逸般UPOプレイヤーがNWOをプレイする話 作:LR44(ゆっくり)
折角なので最終話に組み込んでみました。
「いやぁ、惜しかったね」
「だな。俺がもう少し耐えれれば、勝てたかもしれないのにな」
「それ言ったら、私もだよ。もっと早くセナちゃんに勝ってたら、もしかしたら。だもん」
極振りエキシビションでは、決勝の
ソロの部では直前の鯖落ちのせいでステージの減速システムがうまく動作せず、中堅プレイヤーが戦闘を見れないという事故が発生して。
そしてパーティーの部ではバイク艦隊が対戦相手を軒並みひき殺していって。
最後に、極振りが王城を打ち上げ花火にした結果、運営が頭と胃を押さえて。
そんな一波乱も二波乱もありつつ決勝トーナメントも終わり、PvPイベントは幕を閉じた。
その日の夜、俺と夕凪はイベントについて振り返っていた。話題は専ら決勝戦。セナさんが見せた未知の加速への考察や、あそこでああすればよかったといった反省の類だ。
「はぁ。悔しいし、また暫く辻PvPしてからセナちゃんにリベンジしに行こうかな。飛燕も一緒にどう?」
「俺は……イベント後かクリスマス・年末辺りに更新来て、多分ワンダリングボスやらが追加されるだろうから、その辺りの検証が先だな」
それに、去年と同じならクリスマスと新年にはミニイベントもあるだろうから、ソレ周りの検証もしたいしな。イベント開始と同時にinして、行動パターンやらドロップ品やら調べるとなると、今から色々準備しておきたいし。
「そっか。じゃあ、また暇になったら辻PvP対決しようよ」
「望むところだな。今日のトーナメントで、やり方次第で夕凪にも勝てそうな手ごたえを感じたしな」
「お、言うねぇ。じゃあ楽しみにしとくよ」
と、話にひと段落ついた所で、チラリと時計を見る。
……12時15分。何だかんだ結構話し込んじゃってたんだな。
「あぁそうだ。夕凪、コレ」
「箱? どうしたの、コレ?」
夕凪に箱を手渡す。よく分かってない様子の夕凪に、視線で時計を見るように促しつつ、言う。
「誕生日、おめでとう。夕凪」
「えっ、あっ! もう日付変わってたんだ。ありがとう、飛燕。開けてみても?」
「当然」
夕凪が箱の中身を確認すると、一瞬固まった後に何かを期待するような目でこちらを見てくる。
「飛燕、これって……」
「指輪、だな。まあ、安物だし形だけって感じだけどな。あ、毎年恒例の奴もちゃんと用意してあるからな」
「ありがとう、飛燕。大切にするね」
夕凪はうれしそうな表情で、箱を胸に抱いている。
喜んでくれたようで何よりだな。こっちも用意した甲斐があるってもんだ。
「それと、夕凪」
「……どうしたの? 飛燕」
「言わなきゃいけないことがある」
真面目な顔で夕凪に話しかける。緊張で喉はカラカラだし、言おうと思っていたことはすっかり頭の中から飛んでしまっている。
それでも、言うのは今しか無いだろう。文化祭の日、幸村先輩との会話でようやく気付いた事を。そして、俺の思いを。
「昔、夕凪から離れようとしたことがあっただろ」
「うん。あの時は本当に色々大変だったよね」
今でこそこんな風に話せているが、当時は本当に大変だった。
何か一つでも間違えていたら、俺は自殺して今頃ここには居なかっただろうな。
「多分、俺はあの時本当に夕凪から離れてたら、自殺してたと思う。そのくらい、俺にとって夕凪が、大切なんだ」
「じゃあ……何で? 飛燕、自殺願望なんて無い……よね?」
「そりゃあ当然。人生なんて生きてこそ、だしな」
死んで今より良くなる確証なんて無いんだから、自殺を選ぶなんて正常な判断が出来なくなってる奴くらいの者だろう。
