Fate/Thunderbolt Fantasy   作:16:25教

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なぜか筆が乗ったので初投稿です。


量才録用

宵の中、月明かりのみを手がかりに道を歩く集団がいる。

只人がひと目見れば異色に感じる彼らはしかし、見る人が見れば声も上がらぬ恐ろしき集団と思われるだろう。

しかし、彼らの歩く道にそれを気付く者など通らず、代わりにその集団が行く道先の宙に上がる不穏な煙の立ち上がりに気づいたのだった。

 

「あの煙は……!?」

 

交わりし奇譚の中核を成す存在、カルデアのマスターこと藤丸立香は視界に入る煙に指を差して誰に対してでもなく声を上げる。

その声へ真っ先に答えたのは先ほど協力関係を結んだばかりの間柄である、殤不患だった。

 

「おいおい、あっちは村がある方角だぞ!」

 

不患は以前にここを通った時の記憶をもとに叫ぶ。

それに反応したカルデアたちは藤丸の指示のもとその煙の発生源まで駆けて行った。

無論、彼らに置いていかれる不患ではない。同じく走って向かおうとするが、そこで連れの様子がおかしいことに不患は気づいた。

 

「何してやがる!俺たちもさっさと行くぞ!」

 

「急ぐのならば先に行きたまえ。私は少しばかり考え事をしながらゆくからな」

 

「てめぇ…そういうところが人でなしっていうんだよ!」

 

雪鴉の言いように不患は責める言葉を残しながらカルデアとともに煙があがる方向へと向かっていった。

雪鴉はその後ろ姿を眺めながら、宣言通り煙管を咥え、何事かを思案しながら道を歩いていくのであった。

 

 

***

 

 

場所は変わり、煙の上がる村に到着したカルデア一行。

彼らは着いたと同時に村の惨状に息を呑む。

 

「竜牙兵たちがこんなに…!」

 

アルトリアリリィが目の前の光景を見ながら呟く。

彼女の言う通り、村には多くの竜牙兵が押し寄せており人々を襲っていた。

 

「…っ! クーフーリンとメディアは竜牙兵の掃討! リリィ、私と一緒に村人たちの避難をお願い!」

 

目の前の光景に怒りをこみ上げながら、しかし藤丸は自分のサーヴァントたちに冷静に指示を出していく。

サーヴァントたちはそれに応答しながら、与えられた自分の役割に動こうとすると、それよりも早く行動を起こすものがいた。

カルデアと共に村に駆けつけた無頼漢、殤不患である。

彼は目の前の村の状況を目に写せば、すぐさま腰に携えた自慢の愛剣に手を掛け村人たちを襲う竜牙兵たちを切り捨てていく。

 

「ったく、どういうことだこれは!? なんでさっきの怪物どもが今度は村を襲うんだ!?」

 

「分かりません! でもこの状況は放ってはおけません!」

 

竜牙兵を散らしながら誰に対してでもなく叫ぶ不患に藤丸が同じく叫びながら答える。

藤丸の答えに不患は少し満足げに小さく笑い、今度は明確に藤丸に対して言葉を投げた。

 

「良い返事だ! だったらその心意気をさらに見せてみな! 俺もアンタの指示で動く! 良い具合に使ってみろ!」

 

「でしたらクーフーリンたちと一緒に竜牙兵をお願いします!」

 

「かしこまった!」

 

藤丸の即答に鷹揚に応える不患。

その様子に槍を構えるクーフーリンもまた、再び不患という強者と肩を並べられることに思わず笑みをこぼす。

そして時間も経たない間に、不患とカルデア一行の共闘が再演されたのであった。

 

 

***

 

 

「そらっ!」

 

不患の動きに合わせて彼の手の剣が、まるで生きてるように彼の元を離れて回転しながら竜牙兵へと襲い掛かる。

計り知れない動きをするその剣に竜牙兵は避ける暇もなく、ただ剣の進行方向に存在するというだけで無惨な骨片へと変わっていった。

そして剣は多くの竜牙兵を巻き込むと、まるで巣に帰る鳥のように何事もなく不患の手元へと戻っていく。

不患は見ることなく手元に戻った剣を掴むと、その勢いのまま突進を敢行。目の前に群がっていた竜牙兵たちを瞬く間に一掃した。

そんな曲芸染みた不患の戦闘を横目で見つつ、クーフーリンは周りの竜牙兵をあしらいながら一つ思案をする。

自分と共に戦うあの男、その戦闘の中で奴から魔力を一切感じず、代わりに膨大な気功を感じること、だ。

最初に共闘した時も実際そうだった。あの時は会うこともないと思っていた強者に出会えたことへの喜びから関心が薄れていたが、今にして見ればおかしいと感じる。おそらくはあの女狐のキャスターもすでに気づいているのだろう。その上で放置しているのだろうが。

