逸般UPOプレイヤーがNWOをプレイする話 作:LR44(ゆっくり)
【この短編を読む前に銀鈴さんのオールスター短編を読んでくることをお勧めします】
文化祭も終わり、UPOもNWOもイベントの無い空白期間。直ぐにでも検証したい事も無い、素材集め程度しかすることの無い暇なある日。
【月下の門】のギルドハウスでフレンドリストの整理をしていると、ふと不思議な光景が目に入って来た。
「ん? 何だこりゃ」
「どうしたの、飛燕?」
「今さっき一瞬……多分3秒くらいだけユキさん達がオフラインになってたんだが……」
「3秒ってなるとログアウトとかじゃ無いよね。ラグ……もUPOじゃ今まで一回も起こったこと無いし」
UPOでは聞いたことも見た事も無い現象に、しばし頭をひねるものの全く答えが浮かんでこない俺とナギ。
UPOに限らずVRになってからのゲームではラグや処理落ちなんかはほとんど存在しない。元々時代が進むにつれて回線は高速化するものというのもあるが、VRになり実際に目の前の相手と会話する以上ラグがあっては違和感が生まれると判断した運営陣の努力によるものも大きいのだろう。
「まあ、取りあえずはラグとでも思っておくとして、また機会があればリアルの方ででも聞いてみればいいんじゃないか?」
「そうだね。それが一番手っ取り早いだろうね」
結局その日は答えが出ずに、保留となったのだった。
◇
そんなことがあった2週間ほど後。俺と夕凪は近くのショッピングセンターに買い物に来ていた。
「え~っと、玉ねぎ人参ジャガイモ牛……は高いから豚肉っと」
「ルーはまだあったはずだし、これでよかったはず……あ、確かお醤油無くなりそうだったよね。いつものお醤油、ここには無いだろうから注文しとかないとね」
広告を見て考えたメニューのための材料を買い物かごに放り込んで。無くなりそうなものがあるかどうか考えながら店内を見て回って。
そんなことをしていると、見知った姿を見かける。見かけたんだけど……は?
「あ、瀬名さんと……」
「瀬名先輩と……」
「「しらゆきちゃん!!?」」
瀬名先輩を見かけ、隣にいるのは幸村先輩だろうと思ったのだが……何故かその隣にはしらゆきちゃんの姿があった。
「……どうする? 話しかけてみるか?」
「そうしよっか。……幸村先輩、女装趣味にでも目覚めたのかな?」
「いやまぁ、前々からそんな感じはしてたけど……
あのしらゆきちゃん、女装……って感じじゃないんだよな。骨格レベルで変化してるUPOのしらゆきちゃんと瓜二つだし。遠目だから自信は無いけど、幸村先輩とは骨格レベルで違う気がするし。
「瀬名さん……としらゆきちゃん、デートですかね?」
「あ、夕凪ちゃん。うん、デートだよ」
「え゛~あ゛~……幸村先輩、でいいですかね?」
「そうですね……それで問題ないですよ」
「「え!?」」
幸村先輩……いや、あえてしらゆきちゃんって呼ばせてもらうけど、声が女性の声なんだが?
ボイチェン……は見当たらないし……え? は?
っていうか、近くで見るとよく分かるけど、コレ幸村先輩から骨格レベルで変わってるじゃん。ギャグマンガ時空でも無いとあり得ないトンデモコスプレ術だぞ。
「ゆ……幸村先輩、ついにリアルでもしらゆきちゃんボイスに……?」
「え? ……え!? しらゆ……幸村先輩……声帯でも変えました?」
「声帯でも変えました!!?」
「いやまぁ……一応あながち間違っても無いような……?」
あながち間違っても無い!!? いやいや流石に声帯を変えたのがあながち間違っても無いとか人生で聞くことになるとは思わなかった発言だぞ!?
