私と玲奈ちゃんが軍に入隊してから一週間が経過した。今のところ特に問題は起きていない。私の筋肉痛以外は。
「うぅ……」
「瑠々……あなたどれだけ運動してなかったのよ」
「私は運動部じゃない……!」
運動が苦手とは言わないが、それでもちゃんとした運動はあまりやってこなかった。
「これまだ序の口らしいよ?」
「ぴっ……!?」
浅見さんの言っていた通りこれはまだ序の口だ。未だにセラフを使った訓練はやっていない。まぁ、そもそもセラフ自体を知らないんだけどね。
「お、瑠々と玲奈。こんなところにいたのか」
「どうかしたんですか?」
「ヒェッ……」
「瑠々……。そんなに怯えちゃ浅見さんがかわいそうでしょ」
「あははは、お風呂に入った後はしっかりとマッサージをするんだぞ。そうすればだいぶ落ち着くからな」
「はい……。……玲奈ちゃんお願いしてもいい?」
「もちろん! 任せてよ!」
手をワキワキしながらそう答えた。ちょっと不安……。
「……それはそうとして、浅見さんの用事は何だったんですか?」
「あーそうだった。明日なんだがな、運動場じゃなくて学舎のほうに来てくれ」
「……学舎ですか?」
「そうそう。Aって書いてある教室に入ってくれ。明日はそこでセラフについて説明するからな」
「「……!!」」
セラフ。ついにキャンサーを倒すことができる武器を身に着けられる。そう思うとちょっとワクワクしてしまった。あれ? わくわく?
「じゃ、しっかりと筋肉をほぐしておけよー」
「「はーい」」
その後、お風呂に入った後に玲奈ちゃんに全身もみほぐされたのは言うまでもない。
翌日、軍の規則で5時30分に起きることになっているのだが、今日はなぜか、5時に目が覚めてしまった。まだ玲奈ちゃんも起きてないみたいで、私の隣ですーすーと寝ている。久しぶりに見た玲奈ちゃんの寝顔は本当にかわいい。玲奈ちゃんの寝顔を見ているだけで時間はどんどん過ぎていき、いつの間にか玲奈ちゃんの目がぱっちりと開いていた。
「……おはよ」
「おはよう瑠々。珍しいね、私より早く起きてるなんて」
「なんか……目がさえちゃって」
「いつもは私が瑠々の寝顔を見てるんだけど、今日は逆転しちゃったなー」
やっぱり玲奈ちゃんも寝顔見てたのか。
「それじゃ、今日も張り切って頑張りますか!」
……ソウデスネ。
朝食を食べ終わって私たちは早速学舎へと向かった。Aと書いてある教室に入ると既に浅見さんが待っていた。
「よーし来たな。じゃあそっちに座ってくれ」
「「はーい」」
そして私たちが椅子に座ると資料が配られた。
「それじゃ、今日はセラフについて学んでもらうぞ。明日からはセラフを使った訓練も行っていくからな。今日はその準備だな。取りあえず一通り資料を読んでくれ」
資料を読んでわかったことはこうだ。
まずはキャンサーについて書かれている。キャンサーは宇宙からやってきた謎の生命体。唯一わかっていることはキャンサーは人間には感知できない高次元のエネルギーが供給されているという。高次元エネルギーとは何ぞや。そして人類の兵器が通用しないことだ。
続いてセラフについて書いてあった。セラフは対キャンサー決戦兵器。高次元にあるキャンサーのエネルギー供給源を断つことができる唯一の武器。セラフには、剣、盾、鎌、銃、砲の5種類が確認されているらしい。そしてセラフにはほかに3つの機能がある。使用者の身体能力の向上、デフレクタと呼ばれる防衛機能、トランスポートと呼ばれる一定距離を瞬間移動する機能だ。
デフレクタはキャンサーの攻撃の方向を逸らし、一定量まではダメージを軽減、または無効にしてくれるという機能で、トランスポートに至っては一定距離を瞬間移動できるなんて、どっかのラノベか。でもセラフをずっと使い続けていると危険な状態になるらしい。鼻血がサインなんだそうだ。
この資料を見て私と玲奈ちゃんは難しい顔をしていた。なぜならほとんどのことが信じられない内容だったから。
「信じられないか?」
「……正直信じられません。こんな技術があるなんて」
「だがこの武器がなければ我々人類は滅んでいただろうな」
「玲奈ちゃんも一緒に見たじゃない。あのデパートで司令官がキャンサーを倒してるとこ」
「あ……」
