出走の準備が、迫ってきています。
雨は強まり、横殴りの雨となってまいりました京都レース場
今日はどういった予想を?
そうですね、やはりいつも通りロンリーロンリーがペースを作るのでしょう
長く険しいレースですから…コーナーも多いですし、回るのが得意で…器用さもある
シシシンオーなんかに部があるのではないでしょうか、他にもブラックホープ、ロタリオグランデなんてのもいますが、今日は雨ですからね…どうでしょうか?
厳しく過酷な不良ババ
各ウマの地力が問われる一戦となるでしょう
覚悟を決めて、臨みます
今…最後のウマがゲートに入りました
菊の舞台の幕が今…!
スタートしました!
ブラックホープやや遅れたか?
先行争い、やはりロンリーロンリーと…シシシンオー?なんとシシシンオーが抜け出します、場内、ざわめいています
その後ろ、追走するのはフリーサクセス
サウザンドヒル、ブラックホープ内に割って入ります
その後ろロタリオグランデは後方集団中央で前を伺います
最後方にダイバーダンスが控えます
「あの逃げは…忘れもしない…ライオンドリームの…!!」
「憎いことするぜ…シンオー…!頑張れー!!シシシンオー!!」
「姉の分まで!!」
「Oh…fan達はなんとも無責任なこと言ってくれますね…Shino-…ダメです…その走りは……」
前方に目を移しますと、ロンリーロンリーが最前方に…行きません、シシシンオー、先頭は譲らない!
(今日こそ勝つ…お姉ちゃんの走りで……菊の冠を…!)
(今日は怖がらないで、落ち着いて、私……)
(今日は、勝つ、それだけを目指す)
(雨が鬱陶しい…)
最前方のシンオー、最初のコーナーに差し掛かります、水飛沫が上がっております京都レース場!辛い…辛いレースになりそうです
「ライ…?誰だそれ?」
「お前知らないのか!?ライオンドリーム
シシシンオーの姉にして最強の…なんて言葉はレース界隈ではご法度だな、まぁとにかく強い逃げウマ娘だったよ」
「どうした急に…」
「最初から先頭に躍り出て、そのままハナを譲ることなく勝利する、そのあまりに無謀な逃げ方に『狂乱』と謳われたウマ娘だよ」
「彼女は、絶対的なスピードで逃げるわけでも…」
「サイレンススズカやマルゼンスキーみたいなものですね」
「だからといって逃げによる絶妙なペース作りレースを支配、それにより他ウマを完封するわけでもない…」
「サニーブライアン、セイウンスカイ、タイトル…とかですかね?」
「そうだな、この前のヤマトも同じ逃げ方をしていたよ、その二つのタイプとは違い、ただただ、無我夢中で走り相手より一歩早く出ることにより勝利を掴む…恐らくタイプとしてはターボ先輩が近いだろう……」
「ツインターボと一緒ですか…言い得て妙ですね」
「普通そんな逃げ方をしていたら、スタミナがもたないはずなんだが…彼女は……こちらが速度を上げれば上げるほど上げてくる…
レース中に相手を切り伏せることができないと悟ったのは後にも先にも彼女だけだった……」
「そんなことが……」
「だが……」
「だが?」
「菊の舞台で逃げはかなりの鬼門だ」
「えぇ!?それってどういう…」
前半1000mを抜け…ここで、ブラックホープがぐいぐいっと上がってきます!先頭のシシシンオーに並び…ません!!シシシンオー、ハナを譲る気はないようです!
(この走り方きっつ〜〜!!でも、きついのはいつも一緒!逃げ切ってみせる!!)
(重すぎるだろ…今日のレース……けれど…弱気になるのはまだ早い!!)
(悪くない展開よ…ホープとシンオーが削りあってくれたら私にも可能性が…!)
