私、小鳥遊瑠々は満足という言葉がわからない。
小さい頃から何をしても何かが足りないと常々思っているの。何が足りないのかはわからない。でもこれじゃないっていつも思ってしまう。
例えば、学校のテストで満点を取った時。クラスの友達や幼馴染の玲奈ちゃんは凄いね! と褒めてくれるけれど、私から言わせれば真面目に授業をしていればわかるような問題ばかりだもの。
まぁ、玲奈ちゃんは別だろうけどね。だって玲奈ちゃんは運動神経が抜群だから。私は運動は苦手だと思っているけれど、玲奈ちゃんは凄いの。足は速いし、バレーやバスケでも大活躍なんだもの。そして私はそんな玲奈ちゃんのことが大好き!
私が玲奈ちゃんに恋をしているってことは中学校の時に気づいた。きっかけは本当に些細なことだったの。玲奈ちゃんが男子に告白をされているのを見て、ものすごく嫉妬しちゃったの。その時の私の様子を玲奈ちゃんにばっちりみられちゃってものすごく大変だったわ。
まぁ、それからは前よりも仲が良くなって、学校でも公認カップルとして認められていたわ。それは高校に入学してからも一緒。相変わらず玲奈ちゃんは告白されていたけど、私が邪魔をし続けていたら公認カップルになっていたわ。ふっふっふ、玲奈ちゃんは誰にも渡さないんだから!
私の心の隙間を満たしてくれるかもしれない、初めて満足感を覚えられるかもしれないと思っていたのに。
あの日、私たちの日常が崩れ去った。
登校中に四本足の化け物に出会ったの。そいつの足元には真っ赤な血と穴だらけの誰かの死体。甲高い悲鳴がそこら中から響き渡っていったの。
「瑠々! 早く逃げよう!」
「う、うん!」
私は死体を見たことですぐさま動けずにいたけど、玲奈ちゃんに手を引っ張られる形でその場から逃げることはできた。そしてそのあとはもっと大変だった。
近くにあった大型デパートに逃げ込んで、私たちが生き残るために物資を集め奥の従業員室に立てこもった。最初の一週間は助けが来ることを信じて待っていたが、助けは来ず、逆に人に出会うことがなくなっていた。
幸いなことに、やつらはこのデパートにはあまり入ってこなかったから幸運だった。このまま助けが来ることはないんじゃないのかって思ってしまうようになって、夜に寝るときは玲奈ちゃんに抱き着くようにしていた。玲奈ちゃんに抱き着いて寝るのはとても心地よかったの。
「ねぇ、玲奈ちゃん」
「うん?」
「私達助かるのかなぁ……」
「大丈夫だよ。日本の自衛隊は強いって世界からも認めてもらえてるんだから! あいつらもやっつけてくれるよ!」
「そう……だよね……。ありがとう玲奈ちゃん」
最近では、こんな会話ばかりしてしまってる気がする。
そして私たちがこのデパートに立てこもって1か月がたった時、不意に手元でいじっていた無線機に通信が入ってきた。私と玲奈ちゃんは顔を見合わせて、急いで通信をつないだの。
『ザッ……か。……存者……は……ませんか!?』
「「!?」」
『生存者の方はいませんか!?』
「瑠々!」
「うん! ……あーあー、こちら小鳥遊瑠々です。〇〇街のデパートで籠城中です! 救助を求めます! どうぞ」
『……!? すぐに救助隊を向かわせます! 〇〇街のデパートですね!? どうぞ」
「そうです! よろしくお願いします!」
「やったね瑠々! 私達助かるんだよ!」
「うん!」
そのあとも、ちょくちょく通信が送られてきて本当に救助が来るんだと、うれしさで胸がいっぱいになった。
「きっとほかの地域の救助をしてたんだよ!」
「お父さんとお母さんもきっと助かってるよね……?」
「きっと生きてるよ!」
私たちはそんな淡い期待を抱いていた。
それから4日が過ぎプロペラの音が聞こえてきた。ようやく救助が来たんだ……。
事前に説明されていた通り、最初は周辺の敵の討伐を行うとのことだったので、部屋の中で玲奈ちゃんと一緒に待機していた。それからしばらくすると外で鳴り響いていた爆発音が収まった。
しばらく待っているとドアがノックされた。私が慎重に開けるとそこに立っていたのは黒い鎌を持った女性だった。
「貴女達が小鳥遊瑠々さんと成瀬玲奈さんで間違いないわね?」
「はい!」
「そうです!」
「私は手塚咲よ。もう安心して頂戴、周辺にいたキャンサーはすべて倒したわ」
「キャンサー……?」
「詳しい話はここを脱出してからよ。屋上でヘリが待機しているわ。私についてきてちょうだい」
「瑠々、いこう」
「……うん」
少し話を急ぎすぎたみたい。まぁ久しぶりに玲奈ちゃん以外の人に会えたから仕方ないよね。
手塚さんについて屋上に向かっていると、不意に手塚さんが立ち止まった。
「二人ともあそこの物陰に隠れていてちょうだい」
「え?」
