夢×   作:ハークライムツ

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閲覧ありがとうございます。

前哨戦、出場条件は詳しく説明するのもアレなのでなんとなくで読んでいただけると嬉しいです。


第2話 トレーナーとは

「ほぉ、わたしがおさればしてから、そんなことがあったんであったんじゃのぉ」

「そうそう」

 お昼時、多くの学生で賑わっているカフェテリアの端っこ、いつものように昼食をとっている。いつも通りメニューを見ずに日替わり定食を頼んだ。今日はにんじんハンバーグ定食、当たりだ。ちなみにヤマトちゃんは重箱いっぱいにお弁当を詰めてきている。

「でも入らなかったんでありんしょう?」

昨日パラディンちゃんから直々にチームに入らないかと誘われたことを話した。

「うん、ホープちゃんがね……

馴れ合いは好まない、それに同じチームにいてもお前に勝てるビジョンが湧かないって」

「ふふふっそれは黒の真似かえ?

そっくりじゃのぅー」

「ありがとう、でありんす」

ヤマトちゃんから微笑みながらデコピンを食らった、まぁまぁ痛い。

同じチームに入ると、同じレースに出させてもらえないことがある。路線を変更させられることも珍しくない。理由としては1着を食い争わないためであろうが、1番の理由はトレーナーの立場であろう。

「立場?」

「そう、例えば仮に黒と聖騎士殿が同じチームに入り、なんらかのレースに出たととしす

その場合、当たり前ではありんすが、どちらかが勝者となりどちらかが敗者となるでありんしょう?」

同着なんてのもあるが、かのオークスなどの例外を除き、大きなレースではほぼないと言っていいだろう。

「うん」

「そうしたら指導員殿はどう立ち回れば正解なんでありんしょう?勝者を労い、敗者に励ましの言葉を送る……その指導員は果たして双方に誠実でいれるかの?」

「でも中にはできる人もいるよ?」

「まぁの、でもそう多くはないでありんしょう?ま!そんな小難しいことを考えんでも、同じ指導員、同じ様なメニューをやったって勝てっこないって思っているだけじゃろうて」

「ホープちゃんが?」

「あぁ見えて意外と小心者じゃからの♪」

「誰が小心者だって…?」

「なんでもありゃせんよー」

「てめぇ……」

「ホープちゃん!何してたの?」

「はぁ……トレーナーと契約してきた」

どかっと私たちの隣に座り、いただきますと小さくつぶやいた。

「決まったんだ!」

「あぁ、まだ新人だが、なかなか根性がある奴だったからな、しゃあないから契約してやった」

「よかったよかった!おめでとう!!」

「くっくっくっ、しゃあなく、ね?」

「なんだよ気持ち悪い、言いてぇことがあるなら言えよ」

「ここ最近、話題の新人トレーナーと言ったら1人しかいない……数々の怪物級のウマ娘をを育て上げたチーム、そのトレーナーの後釜をたった一人で担うことになった新米がいるとな」

「私も聞いたことあるよ!」

「それがどうした」

「あれあれ?おかしいでありんす?そのチームはかの有名な『芦毛の怪物』が在籍していたチームでありんしょう?」

「……それがどうした?」

「わっちの知識が正しければ、黒はかの怪物のふぁんでありんしたよなぁ?まさかとは思うが、それが理由で決めたのではあるまいな?」

「……ち、ちげぇよ」

目が左へ右へ踊り狂っている。ホープちゃんは嘘をつけるタイプではない。その新人トレーナーの才覚を見込んでいることも確かだが、かの怪物の大ファンだから、という話も嘘ではないだろう。

