ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
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彼女が選んだものを
彼女が見つけた道を
――それは祝福の光景だった
会場一杯に詰めかけた観客達が歓声を上げる
一人の少女の名前を何度も何度も繰り返す。
その名前は文字通り一番のウマ娘のものだった。長く険しい道のりを、それでも走り続けた気高き一人のウマ娘の名前...今日のレースで一番になり、人々の記憶と心に永遠に刻まれた一人の少女の夢の果て...
だからこそ...
「...ねぇ、トレーナー」
少女は振り返る
レース場いっぱいのその歓声に包まれ、少しの間呆けていた彼女はそう言って一つの問いを投げ掛ける
そんな彼女のまるで紅玉のように煌めく瞳は
「あのさ、アタシさ
みんなの記憶に......残れたかな?」
期待と不安に揺れている
本当に今目の前にある光景が嘘ではないのか。ひょっとしたら自分はまだ夢でも見ているのではないか
あまりの現実感の無さに、思わず彼女は傍らの自身のトレーナーにそう問いかける
これまでの日々を共に駆け抜けてきた掛け替えのない相棒、一番信頼している大切な人...そんな彼に万感の思いで問いかけた彼女は
「今までのどんなウマ娘よりも、一番のウマ娘に、なれたかなぁ......っ!?」
だから
「ああ!!」
「…………っ!」
その瞬間に堪えきれなくなったのだろう、その場に崩れ落ちると共に彼女はあっという間に泣き出す。まるで子供のようにわんわんと、溢れる感情を爆発させる
でもそれは決して悲しみの涙なんかではない。むしろそれは歓喜の涙
たくさんの暖かな歓声と祝福の声に満ち溢れたウィナーズサークルの中で涙を流す彼女は、それでも長年追い求めてきた夢の舞台の中にいることは間違いなくて...
やがて泣き終えた少女は、先ほどとは打って変わって花のような笑顔で微笑む。嬉しそうに、楽しそうに笑いながら、慌てる自身のトレーナーを、表彰台のところまで引っ張っていく。そしてそれを周囲の人々も祝福する
幸せそうな笑顔で、彼女がウィナーズサークルを離れていく...
.............
.........
...
(今のは...)
そう思った瞬間にはそれは消えていた。思わず伸ばした手も、しかしまた空を切る
だからこそ、アタシはそんな自身の空っぽの手を見つめることしかできなくて...
風が吹く
緑色の何もない草原の真ん中でアタシは立ち尽くす
そんな中でアタシはさっきの光景を思い出す
それは瞬きのような一瞬だった
ゴールへと駆け抜けたあの一瞬に、光に飲み込まれたと思ったその瞬間に、まるで走マ灯のように一瞬だけ見えた光景
それはとある少女の夢の果て
走って走って走り続けたその軌跡の先にあったのは、追い求め、焦がれ続けた祝福の景色
誰もが自身を褒め称える中で、彼女もまた輝くような微笑みを浮かべる
諦めないでよかったと、走り続けてよかったと
たどり着いた約束の場所で、だからこそ彼女は笑う
自分は今こんなにも幸せだと、そんな歓喜に満ち溢れた笑顔を彼女は浮かべる
そして、そんな見覚えのないその光景の中心で微笑むウマ娘の顔は、だけど間違いなくこの世でもっとも慣れ親しんだ自分自身のものに他ならなくて
だから...
(そっか...)
アタシは嘆息する
(あれが...アタシが欲しかったもの
あれが...アタシの望んだ未来
あれが...)
不思議と理解してしまう
あれは、もしかしたらあり得たのかもしれないアタシの未来
少しでも歯車の掛け合わせが違えば実現したかもしれない、そんなこことは異なる別の可能性の一つ
どうしてそんなものが見えてしまったのかは分からないけど...それでもあれはそういうものだったんだと納得する
そしてだからこそ、アタシは少しだけ今見た光景が羨ましい
だってあれはアタシの目指した一つの到達点だから
きっとアタシが本当に欲しかったものだから
(「みんなの記憶に残り続けるウマ娘」...か)
アタシは自覚する
それが答えなんだと。アタシが求め続けてきたものなんだと
それがアタシがこれまで追い続けてきたイチバンの、その本来の意味なんだと
心の深いところで、何かがストンとはまったような、そんなスッキリとした感じがする
だから...
(...思えばアタシの原点は寂しさ、だったのかもしれないわね)
今だからこそ思うし、多分間違ってない
仕事が忙しくて中々家に帰ってこない大好きなママとパパ
たった一人で過ごす広い子供部屋の夜は、幼いアタシにはあまりにも広すぎて...