不患の攻撃は常人のそれではないことは見て明らかだ。ではその妙技をどのようにしてやっているかといえば、完全なる自身の頚力と技術、そして気功術だけで行っている。

普通のサーヴァントならば、そうした技を行った際にも魔力の放出が行われるはずだが、不患からはそれが一切ない。つまりは生身の体で今戦っているということだ。

これにクーフーリンが気づくのは、少なくとも彼らがカルデア以外で召喚されたサーヴァントではないという事実である。それが分かれば、先ほど不患と鬼鳥が話していたことにも多少説得力が増すというものだろう。

さらには手に持つあの獲物。刀身を銀に塗られてはいるものの、あれは間違いなく木剣だ。研がれてすらいないのはもはや切ることすら目的においていないのだろう。

ではなぜそんな剣で敵を薙げているのかといえば、無論先ほどから異様に使用している不患の気功によるものだ。研ぎ澄まされた気功術を得ている不患がその気功を木剣にでも纏えば、それはもはや鋼の剣をも凌ぐ強固な剣となるだろう。

しかしそんなことをしていれば内功が消費し、普通の剣を使うより消耗が激しくなる。なぜそんなことをするのかという疑問をクーフーリンは得つつ、しかしその答えに別段の興味もなく、ただの事実としてその不患の行為を観察する。

これについても後ほどマスターにでも伝えておくかと思いつつ、そして最後に少し思うのは、それほどの腕前を見せる強者との死合いへの渇望。

しかし、それが達成されることはないだろうと、クーフーリンはすぐさまその思考を消し去った。そんなことをしている場合じゃないのは分かりきっていることだ。

何より、あんな獲物の相手と戦ったところで、勝っても負けてもやるせなくなるのは分かりきっていたからだ。

 

「よし! 大体片付いたぜ」

 

「あぁ、こっちもだ。全く骨の兵士だっていうのに、骨のねぇ奴らだな」

 

「えぇホントに。私の竜牙兵ならお望みの手応えを与えられたでしょうけど、これでは確かにワンちゃんの歯応えには適しませんわね」

 

そうしているうちに不患は剣に付いた骨塵を振り払いながら、周りを見渡し声を上げた。

クーフーリンもまた周りに敵がいないことを確認して不患に返事をすると、遠くの方から嫌味っぽく黒コートの魔女が自分の言葉に声を重ねてきたことに気づく。

クーフーリンが声の方を向けば、そこにはご丁寧にも竜牙兵のパーツをひとつひとつ解体したのだろう、手に入れた魔術素材をほくそ笑みながら眺める女狐と揶揄するキャスターの姿があった。

なるほど、新たに自分の魔術の研究素材が手に入ったので気分を良くしたのだろう、だからこちらに突っかかって来たのかと得心した彼は小さくため息を吐きつつ今度は自らのマスターの方へ向いた。

クーフーリンのマスター、藤丸立香は彼の視線に気づくと頷きつつ次の指示を与える。

 

「掃討ありがとう! でもまだ敵の増援が来るかもしれないからクーフーリンと、すみません不患さんも引き続き警戒をお願いします! メディアは私とリリィと一緒に村人の方たちの手当に来て! あ、あとその素材余ったら頂戴ね!」

 

「えぇマスター。素材はともかく、手当の件かしこまりましたわ。素材はともかく」

 

「おい」

 

藤丸の言葉に適当に返事をするクーフーリンと不患に合わせてメディアもまた了承の意を示すも、素材については有耶無耶に流した点に思わずクーフーリンは横から突っ込む。

しかし当の藤丸自体はそれほど気にしたようでもなかったらしく、メディアたちを引き連れるとそのまま村人たちが避難されているだろう場所まで移動した。

さて、指示は与えられたものの敵影はなく気配もない。警戒を怠るつもりはないが、張り詰めたまま行うほどの仕事でもないと悟った強者二人。手持ち無沙汰になるのもつまらないと思った二人は自然と会話が始めたのだった。

