ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
前作の『片翼の撃墜王』でもテーマソングは決めていましたが(知らなかった方は外伝集の「マヤノトップガンのワクワク☆温泉旅行!!」を参照下さい)、当然今作にもテーマソングはあります
もし良かったら聞いてみてください!
それでは第六部最終話、どうぞ
BGM
『イノチの灯し方』
霜月はるか
「スカーレット!スカーレットなんだろう!?」
その声に先立つ感想は、久しぶりに聞くそれに対する嬉しさや喜びよりも、まず驚きだった
赤い赤い空の下でアタシは立ち止まる。そしてそんなアタシのすぐ後ろに、トレーナーが立っている。そんな状況下でアタシの頭に浮かぶのはどうして、という疑問だった
だってここは明らかにこの世ではない場所だから。ウマ娘としての限界を超えた先の更に先、恐らく一握りの選ばれたウマ娘しか到達できない場所、真理の世界だからだ
だからこそ解せない。そんな場所にこの人がいることが。普通のウマ娘では絶対に来ることができない...まして一緒に走っていたはずのあのウオッカですら来れなかった場所なのだ。それなのに、ただの人間であるはずのトレーナーなんかが来れるはずがない...とそこまで考えて気が付く。気付いてしまう
自分が今の今まで誰と話していたのかということに
ここが確実にこの世ではない場所であるということに
自分が最後に見た彼の姿はしかし、本来あり得ないはずのものだったことに
頭の中で無意識の内にパズルのピースが埋まっていく
知りたくもなかった事実が、決して認めたくない事実が浮き彫りになっていく
それはつまり...
(そん...な...)
足が震える
ガチガチと歯が鳴る
ゆらりと揺らぐ視界が急速に歪んでいく
だってそれはつまり...つまり...
(そんな...!)
重くのしかかるような、耐えようのないの程の喪失感
胸を引き裂くような悲しみが込み上げてくる
嘘だと、現実を否定したくて...でもできなくて...
崩れ落ちそうになる膝を、それでも支えていられるのは奇跡に近い
だからアタシは...アタシは...!
「トレー...――!!」
思わずその理不尽に対する嘆きを叫ぼうとして...
「好きだ!スカーレット!!」
「――.........へ?」
世界が止まる
まるで頭をハンマーで力任せに殴られたかのような衝撃に、思考と感情が止まる
そして一拍置いてトレーナーの言った言葉の意味が頭の中に降りてきて...
「.........え?」
かあっと顔が赤くなるのが自分でも分かる
思いもよらない...だけどアタシにとってはあまりにも都合が良すぎる言葉に涙が出そうになる
勢いを増す胸の鼓動と溢れ出す多幸感に、さっきとは別の意味で頭がくらくらする。だけど状況はアタシにただただ浮かれるということを許さない
トレーナーの状態を察したことによる底無しの絶望感と、それでもそんな彼からの告白に感じた舞い上がりそうな程の嬉しさや喜び、そしてあまりにも突然過ぎたそれに対する困惑と混乱
頭の中を駆け巡るあまりにも膨大な情報と感情の渦に、アタシはそのままなにも言えなくなる
だけどそんなのお構い無しにトレーナーの言葉は続いていて...
「僕も君のことが好きだ!スカーレット!!」
そう言って彼が叫ぶのは、状況も文脈も何もかもを無視した愛の言葉
絵に描いたような地獄絵図のど真ん中で、混乱の真っ只中に叩き込まれたアタシを尻目に、それでもトレーナーが叫ぶのはあまりにもまっすぐなアタシへの好意で、そして...
「待ってるから!」
そんなあまりにも型破り過ぎるそれを聞いていると、何だかどっと体から力が抜けてくる。どうしてここにいるのかとか、なんでアタシの告白を知っているのかとか、そんな諸々のことも全部がどうでも良くなってくる
...だってマンガとかだったら、ここはまず、真実に気付いたアタシが狼狽えるところから始まりそうなものじゃない?そしてそんなアタシを慰めつつ、二人で事実を受け入れて、そこからそういうことをするって流れじゃないの?
それなのに、コイツはそんな不文律を完全に無視している。そんなことは知らないとでも言わんばかりに、お約束の手順やシーンを全部すっ飛ばして全力全開の告白をぶちまける。空気が読めないにも程があるんじゃないかしら?
でもだからこそ...
「君が至るイチバンの先で、僕は待ってるから!!」
そう続ける彼の言葉に籠った万感の想いが、切なる祈りが、あふれんばかりのアタシへの気持ちが、多くの言葉を用いずとも十二分に伝わってきたから
これが最後だって、アイツだってしっかり分かっていて
だからこそ、それでもアタシがちゃんと前に進めるように、一人でも歩いていけるように...
