ポケットモンスター グローイング 作:学園ハッサム
あの後、わたし達は探しに来たダンデさんに気絶していた状態で発見され、連れ帰られることになった。大人たちにひどく叱られ、かけてしまった心配の大きさをわからされた。ちなみに、まどろみの森に入る原因となったウールーは、わたし達を探す最中のダンデさんが発見し保護してくれていた。
ポケモン図鑑をもらいにブラッシータウンの研究所に行くのはまた次の日となり、一日反省しました。しましたとも。
そして翌日。
おこづかい、きずぐすり、モンスターボールなどトレーナーの必需品が入ったカバンを背負ったわたし達は連れ添ってここ、ブラッシータウンのポケモン研究所に足を運んだのだった。
「昨日は大変だったみたいね。まどろみの森に入るなんて、危険だったでしょう?」
ポットからおしゃれな茶器へ紅茶を注ぐソニアさんが笑いながら言った言葉に苦笑いを返す。
「幸いにもケガすることなくすんだんですけどね、大人たちにはたっぷり怒られました。」
「あはは、でもそれだけ心配かけたってことよ。」
「反省したぞ。」
人数分のティーカップとシュガーポットをのせたトレーをテーブルに置く。わたしとソニアさんが配膳している間、ホップは戸棚からお茶菓子の入った籠を出してきた。
「ダイマックスの秘密は100パーセントあきらかに?」
「いえいえそんな……まだまだ謎ばかりですよ。孫がひきついでくれれば……そんな風に考えていましたが」
「はい、おばあさま、ダンデくん。今日の紅茶はピュアダージリンティーよ、お好みでシュガーをどうぞ。」
「ああ、すまないソニア。オレも手伝えればよかったんだが……」
椅子に腰かけ苦笑するダンデさんの膝にはワンパチが。リラックスした顔で耳の付け根を掻いてもらっている。
「ホップ、ユウリ。ちょうど今、あなたたちのスマホロトムにポケモン図鑑のインストールが終わったところですよ。」
「ありがとマグノリア博士!」
「ありがとうございます。」
ダンデさんとさっきまで話していた老齢な女性──マグノリア博士は、ガラル地方のバトルの最大の特徴ダイマックス、その研究の第一人者というすごい人だ。
早速確認を……といきたいところだが、せっかくのティータイムにやるのは失礼に当たるかな。我慢するとしよう。
スマホに伸びてしまいそうな手をティーカップに固定するわたしの横で、ホップの手はスマホの画面をスワイプしていた。
「ダンデったらいつもポケモンのことばかり。いろんな紅茶があることを知っているのも大事ですよ。」
「そうよ。もう少し、他のことに気を配ってみてもいいんじゃないの?」
アハハとごまかすように笑うダンデさんが、新鮮だった。だって今まで見たのは、チャンピオンとしての顔、ホップのアニキとしての顔だったから。
「なー、博士。昨日見たポケモン。この図鑑に載っていないんだぞ。」
首をひねったホップが博士に問いかける。そんなばかな。とうとう我慢できなくなったわたしの手もスマホに伸びる。検索画面にて、あのポケモンたちの情報を入力していく。えーと、四つ足で、大きさはかなり大きかったから2~4メートルってところか、色は……。霧越しに見えたシルエットを思い浮かべながらサーチ。
「あれ、本当だ。どっちも載っていないね。」
「だろ?」
赤いほうも、青いほうも。どちらも出てこなかった。
「オレが二人のもとに着いた時にはどちらもいなかったし、足跡も残っていなかったんだが、リザードンも野生のポケモンも妙に興奮していた。」
「もしかしたら、新種のポケモンかもね。」
カップを片手に、冗談交じりに言ったソニアさんにホップは目を輝かせる。
「新種のポケモン!きっとそうなんだぞ!」
それはロマンがあるなあ。昨日感じたあのゾクゾク感はいったん棚に上げ、わたしも胸躍らせる。ダンデさんもまた、新種のポケモンである可能性に心ときめかせているようだ。目を輝かせる私たち三人を見守るマグノリア博士とソニアさんの目は温かく、そしてそっくりだった。
「そういえば、二人はとうとうポケモントレーナーとしての第一歩を踏み出したじゃない?これからの目標とか、もう決めた?」
カチャリ、とティーカップをソーサーに戻したソニアさんが思いついたように話す言葉にホップがサメハダーのように食いついた。
「もちろん!オレはジムチャレンジに勝って、勝って……!大勢の観客の前でアニキとシュートスタジアムで戦うんだ!!」
「わたしは、メッソンが楽しいと思えるようなバトルをしてみたいです。」
「ねーねー、博士からもアニキに頼んでよ。オレたちをジムチャレンジに推薦しろって。」
「そうね、ダンデ、どうして推薦しないのかしら。」
マグノリア博士は穏やかな笑みを浮かべながらダンデさんに問いかける。
「ホップもユウリも、ポケモンと出会ったばかりの未熟なトレーナーなんですよ。」
「おやおや。あなたの願いは、ガラルのみんなが強いポケモントレーナーになることよね。」
「あっ……!そういえばそうでしたね。大事なことを忘れていたぜ。だからポケモンを託したのだった。」
どことなくあどけなさを感じさせる表情でダンデさんが頭を掻いた。
「確かに、一昨日からの二人からは可能性を感じさせられた。……チャンピオンのすいせんじょう、オマエらに渡すしかないぜ!」
「サンキューアニキ!オレ、ジムチャレンジで勝ちあがるぞ!なあ、ユウリ!鍛えあって2人でチャンピオン、目指すぞ!」
「えっ、いっしょに?」
「だってオマエはオレのライバルだぞ!当然だろ!」
はちみつ色の瞳をたぎらせてホップが言った言葉にわたしの心も熱くなった。
「……うん、うん!わたしとメッソンも、ホップとウールーとヒバニーと、スタジアムで戦ってみたい、いいバトルがしたい。」
自然と言葉が口に出た。「いいなそれ!でも勝つのはオレだぞ?」と不敵に笑うホップに、「今度はわたしたちが勝つもん!」と対抗心を露わにするわたし。そして、なぜだか一番対抗心を燃やすのは、ダンデさんの膝の上でくつろいでいたワンパチだった。場に笑いがはじける。
「ん?なんだアレ!?」
ホップの目線を追うと窓の外には赤い線が走っていた。いや、違うあれは……流れ星?