「ほれほれ♪目を見て話さんか♪♪」

「この…!!」

「まぁまぁ!なんだっていーじゃん!おめでとう、ホープちゃん!今度私にもトレーナーさん紹介してね!!」

「……あぁ、わかったよ、ヤマト、てめぇはいつか絶対すり潰す」

「ふふふ、ま!これくらいにしとくかの」

そう言い合い、二人は自分のご飯と向き直す。因みにホープちゃんはうどん。いっつもうどん。

「またうどんかぇ?もっと栄養のあるもの食べなんし、ほれ、このにんじん…」

「いらねぇよ」

「なっ…!このわたしが親切に言ってやってるのに」

この下りもいつも続けている。よくも飽きないものだ。

「私欲しいかなぁ……なんて」

「おぉ!心王!素直になれない黒なんかほっといて食べなんし、食べなんし!」

「素直になれないのはホープちゃんじゃなくて……」

「なんか言ったかえ?」

「なんでもないでーす」

あーんと口の中に運んでもらう。口いっぱいににんじんの甘みが広がる。

「美味しい!」

「そうじゃろうそうじゃろう!」

ヤマトちゃんはそう言いながら、ホープちゃんの方をチラチラ見ている。当の本人は素知らぬ顔でうどんを啜っている。

「んなことより……俺は意外だったぜ、シンオーが聖騎士のチームに入らないなんてよ」

「それはわっちも同意見でありんす、心王のことだから『速いウマ娘といっぱい走れる!嬉しい!!』とか言ってちぃむに所属しそうなものでありんすけど」

「うーん、それはねぇ……」

「あぁ」

「それは?」

「なんでだろ?」

「お前が知らなかったら誰も知らないだろ」

「わたしはなんとなくわかるがの、けんども、自分で気づかねぇと意味がありんせん」

「もったいぶってねぇで、早く話せよ」

「ふふふ」

そう言って私のほっぺについてたソースをハンカチで拭った。いつからついていたのだろうか、恥ずかしい。

「心王も立派なウマ娘ってことでありんす」

「はぁ?」

「えへへ、なんか照れるね」

「それでいいのかシン……」

「ほれより、心王の指導員は?どなたにしたんでありんすか?」

「あぁ…私のトレーナーは」

「Oh!やっぱりここにいたんですね!」

「あれ?トレーナーさん、どーしたの?」

「この書類にsignをお願いしまーす、契約で必要って言われてしいましたー」

「おっけーおっけー!」

「この人は…」

「あ、紹介するね!この人、私のトレーナーのクリスティーナさん!!」

「まだまだ若者ですがよろしくお願いしまーす!!」

「おい、大丈夫なのか?シン、なんか…胡散臭いぞ?」

「失礼ですね!ちゃんとお風呂には毎日入ってまーす!!」

「……」

「いやいや、侮れんぞMiss Christina……聞いたことがありんす、まだまだ若手だが、この国とは違った自分の国で培った技術を駆使し、奇策、妙策と呼ばれる程にぶっ飛んだ作戦を立て担当ウマ娘を勝利に導く……」

「へー、そんなすげぇトレーナーなのか」

「だが、失敗も多い…と」

「やっぱり胡散臭いな」

「それでもウマ娘のことを考えてくれるか人だよ!!」

「Hahaha、照れますね」

「はいこれ!」

「Ta!」

「それで何の書類なの?」

「知らんで書いてたのか……」

「次のレース、若葉raceのですー」

「若葉レース?若葉ステークスのことかぇ?てっきり弥生賞に出ると思っていたのだが…」

「私もだよ!」

「……」

「また放課後会いましょーねー、今日も沢山練習を考えてますから!」

「サンキュー!ベリーベリー!!」

そのまま、急ぎ足で食堂を立ち去っていった。

「ね!いいトレーナーでしょ!」

「そ、そうか?」

「ねぇちょっと」

「ん??あなたは…」

呼びかけられて振り返ると、翡翠色の瞳がこちらを見下ろしていた。 

「カーローラって言うんだけど…」

「おやおや、ローラ社のご令嬢が何のようですかぇ?」

「……その呼び方やめてくれない?」

「これはこれは…失礼致しました」

「ローラ社って…あの?」

「彼女の母親は誰もが知ってるあのウマ娘関連商品会社の社長さんだよ」

「すごいんだね!」

「…すごいのは、私じゃなくてお母様よ」

「そ、そう?それで…何のよう?」

「あなた…若葉ステークスに出るの?」

「うん!そうみたいだねー」

「弥生賞に進むと思ってたのに、当てが外れたわ……ロンリーくらいだと思ってたのに……」

「弥生賞?当て?ロンリー?なんのこと?」

「私も出るわ、若葉ステークス」

「そうなの?対戦よろしくお願いします!」

「死ぬ気で1着に入るわ、そうじゃないと皐月に出れないから…」

「私もだよ!皐月賞への前哨戦だもんね!」

「遅かれ、早かれ貴方とは闘わなくちゃいけないものね……はぁ…いいレースにしましょう」

「うん!!」

そう答えたところでチャイムが鳴った。

隣のクラスであるローラちゃんとはその場で分かれた。

「結局、何が言いたかったのかな?」

「ま、人には人の事情があるもんじゃて」

「??」

「おい、シン」

「なぁに?」

「次のレース、手加減したりすんなよ」

「あったりまえじゃん!」

 