……これ、遠回しに当時の俺が正常な判断が出来なくなっていたって言ってるよな。
「俺は……多分、大切なものを失うのが怖いんだ。……雲雀みたいに」
「――ッ、」
「だから多分、当時の俺は失うくらいなら自分から離れた方がマシだって思ったんだと……そう思う」
本当にバカだ。何を考えていたんだろう、この時の俺は。正常な判断が出来てなかったからって、これはいくら何でもだろう。
俺が楽しいと思えるのは、幸せなのは、いつだって夕凪がいたからだろう。それを自分から切り捨てるだなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「当然、今はそんなこと微塵も思ってないさ。夕凪が隣にいない人生なんて、真っ平ごめんさ」
そこまで言って、一度目をつぶり深呼吸をする。気持ちを落ち着かせ、夕凪の目をしっかり見つめて言う。
「ナギ、好きだ。俺はナギと一緒にいたい、一緒にいて欲しい。
だから、これからの人生を……いや、違うな。これからの人生
「勿論!」
こちらが言い終わると同時に、夕凪が満面の笑みでこちらに飛びついてくる。そしてそのまま、二度と離さないとでもいうようにギュッと抱きしめてくる。
「まあ、正直付き合って何か変わるかって言われたら、特に何も変わらないだろうけどな」
「まあ、それもそうだね。強いて言えば……関係性を現す言葉が変わるくらい?」
「『付き合ってない幼馴染』が『付き合ってる幼馴染』にってか?」
「どっちかって言うと『
元々ほぼ付き合ってるようなもんだったし、今更何か変わる訳でもないし……と思いながら少し話していると、夕凪が何か思いついたようで指輪を俺の手に乗せてくる。
そして、左手を差し出して
「ん」
と一言。これは……つまり、アレか?
「薬指にはめろと?」
「ん」
考えるまでもなくこれは肯定の『ん』だな。
そう判断し、受け取った指輪を夕凪の薬指にはめる。
「……なんかこっぱずかしいな」
「……だね」
二人して恥ずかしさから顔を少し赤くして、頬をかく。
そんな雰囲気の中、誤魔化すように夕凪が口を開く。
「そ、そうだ。また今度これとおそろいの指輪一緒に買いに行こうよ」
「別にかまわないが……それでいいのか?」
「つけてみて分かったけど、安物とか言っときながらコレ全然安くないよね。普通にちゃんとした指輪だよね」
バレテーラ。……い、一応誤魔化してみるか。それに、世間一般で言うところの結婚指輪の相場に比べれば十二分に安物って言えるだろうし。嘘は言ってない、嘘は言ってない……はず。
「作りだけは、な。別に貴金属製って訳じゃないし高くはないぞ」
「……素材は?」
「……チタニウム……です」
「普通にいい値段する金属じゃん⁉」
うぐっ……ま、まあそれでもブランドものって訳じゃなければ、凝った装飾がされてる訳でもないし。ちょっと高い買いものではあったけど、こうやって夕凪に渡すこと考えたら下手なもの買いたくなかったし……
「……因みにおいくら万円で?」
「1万弱……だったと思う」
「あれ? 案外お安いね」
「凝った装飾も宝石もも無い、ただの鋳造製の指輪だからな。どっかの有名ブランドが作ってるって訳でもないし」
「あぁ、それもそっか」
これが有名店とかならまた変わるんだろうが、レグルスさんの伝手で紹介してもらった『無名だけど利用者からの信頼は高い』とかいう、うってつけの会社だったしな。
「そのくらいなら全然私にも手が出せるね。今度の休みにコレ買ったとこ連れてってよ」
「分かったよ。じゃあ後で連絡しておくか」
「お願いね」
◇
それから暫く時は流れて、今日は12月25日。要するにクリスマスイヴだ。
「ただいま~っと。ケーキ買ってきたぞ」
