ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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実を言うと、このお話を書くにあたって一番悩んだのは彼の設定についてだったり
それではどうぞ




ターニングポイント

 

 

???side

 

 

――それが夢であることは分かっていた

 

(「すごいわね■■!」)

 

――だけど

 

(「流石だ■■!」)

 

――そうやって向けられる称賛の声が、尊敬の眼差しが、今の僕にはあまりにも堪えがたくて...

 

(やめろ!やめてくれ!!)

 

――叫ぶ僕を、しかしとびきりの善意で持って人々は囲み、僕を褒め称える

まるで尊敬すべき偉人か英雄か何かを前にした時のように、その場に踞る僕をニコニコと微笑みながら言葉の限りに誉めちぎる

そこに悪意なんてものは一切なく、彼らの中にあるのは純粋な僕への敬意だ

だからこそ

 

(僕はそんな高尚な人間なんかじゃない!そんな風に褒められるような人間なんかじゃないんだ!!)

 

そう必死に訴える僕の言葉は、周囲の誰にも届かない

当然だ

人間が最も強いのは、自分が正しいと思っていることをしている時だからだ

 

正義は必ず勝つ、と言う言葉があるがそれは正しくない

正確には正義だから・・・必ず勝つ

相対的な価値観がどうであれ、歴史を紐解けばそれは勝者の歴史であり、正義の歴史であるということは一目瞭然だ

何故なら有史以来、自分が正しいと思わない理由で戦争をふっかけた国などどこにもないから

例えそれが後世において悪逆非道と呼ばれる侵略の歴史であろうと、同じ時代でも非難されるような悪鬼羅刹の諸行であろうと、それをしている時の彼らの中で正しいのであれば、それもまた一つの正義であることは疑いようのない事実だからだ

 

だからこそ、正義は勝つ

無数に存在するあらゆる正義

それでもそれ以外の理由で動く人間など世界にはいないから

故にこそ正義は勝つ、正義必ず勝つ

 

そしてその正義...要するに、自分のしていることが正しいことであるという認識で動いている時ほど、人間が強い時はない

まして相手を褒めるなどということ程、世界的に見て普遍的に推奨されるような善行などそうはないだろう

だからこそ彼らは止まらない

僕を取り囲む本当に何の悪気もない、むしろ有り余るほどの善意しか持たない心優しい彼らの言葉は、次から次へと山のように積み上げられていく

ともすればそれは、祝福すべき光景なのかもしれない

 

だけど

 

(お願いだ...僕をそんな目で...そんな目で見ないでくれ...)

 

ギシッと体が軋む

降り積もる称賛と期待

その重さに、夢の中の僕は押し潰されそうになっていて...

 

(お願い...だから...)

 

手を伸ばす

だけど届かない

尽きることのない手放しの賛美の言葉の海

まるでタールのように重く、体に纏わりつくそれの中で踠くことすら許されず、ゆっくりと僕の体はその底まで沈んでいって...

 

 

 

――それは一人の男が見る夢

どこにでもいる、ありふれたつまらない男の見る夢...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――青

 

一言で言うならそれが全てだった

 

見上げた先、どこまでもどこまでも続く空の彼方をぼんやりと見つめる

だけどいくら見たところでそれの果てを見通せるわけではない

とは言えそれは当たり前のこと

無限の蒼穹に果てなどなく、そんなあきれる程に広い空は、本質的には何もない場所だ

だからこそ、いくら見つめたところで無駄だ

時おり白い雲がのんびりと通り過ぎていく位で、空とは言ってもそこにあるのは単なる空白であり、あるのはただ何もないという事実だけなのだ

 

(だから"から"って書くんだろうか?)

 

などという屁理屈を頭の片隅で考える。だけど多分大筋は外していないはずだと自分では思う

何故なら何もないのは事実だから

同じ青というイメージを共有し、一方で水という確かな質量を持つ物質で満たされた海とは違い、空には本当に何もない。勿論実際には空気があるから現実的に何もないという訳ではないだろう。だけど、物質として手に取れるものがそこに何もない以上、体感的にはそこに何もないのと同じだ

でもだとしたら...

 

(どうして、人は空を目指すのだろう?)