(髪の毛ベタベタ…顔もドロドロ…嫌になるわ…………)
静寂の第一コーナーに比べ、レースが動き始めた第二コーナーへ
10月の冷雨を切り裂いて、シシシンオーとブラックホープが先頭、リードは2馬身
外からじんわり出てくるのはロンリーロンリー
太陽帝は未だはるか後方、前をうかがっています!
「どういうことですか!?逃げが通用しないって…」
「長い長い菊の舞台…ここ最近で逃げで勝利を収めたのは、さっき言った、かの『トリックスター』か『優勝権保持者』くらいのものだ……逃げウマ娘にとって、菊花賞は厳しいと言わざるを得ないな」
「そんな…じゃあ、シシシンオーは」
「でも、そんなレースでも…私は彼女に夢を見ずにはいられない…だってそうだろう?彼女はあの…最強の姉の…」
「ごちゃごちゃうるせぇよ2人とも、あれだけ一所懸命に走ってるんだ、集中してみないと失礼だろう」
「それもそうだな」
「お前にしてはいいこと言うな」
「今日…なんか俺に厳しくない?」
最後方のダイバーダンスも向正面に入りました、やや縦長の様相を呈しています菊花賞
「クッ……」
ここで、ブラックホープ、やや下がります
先頭は完全にシシシンオーが独占!
その差はどんどん広がっていきます!
「それでいい、ホープ、この雨、とんでもなく重いババだ、必ずシンオーにも隙ができるはず……」
残り1000m!
ここから、百獣の王から王座を奪う者は出てくるのでしょうか?
ここで、ロンリーロンリー上がってきました、頑張れ!快速急行!!
(最後の直線で一気になんて、パラディンじゃあるまいし、私にはできない……あと残り1000m…ここで差を詰めるのは悪くないはず…!!)
「ロンリー……」
「お前も出たかったか?レッド」
「相棒……いや、自分で選んだ道だ、後悔はない」
「自分で選んだ…か、俺はお前が走りたいって言ったレースに向けて全力で調節してやるのが仕事だからとやかく言わないが…本当は家から言われたのだろう?」
「何故それを……」
「さぁな、勘って奴だ、だがやっぱりそうだったみたいだな」
「………ダービーで3着いないに入る、それがお家が出した条件だったんだ」
「そうか……」
「怒らないのか?秘密にしてたこと」
「怒って欲しいのか?」
「そうかもしれない……らしくないと叫んで欲しかったのかもしれない……でも悲しませたかった訳ではなかったんだ……」
「いい友人をもったな、レッド」
「あゝ、全くもってその通りだ」
ここにきてシシシンオーを捕らえるか?
体躯を擦り合わせていきます!!
「クッ……!」
「勝ちたい、勝ちたい!今日こそ…!!」
ーーー
彼女と出会ったのは、私のがむしゃらな逃げから勇気を貰えるとかなんとかで注目されつつあったとき。人気が出ることは素直に嬉しいかったし、ファンが増えたことも嬉しかった。
けれど、自分の純粋な実力で注目されてない気がして、その上、
「レッドに負けるのはまだしも、人気が高いだけのあなたに負けるなんて最悪だわ!!」
こんなことに言い返せるほど、自分は強くなかった。
「睨んでないで、何か言ったらどうなのよ!」
「おやおや?もしや、揉め事か?ヒーローの出番か?」
「げぇ!あんたは」
「呼ばれて登場!!レッドヒーローだ!!」
「ヒーローってなによ!そもそも呼んでないし!!」
「ヒーローは遅れて登場するものだからな」
「会話になってない!」
「ロンリー、素晴らしい走りだったぞ、今回は私が勝ったが次はわからんな!」
「は?素晴らしい走り!?あんなバカみたいな大逃げが素晴らしいわけないじゃない!」
「そうか?このヒーローにせったのだから素晴らしい走りじゃないか、君は自分に勝った相手がそれだけすごい奴だとは思わないのか?」
「それは………
ふん!次は負けないから!」
その相手は足早に去っていった。
「さて…大丈夫か?ロンリーロンリー」
「う…うん、ありがとう」