「だから、負けるな!スカーレット!!
例え離れていても、僕はずっと君を見ているから!ずっと君の側にいるから!!」
せめてアタシ達らしく
湿っぽい展開なんて似合わないって
最後までいつものアタシ達でいようって、そんなアイツの遠回しな気遣いが痛い程に伝わってきたから...
「...はぁ」
本当に...そういうところよ、とため息が出る
「当然...じゃない、トレーナー...」
普段は大人しいくせに、こうと決めたら一直線
一体どこに隠していたのかという位の恐るべき行動力で、ありとあらゆる要素を無視して突っ走る。しかもそれが全部アタシのためを想っての行動だと言うのだからたちが悪い
怒ろうにも怒れないし、普段が消極的な分その行動がどれだけ本気のものなのかが分かるからこそ対応に困る
付き合わされる身にもなって欲しいものだ
だけど
(「うわ!何よこの本の山は!!」)
(「つ、次のレースに向けたトレーニングの方法を色々調べてたら、いつの間にか...」)
(「それで倒れた本の山に埋もれて担当に助けを求めるとか、アンタバカじゃないの!?ほら掴まって!!」)
そんなアンタだからこそ
(「...トレーナー」)
(「ん?何かな?」)
(「白状しなさい。アンタ今回何徹目なの?」)
(「あはは、良いかいスカーレット?男子三日会わざれば刮目して見よって言うでしょ?
つまり、こういうのは三日目からが本番で...」)
(「はいはい、そういう寝言は寝てから言いなさいね」)
(「わっ、ちょっと!引きずらないでスカーレット!」)
(「大事なレースが近いからって、頑張りすぎなのよアンタは!!」)
いつもはどんくさくて、自信がなさげで、ナヨナヨしていて...正直全然男らしくないけれど
それでもアタシのことになると常に本気で真剣で...
(「うぅ...」)
(「良い加減、元気出しなさいよトレーナー」)
(「もう少し...もう少しで操作の感覚が掴めたんだ。だから...」)
(「もう!それを待ってたらアンタの財布の方が先に空になってたでしょ?こういうのはある程度お金を落としたら、店員さんに取って貰うのが正解なの!」)
(「だけど...」)
(「...今までやったことなかったんでしょ、クレーンゲーム?それでも一生懸命頑張ってくれたのは嬉しかったから。ね?」)
いつだってアタシのことを見てくれた
いつだってアタシの側にいてくれた
イチバンになるなんていう曖昧で抽象的で、子供の妄想みたいな夢を、だけど真っ正面から聞いてくれた
世界中の誰よりも、アタシのことを大切にしてくれた
そんなアンタだからこそアタシは...
(「約束するよ、スカーレット」)
アンタの事が...
(「君をイチバンのウマ娘にしてみせる!!」)
地獄のような光景に沈黙が満ちる
聞こえるのはあたりで炎が燃える音だけ
こうこうと輝く神聖な光の柱の前で立ちすくむアタシと、それを見つめるトレーナーは何もしゃべらない
だけど...
「...アタシを、誰だと思ってんの?」
アタシは振り返らない
だってコイツは言ってくれたから
アタシの進む先で待ってるからって
いつかもう一度会えるからって
それなら
「アタシはダイワスカーレット!イチバンのウマ娘!!
そして...」
立ち止まってる暇なんてない
迷ってる暇なんてない
だからこそアタシは今度こそ歩き出す
光の先へ
そこから繋がる絶望の未来へ
嘆きと悲しみと苦しみしかない、そんなあまりにも過酷過ぎる明日へと、アタシは一歩を踏み出す
それでもその先に望む景色があるはずだから
二人で見た夢の果てがあるはずだから
そこで待っててくれるって、アタシは信じてるから
だから...
「アンタの...愛バなんだから!!」
アタシはまばゆい光の中へと飛び込む
今生の別れだと知ってなお、それでも笑顔で
いつもの自信に満ち溢れたイチバンのウマ娘ダイワスカーレットは進んでいく
そして...
風が吹く
気が付くとアタシはターフの上に立っていた
見上げるとそこには青い青い空
この星が生まれてからこの方、変わることのない普遍的な光景がアタシの前に広がっていて...
ザアァァ...
既にレースは終わっていた
掲示板には光が灯っている
でも考えてみれば当たり前なのだ。何故ならさっきのあれはアタシがゴールに飛び込んだ瞬間に見たものだから。だからもう既にすべては終わっている
その証拠に周りには何人ものウマ娘が息を切らしながら膝をついている。彼方にある電子の板の一番上に刻まれた数字を、それぞれの感慨に満ちた表情で見つめている。
しかし観客席は静まり返っている。秋のG1戦線の先駆け、そのクライマックスを見届けたにも関わらず、観客席の人々はまるで石のように黙り込んでいる。そして悪いことに、それは間違っても良い意味の沈黙なんかではない。むしろそれは憎悪や憎しみに溢れた悪意あるもの。ともすれば、それはかつてライスさんが経験したという菊花賞や天皇賞のそれに勝るとも劣らないほどのものなのかもしれない。だけどそんな中で...
