ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
例えば、人は空を飛べるだろうか?
答えはNo
考えるまでもなく、翼を持たない私達は空を飛べない
それなら、人は海の中で生きられるだろうか
こちらもNo
エラを持たない私達は、水中での呼吸を行うことが出来ない
こんな風に、物事にはたくさんの限界がある
これは何も人間だけに限った話でもなくて、鳥には鳥の、魚には魚の、虫には虫の、それぞれの限界がある
だから、そう
私達にはどうしようもないものというものは、確かにあって...
それを前にした時多くの人々は諦める
仕方のない話ではある
だってどうしようもないのだ
それ以上どうしろと言うのだろうか
絶対の理を前にした時ほど、人が無力になる瞬間はない
だけど
「ぐっ...がはっ!ごぼっ!!」
それでも
「はぁっ...はぁっ...」
そんなどうしようもないものを前にしてもなお
「負ける...もんか...!」
それでもあがき続ける人を
「この先で...あの子が!たった一人で...頑張ってるんだ!!」
無理だってわかってて...それでもなおあがき続ける、そんな諦めの悪いおバカさんを
「だから...行かないと!こんな...ところで!!」
愛おしいと、そう思った神様のお情けを
そんな彼らに心を動かされた神様から、人が勝ち取った勇気の証を..
「...よく、頑張ったね」
「!君は...」
「さぁ、掴まって。あともう少しだから
一緒に行こう...――」
人は...――
「...――お兄ちゃん」
...――奇蹟って、呼ぶんじゃないかな?
イチバンになる
それが、これまでの人生におけるアタシの至上命題だった
.............
.........
...
~メイクデビュー前のとある休日のトレセン~
良く晴れたグラウンドにアタシの大声が響き渡る
「ハ、ハァッ!?
と、突然何言ってんよのバカじゃないの!?」
目の前で頭を下げる男に、アタシは少しの沈黙の後そう返す
だけどコイツは揺るがない。それでもなお頭を下げ続ける
その恐ろしく真摯で誠実な態度に、ある程度はお互いに知っている仲なだけに、流石にアタシもむげに扱うわけにもいかなくて...
(もう!何なのよコイツは!!)
そう内心で苛立つアタシの反応は正常だと思う
だって今までずっと死んだ魚みたいな目だった男が、急に笑い出したかと思うと、いきなり泣きながら自分をアタシのトレーナーにしてくれだなんて言い出したのだ
ハッキリ言って、気持ち悪いことこの上ないし、全然意味がわからない!ホントにもう、なんでこうなったのよと叫びたいくらいに訳が分からない!!
...だけど
(「危ないよ、スカーレットさん」)
それでも、そんなコイツの言葉を即座に切り捨てられないのは...
(「もう止めよう?それ以上は君の身体が持たない」)
なんだかんだ言っても、コイツがずっとアタシの側にいてくれたから
あの選抜レース以来、無茶な条件を出して群がるトレーナー達を追い払ったアタシを、それでもことあるごとに訪ねてくれたのはコイツだけだったから
自分の走りに絶望し、周囲の声も何もかもを全部シャットアウトして暴走するアタシのことを、赤の他人でしかないはずなのに、それでも誰よりも心配してくれた人だからで...
(「僕はただ、君に傷ついてほしくないんだ」)
「~~~~~~~~~~っ!!」
頭を振る
余計なことを考える脳を強引に黙らせる
それでも思い出すのはコイツがどれだけ本気でアタシのことを心配してくれたか
どれだけ真摯にアタシのことを考えてくれたかで...
(...だからなんだって言うのよ!?)
一瞬変な方向に流れかけた思考を修正する
その上でアタシはまた考える
...あぁ、認めよう
目の前に立つコイツは良い奴だ
それはもう今日までの付き合いで十分に分かってるし、信頼に足る人物なのは間違いない
少なくとも、アタシの夢よりも自分の手柄にしか興味のない他のトレーナー達よりは明らかにマシだろう
でもアタシにも絶対に譲れないものがある
イチバンになる、これがアタシの夢であり義務
アタシはイチバンであり続けなきゃいけないし、イチバンでなきゃイヤ
だからこそ、生半可なトレーナーと契約を結ぶ訳にはいかなくて...
「アンタだって知ってるでしょ、アタシが出した条件!
