「もうすっかり冬だね……」
練習後、つんざく寒さの中、暗くなった空を見上げてつぶやいた。最近は練習も厳しくなってきている。というか、ヤマトちゃんの指導の名残が残っていると言った方が正しいかもしれない。連日、誰々陣営が気合が入っている、今年のアリマは彼女で決まりだという記事が飛び込んでくる。誰も彼も浮足立たずにはいられない、アリマ記念。
「って……あそこにいるのは」
挨拶をする間柄ではないが、聞きたいことがある。
「今晩は、パラディンちゃんのトレーナーさん」
「…シシシンオーか、今晩は
あんたのトレーナーは?」
あたりを見渡し警戒を強めている。私のトレーナーは何をしたんだ?
「いや、今日は一緒じゃないです、その……聞きたいことがあって」
「……パラディンのことだな?」
「はい、聞いても、大丈夫、心配するなの、一点張りで……」
「じゃあ俺から言えることもない」
「……そう…ですよね、すみません失礼します」
昔からこの人はちょっと苦手だ。逆恨みだということはわかっている。だが、あの日あの時、彼が止めてくれたら違う未来があったのではないかと思わずにはいられないから。
「ちょっと待て」
「はい?」
「その……なんだ……怒ってないかと思って」
「怒ってる?何にですか?姉を奪っておきながら、私の親友まで故障させたことですか?」
「ぐっ……」
「なんて、冗談ですよ、あの時の姉を止めることなんて、きっと誰もできなかった
パラディンちゃんも同じです
誰かの一声で止まっちゃうウマ娘ならあそこまでの存在にはなれなかったでしょうから」
そう自分に言い聞かせる。
「でも、次はないですよ」
これで私の言いたいことは伝わったであろう。あの時は悪魔か何かの様に思っていたが、彼もまた被害者なのだ。
誰もいない夜道で1人男が呟く。
「俺は……どうしたら……」
ーーー
話は、少し前に遡る。
「アリマ記念は……諦めてください」
「何故……」
そんな、何故、あれだけハードな練習もこなせる様になっていたのに。
「パールアラディーンさんの脚はもういつ再起不能になってもおかしくない状態にあります、レースで無理をすると……最悪の場合は……」
一つ前の担当したウマ娘の悲劇が頭によぎる。
「そんな、また……俺は」
「彼女にとって最善の選択を期待します、それでは」
「……これから…これからって時じゃないか、来年にはシニア級のレースを、凱旋門だって……アリマを皮切りに……」
「私は出る」
「何を言っている!今無理をしたら将来を……下手したら命すらも……」
「将来のことはわからない、だが自分の中で病気のせいか……衰えを感じる、きっと今がピークだ、今決着をつけなければ……私は一生涯後悔をする」
「何故そこまで拘る…!シシシンオーか!?」
「ジャパンC、君も観ただろう?素晴らしいレースだった、二の脚を使ったシシシンオーが決めたと誰もが思った、そこに強襲してくるジェットライン、最後の瞬間飛んだのかとすら思ったよ、心が揺さぶられたと同時に何故私はあそこで走っていないのか後悔した
あいつらともう一度、あと一度だけでいい、戦わせてくれ」
「…………それでも、だめだ
わかってくれ、ライオンドリームもそう言ってレースに出た、もうこれ以上レース界の宝を失うわけにはいかない」
ーーー
「ただいまーって、まだ練習かな?」
同室の先輩はまだ帰ってきてないみたいだ。
(お姉ちゃんに会った……)
1ヶ月ほど前に言われたことを思い出す。
「私が負けた時に出てくるなんて、あの娘らしいと思わない?」
「あはは!そうですね」
「因子の継承なんて、眉唾だと思っていたけど、まさか本当にあるとはね……手は貸してくれなかったけど」
「それもお姉ちゃんらしいです」
「私は、文字通り命を燃やして走ったわけだが、その有体に一刹那も後悔はしていない何度生まれ変わったとしても、必ず同じ道を走る、ですって残された人たちの気持ちも知らず、失礼しちゃうわね」
「お姉ちゃんそういうところあるから……」
どんな勝負でも手は抜かない、必ず相手を置き去りにしてゴールに先着する。そんなレーススタイルに皆尊敬と畏怖の念を抱いたものだ。
「唯一の心残りは妹のことだ、支えてやってほしいって、ほんとバカね、ドリームは」
「??」
こちらの頬に手を当て優しく撫でられる。姉が私を慰める時によくやってくれていたことだ。
「こんなに強いウマ娘なんですから、支える必要なんてないわよね」
「いやいや、私はそんな……」
「いえ、ほんと強くなったわねシン」
そんな優しいことを言われると姉を思い出して、また涙が出そうになる。
「次のアリマ記念、見ていてください、きっと私は前にいますから」
「生意気な!!」
つねられた頬があまりにも痛くて、ほんの少し涙が溢れた。
アリマ記念が……始まるーーー
ーーー
ここ中山は予報は雪ですが、まだ降ってはいません
全てのウマ娘年末の大舞台
参加16人中、半分以上がG1ウマ娘というなんとも豪華な顔ぶれになっています
年度代表決定に相応しいレースを期待しますアリマ記念
各ウマみていきます
1枠2番、NHKマイルカップの勝者
天皇賞秋で世代の壁を超えたことも記憶に新しいです、ターフの奇術師、この国の皇
ヤマトノヌシ
現在4番人気です
2枠3番、勇気をくれる逃ウマ娘
ロンリーロンリー
ただこのメンツには流石に厳しいか?
