ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
???「行っちゃったね」
???「あぁ。後は間に合うのを祈るだけだねぇ」
???「全く無責任な…お前ぇはもう少しロジカルな奴だと思ってたんだが?」
???「おや?私は常に理性的だよ?
そもそも、私が何もしなくても君達は最後まであがくつもりだったんだろう?
ねぇ、お姫様?」
???「あはは…」
???「チッ…最初から掌の上ってわけかよ」
???「ふふふ…
まぁとは言え君達が来てくれたおかげで彼はスムーズに病院を出れて、おまけに私も両手が後ろに回らずに済んだ。
終わり良ければ、と言うやつだよ」
???「…なぁ、やっぱりコイツ今からでも逮捕できねぇか?
生かしといてもろくなことしねぇぞコイツ?」
???「まぁまぁ…
彼女がいなかったら、私達だけじゃどうにもならなかったんだから、ね?」
???「…チッ
まぁ何はともあれ、俺達に出来るのはここまで。後は…」
???「あぁ…。後は彼にすべてが掛っている
限られた時間の中でどこまで彼があがけるのか、それが全てを決めると言えよう」
???「…それでも、私は信じてる
きっと間に合うって
きっとあの子に会えるって
だから三女神様、どうか二人のことを…」
とあるウマ娘side
――それは一方的な虐殺の光景だった
「くっ!?」
バカな...
そんな思考で埋め尽くされる頭で、しかし必死に足を回す
限界まで踏み倒した自身の中のアクセルを、床を踏み抜く勢いで更に踏み込む
鍛えに鍛えた豪脚をもってして、なんとか現状を打破しようと必死にもがく
だけどムダだ
どれだけ走っても目の前の光景は変わらない。どれだけ走っても遥か彼方を走るあのウマ娘の影すら踏むことが出来なくて...
(そんな...バカな!?)
再度思考が同じところに戻ってくる
空転するそれと同じく、必死の努力はそれでも形をなさない
だからこそ今まで必死に目を逸らしていた絶望が、じわじわと心の中に忍び寄ってくる
踏み出す足に、諦観という鎖の重みが絡み付き始める
だけどそうなるのも仕方がないことではあるのだ
そもそもだ、何千人もいる同世代のウマ娘の中でも、メイクデビューを果たすことが出来るウマ娘はその中の大体3人に1人
そこから更に、レースの格付けの中でも一番グレードが低いオープンクラスまで昇格できるウマ娘でさえその3%
そしてこれは当然グレードが上がる度に割合が落ちていき、最高ランクのG1ともなれば勝利できるのは全体で見ても1%を割る
それほどまでにレースの世界は厳しい世界なのだ
そして今ここにいるのは、全員まさにその小数点の下を潜り抜けてきたウマ娘達のみ
さながら蠱毒のような同胞同士の潰し合いを生き抜いてきた、そんな厳選に厳選を重ねた歴戦の豪傑ばかりなのだ
だと言うのに...!!
『最終コーナー!
最高の舞台が揃っています!最高のメンバーが揃っています!後は直線!!この緑のターフにそれぞれどのような絵を思い描くのか!』
実況の声が高らかに響く
だけど走っている私達はぶっちゃけた話それどころではない
それは何故か
前を行くダイワスカーレット、彼女が圧倒的過ぎて誰一人として彼女に付いていくことが出来ていないからだ
「...くそっ!くそっ!くっそぉぉおぉぉっ!!」
思わずそんな声が出てしまう
だけど誰もそんなことを気にしない
どころか既に心が折れかけている子すら出ている
何故ならさっきも言ったが、今ここに集まっているのはこの国の中でもトップクラスの実力者ばかり
一人一人が並みのウマ娘なら束になっても敵わないような正真正銘の化け物ばかり
それなのに、そのはずなのに...
(なんでだ!どうして追い付けないんだ!!)
もう後に残すは最終直線のみ
だからこそ、全員が本気を出す
そしてその中には当然、これまで足を貯めてきた差しウマ娘や追い込みウマ娘なんかもいる。故にこそ最後の先頭争いは熾烈を極めるものなのだ
それなのに、未だに誰も追い付けない。もうスパートを掛けているにも関わらず、誰一人として彼女との距離を縮めることができない。この時代における最高峰のウマ娘が10人以上、なりふり構わず本気でその力を解放しているのに、先頭を走るウマ娘と私達の距離は縮まらない
2番手からゆうに10バ身はあるその絶望的な距離は、恐ろしいことにこの期に及んで更に開こうとしていて...