あれを守れるって誓えないのならアタシは...――!!」
だからそれをハッキリと目の前のコイツに示そうとした瞬間だった
「...――そのことなんだけどね、スカーレットさん。僕が君と契約するにあたって、その条件を少し変えて欲しいんだけど...ダメかな?」
「.........は?」
思わずアタシは唖然とする
コイツは何を言っているのだろうと
だってコイツはアタシの夢を知っているから
少なくとも、アタシがどれだけ本気でそれに向き合っているのかを知っているはずだからで...
だからコイツの惰弱な発言、イチバンを目指すアタシに、よりにもよって「君はイチバンになれない」だなんて言葉を投げたコイツに、アタシは瞬間的に言い知れない程の怒りを抱く
だけど、アタシがそれをコイツにぶつける前に放たれた言葉は...
「君の「自分が出走する全てのレースにおいて自分を勝たせること、一番にすること」って条件なんだけど...
...どうせならもっと具体的なものにしても良いかな?」
「.........え?」
アタシが予想したような、条件を緩和しろだなんて種類の聞き飽きた文句じゃなくて...
いや、それどころか...
「君が出した条件って、要するに一度も負けたくないってことだよね?
でもそれはトウィンクルシリーズを3年間走りきるための目標としてはちょっと曖昧過ぎると思うんだ。
だから、それを前提とした上でもっと具体的な偉業の名前を考えた方が良い」
むしろ具体的なレースの名前が一切なかった従来のそれの改良版
しかも、こともあろうにその内容は...
「取り上えずトリプルティアラは当然として...パッと思い付くのは春シニア三冠に秋シニア三冠、それに伴う天皇賞春秋連覇ってところかな?マイラーとしての素質も十分にあるから2大マイルを追加するのも悪くないけど...まずはトリプルティアラを優先と考えると、惜しいけど日程的に優先度は下がるかな。無論やってやれないことはないだろうけどね
あとは何だろう...短距離やダートはあんまり適正がなさそうだけど...いや案外ダートはいけるかな?それだったらシニアのフェブラリーSを踏み台にして...――」
「ちょ、ちょっと待って!」
思わず目の前のコイツの思考に待ったをかけたアタシは悪くない
だって...だって
「...え、え?何?確かにアタシは自分の出る全てのレースでアタシを勝たせろとは言ったけど...」
「うん、そうだよ?だから...
取り敢えず暫定だけど、君を無敗のトリプルティアラ兼春秋シニア三冠にすること
これを君のトレーナーになる条件に変えても良いかな?」
あ、勿論天皇賞春秋連覇もね?当然無敗でと事も無げに補足する目の前のコイツの言葉に、アタシは思わず絶句する。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ
だってコイツが言っていることは困難なんてレベルのことではない。とっくにそんな段階なんて通りすぎているし、あまりにも無謀すぎて逆に笑いが出る、そんなレベルの驚天動地の大偉業だからだ
そもそも最初のトリプルティアラからして、初代トリプルティアラのウマ娘から20年近く後継者が現れなかった程の偉業である。ましてかのクラシック三冠と違い、こちらにはまだ無敗でトリプルティアラを取ったウマ娘は歴史上一人もいない
そして、そんな間違いなくそれだけでも歴史に名前が残る偉業を成し遂げた上で、更に同レベルか...いや無敗を維持することを考えるとむしろ遥かに高いレベルの偉業に挑むのだ
正気の沙汰ではない
それはもはや人間を超えたウマ娘ですら超えた神仏の所業...何も知らない子供でも、もう少し控えめなことを言うだろうという、そういうレベルの夢物語とか神話とかの類いの話なのだ
だからこそ
「ア、アンタ...正気なの...?」
まず何よりも混乱が来る
本気でこんなバカなことが実現可能と思っているのかと、そう聞いたアタシのもとに返ってきたアイツの返事には...
「逆に聞くよ?
できないの?
」
「んなっ!?」
珍しく挑発的なその言葉に流石にアタシもそんな声が出る
それでも、コイツの言葉にはアタシならそれが出来るという強い確信が込められていて...
「僕は知っているよ。
君がどれだけ自分の夢を叶えるために必死で頑張っているのか
周囲の人達から何度止められても、それでも自分が叶えたいと願ったものの為に、君がどれほどの心血を注いでいるのか...
短い間ではあるけど、十分に見せてもらったよ」
その上で言うんだ、と続けられた言葉はこっちが恥ずかしくなるくらいに真面目で誠実で...
