ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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理不尽というのは、
どうしようもない時にやってくるからこそ理不尽なのだ




伸ばした手は

 

 

 

どうして?

 

 

 

...それが、どうしようもない事態に出くわした時、多くの人がまず口にする台詞だとアタシは思う。

 

なぜなら、人間は無意味というものに耐えきれないから。

「太陽が眩しかったから」なんて理由での殺人なんて、認められないから。

世界は正しく因果律に従って動いている、そうやって考えないと正気を保てないから。

 

だから人は問う

 

どうして?

そう言ってその理由を問う

それが本人にとって認められる理由であろうとなかろうと、人はその理由を問う。

 

せめて納得するために

今目の前で起きていることは、少なくとも自分の常識の範囲内で起きていることであると

単純明快な、少なくともちゃんと論理的な理由に基づいたもので、理不尽なんかではないと、それだけでも納得したいが為に人はそう訪ねるんだと、アタシは思う。

 

だけど

 

 

 

(「嘘...でしょ?」)

 

 

 

世界は...そんなにお行儀良くなんかできていない

呆然とするアタシに目の前のお医者さんが沈痛な表情で首を横に降る

 

(「スカーレットさん...残念ですが...」)

(「そんな...そんなわけない!だって、だって...!!」)

 

アタシは思わずその場で立ち上がる。

だけど、それで何かが変わるわけでもない。

むしろ立って頭に貯まっていた血が下に落ちたからか、その言葉の意味が急速に現実感を帯びてきて...

 

(「...っ!!」)

 

思わず言葉に詰まる

自分の顔から血の気が引いていくのを感じながらも、それでもお医者さんの説明の続きを聞くくらいのことしか、アタシにはできなくて...

 

 

 

ザァァァァァァアッッ...

 

 

 

朝から振り出した雨の音が、窓越しに部屋の中でも聞こえる。

 

...あぁ、そうだ。思えば当然のことだったんだ。

高慢な悪人は高笑いしながら天寿を全うするし、弱くても心優しい善人は、そんな悪人達に骨の髄までしゃぶられてその人生の幕を引く。

 

(「アイツは!トレーナーは...!!」)

 

努力は報われないし、生まれも環境も選べない

 

(「...言ったのよ!アイツは確かに、アタシに言ったのよ!!」)

 

そして何より

 

(「必ずアタシをイチバンのウマ娘にして見せるって!一緒にイチバンになるって!!なのに!!」)

 

人は簡単に...死ぬ

 

だから、目の前の出来事はある意味当然のことで...でもそれをアタシは受け入れられなくて...

 

(「こんな...こんなことって...!!」)

 

動揺のあまりアタシはその場に崩れ落ちる。そして、それを見たお医者さんと看護師さんが、慌ててアタシの元へと駆け寄る。

でもどんなに泣き叫んだところで、どんなに絶望したところで、あの人の、トレーナーの運命が変わるわけでもなくて...

 

 

 

ザァァァァァァアッッ...

 

 

 

止まない雨の音だけが、やけに鮮明で...

 

 

 

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

 

 

「そっか...」

 

夕日が病室を赤く染め上げる。

そこには今朝方から降り続いていた雨の面影など、もはやどこにもない。

 

黄昏時

誰そ彼、そんなことすら認識できない、現実と虚構の交わる時間の中で、まるで血のような赤色の光がトレーナーの横顔を照らし出す

だけどトレーナーは動かない。

ぽつりと一言呟いたきり、ただただじっと、トレーナーは窓の外を眺め、そんな彼の姿をアタシもまた何も言わずに見つめている。

 

病室にはアタシたちの他には誰もいない

だからか、まるで誰かの返り血をぶちまけたかのような色に沈む病室は、それ自体が世界から隔離されているようだ

そして、そんな世界から取り残された病室の中で、アタシ達は静止する。

あたかも時間が止まったかのような病室の中は、それ故に現実感というものが皆無だ。

 

だけど...