「君ももっと自信を持つといい、そうだ!私のヒーローショーに入れてやろう!!」
「いや、遠慮しとく」
「2人ならできることも沢山ある!!よかったよかった!」
「話が通じない……」
最初、あなたのことを誤解していた。だってそりゃそうでしょう!レース前に意味不明なヒーローショーをやったり、そのせいで疲れてパドックで横になったり、その割にレース運びはかなり冷静だったり、全部演技なのか?変な子だなぁと思っていた。
でも、全ては妹のためと、知ってしまった。
彼女の血筋、レッド家は昔は強い短距離の一族だったが、今じゃ見る影もなく…現在活躍できているのはレッドオフェンダーただ1人。しかも短距離一辺倒の一家から、突然中距離から長距離の適性。ただ彼女のスプリンターの血はそれを許してはくれなかった。
そもそも、レッド家は最強のスプリンターを輩出する、という目標のもと栄えた一族であった。しかし、諸行無常、盛者必衰、全ては時代の流れのため、レッド家は終わりの時を迎えようとしていた。
そんな中、久しぶりに強いウマ娘がこの世に生を受けた。それがレッドオフェンダーである。一族は大いに喜び、彼女を最強のスプリンターにするべく教育を施した。けれども、彼女は気付いてしまった。自分には中距離から長距離の適性もあると。
あまり詳しくは話してはくれないが、路線の変更はかなり揉めたらしい。
「別によかったんだよ、お家が言うように短距離路線に進んでも、かの『韋駄天』の様に『聖剣』の様に…『爆進王』の様に最強のスプリンターと呼ばれるのも『龍王』の様に世界で活躍するウマになるのも悪くはない、むしろそこまでいけるのなら行ってみたい…だが妹はどうなる?」
彼女の話す妹とは、レッドカーマイン。
スプリンターの一族から突然変異的に中距離、長距離に適性が宿った子。オフェンダーと違うところは短距離にはあまり適性がなかったところだ。
「あいつは相当すごい奴だ、下手したらパラディンに匹敵…それ以上の器かもしれぬ、だが我が一族はそんなこともわからないらしい」
私も一度見たことがあるが、正直いって、そこまで活躍する様なウマ娘には見えなかった…からレッド家のいうことはわからなくもない。
「だから、私が道を作ってやることにしたんだ、私が結果を残せば、妹もその路線で気持ちよく走らせてくれるだろうとな」
「ふーん、良くわからないけど」
「フッ……ヒーローとは最初の頃は理解されないものだ……」
そのあり方をヒーローとあなたは言ったけど、私は違う。
「なんて…偉そうなこと言ったが私は確かめたかったんだ、あいつらとどれくらい走れるのかってね」
私たちの世代はP-SYB世代などと呼ばれて、同じ世代のはずなのに蚊帳の外…という気分を何度も味わった。何が王だ、聖騎士だ。何が皇だ。そりゃあレース外の人から見たら彼女たちは派手だし個性的だし何より強いし英雄に映るだろう。私から見たら、彼女たちはとんでもない化け物だ。あの伝説の模擬戦を観た時、私は…彼女たちには一生勝てない、と思ってしまったんだ。覚えてる?あなたそんな臆病な私の横で、震えている私の横で勝ちに行く、とただ一言呟いて、私の手を引っ張ってくれた。
私はね、レッド、勝手だけどね、あいつらの後ろで傷んだ心をあなたに預けていたんだよ。強さだけがヒーローの条件じゃない。あの時、あの瞬間の勇姿が私にどれほど頼もしい存在に映ったことだろうか。
だからよレッド…だからこそ、あなたが菊花賞に出ないと言ったことが到底納得できなかった。今思えば酷いことも言ってしまった。でもそんな私に彼女は、すまない、私は…ヒーローになれなかったよ、と悲しそうに笑うだけだった。
そんなことを言わせたいわけじゃない…そんなことないよ!レッドオフェンダー!!私にとって…あなたは…ずっと前から……
ーーー
「ヒーローだったんだから!!」
ここで快速急行!前に出る!!シンオーとの熾烈なポジション争い!シンオーすこし外に出ます!
