夢×   作:ハークライムツ

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第11話 ジャパンC

第11話 ジャパンC

 

 きっと空を

 

私は夢なんて見ない

あるのはただ確信だけだ

 

だから完璧に思えたプランが

崩れたとしても泣かない

原因を究明して立て直し

次の機会にベストを尽くす

その姿勢こそが重要だと

 

そうこれは静かな戦いなのだ

私にだってきっと空を飛べると

立証するための戦いなのだ

 

ーーー

 

 ジェットライン、その名の通り、空を飛びたい。私のバカげた願いは…形を変えて、いつしか大きな夢となり、もはや1人だけの望みではなくなっていた。

 

皐月賞。壮絶な叩き合いを制し一冠目

日本ダービー、相手の夢に敗れて鼻差の2着

菊花賞。涙の二冠目。準三冠バなんて呼ばれた。

しかし、それまでだ。所詮私はそれまで…それどころか準三冠など過ぎた異名だ。

 

私はそれ以来一度も、

一度も、勝てていない。

 

さっさと引退しろ、重すぎる二つ名、ニ冠の価値を下げるなとまで言われたことがある。

「そーだな、この世代を代表するお前が負けてばっかだから、最弱世代、何で呼ばれちまってる、俺も…お前の三冠を阻んだことを誉められたりしてるぜ!」

「言うことかいて……あんたが」

「別にいいじゃねぇか、最弱でも」

「は?」

「お前は何でもかんでも背負いすぎなんだよ

あのクラッシック3つのレース、お前そんなめんどくさいこと考えていたのか?」

「それは……」

「いっぺん全部忘れて…好きに走れよ、そしたらただの駆けっこだぜ?」

「フフッ…それはとっても楽しそうだわ」

「だろ?」

だがそれは叶わない、凡骨な私に望みをかけてくれているトレーナーさんのためにも。世代の代表として戦う私の立場が、何よりこのエアロの為にも最後くらいは絶対に勝ちたい。

