ポケットモンスター グローイング   作:学園ハッサム

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2-前 はじめてがいっぱい

 ダンデさんと同じフォームで投げられたボールから出てきたのはウールーだった。

 

「ポケモン勝負!オレには仲間が2匹いるんだぞ!」

「ぐめめ!」

 

 腕を前に突き出して挑発的に笑うホップ。わたしは山なりにボールを投げる。

 

「頑張ろうメッソン!」

「め、めそ!」

 

 こちらがいろんな面でかなり不利、心細い。それでも表情に出さないように意識して声を張り上げると、メッソンも大きな声で自分を鼓舞した。ダンデさんに言われた通りに、メッソンを信じることを意識してやってみよう。

 

「メッソン、【はたく】!」

「め!」

 

 メッソンは今まで見た中で一番素早い動きでウールーにとびかかって、頭をはたいた。やった、当たったと気色ばむわたしたち。

 

「ふっふっふ、効かないんだぜ!ウールー、【たいあたり】でメッソンを吹き飛ばせ!」

「ぐめ!」

 

 メッソンの軽い体ではウールーの【たいあたり】を受けては、ひとたまりもない。コート外の池の方に吹っ飛んだ。

 

「メッソン!」

 

 駆け寄ろうと踏み出したところに、「ユウリくん!」と審判から制止の声が。

 

「バトル中のトレーナーはそこから動いちゃダメだ!」

「でも、メッソンが!」

「試合前のアドバイスを思い出せ。キミがすることは?」

「……パートナーを信じること。」

 

 池から聞こえるびちゃり、びちゃりという音。よかった、メッソン大丈夫だったんだ。審判の方向からそちらへと顔を向ける。びしょびしょの足跡が池からバトルコートへと続いていた。けれどメッソンの姿は見えない。

 

「……メッソン?」

「そめっ!」

 

 わたしのポカンとした声には返す言葉がある。

 

「見えない──透明になってるの?」

 

 カクレオンみたいになってるのかな?わからないことを知っているケースに当てはめて、理解しようとする。透明になっているのはダメージを受けたから?それとも、一度コート外に出たから?

 うめき声が聞こえた気がした。バッと見れば、コートを挟んで向こう側の一人と1匹が目を走らせていた。

 そうか、これはチャンスなんじゃないの。向こうからしたらメッソンの居場所がわからないから、攻撃ができないんだ。

 

「メッソン、音をたてずにウールーに近づいて。映画のカクレオンみたいに」

 

 ただし、居場所がわからないのはトレーナーのわたしも同じ。意図が伝わっていると、きっとやってくれていると信じるしかできない。

 どこからくるのか、警戒してウールーがきょろきょろと首を動かす。よし今!

 

「ウールーの鼻先に思いっきり【はたく】!」

「そめっ!」

 

 透明の張り手がウールーの顔面を襲う。ぐらり、とウールーの体が倒れた。ジャッジが下る。

 

「ウールー、戦闘不能!」

「急所!?すごいなオマエ」

 

 目を見開いたホップからの賛辞に頭をかいた。ホップはボールに戻ったウールーにおつかれ、と声をかけてから2つ目のボールを取り出した。

 

「まだだぞ!オレにはもう一匹、頼れる仲間が増えたんだぞ!!」

 

 青白い光に包まれてヒバニーが出てくる。あっ、しまった今メッソンがどこにいるのかわからない。居場所を把握しないと。

 

「メッソン、ヒバニーに向かって【はたく】!」

「ヒバニー受け止めろ!」

 

 ヒバニーは【はたく】をくらったあと、ぎゅっと抑え込むような姿勢を取った。

 

「め、めそ~!」

「メッソン!」

 

 じたばたとする音、そしてだんだんとメッソンの姿が見えてきた。

 

「どうだ!透明化は見破ったぜ!」

「にばーっ!」

 

 脱出しようともがくメッソンを抑え込もうと、ヒバニーの体勢が抱え込む形から上から押しつぶす形に変わってく。わたしが何とかしなきゃ。何とか、何とか……どうやって?