「ロンリーが珍しいな…いつもはバ群を避けるくらい臆病なのに…」
「けどシンオーにとっては良くない展開だぜ
お世辞にも大きいとは言えない体だからな」
「それにロンリーの位置取りが上手い…コーナーの内側を通る様に入り込んだ、こんな器用なことができるウマ娘だったのだな」
先頭では第3コーナーでシシシンオーとロンリーロンリーの熾烈な先頭争いが繰り広げられています。それをピッタリ後ろから見る形でブラックホープ。その2馬身ほど離してフリーサクセス…おっと、ここで大外からロタリオグランデが上がってきている!
ダイバーダンスも脚をためているぞ!
ここから先は未知の距離!!各ウマの底力が問われます!
(ロンリーちゃんがここまで競り合いを仕掛けてくるなんて珍しい…!けど、負けない!!)
(やっぱり慣れてないことをするのは疲れる…けど、勝つためよ…頑張れ私!!)
(脚が重い…けどそれは全員同じ!最後まで脚をぶん回せ、勝機は必ずくる!)
(ここからでは…もう間に合わないかしら…はぁ…やになるわ……)
第4コーナーを周り各ウマ直線に入ります!
先頭は以前シシシンオー!だが、ロンリーロンリーいい位置につけているぞ、ブラックホープ前を伺います!
(ロンリーちゃんにぶつかられたら、ひとたまりもない…ひとまず外に出て…)
(単純な速さ勝負になったら勝ち目は薄い!
いい位置を取る…というか奪うくらいの気持ちで!)
シシシンオー外によれます、リードは半バ身ロンリーロンリーは真ん中…やや外に出るか?
「こっち来ちゃだめ!ロンリーちゃん!!」
「はぁ?勝負なんだから、何言ってんの?」
「違う!ホープちゃんが!!」
「ここだ」
ここで内らち沿いをブラックホープが走り抜けます!ロンリーロンリーを躱し!躱し!!シシシンオーに並んだか?並んだ!そのまま抜き去って行く!!ブラックホープです!!
「そんな…!!」
「流石のシンオーもこのバ場ではスタミナはもうないだろう!」
「やっぱり…強いな…みんな……けど今回は……今回だけは……絶対絶対絶対絶対負けられないの!!!」
脳裏に浮かぶのはあの日の夕焼け、姉の背で誓ったあのこと。
ーーー
「私、あなたに謝らなくちゃいけないことがあったのよ」
「謝らなくちゃいけないこと?」
公園中を走り回っていた私を呼びに来たのはいつも通り姉だった。私はいい、と言ったのだが、姉がおぶってくれると言ってくれたので、言葉に甘えることにした。こういう時だけは、自分の身体が小さくて良かったと思う。
「テレビでやってたあのレースを見たあなたは泣きながら言ったわよね、私もあんな風に走れるかなって…私はそれに対して……」
「あはは、覚えてる覚えてる!お姉ちゃんが抱きしめてくれて、でも泣いちゃってて、2人でわんわん泣いたよねー、恥ずかしかったなぁ」
その日は私の脚を診た医師が、X脚です。歩くのはできる、走ることもできる、だが速く走ることはできない。レースで活躍するのは諦めた方がいい、とウマ娘にとって死刑宣告された日だった。
「言うべきことがわからなかったのよ、あの日の私は……」
大丈夫、どうにかなる、無責任にそんな言葉を投げかけてくる友人や先生をたくさん見た。しかし、彼女らは悪くない。誰だって速く走ることのできないウマ娘の行く末なんて考えたくはない。1番真摯に私の将来を考えていたのは…
「お姉ちゃんだけだよ、何も言わずにいてくれたのは」
その日から姉はマッサージを欠かさずしてくれるし、優しく、時に厳しく…いや、逆か?
