ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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これは鮮血の前日譚
とある少女が自身の夢へと歩き出す、その少し前のお話

そして同時に、とある青年が自身の運命と出会うお話
空っぽの青年が、それでも何かでありたいと願う少女に救われるお話
自身の生きる意味を見出すお話

これはそんなお話
誰も知らないお伽話フェアリーテイル






そして始まる物語

 

 

「...イチバンでないと我慢できない?」

 

 

 

スカーレットさんが口に出した言葉を、僕は繰り返す

そしてそれにスカーレットさんは頷いた

 

「えぇ、そうよ。それがアタシの全てよ」

 

そう特に表情も変えずに肯定する彼女は、当たり前のように続ける

 

「一番速くて一番強い、一番皆に認められる一番注目されるアタシ...そうじゃないとアタシは我慢できない

だって昔からアタシはそうだったから

そうでなければならないってバカみたいに必死になって頑張って...そうやってもがいてもがいてもがき続けた先に今のアタシがいる」

 

だからこそ

そう言って僕の目を真っ直ぐに見つめる彼女の目には

 

「アタシは我慢できない

イチバンじゃない自分なんて絶対に想像できないから

そうじゃない自分なんて絶対に認められないから

...だって悔しいじゃない!アタシは今までその為だけに頑張ってきたのよ?どんなに辛くても、どんなに苦しくても、それでも歯を喰い縛って頑張ってきたのよ?そんな過去のアタシの涙が、努力が、報われないなんて悲しいじゃない!悔しいじゃない!!」

 

絶対に自分の夢を諦めないという不撓不屈の覚悟の炎と、そしてもう一つ

自身のこれまでの人生を一度たりとも恥じたことなどないという、確かな自負が燃え盛っていて...

 

(...本当に強い人なんだね...君は...)

 

それを真っ正面から叩き付けられた僕は素直に感心する

先ほど見せて貰った走りも然ることながら、目の前にいる彼女の瞳には一切の迷いがない

だからこそ、その強い心の在り方に僕は改めてスカーレットさんに感銘を受ける

 

あぁ、彼女こそが真のウマ娘だと

その走りで迷える人々の心に灯りを灯し、導くような

どんな人物でも関係ない、見る人全てを魅了し、明日への一歩を踏み出させるような

そんな圧倒的な走りと高潔な精神を兼ね備えた、時代を動かす英雄の卵

それが彼女なんだと僕は改めて納得する

 

だからこそ

 

(...本当に僕とは違う)

 

その本物の輝きを前にして、僕はそう自嘲する

夢も希望も何もない

これまで一度たりとも自分の人生を歩んでこなかった自分の姿が、これ以上ない程に惨めで滑稽に思える

だから

 

(もう...潮時なのかな?)

 

本格的に自分にはトレーナーなんて仕事は向いていないのかもしれない

であれば、無理をして続ける必要なんてどこにもないのかもしれない

きっぱりやめてしまった方が良いのかもしれない

 

そう僕が思いかけた瞬間だった

 

「...だからアタシはイチバンに拘るわ

例え人から滑稽だって笑われても構わない。アタシがアタシであるために、その為だけにアタシはイチバンという夢を追い続けるわ

だってアタシは知っているもの

自分がどれだけ頑張ってきたのか、これまでどれだけもがいてきたのか、それを他ならぬアタシだけは全部知っているもの。

...それはアンタの胸元のそれだって同じでしょ?」

 

「...え?」

 

そう言って僕の胸元トレーナーバッチを示すスカーレットさんに僕は思わずたじろぐ

だけどスカーレットさんは気にせず続ける

 

「アンタがなんでトレーナーになったかなんてアタシは知らない

それでも、ただ突っ立っているだけでなれる程それが温いものじゃないってことくらいはアタシにだって分かるわ

だからこそ、その胸のバッチはアンタの流した汗と涙の結晶

アンタが自分の力で勝ち取ったものの象徴

そうでしょ?」

 

そう言って微笑むスカーレットさんの笑顔が

 

「だからアタシもそれと一緒

今まで積み上げてきたアタシ自身の苦悩を知っているから

悩みさ迷い、それでも進み続けたその軌跡の価値を、誰にも否定なんてさせたくないから

だからアタシは走るの

自分が自分であるために

いつだって、自分が一番好きな自分であるために!」

 

ビックリするくらい綺麗だったから...