 

「...」

 

そんなトレーナーを...昨日の夜に突然その場に倒れ、ついさっきやっと意識を取り戻したばかりの彼を見ていると、アタシは何だか不思議な気持ちになる。

 

なぜなら、トレーナーは今アタシの目の前にいるから。

窓から差し込む夕日を受けて、伸びる長い長い影は、その根本に確かにそれを作り出す人物がいることを保証していている

故に、トレーナーはここにいる。

現実感があろうとなかろうと、それでも今ここには確かにトレーナーが存在するのだ

 

でも、だからこそ...

 

 

 

 

 

「一年...か...」

 

 

 

 

 

告げられた自らの命の時間を、まるで噛み締めるかのようにゆっくりと反芻するトレーナーの輪郭は、確かにそこにあるにも関わらず曖昧に見えて...

そして、それに対してアタシは何も言えない。

時の止まった病室の床に、アタシとトレーナーの影が長く、長く伸びていく

 

あの後...アタシは救急車を呼んだ。

そして、病院に運ばれたトレーナーに着いていったアタシは、彼が処置を受けている間にその容態を...もって後一年の命だということを、彼よりも先に聞いた。

そして、それは当然自分の正確な状態を知りたがったトレーナーにも、ちゃんと伝えられることで...

 

「...」

 

「...」

 

誰も何も話さない。

 

病室は相変わらず血塗られたような深紅に染まっている。

それはまるで、かつてそこで殺戮が行われていた証のようで...故にこそ、その全てがすんだ後である現在において、そこに命の気配などがあるはずもない。

静寂が横たわるのみだ

 

であるならば、そこで窓の外を眺めるトレーナーの姿がどこか小さく見えるのもまた、当然の話で...

人と魔物の区別が曖昧になるこの時間の中に、ひっそりとその輪郭を溶け込ませてしまいそうな気がして...

 

「...だ、大丈夫よ!トレーナー!!」

 

だからアタシは立ち上がる。

静止した時間の中で、それでもなけなしの力を振り絞り、震えそうになる声を強引にねじ伏せて、アタシはトレーナーに薄っぺらい希望を語る

 

「きっと...きっと治るわ!!そうに違いないわ!!」

 

トレーナーは動かない。

鉛のような沈黙の中で、それでもアタシは動くのを止めない。

...もう手遅れだってことも、どうしようもないってことも、全部全部飲み込んだ上で、それでも。

 

トレーナーはこちらを向かない

あたりを染め上げていた鮮烈な赤色は、いつしか真逆の色彩に置き換わりつつある。

日が沈み、夜の時間がやって来る

 

それでも...例え人から滑稽だと、現実を見れない愚か者だと言われたとしても、それでもアタシはトレーナーに語りかけるのを止めない、止めることが出来ない。

 

だって...だって!!

 

(アタシは!)

 

まだ認めてない!

こんな現実が本当のことだなんて!!

 

(アタシは!!)

 

絶対に認めない!

トレーナーが死んでしまうなんて、そんなことがあるわけがない!!

 

「だから...!!」

 

両手を握り締める

 

そうだ!こんなことがあって良いはずがない!!

アタシの...イチバンのウマ娘のトレーナーである限り、この人はアタシのトレーナーなんだ!

それなら!!

 

「.........トレーナー!!」

 

きっと、これは全部嘘に違いなくて...

きっと、この人はいつものように困ったような笑顔で微笑んでくれるに違いなくて...

 

 

 

だから、アタシがトレーナーに伸ばそうとした手が...ーー

 

 

 

「うん...そうだねスカーレット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今まで、ありがとう」

 

 

 

「...っ!?」

 

 

 

ーー...だけど届かず、空を切るのもまた、当然の話で...

