ポケットモンスター グローイング 作:学園ハッサム
ブラッシータウンの駅からホップの家までの競走は泥沼展開だった。
わたしがホップに追いつこうとしたその時に、「ふっふっふ、オレのほうが速いぜ!」と余裕そうなダンデさんが後ろから迫ってきたときは、あわや私がビリっけつかと思ったが、なぜかダンデさんはそのまま分岐路を逸れていく。もしやわたし達のためにハンデをくれたのか…?と考えていたところで、ダンデさんに合わせて飛んでいたリザードンが修正する。わたし達に追いつきそうになったところでまた道を逸れていくダンデさんをリザードンが誘導することの繰り返し。一着ホップ、惜しくも二着わたし、三着ダンデさんとリザードン。
精神的疲労でぐったりしているリザードンはいったんボールにしまわれたところで、さっきからうずうずとしていたホップが待ちきれず、話を切り出す。
「アニキ!約束のプレゼントは!?オレとユウリにポケモンをくれるんだろ!」
ダンデさんは両腕を腰に当て、にんまりと笑った。
「最強のチャンピオンから最高の贈り物!すてきなポケモンたちによるごきげんなアピールタイムだ!どんなポケモンたちか、よくみろよ!」
ダンデさんが片手に持った3つのボールをバトルコートに放った。くさのポケモン、サルノリ。ほのおのポケモン、ヒバニー。みずのポケモン、メッソン。
出てきたポケモンにホップもわたしも感激して思わず声が出る。登場シーンだけじゃなく、走ったり、泳いだり、木登りしたり、そういう何気ない動作にさえ声が出てしまうあたり、二人ともポケモンたちにメロメロだ。
「オーケー!みんな集まって!」
機を見てダンデさんがかけた呼び声に、近寄ってきた三匹がにっこりしながら整列する。
「さあ、二人はだれを選ぶんだ?」
どうしよう、どの子も素敵で可愛くて選べない。ホップはもう決めたのかな?助けを求める気持ちでちらりと隣を見ると、目が合った。
「先に選んでいいぞ!オレにはウールーもいるからな。」
腕を頭の後ろで組みニカッと笑うホップ。その優しさ、今は求めていないんだ……。そんな、三択から決められないよ。
膝を曲げて三匹と目線を近づける。興味を持って近づいてくるヒバニー、手に持った棒でツンツンと突っついてくるサルノリ、びっくりしてぴょんと後ろにとんだメッソン。
「あ、あの、」
声が掠れてしまった。ごくりと唾を飲み、もう一度。
「わたしはまだバトルについても、あなたたちについても全然知らない。けど、いっぱい勉強するから!一緒にいて楽しいって思ってもらえるように努力するから!わたしのパートナーになってもいいよって思ってくれませんか!」
バッと三匹の方に右手を差し出して顔を伏せる。世界で一番長い1分が経って、だれもパートナーになってくれないんじゃないかって泣きそうになった時、ぴとりと私の手に触れた手が。それは湿っていて細長く、小さな手だった。
そろりそろりと顔を上げると蒼い瞳と目が合った。その子はびくりと体を震わせたが、それでもわたしから目を外さなかった。
「さすがみずタイプのメッソン!たゆたう水のようにおおらかだ。みずのポケモンメッソンにするのかい?」
「はいっ!~~~っ、はい!わたしのパートナーになってくれるのはメッソンです!よろしくね、メッソン。抱っこしてもいい?」
「め、めしょ……」
嫌そうじゃなかったから恐る恐る抱き上げる。メッソンはもぞもぞと体を動かしていい感じのポジションに落ち着いた。
「良かったなユウリ!」
「うんっ!」
ホップもダンデさんもおめでとうと、笑った。さすが兄弟。二人が似た表情で祝ってくれるものだから、わたしは照れくさくなってメッソンの頭頂部に顔をうずめた。
「じゃあ、今度はオレの番だな。へへっ、実は一目見た時から決めていたんだ。」
ホップは迷いなく前に出た。
「オレのパートナーはヒバニー!オマエだぞ!」
選ばれたヒバニーが嬉しそうにぴょんぴょん跳ぶ。ホップが膝を折り、前に出した両手を広げるとそこにヒバニーはハイタッチをした。
「オレはチャンピオンめざしてるからオマエもビシビシ鍛えるぞ!よろしくな!ヒバニー、こっちは仲間のウールー」
ウールーが「ぐめめ」と鳴いて体を揺らしたら、ヒバニーも「にばっ」と笑った。うーん、可愛い。二匹は仲良くなれそうだ。
「ホップもおめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとな、ユウリ、アニキ!」
これでメッソンはわたしのパートナーに、ヒバニーはホップのパートナーになった。あれ、じゃあサルノリはどうするんだろう。こっそりと見ると、サルノリは二匹の門出を笑顔で祝いつつもどこか悲しげだった。