 

そこには何もないのに

頑張ったところで、そこにあるものなど何もないのに

であれば、それは無駄な努力以上の何者でもないのではないだろうか

時間の無駄、労力の無駄、人生の無駄

だとしたら...だとしたら...

 

とそんなことを考えていた時だった

 

「...どうしてここに君がいるんだい?」

 

突然視界に映り込んだ見覚えのある顔に、僕はその場に寝転んだまま問いかける

するとその人物、上から僕の顔を覗き込む彼女もまた僕に問いかけてくる

 

「それはこっちのセリフよ。どうしてアンタがここにいるのよ」

 

「たまの休日にどこで何をしていようと、個人の自由だとは思わないかい?」

 

「それはそうね。だけど仮にもトレセンに勤務しているアンタのそのたまの休日にすることが、自分の勤務している学園のグラウンドの片隅で昼寝って...ワーカホリックかなんかなの、アンタ?」

 

「.........ごもっともな指摘で」

 

そんな彼女の...ダイワスカーレットさんの心を抉るような言葉に、僕は体を起こした

 

 

 

とある休日のトレセン学園のグラウンド

天気は晴れ

暖かな空気に包まれた今日は、絶好の行楽日和だ

時おりどこからか吹き抜けていく風が気持ち良い

 

そんな中、僕はグラウンドの片隅で座り直す

そしてそんな僕の様子を呆れたような顔でスカーレットさんが見ている

だがそんな彼女の顔には、まるで一昔前の24時間戦うことを強いられた企業戦士を見るような憐れみもまた含まれていて...

 

「ちょっとこの人大丈夫なの?」とでも言い出しそうなその顔に、とは言え言い訳の一つもさせて欲しい

と言うのも、僕が今ここにいるのは別に会社への忠誠心(この場合だとトレセンへの忠誠心か?)が高まった結果三徹で泊まり込みをしたとかそういうのでは断じてないからだ

 

...そう、詰まる所休日ほど困る日は僕にはないのだ

何故なら僕にはほとんど趣味というものがないから。自分の好きにして良い時間ほど、僕がもて余す時間はないから

だから何となく近くを歩き回った末に偶然行き着いた休日のトレセンで、これまたいつの間にか辿り着いていたグラウンドの片隅でぼんやりと座り込んでいたところで、日差しの暖かさについウトウトとしてしまったと、そういう顛末なのだ...

 

と、そんな話をした瞬間に目の前の彼女はため息をついた

 

「呆れた...

そっちの方がなお悪いじゃない」

 

そう言ってうわぁ...とアホな大人を見る目で僕を見る彼女の言葉に、しかし悲しいかな、僕は反論が出来ない

 

...一応補足しておくが、流石の僕も完全に無趣味と言うわけではない

子供の頃から好きだっただけに、星に関してはそれなりに詳しいつもりだし、だからこそ星座図鑑や天体望遠鏡を片手に空を見上げるのが唯一と言って良い僕の趣味だ

とは言え、思えば最近はそれもあまりしていないし、そもそも本格的な天体観測ができるのは基本は星が出ている夜だけ。無論星の本を読むだけなら昼でも出来るけど、流石に一日中それだと飽きてしまうわけで...

 

「...アタシが言うのもなんだけど...趣味の一つや二つぐらいは無いと人生寂しいわよ?」

 

とそんなことを説明しようとしている間に、気が付いた時には僕の横にスカーレットさんがしゃがみこんでいた

妙に優しい顔をした彼女は、僕の肩をそう言ってポンポンと叩く

そして

 

「少女漫画位しかないけど、良かったらなんか貸すわよ?アタシだって別に多趣味って訳でもないけど...それでも人生長いんだから

多少は潤いって奴も必要よ。ね?」

 

いつものツンケンした態度はどこへやら

どうやら僕をすっかり可哀想な人認定したらしい彼女は、心の底から同情したような...まるで面倒見の良い親戚か職場の先輩のようなことを言ってくる

 

...それが逆に何だか心に刺さる

恐らく気を遣ってくれてるんだろうけど、むしろその優しげな聖母のような笑みの方が心にくるような気がしたから...

