のび太の暗殺教室   作:黒猫紳士

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昼休みの時間

 

 

 

「先生、ちょっと中国に行って麻婆豆腐を食べて来ます。……あぁ、暗殺を希望する方がいたり、のび太くんに何かあったら携帯で呼んでください」

 

 最後に念の為安静にしていなさいとのび太に釘を刺すと、瞬く間に窓から突風が吹き荒れる。

 先生が残した置き土産に、E組生徒はそれぞれ引きつった笑みを浮かべた。

 

(携帯を鳴らしたら、本当に来るのかな……?)

 

 お腹も鳴るお昼時、玉子お手製のお弁当も広げず、のび太は自身の携帯(スマホ)と睨み合う。

 先程先生が述べたあの言葉。先生への純粋な好奇心がのび太の悪戯心を擽る。とはいえ、中学生にもなって悪戯で電話を掛けるのは如何なものか。

 数分間の短い葛藤の末、好奇心に勝るものはないと机の上に置いてある携帯に手を伸ばす。

 

(あれ、……先生の電話番号って何?)

 

 のび太の葛藤も虚しく、そもそも先生の電話番号を知らないことに気付く。

 番号を聞き忘れた過去の自分を恨んで肩を落とすと、スマホの画面を落とそうとする。が、左隣の席に座る少女によってそれを阻まれる。

 

「あっ、ちょっ。中村さん、返してよ!」

「えー、いーじゃん。ちょっと借りるだけだって」

 

 スマホを取られた事に気付いたのび太の手を机や椅子で躱しながら、中村は慣れた手つきで画面に何かを打ち込む。

 のび太と中村の張り合いに、他の生徒も何だ何だと怪訝そうな様子でのび太たちへ視線を向ける。

 

「はい。次いでに私の連絡先も登録しといたから」

「ええっ。何で僕が先生の連絡先知りたそうにしてるって分かったの?!」

 

 中村から投げ渡されたスマホに目をやると、連絡先の画面に映し出された二つの連絡先と名前の注釈がのび太の目につく。のび太はすぐさま中村の顔を見上げ、その理由を尋ねた。

 

「のび太、中村はほっといて俺たちも連絡先交換あいだっ!?」

「 アンタ顔に出やすいんだよねー。

 てか、女の子と連絡先を交換してんのよ。そっちの方も反応しなさいよ」

 

 割り込んできた前原の話を遮るように中村が前原の足をつま先で強く踏む。

 まるで超能力者か何かを見たような目で目を輝かせて尋ねるのび太に、面白くないと中村は不満気に答えた。

 

 渚と茅野が一連の様子に苦笑いを浮かべながら、のび太に疑問を投げかける。

 

「そういえば、のび太君ってあまり暗殺に積極的じゃないよね。何か理由でもあるの?」

「そうそう。成功報酬百億だよ?百億あればやりたい放題じゃない?」

 

 先生の電話番号を気にしていたという会話から察するに、暗殺自体に興味はあるらしい。ならばのび太が暗殺を仕掛けないのも何か理由があるのではないか、もしくは今から殺るのかと、渚は自分の考えを述べる。

 

「え、うーん……ほら、あの先生なんか殺り辛くって」

 

 そんな渚の純粋な疑問に、悪戯をしようと思って電話番号を気にしていました———なんて言えず、のび太は顔に影を落とすと、英文が綴られたままの黒板を指差して、どこか気まずそうに言葉を返した。

 

「あー、あの先生何げに教えるの上手いもんな」

「わかる〜。放課後に数学教わって、次のテストの点良かったもん」

 

 のび太の指差しで黒板に目をやった磯貝が自分も同じだとのび太に話しかける。

 話を横で聞いていた倉橋も先生の教え方が上手いと自慢気に話す。

 

 「ま、でもさ————」

 

 のび太じゃあるまいし、と自分自身を否定するように誰かが話を切り出した。

 

 

 ーーー 所詮俺ら、E組だしなぁ。

 

 

 俺らが頑張っても仕方がない。たった一言が教室内に暗い影を落とす。先程まで友人と仲良く談笑していた者も視線を下へと向け、のび太から目を背ける。

 周囲からの冷ややかな目。罵倒する担任。泣き崩れる親の姿。周囲の期待に答えられなかった劣等感が、彼らを絶望へと(いざな)う。

 

「 一番いけないのは、自分なんかダメだって思うことだよ」

 

