変なやつ~もう1人の小鬼殺し~ 作:trpg-7
神は骰子を振る。その骰子が決める運命が駒の行く末をも決める。
そこは四方世界、その摂理である。過酷な運命だろう、だが駒たちはその運命に争いときに打ち勝つこともある。それは祈念、祈りを聞き届けること……それを神々は因果と呼んだ。
そしてまた、新たに一つの駒が動き出す。なれど、その駒はいつも「神の思うがままにできない」ヘンテコな駒に惹かれて、惹かれ合う。それは何度やり直しても同じこと。
だが、今回は違う……確かにいつも通り惹かれ合うのは確実だ。だが、もう一つのヘンテコな駒にも惹かれるのだ。
その駒は戦女神のお気に入りだった。強い子になる、と自慢した。
しかし、その駒も常に考え、策を練り、神々に骰子を振らせない変わり者の駒だったけども。
──────
よくある話だと言う。新人の冒険者がとある怪物を侮ってその巣穴で全滅すると言う話は。しかし、西部辺境の街ではあまりないと言う。
なぜか? それは「2人」の冒険者がいるためだと言う。
その日、冒険者として歩み出すものたちが4人いた。「白磁等級の標識」新米の証を首に下げていた彼ら辺境の街でも多い《ゴブリン退治》の依頼を受け、その巣穴近くに来ていたのだ。依頼では、ゴブリンに拐われた少女や女性が巣穴にあるとの話でもある。
「あの……」
法衣に身を包む神官の少女は躊躇いながらも話しかける──ふと思い出した、心配そうな受付嬢の顔を思い出して不安になったのだろうか。
仕立てのいい法衣を身に纏った魔術師の少女。
黒く長い髪を一纏めに括った武闘家の少女。
ポピュラーな剣と盾を手にした剣士の少年──はその声に振り返る。
「やっぱり、もう少し準備をした方がいいんじゃないですか? このまま本当に入っていって大丈夫なのでしょうか……」
「なによ、此処まで来て」
ギロリとキツい目をしながら魔術師が神官に言う。
此処までの道中、彼女は能天気に笑い合い、緊張感のない顔をした前衛2人にイラついていたのが隠せず、神官に話しかけたときには少し後悔をしたのか、バツの悪そうな顔になったが。
「そんなこと言ったって、薬を買うお金もなかったからこそ君に声をかけたんだし」
「万が一の時は頼むわね。怪我は流石にあたしたちも治せないからさ」
前衛の2人は仕切りに大丈夫と繰り返す。
無意識に彼女は祈ったのかもしれない。その祈りを神々は気紛れに骰子を振ったのかもしれない。コロコロと、賽の目が転がって──
「まだ、入っていなかったんですね……入ってたらすぐに全滅してただろうけど」
洞窟前の新人一党は振り返る。視線が寄せられる。
そんな声が巣穴近くで聞こえた。近づいてくる影は赤いドレスアーマーのような戦装束と風に遊ばれるマントには槍の刺繍が目についた。
「おや、《彼》もまだ来ていないんですね」
そこには自分たちよりも4つは年上か、長い金の髪に白羽の羽飾り……が、その羽飾りは所々黒ずんでいた。
腰に佩く
「それ、魔法の武器……ですか?」
「ええ、軽く魔法の力が篭っています。よくわかりましたね」
お目にかかるのも珍しい、それは魔剣と呼ばれる代物だ。
「雑に扱っても折れない程度の魔剣です。さて、貴方たちもこのゴブリンの巣を焼き討ちに来たんですか?」
「折れない剣って無敵じゃ──は?」
「焼き討ち!? ゴブリン退治……ですよ!?」
武闘家は笑顔で放たれたその言葉、「焼き討ち」に耳を疑い、慌てて神官が補正する。
「あ、邪魔な人質も居たんでしたね。新人がいるのに運がない、いや……運がいい方ですかね」
明らかに「邪魔な人質」と言うヤバイ言葉に神官は目が遠くなる。
救う努力をしない冒険者もいるとは聞いていたが、実在したのか、と幻滅しかけていると
「ああ、ごめんなさい。誤解させちゃいましたね? 大丈夫、人質は全員救ってますから」
信用できるか、とその場の全員は言葉を飲み込んだ。だが、その言葉は確かなものだと、彼らは認識する。
魔術師が神官たちが、ふと彼女の胸元に目を寄せる。剣士はその豊満な胸元に目が行き、鼻の下を伸ばしかけていたのに気がついた武闘家に折檻を受けていた。