部室の扉が開き、見知ったスーツ姿の男が入ってきた。いつも険しいな顔をしているが、今日は一段と眉間に皺が寄っていた。

「まずいことが起きました…」

「おっす、ジェットのトレーナーさん、相変わらず怖い顔だな!邪魔してるぜ」

「おバカ、失礼よ」

とは言いつつ、彼女の憎まれ口はいつものことである。トレーナーさんも特に気にしてはいない。

「お疲れ様です、エアロさん

大変です…ジェットさん

ジャパンC…とんでもない大物が出てきます」

「大物…パラディンさんでも来るの?」

「パラディンは回避を選んだようです…けれど、パラディンに匹敵する大物です」

「パラディンに匹敵……シンオーか?それくらい予測できただろう今更騒ぐことでは…」

「大陸の頂点、シャルロットが来ます」

「バカな!何のために??今更?何で!?」

「どうやら、本人はパラディンとの再戦を望んだみたいです」

「でも出ないだろ?パラディンは!」

「はい…ですが、この記事を見てください」

そこには『この国の幻想を打ち砕きに来た』

とデカデカと書かれていた。

「どうやら、パラディンが万全ならパラディンが勝っていた…という意見があるこの国も制しに来たのでしょう」

シャルロット、今年の凱旋門で優勝したウマ娘。この国ではパラディンが故障したことばかり取り上げられるが、彼女も…当たり前だが…恐ろしく強いウマ娘だ。

「はー、存外小さい奴だな、シャルロットも」

「それに、イギリスからも…」

次の記事には、『ブリテンの天才怪物、海を渡る』と

「天才か怪物かどっちかにしろよ…」

ピューリー、僅か3戦目にてイギリスダービーを制したことで一気に有名になった。

天才怪物、決して大袈裟すぎるあだ名ではない。

「そして、先程話にも出てたシンオーの記事がこれです」

『P-SYBからの刺客、シシシンオー、ヤマトノヌシとタッグを組む』

『ヤマトノヌシの込めるGold Barrett は海外の怪物共を討ち滅ぼせるのか!?』

似たような記事が並ぶ。なるほど、今年の総大将の役割は彼女が果たすとメディアは睨んでいるらしい。

「どうやら、ヤマトノヌシは回避を選んだようですが、シシシンオーのサポートに回るみたいです」

「シシシンオーの強さにヤマトノヌシの頭脳が加わるのか…なるほど、確かに強敵だ、だが相手にとっては不足はないよな?ジェット」

トレーナーさんが持ってきた様々な記事を漁る。どれも今話した3人の話題ばかりである。

「…私の記事がない」

「あはは!誰からも注目されてねぇじゃん!」

「笑い事じゃない」

「いや、ありますよ……ほら!」

そこには『準三冠バ、有終の美を飾れるか!?』との文字が。

「このライターさん、いつも私のことを書いてくれてる人だわ」

「つまり、実質ゼロ!」

「うるさいわね……」

「関係ねぇよ」

「は?」

「誰が来ようが、有終の美だなんだと、関係ねぇんだよ

お前はお前のできることしかできないんだから、精々練習頑張りな

負けたら大声で笑ってやるよ」

「はぁ……いちいちムカつくけどエアロの言う通りだわ、私は私にできることを…やるだけなんだから」

「早速、練習を始めましょう」

 

ーーー

 

「お疲れ様でした」

「はぁ……はぁ……ふぅ……ありがとうございました」

今日のメニューもかなり厳しいものだった。このトレーナーさんは普段はとても優しいのだが、メニューに関してだけはかなり厳しい。思ったタイムが出ないと倍走らされるのは当たり前。最初、エアロがメニューを見たときは吐き気を催していた。明日に備えて早く寝なければ、そんなことを考えて帰路に着く。

しかし、そんな私より明らかに疲れているウマ娘がターフにうつ伏せで倒れていた。

「何してるの?」

「はぁ……はぁ……きっっつっ………」

こちらに気づいている様子はない。

「心!まだメニューは終わってないぞ!!って……ん?これはこれは、線先輩」

「ヤマトノヌシさん……この前の走り、見事だった」

「ありがとうございます、きたるじゃぱんかっぷでも走りたかったんですけどね」

「残念……勝ち逃げなんてずるいわね」

「……」

「冗談よ、そんな顔しない」

「いや、驚いて……勝ち負けに拘るタイプではないと思っていたので……」

「……そう?」

「すみません、気を悪くしたのなら謝ります」

「謝る必要はないわよ、本当のことだし、私は確かに勝ち負けに拘るタイプではないわ……」

「……??」

「そんなことより、シシシンオーさんはいいの?さっきからピクリとも動かないけど」

「あ…はぁ……やれやれ、流石に今日はここまでかの」

そう言い放たれた半死のウマ娘は、震える身体を一身に支えて言葉を紡いだ。

「まだ……やれます……!!」

その姿に形容し難い恐怖にとらわれる。

これが…P-SYB世代……なるほど、今までに戦ってきた相手とは違うみたいだ。

「頑張ってね」

でもだからなんだと言うのだ?私は私のしたいことをするだけ。

「ん?あの人は……」

「Jet line、『機械仕掛け』…ですね!!」

「あれ、トレーナーいつの間に……」

「それはこっちのセリフでーす!!どう考えても練習のしすぎ!overworkですよ!!」

「それには心配いらぬ、儂自身もウマ娘じゃからの、壊れる壊れないその境界ぐらい熟知しとるわ」

「それなら全く心配ないですね!!」

「少しは心配して……」

 

ーーー

 

 この学校の図書館は人が多く、席が空いていないことがしばしばある。研究をするために場所が欲しかったわけだが、今日も案の定人が多い。

「へー、P-SYB世代は傑物揃いって聞きますが、んなことがあったんすねー」

そんなわけでいつも通り教室で勉強をしていたわけだが、クラスメイトが話しかけてきた。

「ジャパンCの研究すか?」

「次が最後だから……やれることは全てやっておきたい」

「精が出ますねー」

「あなたは気楽でいいわね、ナチュラルスター、次は……マイルCSかしら?勝てそう?」

「マイルは私の独壇場!と言いたかったんですけど、今レッドオフェンダーとか言う娘が出てきててこれまたマイラー気質の強いウマ娘なんですよねー、ま!負けないですけど」

「その娘も、P-SYB世代よね、確か」

「そうっすね、派手な世代は羨ましいなぁ」

「そうね……」

やはりいつも頭をよぎるのは最弱世代と呼ばれること。そして、それはスターも一緒だったみたいだ。

「ゲートが怖くて辞めちゃった可哀想なあの娘とか親の事情でアメリカ行くことになっちゃったあの娘とか残ってたらもーちっとなんとかなった気がしますけどね」

(何より、私が勝ててないことよね……)

思っていても言わない、相手を困らせるだけだから。

「でもね!私、自分の世代が大好きなんですよ!!大好きなんです!!」

「スター……」

「貴方達のダービー、私は外から眺めるだけだったけど、すっごく感動しました!

