ウマ娘三部作Secondシーズン 鮮血の女王 ~メディアの覚醒~【完結】   作:DX鶏がらスープ

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いつ更新するか分からないと言ったな
あれは嘘だ!!(迫真)

...と言うのは冗談で
まぁ、思ったよりも早く書けたので投稿です

本当は、次の話と一緒に出した方が良いかなとも思ったのですが、分量が多いのでこっちを先に出して置いた方が良いかなと思ったので、先行してこれだけ先に出しておきますね。




メルトダウン

 

目を覚ますと、隣で寝ていたはずのママがいなくなっていた

 

(「...ママ?」)

 

寝ぼけ眼をこすりながら、そう呟いた幼いアタシの声に、しかし答える者は誰もいない

 

 

 

チュンチュン...

 

 

 

鳥の鳴き声が聞こえる

閉めきられたカーテンの隙間から朝日が差し込む

新しい一日の始まり、しかし薄暗い子供部屋にもたらされたそれを知覚するのは、幼いアタシ一人だけで...

 

(「ママ...」)

 

そう言ってドアを開けると、過去のアタシは廊下を歩き出す

 

ギシッギシッと軋む足元

 

うっすらとした闇に覆われた廊下

 

しんと静まり返った家の中は、幼いアタシにとってはまるで不気味なお化け屋敷のようで...

 

それでも

 

(「どこ...?どこなの...?」)

 

きっとママがいれば大丈夫

ううん、大好きなママとパパなら、きっとなんとかしてくれる

 

そんな微かな希望を抱きながら歩いていたアタシが、薄暗い台所で見つけたのは...

 

(『ごめんね』)

 

そう書かれた紙と、ラップに包まれた朝ごはんで...

 

 

 

チチチチ...

 

 

 

遠くから鳥の声が聞こえる

まだ早い時間なのか、周囲から聞こえる音はそれだけだ

けれど

 

(「...」)

 

アタシは無言でテーブルの上のそれを電子レンジの前まで持っていく。

そうして暖めたそれを食べたアタシは、皿を洗って洗面所で身支度を整えてから、子供部屋に戻る

 

そうしてまず手に取ったのは一本の鉛筆

 

(「...」)

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

ノートに鉛筆を走らせる

 

今日はお休みだから時間はある。

そう思いながら、アタシは平日の学校の授業の予習を始める

なぜならそれは、忙しいママとパパに心配をかけたくなかったからで...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

アタシは一人でも大丈夫!

だからママとパパはお仕事頑張って!!

 

 

 

...せめて二人にそう言ってあげたかったからで...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

...そう、だからアタシは平気

寂しくなんてない。

それにそうやって頑張れば二人は褒めてくれる。

 

良く頑張ったね、スカーレット!

流石スカーレットだね!!

 

そう言って大好きな二人がアタシのことを褒めてくれるから...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

カリカリカリカリ...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「...あ」)

 

そうアタシが呟いたのは、思ったよりも早く休み明け学校の勉強の予習が終わってしまったからで...

 

(「...」)

 

アタシはその場で黙り込む

目の前には、完璧に仕上がった宿題のノート

それはきっと、学校に行けば皆が褒めてくれるであろう完璧な出来。

 

(「スゴいねスカーレットちゃん!」)

 

(「流石スカーレットさん、優秀ね!!」)

 

そう言って友達や学校の先生、周りの皆が褒めてくれるであろうものだ。

だけど...

 

 

 

チチチチ...

 

 

 

ふと窓の外を見つめる

すると、そこにはいかにも行楽日和といった気持ちの良い空が広がっている。

それを見ていると、昨日の夜ママとパパと交わした会話がどこからか聞こえる気がして...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「よし!それじゃあ明日は3人で遊園地に行こう!!ママも良いよな!」)

 

(「えぇ、勿論!スカーレット、明日は思いっきり楽しみましょうね?」)

 

(「わーい♪ママ!パパ!だいすきー!!」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、幼いアタシの休日の光景

なんてことはない、至って普通の休日の昼下がり...

 

 

 

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

「さあ!やって来ました春の大一番!!大阪杯です!!