だからアタシは一番であろうとし続けた
そうすればママもパパもアタシのことを誉めてくれたから
そうすれば二人はアタシのことを見てくれたから
それが嬉しくて...それがあの頃のアタシには必要なことだったから...
だからきっとそれが最初の理由
みんなにアタシのことを見て欲しくて、アタシのことを忘れないで欲しくて...
頑張って頑張って頑張り続ける内に、アタシはもう一番という呪縛から逃れられなくなってしまった
最初の理由をいつの間にかアタシは忘れてしまったんだ
(...あながち、ウオッカの言うことも間違ってなかったってわけね..)
そう内心苦笑いしてしまうのも当然のことだろう
何せこんな簡単なことを今の今までアタシはすっかり忘れていたのだ
アイツに大バカ呼ばわりされるのも無理はない
だけど...
(それでも、アタシはもう道を決めたから...)
アタシは目を閉じる
あり得たかもしれない未来から、可能性の残滓に背を向ける
そして...
『...久しぶりだね、スカーレットちゃん』
後ろから声がする
そしてそれはアタシのよく知っている声
かつて何度も聞いた大切だった人の声
だからアタシが振り返った先には当然その声の主がいて...
「...えぇ、久しぶりね■■ちゃん」
無限の青空とどこまでも広がる緑の草原の真ん中で、アタシはおよそ半年ぶりにかつての親友と向き合う
その姿は以前会った時とまったく変わっていなかった。と言うよりは、アタシの記憶の中にあるあの子の姿と寸分違わず同じものだ
それこそ服装から声から背丈まで何一つとして変わっていない。アタシがトレセンに入る少し前の、最後に見た幼い姿とまったく変わらない
あれからアタシ達の間に横たわることになった多大な時間による影響を一切受けていないその姿は、まるで時が止まったかのよう。ガラスの中で美しい姿を保ったままに咲き続けるプリザーブドフラワーのようだ
だからこそ、なんとなく分かってしまう。きっと目の前のこの子はアタシ達の常識の埒外にいる存在なのだと。少なくとも人間ではないのだと
でも...どうしてだろう
以前はこの子の言葉に心を折られたのに、今のアタシは特にこの子を怖いとは思わない。むしろ、今日の彼女はどこかアタシのことを心配しているように見えて...
『本当に...良いの?』
だからだろうか
唐突に彼女から出された問いの意味が、なぜかアタシにはちゃんと理解できていて...
『その先に待ってるのは地獄だよ?』
「...」
『誰もあなたを誉めてくれない。あなたのしていることを認めてくれない
それどころか蛇蝎の如く忌み嫌われて、恨まれ続けるんだよ?』
「...」
『それでも...それでも良いの?』
その言葉と共に突然パチパチと何かが焼ける音がする
振り返ると周囲一体の草原が燃えている
どこまでもどこまでも続くと思われた清涼な緑の光景が、瞬く間に燃え広がる紅蓮の炎と立ち昇る煙に飲まれて消えていく。彼方まで広がっていた楽園の如き原風景はあっという間に焼失し、周囲に残るのは触れるもの全てを焼き尽くす荒れ狂う炎の海だけだ
そしてそれだけではない
気が付くとアタシの足元は真っ赤に染まっている。でもそれは周囲で赤々と燃え盛る炎によるものではない
それは液体
強烈な鉄臭さを放つそれがアタシの足元を、いやさっきまで青々と繁っていた草原があった場所全てを埋め尽くしていて...
アタシは空を見上げる
だけどその色もまた赤い
まるで滴る血のように赤く染まる空の下で、燃え盛る業火の中、うず高く積まれた血塗られた白い骨の塔が乱立する...そんな見渡す限りの絶望の世界の真ん中でアタシ達は立ち尽くす
だけど...
「...」
それでもアタシは動じない
まるで地獄のようなそんな光景の中でも、アタシはそのまま立ち尽くす
だってアタシは知っているから
目の前に広がるこの光景を、アタシは知っているから。気が付かなかっただけで、いつもこの光景はアタシの周りにあったものだって、もう分かってるから
だからこそ
『本当に...あなたはこのまま進み続けるの?』
今なら分かる
悲しそうな顔をして、アタシに再度問いかける彼女の真意が
前回とは打って変わって害意や悪意のないその態度の理由が
『本当にあなたは今まで通り...――』
そして向こうもそれは多分分かってる
だからこそ投げ掛けられたそれは一種の最後通告。
もうこれ以上進めば戻れない、だから引き返せ。そんなアタシへの優しさに満ちた言葉で...