「君ならできる
勿論僕だって努力すれば必ず夢は叶うだなんて思わない。だけどどんなに辛くても、苦しくても...それこそ絶対安静の身体を無理に引き摺ってでもトレーニングをしようとする君の姿を見て思ったんだ
君は自分の夢を叶えられる。七難八苦の果てに、それでも君は自分の願った未来を手に入れられる。そう僕は確信したんだ」
そしてだからこそ、とコイツはアタシの目をまっすぐに見て言うのだ
「見てみたいと思ったんだ
そんな君が一体どこまでいけるのか
信じたいと思ったんだ
そんな君の夢を、祈りを
そして、何より支えたいと思ったんだ
そんな君がまっすぐに前だけを向いて歩めるように
本当の意味で世界でイチバンのウマ娘になれるように
...有り体に言ってスカーレットさん、君の生き様に惚れたんだ
だから...」
そんなこっ恥ずかしいことを、アタシの目を見て堂々と言うコイツは、そして言葉を締めくくる
「僕に、君の隣を歩かせてくれないかな?」
...........
.........
...
『さぁ、レースは遂に終盤!このままウオッカ選手が押しきってしまうのか!?』
ワアアアァァァァアアアァァァァァァッッ!!
割れるような観客席からの歓声で我に帰る
そう、ここはトレセン学園でも何でもない。ここは東京競バ場で今はレースの真っ最中
真剣勝負のまさにその真っ只中である
だからこそ思うのは...
(...なんで今、こんなこと思い出すんだろう...)
加速する世界の中で、柄にもなくアタシはそんな呑気で間延びした思考に浸る
とは言えそれで時間が止まる訳でもない
アタシを取り巻く状況はそのまま動き続けて...
『ウオッカ選手強い!強い!!
少しずつ、少しずつですがダイワスカーレット選手との距離を引き離そうとしています!!』
そんな実況の声にふと前を見ると、見慣れた奴の見慣れない背中がある
アタシの前を走るアイツのその背中は、前にも見た事があるはずなのにどこか現実味がない
(あぁ、抜かれたんだな)
なんて思考がぼんやりと頭に浮かぶ
そして聞こえるのは...
「頑張れぇぇっっ!ウオッカぁっ!!」
「行っけぇええっ!そのまま押し切れぇぇっ!」
「もうアイツを倒せるのはお前だけだウオッカ!
頼む!ダイワスカーレットの時代を!"鮮血の女王"の時代を終わらせてくれぇっ!!」
そんな自分勝手な無茶苦茶な歓声
アイツを応援する...ううん、そんな建前を被ったアタシへの糾弾
いい加減に負けろ、お前なんてもう見たくもない
そんな悪意と憎悪に満ち溢れた呪いの言葉だ
だけど...
(コイツになら...良いかな?)
ふとそんな考えが頭をよぎる
それは普段なら絶対に考えないこと
絶対に認められないこと
でも...
(ウオッカ...)
目の前で必死に走るコイツを見ていると考えてしまうのだ
思えばそう...コイツは、コイツだけは最初から最後までアタシのことだけを見ていた
トゥインクルシリーズに出て向かうところ敵なし
立ち塞がる相手を何も考えずにひたすらに打ち倒していく中で、少しずつ、少しずつアタシは疎まれるようになった
一人二人とアタシの周りにいた人達が離れていく。もうお前とは走りたくない、そう言って少しずつ、少しずつ...
そんな中でただ一人残ったのはコイツだけだった
『あっと!だがダイワスカーレット選手も負けていない!!すかさずウオッカ選手を差し返す!!
やはり"鮮血の女王"の称号は伊達ではないのか!?』
オレはお前のライバルだ
そう言って憚らなかったコイツを、アタシは何度も何度もレースでボコボコにした
だって怖かったから
あの選抜レースの時のことをアタシは忘れてなんかいないから
コイツは...コイツだけはアタシを倒せるかもしれない。そしてもしそうなった時、アタシは自分の夢を失ってしまう。そんなのイヤだ
そう思ったからこそ、アタシはコイツに対しては一切手を抜かなかった
勿論普通のレースでだって手を抜いたことはないけど、コイツと走る時はいつもそれ以上に全力だった
それでもコイツは諦めなかった
何度も何度も何度も...数えきれない程にぶつかり、そしてその度に打ち負かされても、それでもコイツは絶対に諦めなかった
世間がどう言おうと関係ないとばかりに何度でも、何度でも立ち向かって来たコイツは、日本ダービーを取り、凱旋門賞を取り、遂に今ここに至ってアタシに追い付いた
いや、それどころか...