 

「それにしても、俺たちを襲った後は村を襲うとはな。一体何が目的なんだこの骨の化け物は」

 

「さぁてね。この竜牙兵か、はたまたこれの主人か、なんらかの目的を持っているのは確かだろうが、それがなんなのかはねぇ」

 

「ん? 竜牙兵………あぁこいつらのことか」

 

聞き慣れない単語に一瞬眉を顰める不患だったが、すぐにそれの意図するものに気づき表情を元に戻す。

この竜牙兵の目的とは一体なんなのか。それが自分達がここに呼び出されたことにつながっているのか。

不患はない頭で考えを巡らせるも、やはり情報が少なすぎるために結局思考はまとまらずに終わった。

そしてそこへ不患の頭を悩ませるものがさらに登場する。

 

「いやはや、到着したかと思えば既におおむね状況は終わっていたか。これはなんとも、後の祭りとでも喩えるべきかな?」

 

「………オメェ、今頃になって登場かよ」

 

村の出入り口から悠々と登場したのは先ほど別れたはずの連れ、凛雪鴉だ。

彼は村の様子をキセルを吹かしながら眺めつつ、不患とクーフーリンが屯っているところをめざとく見つけると胡散臭い笑みのままそちらへと近づいていく。

不患の呆れた声がかかった雪鴉はというと、やれやれとでも言いたげな表情へと変え言葉を返す。

 

「貴様のような武でしか取り柄のない者や、百戦を乗り越え研磨がかかっているだろうカルデアのものたちと違い、私はしがない只人なのだぞ? 一緒に付いていったところで役にも立たず、ただの肉壁にしかなれないのなら、開き直って戦闘にすら参加しない方がまだ足を引っ張らずに済むというものだ。それに、こうして私が参加せずとも状況は一通りつつがなく終わっている。ほうら、何か問題があるか?」

 

不患の一言の苦言に対して、雪鴉は嫌みたらしくそれを論破しようと二言三言になって返してくる。

雪鴉との問答が嫌になった不患は、彼の言説に対してもう関わる気がないことを示すため、空返事で言葉を返してそのまま顔を背ける。雪鴉もそんな彼の態度にいい気になったようでまたも胡散臭い笑みのままキセルを大きく吹かしたのだった。

そうした2人の会話を聞いていたクーフーリンはといえば、鬼鳥と呼ばれた男の雰囲気が以前どこかで出会った麻婆が大好きな神父と、その娘に似通っていることに、事ここに及んで気付き始めた。

そして自分は絡まれないように鬼鳥には近づかないことを心の中で誓いながら、既に絡まれてしまっている不患に同情し、鬼鳥に聞こえないようにそっと声をかけたのだった。

 

「オメェ、とんでもない奴に関わっちまったようだな」

 

「あぁまったくだ。俺の生涯で1番の疫病神だよ」

 

そんなツイていない男同士の傷の舐め合いは、カルデアのマスターが3人を呼びに来るまで続いたそうだった。

 

 

***

 

 

場所は変わり、村長の家。

カルデアのマスターからお呼びのかかった不患とクーフーリン、そして鬼鳥は連れ立って家屋に上げさせてもらい、全員で事情を聞かせて貰う運びとなった。

そうしてまず口火を切ったのは、一行の対面に正座で佇む村長だった。

 

「このたびは村の窮地をお救いくださり、誠にありがとうございます。あなた方の助けがございませんでしたら、きっと村はあの化け物たちに丸ごと滅ぼされていたでしょう………」

 

「いえ、お力になれたようで何よりでした!」

 

開口一番にお礼を述べる村長に藤丸は手を振りつつ頭を上げるように言った。

村長は恐れ多い様子にしつつも、そのあどけない様子に気を許したようだった。

 

「して、貴方がたは一体……いえあの怪物たちを追い払ってくれた、ただそれだけで恐縮なのにこのようなことを聞くのは憚られるのですが……」

 

「あー……それはですね……」

 

村長からの問いに言い淀む藤丸。これまでもこのように素性を尋ねられることはいくつかあったが、それを正直に話すことはできない。そのため、事前に想定してある回答で答えるのが常なのだが、嘘をつくことに慣れていない藤丸は毎度こうして言葉を詰まらせているのだ。