ーーー

 

 放課後、トレーナーが言っていた通り、沢山のメニューをこなすこととなった。

「Alright‼︎ 今日はここまで!」

「あ……ありがとう……ござました……」

「素直でよろし!明日もよろしくですー」

「……」

産まれたての小鹿の様に脚をプルプルさせながら帰路に着く。こんなんで明日には全快してるからウマ娘の身体って不思議だ。

もう日は落ちており、今の時間まで練習を続けていたウマ娘はほとんどいない。

はずだが…

「話し声…??」

しかも男女のものだ。盗み聞きするつもりはない、が、色恋沙汰に興味津々なお年頃、あわよくばそういった場面が目撃できたらと軽い気持ちで覗いたわけだが……

「ローラちゃん?」

何やら黒服の怪しそうな男と話している。

ここからでは何を話しているのか聞こえないが、中々に込み入った話をしている様だった。

気になるところではあるが、これ以上近づくとバレる気もしたので、諦めて帰路につこうとしたわけだが…

「わかってるって!次のレースで勝てばいいんでしょ!!負けたら煮るなり焼くなり好きにしなさいよ!!」

「…!?」

とんでもない文言が聞こえてきた。そして、そこで話は終わったのかこちらに向かってくるローラ。まずい、隠れなきゃ!

「……何やってんの、あんた」

「あはは…植え込みに入るとあったかいんだよーー」

「誤魔化せると思ってるの?」

「ごめんなさい!盗み聞きをするつもりは…少ししかなかったの!!」

「少しあったんじゃない!はぁ…どこまで聞いた?」

「次のレースで勝たないと身体を売るだのなんだの…」

「そんなこと言ってないわよ!

はぁ……誤解がされてるのが嫌だから言うけど、あんまし人には言わないでね?

私、会社を継ぐように言われているのよね」

「おめでとうございます!」

「めでたくないわよ、私は私の脚で道を切り開く、ママが作った道を歩むなんて真っ平ごめんだわ」

「そ…そう?」

「でも、それじゃあママは許してはくれない

だから条件、皐月賞で好成績を残せたら、走るのを続けてもいいと」

「それは……」

「だから、次の若葉ステークスで優勝しないと、その土俵にすら立てないのよ、はぁ…ここ最近は体調不良で色々棒にふっちゃったし…」

「それなら…期限を延ばして貰えば?体調不良なら仕方ないよ!!」

「本気で言ってるの?」

「それは……」

たしかに、体調管理も含めてのレースだと、そのような意見もある。というか、本番までに調子を上げていくのも確固たる勝利の要因の一つだ。だが、私は…

「体調不良なら、仕方ないよ……無理して走って…身体を壊したら元も子もない……」

「はぁ…まぁ他でもない貴方なら、そう言うでしょうね、けどこれは私とママとの問題、言い訳は無用よ」

「そ、それじゃあ、次のレースで…最後になるかもなんて…そんなのって……」

「最後?何を言ってるの?勝てばいいのよ、勝てば……」

語気が段々と小さくなっていくところを見ると、自信はそれほどないように感じる。

「…次のレースじゃなくても、皐月賞に出るため、なら他にも方法あるじゃん、何も若葉ステークスに拘らなくても……」

「私も今日、貴方が出るって聞くまでそう考えていたわ…皐月に出れさえすればって

でも違うの、貴方との闘いを先送りにして、皐月で邂逅して、好成績を残せると思う?私はそうは思わない」

「そんな……ことは…」

否定の言葉が出てこない、私たちの世代にはあの聖騎士がいる、私以外にも沢山の強いウマ娘がいる。私に負けているようでは、話しにならないとは思ってしまう。

「次の若葉ステークス、絶対貴方に勝つわ」

昼の時と同じことを口に出す。だが、言葉の重みが全く違う。そんな彼女に…私は……私は……

 

