変なやつ~もう1人の小鬼殺し~   作:trpg-7

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のちに言われる。‘在野最優’

 辺境の街、冒険者ギルドに1組の冒険者達が訪れた。長い耳を不機嫌に上下させる美女が受付嬢に食ってかかっていた。見た目は17、8歳ほどだろうか? 

 

 その長い耳は通常の森人(エルフ)よりも長く、その顔は美しい神代の彫像に勝る程。彼女は妖精の末裔と謳われる上森人(ハイエルフ)だろうか? 背にはイチイの木で作られた弓を、弦は蜘蛛の糸か、大弓をその華奢な体に通して背負っている。言うなれば、妖精弓手だろう。

 

「『オルクボルグ』と『ワルキューレ』がここにいると聞いたのだけども?」

樫の木(オーク)? ワルツ……ですか?」

「だから、『オルクボルグ』と『ワルキューレ』よ!」

 

 バン! とカウンターを叩き、詰め寄られ、「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げる受付嬢。見目は美しくも、ギロリとした眼光を受ければ誰でも萎縮するだろう。そんな状態、仲間をなだめんと

 

「ぼ、冒険者の方でしょうか?」

「だからそう言ってるでしょ?!」

「馬鹿め、ここはのっぽな者(ヒューム)の領域。耳長言葉が通じる訳があるまいて」

 

 恰幅の良い、踏み出し妖精弓手の隣に立つは鉱人(ドワーフ)。彼女とは背丈は2倍ほどの差はある。格好から見るに術師であろう彼は下顎に蓄えた立派な髭をしごきつつ、喚くようなさまの彼女を馬鹿にするように

 

「なら、なんて呼べばいいのかしら?」

「ワシが聞いた名前は『かみきり丸』と『戦巫女』じゃのぉ」

「そのような方は、えっとー……」

 

 受付嬢の困った様子に「おらんのか!?」と衝撃のあまり固まる鉱人道士、「やっぱり鉱人はダメねぇ〜と」嫌味に揶揄う妖精弓手。言われっぱなしは癪に触ると鉱人は言い返す。

 

「まぁったく、森人とくりゃあ、金床にふさわしい心の狭さだからのぉ」

 

 ドワーフが目で指差すところ、まな板のように、悲しいほどに平らなソレだった。頬が羞恥と屈辱に赤く染まりながら、妖精弓手も言い返す。

 

「んなっ! ──それを言ったら鉱人の女子なんて樽じゃない!」

「なにぉお?! ありゃ豊満と言うんじゃ!」

「あの、えっとぉ……」

 

 さぁさ、受付嬢は営業スマイルは崩さずに、一層困ったように、どう仲裁すべきかと思案した。森人と鉱人はどうしてか仲が悪い、それはどんな地域であれ一党であれ変わらない。と、そんな彼女に思わぬ助けがその影となり

 

「すまぬが二人とも、喧嘩なら拙僧の見えぬところでやってくれ。先程から話が進んでいないが?」

 

 ずんと足音、不毛な言い争いを続ける2人を影ですっぽりと覆うその巨軀。思わず受付嬢も見上げた。影の主は、青い鱗の蜥蜴人(リザードマン)。その身衣は羽飾りやら、派手な司祭の出で立ち。竜司祭だろう、つまり蜥蜴僧侶だろう。

 

 彼は奇妙な合掌と共に頭を垂れるとまずは

 

「拙僧の連れが騒ぎを起こしてすまぬな」

「いえいえ、慣れてますから……あははは……」

 

 謝罪する彼を見つつ、奇妙な取り合わせだと受付嬢は考える。

 

 とても珍しい上森人にそれと仲の悪いと有名な鉱人。滅多に見ない蜥蜴人。彼らは在野最高の3位冒険者、銀等級の冒険者だった。内心を秘めて受付嬢は改めて聞く。

 

「それで、どなたをお探しでしょうか?」

「うむ。拙僧も只人の言葉に明るいわけではないが、つまり、この者たちが申す名前は字名(アザナ)でな」

 

「はぁ」と受付嬢。しかし蜥蜴人がその名前を出せば彼女の顔はパッと輝いた。

 

「『小鬼殺し』、『戦乙女』と言う意味だそうだ」

「ああ! ゴブリンとヴァルキリーですね! その人たちなら知ってます!」

「おお、そうであったか!」

 

 喜ぶ蜥蜴人。そんな彼らの後ろから、カラカラとベルの音が鳴る。妖精弓手が振り向くと、自分と見目の歳が同じか一つ上か。赤い装束に煌く白銀の胸当て(ブレストプレート)白銀の籠手(シルバーミット)白銀の脛当(シルバーグリーブ)、青いマントに白銀の兜(ヴァルキリーズヘルム)