しかしそうしていても時間の無駄なので言葉を紡ごうとしたその時、あらぬ方向から援護の声が上がったのであった。

 

「いやはや村長よ、この村は先ほど想像をも出来ない怪異に襲われたばかり。そのような状況で颯爽とそれらを退治した我らを不審に思うのは無理もないことだ。むしろ、二もなく信用することもないのは自衛に長けた良き心がけともいえよう。そう恐縮することもあるまいよ」

 

「え、えぇ、はい……」

 

藤丸の代わりに声を上げたのは、まさかの偶然同行していた雪鴉だったのだ。

そして雪鴉はといえば、笑みを浮かべながら村長の対応に怪訝な態度を取るどころか褒め始める。村長もこのような返しが来るとは思わなかったようで、戸惑いながらへどろもどろな声を上げるのみだ。

そんな村長に対して雪鴉は矢継ぎ早に言葉を続ける。

 

「しかし案ずることはない。実は我らは曲芸師の格好に身を窶した、御国の祓い師なのだ。……これは内密な話なのだが、ここのところこの辺りで黒い気が絶えぬ。そのせいで先ほどのような怪異が蔓延る始末。これはいかぬと帝の命により我らは身分を隠し、事態の解明と解決に来たということなのだよ」

 

「おお、それはなんとありがたき……! 恐悦至極にございます!」

 

「何、気にすることはない。しかし先ほども言った通り我らは隠密の身。我らの身分及び、ここに来たことは何者にも明かさぬよう気を付けてくれたまえ」

 

「ははぁ! かしこまりました」

 

藤丸は思わず目を見開いて雪鴉……鬼鳥の方を見る。しかしすぐに隣に座るメディアに頭を掴まれて元に戻されるも、その脳内は驚愕に染まっていた。

まさかこんなに巧みに人を欺く話を作り出せるとは、そしてそれをあたかも本当と思わせるような作り込まれた言葉遣い、表情、仕草に藤丸は驚いたのだ。

そして村長はといえば先ほど起きた凶事の折に駆けつけ助けてくれた人間たちがこう言えば、自分たちをなぜ助けてくれたとかという疑問に対して辻褄と納得を得るというもので、鬼鳥の話を聞き終えると即座に頭を低くして礼を申し上げたのだった。

あまりにも堂々とした鬼鳥の口調に、藤丸すらこの話は実は本当なのではなかろうかと感じてしまい、そっと目線だけで周りの様子を確認してみる。するとメディアは顔がフードに収まっているため表情は見れないが、クーフーリンと殤不患が白い目を鬼鳥に向けているのが見えてようやく藤丸もこの話が嘘である確信を持った。(ちなみにアルトリアリリィは声をあげようとでもしたのか、ランサーに口を抑えられていた)

そうしてこちらの身分を明かしたところで(明かしていない)、会話の主導権を握った鬼鳥はすかさずに村長へと質問を投げかける。

 

「して、村長。あの怪物どもだが現れたのは今回が初めてなのだろうか?」

 

「ええ、その通りでございます。しかしその心当たりならば少し……いえ、これはただの噂話にしかすぎぬものですが……」

 

「構わぬ。その噂ひとつも我々にとっては貴重な情報なのだ」

 

鬼鳥からの質問に村長は答えるも、その口調は歯切れの悪いものだった。鬼鳥はそれでも話を促せば、ははぁと溢しながら村長はその噂について話し始める。

 

「実はここいらでは以前、玄鬼宗という無法の集団が盗賊の如き振る舞いを行っていたのですが、最近になって義勇の好漢たちがそれらを退治したのです」

 

「おお、その話ならば私たちも聞いたことがあるぞ。確かその好漢たちの頭目の名は、殤不患だったかな?」

 

「な!?」

 

唐突の話の矛先を喰らった不患は思わずすっとんきょんな声を出す。カルデア一行もまた、興味深いその話に一様に声を出して不患の方を向いた。

ただ一人、鬼鳥のみがその口元を愉快そうに曲げながら不患の方を向かず、声だけをかける。

 

「どうしたのかね? 我々は悪漢を退治した英傑の話をしただけだが、身に覚えでもあるのかな?」

 

「ぐっ!……いや悪いな、話の腰を折った。続けてくれ」

 