(これが...ダイワスカーレット!
これが..."鮮血の女王"と呼ばれたウマ娘の走りか!!)
二つ名に恥じないあまりの強さに目眩がする
本音を言うならば、今すぐにレースなんて投げ出してしまいたい
それでも
(それでも...私は負けられない、負けてなんかやるもんか!!)
だって私にも走る理由があるから
背負った思いがあるから
叶えたい夢があるから
だから私は歯を食い縛る
恐怖で震える足に力を入れ、動揺で乱れそうになる呼吸を強引に意思の力で整える
「絶対に!諦めないんだからぁぁあっ!!」
そう自信に気合いを入れた私は、改めて足を回す
絶望的なレースに、それでも最後まで抗い続ける...
ウオッカside
(アイツまた成長しやがったな...)
相変わらず恐ろしい奴...
それが長年追い求めてきたライバルの走りに抱いた感想だった
レースはすでに最終局面
差しウマ娘である自分にとっては、ここからが本当の勝負であり、それがアイツとの決着をつける最後の機会だ
そう思うと何だか感慨深い
何度も何度もぶつかってきて、だけどそれでも一度も勝てなくて...
そんな自分が思えばこんな遠くまで来たものだと、真剣勝負のレース中にも関わらず、一瞬だけオレはそんな想いに囚われる
だから思い出すのはこのレースの直前の光景
目蓋の裏に浮かぶのは、生涯をかけてオレが追い求めてきた最高にして最強のライバルの姿で...
.............
.........
...
閉じていた目を開くと目の前にはアイツがいて...
(「...ハッ、どうやら逃げなかったようだなスカーレット」)
まるでお伽噺話の魔王のような、尋常ではない威圧感を周囲にばらまくスカーレットは、そんなオレの挑発に対して一切動じない
その表情は以前会った時に比べて憑き物が落ちたかのような晴れやかなもので
(「冗談
そっちこそハンカチの用意はできてるのかしら?負けて泣いてもアタシは貸さないわよ?」)
(「抜かしやがる」)
そんないつもの軽口を叩いたオレは、自身の口角が上がっているのに気付く
そしてそれは目の前のスカーレットも同じこと
だから俺達は互いに獰猛な笑みを浮かべて微笑み合う
そしてその様子を外野のウマ娘達が静かにうかがっている
恐慌を通り越し、既に暴動かパニック一歩手前に陥っている観客席の惨状を尻目に、それでも俺達がいるターフは静かなものだ
それは勿論ここに集まっているのがまごうことなき一流のウマ娘であり、この程度で動じるような面子ではないから...ではない
単にどいつもこいつもビビってるのだ
久しぶりにターフに立つコイツの覇気に
みんなで楽しく竹刀でぺちぺち打ち合っているような集まりの中に、一人だけ血で血を洗う幕末の動乱を刀一本で切り抜けた本物の侍を放り込んだかのような、そんな他を圧倒する強烈な存在感と格の違いに...ウマ娘としての次元が違うと、どいつもこいつも喋れなくなっているだけなのだ
だが...
(「...言っとくが、今日のオレをいつものオレだとは思わない方が良いぜ?」)
あの時オレとスカーレットの二人の間だけはいつもの空気が流れていて...
(「お前との決着を付ける
その為に欧州の伏魔殿から戻ってきたんだ
だから...」)
(「えぇ。アンタのことを軽んじたことなんて一度もないし、ましてやアンタが向こうで成し遂げた偉業を考えれば、その言葉が嘘じゃないことだって分かる
間違いなく今日のレースは、正真正銘アタシの生涯で最もキツいレースになるでしょうね
...だけど」)
(「!」)
その一瞬、アイツの周囲がまるで地獄の炎のような凄まじい熱に包まれたような気がして
(「勝つのは...アタシよ」)
そう言って長いツインテールを翻して去っていた奴の横顔は、同じ女であるオレから見ても、背筋がゾクゾクするほどに綺麗で...
その凍てついた双眸の奥には、それでもこの世のすべてを焼き尽くすかのような乱れ狂う業火が燃え盛っていたから...
.............
.........
...
(...上等じゃねぇか!!)