ーーー

 

「何も言えなかったんだ……」

 釈然としないまま、寮に戻り、同室の先輩に相談している。

「そうだったの……」

彼女の名前はロマンフット、お姉ちゃんの親友で、私とも仲良くしてくれている。

「でも、手を抜くのは違うってわかっているわよね?」

「うん、そんなのお姉ちゃんに怒られちゃうし、わかってる、わかってるよ?でも……」

「私はまだ次があるから?それはどうかしらねー」

柔らかい口調だが、諭すような声色。次がなかった、姉のことを暗に示しているのだろう。

「どんなレースにも全力で臨む、それがウマ娘の宿命よ」

「そうだよね…お姉ちゃんもよく言ってたな……」

 

ーーー

 

 今日も昨日と同じように放課後の練習中、

「Oh…今日の練習はここまでです!」

始まって1時間も経ってないが終了した。

「なんでぇ!?」

「迷いが脚にでてます、何か悩みがあるなら聞きますが…これ以上続けても変な癖がつくだけでしょう」

「でも…」

「日本語的に…短く言うと…やる気がないなら帰れ、です」

いつも通り笑顔ではあるが、そこはかとなく怒気を感じる。

「……じゃあ、質問です、なんで私を若葉ステークスに?」

「そーですね…色々ありますが……1番の理由は見極めるため、ですね」

「見極める?」

「本番のレースでは、練習以上の実力を発揮させることは難しいと言われますが…格上と戦う際、自分の実力以上の力を発揮できるウマ娘は一定数存在します、その格上を最初から最後までmarkし最後の直線で抜き返す…

ライスシャワーだったり、少し上の世代にファスティバルなんてのもいますけど、貴方もその気があります」

「うーむ?」

「その様なウマ娘は格下相手に惨敗することがあります、別にそれ自体を咎めるわけではありません、それならそれで別の戦い方がある」

「格下…次のレース相手は格下ですか?」

「……えぇ、まず負けることはないでしょう

Lonelyには先着を許してしまうかもしれませんが、それも確率で言うと…10%くらいですね」

「ローラちゃんは?」

「Car Lauraですね、悪くないとは思います、悪くないとは思いますが…力不足であることは否めないです、二つ目の理由はそれです

あのメンツ相手なら確実に皐月賞に進むことができるでしょう」

「そっか……確実に……」

「迷いは晴れましたか?」

「多少は」

「じゃあ今日は練習を終わりにしますか!」

「えぇ!?まだやれます!やらせてください!!」

「いえいえ、今日はそもそも軽く流すつもりだったんで、本当に終わりでいいですよ」

「はぁ…ありがとうございました?」

「はーい、stretchを忘れずに」

 

 ポッカリと時間が空いてしまった。トレーナーは予定通りと言っていたが、違うだろう。トレーナーには二つの種類がある。前々から入念に緻密なメニューを決め、それをこなしていくタイプ、もう一つはその日の状況、調子を考慮しメニューを選択していくスタイル。私のトレーナーはどちらかと言えば後者であろう。だから、今日オフになったのは私の調子が悪い、と見透かされていたのであろう。どうするか…弓道場にでも行ってみようか?

「お姉ちゃんなら、どうしていたかな…」

そういえば、オフの日は決まって私の走りを見てくれていた。人の走りを見ること、指導することで自分の学びに活かせるなんてことを言っていた。だからなのか、足は自然と校内のターフコースに向かっていた。

