レースの話ほぼないです。
大外から飛んできている!!ロタリオグランデ!!紺色のめんこが弾んでいる!
すごい脚!!3番手!2番手!!
前に届くか?届くのか!?届くのか!??
届いた!!届いた!!届いた!まとめて差し切った!!
「お前さんら、P-SYB世代と呼ばれパラディン以外にゃ負けねぇとでも思ったか?
今回はいただいていくぜ」
2着はシシシンオー!!3着はファスティバルです!!
なんと、SYBはシシシンオー以外圏外に沈む結果となりました!!
ヤマトノヌシは14着!!
ブラックホープ8着!!
どうしたどうした!SYB世代!!
そんなんでは、聖騎士のエールにはならないぞ!!
ーーー
ヤマトちゃんもホープちゃんもダービー以来あまり元気がない、流石に負けが続いて堪えているようだ。そりゃあそうだ、私だって辛い。
でも、お姉ちゃんがよく言っていた。下を向いて走っても何も変われない。走る時は前を見なければ、いつだって私たちのゴールは前にしかないのだから。
けれど、レッドちゃんにも異変が。
「喉鳴りって……大丈夫なの!?」
「手術次第であるが、少なくともしばらくは休まないといけない……それに…結果が出ない私にとうとうお家が痺れを切らした、もう2度と君らと戦うことはないだろう」
それに伴う路線変更、これからは短距離、中距離路線を行くらしい。有マ記念に出れたら出るが、厳しいと言われているらしい。
「ロンリーロンリーには内緒にしといてくれ……あいつは、臆病なやつだから……」
「うん、いいけど……でも、ロンリーちゃんはそんな……」
「あぁ、わかっている、臆病なのは私の方だ……約束を破った私をきっと彼女は怒るだろうから……それに、妹にも……」
でも、辛いことは続くものである。
世界の舞台へ飛び出していったパラディンちゃんが…パラディンちゃんが……
ーーー
「問題ない、ほら、自分で立っているじゃないか」
「何ということだ……俺はまた……同じ過ちを……」
「そんな顔しないでくれ、問題ない…よくあること…問題ないんだ」
勝者を讃える大歓声の中、しかしそれでも最後まで走り切った彼女はぎこちない笑みを浮かべた。
「だが、少しばかり疲れたな…トレーナー、
肩を貸してくれ」
「すまない…本当にすまない」
「よくあることだろう?私もその順が来たというだけだ、あのダービーから覚悟はしていたよ…」
(ただ、願わくば…もう一度彼女と……)
ーーー
そのニュースは瞬く間に日本中を駆け巡り、悲しみをもたらした。当然、彼女を応援していたこの学年全員がショックだったに違いない。
「うぅ…パラディンちゃん……」
パラディン、涙の帰国。レース中に骨折、予後不良とはならなかったが、当然凱旋門賞は敗北。期待が高まっていだだけに悲しみもひとしおだった。
「おい…なんとかならねーのか、ロンリー?こうシンオーが暗いと、クラスの雰囲気が暗くてしゃあない」
「ロタリオが明るくすればいいじゃん、なんてったって太陽帝なんだし」
「あれは異名なだけであって……はぁ…ただでさえ最近はレッドもホープもヤマトも元気ないつーのにって、レッド?」
「ふははは!君の愛しのパラディンは預かった!!返してほしければ、校門前まで来い!!」
「…何やってんだ??レッドは」
「あー…あれはヒーロー役を相手にやらせるっていう彼女の中での精一杯の励ましで…」
「パラディンちゃん!?もう帰ってきてるの??ありがとう!レッドちゃん!!」
「あ…待って……私が先に行かないと……」
「なぁ、ロンリー……レッドって…いい奴だよな……」
「何を今更…ヒーローなんだから、当たり前でしょ」
ーーー
言われた通りに校門に向かうと、見慣れた白い長髪が見えた。
「パラディンちゃん!」