そう内心で笑うと共に、自身の中のギアを最大限にまで上げる
残るは最終直線、まさにその段階で、遂にオレはこれまで貯めに貯めた自身の中の力を解放する
『あ!ウ、ウオッカ選手です!14番ウオッカ選手が一人、たった一人バ群の中を駆け上がっていきます!!』
「オラァァァアアアァァァァアッ!!」
力の限りの咆哮と共にオレは前へと飛び出す
周囲のすっかりアイツの走りに怖じ気づいちまった奴らなんて眼中にない
オレが目指すのはただ一人!
今オレがいる集団のはるか先を行く一人のウマ娘
たった一人、先頭で最強を気取っている高慢ちきでクソ生意気な大バカウマ娘...その背中を追い続けた終生のライバルだけだ!!
『す、凄い...
5バ身4バ身3バ身...まるでなにかの魔法のようにスカーレット選手との距離が縮まっていきます!
これまで誰にも影すら踏ませなかった絶対女王に喰らいついていきます!
これが...これが日本史上初の凱旋門賞ウマ娘の実力なのでしょうか!?』
だからこそ遠慮なんてしない!
渾身の叫びと共に、稲妻のごとくターフを駆け上がる
まわりのウマ娘達などてんで話にならない
全員まとめて吹き飛ばしながら進撃するオレの身体は、気が付くとバ群を突き抜けていて...
例えここで死んでも後悔しない!!
周りに誰もいない無人のターフをオレはただひた走る
限界を越えて極限を越えて、スピードの彼方、速さの向こう側へと必死に手を伸ばす
もっと、もっとだ!もっと速さを!!
オレに自身の限界を超える速さを!
すべてを超越する速さを!
そしてなにより...
――アイツに勝つ為の速さを!!
そうして進み続けるオレの走りは、いつの間にか既にアイツを射程範囲に捕らえていて...
「っ!?」
驚愕に目を見開くアイツと目があって...
「つか、まえたァァアアァァッ!!」
それに気付いた瞬間にオレは更に加速する
ようやく見えたアイツの背中、それに向かって死に物狂いで手を伸ばす
血反吐を吐いてでも追い付いて見せると、身体がぶっ壊れるほどの速さでその背を追う
そしてそんなオレを寄せ付けまいとアイツもまた加速する
それはまさに流れ星のよう。艶めく栗毛のツインテールをたなびかせながら走り抜けていくその姿は、瞬く間にオレから遠退いていく
それでも
(これが、オレの生きざま!)
関係ない!
崩れ落ちそうになる身体を無理矢理進め、破裂しそうな心臓をさらに自壊させる勢いで動かす!
無理無茶無謀?クソ喰らえだ!!
自身に迫る逃れられない破滅を、しかし気合いと根性だけでねじ伏せて俺は走る
なぜなら...なぜなら!!
(これが、オレの目指したカッコ良さなんだ!!)
視界が不意に暗くなる
頭だってガンガンするし、耳も遠くなってきた
体の感覚なんてとっくに消えてる
それでも走る
足を止めることなんてない
だってオレは覚えているから!
あの選抜レースでのお前の走りを!
あと一歩、ほんのあと一歩先を駆け抜けていったお前の走りを!!
そしてそのレースの後のことだって!
(だから...なぁ、スカーレット!!)
思い出すのは屈辱の記憶
オレを見向きもせずに去っていったお前の背中
それを見送ることしかできなかったあの日の悔しさ
あれがあったからこそオレはここまで来れた
そしてあれがある限りオレはこれ以上先へ行けない
だからオレは叫ぶ
届けと
今度こそアイツを振り向かせるために!
アイツの目にしかと刻み付けるために!
そしてなによりオレがオレであるために!!
だからこそ!!
「潰せるもんなら潰してみやがれぇっ!!
ダイワスカーレットォォォオオオォォォッッ!!」
叫びと共にオレは更に一歩踏み込む
限界の果て、更にその先へと踏み込む
そして...
『な、なんと言うことでしょう...
我々は今とんでもないものを見せつけられています!』
オレの走りは...
アイツに勝ちたい、そう願いもがき続けたその走りは...
『ゴールまであと300m!あのダイワスカーレット選手が...今までのすべての公式レースにおいて一度も誰にも並ばれることすらなかった彼女が今...』
いつか必ず追い付く...追い越して見せると誓ったあの日の誓いは...
『初めて...初めて抜かされましたっ!!』
この日、遂にアイツを捕らえたのだった
次回、天皇賞(秋)決着