 

あれほどまでに強烈に病室を照らしていた夕日はもうすっかり沈んでいる。

空にはせっかちな一番星が早々に登り、自らの存在をもってして夜の時間の到来を告げている

 

赤く染め上げられていた病室はしかし、今度は夜の闇によって染め変えられる

 

...それでも

 

「.........もう良いっ!」

 

「...スカーレット?」

 

それでも...あぁ、それでも

 

「トレーナーのバカ!バカバカバカ!!」

 

「あっ、ちょっと!どうしたんだスカーレット!!」

 

椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がったアタシに動揺するトレーナーを無視して、アタシはそのまま病室のドアへと向かう

何故なら

 

「ウソつき!!」

 

...耐えられなかったのだ

 

「アタシをイチバンにするって言ったのに!!

アタシと一緒にイチバンになるって言ったのに!!

トレーナーのウソつき!!」

 

目の前に横たわる現実に

それを他ならぬトレーナー本人が肯定したという事実に

 

「スカーレット...」

 

「...っ!!」

 

そして何より...

 

「...アンタなんて!アンタなんて!!

.........っ!!」

 

「スカーレット!?」

 

扉を乱暴に開ける

病室を飛び出し、衝動のままに走り出す

飛び出した病院はみるみる内に小さくなり、景色は飛ぶように流れていく

それはまるで走マ灯

早送りの映像のように目の前をものすごい勢いで駆け抜けていく景色を見ていると、自分がいまどこにいるのか、どこを走ってるのか、そんなことすら分からなくなる

だからか

 

(「...スカーレット」)

 

アタシの脳裏を過るのは...

 

 

 

(「トレーナー!今日も1日頑張るわよ!!」)

 

(「うん、そうだね。それじゃあ今日も頑張っていこうか」)

 

 

 

過るのは

 

 

 

(「トレーナー...アタシちゃんと成長出来てるかな?本当にイチバンのウマ娘になれるかな?」)

 

(「大丈夫。スカーレットはちゃんと成長出来てる。君ならきっとイチバンのウマ娘になれるって、僕はそう信じてるよ」)

 

 

 

過る...のは

 

 

 

(「ふふん!見てた?トレーナー!!アタシがイチバンなんだから!!」)

 

(「おめでとうスカーレット!よく頑張ったね!!」)

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「ねぇ、トレーナー」)

 

(「ん?なんだいスカーレット?」)

 

(「...ふふっ、呼んでみただけ♪」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

.........気が付くと、アタシは自分の部屋に戻っていた。

誰もいない薄暗い部屋に、半端に閉められたカーテンの隙間から月の光が差し込んでいる。

 

それが何だか妙に幻想的で...

さっきまでの出来事も、全部嘘だったような気がして...

 

「...なんで」

 

だからこそ

 

「.........なんで...言ってくれないの?」

 

それが間違いだってことが、嫌でも分かってしまうから...

 

後悔と絶望と悲しみと...ありとあらゆる感情が心の中で暴れまわる

事実を認められないあまり、トレーナーに暴言を吐いてしまった自分を呪う

 

あぁ、自分はなんて子供なんだろうと

1番辛いのはトレーナーなんてこと、分かってるはずなのに...と

アタシは...アタシはなんてことを...と

 

青白い月が、床に淡い光を投げ掛ける

 

...でも、それでも...

 

「どうして...」

 

空っぽの部屋

アタシ以外誰もいないその部屋で呟いたそれこそが

 

 

 

「.........絶対に治すって...これからもアタシと一緒にいてくれるって.........なんで言ってくれないの?」

 

 

 

...あぁ、それこそが1番アタシを打ちのめしたことで...

 

ずるずるとドアの前にへたりこむ

目の前の光景に焦点が合わなくなる

それでも...

 

「...嫌...」

 

カテーンの隙間からこぼれるぼんやりとした明かりだけは

 

「......死なないでよ...」

 

どこまでも、残酷なほどに優しくて...

 

「.........トレーナーぁ...」

 

夜は...始まったばかりだった

 

 




なお、現在のストックはここまでとなります。
ですから、ここからは不定期に書き上げるごとに更新していきます。

続きをお楽しみに



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