1番好きなレースです!夢と意地のぶつかり合い!!あれこそダービーって感じがしますよね!!」

私の負けたレースもそこまで想ってもらえたのなら、やはり価値があったのだろうか。

「次のジャパンC、応援してます!!」

「貴方も頑張ってね、スター、応援してるわ」

 

ーーー

 

紅撃主の猛攻はマイルでも健在!!かわせるか!?ナチュラルスター!!

残り100!!

ナチュラルスターも負けじと踏ん張る!!

しかし、レッドオフェンダー!!レッドオフェンダーだ!!レッドヒーローが決めてくれました!!新たなマイル王者の誕生です!!

レッドオフェンダーです!!

2着に惜しくもナチュラルスター!!

 

 

「たはは……負けちまいましたねー」

泣きそうな顔で笑う彼女になんと声を掛ければいいのか、言葉が見つからない。

「よく頑張ったな、スター、いい走りだったぞ」

「エアロちんも来てたんすねー、いやー流石レッドヒーロー、かっけぇす」

「スター……」

「そんな顔しないでくださいよジェットちん、もう来週っすよジャパンC、ライブ、もう見なくていいから帰って練習して下さい!」

うつむきながら言われたため、真意はわからない。本気で言っているのか、あるいは冗談か。

なんて、そんなこと、顔を見なくても声でわかる。

「…そう、わかったわ」

震えてたから。泣き顔を見せたくなかったのだろう。

「ジェットちんいきました?」

「……あぁ」

「ふぅ……いや〜ジャパンC相当気合い入ってたから、私も勝って勝利のタスキを繋げようとして……慣れないことはするもんじゃないですね」

「……相手が悪かった」

「そうですね、相手が……でもマイルは……マイルだけは……私の、ものだと……」

「泣いてる姿見せちゃったら、またジェットちん変なもの背負いそうだから、あの人の夢には重すぎる……」

 

そのあと、レッドヒーローと湧く歓声の中、一筋の級友の叫ぶような嗚咽が聞こえたのはきっと気のせいだ。

 

「ジャパンC、きっと、勝ってみせる……」

 

ーーー

 

東京レース場、本日のメインレースジャパンカップ

雨脚が強くなってきました、今年は珍しく不良バ場でお送りしています

そして、これまた珍しく今年は海外勢の層が厚いです、見応えのあるレースを期待します

 

今日の注目は誰ですか?

注目というか、プレシスコート!引退宣言してませんでした?

そうなんですよね、天皇賞・秋で引退宣言をしていたはずなのですが、何故かジャパンカップにも参戦という意味不明な参加です

 

「なんでプレコ先輩んなことしてんだ?」

「あの人の真意は我々には計り知得ないことじゃ、考えるだけ無駄じゃ無駄」

「そ……そうか」

 

まぁいいでしょう……

各ウマ見ていきます

 

 

1枠1番、天才怪物ピューリー

僅か3戦にてダービーを勝つなんて

彼女の末脚は見えないほど早いみたいです

まさに音速の末脚、3番人気です

 

1枠2番、ジェットライン

機械仕掛けの二冠バ、このウマも日本を代表するウマ娘であることは間違いありません

このレースで引退を宣言をしています、有終の美を飾れるでしょうか

4番人気です

 

「4番人気か……低いな」

「そうじゃな……あの世代はとやかく言われてるがそんな弱くはないはずなんじゃ、が下には浪漫先輩とか我々、上も上で怪物揃いじゃったからどーしても、の」

 

3枠5番、プレシスコートですね

堂々と逃げ宣言をしております

両手を広げ……何をしてるんでしょうか

ショーシャンクの真似ですかね?よくわかりませんが6番人気です

 

8枠14番シャルロット

あまりにも大きい、大きい壁です

凱旋門賞を勝った大陸の覇者、世界の頂点

この島国の頂点までも取りにきたか?