「おや?シンオー、君か…レッドにここで待っておけって言われたんだが……」
「うん!レッドちゃんに言われたんだ!!」
「すまない、出迎えは必要ないと言ったんだが」
そう言いながら、傍に抱えていた松葉杖を下についた。確かに、つい先日から使い始めているにしては随分と慣れていた。
痛々しく片足に巻かれている包帯に、ズキリと姉の姿が重なる。いやいや、それほどひどくはないだろうと、雑念と頭を振り払った。
「……とりあえず、どこに行くの?寮?トレーナー室??荷物運ぶよ!頂戴!!」
「ありがとう、生徒会室まで、お願いできるか?」
自分も一緒に話を聞こうと思ったが、込み入った話ということで追い出されてしまった。
「パラディンちゃんは負けてないよ!!負けて…ないよ……もしも足を怪我してなければ…きっと…!」
「Well…、if…なんてものはレースでは存在しないのですよ、シンオー」
「うぅ…トレーナーさん……」
「あなたがすべきことはPaladinの心配をすることじゃないです、菊花賞が迫っているですよ、お姉さんに菊の冠を捧げるんだ!って息巻いていたじゃないですか??」
「それは…!そうですけど…」
「Ummm……(友人が怪我をしたんです、その上…故障してそのまま帰らぬ人となった姉と重ねていますね……その気持ちはわからないでもないですが、調子が上がってないと勝てるレースも勝てなくなってしまいます)」
「…とりあえず、今日のところはメニューをこなすた……ので、finishでーす」
「ふぁい…ありがとうございました
うぅ…パラディンちゃん……」
フラフラと帰路に着く。
「これは重症ですねー」
ーーー
別に気を使う様な間柄ではない、ノックと同時に部室に侵入…もとい、入室した。
「一晩考えても解決策が出なかったので、私に教えるがいーですよ」
「はぁ……クリスティーナ、てめぇ俺が、パラディンがどんな状況かわからないわけないよな?」
いつもはそれじゃあノックの意味ないだろ、という旨のツッコミがとんでくるが、何せ状況が状況だ。チラリとPaladinの方を見るが、本人は何やら資料を読み耽っていた。
「Oh…意外と元気ですねー、もっとふさぎ込んでると思ったのに」
「はん…うるせぇよ……」
「いーじゃないですか、あなたと私の仲でしょう?」
「どんな仲だ!」
「密かに蜜月の夜を……」
「なんの話だ!!ってか、なんでそんな言葉ばっかり知ってんだよ!!」
その時、後ろでバサバサと紙が崩れる音を聞いた。振り返ると今世代最強のウマ娘が慌てた様子で立っていた。
「すまない、話の腰を折ってしまったな」
「いや、違うんだ、パラディン、これは」
「何をそんなに慌てている?内密の話なら席を外すが……」
「内密の話などない、外さなくていい、というか外さないでくれ、こいつと2人きりなど頭が痛くてしゃあない」
「そんな照れなくてもいいのにー」
「照れてない!!」
「なるほど…2人はそういう仲か……」
「全くもって違う!!」
「Well…席は外さないでください、よく言うでしょ、ウマの手も借りたい状況なんです」
「…んな言葉ねぇよ……」
「私に協力できることなら、なんでもしよう、どうせ暇だし」
「流石!Paladinは話がわかる!!ハシバは分からない!!」
「しばくぞ」
「それでーーー
ーーー
トレーナーというのは楽な仕事ではない。
担当のウマ娘の為のトレーニングメニューを考えること、栄養管理、スケジュール調節。
励ますことも大事。諌めることも大切。
…そして、時には残酷なことを言う必要もある。
「家族は呼ばない?」
激昂されるかもしれない、理由を問い詰められるかもしれない。しかし、予想とはどれも違った反応だった。
「それもそうか、結局家族を呼んでも一度も勝てていないしな」