 必死で考えている間にメッソンの動きも声も小さくなった。

 審判が近づいて確認する。

 

「メッソン、戦闘不能!ヒバニーの勝ち!よって勝者、ホップ!!」

「やった!やったぞヒバニー!!」

「にばーっ!」

 

 ハイタッチをして喜ぶ勝者たち。……初めてのバトル、負けちゃったなあ。

 

「おつかれさま、メッソン。」

 

 抱き上げたメッソンの頭をやさしくなでる。ぐずぐずになった顔を私の胸元にこすりつけるメッソンの姿に、わたしも涙が出てきた。

 

「ユウリ!オマエとメッソン、強かったんだぞ!」

「ホップ達こそ。メッソンが透明になった時はいけると思ったのに、まさか負けちゃうなんて。」

 

 近づいてきたホップの両目にも光る雫が。わたし達につられてしまったのか、はたまた勝利を喜ぶ涙か。

 

「どちらのポケモンもナイスファイト、グッドファイト!思わずリザードンをだして参加するところだった……」

 

 やり取りを見守っていたダンデさんはだらだらと涙を流しながら満面の笑みで、わたしとホップの頭をガシガシと撫でた。ってあれ?

 

「なんでアニキも泣いてるんだよ」

「い、いやこれは……」

「ぞめ゛ぇぇぇぇぇ」

「そ、そんなに泣かないでよー」

 

 親が子供にやるみたいにメッソンの頭をなでる。あ、あれわたしも溢れる涙が止まらない。むしろ頬を伝う滴は増えるばかり。こんなにもわたしに共感性があったのか。

 

「こ、これはメッソンの催涙効果だ、グスッ。メッソンの涙は玉ねぎ100個分の催涙成分を含んでいるんだ、グスッ。」

「え、えええええ!?グスッ」

「な、泣かないでー。うう、泣かないでよー、メッソン。」

 

 わたしたちは涙だらだら、鼻声でメッソンを泣き止ませようと頑張った。

 

 

 

 疲労したポケモンたちに適切な処置をして回復させた後、ダンデさんからのバトルの講評を受けた。良いところを褒められ、悪かったところについてどうするべきか意見を出し合った。

 

「アニキ!オレはもっともっと強くなりたい!ポケモンジムに挑ませてくれ!」

「メッソン、バトルの間楽しそうだった。わたしも、この子にもっと楽しいって思ってもらいたいから……ポケモンジムに挑戦してみたいです。」

「なるほど……!ガラル地方最大のイベント、ジムチャレンジに参加したいのか。」

 

 ダンデさんは嬉しそうに破顔した。

 

「わかった!二人とも、もっとポケモンにくわしくなれ!ポケモン図鑑を手に入れるんだ!愛と情熱が詰まったポケモン図鑑を使えば、ポケモンの強さなどもわかる!」

「よし、ユウリ!ポケモン図鑑をもらうならポケモン研究所だ!」

「待って、遠出するならお母さんたちにも言っておかないと。」

 

 今にも駆けだそうとするホップが踏みとどまる。

 

「それもそうか。今ごろはユウリん家で、母さんとおばさんが一緒にお茶してるから……ユウリん家寄ってからだな!」

「博士にはオレから連絡しておくよ。」

 

 ダンデさんは「スマホ、スマホ」とつぶやきながら家の中に戻った。さすがに実家で、目と鼻の先にあれば迷わないんだな。昨日のはたまたま?

 バゴーンッ!!と何かが壊れる大きな音が聞こえた。それは空耳じゃないようで、ホップも目を丸くしている。

 

「今の音って?」

「ウチの方から聞こえたよね……」

「よし、行くぞ!」

 

 小川を超えて、家の前まで走ってきた。何かに気づいたホップに肩を叩かれる。あそこ、と指さすほうにはバラバラになった木片が散らばった小道が。

 

「昨日、あそこにいたウールーが【たいあたり】を繰り返してたよな。」

「まさか、まどろみの森に行っちゃった……とか?」

 

 二人で見合わせていた顔がサッと青ざめる。

 

「どうしよう?」

「助けに行かなきゃ!覚悟決めてさ、ビシッと行くぞユウリ!」

 