◇
「はぁ、異世界にゲームのステータスのまま転移しておかしなテンションになっちゃってTS装備を使ったらTS体質になってしまった、ですか」
「いやまぁ、こうして直接見てる以上信じられないって事は無いですけど、ちょっと信じがたいというかなんというか……」
「まぁ、そうだよね。流石に簡単には信じられないよね」
「だな。こんな人目の多い場所じゃ無かったら天使の環と羽くらいは出すんだが」
「「出せるんですか!?」」
前々から脳みそのスペックとかが人間離れしてるなぁとは思っていたけど、肉体面でも人間やめちゃったのか、この人……
いやまぁ、元々UPOには異世界人エルフニキ(実は無性)こと【長命種】オウカさんとかいたし、今さらか。
少し異世界の話を聞いたり世間話をしたりした後、幸村先輩たちと別れた俺はポツリと呟く。
「元々人外側だったユキさんにゴリゴリに戦闘系な異世界の住人との訓練の経験がプラスされるのって不味く無いか?」
「相性的な問題で極振り最弱格なのは変わらないけど、一般トッププレイヤーじゃ相手にならなくなってるかもね」
「話聞く限り多分異世界じゃぁ空間認識能力にリミッターとか無かったらしいし、相当無茶したらしいし……」
「……異世界帰りのユキさんはヤバいわよ?」
「何回もリメイクされてではあるけど、あのゲームも相当息が長いよな」
【飛燕とユキ、夜の学校での語らい】
無灯火自転車を躱しながら学校への道を歩く。通いなれた通学路でも、夜闇の中ではまるで違って見え、新鮮な気分になる。
今日は珍しく夕凪の部活が遅い日で。流石にこの暗い中夕凪だけで帰るというのは心配なので、夕飯の準備を終えてから迎えに来たという訳だ。
到着した学校の昇降口は明るく照らし出されていた。最近学校の証明がセンサー式になったため昇降口の照明はついてないはずだが、と一瞬思いながらもすぐに誰かがいるのだろうと気付く。
昇降口に近づくにつれて見えてくる人影に見覚えがあった俺は、すぐにその人物の目的にも合点がいった。
「幸村先輩、瀬名先輩を迎えに来たんですか?」
「来島さん。えぇ、そういうそちらは千影さんのお迎えですかね?」
「そうですね」
毎度おなじみの幸村先輩。瀬名先輩と夕凪は同じ部活なので、夕凪が部活で遅いという事はつまり瀬名先輩も遅いという事で。俺が夕凪を迎えに来ているんだから、幸村先輩は瀬名先輩を迎えに来ていても何ら不思議ではないよな。
「さっき軽く覗いてきましたが、終わるまではもう少し時間がかかりそうでしたね」
「そうですか。じゃあ俺もここで待ちますかね」
「じゃあ暇つぶしに話でもしませんか? スマホを家に忘れてきちゃいまして、ボーっと待っとくのも大分飽きてるんですよ」
「えぇ、構いませんよ」
こっちとしても、スマホ弄ったりボーとしたりするよりも、誰かと話をする方が有意義……と言っていいのかは分からないが、時間の潰し方としてはこっちの方が俺は好きだ。
「そう言えば最近UPOに新しいワンダリングボスが追加されましたよね。俺はまだ挑戦してないんですが、どんな感じですかね?」
「え~っと……一番面白いのが草原エリアに追加された『風神』&『雷神』ですかね。2体同時に倒さないと両方ともHPがMAXで復活するってボスで、ソロは多分ユニークの一部か極振りクラスじゃないと不可能、パーティーでも臨時メンバーだと相当苦戦しそうな相手でしたね」
【月下の門】で挑戦した時は俺とナギが『風神』、ロウさんとリーフさんが『雷神』を相手取って、オーロラさんとシルクさんが双方のサポートを受け持ってたな。
最初はギミックのせいでジリ貧だったけどタネさえわかれば何てことない相手だったし、ユキさんなら多分一人でもなんとかなるんじゃないか?