「そうじゃないんだ…彼らが来ないのは……」
この子との付き合いは所詮、今年度に入ってからであり、正直長いとは言い難い。しかし、短いとは言わせない年月を共にしてきた。その中で分かったことがいくつかある。
「じっちゃんもばっちゃんも仕事があるしな
了解了解、別に俺のやることは変わらん」
口は悪く、態度は尊大。馴れ合いを好まず、仲が良いのは同期のシシシンオーかヤマトノヌシくらい。
しかし、それも全て自分を律する為にやっていることである。臆病な面が出てこない様に強い言葉で武装して、負けるなんて考えられない様に大言壮語を吐く。
どれもこれも母の血を証明し、有名になり、自分を愛し育ててくれた牧場に客を呼び込み恩返しをする為。
本当は彼らを呼んでいる。しかし、彼らきっての願いで言わないでくれ、と懇願された。
理由は単純、自分のためではなく彼らの為に走ってしまうからだ。別にそれ自体が悪いことではない。走る理由なんてウマそれぞれ、別になんだって構わない。
ただ、彼らが見ていると冷静さを欠き、かかってしまうことが多い。そして何より、負けた時、泣きそうな…叱られた子供の様な悲しい顔を見せるのが見てられないとのこと。
「たまには、自分のために走ってもいいんじゃないか?」
「はぁ?なんだよそれ、俺はいつだって自分の為に走っているぜ」
嘘だ。わかっている。けれど、彼女を勝たせてやれない僕にとやかく言う資格はない。
「そうだな、君のスタミナ、根性は唯一無二の個性だ。長距離である菊花賞なら今まで以上に可能性はある」
「そうだな、パラディンもいねぇし、一着を目指すか」
やはりここ最近負け続けているのがよほどこたえているらしい。少し前なら一着を目指すなどと言わず、一着をとると言っていたはずだ。
「僕は、君が1番だと思っている
僕の夢は…最初から最後まで君だよ、ブラックホープ」
「は!臭いセリフだな!全くもってお前らしいよ、ただ…まぁ、うん、そうだな…頑張ってみるよ」
ーーー
雄大な体躯、自身の力強さを生かした走り。遠くからでもわかる、あれは…
「あ!ホープちゃんだ!」
「随分と気合が入ってるな…」
あの日、シンオーのトレーナーに言われたこと。
『Shinouが、あなたを心配して練習に身が入ってないです、なんとかしてください』
『なんとか…か』
『はぁ?お前の担当なんだから自分でなんとかしろよ、パラディン、聞かなくていいぞ』
『そうは言ってもだな…』
『お願いします、あの子に…どうしても一着を取らしてあげたいんです』
『それをライバルの前でいうかね……相変わらず豪胆というか…なんというか』
『君の覚悟はわかった…私になんとかできるかはわからないが、できることはしてみよう、トレーナーもそれで構わないな?』
『はぁ…無茶だけはするなよ』
『ありがとう』
『ありがとございます!!』
とは言ったものの、言葉でなんとかなるものなら…あのトレーナーがなんとかしているだろう。ならば、ターフでしか語れぬものがあると思い至ったが、あいにくこの脚では満足にそれも行えない。気休めにもなればとこうして外出に誘ったわけだが、
「今日はありがとう!トレーナーさんに言われたんでしょ!久しぶりのオフ楽しかったよ!」
そう言いながらもこちらの脚から目を離さない。むしろ、今日1日で心配を強くさせてしまった気がする。
「まだ門限まで時間がある…何か予定があるなら付き合うが?」
「う…うーん、予定あるけど……遊びで行く様な場所じゃ」
「構わない、連れて行ってくれ」
「そ…そう?じゃあ、行こっか」
連れてこられたのは弓道場。弓道を特技としているウマ娘も多く、学園近くのこの場所はよく使われているらしい。今日は他に誰もいなかったが。
「お姉ちゃんはどんな体勢でも、どんな場所からでもど真ん中に当てることができたんだ、私はそこまでうまくはないけど…」
