正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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忙しくて前話からかなり間が空いてしまいました。申し訳ないです。
今後も、こんな感じで不定期更新となってしまいそうですが、よろしくお願いします。


約束された勝利の剣

上空で待機する茶々丸は、特殊な機関銃を構える。

 

「マスター、結界弾セットアップ」

 

「やれ」

 

「はい」

 

放たれたのは、科学技術と魔法の融合。捕縛結界の術式が組み込まれた特殊弾。

茶々丸の放った弾丸は爆音とともにスクナを包み、動きを一時的に停止させた。

 

「この質量相手では10秒程度しか拘束できません。お急ぎを」

 

スクナが停止した事を確認し、エヴァはネギ達の方に向き直る。

 

「ぼーやよくやったよ。だが、まだまだだな。いいか、このような大規模な戦いで魔法使いの役目とは、究極的にはただの砲台。つまりは火力が全てだ!」

 

エヴァはそう言いながら浮遊魔法で空へと飛び上がる。

 

「私が今から最強の魔法使いの最高の魔法を見せてやる」

 

ふはははは と笑いながら、上機嫌にぐんぐん上昇していくエヴァだが、

 

「いいな! よーく見とけよ!」

 

一度止まって念を押す。

この間ネギに負けた事が、よほど悔しかったようだ。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

 

エヴァが呪文の詠唱を始める。

それに伴い大気は震え、エヴァの掌には高密度の魔力が収束していき、周囲の温度が肌寒さを感じるほどに下がってくる。

 

契約に従い(ト・シユンボライオン) 我に従え(デイアーコネートー・モイ・へー) 氷の女王(クリユスタリネー・バシレイア)

来れ(エピゲネーテートー) とこしえのやみ(タイオーニオンエレボス)えいえんのひょうが(ハイオーニエ・クリユスタレ)!!」

 

放たれたるは「火力が全て」という言葉を実行してみせる強力な凍結魔法。

あの強大な魔力を秘める巨人が、一瞬で氷の彫刻と化す。

 

「ほぼ絶対零度、150フィート四方の広範囲完全凍結殲滅呪文だ。そのデカブツでも防ぐ事は適わぬぞ!」

 

スクナを凍結させたエヴァは、更に上空へと上がり腕を組む。月を背後にしたその姿は、正に物語に出てくる吸血鬼そのもの。

白き翼の刹那とは対照的だが、黒き外套を羽織るエヴァもまた幻想的な雰囲気を感じさせてくれる。

 

「我が名は吸血鬼(ヴァンパイア)エヴァンジェリン!! 闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)!! 最強無敵の悪の魔法使いだよ!! アハハハハハハハハハ!!!」

 

「……」

 

「ノ、ノリノリねーエヴァちゃん」

 

エヴァの豹変振りに唖然とするネギとアスナ。せっかくの幻想的な雰囲気が台無しである。

しかし、そんなことを気にも留めない様子で、エヴァは更に呪文を続ける。

 

「これで終わりにしてやる! 全ての(バーサイス) 命ある者に(ソーアイス) 「エヴァ」 等しき死を(トン・イソン・タナトン)……「エヴァ」 何だ貴様はさっきからぁ!!」

 

いきなり怒るエヴァに抗議したい気持ちはあったが、その抗議の台詞が出ないほどに私には怒りの感情が湧いている。

無論エヴァにではない。このかを利用して、この下らん茶番を引き起こした奴らに対してだ。

奴らはこのかの意思とは関係なく、ただ力を持っていたというだけで利用し、その力で誰かを傷つけようしている。

 

「人がせっかくいい気分で魔法を使っていれば……で、なんの用だエミヤシロウ。つまらん事なら殺すぞ」

 

「いや何、子供達に任せきりというのもカッコ悪いのでね。後は私がやろう」

 

「誰が子供だっ!! ……って、何? 貴様がだと?」

 

エヴァは少し違和感を感じた。いつもの嫌味の中に明らかな怒気を感じる。

客観的に見れば、見た目十歳程度の少女に後の事を任せるというのは確かにカッコ悪いと言えよう。

しかし、この男(エミヤシロウ)がそんな理由でわざわざ他人の魔法を中断させるとは考えられない……とは言えないが、圧倒的な優勢の状態で止める理由はないだろう。

ならば、何か個人的な……ヤツの触れてはいけない部分に、敵は触れてしまったのだろう。

 

「…ガ……ガァ……」

 

凍結したスクナの体にヒビが入り始める。いや、正確には、スクナを凍結させている表面の氷に。

本来ならば、あの後エヴァが凍ったスクナを砕くはずだったのだが、途中で中断した為動き出したらしい。

 

「ふん、まあいいだろう。その代わり、私の魔法を中断させたんだ。詰まらんモノを見せたら殺すからな」

 

エヴァの言葉は既にシロウの耳には入っていなかった。只々鷹の様に鋭い眼が、巨大な鬼神を睨みつける。

 