 左腕に大吊盾(ラージタージェ)を革帯でくくり付け、手には大弓を携えている。その腰に長剣と矢筒、背中に大剣を背負うと言った風貌の女がエントランスに入ってきたのだ。

 

 それを見て受付嬢は三名に「失礼」と会釈しつつ彼女に声をかける。

 

「おかえりなさいヴァルキリーさん!」

「……確かに『ワルキューレ』だわ……」

「はい、ただいま戻りました」

 

 妖精弓手はヴァルキリーと呼ばれた女を観察する。首に下げている赤銅は真新しいが、彼女が纏う気配はくぐり抜けた修羅場を数えるのも億劫になるような、そんな歴戦の気配。そのオーラは隠さず、堂々としたもの。

 そこに一拍子おくれて……酷く汚れた革鎧に身を包み、ボロボロの鉄兜で顔を隠した見窄らしい戦士、それに付き添うように法衣に身を包んだ少女が入ってきた。

 

「おかえりなさい! ゴブリンスレイヤーさん!」

「今帰った──今、ゴブリンと言ったな。何処だ?」

「それは……どうぞ」

 

 先ほど入った時に聞こえた、受付嬢の「ゴブリン」に反応するゴブリンスレイヤー。何処だと聞かれて受付前の三名に引き継ぐ。

 

「ゴブリンか?」

「はぁ……? ──って、誰がゴブリンよ、誰が?!」

「お、おう? ととっお、落ち着け耳長の」

 

 お前がゴブリンか? と聞かれたと思ったか、妖精弓手は食ってかかるのを鉱人道士が思わず咄嗟に宥め止める。その様子を見て慌てて取り繕うように、ゴブリンスレイヤーの隣に控えていた女神官がフォローに回る。

 

「ゴブリンの討伐の依頼か? って聞かないとダメですよ、ゴブリンスレイヤーさん」

「……そうか」

 

 そのやりとりを見てヴァルキリーは思わずくすりと笑う。保護者と立場が反対ではないか、と。

 

「して、そちらの神官さんの言う通り、ゴブリン退治の依頼ですか?」

 

 ヴァルキリーはとりあえず、受付にいた3名に話しかけた。

 

 ────────―

 

「少し、休め」

 

 受付にいた3人が用があったのはゴブリンスレイヤーとヴァルキリーだったようで、何やら話し込むらしく応接室に行ってしまった。彼にそう言われた女神官は現在、紅茶を飲みながら休んでいた。

 

「やぁ、久しぶりだね!」

「はい──あ、あの時の!」

 

 彼女に話しかけてきたのは鉢巻をした剣士……かつてともにゴブリンの巣に挑んだ者たちだった。あの時と同じように女武闘家、女魔術師と……見知らぬ2人の冒険者がいた。

 

「ゴブリンスレイヤーさんは?」

「何かお話があるそうでして、今は応接間の方に」

「大変ねぇ。でも、元気そうでよかったわ」

 

 女神官の言葉を引き継いだのは女魔術師だった。あの頃と違い、レザーマントに法衣を着こなし、首に下げていたのは……黒曜級の標識だった。

 

「あら、黒曜級に上がれたんですか?」

「ああ、ヴァルキリーさんに師事してたからさ」

 

 一党の頭目である剣士は、あれから何があったのかを語る。

 

 女神官がゴブリンスレイヤーに付き従うようになってから、彼らはヴァルキリーに師事しようとしたのだ。依頼に行けないが学びに来るのは構わない、と彼女が神殿に詰めていた時期に、3名にゴブリン以外の怪物の知識を授けてくれたり、剣士に至っては片手剣の手ほどきを受けたと言う。

 女武闘家には青玉級冒険者の拳士に渡りをつけてくれたり、女魔術師には辺境最強の槍使い一党の魔女に、魔術の手解きを受けれるように取り計らってもらったそうだ。そんな時間を過ごしながら彼らは空いた時間に下水道のドブ浚い、害獣害虫駆除の依頼を受けて下積みしていた。

 

 最近は慣れてゴブリン退治をするようになっていったらしい。今現在は腰に剣と棍棒を下げた新人戦士と斥候としての心得もある見習い聖女を一党に加えて活動をしていると聞いた。

 

「あの人といっつも組んでるって聞いたけど……囮にされてるとか」

「そ、そんなことは!」

「おいおい、野暮はダメだって。ゴブリンスレイヤーさんがそんなことする訳ないだろ」

 