12番人気です
「頑張れよ、ヒーロー」
「ヒーローは貴方でしょ、レッド」
「いんや、お前もヒーローだよ」
「たはは……まぁ、頑張ってみるよ」
2枠4番、数々のライバルを蹴散らし見事菊花賞バに輝きました
地方の吉星、地方ウマ娘の希望となるか
ブラックホープ
6番人気です
3枠6番、今年のクラッシックの主役、皐月賞、日本ダービーの覇者、聖騎士
パールアラディーン
初めて1番人気を外しました、それでも期待十分2番人気です
3枠7番、去年の天皇賞秋、アリマ記念も勝っています、当然連覇を狙う祭囃子
ファスティバル
3番人気です
「おっと?トレーナーは今日はこっちで見んのかい?」
「えぇ、それに、この子も」
「坊が見てるなら、尚更負けれねぇな!」
5枠10番、そしてこのウマ娘も忘れてはいけません、シルバーコレクターの異名を跳ね返せるか?ゴールドバレット、獅子王
シシシンオー
5番人気です
6枠11番、まだまだ走るぞプレシスコート
今回も何かやりそうな予感があります
7番人気です
8枠16番、春のシニア級覇者ロマンフット
天皇賞春、宝塚を連覇、ジャパンCは回避しましたが、このアリマで復帰です
浪漫脚は未だ健在
堂々の1番人気で迎えます
ーーー
重苦しい雪雲があたりを支配するアリマ記念。場内は始まる前だと言うのに大歓声だ。
「おっす!ホープちゃん!久しぶり!」
「久しぶりだな、シン、ジャパンC以来だな」
「地元での秘密の特訓はどうだった?」
「秘密じゃないが……バッチリだったぜ」
ジャパンCの後、すぐさま地元に帰ってしまったため会えないままでいた。久しぶりの再会だが、妙に緊張感がある。
「ヤマトは?」
「あっち」
さっきチラリとみた、かの名だたる名ウマ娘と嬉しそうに話すヤマトちゃんを指差す。
「俺の目には『勇者』と『大王』しか見えないんだが?」
「あれ?」
「儂をお探しかの?」
「ヤマトちゃん!ジャパンC以来だね!!」
「いや、お前らは違うだろ……」
「いんや、違くない、儂も秘密の特訓をしてたからのぉ」
放課後にはすぐにどこかに行ってしまうため、ちゃんと話すのは本当にジャパンC以来かもしれない。
「今日も正々堂々勝負だね!!」
「あぁ!!」
「正々堂々とはわからんがのぉ」
「お前はまた、そんなことを言って……」
「冗談じゃ♪」
「奇策、妙策なんでも来なさい!今日の私は負けないよ!!」
「……望むところじゃ」
ファンファーレが鳴り響く、皆んながゲートに向かう。この時の皆の真剣な表情を見るのが好きだったりする。
「……パラディンちゃん?」
「ん?あぁ、なんだ、君かシンオー
どうした?」
「いや、嬉しそうだったから……」
「そうだな、とても嬉しい、このアリマ記念に出られて」
「私も嬉しいよ!!ちゃんと出れたんだね!!一緒に走れて……
でも変わったね、パラディンちゃん」
「私がか?」
「うん、昔は、勝って当然、そのために出るだけ、感情なんて二の次だ、みたいな顔してたじゃん」
一瞬驚いた顔の後にすぐさま笑顔を見せる。
「そうだな、私は変わった……そして、それは君のおかげだ、ありがとう」
そのそぶりに若干違和感を感じつつも、指摘するほどではないと、
「あはは…なんか照れちゃうね」
そう答えた。
「いいレースにしよう!」
ーーー
「結局、許可したんですね」
「クリスティーナ……なんだ、責めに来たのか」
「そんなわけないです、バカですね、羽柴は」
「……」
「そんな顔するなら、出さなきゃいいのに」
「本気で思っているのか?」
「思ってるわけないでしょ、箱に入れて後生大事に取っておいてなんの意味があるんです?彼女たちは今を生きてるんですよ
昔、あなたが教えてくれたことです」
「そうだな……その通りだ」
ーーー
ファンファーレがレース場を包みます
プレシスコートがゲートに入るのを嫌がっていますが、無理やり入りましたね
全てのウマゲートに入りました
戦いの火蓋が、今!切られました!!