そこには槍の象徴が彫られた《聖印》のほかにもう一つ下げられた冒険者の標識が目についた。赤い金属のそれは「紅玉等級」を表すそれ、すなわち彼女がベテランであると言う事だった。
「ば、ばか! 失礼でしょ!? 見たいならいつでも見せてあげ……何言わせんのよ!」
「ほげっ、いてぇ! ごめん、ごめんって! ……マジで?」
そのやり取りを見ていた彼女は「漫談は終わりましたか?」と尋ねる。
「はじめまして。辺境の街で、私はこう呼ばれてます。戦女神様が信徒の
端正な顔立ちに、先ほどまでニコニコしていたため閉じられていた青い双眸を一党に向ける、向けられた者たちは息を飲む。
影の差す、深淵を覗くような
そんなヴァルキリーを一党に迎えた彼らはゴブリンの巣へと足を踏み入れようとしたが彼女は確認をすると言って彼らを止める。
「絶対に松明に火をつけてください。一人一つは必ず持つこと」
「え、俺一人が持てばいいんじゃ──」
前衛の自分が持てばいい、もしもの時は松明を落として戦えばいいんだし。そう言葉を続けようとしてピシャリと言葉でねじ伏せられる。
「ゴブリンは暗闇を見通せる、この意味が分からないなら、「私」以外が全滅してもいいならどうぞ?」
「なっ、どう言う意味だよ」
「簡単な話です。周りがよく見えない中で後ろから襲撃されて生き残れる自信はありますか?」
そう返されて、剣士は気がつく。この中で誰が暗闇を見通す目なんてものを持っているだろうか、と。
自身、武闘家、魔術師、神官を順に見て、最後にヴァルキリーを見据える。全員
「それと、予定していた作戦はありますか?」
「前から来るゴブリンを倒しながら進む! これに尽きるだろ?」
「……ゴブリンを舐めてるなら、此処で待っていてください。大丈夫、私は報酬を辞退して、全て貴方たちの実力と活躍で持ってして達成されたと
「ちょっと待ちなさいよ。さっきから黙って聞いてれば……」
「なんだと!? 何が問題なんだよ!」
魔術師が剣士が。コケにされたように感じて抗議する。しかし、ヴァルキリーはその抗議を鼻で嗤いながら続けた。
「フッ──では、お尋ねします。誰が、決して、前からしかゴブリンが来ないと決めたんですか?」
「っ……」
その放たれた言の刃を聞き、言い返せるものはいなかった。声音には微かに怒気が含まれていることがわかったのだ。
「何が起こるか分からないのが冒険です。誰1人として欠けずに、ギルドに報告するまでが冒険です。誰かが死んだ時点で冒険は失敗なんですよ? あなたたちは剣を模した木の棒を振り回して遊ぶ冒険者ごっこの延長線が冒険と思っているのですか?」
これは児戯ではない命懸けの「冒険」だ、と彼女は彼らに諭し、優しく教えるように話す。何があるかわかりもしない、未知に挑むのが「冒険」だ、と。
「死ぬ覚悟を決めて此処に来たんじゃないですよね? 命懸けとわかるなら──いい顔になりましたね、剣士さん」
「ここまで言われて気が付かないほど俺は物分かりが悪いつもりはないよ。いや、字は書けないけどさ」
「出来ないことが有るのがヒトというものです。彼女たちを率いる覚悟はありますか? 基本的にある程度フォローするだけにしましょう……本来はあなたたち4人の依頼ですから」
では、とヴァルキリーは立ち上がる。とゴソゴソと下ろした背袋から松明を出し、また何かを出してはベルトポーチへと収めていく。
瓶を6本、それぞれにはポーションらしき物だったりと色々である。そして作業をしながら「ここまでこれば作戦は立てれますよね?」と彼らに声をかけた。
その声に無言で頷いた剣士は一党に向き直る。
「みんなごめん。さっきまでは軽い気持ちでここまで来たけど、今は覚悟を決めた。だから、俺に命を預けてくれるか?」
「いい顔してるわよ、アンタ。うん、あたしもごめん……この命を預けるわ」
「はい、私は大丈夫です。必ず成功させましょう!」
「あそこまでコテンパンにされてるのを見たら嫌でも同情するわよ……まぁ、それとは関係ないけど失敗はやめてよね? んじゃ作戦を立てましょうか」