厳しく、時に優しく自分自身のトレーニングの傍ら私を見てくれた。ただ、優しさではなく厳しさが救いになることもある。辛かったけど、同時に嬉しかった、脚の悪い私にも他のウマ娘と同様に走れることを期待してメニューを組んでくれたから。
「……ごめんなさい」
「いやいや!違うよ!私は、私のことをちゃんと考えてくれてる人がいる、それだけで結構救われたんだから!」
姉の厳しめのリハビリに対し、絶対守るようにしようと、それがせめてもの礼儀だと。その結果、医師の考えを遥かに凌駕し治癒することができた。そして、人並み程度には走ることも可能になったのである。
「あの日は言えなかったけど、今なら言えるわ、あなたはきっと素晴らしいウマ娘になるわ」
「そうかなぁ、そうだといいなぁ、ありがとう!お姉ちゃん!!」
あの日誓ったんだ、お姉ちゃんが期待してくれるなら期待にそったウマ娘になろうと。
素晴らしいウマ娘になろうと。
お姉ちゃんみたいなウマ娘に……
ーーー
「なるんだぁぁぁあああ!!!!」
しかし!シシシンオーだ!シシシンオー!!
姉譲りの勝負根性で再び差し返す!!
シシシンオーか?ブラックホープか??
「はぁぁぁぁぁ!!」
まだ上がってくる!!シシシンオーまだ上がる!!何という豪脚!!未だ余力を残しているというのか!!?
(まだ上がるのか!?俺はまた…取れないのか…?)
脳裏によぎるのは日本ダービー
好位をキープしたレッドは…レース運び的には正解だったのだろう
対する俺は……
頭の奥で声がする……枠外に沈むのはもういやだろうと
もう最後の直線だ残り300もない
その時…見えるはずがない、聞こえるはずなんてないが
それでも、私にとって最も憧れているウマ娘が叫んでいた
「母……さ…ん?」
ーーー
この娘の名前は?
わたしの冠名をあげてブラック
そして…希望に満ち溢れた生をおくれるようにホープ
ブラックホープかいい名前じゃないか、それに速そうだ
別に、速くなくたっていいのよ、けれど…最後の瞬間まで希望を捨てないで走ってほしいわ、どんなレースでも…それはとっても素敵なことじゃない?
そうだな…!きっとそうだ!!
それでも…やっぱり、私はダメだったから…
その…押し付けるわけじゃないのよ?
自分のしたいことをして欲しいけど…
それでも、一回でもいいから…
ーーー
どうか勝利の女神様お願いです…
私のレースで一度も微笑まなかったことも水に流します
どんなにきつい練習にも弱音を吐かなかった
どんな時でも泣き言を言わなかった
とっても努力家で、とってもいい娘なんです
どうか…この瞬間だけでも、ホープに微笑んでください……!
彼女に勝利を……
私たちの希望を……!!
さぁ残り200m!先頭は依然シシシンオー!!クラッシック線線最後の戦いを制するのは!獅子心王なのか!!?
内側ロンリーロンリーもまだ踏ん張っています!!ロタリオグランデ、大外を回ってきますが、これは間に合わない!
「頑張れ!!ホープ!!」
ロンリーが速い…?
ロタリオが強い…!?
シンオーが疾い…!
そんなの分かりきったことじゃないか…!
私の名前はブラックホープ…!
諦めない…諦めてたまるか…!!
最後まで希望を捨てるな!
「負ける………ものかぁぁぁあ!!!」
ここからホープが前に出る!?
血統を証明したい!母から受け継いだ漆黒の末脚を爆発させる!!
すごい気迫……どうしても勝ちたいんだね…ホープちゃん
でも私も負けられれない…!