桜舞い散るこの大阪の地で、栄光をその手に抱くのは、果たしてどのウマ娘なのか!?」

 

 

 

ワァァァアアアァァァッッ!!

 

 

 

実況の声に合わせて観客席から歓声が上がり、そのまま今日のレースに出走するウマ娘達の紹介が始まる。

それに黙って耳を傾けながら目を開けると、必然目の前にあるのは四方を囲む壁と扉。そこはすでにゲートの中だ。

 

「...」

 

閉じられた扉の先、自身がこれから走るターフを見据える

そこに広がるのは、まだ何者にも踏み荒らされていないまっさらなターフ

まるで新雪のように無垢な芝が、穏やかな風を受けてそよそよと揺れているのだが...

 

「...」

 

しかし、それを見つめるアタシの心境は少々複雑だ。

 

確かに、ウマ娘レースという競技に挑む一端のアスリートとして見るならば、この光景は別に悪いものではない。

そもそも、踏み荒らされてボコボコになったターフより、そうでない綺麗なターフの方が走りやすいというのは今さら言うまでもない。

それはボコボコの山道よりもちゃんと整備された綺麗な道路の方が歩きやすいのと同じ理屈だし、そういう踏み荒らされた道を走るのには、そうでない道を走るよりもパワーがいる。

何より、自動車レベルのスピードで走るウマ娘が、足を取られて転倒するという最悪のケースを少しでも減らせることを考えるならば、今目の前に広がるターフの状態はやはり悪くない。どころかこの上なく良いとも言えるだろう。

だけど...

 

(...何だか)

 

と、アタシは少しだけ嘆息する。

と言うのも、その光景が最近見た悪夢の光景を思い出させるもので...

最近目の前をちらつく景色、いつの間にか目の前の光景がそれと置き換わってしまう気がして...

 

(...やりにくいわね)

 

そんなことを思った瞬間だった

 

 

 

「さぁ!出走ウマ娘達が全員ゲートに入りました!!」

 

 

 

聞こえてきたその言葉に、アタシはハッとする。

気が付けば、もうゲート入りは終わっている。後はそれが開きさえすれば、その瞬間にレースは始まるだろう。

 

(...少し、自分の世界に入りすぎたかしら)

 

そう反省しながら、アタシは自身の意識を切り替える。

...そうだ。兎に角、今はまず目の前のレースに集中すべきだ。

そう思い、頭から不吉な想像を振り払う

 

しかし、例え幻想の景色から目をそらしたとしても、目の前の景色からは目をそらせない。

ゲート越し、それでもレース直前のまっさらなターフからアタシは目を離すわけにはいかなくて...

 

(「ウマ娘の可能性...か」)

 

閉じたゲートの中

刹那の瞬間に、アタシの脳裏を一瞬タキオンさんの言葉が過る

そして...

 

 

 

 

 

「...ーースタートです!!」

 

 

 

 

 

ゲートが開くと共に、アタシは目の前へと飛び出す...ーー

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

「ーー...一般的に、私達ウマ娘の走行速度の限界点は時速70kmを過ぎたあたりだと言われている」

 

それは知ってるね、と問いかけるタキオンさんの言葉にアタシはうなずく。

それくらいは一般常識の範囲内だし、何より他ならぬアタシもまたウマ娘。わざわざ自分の走る速度を正確に計算したことはないけど、練習などで出るタイムなどから考えると、恐らくその位になるのだろうということは、体感でも分かる

そして、だからこそ...

 

「故に、多くのウマ娘はそれがウマ娘の限界点だと思っている。

...まぁ、この現行の限界点がウマ娘の体が耐えられる限界点とも言われているからねぇ。

わざわざそれに挑む者は中々いないし、体も無意識にそれを分かっているのだろう。

例え私達がその先に行こうと思っても、そうそう簡単にそこまで行き着くことはできない」

 

そう語るタキオンさんの言葉に違和感はない。

そう、繰り返すがこの位は一般常

子供でも知っているような当たり前のこと。

 

「だがね、スカーレット君

その限界点というものは本当にそこにあるものなのかねぇ?」

 

「...?どういうことですか?」

 