「さて、サルノリ。キミはオレといこう。オレのリザードンは強く、優しく、そして厳しいぜ!」
「るっき!」
サルノリはダンデさんが差し伸べた手に勢いをつけて飛び乗った。腕を伝い方まで登ると、うれしそうに顔をダンデさんの頬にこすりつける。よかった、一人ぼっちになってしまうサルノリなんていなかったんだ。
「ほらみんな、ごはんができたわよ。ポケモンもいっしょに食べな!」
お母さんとホップママが大皿に切った野菜と肉をたくさんのっけて、ホップの家から出てくる。今夜はバーベキューだ。
昨夜は楽しかった。
ダンデさんのリザードンが力強い炎を使うのは動画で見て知っていたけど、あそこまで繊細なコントロールも身に着けているなんて知らなかったなあ。バーベキューの火起こしも、ちょうどいい塩梅の火を噴いてくれたおかげでずいぶんと助けられた。すごいすごいと感心するわたしとホップに、「リザードンの火にはオレもキャンプですごい助けられたんだぜ!」とドヤ顔するダンデさんと渋い顔をするリザードンの対比に笑いをこらえるのは大変だった。ホップが好きなものをぎゅうぎゅうに串に刺して「ホップスペシャルだぜ!」と自慢したら、それに対抗したダンデさんが串の三本使いをしてみせて。
お腹が満たされた後はメッソンのケアの仕方を教わったし、ホップと一緒にバトルの話を聞いたり。芯をくり抜いたナナシの実とバターと砂糖をアルミホイルでくるんで金網の端で焼いてたら、リザードンが魅惑の火加減で美味しく仕上げてくれて。わたしとメッソンとリザードンで仲良く分けてたら、対抗心を燃やしたヒバニーがうっかり第二陣を焦がしてしまって。
後片付けをみんなでやったら解散して、歯を磨いてシャワー浴びて、メッソンと同じベッドでぐっすりと眠った。
翌日は先に起きたわたしがメッソンを起こして、顔洗って歯磨いて朝ごはんを一緒に食べて。歯磨きして身支度整えて。約束の時間まで一緒に映画を見た。以前録画したカクレオンが主役のスパイ映画と、河口に住むコイキングが河を上り滝登りついには天をも駆け上るスーパーアクション映画。どちらも手に汗握るいい展開だった。
映画を見終わったらちょうどいい時間だった。鞄と帽子を身に着けて、メッソンと一緒に家を出る。メッソンの抱え方も昨日今日でずいぶんとこなれたもので、一発でいい感じに抱っこできた。昨日みたくメッソンがいい感じのポジション探しをする必要がないくらいに。
「相棒のポケモンと長い夜をすごしたんだ。大事なパートナーへの愛と理解は深まったよな!」
ホップの家の庭で出迎えてくれたダンデさんがわたし達を見て、ニカッとした。わたしとメッソンは照れ笑いをする。ホップは足元のヒバニーとウールーとおんなじ顔で頷いてる。
ダンデさんはまじめな顔を作った。自然とこちらの背筋が伸びる。
「いいかポケモントレーナー!自分とポケモンを信じろ!お互いを信じあい、戦い続けていつかは……無敵のチャンピオンであるオレのライバルとなれ!」
「なんだよ!アニキと戦うのはオレだぞ!」
反射的にホップが返した言葉に、わたしも内心同意する。あんなに頑張ってるホップなら、きっとダンデさんと大舞台で戦う日が来るんだろう。
「ホップ、ユウリくん。競い、争う相手というのは己の成長に必要不可欠で、得難いものだ。オレがチャンピオンになれたのも、そういう相手に恵まれたことが大きな理由の一つなんだぜ!」
「よーし!だったらユウリもいまからオレのライバルだ!絶対に負けないぞ!!」
「わたしも頑張る。」
ふんすと気合を入れたのは、ホップにライバル認定を受けたことがちょっぴり誇らしかったからか、二人の情熱に当てられたからか。
「ポケモンを連れていればだれもがポケモントレーナー!いいか!ポケモントレーナーはポケモンを戦わせ、育てるんだ。」
わたしに向き合ったホップの言葉に、ダンデさんが頷く。
「オマエたちがポケモントレーナーかどうか、オレが見届けよう。ふたりで勝負するといい!準備ができたら教えてくれよ。」
「準備ならもうばっちりさ!な、ユウリ!」
うん、と頷いた。腕の中のメッソンもおどおどしながらも、やる気を見せている。
「じゃあ、人生ではじめてのポケモン勝負をする二人にオレからとっておきのアドバイス!パートナーのポケモンを信じろ!心から大事にするんだ!」
「おう!」
「はい!」
「それでこそポケモンの強さを示す技を選べるし、なにより勝負も楽しめるぜ!」
ポケモントレーナーの先達からの言葉を胸に、わたしとホップは庭先のバトルコートで向かい合った。
「ようしポケモンとトレーナーもノッてるよな?さあ、はじけようぜ!」
審判ダンデさんのその言葉で、戦いの火蓋は切って落とされた。
次回 はじめてがいっぱい