 

「...検討しておくよ

ところでスカーレットさん、君はどうしてここに?」

 

と露骨に話題を逸らしに行った僕は悪くない。多分

まぁ、そもそも自分と一回りは年齢が離れた子供に人生を説かれているという構図自体が異常なのだ

別に僕には変な性癖はないから、大人としての威厳を失いそうな場面は避けるに限る

...決して何だか後ろめたい気分になったからではない

 

それに、最初から疑問に思っていたこと自体は事実なので、この際だからと僕は思い切って彼女に聞いてみる

そう、実際不思議だったのだ

何故なら先にも言った通り今日は休日。トレーナー業もそうだが、一応トレセンの授業も同様に休みの日だ

だからこそ、人の事を言えた身ではないが、彼女が今日ここにいることは普通に考えると割と違和感があることだ

とは言えそれはあくまで普通のウマ娘の場合

 

「ん?そんなの自主トレの為に決まってるじゃない」

 

と至極不思議そうな顔で答える彼女の姿に、逆に僕は納得する

 

なるほど、確かに彼女ならさもありなん

何せ自分の怪我が治らない内からトレーニングへと向かおうとするほどにストイックな彼女のことだ

休日だからと言って手を抜くような性格ではないだろう

 

だから

 

「...何よ、怪我ならもう治ったわよ?約束は守ったんだから、アンタにとやかく言われる筋合いは...――

 

「いや、そこは心配していないよ。君が素直な良い子なのは知っているから」

 

...――んなっ!?バ、バカじゃないの!

アンタだって知ってるでしょ、アタシが猫被ってるってことぐらい!!流石にアンタには今更取り繕うのも面倒だからしてないけど、それでもそんな今の頑固でワガママなアタシの姿が本当のアタシの姿で...――

 

「...ねぇ、スカーレットさん。もし良かったらなんだけど、君が自主トレをしている間僕もここにいても良いかい?」

 

...――人の話を聞きなさいよ!?」

 

何故か顔を真っ赤にするスカーレットさんに、僕は続けた

 

「さっき話した通り、情けないことに僕は今暇なんだ。だから不躾だけど、折角ここで会ったことだしちょうど良いかなと思ってね。勿論迷惑だったら断ってくれても全然構わないし、君の邪魔だってしないから...ってどうかしたのかい、スカーレットさん?」

 

(「コ、コイツ...マイペースにも程があるでしょうが...!!ホントに調子が狂うわね...」)

 

「...スカーレットさん?」

 

プルプルと震える彼女に声をかけると、なんでもないとつっけんどんな態度で言った彼女は、しかし立ち上がりながらも一応は僕に見学を許可してくれる

 

「ま、まぁ良いわ。別にアンタがここにいようといまいと、やること自体は特に変わらない。そもそも怪我してる間に散々付きまとわれた手前、追っ払うのも今更よね。

良いわよ、別に」

 

「そっか。

ありがとうスカーレットさん

それじゃあゆっくり見学させて貰うよ」

 

そう言って礼を言う僕に、スカーレットさんは鼻をならした

 

「...良く言うわよ

本当はアタシの監視も兼ねてるくせに

少しでも危険なことをしたら飛び出す気満々なくせして、ホントに良く言うわ...」

 

 

 

かくして彼女の自主トレは始まった

と言っても内容自体はとてもシンプルで、目の前のターフを走る、ただそれだけだ

本人曰く、それ以外のトレーニングは午前中に既に済ませているらしく、だから午後は走り込みを中心に進めていくのだとか

 

ぽかぽかとした陽気の中、僕達がいるグラウンドを清涼な風が吹き抜けていく

そしてそれに揺れる綺麗な栗毛のツインテールをたなびかせながら、スカーレットさんがターフを走っていく

 

最初の方は身体の慣らしを兼ねた軽いジョギングだったスカーレットさんの自主トレも、時間と共に段々と段階が上がっていき、十分に体が温まった今はではもう、本番を想定した全力疾走へとシフトしている

だからこそ、走る彼女も本気だ

 

ドッ!という音と共にスカーレットさんが加速する

萌える緑のターフを踏み締めて、まるでジェットエンジンでも着けているのではないかと錯覚するほどの超スピードで、彼女の体はさっきいた所から瞬く間に遥か遠くへと消えていく

そしてそんなスカーレットさんの走りは、見ている内にどんどん速くなっていって...

