短い間でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
1番古く印象に残っている記憶を辿る。
人はそういった最古の記憶から人格が形成されていくと聞いたことがある。なるほど、確かにそうなのかもしれない。
「なんで私と走ってくれないの?」
「だって、パラディンちゃん早すぎるんだもん、絶対勝てないからつまらない」
幼いながらもその時、漠然と悟った。私はこれからずっと1人で走るものなのだと。別にそれでもいい。手を抜いて走るくらいなら、誰よりも先頭をかけてやる、そう思う。一人旅も悪くはない。
ただ、少し……ほんの少しだけ……
ーーー
あの日流した涙は、喜びか、あるいは悲しみからか……
あの日、ジャパンC…彼女の走りに打ち震えた…それと共にもう私の役割は終わったのだと悟った
それならば、数多の人の反対を押し切り…今日、この場で走る意味は?
有終の美を飾りたいなどと考える自分ではないし、自分の力はもう十分証明したはずだ
それなのに…これほどまでに、身を焦がすほどにレースを渇望してしまうのは何故だろう
なんて、分かりきっているな…
私は今日、恐らく自分の生で初めて……
「自分のために走っている
君ともう一度だけでもいいから走りたかったんだ……!」
ーーー
なんと後ろから上がってきたパールアラディーンがもう先頭集団に…並ばない!!
3番手の位置につけています!!
その内ヤマトノヌシ、ブラックホープ
(故障発生だと思ったが……違ったか?)
(走りに精細を欠いている……やはり怪我は完治していなかったみたいじゃの、悪く思うなよ、これも勝負じゃからの)
(辛いとは思うが、これも戦い……坊の手前無様な姿は見せられねぇからな)
ファスティバルも上がってきてるぞ!
ロマンフット脚をためている!!
シシシンオーは来ないのか??
シシシンオーは!!?
「こんなレース、辛いよ……お姉ちゃん……!!」
ーーー
妹さんには……厳しい話となりますが……恐らく……今夜が山でしょう
嘘だ……
……申し訳ありませんが……
嘘だ!!絶対信じない!お姉ちゃんは最後まで…最期まで…諦めないウマ娘だもん!!
あなたたちが諦めてどうずるの…!!絶対信じないがら!!
……すみません……
その日はずっと、手を握っていた……
祈りながら…祈りながら…祈りながら…
どれくらい時間が経ったのだろう…朝日が病室に差し込んでくる時間に、お姉ちゃんは目を覚まして、体を起こした
お姉ちゃん!!
抱きつき、わんわん泣いた……
私は…愚かにも……もうこれで大丈夫だと思ったんだ、ちょっと疲れただけだよと言ったお姉ちゃんが強がっているだけだとなぜ思わなかったのか
泣き尽きてきた私に、
お姉ちゃんは
心配かけてごめん、でも泣くのはやめて
私は貴女の笑顔が大好きだと、にこやかにレースを終える貴女が大好きだと…言ってくれたから…走る姿が見てみたいと言われたから……
病室の窓から見える位置で走ろうと思ったんだ……
それが最期の時とは知らずに
見せれただろうか…笑顔の走りを
彼女を満足させられただろうか
私の走りは……
ーーーあなたはどうして走るの?
天国に旅立った後も…見守ってくれている気がして…だから、なるべく楽しく走ろうと思ったんだ
お姉ちゃんが教えてくれた走りを
愛してくれた走りを…!
ーーーあの子はどうして走っているの?
わからない…わかるわけがない!
また治してから来ればいい!
レースじゃなくてもいい、レースでなくても、隣で走るだけでも私は幸せなのに!!
わからない、全然わかんない!怪我を治してこないと…そんな怪我では……
ーーーしっかりしなさい、シシシンオー
あの子が怪我をおして、このターフに立っていること、わからないあなたではないでしょう?
わかんないよ!!
ーーーあの子は待っているのよ、ずっとずっと誰かが来るのを待ってる
待ってる…??
ーーーこの世に生を受けてから、彼女の本気に渡りあえるウマ娘1人としていなかった
もしかしたら…シャルロットがそうだったのかもしれないけど、その夢も潰えた
貴方には彼女の走りが英雄に見える?私にはずっと寂しがり屋の少女に見える
思うことがなかったわけではない。時々、勝ちたいのか負けたいのかよくわからない表情を浮かべていたから。
ーーーそんなあの子が初めて見つけたのよ、共に走れる相手を…
自分と共に走ってくれる相手を!
相手はヤマトノヌシ?ブラックホープ?ロマン??違うでしょ?あなたよ!シン!!
瞳の奥に閃光が光る。
ーーーまた、あの子を独りきりにするつもり?