 戦士の疑問はもっともだが、それを剣士は諫める。そして、色々と話し込んでいると……階段から人が降りてくる気配を感じた。

 

「ぁ──ふふっ、教えなくてもいいのに。あの人は色々と教えてくれますから」

 

 ──気にかけてもらって、足を引っ張っていないか……でもこれは自分で決めたことだから──

 

 彼女はそう言うと失礼します、と彼らのもとを離れた。去っていく背を見送り、ゴブリンスレイヤーと合流した彼女は冒険者ギルドを後にする……また冒険に行くのだろう。

 

「彼女、まだ白磁級なのね……」

「いいや、多分今回で昇級すると思う」

 

 女武闘家が言うと剣士は所感を語る。

 

「銀等級の冒険者についていく意思の強さだぜ? 在野最高の冒険者に師事できる環境は安全だろうけど同時に危険だしさ」

 

 頭目の語ることを聞いて女武闘家は、それもそうねと引き下がる。

 

「ってゴブリンスレイヤーさんが遠出するなら……俺たちは……」

「自由騎士さんたちを誘ってゴブリン退治でもですか?」

 

 苦笑いしながら見習い聖女が言う。まぁ彼らの……やることは決まっている。

 

「ああ、やることは変わらない──ゴブリン退治さ!」

 

 ──────

 

 少し時を戻し、応接間へと場面は変わる。

 そこに満ちるなんとも言えぬ緊張感にヴァルキリーは困った顔で苦笑した。あっちこっち、どっちよりゴブリンスレイヤーを観察する目の前の小柄な妖精弓手の剣呑な雰囲気に逡巡くらいしかできずにいたのだ。

 

「では、改めて依頼の確認でしょうか。それとも、自己紹介を先にするべきでしょうか?」

「……依頼の話を聞かせてもらおう」

「一つだけ答えて。──あなた本当に銀等級なの?」

 

 妖精弓手がそう尋ね、ゴブリンスレイヤーは「ギルドはそう認めた」と即座に返す。そしてその隣に控えるヴァルキリーもこくり、と頷いて見せた。

 しかし、弓手の、彼女の疑念もまた正当だろう。何せ、その見窄らしい革の装備とボロボロの鉄兜を見てとてもそうとは思えない、と天を仰ぎたくもなるだろう。

 

 どかり、と椅子に腰下ろすゴブリンスレイヤーに、皆様もどうぞお掛けくださいと促すヴァルキリー。彼の対面に座って弓手はその隣に控えるよう立つヴァルキリーに問いかける。

 

「見るからに弱そうなんだけど。どちらかといえば、銅等級の貴女の方が強そうに見えるわ」

「下手をおっしゃらないでください。彼は特化している……ゴブリンどもを斃す事を第一に装備を整えられていますから。私は他の怪物も狩れるように備えているだけです」

 

 応対するヴァルキリーの身に纏う白銀のそれらには魔法がかかっているのは一目瞭然だった。鉱人道士の分析ではブーツは移動力の補強。鋼手袋は膂力を増す祝福が。マントには矢避けの加護が。彼が「嬢ちゃんをみたらオーガですら逃げ出すだろうな」と後に語るがそれは今は捨て置かんとする。

 

「そうだのぉ。見たとこ、革鎧は機動力の確保。着込んだ鎖帷子は短剣での不意打ちに応対すべく。兜は致命打を受けぬように保護の名目と、相対する小鬼どもには威圧感も与えれるだろう」

 

 武器は狭い洞穴での戦いに備えて選んでいる……鉱人の見立てにゴブリンスレイヤーは応えなかったが、ヴァルキリーは「お見事です」と呟いて正解だと雰囲気で語った。

 

「それならせめてもうちょっと綺麗な格好をしたらどう? 汚すぎるわ」

「金臭さを消すために必要だ。奴らは鼻が良いからな」

 

 接近に気付かれたら面倒だと彼は口では言わず、そんなこともわからないのか、と小さく、めんどくさそうなため息一つをこぼした。

 ぐぬぬと唸る妖精弓手。埒が開かない、戻るかとゴブリンスレイヤーが頭の片隅で考え出したのを見て、ヴァルキリーは助け舟を出さんとする。

 

「皆さま、その点での彼の実力は私が保証しましょう……もしも嘘だったならば等級を剥奪する糾弾をしてくださっても結構です。それで、本日は依頼をお持ち込みなのでしょうか? それともあなた方一党へのスカウトというものなのでしょうか?」

「ええ、依頼よ──都の方で悪魔が増えているのは知っているとは思うけど」

 

 妖精弓手は話し出す。真剣な面持ちで……しかし、それを制するようにヴァルキリーが待ったをかける。

 