『――...イチバンのウマ娘で、あり続けるの?』
.............
.........
...
「...トレーナー
アタシ、アンタのこと好きよ」
アタシ達以外誰もいない病室
静まり返った夜の病室
宝塚記念の日に昏睡状態に陥り、以来一度も目覚めることなく眠り続けるトレーナーのベッドの横で、アタシはそう静かに告白した
とは言え
「...まぁ、こんなこと言ってもそもそも今のアンタには届かない。聞こえてすらないことくらい、わかってるんだけどね...」
とアタシは苦笑する
そんなアタシと目を閉じたままのトレーナーを、窓の外から差し込む月の光が照らす。白い病室を照らすそれは、逆に寝静まった病室の広さと静かさを強調している
それでも、いやだからこそそんな状況で目の前の彼への好意をアタシが口にしたのは、一つはアタシに勇気が無かったから
自分のなかなか素直になれない性格を言い訳に、結局今日に至るまでアタシはこの想いをコイツに伝えられなかったから
もちろん、告白ができなかったのは単純にそれだけが理由という訳でもない。お互いの年齢と立場に、共に走るトゥインクルシリーズのことに、何よりアタシ達を取り巻く状況...色々なものがアタシ達の周りで複雑に絡み合っていて、だからこそ今日までアタシはこうやって素直にアンタに好意を告げることが出来なかった
言い訳に聞こえるかもしれないけど、それでもアタシが自身の淡い恋心をちゃんと形に出来なかったのにはそれ相応の理由があるのだ
だけど、それでもアタシが勇気を出せなかったのは本当で...それは今だってそう
絶対にアンタが聞いていない、そんな状況を良いことにこっそりと一方的に本音を呟く今の状況は、端的に言ってひどく卑怯なもので...
(ズルい女よね、アタシも...)
そう内心ため息をつく
こういうことに限って不器用な自分がつくづく嫌になる
だけど...
「それでもトレーナー、この想いは嘘じゃない
アタシがアンタのことが好きって気持ちだけは、絶対に嘘じゃないの」
アタシは眠り続けるトレーナーの手をそっと握る
「だからね、トレーナー
明日アタシは絶対に一番になる
そこにいる誰もが認めざるを得ないほどの、そんな圧倒的なウマ娘になって見せる」
大きくて暖かな...それでも、まったく反応を返さない脱力したその手を握りしめる
カタカタと震える手で、だけど決してアタシは目の前の彼の手を離さない
だってアタシは決めたから
もう迷わないって
逃げないって
だから...だから...
「証明して見せるわ
アタシがイチバンのウマ娘だって
」
思わず漏れそうになる嗚咽を飲み込む
溢れだしそうになる恐怖を、それでも強引にねじ伏せる
だってアタシはここに、トレーナーに泣きつくために来た訳じゃないから
みっともない姿を晒すために来た訳じゃないから
だからこそ、アタシは顔を上げる
愛しい人に、自身の覚悟と決意を語る
「見せてあげるわ
アタシとアンタの作り上げてきたものを
"鮮血の女王"と、そう忌み嫌われたウマ娘の走りを、強さを
アタシ達の描いた夢の果てを
だから...」
アタシはそっと自身の顔を彼の顔に近づける
月の光に照らされた透き通るようなその横顔には、なぜか現実感というものがなくて...
まるで夢の中のような、そんな幻想的な空気が月夜の病室に漂う
そして...
...
.........
..................
「...えぇ、そうよ」
迷いなく言い切ったアタシはそのまま前へと歩き出す
目の前の彼女へと向かってアタシは歩き出す
そしてそれは当然、足元の血溜まりと散乱する骨を踏みつけて進むことであって...
「誰がなんと言おうと構わない」
ぱしゃりという音と共に身体に纏わりつく不快な赤い液体と、ぐしゃりと嫌な音を立てて潰れる白いそれの上を、しかしアタシは一切気にせず歩いていく
例えそうやって歩いていく度に...
(「...うぁぁぁああああっっっ!!」)
今までアタシが砕いてきた夢が、祈りが、願いが...
(「ごめんなさい!...ごめんなさい!!...ごめんなさい!!!トレーナーさん!!」)
同じように踏み潰してきた全てが、まるで亡霊のようにアタシに絡み付いて来ても
事実、一歩足を踏み出す度に身体に物理的に絡み付いてくる白い骨の手の重さが、少しずつ少しずつ増していっても...