「どうもこうも、そのままの意味さ」

 

首を傾げるアタシに、タキオンさんは再び語りだす

 

「そもそも、私達ウマ娘自体が常軌を逸する存在だ。

 

だってそうだろう?普通の人間とほとんど同じ姿をしているのに、その何倍もの身体能力を発揮する

小さな子供のウマ娘でも、一般的な成人男性と同じくらいの力持ち

おまけに現行の生物学のどの動物にも類似しない、謎の耳と尻尾が人体にくっついている

 

これだけ不思議な存在が、果たして他にこの世にいるだろうか?」

 

それに、とタキオンさんは続ける

 

「それは、その走りにしてもそう

 

今さらウマ娘の走るスピードは生物学的に云々...などという話はしない。

だが、それを除いても我々ウマ娘のレースには不思議なことがありすぎる。

 

それは勝負服然り、三女神伝承然り...それこそ、私達ウマ娘の力の根元は異世界から迷い混んだ別の魂に由来するもので、それが私達ウマ娘の走りに大きな影響をもたらしている、なんて与太話もあるが...このようにウマ娘の走りに付きまとう不思議というものは、枚挙に暇がない」

 

だとしたら

 

「そんな非現実的な存在であるウマ娘が、現実的な常識に縛られるなんて、それこそ逆にナンセンスな考えだとは思わないかね?」

 

 

 

.............

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

「さぁ!レースは順調に進んでいます!!先頭を走るのは9番ダイワスカーレット選手!!」

 

そんな実況の言葉を聞き流しながら、アタシは走る

 

位置は先頭

先の実況の言葉通り、先行争いを制し前に出たアタシは、今のところは集団の一番前を走っている。

とは言え

 

(...そろそろね)

 

第1、2コーナーなどとうに過ぎ、第3コーナーをも通り過ぎる

そして、先の第4コーナーを見据える

アタシの後ろでは、静かに後続のウマ娘達のプレッシャーが高まっていて...

 

「...」

 

それを背中で感じながら、アタシもまた高ぶる気持ちを沈める。

最後の直線に向けて息を整える

 

勘違いされることがあるが、別にウマ娘のレースというのは必ずしも足が速いウマ娘が勝つというわけではない

...いや、極論としてはそうなのだが、そもそもウマ娘のレースというのは陸上競技等のようなタイムアタックではなく、歴とした対人競技

一人一人に個別のレーンが与えられている訳ではなく、同じレーンを複数人で走るという性質上、その勝利条件は最終的に一番前にいたウマ娘ということになる

 

だからこそ...

 

「さぁ!第四コーナーに入りました!!各ウマ娘一斉に上がっていきます!!

果たして春の王冠、それを勝ち取るのは誰になるのでしょうか!?」

 

「!」

 

その声と共に、後方からの圧力が上がる。

そして後ろを走るウマ娘達の足音が、次第に大きくなり、近づいてくる

 

それはレースの最終局面を告げるファンファーレ

先頭を交わし、抜け出す準備を整えた先行策のウマ娘や、後方からの一発逆転を狙う差しや追い込みのウマ娘が、一気にその末脚を爆発させる音であり...

 

「逃げる逃げる!ダイワスカーレット選手、気持ち良く逃げています!!

しかし、後ろからもウマ娘達が迫っています!!このまま逃げ切れるのか!?」

 

「うぉぉぉぉぉおおおっっ!!」

 

「!!」

 

...そう、レースは自身のタイムを極限まで縮める己との戦い、タイムアタックではない。

一緒に走るウマ娘達との駆け引きの中で、いかに周りを蹴散らし勝利を掴むかが鍵となるバトルロワイヤル

それこそがウマ娘レースの本質だ

 

だからこそ最終直線、先頭を走るアタシの手からイチバンの座を強奪せんと、敢えて後方に陣取っていたウマ娘や、全体を出し抜くチャンスを伺っていたウマ娘達が一斉に動き始める。

 

そしてその中でも特に速い一人のウマ娘が、アタシに喰らい付かんと外から迫ってくる。

 

それは疾風

それは稲妻

 

絶対に勝つ

 

そんな執念の炎を燃やしながら加速する彼女は、一息ごとにアタシに迫ってきて...

