ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
お待たせしました!それでは今回から最後の更新を始めていきます
それでは最初の一話どうぞ!
「――時々、少しだけ思うんだ」
そう言って彼女はグラスを置いた
「もしもあの時、オレがアイツを止めることができていたらって
もしもあの時、オレがもう少しだけ強かったらって
...それが過去の自分と、そして何よりアイツへの侮辱だってことは勿論分かってる
実際にアイツに言ったら、多分鼻で笑われるだろうなってことも込みでな」
それでも
そこまで言って、彼女は自嘲めいた笑みを浮かべる
「それでも思うんだ。
もしもあの時、オレがアイツに勝っていたら
もう少しだけ、アイツは幸せに生きられたのかなって
もしもあの時、オレがアイツの背中を押さなかったら
その後のアイツの人生が失意と絶望に満ちたものになったとしても
それでも少なくとも、誰からも忌み嫌われ、呪われるような、そんな底無しの悪意に晒されるような日々を、アイツは送らずに済んだのかなって
もしも、もしも...」
カランッと、グラスの中の氷が音をたてる
誰もいない二人きりのバーに、再び沈黙が満ちる
長い...長い昔話の余韻を埋めるかのように、薄暗い店内に名前も知らないジャズのトランペットの音が静かに響く
そんな中で彼女はポツリと呟く
戻れない過去に
きっと今日まで、誰にも話すことのなかった本音に
それでも自らを結論を下す
まだ少しだけ中身の残ったグラスを
自身と同じ名前のお酒が入ったグラスを見つめながら彼女は呟く
「むかし...むかしの話、だな」
???side
先の豪雨がまるで嘘のように、頭上に広がる空はどこまでもどこまでも晴れ渡っていた
見上げれば無限の青
陰鬱な灰色の雨雲はすっかりどこかになりを潜め、太古の昔から変わることのない永遠の色彩が、依然としてそこにある
そんな抜けるような快晴の下を私は歩く
ぴちゃりと足元の水溜まりが跳ねる
特に何か言うこともなく歩く私の足元は、すでにさっきまで歩いていた柔らかな土の山道から、舗装された人工の石畳へと変わっている
カツカツと靴が音を立てる
別にレース用の蹄鉄付きのシューズを履いているわけじゃないけれど、それでも山道と違い固い石で作られているだけに、今歩いている場所は静かに歩いていてもある程度は音がたつ
それを聞いていると、ふと以前ここに来た時のことが思い出されて...
(...まぁ、別に私は尾行のプロって訳でもないしね)
それに最初から、別に見つかっても構わないとは思っていたのだ
だからこそ、きっと彼女が私に気付いたのはきっとこのタイミング
山道を抜けた先、霊園の固い石畳がたてた音で、彼女は私の存在に気が付いたんだろう
そんな益体もないことをぼんやりと考える
立ち並ぶ墓石の横を通りすぎていく
それと共に私の中の時間は徐々に過去へと戻っていく
あの日と同じ、彼方まで広がる気持ちの良い青空が
誰もいない霊園に漂う静かな空気が
望む望まないとに関わらず、私をあの日へと引き戻していく
まるで今この瞬間にもあの子の声が聞こえてきそうな、そんな予感さえ覚えてしまって...
(未練...ね)
そんな風に自嘲しながら私は進む
とは言え、それも仕方のないことだろう。何故なら私はずっとあの日に囚われているから
あの日、あなたと話したことを、今日までずっと覚えているから
今日までずっと考え続けていたのだから
だからこそ
「!」
私は足を止める
静寂があたりを包む
雲一つない空の下、だけどひとっこひとりいないとある霊園の片隅で私は佇む
あの日、彼女と共に向き合ったそれに、今度は私一人で向き合う
それと共に思い出すのは勿論あの日の記憶だ
あの日、あの子と交わした最後のやり取り
ついにあれ以来二度と会う事のなかったあの子との、生涯最後の会話
過ぎ去った過去への思いと、二度と戻らない日々への胸を引き裂かれるような郷愁が胸を過る
だけど
「...久しぶりだね」
私は笑う
絶対にここで泣いたりなんてしない
だってここにはあの人がいるから
立ち並ぶ無数の墓石の列、その一角にあるこのお墓の下には私と、そしてあの子にとって一番大切な人が眠っているから
だから私は微笑む
もう泣かないって決めたから
どんなに辛くても苦しくても、それでも笑ってみせるって決めたから
カワイイって
そう言ってくれたあの人の...好きな人の前でだけは、辛い表情なんて見せたくないから
だから
「元気だった?
お兄ちゃん
」
私は笑顔で、持ってきた花束を墓前に供えるのだった
ちなみに、ふと気が付いて数えてみたのですが、作者の小説の中でキャラクターがお墓参りに行くシーンはこれで多分4回目位なんですよね。
テーマがテーマなだけに仕方ないところはありますが、どれだけお墓参りさせたいんでしょうね、作者は?