ポケットモンスター グローイング   作:学園ハッサム

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試行錯誤中


1-前 ハロンタウンのユウリ

 引っ越す前の街で通ってたスクールの通知表にはいつも〈自主性に欠けている様子〉と書かれていた。けど、そんなのなくてもいいじゃん?だって、親や先生に言われたことをやってるか、周りに合わせてればいいんだもん。それで大体何とかなってる。

 親に言われたから勉強する、誘われたから遊びに行く、頼まれたから手伝う。流されるままに動くのはとても楽で、周囲からはそれなりの評価も得られる。わざわざ自分で何かしよう、やってみよう、そのために何が必要かなんて考えなくてもいいじゃん。

 

 親子そろってハロンタウンに引っ越してからも、そのスタンスに変化はなかった。ただ、引っ張る相手が変わっただけ。親に言われて勉強する、誘われて遊びに行く、頼まれて手伝う。環境が変化してやることは少し変わったけど、箇条書きマジックでね、ほら、何も変わってない。

 ああでも、友達付き合いの仕方は変わったな。前みたいな広く浅くから、狭く深くって感じに。ハロンタウンの同年代の相手がたった一人、隣の家のホップしかいないから。

 

 ホップは真っ直ぐでまぶしい。好きなものも、やりたいことも、将来の夢も決まってて、そしてそのための努力もしている。テレビ中継されてるポケモンバトルを録画して何回も観察、分析して。パートナーのウールーとバトルの特訓して。わたしとは大違いだ。隣に座って一緒にテレビの画面を見ていても、自分の横にいる気がしない。私がのんびり歩いているずっと前をポップは突っ走ってるように思う。嫉妬とかじゃなくてすごいなあ、眩しいなあって気持ちにさせられる。

 

 ……約束の時間までまだ、もう少しあるな。暇つぶしにスマホで動画でも見ようか。

 PokeTubeのガラルリーグ公式アカウントにて公開されている最新の動画をタップする。昨夜シュートシティで行われた今季のリーグ開催の式典のやつ。正式名称は忘れた。

夜空に花火が打ち上げられ、ローズ委員長がスタジアム中央に歩みを進める。この時点で歓声がすごい。でも、委員長が口を開くとともにそれはシュッと弱まる。カリスマ性がすごいな……。設置された花火のスモークとライトに包まれて、チャンピオンダンデとその相棒リザードンが登場すると、会場はこれ以上ないくらいに熱気に包まれた。無言でリザードンポーズを決める彼の前に立つのは、ナックルシティジムリーダーのキバナ。二人は不敵な笑みを浮かべて口を開く──

 

「おじゃましまーす!」

 

 玄関から聞こえてくる元気な声に、意識がそれる。この声は──ホップだ。出迎えたお母さんとの会話が聞こえる。

 

「あら、ホップくんおはよう。」

「へへっ、おはようございます!待ちきれなくて来ちゃいました。ユウリいますか?」

 

 PokeTubeの画面を落とし、スマホをポケットにしまう。昨日用意したバッグを背負って、帽子をかぶって自室を出る。

 

「おはよう、お待たせホップ。じゃあ、お母さんいってきまーす。」

「おはようユウリ!それじゃあ、お邪魔しました!」

「いってらっしゃい!」

 

 お母さんの声を背に、家を出る。玄関の外にいたスボミーを一撫でして、階段を下りて。二人と一匹、並んで歩こうとしたところでポップが何かに気が付いた。

 

「あれ、ウールー?」

 

 見れば、一匹のウールーが小道の柵に【たいあたり】を繰り返していた。わたしの家の近くにあるこの小道、怖いポケモンがたくさんいるまどろみの森に続いているから絶対に行っちゃだめって言われてるやつだ。

 

「この耳についてるタグの色からすると、エドさんの家の子かな。」

「んー、ホントだ。おーい!柵を超えちゃ危ないぞー!」

「ぐもも?」

 

 件のウールーは、はて?と言うように首を……いや、体全体を傾げた。

 

「大丈夫かな……エドさんのとこまで送ってったほうが良いのかも。」

「柵にぶつかるのやめたし大丈夫じゃないか?心配だったら、後でエドさんにウールーのことを伝えておけばいいんだぞ。」

 

 それもそうか。もう一度、駄目押しに声をかけてわたし達はその場を離れた。昨日のエキシビションマッチの話や、昨シーズンの名バトルの話。ホップの話は尽きることがなかった。

 

「そういえばユウリ、オマエのカバンでかすぎだぞ!」

「そうかなあ?これ、お母さんのおさがりなんだよね。いっぱい物が入るし、気に入っているんだよ。」

「確かに収納量が多いのはいいな。それに、アニキがどんなポケモンをくれても平気だし。」

「まあね。ホップはどんなポケモンもらうか決めた?」

「それがさ、電話でアニキにどんなポケモンくれるのかって聞いたんだけど、「お楽しみだぜ」って笑ってて教えてくれなかったんだ。」

 