「...!!」
「.........!!」
「...!......!!」
一ヶ所だけやけに騒がしい場所がある。水を打ったかのような静寂に包まれる観客席の一角で、まるで蜂の巣でもつついたかのような騒ぎが起きている一角がある。そしてその場所は、医療スタッフと思わしき数人の人物が担架を担いで集まってきたその一角には見覚えがあって...
(「例え離れていても、僕はずっと君を見ているから!)
だけど...
(「ずっと君の側にいるから!!」)
だけど...!!
あふれ出しそうになる慟哭を、歯を食いしばって押し殺す
こぼれそうになる涙を、それでも強引に引っ込める
何故ならもう別れは済ませたから
だからアタシにはもうこれ以上泣く理由がないから
そう自分に言い訳をしながらアタシはそこから目を背けると、正面を向く
すると、目に入るのはようやくレースの結果に気付き始めた観客席の様子で...
(「あのウオッカでも敵わなかったのか...」)
(「そんな...こんな奴に、一体もう誰が勝てるって言うんだ...」)
(「ダイワスカーレット...アイツがいる限り、この国のウマ娘レースは、もう...」)
ザワザワザワザワ...
どよめく観客達の声がアタシには聞こえる
それは嘆き
それは悲しみ
それは絶望
国内出身のウマ娘の中でも、唯一アタシを倒しうるウマ娘だったウオッカの敗北は、彼らを落胆させるのには十分であり、故にその失望の直接の要因たるアタシにこそ、その悪意の矛先は向けられていて...
(我ながら...随分と嫌われたものね)
そんな多種多様な悪感情に満ちた数多の視線とささやきを受けながらアタシは苦笑する
目の前のそれは、自分が今までしてきたこと、それがどれほどのものを人々から奪ってきたのか、どれほどの想いを踏みにじってきたのか、それがよく分かる光景だったから...
(これが夢を叶えるってことなのね...)
少しだけ怖くなる
過去から現在に至るまでに、自身が築き上げてきた骸の山が
これから先も、同じようにそれを築き続けなければならないことが
それが、少しだけ怖くなる
だけど...
(それでも...)
アタシは進むって決めたから
例えどんな罪を、業を、背負うことになったとしても
それでも...
(自分の道を進むって...自分の信じたものの為に歩き続けるって...!)
もう、アタシは決めたから...!!
「うるっさぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁいっっ!!」
レース場に声が響き渡る
それはターフを震わせ、レース場いっぱいに轟き、そして青い空の彼方へと消えていく
突然のアタシの寄行に、流石に観客席のざわめきも一瞬だけ収まる。純粋な驚きに、ピタリとそこに集う人々の動きが止まる
まだターフにいた一緒に走ったウマ娘達も含めて、一体何事かとポカーンとする人々の中で、しかし一人だけ
(「...やっぱお前は底無しのバカだよ」)
ニヤニヤしながらこちらを見つめるウオッカと、一瞬だけ目が合う
ボロボロの体で、それでも自力で立ち上がりこちらを見つめるアイツの瞳には、確かに悔しさがある。勝てなかった、言葉にすればたったこれだけのことに、それでもどれだけアイツが打ちのめされているのかなんて、その姿を見れば誰だって分かる
思うところがまったくないかと言うと、きっとそんなことはないはずなのだ
それでも、その瞳はどこか晴れやかだった
世間からの度重なる悪評に曝されて、それでも決して乱暴な態度を取らなかったアタシの突然の暴発
それを見て驚く周囲の様子を尻目に、アイツだけはどこか呆れたような、ついにやったかとでも言いたげな目でアタシを見ていて...
(「だが、それで良い。それでこそお前だ
だから...」)
どこか楽しそうに、嬉しそうに...だけどやっぱりどこか寂しそうにアタシを見つめるその表情はそれでも
(「ぶちかませ!スカーレット!!」)
見たことがない程に明るい笑顔だったから...
(...余計なお世話よ)
そんなウオッカから目線を切る
訳知り顔で微笑むアイツの顔は、いつも通り見ていてとてもムカつく笑顔で...こっちの気も知らずに呑気に微笑むアイツには、後で説教が必要だなと密かに思う
だけど...