「みんな練習してるねー、感心ッ!」

理事長の真似をしてみたものの、迷いが晴れた気はしない。当たり前である。

「何やってんだ?シン」

「あ!ホープちゃん!!今日はオフなんだー

ホープちゃんは?」

「俺は練習の合間だ、レスト中、後5分もしたら戻る」

「へー、頑張ってるね!感心ッ!!」

「は?感心?なにが?」

「そーだ!!併走しようよ!一緒に走ろ!」

「俺はかまわねぇが、いいのか?オフだろ?」

「??オフだから自由に走るんでしょ?」

「……??ま、いっか、勿論芝だよな、何メートル?」

「芝の2000、でどうかしら?」

振り返ると、先程クリストレーナーから『格下』、と称されたウマ娘が立っていた。

「ローラちゃん……」

「なに言ってんだお嬢さん、レース前にお互いの手の内を明かし合うようなことはしたくはないだろう」

「私は別にいいよ、3人で走ろうか」

「おいシン!」

「じゃあ5分後にスタートね、それでいいかしら?」

「いいよ」

「はぁ……折角全力のシンと走れるかと思ったのによ……」

「それは大丈夫、私、全力で走るから」

「はぁ?バカ言うなよ、ライバルに塩を贈るようなことは…」

「そんなんじゃない、走る時は全力で走るのが、お姉ちゃんから引き継いだ私の生き様だから」

 

ーーー

 

 芝の2000m、このコースは中山を想定して造ってあるらしいから、特徴はなんといっても最後の急坂。あとは、直線が短いことも有名である。どんなレースもそうだがコーナーを回る器用さ、そのことに加え急な坂をものともしないパワーが重要なコースといえよう。そして、このレース場、距離はあの…

「皐月賞を想定している…」

「予行演習にはうってつけね」

「スタートの合図は俺のトレーナーが出す、それで構わないよな?」

「勿論」

「うん」

「じゃあ不詳ながら私が合図を取ります」

皆が構える。

「位置について…よーい、ドン!!」

 

ーーー

 

 まず飛び出したのはホープ。そこから3バ身ほど離してシンオーがつけている。

その後ろ、ピッタリと伺う位置でローラ。

(チッ…やっぱこうなったか……つまんねぇレースになりそうだぜ)

(ホープちゃんはいつも通り先行策かな?そして…ローラちゃんは……)

(……)

 

本来なら併走の予定はなかったが、珍しくシンオーが走る、ということで急遽予定を組み込んだ。ヤマトノヌシとはよく一緒に走っている…というか、絡まれているが、シンオーと走るのは本当に珍しい。いつも偶にはシンオーと走りたいと呟いていたからそのことに後悔はない。

ただ、 

ホープはまだしも、他二人は同じレースを控えている。お互い、こんな間近で自分の全力を見せる様なことはしないだろう。自身の手札を見せる様な暴挙だ。

「併走の目的…競り合う様なことは起きないと思うな……」

「Well…それはどうですかね?」

「クリス先輩?」

振り返るといつからいたのか、クリストレーナーが立っていた。自分は新人だからよくわからないが、変人エピソードをよく耳にする。

「なぜここに?」

「自分の担当が走るんです、いないわけないでしょう…offの日のはずだったんですが……」

「それはどうか…とは?」

「Shinoは、どんな時でも全力で走る…いや、手を抜くことができないウマ娘なんです

姉の教育の賜物なのか…はたまた、彼女の性分の問題か……」

「それはまた…難儀な……」

「だから、併走をあまりさせたくなかったんですが……楽しそうなのでいいでしょう!」

「うちのホープがすみません……」

「それはお互い様です、恐らくこっからの練習メニューは全てキャンセルさせた方がいいですよ」

「え?それはどういう……」

「ほら!ちゃんと見てください!もう最終コーナーですよ!!」

「えぇ!?」

 

 特に大きな動きはなく、ホープが先頭、少し離れてシンオー、それにピッタリ後ろをローラがつけている。

ホープが最終コーナーに差し掛かる、外に膨れた隙を見て、シンオーが内に差し込もうとするが、それを読んでいたのか、内らちをピッタリとしめる。ポジション争いが繰り広げられると思ったが、シンオーが嫌ったのか…すぐさま外に出る作戦に変え横に並び最終直線に差し掛かる。ローラはまだ後方…というか、はなから先頭争いには参加しないつもりのようだ。

「……速くないか?」

直線に入ってから、またペースが上がった。

このレース運び…まるで本番の様だ。

「だから言ったでしょう!相手が全力で走ってるのに、手を抜ける性格ではないと思いますが、Hopeは」

「…今日は筋トレの予定だったのに……」

「Hahaha!残念でしたね!すみません!!」

 