 静まり返った教室内でただ一人、のび太が断言してE組に異を唱える。

 

 「 もし自分に引け目を感じているのなら、皆が自分と向き合おうとしている証拠だよ。このままじゃいけないって分かってるんじゃないかな。どこかで自分に期待してるんだ。ならちゃんと自分と向き合わなきゃ。自分なら出来るって信じなきゃ。

 自分はこの世界にたった一人しか存在していない人間なんだぞ」

 

 のび太の言動に、俯いていた何人かの生徒が顔を見上げる。口を真一文字に結んではいるものの、先程よりどこか表情が柔らかい。

 しかし、その和んだ空間を裂くかのように、寺坂が隣の空席の机を蹴り飛ばす。

 

 

「ハッ、自分を信じるダァ?

 自分を信じていたから椚ヶ丘中学校(ここ)に入学したんだろうが。自分は他のヤツとは違う、自分は天才なんだってな。だが現実はどうだ?運動も勉強も上には上がいて、進学校の勉強(レベル)にすらついていけなかった落ちこぼれが俺ら。自分のちっぽけな自信(プライド)が打ち砕かれてこのザマだ。

テメェに俺らの何が分かるってんだよ?」

「そうそう。暗殺に参加しなくても、A組への復帰が確実だもんなぁ?良いご身分だよな、元三英傑(・・・)様はよぉ」

「どうせ、暗殺に必死こいてるE組(俺ら)を見下してんだろ」

 

 寺坂がのび太に突っ掛かると、続いて吉田と村松が追い討ちを掛ける。

 寺坂の言動は言わば寺坂竜馬の本音だった。

 彼が所属していた弓道部では、殆ど部の活動に参加せずに、これまでの全ての大会で優勝トロフィーを総ナメ。学力も中学二年生からその頭角を表し、全国模試で一位をとり続けている三人のうちの一人。そのあまりに秀でた才から椚ヶ丘では*1三英傑と称されたほどの才の持ち主。

 そんな秀才と、落ちこぼれた自分。

 自分を信じろなんて言われても、のび太に何が分かるんだという気持ちで胸がいっぱいだった。自分とお前は違うのだと、寺坂は突き放したかった。

 

「自分では無理だって分かっていて、どうして周りを頼らないの?運動はからっきしだけど、勉強や暗殺なら、僕でも何か力になれるかも知れない。僕を頼れば良いじゃないか」

 

「知った様な口を利くなってんだよこのドアホ」

 

 見下したりする訳でもなく、自分らの挑発に怒ったりする訳でもない。寧ろ同情に近い何か。

 これならまだ見下された方が良かったと、寺坂は口調を強め、のび太を睨みつける。

 

 

「おい寺坂!いい加減にしないか!」

 

「……ッチ、口では何とでも言える。行動で示してみろよ」

 

 声を荒げた磯貝に続いて幾らかの生徒がその言動を非難する。その場に居づらくなったのか、唾を吐き捨てて、二挺の銃を乱暴にのび太の机に叩きつけると、寺坂らは渚を連れて教室を後にした。

 

 

「銃が可哀想じゃないか」

 

 のび太は去りゆく寺坂の背中に小さく不満を溢して、二挺の銃を机の中にしまう。

 

「ありがとう、磯貝。それに皆も」

「いいっていいって。のび太の言葉、何か響いたよ」

「でものび太を頼るってのは、ちょっと心配よねー」

「何でさ!?」

 

 岡野の心配だという声に、再び教室内から笑みが溢れる。

 

「そうだな、心配しかないわ。ま、のび太、今度こそ連絡先交換しようぜ」

「あ、私も。クラスのグループに誘っといた方が色々と都合いいし」

 

「だから何で?!」

 

 複数人から賛同の声が挙がったことに、のび太は問い詰めるも、片岡と前原が連絡先の交換を迫りその疑問ははぐらかされることになる。

 皆の言動が気になり過ぎて、結局のび太が先生に悪戯し忘れたのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
浅野、出来杉、のび太の全国模試同率一位組。のび太がE組に行ってから五英傑なるものが新しく出来た。




 えー、この度は投稿が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
 そして沢山のご感想とお気に入り登録、評価をして頂いて嬉しい限りです。
 文章力がないなぁと自分でも書いてて思いますが、少しずつ頑張ろうと思います。完結する頃には文章力を今より付けたいところ。。

アンケート結果に置きまして、ヒロインは一人と決まりました。

ヒロインは一人です。

大事なことな(ry

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