「は〜い。もうちょっとで準備終わるから居間で待ってて」
売れ残り狙いで閉店時間ギリギリにケーキ屋に行ったところ、見事に値引きされたケーキを買うことが出来た。
ケーキを冷蔵庫に入れてから、居間に向かう。居間のテーブルの上にはもう既に殆どの料理は並べられており、後は軽い付け合わせ程度のようだ。
「フライドチキン、ミートパイ、パエリア。寿司、豚汁、茶碗蒸し……ホント、統一性がないというか何というか……」
お互いの家のクリスマスの定番料理を一緒の食卓に並べるもんだから、並べられてる料理に統一性なんてありゃしない。
って言うか、千景家*1はいかにもクリスマスらしい料理を用意してるのに、来島家*2はがっつり和食用意してるんだよな。並べられると余計違和感が目立つな……
「確か、飛燕のお母さんが、クリスマスとか誕生日とかみたいな日にはお寿司を食べる習慣があったんだっけ?」
「だな。なんでそうなったのかは知らないが。で、確か父さんが『どうせ寿司を食べるなら和食で固めよう』って言った結果こうなったとか」
料理が盛られた皿を片手に入ってきた夕凪に、俺の独り言はばっちり聞かれてたみたいで、夕凪の言葉で少し懐かしいことを思い出した。
夕凪が持ってきた皿の上には、これまた珍しい料理が乗っていて。
「豚の耳、か。確か夕凪のお母さんが好きなんだっけ? コリコリした食感の料理……っと言うか食材か」
「そうだね。3日に1回くらいのペースで軟骨食べてるしね」
そんな風に料理を囲んで談笑していると、ふと、窓の外に白いものが見えた。
何だろうかと窓の外に目を向けると、雪が深々と降り積もっていた。
「わぁ、雪だ。いつの間に」
「俺が帰ってるときには降って無かったから、ついさっきだろうな。この調子なら、明日は積もってるかな」
「ホワイトクリスマスってのも乙なものだねぇ」
「この辺りでクリスマスに雪が積もるのも珍しいしな」
珍しく降り積もっている雪に少し心躍らせながら、自分のグラスにシャンパンもどきみたいな飲み物を注ぐ。多分ノンアルコールのスパークリングワインって奴か? 近所のスーパーで適当に買ってきたからよく分かんないんだよな。
和風メニューだけなら緑茶でいいんだが、洋風メニューには微妙だしな。このシャンパンもどきも和食にはあまり合わないんだが……まあそこは雰囲気重視ってことで。一応冷蔵庫には緑茶があるし、どうしても緑茶の方が良いってなったら、取りに行けばいいしな。
「じゃあ、食べちゃおっか」
「だな。冷めないうちに」
夕凪がグラスを掲げ、少し遅れて俺もグラスを掲げる。
ふと、夕凪の薬指の指輪が目に留まる。俺の手に目線を向ければ、俺の薬指にも同じ指輪が嵌っている。
同じ店に注文したところ、『多分そうなるだろう』とか予想されてたらしく俺の分の購入は非常にスムーズに終わった。
この指輪を見るたびに、なんだか無性に嬉しい気分になる。
これから先のことなんて誰にも分からない。当然、楽しいこと、嬉しい事だけじゃなく辛い事、苦しい事だってあるだろう。
それでも、夕凪と一緒ならどんな困難でも乗り越えていけると、そう感じるんだ。
この先の長い人生を、大切な人と過ごせる幸せを噛みしめながら、一日一日を生きていこうと、そう思えるんだ。
「「乾杯!」」
以上で本作は完結となります。この後に後書きも投稿されているので、よかったらそちらもご覧ください。
<今回のオリジナル要素&ネタ解説>
・夕凪の誕生日
『キャラ紹介(裏)』を見返すと、PvPイベントの最終日と被ってた。丁度いいから使った。
・チタニウムの指輪
某ためにならない人のクソ雑魚フリスビーの動画を見ながら書いたせい。