バラバラっとしたスタート
誰が先頭に躍り出るのか…
ロンリーロンリーいいスタートを切りました
鼻をおさえにいきます
それに合わせに行くプレシスコート
その後ろ1バ身離して内に入るはヤマトノヌシ、その外まわってブラックホープ
少し下がりましてファスティバルは真ん中
シシシンオーは中段やや後ろ
それを見る形でパールアラディーン
1番後ろにロマンフットです
「どけどけどけどけ!!プレコ様のお通りだい!!」
「ヒィィィ!!!!!」
なんと!?ここで先頭を走る2人が大逃げの様相を呈しております!!
やはり先頭指定席!プレシスコートが前を走ります
なんとも面白い展開になってきましたアリマ記念、かなり早い!速いペースで進んでいます!
先頭は、早くも向正面に入ります!!
7バ身ほど離してブラックホープ、ヤマトノヌシ少し下がります
(前2人は警戒するほどではない……おーばーらっぷになっていることは疑う余地もないからの、聖騎士殿の動きがみたい……少し下がるか)
(ヤマトが下がったな、速いとみたか?それは俺も思うが……前につけておくのは間違いではないはず…!)
中段ど真ん中にファスティバル
その後ろにシシシンオーとパールアラディーン
最後方、依然としてロマンフットです
(パラディンちゃんをマークしてるけど……なんか様子が……)
「グッ……!」
おっと!接触したか?パールアラディーン少しよろけて……立て直しました
ですが、1番後ろ変わりましてパールアラディーンです
(パラディンが接触?んなことは……)
(間違いないのぉ、どうやらまだ……)
「もしかして…パラディンちゃんまだ…怪我が治ってないの!?」
返事はない。が、まだレースも前半だと言うのに歯を食いしばり苦悶な表情が答えを語っていた。
ーーー
「やはり……ダメだったか……」
「目を背けるな!羽柴トレーナー!!」
「何を……?」
「あんたが信じて送り出したんだろ!!最後まで見届けてやれ!!」
「いや……嫌だ……見たくない」
「ふざけるな!!あれだけ私たちに絶望を叩きつけてきて、最後の瞬間目を逸らすのか!!」
「……」
「私が競ってきたあんたは!そんな腑抜けたやつじゃないだろう!」
「……好き勝手言いやがって、わかった
わかったよ、もう目を逸らさない
もし何かがあれば……俺はトレーナーを辞める」
「それくらいの覚悟でいなさいよ、最初から」
ーーー
「ダメ……そんなのダメだよ!なんで…怪我を治してからって言ったじゃん!!そんなの……お姉ちゃんの二の舞に……」
何やらシシシンオー話しかけているようにも見えますが??アクシデント発生でしょうか?
ずっと前だけを見て視線を合わせない聖騎士と一度だ目線が交差した。
見たこともないような辛そうな顔、だがニヤリと口角を上げるとそのまま目が合うことはなかった。
「グォォォオオオオオオ!!!!」
なんと、雄叫びを上げて!パールアラディーンがぐんぐん順位を上げていく!!
パラディンが行きます!!
「バカな!!」
「まだ早すぎる!!」
「暴走か?」
一気にレースが動きます!
第3コーナーの手前、先頭は以前プレシスコート!ロンリーロンリー!
5バ身離して、ブラックホープ、その内後ろを通ってヤマトノヌシ
ファスティバルも上げてきています
大外からパールアラディーン!
ロマンフット遅いと見たか!ぐいぐいっと外から上がってきています
シシシンオー、ズルズルと後退してしまっています!
「そんな……どうして……そんな、身体が……」
こんな後ろまで来ちゃって何してるの?
声が聞こえる?誰…?ロマンさん?
いや、違う……
フォームは?腕は?脚は?どうあげるんだっけ?
この声、忘れるはずがない、この口調も懐かしくて仕方がない。
沢山練習したでしょ!崩れると余計疲れるよ、教えたでしょ
何?……バカにしに来たの?
お姉ちゃん