不患はすぐに目の前のこの詐欺師に揶揄われたことを悟り、それ以上は何も言わずに村長へと話を振る。

村長は周りの雰囲気についていけず困惑していたが、不患から話を促されてようやく続きを話した。

 

「はぁ。それでその玄鬼宗なのですが、退治された後は一時鳴りを潜めていたのですが、実は近頃再び結集をし始めたそうで。……本当に噂話でしかないのですが、以前の当主が復活したとかなんとか」

 

「何!? それは本当か!」

 

今度は抑えきれずに口を開く殤不患。

彼は目を見開いて村長に問い詰めるが、村長はそんな不患の様子に驚いて身を引く始末だった。

 

「わ、分かりませぬ。本当に噂にすぎなくて、誰も当主の姿など見たことなどないのですから。ただ亡くなったはずの玄鬼宗の幹部の姿は見かけたらしく……また最近になって近所の村も先ほどの化け物を見かけたと聞き、それが玄鬼宗の根城であった魔脊山の方角から来たと……。我々もにわかには信じ難い話でしたが、実際にこうして怪物共の姿を目にしてしまうとどうにも……」

 

そうして村長は話をしながら、膝に置く手を徐々に震わせていく。

おそらくはその玄鬼宗に以前から悪虐を強いられていたのだろう、藤丸からも村長の怯えが伝わってきた。

藤丸はそんな村長を安心させるため声をかけようとしたが、しかしその前に前方に座る美丈夫が口を開いていた。

 

「ふむ。それはなんとも気の毒な。聞くに玄鬼宗が悪行を振る舞っている時も難儀な立ち回りを強いられていたのだろう。それがいなくなっての喜びも久しくその脅威が蘇ったと聞けば、信じ難き噂とても信じざるおえないのは、人心の常だろう」

 

「おお…! まさしくですとも! さすが御国の祓い師様、卑しき私どものお気持ちさえ汲んでくださるとは!」

 

鬼鳥は村長の話に同情の念を向ければ、村長はその言葉をそのままに受け止めて感謝の念をこぼす。

鬼鳥は村長の姿にうんうんとうなづきながら笑顔を向ける。

 

「祓い師でなくとも通ずるとも。そなたらの悲しみ、我らもまた義憤を感じずにいられない。故に、此度は我々にて復活したかもしれん玄鬼宗について調査させてもらおう。そして機会があれば、その無法者たちに天誅をくれてやることにする。約束だ」

 

「それは!まことにございますか!」

 

鬼鳥からの願ってもない申し出に村長は堪えきれず大声を上げた。

しかし鬼鳥はそんな村長の姿を眺めながら、ふと気付かれずに目を細くしたのだった。

 

「あぁまことであるとも。……して村長よ。実は我々は長旅を行ってきた後でなぁ。今宵の宿と食事がまだなのだ。どこかに我々を泊めてくれる宿などはあるまいだろうか」

 

「おぉ、それでしたら是非とも、この家をお使いくださいませ!御国の使いの方々には手狭でしょうが、この村で一番大きな建物ですので! えぇ、食事の方も、後ほどご用意致しますので!」

 

「それはなんとも有難い。この恩はお上にも伝えておこうとも。ではこれよりは我々にて悪き玄鬼宗を討ち滅ぼすための相談を行う。許しがあるまでは何人もこの家屋に入らないように村民に言っておいてくれないだろうか?」

 

「ははぁ! かしこまりました! それでは私はこのことを村民に伝え回りますので!」

 

そうして村長は喜色を浮かべた表情のまま、自らの家屋を出ていったのだった。

残ったのはカルデアの一行と殤不患、そして村長をその口だけで騙くらかした上、家屋と食事をも用意させた鬼鳥こと凛雪鴉だった。

 

「お前、よくそんな嘘八百を涼しげな顔でペラペラと口にできるな……」

 

雪鴉の詐術に、まず声を上げたのはその気性をよく知っている不患だった。雪鴉は呆れる不患に対して、しかしなんでもないように煙管をふかす。

 

「人聞きが悪いな。私はただ村長が望むことを、村長が聞きたいように言葉にしたまでだ。そも今約束したことも我々がこれから行うべき事柄とさして変わりないのだから、まんざら嘘でもない。その上でこの村の者たちが我々の行いで救われるというのなら、その働きに対しての駄賃程度は貰っても罰などは当たるまいよ」