「お待ちください。ゴブリンスレイヤーさんは基本的に悪魔や魔神だろうとゴブリンどもを駆逐する事を優先されます。何より前置きは結構です」

「なっ、わかっているの!?」

「分かっています。世界が滅びかけているとしても勇者がいれば事足ります」

 

 ヴァルキリーはバッサリと切り捨てた……取りつく島もないとはまさにこの事。そして何より「勇者がどうにかする」と彼女は言い捨てる。

 

「その勇者は魔神王とやらにゾッコンなのでしょう。それほど重要なものだとは承知しています、ですが……」

「世界が滅びる前にゴブリンは村を襲い、滅ぼす。世界の危機だろうと、奴らを野放しする理由にならん」

 

 言葉を繋ぐようにゴブリンスレイヤーが語った。まるで、自分の言っていることが真実であると言うように。

 

「あなたねぇ……!」

 

 こめかみに青筋を浮かばせ、その長い耳をひくひくと震わせながら白磁のような肌を真っ赤に染めて怒りをあらわにした妖精弓手がゴブリンスレイヤーに掴みかからんとしたのを。

 

「まぁ待て、考えてもみろ耳長の」

「……なによ、鉱人」

 

 茶々を入れんと、嗜める声音で鉱人道士が彼女に語りかける。

 

「そもそもわしらは、此奴らに混沌をどうにかさせるために来たわけじゃなかろ。その領分は、そっちの嬢ちゃんの言う「白金等級」の奴らの仕事じゃ」

「そ、それはそうだけど……」

「ならば、落ち着け。話の腰を折ってどうする」

 

 妖精弓手は嗜められ、バツの悪そうな顔をして、それでも不機嫌にどしん、と席に腰掛け直す。つん、とそっぽを向いて膨れっ面になりかけつつあるその様子にヴァルキリーも苦笑いを一つ。

 

「そちらの事情も相応にあるのでしょう。どのみちゴブリンが絡むならば私や彼は受けますが?」

「まぁ、そう焦らさんな。物事にゃあ順序ってもんがあるだろうよ、嬢ちゃんや」

「……それもそうですね」

 

 納得したヴァルキリーがゴブリンスレイヤーに視線を送る。

 

「……それで、話はなんだ」

「ここまでの話でおおよそは察しておられるとは思うが、拙僧らは小鬼退治を依頼しに来たのだ」

「やはりゴブリンだったか」

 

 ゴブリンスレイヤーはそれまで全く興味を感じさせなかった様子を一変させる。そして「ならば請けよう」と即答して見せたのだ。

 

「「……」」

「だっはっはっは!! まさに『かみきり丸』じゃなこの若いの、ふふ、ふ……だっはっはっ!」

 

 妖精弓手は何こいつと言わんばかりに顔を引き攣らせ、蜥蜴僧侶は目を見開いて沈黙。その隣で鉱人道士は腹を抱えて笑っていた。

 

「どこだ。数はどれほどだ?」

「ふっ、ふふ……そう急かすな、若いの。ちとこの鱗のに話をさせてやってくれんかの」

「無論だ──お前はどうする」

 

 ヴァルキリーに問うように。彼女は「無論、お供します」と応えた。

 

「情報は必須だ。巣の規模やシャーマンの有無、田舎者はどうだ?」

「ゴブリンスレイヤーさん、少し落ち着いてください。相手の話を聞きましょう」

「……そうだな」

 

 ヴァルキリーが苦言を零すと、ちょっとだけ、ゴブリンスレイヤーがまるで母親に叱られて、しゅんとしたように見えた妖精弓手は少しだけ溜飲が下がった。

 

「拙僧は報酬額を最初に聞かれる思っていたのだがな」

 

 そう言ってチロチロと舌で鼻先を舐める蜥蜴僧侶。彼は話を始める。

 

「まぁ興味はないやも知れんが、拙僧の連れが先ほど述べた通り、悪魔の軍勢が侵攻しようとしておる」

「封印されていた魔神王の一柱が目醒めた噂は聞き及んでいます。それが我々を駆逐しようとしていることも」

「……」

 

 情報は知っているとヴァルキリーの答えに蜥蜴僧侶は苦笑なのかぐるりと目を回し、頷いた。

 

「……うむ、お主にとっては興味はなかろうと思ったよ。これまでの態度を見るに、な」

「十年前にも、あった事だ」

 

 そして蜥蜴僧侶は族長、人族の諸王が、森人に鉱人や獣人の長が集まって会議を開くと伝える。

 