(...ありがと)
それでも、今ここにいるのはアンタのお陰でもあるから。アンタもまた、アイツと同じくいつも真っ直ぐにアタシを見てくれたから
死んでも言葉にしてやらないけど、腐れ縁のルームメイトに感謝の言葉を心の中で呟く
そして
「今ここにいるすべての人間!今これを見ているすべての人々に告げるわ!」
始まるのは一世一代の大勝負
世界を敵に回した史上最大の大立ち回り
だからこそ、アタシは高らかに叫ぶ
その始まりを力強く告げる
「そんなにもアタシが嫌いだと言うのなら!そんなにもアタシが気にくわないと言うのなら!!
だったらそれで構わない!
いくらでも恨みなさい!いくらでも憎みなさい!アタシはそれを止めない!!好きにすれば良いわ!!
...その代わり!!」
憎悪、嫌悪、忌避、恐怖等々...
様々な感情が込められた数多の視線がアタシを射抜く
視線で人が殺せるのなら、きっとアタシはボロきれのようになっているに違いない。そう錯覚するほどの膨大な熱量と数のそれが、アタシを一斉に射抜く
だけど
「アタシは勝つ!勝ち続けるわ!!
この後のジャパンカップと有マ記念だって余裕で勝ち抜くし、その先に待っているURAファイナルズだってそう!!
初代URAファイナルズ女王!悲劇のウマ娘、マヤノトップガンが切り開いた新たなウマ娘の殿堂を!多くの人々が作り上げた想いの結晶を!“鮮血の女王”の名の下に燃やし尽くす!立ち塞がるすべてのウマ娘の敗北と慟哭をもってして、決勝の舞台を悲劇の底に沈めてやるわ!!」
そんなものにアタシは負けない
そんなものなんかに屈したりしない
それでも歩き続けるって、それでも自分の信じたものを信じ続けるって、そう決めたから
だからアタシは堂々と叫び続ける
そしてそんなアタシの発言に、流石に観客席もざわつき始める
何かとんでもないことが起きようとしている、そんな予感を胸に、いつしか今日の競バ場に集まったすべての人間が、固唾を飲んでアタシの言葉の続きを待っている
だから
「それが嫌なら!そんな結末を認められないと言うのなら!!」
お望み通りアタシは世界に叫ぶ
アタシは負けない
この身が砕けるその時まで、絶対に諦めたりなんてしない
そう胸を張って叫ぶ
「アタシを倒してみなさい!アタシを走りで地につけてみなさい!!
これは宣戦布告よ!今ここにいる、今これを見ているすべての人間への...ううん、この国のすべての人間に向けての宣戦布告よ!!」
――かくして伝説は始まる
それは返り血だらけの一人のウマ娘の物語
世界を敵に回し、それでもたった一人で戦い抜いた、そんな小さな少女の物語
「まとめてかかってきなさい!
誰が相手だろうと受けてたつわ!!」
――とある者は言う
彼女は悪魔だったと
立ち塞がるすべてのウマ娘を、隔絶した強さでターフに沈めるその姿は、まさにその場を地獄に変える悪魔そのものだったと
またある者は言う
彼女は死神だったと
その数年という短い現役時代の中で、彼女の積み上げた挑戦者の骸の数は計り知れない。一体どれだけの数のウマ娘が心を折られたのか、輝く才能が失墜したのか分からないと
しかしそれでも
憎まれ恐怖され、畏れられることはあっても、それでも彼女の強さを疑う者だけはいない
その強さだけは誰もが認めざるを得なかったのだ
そしてだからこそ
「アタシが...アタシが!!」
――彼女の名前は未来永劫に残り続ける。
その強さは、その生きざまは、歴史を超えて語り続けられる
それは今は昔のお伽噺話
一人の少女が苦難と葛藤の果てにイチバンへと至る物語
"鮮血の女王"と、そう呼ばれた少女が、走り続けたその先で、恐怖と絶望をもって君臨する絶対の女王へと至る始まりの物語
そしてそれは、一人の恋する少女の物語
一人の少女が、自身の夢と大切な人との約束を胸に、走り続ける物語
「アタシが!イチバンなんだから!!」
――ただ、それだけの物語
と言うわけで第六部完結です!
お疲れ様でした!!
正直もうこれで終わりで良いだろと作者ですら言いたくなりますが、
まだやることはありますのでね
次の第七部が最終章です
とは言え、ちょっと現在作者のリアルがかなり忙しいので(省略)
…いやまぁ確かに不定期更新だとはタグにも書いてありますし、だからこそ別に予告なく遅れても誰も責めないとは思うんですけどね?
一応予防線は張っとくに越したことはないですよ。お互いのために。
と言うわけで毎度のごとく遅れるかもとは告知しておきますが、それでも確実にこの物語は完結させます。
それでは!いつになるかわかりませんが、次回の更新をお楽しみに!!