ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】 作:DX鶏がらスープ
例えこの身が朽ちようと
「やぁ、スカーレット君!先のレース見ていたよ。優勝おめでとう!!」
そんな声に振り向いてみれば、
そこにいたのは白衣をまとった見慣れたウマ娘で
「タ、タキオンさん!?ありがとうございます!!」
それに気付いたアタシは、慌てて持っていたお弁当箱をその場に置くと、姿勢を正してガバッと頭を下げる。
と言うのも、目の前にいるこの人はアタシの憧れの先輩だからだ。
アグネスタキオン
アタシの前に立つ彼女は、トレセン学園屈指の実力者の一人。
超光速の粒子の名前を持つ彼女は、まさにその名前の通り、数々のレースを光の如く駆け抜け、日本中のウマ娘が憧れるクラシック三冠の一つ、皐月賞を初めとした数々の名誉を勝ち取ってきた凄腕のウマ娘だ。
そんな憧れのウマ娘に話しかけられたアタシは、普段から時々話すことのある間柄とは言え、それでも失礼のないようにしないと、と慌てるのだが
「い、いや...別にそこまで改まらなくても良いんだよ?スカーレット君?」
反応がオーバー過ぎたのか、少々タキオンさんは引きぎみだ。
だからアタシも即座に頭を上げると
「はい!タキオンさん!!」
と元気に返事をするのだが...
「はぁ...まったくどうしてこの子は...」
とタキオンさんはなぜかあきれ顔だが、それでも彼女はアタシの座っている横に腰を下ろした。
雲一つない空が、どこまでも晴れ渡っている
透き通るような蒼の下、昼休みに入ったここトレセン学園にも、一足早い春の陽気は届いており、その為か皆少し浮き足立っている。
現に今アタシがわざわざ外でお弁当を食べているのも、ぽかぽかとした陽気が気持ち良い日であるからだし、同じ考えなのだろう、アタシ達がいる中庭の他のベンチでも、何人かのウマ娘達がお弁当を食べながら談笑をしている
なべてこの世は事もなし
まさにそんな言葉が似合うような光景であり平和そのもの。
だからだろう、何の前触れもなく突然フラッとアタシの前に現れたタキオンさんもまた、それなりに機嫌は良いみたいだ。
現に
「そう言えばタキオンさん!アタシこの前の論文読みましたよ!!」
「ん?あぁ、そうかい。ありがとう」
「えぇ!!いつもながら斬新な発想と、緻密で詳細なデータを下敷きに展開されるウマ娘の生体に関する鋭い考察は、読んでいて非常に興味深かったです!」
「ふむ。私としてはそこまで絶賛されるようなものではないとも思うのだが...まぁ、誉められて悪い気はしないね。ありがとう、スカーレット君」
そう言って、タキオンさんはアタシの頭を撫でてくれる。
だからアタシも嬉しくて
「本当にタキオンさんはスゴいですね!レースだけでなくウマ娘の研究まで...アタシ、本当にタキオンさんのこと尊敬してます!!」
と、タキオンさんに心からの尊敬の言葉を送ると
「ふむ...まぁ、なにせ私は全知全能だからねぇ!
出来ないことなど何一つとしてないのだよ!!ハハハ!!」
と、これまた頼もしい返事が帰ってくるものだから
「流石タキオンさんですね!!」
「...冗談のつもりだったんだけどねぇ...」
純粋にそれに対して賞賛を送ると、今度は何故かタキオンさんは疲れたような顔をするので、アタシは首を傾げる。
吹き抜ける風が、中庭の木々を揺らす。さわさわという木々がこすれる音はしかし、不快なものでなく、むしろ耳に心地よい。
そんな穏やかな午後だからこそ、タキオンさん、今日は調子悪いのかな?と呑気にタキオンさんの反応を不思議に思うアタシは、しかし...
「...ところで、スカーレット君。
その、君のトレーナーの件だが...」
「...」
真面目な表情になったタキオンさんの言葉に、嫌でも現実に引きずり戻される。
そして...
「...相変わらずです。むしろ...」
そう呟くアタシの脳裏を過るのはとある病室の光景。
病的なまでに白いその空間で出会うトレーナー、その元々痩せぎみだった体型が徐々に徐々に、まるで風船が萎むように痩せ衰えていく光景で...
「...いや、それ以上は必要ないよ、スカーレット君」
そんなアタシの言葉をタキオンさんは途中で遮ると
「辛いことを聞いてしまって、悪かったね」
そう、申し訳なさそうに謝ってくれる
「...いえ、トレーナーさんのことを心配してくださってありがとうございます」
だからアタシもそれに対してお礼を言うけど、それを最後にアタシ達の間の言葉は途切れる。アタシもタキオンさんも黙り込んでしまう。
チチチチ...
どこからか鳥の囀りが聞こえる。
気が抜けるような麗らかな空気の中、そんな周囲の様子とは真逆にアタシ達の座っているベンチは暗く重い空気に包まれる。
それはまるで、そこだけ違う世界になったようで...
暖かな春の日差しも、周囲で楽しそうにはしゃぐ他のウマ娘達の声も、どこか遠い異国の出来事のように思える。
確かにそこにある日常が、しかし今のアタシには、それこそ本の中にしかない文字通り夢物語のように思えて...
だからこそ
「...なぁ、スカーレット君」
ポツリとそう言ったタキオンさんは、しかしそこで一瞬言い淀む。
「...他の者達が言わない...いや、言えないであろうことを...代わりに私が言おう」
それでもタキオンさんは続ける
一体何を言おうとしているのかピンときていないアタシを前にして、しっかりとアタシの目を見てタキオンさんは言葉を紡ぐ
その瞳には一切のおふざけはなく、ひたすらに真っ直ぐなもので...