お姉ちゃん…ライオンドリーム…とっても強いウマ娘……
『あなたはきっと素晴らしいウマ娘になるわ』
お姉ちゃんに本物の菊の冠を……
パラディンちゃんに私の走りを…!!
私に……勝利を!!
「絶対に勝づんだぁぁぁあああ!!!」
しかし!遺伝子を引き継いだのはこちらも同じ!!姉の逃げを引っ提げ迎え討ちます!!
先頭は絶対譲らない!ぜぇったいに譲らない!!
母の血か!?!!姉の悲願か!!!?
皐月賞もダービーもあいつらの後ろで、何も感じなかったのか!?そんなわけないだろう!!
「私もみろ!!引き立て役でも、賑やかしでもない!!私だって…私だって…誰かのヒーローに!!」
快速急行!ロンリーロンリーも必死に食らいつく!
頑張れ!頑張ってくれ!!
「母さんの血?それだけじゃねぇだろ!俺が受け継いだのは……!!!確かにここにある…」
「お姉ちゃんの悲願?それだけじゃない!私が受け継いだのは……絶対に諦めない」
『魂だ!!』
3頭もつれゴールは目前!!シシシンオーが僅かに前か!!?
ーーー
想いの強さが力になるのか、あるいはその逆か
様々な思惑が交差する淀は生憎の雨
荒れに荒れたレースとは裏腹に決着は静かについた
たった一歩、されど一歩
勝ったのは……
ブラックホープ
ーーー
大接戦!!大接戦のゴオォォール!!!
勝ったのはブラックホォオォォォーーーープ!!!
淀の雨雲を切り裂いて!瞬く星は一等星!!
ブラックホープ1着!!
遂に遂にやりました!!白い勝負服を真っ黒に塗り上げ!地方の意地!母の希望!己の夢!叶えました!!クラッシック戦線!最後に勝利したのはブラックホープ!!ブラックホープです!!G1一勝目!!
2着に惜しくもシシシンオー、3着にロンリーロンリーです!!4着は接戦…ロタリオグランデか?フリーサクセスか?
ーーー
決して侮っていたわけではない、それでも勝てるという確固たる自信があった。
「それでも…勝てなかった」
勝てなかった。勝てなかった。
私を打ち破った漆黒の刺客は沢山の祝福を受けキラキラと輝いて見えた。
「おめでとう、ホープちゃん」
夢を叶えた友人を素直に祝う、気分には残念ながらなれなかった。
「また勝てなかった」
勝てなかった、勝てなかった。
雨の中、泥水を吸った鉛のような脚をなんとか動かし控え室に戻る。
その道中、泥だらけで真っ黒な自分とは正反対な純白のウマ娘が立っていた。
「情けないところ見せちゃったなぁ…」
「そんなことはない、素晴らしい走りだった」
彼女は普段通りの口調で…しかし、みたことのないくらい穏やかな表情でこちらを見守っていた。なんとなく姉を彷彿とさせる表情に想いが込み上げてくる。
「勝てると思ったんだけど、やっぱホープちゃんは強いねぇ、勝負どころの粘り強さが違うよ」
視界の端から歪んでいく。これはきっと雨水だ、そうに違いない。
「泣いているのか?」
「違うよ、雨水だよ、泣いてなんかいたらお姉ちゃんに笑われちゃうもの」
「そうか」
顔を優しくハンカチで撫でられる。汚れちゃうよという言葉はその布切れに遮られた。
「遠いなぁ、追いつけないよ……どれだけ走っても1着に届かない……!!」
自分の叫びにも似た呻き声は会場の祝福の声にかき消され誰の耳に届くことはなかった。
たった1人を除いて。
ーーー
その日のライブのことはあまりよく覚えていない。ただ、後ほど映像を見直すときちんとこなしたみたいで安心した。
「黒が決めたか、ここまでのウマ娘とは思わなかったがのぉ、あの2人また力をつけたな……次は儂の番……じゃが……」
天皇賞秋が始まるーーーー