堂々の1番人気

 

7枠13番、シシシンオー

日本代表の役割は、このウマに託されました、金色の弾丸、獅子王

パールアラディーンの仇討ち、期待します

2番人気です

 

「ちゃんと落ち着いてんな」

「当たり前じゃ、誰が調教したと思っとる」

「調教って表現やめろ」

 

さぁ出走準備が整ってきています、異例尽くしのジャパンカップ、いよいよスタートです

 

ーーー

 

 もうこのレース場も最後か……決して順風満帆な選手ではなかったけど、それでも最後この場に立ててよかった。あたりを見渡すとシンオーとシャルロットが何やら話している。それにすり寄っていくピューリー。私は眼中にないってわけか。別に悲しくも怒りもない。

「おーいー、ジェットちん」

緊張感の走るこの場所で、風変わりなとぼけた声に呼ばれ顔を向けると、同期がたくさんいた。

「スターに、ホーク、来てくれたのね」

「うん、先週来てくれたっすからねー」

「戦場は違えど、我ら行き着く場所は同じ……戦友よ、友よ、今日この出会いを嬉しく思う」

「相変わらずねホーク、でも来てくれて私も嬉しいわ」

「トレーナーも、最後のレース、ちゃんと見ててって……もう撮る必要ないわよ」

「いえ、次の娘の参考にします」

「フフッ、そうね、なら未来の後輩のために頑張るとするわ」

「おいおい、私は無視か」

「エアロ……貴方が来ないことないじゃない今更別に、何しに来たの?」

「散々な言われようだな、お前が負けたら笑ってやろうと思って」

「なら、私が勝ったら泣きなさいよね」

「おぉおぉ、ぎょーさん泣いてやらぁ」

これもいつも通りのお約束。よくもまぁ最後まで付き合ってくれたものだ。ファンファーレが鳴り響く。ウマ娘たちが続々とゲートに向かう。天国へのラッパとなるか、地獄への交響曲となるか。

全ては今ここにかかっている。

「ナチュラルスター」

「なんすか?」

「ホークパーラー」

「何ぞ?」

「トレーナーさん」

「はい?なんですか?」

「そして…エアロベース」

「んだよ」

「私、勝つわ、今日」

例え、どんな手を使うことになろうと。

「気負いすぎなんだよ、お前はもっと」

「違うっすよエアロちん、こーゆーときは!」

「揃えて頑張れって言ってあげるのが友」

「そうそう」

「はぁ?私は嫌だよ小っ恥ずかしい」

「いくっすよ、せーの!」

『頑張れ!!』

「フフッ、ありがとう、頑張ってくるわ」

ゲートに向かう。

 

ジャパンカップが、始まるーーー

 

ーーー

 

全てのウマ娘に、敬意を表してジャパンカップ、今、スタートしました!

 

いいスタートをきれましたシシシンオー

 

先を行きますのはニードルスフィア、デルタオリジナル、なんとプレシスコート行きません、何かの作戦なんでしようか?

 

金色の体躯シシシンオー、ワレルレコード

 

(よし、言われた通りいい位置につけた、このまま先行で封じきる!)

 

ジェットライン外目をついて中段にいます

 

(自分のペース、自分のレースを……)

 

覇者シャルロットはこの位置後ろから3番目最内を通ります

 

(ふん、他愛無い、ポジション争いがあると思ったが、特に競り合ってくる者もなしか)

 

そして最後方に天才ピューリー末脚勝負か?

いや、もう1人、なんとこの位置プレシスコート、こんなところにプレシスコートです

 

(皆々様、どうか私の糧になってください……)

(今日マジで調子いい、世界を変えてしまうかもしれない……!)

 

第一コーナーに各ウマ吸い込まれていきます

 

「よし!!いいスタートをきれたなシンは

今回は先行策か?」

「今までは良くも悪くも聖騎士殿に振り回されてたからの、一度考え直したが、あの娘は前ではってるのが1番強い」

 

早くも縦長の様相を呈してきましたジャパンC、面白い展開です

 

泥を蹴散らし力強い走りを見せながら、各ウマ向正面に入ります

 

シシシンオーは先行3番手

 

先頭は2馬身ほど離してニードルスフィア、デルタオリジナル、その後ろジェットライン

 

「あんまし動きはないな」

「このバ場だとあまり思うように動けないのだろう、と、言いたかったのじゃがの……」

 

さぁなんと!ここでプレシスコート前に出る!前半1000mを終え、遅いとみたか?