「レーアはともかく、わしらはその使いっ走りというわけじゃ」

「諸侯の要件を伝えて回っているという事ですね」

「そういう事じゃな。冒険者だからの、わしらは」

 

 腹を叩きながら鉱人道士は「駄賃も出たしな」と呟いた。妖精弓手もようやっと調子を取り戻したように。

 

「……いずれ大きな戦になると思うわ」

 

 その言葉に、ぴくりと眉を悲しげに曲げたヴァルキリーの様子を見ながら、ゴブリンスレイヤーは何を考えているのかは、鉄兜に阻まれ全くわからない。妖精弓手もその辺はもうこの偏屈に言っても無駄か、ととうとう諦めていたが。

 

「問題は近頃。耳長のたちの土地であの性悪どもの動きが活発になっておる、という事じゃな」

「活発に、ですか。おそらくは大きな親玉でも得たのか、あるいは……」

「……チャンピオンか、ロードでも生まれたか」

 

 ゴブリンスレイヤーが呟き、かもしれんと相槌する鉱人道士。その聞きなれない言葉に興味を持ったか妖精弓手の長耳がピクピクと動く。

 

「チャンピオンに、ロードってなんなの?」

「ゴブリンから見て英雄、あるいはゴブリンの王という体の者たちですね。彼らにとっての白金等級と言うべきでしょう」

 

 ヴァルキリーが彼女の質問に答え、ゴブリンスレイヤーは腕を組み、フームと唸る。至極真剣な様子だった。

 

「まぁ、いい。続けてくれ……情報がなさすぎる」

「うむ。拙僧らが調べたところ……大きな巣が一つ。しかし、まぁ……政治がな」

「ゴブリン如きに軍を動かせない。いつもの事か」

「本当にすみません。我々の王はその、疑心暗鬼な想像力だけは本当に豊かでして」

 

 ぺこり、と思わず頭を下げるヴァルキリー。彼女に気にするな、と妖精弓手。

 

「只人の王は私たちを同格とは認めても、同胞とは認めてくれないもの」

 

 肩を竦める彼女に申し訳ない気持ちになりながら、ヴァルキリーは神妙に、同意の意で頷いた。

 

「故に、冒険者を送り込み、対処する運びとなった訳なんだが、拙僧らだけでは只人の顔が立たぬ」

「そこで、オルクボルグ……そしてその相棒にとワルキューレ。あなたたちに白羽の矢が立ったわけ」

 

 そこまで聞いて「なるほど」とヴァルキリーも納得した様子だった。その隣で「地図はあるのか」と淡々と確認するゴブリンスレイヤー。

 蜥蜴僧侶が「これに」と彼に懐から出した地図……巻物を差し出すと彼は受け取り雑に広げた。木の皮に染料を使ってしたためられたそれは正確な筆致。森人の地図だと一目でわかるものだった。

 荒野の真ん中に立てられてある、古めかしい建物。それをゴブリンスレイヤーは指でなぞる。

 

「遺跡か」

「恐らく」

「数は」

「大規模、としか」

 

 ゴブリンスレイヤーはヴァルキリーを見る。彼女は「その遺跡の大きさから見て…」と呟き

 

「おおよそ100以上でしょうか。相応の準備はしないとまずいですね」

「そうか……」

「神官さんは連れて行きますか?」

「休ませる」

「即答ですね。でも、ちゃんと相談してあげてくださいよ? 休め、だけでは伝わりませんから」

「むぅ、わかった」

 

 本当にわかっているんですか? と苦笑するヴァルキリー。しかし、その後きっちりと相談はしていたとだけ此処に記そう。

 

「少し準備してから出るぞ」

「わかりました」

「俺たちに払う報酬は好きに決めておけ」

 

 地図を丸め、席を立つと地図を押し込み、手早く装備を確認すると、ヴァルキリーを伴って戸口へと早足で向かう。たまらず妖精弓手は彼らを引き留めた。

 

「ちょっと待ちなさいよ! たった2人で行くつもりなの?」

「ああ、そうだ」

「ああ、流石に私たちだけではキツイので手を貸して頂けるならありがたいですけど、如何ですか?」

 

 即答するゴブリンスレイヤー。しかし、ヴァルキリーは真逆のことを言う。

 

「彼、偏屈ですから。みなさんが元々受けた依頼みたいですし、その辺は……ですよね、ゴブリンスレイヤーさん?」

「……ああ、そうだな……」

「「「……おう」」」

 

 その場にいた全員の心は一つになった。とはいえ、こうして、ゴブリン退治へと出立することとなる。一党の結成とは往々にして、どうも奇妙な縁で成り立つものだろう、と後に妖精弓手は語った。


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