 

「うぉぉぉおおおおっっ!!」

 

「っ!!」

 

3馬身、2馬身、1馬身...

 

二人の間を隔てる距離が、どんどんと縮んでいく。

 

大地を蹴る彼女の足音が、限界を超えて稼働する彼女の筋肉の軋む音が、吐き出す吐息の音が、何より彼女の燃えるような視線がダイレクトに感じられて...

 

(まだ...)

 

それでもアタシは動かない。

首筋に刀を当てられたような濃密な殺気

それにひたすらに耐え続ける

 

(まだよ...まだ耐えるのよ、スカーレット)

 

自分自身にそう言い聞かせる

だけど、そうしている間にも徐々に徐々に、海の潮が満ちるかの如く、少しずつ、少しずつその差は詰まっていって...

 

ドクン、ドクン、ドクン

 

聞こえる心臓の鼓動は、果たして自分のものなのか

近づく距離に比例するかのように、時間の進みが遅くなる

溶けた飴のように粘りつく時間中でも、しかし後ろから迫るウマ娘の走りは止まらない

もう彼女は手を伸ばせばアタシに触れられる

 

そして...ーー

 

 

 

..........

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

「...――だからこそ、私は現行のウマ娘の限界というものに対して懐疑的だ」

 

タキオンさんは続ける

 

「別にオカルトを全肯定するわけでは無いが...それでも、ウマ娘という存在を知れば知るほどに、私は思うようになった

我々はもっと先に行ける!ウマ娘という不思議な種族の限界点は、まだまだこんなものじゃない!!とね

そして...」

 

私は出会ったんだ

とタキオンさんは一度言葉を区切る

 

「その可能性を体現するウマ娘に!

長年抱いていた私の仮説、その一端を証明してくれる存在に!!

それが...彼女こそが...」

 

 

 

ザァー...

 

 

 

風が吹く

中庭の木々を揺らした風は、瞬く間に虚空の彼方へと消えていく

それはまるで、向かい合うアタシとタキオンさんの間を何かが通り抜けていったようで...

 

(サイレンス...スズカ)

 

タキオンさんの口から出たウマ娘の名前を、口の中で繰り返す

 

...名前だけは知っている

圧倒的な大逃げで、誰にも影さえ踏ませなかったという、人呼んで”異次元の逃亡者”

だけど...

 

アタシは自身のツインテールを押さえる

風に揺れるそれがなびく先は、吹き抜けた風の去った方向で...

その方向を見ながら、アタシは過ぎ去っていく風に思いを馳せる

 

すなわち、吹き抜けていく風は、最終的にはどこへ行くのだろうと

アタシ達ウマ娘は、駆け抜けた先にどこへ行くのだろうと

そして彼女は...あの大欅の先へと駆け抜けたサイレンススズカは...と

 

だからこそ

 

「...まぁ、これだけ持ち上げておいてなんだが、別に私は彼女こそが世界最強のウマ娘だと言うつもりはない」

 

アタシが最後まで思考を進める前に、タキオンさんは続ける

しかし、その瞳はここではなく、どこか遠いところを見ていて...

 

「当然だろう?

無論彼女が常軌を逸する強さを兼ね備えたウマ娘であったことは否定しないが、それでも流石に有史以来生まれてきたウマ娘の中で最強だとまでは言わない。

これは別にサイレンススズカだけに限った話でもないが...別に私は最強議論をするつもりはないよ。

だがね...」

 

と、そこでタキオンさんは苦笑する

 

「あの秋の天皇賞...そのレースだけで言うならば...きっと彼女には誰も追い付けない。

あの時、あの場所においてだけは、歴史上のifなど存在しえない」

 

故に...と紡がれる言葉には

 

「あの瞬間だけは間違いなく、彼女は史上最強のウマ娘だったと、私は思うんだ」

 

どこか悲しげな響きが混じっていて...