 

(今日の調子なら、このままいける!)

 

ここで仕掛けてくるとはプレシスコート!あっという間に先頭ニードルスフィアに並びます!!ここで刃を抜いたプレシスコート!!

 

一気にレースが動きます!!

 

シャルロットが上がってきてるぞ中段!!シシシンオーの後ろ!

(……この娘が、パラディンの言っていた1番のライバル……)

(すごいプレッシャー……でも、プレッシャーなら同じくらいのをいつも受けてる、焦らず、いつも通り!)

 

その内に少し下がってジェットライン

(悪く無い展開ね、あの2人が削りあってくれれば……)

 

ピューリーは未だ後ろをキープしています!

(私の末脚なら、誰にも負けない、必ずまくってみせる)

 

各ウマ位置振り返っていきます

先頭プレシスコート、並んでニードルスフィア

 

1馬身離してシシシンオー最内を通ります

少し下がってデルタオリジナル

 

その外2馬身離してシシシンオーを見る形でシャルロット、ウォーターズ、プレイラン

 

その外機械仕掛けジェットライン

ドレスウィード

 

後ろにピューリーです

 

「さすがプレコ先輩、面白いな」

「見てる分には面白いが、レースしてる当人たちはたまったもんじゃ無いな、あんなんで宝塚記念ぶっちぎりで勝ったりするしのぉ

世界を変えたウマ娘だったか?」

「けど、シンオー的にはちょっとまずいぜ

あのシャルロットにマークされちまってる」

「心配無用じゃ、あの娘がいつも誰と競っているのか、考えてみよ」

「そりゃそうだけどよ……」

 

さぁ、先頭のプレシスコートはぐんぐんぐんぐん差を開いて、第4コーナーを超え最後の直線へ!!

 

(やばい、このメンツで勝ったら、マジで世界変わっちゃう……)

 

日本代表!シシシンオーはこの位置!前から3番手動きません!!

 

(ぬるい…ぬるすぎる……

本当にこのウマ娘がパラディンと1着を争ったウマ娘なのか?パラディンも底が知れるな……まぁ、それもそうか、各国を代表するといえど所詮島国のてっぺんを争っている様な連中だもんな、私を誰だと思っている?

大陸一、世界の頂点だぞ?)

 

「精々死ぬ気で来い、小童ども!!」

 

ここでシャルロット仕掛けます!!第4コーナーの途中!!速い速すぎる!!

 

「ここ!!」

 

なんと!応戦する形でシシシンオーも仕掛ける!!

各ウマ直線に入ります!!

 

5馬身ほど離して前にプレシスコート

なんとこの位置から競り合う外シャルロット

内シシシンオー!!

 

ジェットラインは未だ中段!!

 

大外からピューリー上がってきている!!

 

先頭との差が縮まってきている!!

プレシスコートは!もう……

「無理〜といつもの私なら言っていた!」

(大陸の頂点??

ブリテンの怪物??

新世代からの刺客??

準三冠バの有終の美???

そんなときに勝ってこその、プレシスコートよね!!)

「世界を変えるのに!そう何秒もいらないの!!」

 

いや、プレシスコート!懸命に踏ん張る!!

 

3頭横一線!!

 

(亡者達の悲憤の声が…

数多の敗者達の怨嗟の歌が…

負けてはならぬと叫んでいる…!!)

「全員の夢を踏み躙り、レクイエムを奏でましょう」

 

いや、まだ!!大外にもう1人!!天才怪物ピューリー!!音速の末脚で応戦!!

 

ジェットラインは来ないのか!!

 

(あそこに競り合うのは、私のペースじゃない……けど、それでも……)

大切なことを教えてもらった。あれは、確か皐月賞終わった直後だったわね……

 

ーーー

 

 私はただの走る機械であった。

 

自分の設定したタイムに、トレーナーの設定したタイムを厳守し走り抜く。

レースでも同じ、想定したペースと展開を遵守する。私にとって勝ち負けなんてのは、あくまで結果であって、それ自体とやかく言うことではない。

「お前、それ本気で言ってんのか…!?」

「何を怒っているの?エアロ」

「怒ってなどない、こんな奴に俺は負けたんだなって思っただけだ」

「やっぱり怒ってるじゃない」

「勝つための理由がわからないと?」

「……」

「そんな奴にダービーウマ娘の称号はあげられないな」

レースが終わった後だと言うのに、この日1番のライバルはチリチリと瞳を燃やしていた。

「そう、ならば全力で抗って見せなさい」

 

そうして迎えたダービー本番

 

さぁ、真っ向勝負、ダービーの栄光はこの2頭に絞られた!!