「セラフがあればキャンサーを倒せる。だったら私達もこれを使えばキャンサーと戦えるってことだよ。どっちにしろ詳しく聞いても教えてくれなさそうだしね」
ちらと浅見さんを見てみれば肩を竦めていた。
「午後からは実際にセラフを触ってもらうから運動場に集合な」
「……え、今日も身体動かすの?」
「当たり前だろう? 毎日きちんと鍛えてないといざと言う時に動けないぞ」
「今度は腕のマッサージだね!」
玲奈ちゃんがにっこりと笑みを浮かべながら手をわきわきさせていた。……また筋肉痛地獄が始まるというのか。
「まぁ、今回はそこまできつくないかもな。セラフには身体能力を向上させる昨日もあるからな」
……それでもものすごく不安です。
午後、昼食を食べたあと私達は運動場へと来ていた。
「じゃあまずはセラフを呼んでみよう」
「「呼ぶ?」」
「電子軍人手帳を見てくれ。そこに新しくセラフィムコードってのが書いてあるだろ?」
言われた通り電子軍人手帳を確認してみると、新たにセラフィムコードという機能が増えていた。
「その言葉を口にするとセラフが出てくるんだ」
「えーと、私は『この剣を貴女に捧げる』……?」
玲奈ちゃんがセラフィムコードを口にすると、頭上に穴が空いた。その穴の中から剣が飛び出してくると玲奈ちゃんの目の前に突き刺さった。
「ちゃんと機能したな。それが玲奈の武器だぞ」
「……流石にこれは予想してなかった……」
「私も……」
誰が謎の穴から武器が降ってくると予想できるのか。キャンサーを見た時もそうだがこれも予想外すぎる。
「瑠々も武器を呼んでみるんだ」
「その前にひとつ聞いてもいいですか……?」
「ん? どうした?」
「……この言葉は誰が決めたんですか?」
「セラフを研究している人達だな。セラフィムコードは本人が1番やる気が出る言葉を設定しているらしい」
「私の場合がこれだと言いたいんですか……?」
「……何が書いてあるか知らんがそうなんだろうな」
「え? ちょっと瑠々何が書いてあったのよ?」
いやさすがにこれはちょっとどうかと思う。私の言葉はどう見ても厨二病を患っているとしか思えない。決して私は厨二病などではないが。
「ほら、早くしろ」
「うぅ……。わかりました……。……『我が魂を震わせろ!』」
「……ぷっ……」
ほら見ろ! 玲奈ちゃんが笑いをこらえてるじゃないか! 言った私がいちばん恥ずかしいよ!
それはいいとして、私は目の前に落ちてきた武器に目をやった。セラフは剣、鎌、盾、銃、銃砲の5種類だったはず。だけれど私の目の前にはそのどれもに当てはまらないものだった。
「……これは……弓?」
「あれ? セラフの種類って5種類じゃなかったの?」
「弓か……。初めてみるな。これは後で私が司令官に報告しておこう。玲奈は武器を持って構えてくれ。戦い方について学んでもらおう。瑠々は後でだ」
そう言って玲奈ちゃんは浅見さんと訓練を始めた。私はもう一度手元の弓を見てみた。遠距離武器は銃なのにどうして私は弓だったんだろうか。さすがに何もしないのも嫌なので、近くにあった木に向かって弓を弾いてみた。すると光の矢が番えられていた。少し驚いたものの、すぐに木に狙いをつけて撃った。撃った矢は1寸のズレもなく幹のど真ん中に命中した。その後も何度も撃ち続けてみるが全て命中していた。
「すごいね瑠々。全弾命中じゃん」
「あ……玲奈ちゃん。もう終わったの?」
「うん。ほんとは30分ぐらいで終わって瑠々のこと呼んでたんだけど、全然気づかなくてさ。そのままずっと浅見さんと3時間も訓練してたよ」
「え……。そんなに経ってたの? 全く気付かなかった……」
「しかし、すごいな。瑠々はアーチェリーか何かやってたのか?」
「いえ、初めてですよ。私もびっくりです」
「瑠々の隠された才能なんじゃない? 私なんて浅見さんにいっぱいダメ出しされたよ……」
「そうなの?」
「そうそう、もっと脇締めろーとか構えが甘い! だとか……」
「あははは……」
「だが筋はいいぞ? もっと訓練すればすぐに扱えるようになるさ。それから瑠々の分の訓練メニューも考えておかなきゃな」
「お願いします」
「それじゃあ、今日も一日お疲れさん。しっかりとマッサージしておけよー」
セラフ。
いろいろと謎の多い武器だけど頑張って使いこなしていこう。