「うわぁ、それは流石に俺でもソロは勘弁したいですね。……やるとしたらにゃしいさんかザイルさん辺り誘いましょうかね」
「それならレンさんを誘うのはどうです? 『風神』『雷神』なんて名前ですし、このモンスターの素材で作った装備は風属性と雷属性のダメージ上昇効果が付くことが分かってるんです。特に、左右セットの装備──靴とかアンクレットとか籠手とかですね──の右に『風神』左に『雷神』の素材を使った時の補正値は現状最高峰らしいですよ」
「おぉ、確かにレンさんにはぴったりの効果ですね。あ、ただそんなモンスターならレンさんはもうソロで討伐してそうですね」
「確かにそれはありそうですね」
装備補正はIntに偏ってるけど、求道スキル持ってるレンさんならAglには一切影響がないもんな。
レンさん然りユキさん然り、極振りの人達って求道スキルのおかげで特化分野が固定値だから、装備補正を別ステータスに回して短所の穴埋めやら長所を伸ばすやら出来るのがうらやましいや。
他のワンダリングボスで面白そうなのは……機械系で追加があってレグルスさんが嬉々として挑みに行った以外は確か無かったかな。
あぁ、いやあんまり大きなことじゃ無いけどアレもあったか。
「他のワンダリングボスですと、高山エリアに追加されたワイバーン系のワンダリングボスの素材で作ったアイテムが面白いくらいですかね」
「面白い、ですか?」
「えぇ。ステータス補正は大したこと無いんですけど、付けられる簡易ポーチの容量が従来品の1.5倍くらいあるらしいです」
「かなり嬉しいじゃ無いですか、それ。特に俺みたいな戦闘能力を消費アイテムに頼ってるようなプレイヤーは。来島さんもその類じゃ無いですか?」
「俺の場合、現状の簡易ポーチとストレージ拡張で十分ですし、最近は弓矢を使っての近接戦闘なんてやり始めちゃったせいで更に矢の消費が減ってきてるんですよね」
遠くから矢を射るよりも近づいて弓矢で直接ぶん殴る方が早くて確実にダメージが出るからな。
まぁとは言え、流石にパーティーの支援しながら近接戦闘はきついからパーティー戦の時は後衛で弓射るのがメインなんだけどな。
「因みにボス自体の性能は単純にステータスの暴力で押しつぶしてくるタイプだったのでかなりやりやすかったですね。一般的な新大陸組なら初見でもソロ攻略出来そうなレベルです」
「成程、それなら……何なら今日帰ってから攻略に行けそうですね」
「幸村先輩なら余裕だと思いますよ」
【月下の門】で行った時は、倒した後でフルパーティーで行く必要なかったなぁとか思ったくらいだし。ユキさんなら余裕のよっちゃんだろうな。
「ストレージと言えば、課金のストレージ拡張が値上がりしたのも俺みたいなプレイヤーからしたら結構痛いですね」
「ですねぇ。控えのスキル枠の方も値上がりしてたんで、リーフさんとかロウさんとかのスキル関係の検証してる人が悲鳴上げてましたよ。特にユニーク持ちのお二人なんて今までも月に最低でも4~5枠はスキル枠増やしてたので……」
「あぁ、それは出費が大幅に増えますね」
逆に、俺みたいな反復作業で出来る検証がメインのプレイヤーはほぼノーダメージだからな。値上げから1週間くらいはお二人から散々羨ましがられたなぁ。
「あ、課金で思い出したんですが、そう言えば来島さんって色々な所でバイトしてますよね」
「えぇ。俺は夕凪の親が後見人になってまして。大学には行けって言われてますし、それは俺としてもありがたいんですよ」
就職のこと考えたら、大学に行っとくに越した事は無いし。それに、夕凪とのキャンパスライフってのも楽しそうだしな。ただまぁ、
「ですが、急に子供の大学進学に掛かる費用が倍近くに膨れ上がった訳ですし。少しでも楽させたいと思って、せめて自分の生活費くらいは自分で払えるようにしときたいので」
「成程、そういう訳でしたか。……そう言えば来島さんの成績ってどの辺りでしたっけ?」
「【空間認識能力】のおかげで暗記科目は成績いいですし、元々数学化学物理は好きですし得意ですので。中の上から上の下って言ったところですかね?」
「じゃあ国公立……この辺りで言うと○○大学とかその辺り目指す感じですかね?」
「そうなりますね。と言うかもろにその大学行くつもりですね」
とまあ、半分進路相談のような話をし出したところで昇降口から見知った姿が現れた。
「飛燕、迎えに来てくれてありがとね」
「とーくんも! 私もうお腹ペコペコだよ」
「おう、晩御飯用意してあるから帰ったら食べるか」
「こっちも、空さんと一緒に晩御飯用意してるから一緒に食べるか」
幸村先輩に後ろから抱き着いた瀬名先輩と、歩いて隣まで来た夕凪。
途中まで道が一緒という事で4人で夜の道を歩くのだった。
脳内でキャラが勝手に動くのに従って書きたい事全部書けば4000字行くと気付いたのでちょっと5000字近くになりました。
それと、3/21で投稿開始1周年なので間に合えば何か出します。間に合わなければ何も無いです()
<今回のオリジナル要素&ネタ解説>
・前半の短編
詳しくはなんとなくロリスミっぽいあの空の下で神楽舞いそうなのとガチ勢の話を読んで下さい。銀鈴さんのオールスター短編です。
極振りの時系列が1年ずれてるのでそっくりそのままって訳じゃ無いですけど、おおむねそのままのストーリーが展開されたと思ってください。
因みに本作完結後は私立稀世学園高校トンチキトラブルシューター部と元検証班どもが征くVRMMO(手綱は握られていないものとする)の両方に繋がります。二次創作特有の無茶苦茶舞台設定。