「...負け、ねぇ!
.........負けて、たまるかぁぁぁああぁぁっ!!」
『なんとウオッカ選手、再びダイワスカーレット選手を差し返しました!
これは流石にダイワスカーレット選手も厳しい!!このままウオッカ選手が決めてしまうのか!?』
雄叫びと共にウオッカが加速する
その走りはかつて選抜レースで見たものと同じく、まるで台風のように全てを吹き飛ばすような力強い走りだ
それはアイツがその人生をかけて磨き抜いた至高の走り
アイツの生き様そのもの
だからこそ、その荒々しい走りはそれでもとても綺麗でキラキラとしていて...
(だったら...良いかな?)
コイツになら負けても悔いはない
きっとアタシはコイツの勝利を心から祝福できる
それにその方が絵になるじゃないか
追い求め、焦がれ続けたライバルとの死闘を制したウオッカにアタシが言うのだ。次は負けないと。そしてそれを受けたウオッカが笑顔でアタシに手を差し伸べて言うのだ。おう、いつでも待ってるぜと
それが一番綺麗な終わり方だし、アタシとアイツならきっとそうなる
そして、それで多分全部が丸く収まる
誰も傷つかない最高のハッピーエンド、それがきっとそうなんだ
だから...
再び遠退いていくアイツの背中を見ながら、アタシは少しだけ思う
そんな終わりも、結末も...悪くはないのかなと...
少しだけ...ほんの少しだけアタシは考えて...
...だけど
(...そうね)
――それでも
アタシは改めて目の前を見据える
(...確かに、確かにそんな結末も悪くない
だけど)
――それでも、アタシは決めたんだ
そして一瞬だけ大きく息を入れる
新鮮な空気を得た身体に少しだけ活力が戻る
(...悪いわね、ウオッカ)
――イチバンのウマ娘になるって
もう、自分の進む道を見失わないって
だからアタシは静かに一歩を踏み出す
そっとターフの上に乗せるように置かれたアタシの足は、ポスッという軽い音を立てる
その時、目の前を走るアイツが振り向いた
一体アイツがどうしてそんなことをしたのかは分からない。だけど、思わずと言ったような様子を見るに、恐らくそれは反射に近いものだろう。
そして目があったウオッカの顔に浮かんだのは純粋な驚きの表情で...
「お前...」
何か言いかけたウオッカに、アタシはニヤリと微笑み無言でそれを制す
それは一瞬の交差
瞬きにも満たない程の刹那のやり取り
だけどアタシ達にはそれで十分で...
「...バカ野郎が」
そう言って悔しそうに、だけどどこか嬉しそうに...そして微かに悲しそうに微笑むアイツから目線を切る
そして
「.........まだ、だぁぁぁああぁぁっっ!!」
刹那、ターフに落ちたアタシの影が消えた
『そ、そんな!またです!またダイワスカーレット選手が加速しています!!
こ、こんな土壇場で更に加速しています!信じられません!!』
そんな慌てたような実況と、どよめく観客席を尻目にアタシは走る
限界の先の先...そしてその更に先へと足を踏み入れたアタシは、自分でも驚く程の早さで目の前のターフを踏破する
――その一歩で風に追い付き
――続く一歩が音を追い越す
――そしてその次の一歩は光になる
それ以上進むな!それ以上進んではいけない!!
そんな風に走るアタシの体を押し返そうとする世界を、それでも力尽くで捩じ伏せる。理由の分からない既視感を、自身に繋がれた重い因果の鎖を...いつかどこかで定められた確実な敗北の運命を、アタシはそれでも引きちぎる
過ぎ行く今日のその先へと、広がる明日のその先へとアタシは走り抜ける
だって
(約束したんだ!)
必ずイチバンのウマ娘になるって!
(二人で必ずイチバンになるって!!)
だからアタシはもう迷わない!
誰になんて言われようと関係ない!
アタシは最後まで自分の道を貫く!!イチバンであり続ける!!
それに何より...
「アタシは...!!」
何より...!!
その時だった
「走れぇぇぇぇっっ!!スカーレットォォォォッッ!!」
・・・・・・
ダイワスカーレットのトレーナーside
恥も外聞もなく僕は叫んだ
だってそれが僕に出来る唯一のことだったから
トレーナーとして最後にあの子にしてあげられることだったから
だけど...