 

 

 

 

 

「.........」

 

 

 

 

 

...自分の人生に価値なんてないと、そう思っていた

絶対に叶えたい夢も、命に代えても守りたいものも何もない

ただただ流されていくだけの人生に何の価値があるのか

そんな自分が、本気で夢を追うウマ娘達と一緒に立つなんて烏滸がましい

恥ずべき行為だと、そう思っていた

でも...

 

 

 

「...はは」

 

 

 

...でもきっと違ったんだ

確かに僕には夢や希望はない

特別な宿命や運命なんて何もないし、周囲に流されて歩んできたこれまでの人生はお世辞にも立派なものなんかではないだろう

だけど

 

 

(「すごいわね■■!あなたはわたし達の大切な息子よ!!」)

 

 

それでも...そうだ例え引かれたレールの上を生きるような人生であっても、どんなに下らなくて凡庸で、つまらない人生であっても

きっとそれが無意味なんてことはないし、無価値なんてこともないんだ

少なくとも、それをそこまで歩いてきた僕自身にとっては

なぜなら

 

 

(「流石だ■■!お前ならきっとなれるよ、オレなんかでは到底叶わない、歴史を作るウマ娘と共に歩む、そんな一流のトレーナーに!!」)

 

 

そう...なぜならそれでも僕は今生きているから

例え人から見て無意味でも、無価値でも、それでもそれは僕の人生なんだ

だからこそ、世界中で僕は...僕だけは知っているんだ

その苦悩がどれほど深いものだったのかを、その痛みがどれほど苛烈なものだったのかを

 

だからこそ、胸を張るべきなんだ

自分が今ここに立っていることを

誰に遠慮することなどない

何故なら人がどう言おうと、自分は自分なのだ

であれば自分が知っていれば良いのだ、いかに自分が頑張ってきたかなんて

誰も知らなくても、それでもそれは間違いなく自分が人生で成し遂げた功績そのものなのだと

それで良いんだと

 

それに気づいた瞬間に頬から大粒の涙が流れ始める

だけど僕はこれ程までに清々しい気分になったことなんてなかったから

 

 

 

 

 

「...あっはははははははっ!!」

 

 

 

 

 

 

笑う

笑い続ける

 

込み上げてくる衝動をそのままに解放する

青々と生い茂るターフの芝はどこまでも広がり、そんな緑の絨毯一杯に僕の笑い声が響き渡る

 

人生で今日程笑った日なんてない

そう確信する程に笑う僕に、スカーレットさんは一瞬ドン引きし、そしてすぐに自分のことを笑われたのだと誤解して怒り出す

だけど

 

「!?な、なによ!!何も笑うことなんて...」

 

だけど...あぁ、だけど違うのだ

 

「はははっ...いや、申し訳ないスカーレットさん。別にキミのことを笑ったわけではないんだ。誤解させてしまったのなら悪かった」

 

「は、はあっ?」

 

一転して怪訝そうな顔をするスカーレットさん

だけど、本当に彼女の思っていることは誤解なのだ

何故なら僕は彼女のことを笑ってなどいないから。むしろ心の底から彼女に感謝しているから

 

ウダウダとつまらないことで悩み続けていたボンクラの頭をぶっ叩いて目を覚まさせてくれた少女に

きっと次の時代を照らす太陽になるはずの少女の救世の神業、それに先んじて救われた者として、僕は彼女に敬意さえ抱いてさえいて...