 口をとがらして見せるホップにわたしとウールーは笑いをこぼす。それにつられるようにホップも笑った。

 

 

 

 野生のポケモンに遭遇しないように気を付けて、ハロンタウンからブラッシータウンに続く道路を抜けたわたし達を待ち構えていたのは、駅の入り口を囲む人だかりだった。その多くが手にスマホを持っている。

 

「もしかして、ダンデさんが帰ってくるって情報が漏れていたのかな。」

 

 思わず漏らしたわたしの声に反応したホップがスマホを取り出した。その画面を覗くと、SNSのトレンドランキング下位にダンデさんの名前が。有名人にプライバシーはないのか。

 

 スマホをいじったり、ホップと話したりして待ち人が来るまでの時間をつぶしていると、鉄道が駅に到着したというアナウンスが聞こえてきた。人々が騒めき立つ。ほどなくしてその姿が見えた。

 

 テレビで見たままの、王者ダンデだった。身長で言ったら、後ろに立ってる彼のリザードン(平均よりも20 cmくらい大きいんだぞ!とホップに教わった)より少し小さいくらいだから180 cm前後か。それなのにもっと大きく見える。

「おかえりー!」「チャンピオン!!」「サインくださーい!」黄色い悲鳴、野太い悲鳴、青い悲鳴。手に掲げられたスマホからはフラッシュが彼に向けられる。わたしは思わず目をつぶってしまったのに、ダンデ(チャンピオン)は動揺のどの字もみせない。声援にこたえるようにリザードンポーズをした。

 

「ブラッシータウンのみなさん!チャンピオンのダンデです!みなさんのためにも、これからも最強の勝負をします!!」

 

 人々は沸いた。「われらが無敵のチャンピオン!」「あんたとリザードンは最高だ!」老若男女、あらゆる人が彼に夢中になっている。

 

「サンキュー!みんなもポケモンを育ててどんどん勝負してくださいよ!」

 

 ふと、ホップの方を見ると、彼は自分が褒められたかのように喜んでいる。大好きな兄が褒められ、認められているさまを見て自慢気に腕を組み、笑っていた。

 

「そしてチャンピオンのオレに挑戦してくれ!」

 

 「挑戦します!」「でもチャンピオンのリザードン強すぎるよ」幼児たちが手を握って言う言葉にダンデは笑みを見せた。そして軽く目を伏せる。

 

「たしかにリザードンは強い!ほかのポケモンたちも強い!だからこそ!」

 

 その言葉にむくれる子供たちに向かって、ダンデ(チャンピオン)は力強い笑みを見せる。

 

「だからこそ最強のチャレンジャーと戦いたい!」

 

 腕を組み挑戦的に笑う彼に、全員の強い視線が集まる。

 

「オレの願いはガラル地方のポケモントレーナーみんなで強くなることだからね!」

「ばぎゅあ!!」

 

 追従するようにリザードンが吠え、空に向かって【かえんほうしゃ】を放つ。先ほどよりも強く、大きく、全員がわっと沸いた。わたしの体は震えた。すごい、これがチャンピオンなんだ。今まではダンデ(チャンピオン)に熱狂する人たちのことを斜に構えてみていたが、もうそんなことはできなくなってしまった。

 

「アニキー!」

 

 人ごみの最後列にいたホップ(とわたし)を見つけて、ダンデさんはさっきまでとは違った笑顔を見せる。

 

「ホップ!」

 

 真っ直ぐ歩むダンデさんに自然と人垣が割れた。

 

「世界一のチャンピオンファンがわざわざ迎えに来てくれたか!」

 

 せっかくの兄弟の時間を邪魔したくないな。こっそりと、ちょっとだけ移動する。

 

「ホップ!オマエ背が伸びたな!そうだな……ズバリ3センチ!」

「正解!さすがアニキ!無敵の観察力なんだな!」

 

 和気あいあいと兄弟が会話するのを邪魔しないように、集まっていた人たちは静かに解散していく。リザードンがのっしのっしと歩いてきた。

 

「アニキ、紹介するよ。友達のユウリだ!」

「はじめまして、ユウリです。」

「はじめまして。弟からあれこれ聞いてるぜ。オレはガラル地方最強、そしてリザードン大好きなポケモンチャンピオン。人呼んで≪無敵≫のダンデだ!」

 

 差し出された手は大きく分厚い。おそるおそる手を重ねると、わたしの手がすっぽりと包まれてしまった。

 

「アニキ!ユウリ!家まで競争だぞ!」

 

「よーいどん!」と叫んで元来た道に走ってくホップ。ええっ、急すぎるよ。わたしは慌てて追いかける。

 

「ホップのやつ……相変わらず勝負好きだぜ。いい競争相手がいればアイツももっと強くなるのにな

 

 走り出したわたし達に置いて行かれたダンデさんが感慨深げに何か言っていた。ホップに追いつこうと必死になっていたわたしには途中からよく聞こえなかったけど。

 

 

 

 




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