「生き残りがいたようね」
手塚さんが見ているほうを見ると、そこにはやつがいた。いつも外で見ている奴がこんな時にデパートの中に入っているなんて……。
私と玲奈ちゃんは急いで物陰に隠れた。
手塚さんが黒い鎌を構えて、やつと対峙すると次の瞬間、やつの体がバラバラになっていた。何が起こったのか全く分からなかった。
「すごい……」
「こんな簡単に倒せるなんて……」
私たちも簡単な罠を作って撃退することがあったけど、その時は傷一つ付けられなかったのに。
「さぁ、急ぐわよ」
その後は特に何も起こらず、無事にヘリに乗り込むことができた。
ヘリの中で一息つき、改めて手塚さんにお礼を言わせてもらった。
「手塚さん、改めてお礼を言わせてください。助けていただきありがとうございました」
「あ、ありがとうございました」
「そうね。あなたたちを助けることができて本当によかったわ」
「あの、一つ質問してもいいですか?」
「えぇ、私が答えられる範囲でなら」
「私たち以外に生存者はいませんでしたか……?」
「…………残念ながら九州はキャンサーによって壊滅させられたわ。今ではキャンサーの支配下に置かれているわ。だからあなたたちは本当に運がよかったのよ」
「そんな……」
「じゃあ私たち以外の人はみんな死んじゃったの!?」
「キャンサーは知的生命他を無差別に襲っているの。既に九州はキャンサーによって陥落したし、アフリカ大陸はもう人は住んでいないそうよ」
私たちが一番知りたかったほかの生存者について聞いてみると最悪の答えが返ってきた。世界は私たちが思っていたよりもはるかに状況が悪いらしい。
「そもそもあいつらは何なんですか!?」
玲奈ちゃんの言う通り、そもそもあいつらは何なんだろう。唐突に世界各地に出現してたし、あいつらは一体どこにいたんだろう?
「わからないわ。1か月前突然世界各地で出現した謎の生命体。出現当初、もちろん各国は抵抗したわ。でもね、人類の兵器類が一切通用しなかったの」
「「え?」」
「ミサイルも銃も爆弾もすべて通用しなかった。人類が抵抗するすべがないのよ」
「で、でも、手塚さんはキャンサーを倒していましたよね……?」
「これのことは私からは言えないわ」
「そう……ですか……」
軍の兵器も通用しなかったなんて……。あれ? でもそれならなんで手塚さんはあいつらを倒せてたんだろう? 手塚さんにこのことについて聞こうとする前にヘリが大きく揺れた。
「さて、ついたわ。あなたたち二人はこれからどう生きるのかを考えなさい」
「「え?」」
「行くわよ」
私と玲奈ちゃんは手塚さんが言ったことの意味が全く分からず顔を見合わせてしまった。そして手塚さんに置いて行かれないようについていった。
基地はどこかの学校を改装したのか結構大きかった。その中を迷うことなく進んでいく手塚さんに私たちはついていくと教官室というところについた。
中に入るとかなり整頓されていて、手塚さんは奥にある椅子に座って話し始めた。
「改めて、自己紹介しておくわ。私はこの基地の司令官をしている手塚咲。そして、セラフ部隊の総指揮者よ」
「セラフ……?」
「部隊……?」
セラフっていう言葉は初めて聞いた。私は軍のことについても勉強はしていたけど、そんなものはどこにも書いていなかったはず。というか手塚さんがこの基地の司令官だなんてびっくりだよ。
「貴方達には二つの選択肢があります。一つは今まで通り普通に暮らしていくこと。もう一つはセラフ部隊の一員として戦うか」
「「……!」」
「まぁ、すぐに決めろとは言わないわ。明後日、答えを聞かせてもらえるかしら? 今日はもう休みなさい」
セラフ部隊ってのが何なのかわからないけど、多分手塚さんが持っていた武器を持っている人のことなのかな?
「……セラフ部隊って何ですか?」
「今はまだ貴方達には言えないわ」
セラフ部隊については教えてくれないらしい。
いくつか質問していると、背後のドアから誰かが入ってきた。
「失礼しまーす」
「あら、浅見。ちょうどいいところに来たわね。この二人をこの部屋まで案内してくれない?」
「え? えーと、先に報告をしても?」
「報告書を提出するだけでいいわ」
「えーと、初対面なんだけど?」
「そうね、私も今日初めてあったわ」
「…………はい、了解しました」
入ってきた人は浅見さんっていうらしい。
「わからないことがあったらそこにいる浅見に聞いてちょうだい」
「「……はい」」
「……はぁ、浅見真紀子、セラフ部隊の一人だよ。よろしくな」
「「よろしくお願いします」」
「それじゃ、頼んだわよ」
「……はいはい」
こうして私たちは無事に助かることができた。でも私のお父さんやお母さんを殺したキャンサーは許せない。復讐してやる。