あぁ、でもだからこそその言葉は...
「...なぁ、スカーレット君、落ち着いて聞いてくれ」
「?はい」
それはまるで知らない国の知らない言葉のように
「.........少し...立ち止まってみる気はないかね?」
アタシには、その意味を理解できなくて...
「.........え?」
一瞬だけ時間が止まる
予想だにしなかったタキオンさんの言葉に、アタシは完全に虚を付かれて固まる。
何故ならそれは...遠回しながらそれの意味することは...
「い、いや、誤解しないでくれたまえ!私は何も君にレースの世界から引退しろとまでは言っていない」
アタシの反応を見て、タキオンさんは慌てたようにそう続ける
その内容は、明らかに善意に溢れたもので...
「...私はね、スカーレット君。
ただ少しだけ、君は休んだ方が良いんじゃないかと、そう言いたいだけなんだ」
そう言いながらこちらを見つめるタキオンさんの目は、純粋にアタシを心配したものだ
だからこそ
「...なぁ、スカーレット君。君は自分のトレーナーが倒れてから、一体いくつのレースを走ってきたか、数えたことはあるかい?
そしてもう一つ
君は最近の自分の顔を鏡で見たことはあるかい?」
その言葉にアタシは黙って俯く
何故なら
「...君が強いウマ娘であることは知ってるし、今更それを誰も疑ったりはしない。しかし、いくらなんでも無理をし過ぎだ」
その言葉は決して間違いじゃないから
慎重に選ばれたその言葉は、的確に今のアタシの状態を...トレーナーが倒れてから精神的にも肉体的にも疲労困憊な今のアタシの状況をはっきりと言い表していて
「スカーレット君、だからね。
悪いことは言わない」
故に、タキオンさんが本気で言っていることが分かる。
本気でアタシのことを心配してくれているのが痛い程に分かる。
だけど...
「少し...ほんの少しだけで良いんだ。休もう。そうじゃないと君は...ーー」
「嫌です」
あぁ、だからこそアタシはその先を言わせない。
らしくもなく、しどろもどろになりながらも、それでもアタシを心配してくれるタキオンさんの精一杯の愛情をしかし、アタシは真っ正直から切り捨てる。
「し、しかしスカーレット君!!」
「すいません、タキオンさん。
いくらタキオンさんの言葉でも、その言葉だけは聞くわけにはいきません」
それでもなお喰い下がってくるタキオンさんにアタシは告げる
それが純粋にアタシの身を案じてのことであること位、流石にアタシでも分かる。
でも...でもだ
「...だって、アタシは約束したんです」
アタシはその言葉に甘えるわけにはいかない。
足を止めるわけにはいかない。
何故なら
「必ずイチバンのウマ娘になるって...アタシはアイツと約束したんです!だから!!」
その時ふと頭を過るのは、とあるウマ娘の言葉
それは、一連の騒動の中でまだアタシが答えを出せていない言葉で...
(「お前の"イチバン"って言葉に...ーー」)
しかし
(「...うるさい!!」)
頭をふり、その言葉を振り払う。
本当に、それで良いのか?そんな理性の囁きを強引に打ち切る
そうだ!今そんなことを考えてる暇なんてない!!
例えそこに意味なんてなくても、アタシはイチバンであり続けなくちゃいけない!!
イチバンのウマ娘じゃなくちゃいけない!!
だって...だってそうしないと!!
(「今まで、ありがとう」)
「...!!」
拳を強く握りしめる
けれど、強く握りすぎたそれの内側から鮮烈な痛みが閃いて..
「.........だから、アタシは走ります。タキオンさん」
懐から取り出したハンカチをアタシは自分の手に巻く。
それでアタシの手の平から溢れ落ちていた液体は止まったが、しかし地に落ちたそれまでは流石にぬぐえない。
だから、それをじっと見つめながらアタシは続ける
「アタシは...イチバンでなければならないんです」
例えそれに意味がなくても
(「約束するよ、スカーレット」)
手にしたそれが空っぽでも...
(「君をイチバンのウマ娘にしてみせる!!」)
それでも...
それでも......
「スカーレット君...」
手の平がジクジクと痛む
応急措置的に巻いたハンカチの内側が、徐々に湿っていく
「...」
それでも、地に落ちた赤を、まるで地獄の炎のようなその色を、アタシは見つめ続けるのだった
ちなみに、うちのダスカはタキオンへの好感度MAXです。
なんならメーター振り切ってます
ダスカ「えへへ~♡タキオンさん♪」
タキオン(う~む...私は別に、そこまで好かれるようなウマ娘ではないんだがねぇ...何だかこうまで好かれると少々照れ臭いねぇ...何かもう少し距離を開けられるような方法は...あ、そうだ)
「な、なぁスカーレット君。この薬を飲んでみないかい?」
ダスカ「!はい!分かりましたタキオンさん!!」グイッ
タキオン(クックック...中味はいつもモルモット君に飲ませている体が発光する薬だ!別に毒でもなんでもないが、こんな不気味な薬を渡してくるような先輩は、いくらスカーレット君とはいえ...)
ダスカ「わぁっ!体が真っ赤に光りました!!カッコいいです!!ありがとうございます!!」
タキオン(えぇ~...)
尚、それからダスカが積極的にタキオンの実験に協力するようになったため、モルモット君は体が光るだけでなく謎の効果音の発生と変形合体ができるようになった模様
光る!動く!音がなる!
DXモルモット君!!(定価5400円)
???「いや、そうはならんやろがい!!」
???「どうした、タマ?最近多いぞ?そこには誰もいないんだぞ?」