10月の高く空の下、静謐が支配するこの場に緊張感が走る。息をするのも忘れて彼女を見守る。
足を開き、弓を構え、弾き絞り、放つ。
全ての所作を丁寧に、しかし途切れることなく流麗に。その様は、まるで一つの舞の様にも見えた。
「動かなければこの通り」
「お見事」
小気味良い音を響かせた弓矢はど真ん中を貫いていた。その後も精度を落とすことなく的を貫いていく。なるほど、彼女の勝負に対する類い稀な集中力はここで培っているのかもしれない。
「お姉ちゃんのファンがね、いつもはあまりレース前は話しかけには来ないけど、菊花賞は…絶対勝ってくれって……
私も、お姉ちゃんが唯一取れなかった最後の冠はどうしても欲しい…勝って、笑って……会いにいくんだ」
「今は君のファンだろう?」
「あはは、そうだねー……」
しかし、5本目の弓矢は的には当たったものの、中心からは大きく外れてしまっていた。
「…あの日もこうして弓を引いてたわ」
最後の一当は彼女の手から離れることはなかった。
「お姉ちゃんがさ!菊の冠がどうしても欲しいって言っていたのを聞いて、私花の菊の冠をプレゼントしたんだ!!今思えば、それは菊じゃなくてタンポポだし、欲しがってたのは菊花賞のトロフィーだったんだけどね!」
「それでも、喜んでくれてたんじゃないか?」
「あはは、まぁねお姉ちゃん優しいから!
優しいからさ、私に見せたかったんだろうね…本物の菊の冠ってやつを、さ、私…小さい頃X脚ってやつで走らないって言われてたから……まさかG 1に出るなんて、思ってもなかったんじゃない?」
「それは違うよシシシンオー、君の姉は言っていた、『今に私に匹敵する…いや、それ以上のウマ娘になる』って」
「お姉ちゃんは私に厳しかったけど、評価は甘めだから…別に……いや、ごめん、ちょっとネガティブになってる…確かに私を信じていたのはお姉ちゃんだけだったから…こんな言い方良くないね」
「姉君も鼻が高いな、将来性のあるウマ娘を見抜くなんて、熟練のトレーナーですら至難の業だ、そんな中君がG 1で1位2位を争うウマ娘になることを予見していたのだからな」
「争ってもあなたのせいで毎回1着とれないけどね」
「ぐっ…すまん……」
「あはは!冗談じゃん!勝って謝っちゃダメだよー」
「そうだな、失礼だった、すまない」
「また謝ってるし!」
「ぐっ…どうすれば……」
「フッフッフッ、今日は私の勝ちかなー」
こちらに背を向けるシシシンオー、その背中はいつもより小さく見えた。
「お姉ちゃん…レースの前には必ず弓を引いていたの……それを見るのが私は大好きで……あの日いつもと同じだった……」
「……」
「怪我の具合はどう?」
1番最初に聞かれると思っていた質問は、その日の最後に問いかけられた。彼女を心配させまいと、用意していたいくつかの嘘が浮かんでは消えた。
「…医師から言わせると、もう二度とターフを踏むのは無理だそうだ」
「……!!」
「だが、私は諦めない…諸先輩方が…君の姉君が教えてもらったウマ娘の役割を完遂するまでこの足を止めることはできない、そうだな…今年中には間に合わせる…有マ記念で必ず走ってみせる」
「そんな……それじゃお姉ちゃんと……」
「安心してくれ…なんて言えた立場じゃないが……本当に最後の最後にドクターストップがあったら、走らない、それは約束する」
「本当?」
振り返った彼女の瞳は涙で潤んでいた。
「あぁ、本当だとも……だから君は…何の気兼ねもなく菊花賞を走ってくれ
それが私の、そして恐らく君の姉君の1番の望みだ」
「うん……わかった、わたしも約束…あなたと…お姉ちゃんに捧げるよ三つ目の冠を…!!必ず…必ず…!!」
菊花賞が始まるーーーー!!