 

 

 

 

 

キーンコーン、カーンコーン

 

 

 

 

 

予鈴がなる

その音と共に、恐らく別の場所にいたのだろう、何人かのウマ娘達が中庭を慌てて駆け抜け、校舎に戻っていく

 

その様子を見てタキオンさんは首を竦める

そしてアタシもまた、話の終わりを悟って立ち上がる

春の中庭には、相変わらず眠くなるような暖かな日の光が差し込んでいる

 

だけど

 

「...スカーレット君、最後に一つだけ覚えていてほしい」

 

教室に帰ろうとするアタシの背中に、タキオンさんが言葉をなげかける

それに振り向くと、タキオンさんは

じっとアタシのことを見つめていて...

 

サァー...

 

風が吹く

 

そしてタキオンさんがアタシに言ったのは...

 

 

 

..........

 

 

 

.........

 

 

 

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........ここ!!」

 

刹那の思考

閃光のごとく過った直感に従い、

アタシはターフを踏みしめ加速する

 

「はあぁぁぁぁぁあああっっ!!」

 

「んな!?」

 

「お、追い付けない!?」

 

一瞬の風となる

アタシを外から追い抜かんと迫ってきたウマ娘も、またそんな先頭の鍔迫り合いの隙を伺い、内側から先頭へ駆け上がろうと画策していたウマ娘も、全部全部突き放してアタシは前へ出る

 

(「負けない!」)

 

絶対に!!

その思いだけでアタシは加速する。加速し続ける!

 

「おぉっと!9番ダイワスカーレット選手、ここに来て加速した!!

後続をぐんぐん突き放していくぞ!!」

 

気が付けばアタシの周りにはもう誰もいなくて...

もう、アタシを止められるウマ娘はどこにもいない。

 

それでも、だからこそアタシは余力を振り絞る

 

渡さない

イチバンの座は誰にも渡さない!!

 

風を超え、音を超え、光を超える

 

とめどない加速の中、段々とスピードの彼方に周囲の光景が溶けていって...

 

(...これは!)

 

その予兆を察知したのは、何度かそこに辿り着いた経験があったからか

 

周囲の音が遠ざかる

迫熱するレース場の熱も、後方からアタシに追いすがろうとするウマ娘達の存在感も、世界を構成する要素の全てが真っ白に漂白されていく。

 

そしてアタシの目の前に広がるのは無限の具現

 

果てなどない、もう見慣れてしまったどこまでも、どこまで広がる大草原で...

 

(「...そしてね、スカーレット君」)

 

不意に脳裏を過るのは、先のタキオンさんの言葉

 

(「そんな彼女は...ウマ娘の限界を超えた領域に手を掛けた彼女はこう言ったんだ」)

 

それは忠告

彼女が止まることが出来ないアタシを想い、せめてと行ってくれた注意の言葉で...

 

(「走る先に、景色が見える...と」)

 

そう言ったタキオンさんの目は、これ以上にないほど真剣で

 

(「...なぁ、スカーレット君。私は君の話を聞いてこの言葉を思い出した。ウマ娘の限界の先、そこに手を掛けた稀有なウマ娘、彼女のしていた話をね。

だからこそ」)

 

その意味を、彼女が言っていたことの意味を、この時私はハッキリと理解できて...

 

(「ハッキリ言おう、スカーレット君。

恐らく君は今、かつての彼女、サイレンススズカと同じところにいる」)

 

(「タキオンさん、それって...」)

 

(「...あぁ、そうだ」)

 

記憶の中のタキオンさんは頷く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(「君が見る草原。

それは恐らく、ウマ娘としての限界の、その先にある光景だ」)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザァッ...

 

だだっ広い草原を、一陣の風が吹き抜けた

 

 





ちなみにこの草原、ゾーンとか領域ではありません。
もっと違う別の何かです。

というか、『片翼の撃墜王』の方でもそうですが、
基本的に作者は、今回の作品の世界観ではそれらや固有スキル、ゲームにおけるウマ娘のスキルはいくつかの例外を除いて登場させません。

作者はアプリもプレイしてますし、シングレも大好きなのですが、それらを使うと何だか能力バトルものみたいになるので、なるべく自分の作品では使わないようにしています。

もちろん、それらを使った面白い二次創作はハーメルンにも大量にありますが、作者としては基本的には使わない方向で行きますね
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