女はもういません
今あそこにいるのは歴戦のウマ娘
しばらく会わない内にとても強い光を宿した目をするようになった彼女に、もう心配など必要ないと、そう思ったから
「きっとスカーレットちゃんは大丈夫。
だからライス達も観客席に戻ろう、ブルボンさん」
「えぇ、そうですね。急いで戻りましょう
折角の彼女の晴れ姿を見逃してしまいますからね」
そんな話をしながらライス達は地下バ道から引き返します
キュルキュルと回転する車椅子の車輪の音が反響する薄暗いそこは、コンクリート造りの無機質で冷たい空間です
だけど
(そう...きっとスカーレットちゃんなら大丈夫)
去っていくスカーレットちゃん、その背中を思い出しながらその場を去るライスの胸の中は
(例えどんなに辛く苦しい道のりでも、その先にきっとあの子はあの子だけの答えを見つけられる
きっとあの子は自分の人生を完遂できる
ライスはそう信じてる)
まるで我が子の成長を喜ぶ母親のような暖かい気持ちが溢れていたから...
(だからスカーレットちゃん、ライスに...ううん、今日ここにいる皆に見せて!
"鮮血の女王"、そう言われても走り続けたあなたが見つけたものを!
誰にも譲れない、あなただけの走る理由を!生き様を!ライス達の目に焼き付けさせて!!)
かくして"淀の刺客"...いや、悪意に満ちた誹謗中傷の嵐の中で、それでも走り続け、その先に遂に皆を笑顔にすることが出来た青薔薇を懐いたウマ娘、"淀のヒーロー"とその友はその場を去る
走り続けたその先に心折れかけたとあるウマ娘、自身の走る理由を失いかけた彼女にその思いと生き様を見せつけ、激動の生涯を駆け抜けた幸福の名前を持つウマ娘は、静かにその場を去っていく
それはもう彼女の時代が終わったからだろうか?
否、彼女は悟ったのだ
自身の後輩にあたるそのウマ娘が、もう一人でも立派にやっていけるのだということを
傷付き、自身の道を見失い、もう立てなくなっていた彼女が、それでももう一度立ち上がることを決めたのだということを
であるならば、黙ってそれを見届けるのもまた、先達の勤めというものであろう
抱き締めることだけが優しさなのではない、時にそっと見守ることもまた優しさなのだ
だからこそ、彼女は見守る
まるで巣立って行く雛鳥を見守るかのように、その未来に幸あれと祈るのだ
故に時代は変わる
ここからは青薔薇の時代ではなく緋色の時代
であれば、そこに立つに相応しいのは後者に他ならない
だがそれは決して前者の時代がなくなったという訳ではない
それを踏まえた上での後者なのだと言うことを、努々忘れてはならないだろう
...さぁ、世界をあるべき姿へと戻そう!
『さぁ、豪華メンバー!
日本中から集まった最強のウマ娘達が、その背に大きな夢を乗せて走ります!!』
ザワザワと落ち着かない空気の中で全てのウマ娘がゲートへと入る
そしてその中には当然彼女の、ダイワスカーレットの姿もまたある
『第138回天皇賞(秋)――』
レースのスタートを控え、あれほどに荒れていた観客席も、流石に一瞬だけ静まり返る
張りつめた糸のような緊迫した空気の中で、それでもなお彼女は静かに落ち着いて目の前を見据える
その瞳に映るものが何なのか
果たして彼女が行き着く先にあるものは何なのか
それを知るのは三女神だけだろう
故にこそ始めよう
全てを終わらせるために
そしてそこから全てを始めるために
運命の終着点がそこにある
なればこそ、後に伝説と呼ばれるレースの幕が落ちる
イチバンになる、そんな夢をひたすらに追いかけ続けた少女は、その夢の果てへと目掛けて...
『――スタートです!!』
...今、飛び出した!
さぁ、そろそろ物語が動き出しますよ