エアロベースか!?ジェットラインか!!

 

(最初から逃げてた貴方にもはやこのペースを保つ余裕はない、残り50mで……

「力尽きる…とでも言いたそうな顔だな」

「…!?」

「走るってのは!勝ち負けってのは!!何も理屈だけの話じゃねぇんだよ!!」

 

ここでエアロベース抜け出す抜け出す!!一歩!また一歩差をつけていきます!!

そのまま1着でゴールイン!!

2着にジェットラインです!!

 

「……はぁ…………はぁ、これでわかったか?私の執念が、勝つことに対する妄執が」

「わからない」

「おいおい……」

「わからない、今日このレース、私は一分の隙もなく完遂してみせた、貴方の力量もわかっていた……なのに、何故??」

そして、自分がここまで動揺している理由も。高揚している理由も。

「だから言っただろ?理屈だけじゃねぇって」

「わからないと言っている!」

「お前も声を荒げることがあるんだな、珍しいもん見たぜ」

「だから次は完璧に走ってみせる……!菊花賞は負けない!」

「そーだな、だが、次はないな……すまねぇ」

「何を……」

そのままこちらに倒れ込もうとするダービーバを、何かの冗談かのように思っていたが、彼女を支える両の脚がピクリとも動かないところを見てことの重大さに気付く。

「誰か!!救急車……タンカーを!!」

 

屈腱炎による引退。

私を走る機械から一端のウマ娘にしてくれたの同期のライバルは呆気なくターフを去る羽目になった。

 

そして、ライバル不在で勝ち取った菊花賞。

それが最後。私はそれまでのウマ娘。

でもそれでいい、私はそれでよかった。

 

でも、私のせいで私の世代全体が貶されることだけはどうしても許せなかった。そして、その評価自体を覆せない自分自身が。

 

ーーー

 

これがラストチャンス……

どれだけ感動的なドラマがあっても

どれだけド派手で強い世代があっても

どれだけ強いウマ娘がいたとしても!!

それだけであいつらの…エアロの価値が下がることにはならないだろ!

 

「最弱世代なんて言わせない!!私が…私たちががいる世代が1番すごいんだって!!日本に…世界にみせてやるんだぁぁああああ!!!!!」

 

間を割ってジェットライン!!機械仕掛けの二冠バジェットラインが叫んでいます!!

 

プレシスコートはやっぱり無理だった!

最後の勝負はこの4頭!!

シシシンオーか!?

シャルロットか!?

ピューリーか!?

ジェットラインか!!?

 

「おい、やばいぜ!シンが……あの小ささで3頭に競り合うのは……」

「だから何度も言わせるな、あの娘を誰が調節したと思っている?この儂じゃぞ?」

 

(本当にみんな強い……

特にシャルロットさん…下手したら…本当にパラディンちゃんより強いかも…)

 

(けど、とっても不思議、まだ足は動くし、全然疲れてない……ありがとう、ヤマトちゃん)

 

昨日の私でもない、

明日の私でもない、

今日の私なら…全くもって

「負ける気がしないわ」

 

シシシンオーが前に出る!!まだ脚を残していたのでしょうか!?

 

(そんな…?私の末脚でも……追いつかない…!!)

 

「いいぞ!!海を渡った甲斐があった!!こういう戦いを待っていたんだ!!胸をかそう!!さぁ存分に踊り明かそうでは無いか!!っツ……!」

(なんだ……足に違和感が……!)

 

シャルロット後退!ピューリーも追いつけない!!ジェットライン懸命に追い上げるが間に合わない!!

シシシンオー第二の脚!!飛ぶ勢いです!!これは決まったか!?