 

速く!

 

――その一歩で風に追い付き

 

もっと速く!!

 

――続く一歩が音を追い越す

 

もっともっと速く!!!

 

――そしてその次の一歩は光になる

 

それはまさにダイヤモンドの輝きだった

確かな才能とたゆまぬ努力、その二つを揃えた者だけが見せる至高の輝き...時代を作る者の走りだけが纏う確かな美しさと力強さを内包した彼女の走る姿は、呆然と見つめる僕の目の前を一瞬で通りすぎていく

 

(スカーレットさん...やっぱり君は...)

 

そしてそんな目の前の光景に確信する

自分の見立ては間違ってないと

きっと...いや確実にこの子は時代を作れる逸材だ

そして多分それだけでは終わらない

もっともっと、この子ならその先にだって行ける。誰もが夢見る究極の...最強のウマ娘にだってなれるかもしれない

 

そしてだからこそ...

 

(...)

 

そんな彼女を見ていると、無性に自分が嫌になる

太陽のように明るく輝く彼女のその姿に、どうしても引け目を感じてしまうのだ

いや、彼女だけではない

僕には彼女達が...ウマ娘という存在が眩しくて眩しくて仕方がない

ひた向きに夢を追い続けるその姿が、懸命に走るその姿があまりにも尊くて、輝かしくて...だからこそ僕はそんな彼女達に声をかけることが出来ていない

トレーナーとして...史上最年少・・・・・のトレーナーとして将来を渇望されてトレセン学園へと足を踏み入れた僕は、それでもまだ周囲から寄せられるその期待に、願いに、いまだ応えることが出来ていない。誰一人としてウマ娘にスカウトを行ってすらいないのだ

 

なぜなら僕には彼女達の願いが...

 

(「私、三冠ウマ娘になりたいんです!!」)

 

思いが...

 

(「諦めない!あたしは夢を叶えるんだぁっ!!」)

 

夢が...

 

「...っ!」

 

拳を握りしめる

だけど胸の内から沸き上がる自己嫌悪と罪悪感は止まらない

どうして...どうしてこんなところに自分はいるのか

そんな余りにも今更過ぎることすら考えてしまう自分が、あまりにも惨めで、あまりにも情けなくて...そしてあまりにもみっともなく思える

 

(分かってる...分かっているんだ)

 

これは当然の結末なのだと

悲劇の主人公を気取るには、あまりにも凡庸でありふれた結末なのだと

この末路は他の誰でもない僕自身に責任があるもの、自業自得なものなんだと

本当は分かってるんだ

 

だけど、だからこそ僕は足を踏み出せない

自分がどんな存在なのか、それが分かっているからこそ僕は彼女達に声をかけられない

夢に向かって一生懸命に頑張る彼女達を、ただ見ていることしかできなくて...

 

「...はぁ...はぁ...

...ふふん!どう、アタシの走りは?」

 

そう言ってこちらに近づいてくるスカーレットさんの姿に...

なんでもイチバンでないと気が済まない...だけどだからこそ、その為にどんな努力をも厭わない、そんな彼女の姿が...

 

「...あぁ、すごかったよ」

 

「...ま、まぁ当然ね!

アタシはイチバンのウマ娘になるんだから!」

 

胸を張る彼女の、自信に満ちたその表情があまりにも、あまりにも今の自分とはかけ離れたものだったから...

 

「...ねぇ、スカーレットさん」

 

だからきっと僕は知りたかったんだ

自身とは対極の位置にいる彼女のことを

キラキラと輝く彼女が、なぜそこまで頑張るのか

一体何がそうまで彼女を動かすのか、その答えが知りたかったから...

 

「ん?」

 

なに?

と目で問う彼女に僕は尋ねる

それはずっと気になっていたこと

だけど、どうしても聞くことが出来なかったこと

そして恐らくは僕と彼女を決定的に分けるもの

すなわち

 

 

 

「...君はどうして、そんなにもイチバンに拘るんだい?」

 

 

 

 






彼が抱えるものは…?


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