それでもアタシは進み続ける。歩き続ける
「誰かの夢を砕くことになっても、誰かの背負った想いを台無しにすることになっても、すべてのウマ娘を敵に回すことになったとしても...構わない」
そんなアタシの足元から不意に火の手が上がる
まるでルビーのように紅く煌めく荘厳な炎が、アタシに纏わりつく無数の怨念を焼き尽くす
〈アアアァァァアアアァァッッ!!〉
響き渡る断末魔
塵になっていく怨霊達
だけどその炎はアタシを取り巻く悪意あるものだけではなくアタシ自身をも焼いていく
でも
「...」
熱くない
肉が焼け、骨が灰になる
だけど、熱くない
あの日、ウオッカがアタシのために流してくれた涙に比べれば、こんなもの熱くもなんともない
「...」
苦しくない
肺が焼け、呼吸ができなくなる
だけど、苦しくない
あの日、ライスさんが乗り越えた苦しみに比べれば、こんなもの苦しくもなんともない
「...」
痛くない
アタシを構成するすべての要素が急速な勢いで燃え落ちていく
アタシがアタシでなくなっていく
それでも、痛くない
あの日、あの病室で告げられた言葉の痛みに比べれば、こんなもの痛くもなんともない!
だからアタシは自身を焼く炎をこの手で払いのける
まるで蛹を脱ぎ捨て羽化する蝶のように、全てを焼き尽くす灼熱の炎のベールを自ら脱ぎ捨てる
そして...
「...だってアタシはイチバンのウマ娘だから」
そこにいたのは赤いウマ娘だった
晴れ渡る空のような群青色の勝負服はとうに燃え落ち、代わりにアタシが纏っていたのは真っ赤なドレス。名は体を表すとでも言うかのように、まるでアタシのためだけに誂えられたような、そんな真紅のドレスだ
だけど、それはただのドレスではない
腰と腕に装着された装甲に、足に付けられた脛あて。そんな部分的とは言え武装を施されたドレスでアタシが背中に背負うのは、アタシの身の丈ほどもある巨大なロングソード
それは身に纏う新しい勝負服が、他ならぬ戦装束であることをもの語っていて、同時に王冠を模したトークハットの薄暗いベールがこのドレスの持つもう一つの、そして本質的な属性を決定づけている
それは結論から言うと喪服だった
それも真っ赤な...まるで人の血を吸ったかのような鮮やかな赤色をした、人の死を悼むにはあまりにも異端過ぎる喪服
そして、それを纏う者が祈るのは、故人は故人でも自らの手で斬り殺した者の安寧
それは言わば究極の自己満足の形であり、これ以上ないほどの死者の冒涜だ
それでも
「大層な理由なんていらないし、この先に何も無かったとしても構わない」
殺した者の死を悼みながらも殺し続けるという、あまりにもおぞましく、そして罪深い矛盾の形
まさに殺戮の血にまみれながら、それでもなお進み続ける"鮮血の女王"に相応しい衣装を纏い、アタシはついに立ち尽くす彼女の隣へと歩を進める
「アタシはアタシの為にイチバンになる」
そしてそう言ったアタシにそれまで黙っていた彼女が口を開く
『...後悔、するよ?』
横に立つ彼女の表情は分からない
アタシも■■ちゃんもそれぞれ前だけを向いているからだ
だけど
『もうあなたは戻れない
誰もあなたに追い付けないし、だからこそ、誰もあなたの隣にいることはできない
本当に一人ぼっちになるんだよ?』
それが心からの忠告であること、そしてそれが本当に最後の確認であること、そのくらいは流石に分かる
だからこそ
『本当に...本当に良いの?』
「無論よ」
アタシはそれを肯定する
なぜならもう決めたから
「愚かだろうと、傲慢だろうと、罪深かろうと関係ない。アタシは自分が納得できるアタシでありたい。アタシはイチバンになりたいからイチバンであり続ける
それ以上でもなければそれ以下でもない」
そう言ってアタシは一度目を閉じ、もう一度開く
目の前に広がるのは文字通りの屍山血河
燃え盛る業火の下、赤い空と血の海がどこまでも広がる、そんな文句無しの阿鼻叫喚の地獄絵図
それはさっき一瞬見た、いつかどこかの未来のアタシの前に広がる光景とは似ても似つかない、あまりにも凄惨でおぞましい光景
たどり着きたかった場所とは真逆の光景だ
だけど
「だから、アタシはこれからもこの道を行くわ。例えそこに立ち塞がるものが何者であっても、その憎悪と怨念を一身に受けることになっても、それでもアタシはそれを全部受け止める。受け止めた上で、それを抱えた上で、アタシは走る。走り抜いて見せる」
熱風に煽られてアタシの髪がたなびく
肌を焦がすようなそれが運ぶ生臭い匂いが鼻を突く
それでもアタシは前を向く
残酷な現実が立ち塞がったとしても、それでもアタシは屈しない
だってアタシにだって叶えたいものがあるから
その為に走ってきたのだから
その為に生きてきたのだから
例え何と言われようとも、それだけは変わらない
血塗られた道のりだったとしても、それでもそれは確かに自分が積み上げたものの先にあるものだって、そうやって積み上げたものを否定することだけは誰にもできないって、二人が...ライスさんとウオッカが思い出させてくれたから...