「...っ!」
不意に体がよろめく
隣にいたカレンが慌てて支えてくれたけど、もう時間がないのは明らかだ
タキオンさんが僕に打ってくれた、身体に残った全ての生命力を使い切る代わりに、その間だけは健康だった時とまったく同じように動けるようになる薬の効果は短い
だからこそ、ここまで来るのにたくさんの人達の力を借りたけど、それでももう限界が近いのは目に見えてる
それでも
「君は...ダイワスカーレット、ダイワスカーレットなんだろぉっ!?」
ふらつく身体に鞭を打って僕はなんとかもう一度立ち上がる
無理はしないでと、泣きながら僕を支えてくれているカレンに、だけど大丈夫だと無理に微笑み僕は再び叫ぶ
なぜならそれが僕の役目だから
ダイワスカーレットというウマ娘を担当するトレーナーとしての最後の使命だから
「だったら走れ!走ってくれぇぇっ!!」
文字通り血を吐きながら僕は叫ぶ
お陰で一張羅のスーツは血まみれだし、隣で僕と同じように大粒の涙を流しながらスカーレットを応援するカレンの制服も真っ赤だ
何も知らない人が見たら間違いなく警察沙汰だし、自分でも中々に凄いことをしている自覚はある
それでも
「君は...君は...っ!!」
僕は君のトレーナーだから
あの日、君の為にこの生涯を捧げると誓ったから
だから僕はここで自分の人生の全てを使いきる!
残りの時間の全てを今ここで燃やしきる!!
だから...だからスカーレット!
忘れないでくれ!どんなに辛いことがあっても、どんなに悲しいことがあっても、それでも君の原点を忘れないでくれ!!抱いた夢を、叶えると誓ったものを、絶対に忘れないでくれ!!
君は...
「君は.........!!
イチバンのウマ娘だろおっっ!?
」
・・・・・・
(...まったく...)
観客席の一角から聞こえてきたその声に、こんな状況にも関わらずアタシは内心呆れる
それはもちろんあの男の、自身のトレーナーのバカみたいな行動に面食らったからで...
(ホント、アンタはいつもそうよね...)
普段は大人しいくせに、一度こうと決めたら絶対に曲げない
例えどんなことをしてでも、自分が決めたことを絶対にやり遂げる
如何にも人畜無害だという顔をしながら、その実その本質はとんでもない頑固者で超が付く程の規格外の大うつけ...それがアタシのトレーナー
だからこそ、そんなアンタの突発的な行動にアタシは何度も驚かされてきて...
(バカね...ホントにバカよ、アンタ)
今だってそうだ
昏睡状態だったはずなのだ
どんなにアタシが呼び掛けても目を覚まさなくて...死ぬまで目覚めない、そのはずだったのだ
なのにこんな...こんな土壇場で、アンタって奴は...
(どんだけアタシのことが好きなのよ...)
だから不意に思い出すのはアイツと契約をした日のこと
(「...有り体に言ってスカーレットさん、君の生き様に惚れたんだ」)
そんな歯が浮くようなとんでもなく恥ずかしいセリフを真顔で言いきったアイツの顔で...
(「僕に、君の隣を歩かせてくれないかな?」)
あの日の、憎らしいほどに晴れ渡った青空だったから...
「アタシはっ!ダイワ、スカーレットだぁぁああぁっ!!」
頬を流れるキラキラと光るものをそのままに、アタシは速度を更に上げる
滲む視界で、それでも何故かさっきよりも遥かにクリアな世界の中を、アタシは全速力で駆け抜ける
もうなにも怖くない
アタシを止められるものなんて、もう何もない
だったらアタシはもう走るだけ...この命を、心を燃やして、自分の決めた道を走り抜けるだけだ!!
『やはり...やはり彼女こそが絶対の女王!』
だからアタシは走る、走り抜ける
ゴールまであと少し
距離にしてせいぜい数十mしかないそれを、しかし光よりも速く駆け抜ける
『史上稀に見る大接戦!歴史に永遠に刻まれる名勝負!!』
だから気付いた
その予兆に
随分と久しぶりに感じるあの予感に
そしてそれに気付いた瞬間に目の前に光が溢れる
世界が真っ白になる
そして――
『それを制したのは...――!!』
『...久しぶりだね、スカーレットちゃん』
...それが約半年ぶりに聞く、元親友の第一声だった
審判の時