 ホップは怖気づいてしまうわたしの手を引く。

 

 

 

 まどろみの森は視界が悪かった。天高く伸びた木々で差し込む日光のほとんどが遮られ薄暗く、立ち込めた霧で前も見通せない。おまけに、湿った土やうっそうと茂る草やコケで足場も悪い。転んでしまいそうだ。

 

「ウールーのやつ、どこに行ったんだろうな?」

「早く見つけないと!」

 

 ひそひそと囁く。野生のポケモンに備えて、わたしはメッソンを、ホップはヒバニーを出した。

 

「ウールー、どこだー!」

「居たら返事をしてー!」

「にばー!」

「めそー!」

 

 野生のポケモンを刺激しないよう、声を潜めて呼びかけるが返事はない。入り口付近にはいないのかも、と奥に歩みを進めるがウールーは見つからない。

 時たま、ゴソゴソと立つ物音の方を期待して見てみても、ホシガリスやココガラが飛び出してくるばかり。びっくりさせてごめんね、と謝りながらも捜索を続けていると、突如、ポケモンの咆哮がかりそめの静寂を割いた。

 

「なんだいまの!?」

「なにかの鳴き声みたいだったね。」

 

 バクバクとする心臓を抑える。メッソン達よりもずっとずっと強そうな──ひょっとすると、ダンデさん(チャンピオン)のリザードンと同じくらいに強そうなポケモンの鳴き声だった。鳴き声のもとは遠くにいるようで、それでいて近くにいるようで。どこから聞こえてきたのかわからないのが恐ろしかった。

 

「ウールーが心配だぞ!早く見つけないと!」

 

 わたし達の焦燥とは裏腹に霧は濃くなっていく。下手に別行動をとったらそのままはぐれてしまいそうだ。わたし達はそれぞれ出していたポケモンを腕に抱える。さっきよりも近づいて、おそるおそる前へ踏み出した。

 

「なんだかイヤな感じの霧だな。大人が入っちゃいけないって言うのもわかるぞ……」

 

 ホップが漏らした言葉にポケモンたちが鳴いた。わたしも同意を返す。

 

「うるぉーど!!」

「うるぅーど!!」

 

 突如、至近距離から二つの咆哮が聞こえた。そこには青い(ポケモン)と、赤い(ポケモン)。色鮮やかで色あせている、猛々しくも恭しい。相反する二つの印象を保持する二頭が並び立っていた。耳元で鼓動がドクドクドクと速い音を立てる。

 

「なんだコイツら……!?」

 

 目の前にすれば存在感に溢れた存在なのに、こんなに近くに来ても全く気が付かなかった。巨体の持ち主は足音一つたてずにわたし達に接近したのか。

 今のわたし達じゃあ戦う舞台にすら立てない。それなら逃げないと。

 

「っ、メッソン【みずでっぽう】!」

「ユウリ!?」

 

 威嚇もかねて攻撃して、その隙に逃げる。腕の中のメッソンが【みずでっぽう】を放とうとするのを妨害しないよう、上半身を動かさずにホップの手を取る。この状況に、わたしの行動に、目を白黒とさせているホップはそれでももう片方の手でヒバニーを固く抱きしめている。

 

「えっ、コイツ……!?」

「そんな、攻撃が効いてない!?」

 

 メッソンの【みずでっぽう】は当たったのに当たらなかった。まるですり抜けるかのように。

 それならもう、逃げるしかないじゃん。握りしめたホップの手を引っ張り、元来た方向へ走り出す。霧がどんどん深まってくる。

不思議なポケモンがじっとみつめる視線を背に感じる。

 

「ユウリ!なにもみえないけど大丈夫か!?」

「わたしとメッソンは大丈夫!ホップとヒバニーは!?」

 

 悪すぎる視界、息を荒げてかわす言葉に気を取られているところだった。いつのまにか、青い(ポケモン)が眼前へと姿を移していた。

 

「回り込まれた……!」

「霧がさっきより濃くなってなにもみえないぞ!」

 

 後ろからは赤い(ポケモン)が迫ってくる。

 

「うわぁあああ……!」

 

 

 

 




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