胸の奥に込み上げるものがある。
ーーー本当は…私も貴方達と一緒に走りたかったけど……
体が金色の風を欲している。
ーーーごめんね……聖騎士の夢を…
涙は、走る間に乾くだろう。
ーーー私の夢を…夢の続きを…!!
うん…うん!お姉ちゃん…!
ごめんなさい…私が間違ってた……
ありがとう…
私の姉でいてくれて…ありがとう…!!
ーーーずっと、見守っているからね……
頑張れ、シンオー…!!
行ってきます!!
ーーー行ってらっしゃい
ーーー
アリマ記念も最後の直線に入りました!!
先頭は以前ロンリーロンリー、プレシスコートです!
パールアラディーンここから上がってきている!!脚色は衰えません!!先頭の逃げウマ達も置き去りに!
「ヒィィィ!!」
「まだまだ……私の時代よ……!!」
前2人はここで脱落!後退していきます!!
前を走るは聖騎士パールアラディーンです!!
その後ろ2バ身離して、3人横一線!!
うちから皇ヤマトノヌシ!
ブラックホープ!
去年の覇者ファスティバルです!!
(いよいよレースも大詰めか??盛り上げていくぜ!!勝利の足音響かせろ!!)
ここで一歩ファスティバルが抜け出す!!
挑戦者は祭囃子!ファスティバルか!!?
「お2人さんも、まだまだこんなもんじゃないよなぁ!!」
「当たり前だ!!」
「いんや、ここまでじゃ」
「んな!?調子狂うぜ」
各ウマ!最後の急坂にかかります!!
「金色のが来ている」
「アホな!?脱落したはずだろ!!」
「来ると思っていたぜ……シン!!」
いや、大外から金色の体躯が弾んでいる!!金色の弾丸が飛んできているぞ!!
前3人と並ぶ!!これで4人です!!
挑戦者は一体誰なんだ!!
「秋天では後塵を拝したが、あたしも去年は主役だったんだ!!ここは負けねぇ!!」
「主役だなんだと、そんな話……誰も彼もが主役じゃろう?当然わしも!!」
「くっそ……」
ブラックホープ脱落!後退していきます!
「ここから!!」
ここでシシシンオー、再びペースを上げる!!ジャパンCで見せた第二の脚です!!
「……遅かったな」
「ごめん、けど、もう負けないから…!」
聖騎士に挑むのはやはりこのウマ!!
獅子の立髪!黄金の体躯!!
シシシンオーです!!姉の悲願!ついに叶えて魅せるのかアリマ記念!!
「ごぉぉぉおおおおおぉおぉ!!!!」
目に焼き付けろ!これが我らに魅せる最後の脚!!瞬きなど許さない!高速の末脚!光速の末脚が全てを切り裂くか!!
「はぁぁぁああぁぁああああ!!!」
迎え撃つのはやはりこのウマ!!
ゴールドバレット!金色の風!!
今年最後!大外に金色の旋風が吹き荒れます!!
(ドリームの遺志を継いだのは……何も貴方だけじゃないのよぉ!!)
内から浪漫脚爆発!!前2人に襲い掛かります!!
他3人は来ないのか??
(前とは何バ身離された?
どんな距離だったとしても…
まだ先頭がゴールしていないのならば…)
「この俺が!俺こそが!!脚を止めるわけにはいかねぇよなぁ!!」
ブラックホープ懸命に追い上げる!!
(坊……見ていてくれ……お前の大好きなウマ娘が、1番強いって証明して見せるから!!)
ファスティバルも負けていません!!
(されど、ここまで予測してた儂に分がある……)
「儂だって、お主の好敵手じゃろ?仲間はずれはやめておくんなまし」
ヤマトノヌシも必死です!!
しかし差が開く一方!!年末最後の大舞台!!主役は2人に絞られた!!
シシシンオーか!!?
パールアラディーンか!!?
武士の情けだヤマトノヌシ!
懸命に追い上げるもとどかない!!
「やれやれ…実況者どもはいつも勝手なことを言いおる……」
(ただ、これはあまりにも……)
金色の旋風か!?白銀の風か!?
(まるで、遊んでるみたいだな……)
「はぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
(相変わらず楽しそうに走るな、君は……)
(あぁ…!なんだ……
わたしは最初から一人きりなどではなかったんだな)
シシシンオー!!シシシンオーだ!!
(世界中探しても見つからなかった答えは、ずっと隣を走っていた)
「もう、十分だ……」
なんとシシシンオー!!シシシンオーが抜け出す!!今年のアリマの覇者は、シシシンオーに決まりだ!!