 

「俺たちが祓い師と伝えたことは完全に嘘だろうが! テメェの解釈で事実を都合よく曲げてんじゃねぇ!」

 

「ならばどうする? 我々の素性をそのまま伝えるか? それで村長は納得してくれると?」

 

「!? ……あーそれは」

 

雪鴉の言葉に不患は一瞬にして言葉が詰まる。当たり前だろう。カルデアという奇妙な衣装を纏った一行に、流浪人である不患と雪鴉の集団について、それを一から説明して同調を得るなど霞を掴むより難しいことだ。ならば確かに雪鴉の言った嘘の方が理路整然としているような気が不患もしてきた。

それでも納得がいかない不患はうーんと首を傾げる横で、藤丸は一連の流れを見ながら声を上げる。

 

「鬼鳥さん凄いなぁ……。私は交渉の時いつもしどろもどろしちゃって、相手に不信感を与えちゃうことあるからなぁ」

 

「いやマスター、アレは参考にしちゃダメなやつだ。賭けてもいい」

 

「私も同意見です。この御方、思った以上に人でなしですよ」

 

鬼鳥を見ながら今後の参考に、と詐術の手前を聞き出そうとでもしかねない藤丸を前に、メディアとクーフーリンは彼女の肩に手を置いてそれを止めた。アルトリアリリィはといえば、クーフーリンに口を抑えられていたためか息を整えるのみだった。

そうしてようやく大まかな状況を得た一行は今後の動きについて会議を始める。

まず先に声を上げたのは、先ほど村長から見事に家屋をせしめた雪鴉である。

 

「それでは、これからについて話し合おうではないか。まず私とそこの殤不患は何者かの陰謀によりこの辺境に飛ばされた。カルデアの一行らもここが何者かの影響を受けて正史とは異なる異界、特異点なるものに変化したと分かり調査しに参った。そしてそこでは怪物どもがひしめき、村を襲い、そしてそれらはそこの殤不患が討伐した無法者の衆、玄鬼宗によって操られているかもしれないという。そうなればやるべき事柄は既に見えてきているな?」

 

これまでの流れをまとめながら話した雪鴉はそこで口を閉じると、手に持つ煙管をある者に向ける。そこにいたのはカルデア一行のまとめ役、藤丸立香だ。

彼女は雪鴉から続きを任されたことを悟ると、腕を組んで己の考えを口にした。

 

「そうですねぇ……。あきらかに怪しいのはその玄鬼宗ですから、その集団を調べるのを優先すべきだと思います」

 

「その通り。いやはやさすがは一騎当千の集を束ねるカルデアのマスター殿。知見の才がおありのようだ」

 

「そ、そうですか。えへへ」

 

雪鴉に褒められて藤丸は照れくさくなりにへらと笑いながら頭を掻く。隣に座るメディアはそんな己のマスターの姿を見ていつか詐欺に引っかかるだろうなと確信を持ちながら白い目を彼女に向けた。

 

「そんで、その玄鬼宗ってのとお前さんらはなんかの関わりがあんだろ。そいつらを退治したのが義勇の好漢、殤不患ってのはお前のことなんだろ?」

 

「違ぇよ! いや、全部が違うってわけでもないんだが……」

 

「んだよ、歯切れ悪いな」

 

話を進めようと話に入ったクーフーリンは、単刀直入に不患へ玄鬼宗のことを尋ねるが、当の不患はその関わりを苦虫を噛み潰したような顔で否定しようとする。しかし否定し切ろうともしない態度にクーフーリンも頭を傾げる。

 

「ふむ。では語り聞かせようか。殤不患が行なった、江湖に永遠に語り継がれるであろう英雄奇譚の物語を!」

 

「あ!テメェやめろ掠風竊塵!」

 

そうして雪鴉は殤不患の東離での始まりの物語を悠々と話し始めた。不患は途中途中でそれを遮ろうと彼に突っかかるが、雪鴉にのらりくらりと避けられながら、最後には話の邪魔だとクーフーリンに羽交締めにされて終わったのだった。

はてさて、2つの物語が交わりし奇譚はようやく暗幕の内を覗かせる。彼ら彼女らの旅路はどのような順風を見せるかそれとも悪路となるか、その続きはまた次回にて。

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