「ありがとう。
少し弱音を吐きつつ、「しっかりなさい」と背中を武闘家に叩かれてシャキッとする一党の頭目として振る舞うこととなった剣士。彼らは各々ができる行動を把握して、連携を取るべく作戦を組み立てる。
「じゃあ1番前に俺、武闘家その後ろを神官と魔術師、最後尾にヴァルキリーだな。攻撃範囲の広い俺が盾を持って食い止めるから武闘家は隙間から漏れたゴブリンを仕留めてくれ」
「わかった。頼りにしてるわよ」
「まぁ及第点ですね。ところで……斥候はいないんですか?」
ヴァルキリーも納得はしたが、その言葉に答えられるものはいなかった。
「……しかたない。私は斥候の心得もありますから、最後尾って選択は正解としておきましょう。杖は石突きで地面を突きながら持てば片手でも持てますよ」
と後衛の2名にアドバイスして、その様子を眺めていた剣士は改めて5人になり、報酬の取り分が少なくなるなと考えていたが。ヴァルキリーは「報酬の取り分は……私は銀貨5枚で構いませんので、よろしくお願いします」と言った。新米一党はその言葉に戸惑ったが彼女は続けてこう言った。
「新米の冒険者に経済的余裕はないですし、あくまで私が貴方たちに手を貸すのは《自己の目的》のためですからお気になさらないでください。こう言うと傲慢かもしれませんが、私は『偽善者』ですから」
ならそれで、と剣士たちは納得することにした。《自己の目的》とは何かを聞く事はできず、一党は改めてゴブリンの巣へ侵入するのだった。
──────
「これはなんだ……?」
「ゴブリンの趣味でしょうか……」
洞窟内は一本道となっていて、その道なりに進んでいくと何やら動物の頭蓋が飾られた物を新米たちは見つける。一方のヴァルキリーは最低限のフォローはするが、あなたたちが「冒険」しなくては意味がないとこの置き物に対しては知識を貸すつもりはないようだった。
「まぁいいや、先に進もう。この先にアイツらはいるはずだし」
「ええ、そうね。2人とも、足場は悪くない?」
「歩けなくはないわ。さっさと行きましょう」
剣士の意見に相槌を打つ武闘家に反対はしない魔術師。そしてこくりと頷く神官。しかし神官が、後ろにいるヴァルキリーを横目で見ると。彼女は松明を手にその置き物をじっと観察していたが、興味なさげに一党の斥候として辺りを観察するのに戻っていた。
「やっぱり前からしか来ないのかな……」
剣士は呟いたが、ヴァルキリーは答えなかった。
彼らが通路の中ほどに入ると、前衛の2人がそれぞれ構えた。松明の光に釣られたのかゆらりゆらりと奥からやってくる影。松明の明かりに照らされる醜悪な顔立ち。小さな略奪者がおおよそ8体だろうか?
「来たぞ、ゴブリンだ……!」
「8体。かなり多いわね……耐えれる?」
「耐えて見せるさ! いくぞ!」
盾と剣を構えて、剣士は一歩前に出る。その後ろをフォローする様に武闘家は構えた。
「小癒はいつでも唱えれるようにしておいてくれ!」
「火矢はなるべく温存、あたしたちに任せて!」
2人は躍りかかってきたゴブリンたちに対して迎撃を開始する。
剣士はゴブリンの攻撃を盾で受け、剣でなんとか受け流しつつ隙を作ったゴブリンを突き、斬り、柄頭で殴り殺す。
しかし、その数の理はゴブリンにある。1匹仕留めても他にいる。だが、剣士の隙を埋める者がいる。剣士の守りの合間を縫って術師のもとへ行こうとするゴブリンを蹴飛ばし、その頭蓋を健脚で潰して絶命させるのは武闘家である。
前衛2人の活躍でゴブリンは徐々に減っていき、何匹かは奥へ逃げていく。
「あ、逃げた!」
剣士が逃げた個体を追おうとすると……ヴァルキリーが何かを唱えた。
「《我らに、守りを》──
前に向けてではなく、自分が向いている……剣士たちから見れば何もいないはずの後ろに向けて奇跡を唱えたのだ。
「ちょっ、何を──」
「うそ……」
「だから、誰が前からしか来ないって決めたんですか?」