「まだ!!まだまだ!!」
なんと!まだ伸びる!まだ逃げる!!これほどなのかシシシンオー!!
「逃げる!?違う……私は、前を行く……あの陰を……追っている!!」
なんでしょうか?真ん中に…?白い光が…??
(忘れたとは言わせないぞ……彼女の脚の切れ味はこんなもんじゃない!!)
(皆が愛した聖騎士の栄光を!
あの日交わした約束を!)
「これで……終わりだ……」
(寂しがりの少女の夢を!!)
「これで終わりだぁぁあああ!!!!」
ーーー
最後の直線で、過去も未来も置き去りに
今と今が交差する語り継がれるデッドヒート
死闘だったのだろうか
まるで戯れのように見えた
その「勝者」の名は
シシシンオー
ーーー
師走の風を引き裂いて!轟く咆哮は勝利の雄叫び!!シシシンオー!!なんと、初のG1制覇にして敗ってみせました聖騎士の夢!!
シシシンオー!!獅子の夢、心を持つ王が1着です!!姉の悲願叶えますはシシシンオー!!
2着にパールアラディーン!3着ヤマトノヌシ!4着惜しくもファスティバル!!
5着ロマンフットです!!
ーーー
「勝った……?」
ゴール版は通過したものの、実感が湧かないでいた?
「私が勝ち??」
掲示板に表示される自分の番号、そして沸き起こるシンオーと言うコールにやっと自覚する。
「勝ったんだ、私」
「おめでとう、心」
「ヤマトちゃん……私」
「いやはや、よもや聖騎士殿に5バ身の差をつけて勝つとは……おみそれしました」
「差なんてなかったよ、僅差だった」
「そうかい?でも、主が勝ちじゃ」
「シン、やっぱ早いな…おめでとう」
「ホープちゃん……」
「もっと喜んだらどうだ?」
「そうよぉ、ドリームも鼻が高いわね、貴方みたいな妹がいて」
「ロマンさん……」
「fantastic‼︎ おめでとうございます!!Shino‼︎ 遂にやりましたね!!」
「ありがとうトレーナー、貴方のおかげでここまで来れた、そしておめでとうトレーナー」
「こちらこそthank youです!!」
あたりを見回すと、ファスティバル先輩がトレーナーと話しているのが見えた。
「すまねぇな、トレーナーさんよ、負けちまった、坊もごめんな」
「今回は仕方ない、今日のシシシンオーの気迫には誰も勝てなかった、いいレースだったよ」
「そうかな……」
「この子もそう言ってくれるでしょう、ライブも楽しみにしてるわよ」
「そうだな、天国にも届くぐらいのド派手な歌声響かせるぜ!!」
「パラディンちゃんは??」
息も絶え絶えで震える脚を支える姿が見えた。
「パラディンちゃん!」
「大丈夫、大丈夫だ、立って歩ける……」
ふうっと大きく息を整える。
「ただ少し疲れた、休ませてもらうよ」
「パラディン……」
いつの間にかそこにはパラディンちゃんのトレーナーが立っていた。
「羽柴トレーナー、すまない肩を貸してくれ」
「こちらこそすまねぇな、こんなボロボロにしちまって……」
「パラディンちゃん……」
「心配するな、ライブは完遂する
ほら、ファンたちが待っている挨拶してこい」
「うん……!そうだね!!」
「すまないが、トレーナー、控え室まで運んでくれ」
「もとよりそのつもりだ
なぁ、パラディン、満足したか?」
「あぁ、……いや、それでも最後の瞬間やっぱり負けたくないって思ったな」
「奇遇だな、俺も無事にさえ走ってくれればいいと思っていたはずなのに、最後の瞬間、負けるな!!って思っちまったよ……」
スタンドはシンオーコールが行ったり来たりを繰り返し、いつまでも止むことはなかった。
ーーー
その日のライブはもちろん大成功。
はじめてのセンターで緊張したけど、パラディンちゃんもヤマトちゃんもいたんだ、失敗するわけがない。
そして、私は今。海外に来ています!!
「みんな元気!!?」
『おぉ、元気じゃぞ、心は……少し痩せたか?』
「あはは、まぁね」
『シン、ドバイでもしっかりな、お前の爆発力は世界一だってことを世界に教えてやれ!』
「みんな元気そうだね!何より何より!!」
『シンオー』
「パラディンちゃん!」
『君の末脚は世界にも通づる、しっかりな、私の分まで頼むよ』
『お前はいちいち重いんだよ!!』
「あはは!!そんなことないよ、元気出た!私やるよ!世界一に……」
「それじゃあ、行ってきます!!」
次のレースが始まるーーー!!!