ホープもシンオーも一歩も譲らない。激しい競り合い、位置取り的にも体格差的にもホープの方が有利か。しかし、シンオーも器用にいなしている。

「負けるか!」

近寄ってきたのを逆手に、一歩前へ出る。若干バランスを崩すホープ、しかし持ち前の体幹ですぐに戻す。

若干シンオーがリードしたかと思ったが、ゴール版はほぼ同時に通過した。

 

ーーー

 

 本番だったら写真判定が入るが、練習なのでそんなものは勿論なく。引き分け、ということでいいだろう。少し遅れてローラちゃんもゴール。全力ではなかったみたいだが、疲れてはいるようだった。

「はぁはぁ……全力で走るバカがいるかよ……」

「はぁ…ふぅ……それはホープちゃんも一緒でしょ!」

「お前の走り方が…ローラに」

「はぁ…いいデータが取れたわありがとう、けれど塩を送りすぎよ」

私たちより早く、息を整えたウマ娘がこちらを見下ろしながら言う。

「…それはお互い様です、私もあなたの走り方がわかったから……」

「……(やっぱり強かな娘…こちらの出方も伺っていたのね……)」

「お釣りの代わりにあなたが到達している解答の答え合わせをしてあげる、私の走り方は『マーク屋』……そして次のマーク相手は勿論、あなたよ、シンオー」

格上と戦う際、自分の実力以上の力を発揮できるウマ娘は一定数存在する、その格上を最初から最後までmarkし最後の直線で抜き返す…トレーナーの言っていたことが頭の中で反芻した。

「はぁ……いい練習になったわ…ありがとう」

そう言い残すと凛とした態度で私たちに背を向け、コース場を後にした。

「……格下……とは到底思えないな」

「おいシン!!」

「うわ!びっくりした…なに?」

「次の勝負は皐月賞まで持ち越しだからな、油断なんかしてあいつに負けんなよ?」

「油断?それは強者することでしょ?私にできることは全力を出して勝つ、それだけだから」

「ふん!杞憂だったな、じゃあ皐月賞で会おう」

「うん!」

かっこよく踵を返して、トレーナーの元へ向かう、それを後ろからついて行く。

「……おい、何でついてくんだよ」

「だってほら、なんか私のトレーナーもいるんだもん」

「そ……そうかよ」

その後、勝手に走ったことをトレーナーこっぴどく怒られて、ギャン泣きしたのは秘密である。

 

ーーー

 

「はぁ……」

勝てるのか?本当に勝てるのか?あのシンオーに。間近で走っていた彼女はビデオで見た時より数倍速く感じた。

「お疲れ様でございます、我が主人」

「何だ…いたの?」

声のした方に目を向けると、黒スーツにサングラスと何とも怪しい風貌の男が立っていた。

「自分の担当が走っているのに、私が見ないわけにもいかないですから……」

「そう」

「それで…どうでした?」

言うまでもなく、シンオーのことだろう。

自分の従僕に弱気なところは見せられない。いつも通り、強気で……

いや、よそう。

「強かったわ…本当に、スタートの仕方、コースでの位置取り、走りのフォーム、どれを取っても非の打ち所がない…努力で何とかなるところは全て、何とかしている感じ

きっといっぱいいっぱい練習したんでしょうね……」

「お嬢様……」

「でも、弱点も確かに見つけたわ、どうしようもない弱点が、そこをうまくつければ……我が従僕…いや、トレーナー、力を貸して」

「当たり前でございます」

 

次のレースが始まるーーーー

 

 

 




ウマ娘紹介文

パールアラディーン

私は皆の為に、レース界の為に……

腰まである長くて真っ直ぐで純白の髪、鋭く流れるような青眼。大人びた顔立ちや雰囲気、背の高さから歳を間違えられることが多い。そのことを若干気にしている。
勝負服は、西洋の甲冑を模した黒色のドレス、黒色のマントは裾の部分がギザギザしている。

ウマ娘には全くモテない、ファンはかなり多い。
昔はめちゃくちゃ荒れてた、マントのギザギザはその時の名残。
走ること、ライブ能力、全て最高水準だが、他のことは大抵できない。
掃除をすればより汚くなり、料理をすればダークマターが出来上がる。だが、同室の先輩、トレーナー、シシシンオーのお陰でなんとか生活は送れている。
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