聖壁は不可視の壁を作り出す空間系の奇跡だ。術者が拒絶するありとあらゆる物理的な物体と生物を決して通さない壁である。そこに殺到する影が複数あった。そして勢いよく跳び、その不可視の壁に激突して惚ける者たちはゴブリンだった。
「GOGYAGYAGA!!」
「GOGYAGE!!」
「GYAGYUO!!」
なぜ通れない、なぜこいつらの元に行けないと喚いているのか。複数のゴブリンが苛つきながら不可視の壁を突破しようと木の棍棒で、粗末な武器で殴っているがビクともしない。
「どこから出てきたんだそいつら……」
「あの置き物に皆さん注意が行きましたね? アレはトーテムという物です。入り口にもあったのも同じ物ですけど」
「?」
「……トーテムって物なら聞いたことが有るわ。確か、縄張りを主張するゴブリンの長が作る物だったかしら──あ」
「気がついたようですね。ええ、ここの長は《呪文使い》です。トーテムを作るのはゴブリンシャーマンだけですからね」
バツの悪そうな顔をする魔術師、そして気がついた神官は剣士たちにゴブリンシャーマンの特徴を教える。精霊術を扱うゴブリンの上位種で有ることを。
「じゃあ、そのゴブリンシャーマンって言うのは魔法で攻撃してくるのか……」
「はい、魔法の回数は個体によると聞いてますが、3回使ってくると考える方がいいかもしれません」
「厄介なことこの上ないわね……3回、か」
何やら思いに馳せる魔術師。どうするか、と考える剣士。そして、彼らはヴァルキリーを見る。
「……はぁ。まぁあなたたちだけでゴブリンシャーマンを倒すのは酷ですから手伝ってあげましょう。あと、奥に逃げていったゴブリンに関しては少し放置します。まずは退路の確保ですからね。このゴブリンたちは死角にあった横穴に潜んでたみたいですよ?」
「なんで教えてくれなかったんだよ」
「そりゃ、聞かれませんでしたから」
そう言うと、ヴァルキリーは神官に指示を出す。それを聞いた神官は少しだけ腑に落ちない顔をしつつ、詠唱した。
「《いと慈悲深き地母神よ、闇に迷える私どもに、聖なる光をお恵みください》──
奇跡は形となり、ゴブリンたちの目の前で閃光がはじけた。
「暗いところを見通せる目を持つゴブリンにとって、いきなりあんな閃光が出ると……いや、暗闇の中でいきなり松明以上の光を見ると視界が灼けるんです。覚えておいて損はないですよ?」
ヴァルキリーの言う通り、ゴブリンたちは目を押さえて転げ回っていた。そして彼女はそこに蓋を開けた瓶を投げて、その中身が1匹のゴブリンにぶち撒けられた。ドロドロの粘性のある油のような水だった。
「魔術師さん、あのゴブリンに火矢をお願いします」
「わかったわ。《
飛翔した炎の鏃。それは正確に指定されたゴブリンに着弾した。すると、ゴブリンの体についていた粘液が勢いよく燃え出したのだ。
激しく燃え上がり、ゴブリンは火を消そうと地面をのたうち回る。しかし暴れても火は消えない。それどころか……他のゴブリンを巻き込んで、燃えていく。
「うわぁ……一体、何を投げ掛けたんですか?」
「
「はあ……」
神官の問いにヴァルキリーは応えると、燃えて瀕死のゴブリンたちの頭に長剣を突き刺して絶命させる。
「えーと、これで5。剣士さんたちが6……合計11か。そろそろ彼もくる頃合いかな?」
その声に呼応するように、ザリザリと足音が聞こえた。足音はこちらに近くなってくる。そして人影がみえて、それにヴァルキリーは話しかける。
「こっちで3つだ。他は?」
「新人くんたちが手伝ってくれたから11ですね。あと20は居ると思いますね」
「根拠は?」
「さっき2匹ほどか奥に逃げていきましたし、シャーマンがなんの対策もしてないって言うのは無いなって。用心棒に
「そうか、任せても?」
「もとよりそのつもりです。任されました」
その会話を終えてその人影はやってくる。その容姿はボロボロの兜に汚れた印象の鎧を見に纏った軽装の戦士だった。
新米一党は気圧されつつ、その首にかけられた「銀等級の標識」を見て神官が聞く。
「あの、貴方は……一体……」
何者なんだ、とこの場の者たちは思っただろう。
「
男は短くそう応えた。