「えっ、なんかこっちに来てない?」
口元をひきつらせたソニアさんが現実逃避をするようにつぶやいたのとほぼ同時に、ダンデさんは窓を開けてそこから飛び出た。それと併せてリザードンをボールから出した。
「リザードン、あれが落ちて町に被害を出さないようにするぞ!」
「ぐるぉぉぉお!」
にらみつけるように一人と1匹は空を見上げタイミングを見計らう。
「【かえんほうしゃ】!」
「ぐるぉぉぉおおお!」
リザードンはグッと体をそらして口を大きく開く。今までバトル動画で見たよりもずっと長い溜めをかけて、放たれた【かえんほうしゃ】はほのおエネルギーに満ち満ちていた。
直線的な軌道で、【かえんほうしゃ】と隕石は衝突した。隕石が落下する速度が徐々に緩やかになっていく。
「アニキ!」
窓枠に噛り付いてみていたホップがいつの間にか、外に出ていた。室内に残されたわたし達もあわてて後を追う。
わたしよりも先に外に飛び出ていったワンパチが吠える声が聞こえる。ホップがそれをなだめる声も。
ワンパチが吠える先──隕石が落ちた場所を見るとそれはまだ光を放っていた。でも、脈動のように点滅を繰り返すにつれ赤いエネルギーは収束していっている。
「これは……ねがいぼしか!落下の衝撃か、2つに割れてしまったようだが。」
大人たちが驚く声。それに食いついたのはホップだ。
「おいっユウリ、ねがいぼしだぞ!!あれがあれば、オレたちのポケモンがダイマックス!でっかくなるぞっ!!」
ダイマックス。テレビで見ていたあれができるようになるすごい石が降ってきたのか。
「え、なにそれ欲しい。」
「だろ!……オレたちにくれないかなぁ。」
話し合っている大人たちにわたしたちは期待のまなざしを送る。願い星を拾い上げたダンデさんがわたし達を手招く。
「ねがいぼしは本気の願いを持つ人のもとに落ちてくるという。きっと、二人の願いにひかれてここに来たんだ。これは二人が持つべきだな。」
「……!最強のトレーナーになる!なる!!なる!!!よし!3回唱えたし、これで願いがかなうはずだぜ!」
へへっ、と笑みをこぼしたホップがダンデさんからねがいぼしを受け取る。それならわたしは、
「いいバトルをする、する、する!」
ダンデさんから受け取ったねがいぼしは、大きさの割にずっしりとしていて温かい。指で撫でると、ほんのりと光を放った。
「ホップ、ユウリ。ねがいぼしは未知のパワーを秘めている不思議な石……いわばガラル地方の宝物。」
マグノリア博士は愛おしそうにわたし達が持つねがいぼしを一瞥した。
「ただ、そのままでは使えません。わたくしに預けてごらんなさい。」
「そーだよ!博士はダイマックスの研究家!」
そういえばそうだ。さっきまでの衝撃的な出来事で頭からスコーンと抜けていた。ここは専門家に任せるべきだろう。ホップと目を合わせ、頷く。
「オレとユウリにもダイマックスの力をくれよな!博士!」
「よろしくお願いします、博士。」
ねがいぼしを博士に託した。ホップは腕を頭の後ろで組む。
「まどろみの森では不思議なポケモンとも戦ったし、なんかすごいことが起きそうだ。オレ達の伝説の序章にはもってこいだな!」
「はしゃぎたい気持ちもわかりますが、それもほどほどに。明日からの旅立ちにさしつかえますよ。」
それもそうだな、と納得するホップ。ちょっと離れたところで、ニヤついた顔でダンデさんに肘を当てるソニアさんが印象的だった。
次回、場面転換してサトシに焦点が当たります