 

(また……私はだめなの?最後すらも……)

『いっぺん全部忘れて…好きに走れよ、そしたらただの駆けっこだぜ?』

レース前エアロに言われたことが頭によぎる。

(そうね……最後だとか関係ない、私は私の様に好きなように走るだけ、あの日思い描いた理想を……)

「私たちだってきっと、空を飛べるはず!!」

ここでもう一度ジェットライン差し返す!!

ジェットライン差し返す!!

 

ーーー

 

開け放たれた空は生憎の雨

曇天の空に友の涙はかき消された

自身が背負うその名が重すぎるなんてことは決してなかった

勝ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェットライン

 

ーーー

 

空の彼方に夢の果てを!

描いて見せたジェットライン!!

有終の美を飾ってみせましたジェットライン!!ジェットラインです!!

ジェットライン1着!!2着にシシシンオー!!3番手争いはピューリーか!?プレシスコートか!!?

 

ーーー

 

 これ以上疲れることは、もうないだろう。

ジェットラインと会場が湧く中、よろよろな脚で仲間のところへ。

「流石だな、戦友よ、君と同じ夢を見れたこと誇りに思う」

「ありがとうホーク

スター、私やったわよ」

「おめでとうございます!ジェットちん!いやーやっぱり私、この世代でよかったっす!!」

「トレーナーさん…ってあなたぐちゃぐちゃじゃない」

「平凡な僕の元に君の様な素晴らしいウマ娘がやってきて…勝たせてあげられなくて、どれだけ謝っても許されない……でも今日は…今日だけは……!!勝たせてあげられて、本当によかった!!」

「今日だけじゃないわよ、あなたは私の夢を最後まで叶えさせてくれた素晴らしいトレーナー、次の子の夢もきっと叶えてあげてね」

「はい……ありがとう……ございました……!」

「そしてエアロ…エアロベース」

「あなたも…泣くことがあるのね」

ニヒルな笑顔を浮かべ憎まれ口を叩く、いつもの姿とは程遠い柊生のライバルは、下唇を噛み締め一身に涙を流していた。

「遅い…!遅すぎる!!」

「あなた……」

「私はずっと!ずっとずっと!お前に…ジェットに!!おめでとうって言いたかったんだ…!」

「…!憎まれ口ばかりのあなたに、おめでとう、なんて言われる日が来るとはね」

「皐月賞の後、勝っても嬉しくないって言われてすごく悲しかった……!!

ダービーで勝った時、次は負けないって言ってもらえて嬉しかった……

だけどダービーから私の脚は止まってしまった、一緒に貴方の脚も止めてしまったような気がして……!!

今日最後の日に勝てて、本当によかった……おめでとう…本当におめでとう……!!」

「そんなことを考えてたの?バカね……

逆よ、貴方に負けた時から、私の脚は動き始めたのよ、ありがとう、エア、エアロベース、あの日あなたが私に勝ってくれなかったら、今日先頭でゴールテープを切ることは叶わなかったわ」

「あの日勝ってくれてありがとうですか、私もライバルたちにそんなことを言える日が来るのですかね?」

「シシシンオーさん……」

「シンオーで結構です」

「最後、奇襲する形になっちゃだけど……」

「それ以上はいけません、私に言い訳をさせるつもりですか?」

「そうね……ごめんなさい、いいレースだったわありがとう」

「こちらこそありがとうございます、私も今回のレースで何かを掴めた気がします

では、失礼します」

踵を返しキリキリと控室に向かった。

「あんなタイプだったっけ?シンオーちんって」

「さぁ……」

 

ーーー

 

「また勝てなかったなぁ」

 得たものはあったが、やはり勝ちたかった。けど後悔はない。不思議とそれほど悔しくもない。気持ちはもう次の有馬記念へと向かっている自分に驚く。菊花賞の時と同じ様に純白の聖騎士に迎えられた。があの時とは表情が逆だった。

「どうしてパラディンちゃんが泣いてるの!?どこか痛いの?」

「いや、感動しただけだ、同時に何故私があの場にいないのか、悔しくて仕方がかった」

「珍しいね……そんな感情を爆発させてるの」

「あぁ、こんな感情初めてだ、素晴らしい走りだったぞ、シンオー」

「負けちゃったけどね」

「有馬記念、絶対に走ろう、一緒に」

「うん、けれど、怪我は治さないとだよ」

返事は聞こえなかった。

 

有馬記念が、始まるーーーー

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