だからアタシはこの光景を受け入れる
血にまみれたこの罪深い景色という十字架を背負い続ける
だってきっと、それが夢を叶えるということだから
自分の砕いてきた夢を、踏み潰してきた人々の思いを、そんなたくさんのものの上を、それでももがき苦しみながらでも歩き続けること
それがきっとイチバンになるということだから
故にこそ、アタシははっきりと宣言する
誰かの夢を砕いてでも自身の夢を叶えるというエゴを、誰かの思いを踏み潰してでも進むという決意を
世界に宣言する
「それがアタシの出した答えで覚悟よ」
その瞬間だった
突如として目の前に光が現れる
立ち並ぶ呪詛と怨念に満ちた骨の塔の先、灼熱の業火で焼き払われた血土の先に浮かび上がった白い清廉なその光の柱は、間違いなく以前大阪杯の時に見たそれと同じもので...
『...とんだ大悪党ね、あなた』
思わずじっとそれを見ていたアタシは、その声に我に帰る
見ると、呆れたような表情で彼女はアタシのことを見ていて
「そうね、アタシもそう思うわ
それでもアタシはこんな生き方しか出来ないし、そうでないアタシなんてアタシじゃないわ
それに何より...」
『分かったわよ。そこまで言うならもう止めない。好きにすれば良いわ』
と肩をすくめる彼女は、だけど...
『言った通りここから先は地獄よ
誰も味方なんていないし、文字通り世界の全てがあなたの敵になる
今までのあなたが歩いてきた道のりですら、まるで天国のように感じる程には残酷で過酷な運命をあなたは背負わなければならないわ
だけど』
そう言って微笑む彼女の横顔は
『...そうね、あなたなら
それでもあなたなら、もしかしたら掴めるかもしれないわね。
あなたが望むイチバンの形を。殺戮の地平の果てに、誰も見たことがない光景を、あなたなら...
スカーレットちゃんなら...』
かつて何度も目にした親友の笑顔で...
あの日別れて以来見ることのなかった...そして、もう二度と見ることができないと思っていた懐かしい微笑みで...
あぁ、だから...
「...ねぇ、■■ちゃん
あなた、もしかして...」
『さぁ、どうかしら?
あなたはあの後、私がどうなったのかを直接は知らないでしょう? 観測していないのなら、それは永遠にYESでありNOのまま。そうでしょ?』
思わず漏れたアタシの言葉に、だけど彼女は肯定も否定もしない
ともすれば、それはある意味では優しさだったのかもしれない
故に
『だから...行きなさいスカーレットちゃん。
もう振り返らないって決めたんでしょ?過去の亡霊の言葉なんかに、まともに耳を貸しちゃダメでしょ?』
「...っ!」
その言葉に背中を押されるようにアタシは歩きだす
目の前の光へと
アタシが求め続けたその先へと、アタシは歩きだす
もう振り返らない
そう決めたからこそ、その歩みに迷いはない
だから
「...それにね、スカーレットちゃん」
聞こえたその言葉と共に、彼女の気配が薄れていく
確かに今そこにいたはずなのに、その気配は確実に消えていく
だけどその代わりに別の気配が近づいてくる
それは...背を向けたアタシの背中に近づいてくるその気配は、アタシにとっては馴染み深いもう一人の気配で...
『あなたが最後に話すべき相手は、私じゃないでしょ?』
薄れゆくその声と重なるように響いてきたその声は
「...スカーレット!!」
アタシが、この世で一番愛しいと思う人のものだった
次回、第六部完結