 

「...うん、そうか。そうだよね。それなら、僕も...」

 

ではそんな僕がすべきことはなんだろうか

迷える子羊が、自身を救ってくれた救世主に対してすることはなんだろうか

そんなもの、聖書を引くまでもない

であれば

 

「...アンタ、何を一人でごちゃごちゃと...」

 

頬を伝う涙を拭う

溢れる涙は後から後から込み上げてくるけれど、それでもある程度、なんとか視界がぼやけずに済む程度までには涙を拭う

そして僕は姿勢を正す

何故ならここからが本当の勝負

一世一代の僕の人生をかけた勝負だから

だから僕は普段なら張らない大声を、自分を鼓舞するという意味でも張り上げる

 

「ダイワスカーレット!!」

 

「!!」

 

ビリビリと周囲に響く残響に、声を出した本人である僕でさえも驚いてしまう。

とは言えだ、そんな僕よりも更に驚いているであろう彼女に、それでも僕は精一杯の思いを告げる

 

そうだ、もう決めたんだ

僕はこの人生を彼女に捧げると

僕を救ってくれた幼い救世主に、せめてもの恩返しをしたいと

まだ歩き出すことすら出来ていない彼女の旅路を、それでも支えたい、その夢が叶うのを少しでも手伝いたいと

心の底からそう思ったから

 

決意を胸に僕は告げる

これまで夢なんてなかった

希望なんてなかった

祈りなんてなかった

だけど今この瞬間僕にはようやく夢が出来た

自分の人生を捧げるに足る夢が、生命をかけてでも成し遂げたい望みが、今僕の手の中にあるから

 

だったら僕はそれを全力で掴みに行く

もう遠慮なんてしない

きっとそれが、僕の生まれた意味に違いないんだ

だから

 

――かくして今この瞬間から歴史が始まる。史上初の無敗トリプルティアラ、そんな驚天動地の偉業を始めとした数々の栄光を掴み取り、立ちふさがるすべてのウマ娘をことごとく殲滅した"鮮血の女王"

そして常にその傍らに立ち、そんな彼女を支え続けた一人のトレーナー

そんな二人の、二人だけの物語が今幕を開ける

 

 

 

「僕を...僕を...!

君の!トレーナーにしてくれないか!?」

 

 

 

――そして故に観客達は望むのだ

そんな二人だけの物語の幕引きは、主人公たる二人の手で引かれるべきだと

どちらか一人ではない

二人の合わさった手で引かれなければならないと

観客達は切に祈る

どうか舞台に上がる二人へ祝福のあらんことをと

だからこそ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『...――いい加減目を覚ましたらどうかね?』

 

そんな声に目を開けた僕の前にいたのは、知らない天井と想定外の事態に大騒ぎする医者と看護師

そして随分と久しぶりに会う気がするウマ娘で...

 

「やぁ。起きて早々で悪いが、君には二つの選択肢をあげよう

一つはこのままここで死ぬこと。私の見立ててでは恐らく君の命はあと一週間と持たない。どうせ体だってまともに動かないのだろう?

だからこのままここにいれば君は順当に死ぬことになるだろうねぇ」

 

だが、と懐から青い薬が入った注射器を取り出しながらタキオンは続ける

 

「もし君がそれでも今あの子に会いたいと願うのなら

君にとっては生涯最後の自身の愛バの晴れ舞台を、それでも直接君自身の目で見たいと願うのならば

君にはもう一つだけ選択肢がある

一週間と待たず君は死ぬことになるが、それでも私には君をあの子のところへと送る手段がある

残りの君の命の時間のすべてを貰う代わりに、君に最後の勤めを果たさせてやることができるんだ」

 

そう言ってタキオンは、ベッドの上に横たわる僕にしっかりと視線を合わせて聞いた

 

 

 

「だから...さぁ、選びたまえよ

自身の命か、あの子の最後のレースか

遠慮はいらない!好きな方を選ぶと良いさ!!」

 

 

 

 






と言うわけで、とある青年の過去編はこれで終了です。
いかがでしたでしょうか?

前作でもそうでしたが、ウマ娘という作品群のキャラクターは完成度が高すぎて、そんな彼女達の隣に立つキャラクターを作るというのは本当に大変ですね。
今回の彼に関しても最後まで悩みました。

さて、そんなわけでいよいよ次回から舞台は現代に戻ってきます。
物語もすでに佳境
果たして天皇賞を制するのは誰か
ダスカが至る結末はどのようなものになるのか

第6部もあと少し!
どうぞ最後までお付き合いいただけると幸いです!!



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