(いにしえ)の大鬼神よ。貴様に恨みは無いが、お前の存在は私の大切な者達を傷つける……いや、これはただの詭弁だな」

 

そう。どんな綺麗事を並べようと、これはただの八つ当たり。個人的な怒りによるところが大きい。

 

───かつて自分が救えなかった少女がいた。

  彼女はいつもオレを心配してくれた。

  彼女はいつもオレに暖かな笑顔を向けてくれた。

 

───けれど、オレは彼女を護れなかった。

  オレが弱かったから彼女は利用された。

  オレが弱かったから───彼女を殺した。  

 

いつも自分を温かな笑顔で迎えてくれた少女とこのかの姿が、私の中で被る。

もう二度と、あんな事が起きてほしくは無い。

そして、それを止める事が出来なかった自分が許せない。

だから───

 

 

     I am the bone of my sword.

        体は剣で出来ている。

 

 

───あんな悲劇は決して起こさせない。

 

 

  Steel is my body, and fire is my blood.

       血潮は鉄で 心は硝子。

 

  I have created over a thousand blades.

       幾たびの戦場を越えて不敗。

 

 

特に変化があるわけでもない。だというのに何故だろう? 誰一人動く事が出来ない。

 

 

      Unknown to Death.

     ただの一度も敗走はなく、

 

      Nor known to Life.

     ただの一度も理解されない。

 

 

ここまで来て、何も変化が無い事に魔法使いと呪術師、多少なりとも知識のある者達は違和感を感じていた。

今までまともに呪文を詠唱したことが無いシロウが、これほどまでに長い呪文を唱えているというのもそうだが、今だ何の魔力の変動も起きていない事に。

魔法ならば呪文が紡がれていくにつれ、高密度の魔力が収束する。異なる世界の魔術とはいえ、これだけの詠唱ならば何かしらの変化が見えてもおかしくはない。

 

 

 Have withstood pain to create many weapons.

   彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。

 

 Yet, those hands will never hold anything.

      故に、生涯に意味はなく。

 

 

その呪文は、聞いているものの心に響く。直訳すれば、意味のおかしな日本語になってしまう。

しかし、何故かその呪文に込められた言葉を理解できてしまう。この呪文こそが彼の生き様。

その呪文を聞いた者達は皆思った───なんて悲しい呪文なのだろうと。

 

 

  So as I pray, unlimited blade works.

     その体は、きっと剣で出来ていた。

 

 

シロウが詠唱を終えた瞬間、世界は侵食される。

現れたのは剣、剣、剣、剣、剣、無限とも呼べる数の剣と赤き荒野。

そして空には巨大な歯車が回っている。その光景を見て、この場にいた全ての者は驚愕した。

 

「なっ!? これは幻術……ではない!! 自らの魔力だけでひとつの世界を作り上げただとっ!?」

 

エヴァは自身の魔力で世界を創る魔術の存在に。

 

「そんな……位置の確認が出来ない!? 先ほどいた場所とは完全に別の場所です!!」

 

茶々丸は、GPSによる座標確認が出来ず、この場所が完全に別世界だという事実に。

 

「す、すごい魔力だ。こんな魔法道具(マジックアイテム)見たことも無い!」

 

ネギは現代では殆ど見る事のできない、神秘を秘めた数々の宝具の魔力に。

 

「この剣達はいったい……!?」

 

刹那は荒野に刺さる名剣、聖剣、魔剣の素晴らしさに。

 

「ど、何処よ、ここ!?」

 

アスナは目の前で起きたありえない現象に。

 

「何……なん?これ」

 

このかはまるで墓標のように突き立つ、剣しかないこの世界の寂しさに。

 

「これは固有結界という術者の心象風景を具現化する魔術。そしてこの世界の名は“無限の剣製(アンリミテッド・ブレード・ワークス)”私の持つ唯一無二の力だ」

 

シロウが手を上げると、剣はシロウの思いを代弁するかの如くその刀身を煌めかせ浮かび上がる。

 

「ウォォォォオオオ!!」

 

瞬間、スクナの動きを止めていた凍結魔法が破られる。

体が自由になったスクナは、雄叫びを上げ、その巨大な腕を振り上げる。

 

このかの為、という気持ちに偽りはない。

大切な者達を護る為に私は戦うという思いも本当だ───が。

 

「これはただの八つ当たりだよ。私の個人的なね。悪いが二度とこんな事が起こらぬ様、貴様にはここで消えてもらう」

 

そう言ってシロウが手を振り下ろすと、宙に浮いた何千という剣群がスクナへと襲い掛かる。

 

「ギャァァァアアアーーーー!!!」

 

幾多の剣がスクナへと突き刺さり、振り下ろそうとした腕は無残にも千切れ飛び、その巨体は膝をつく。

しかし、剣の雨は止まず全ての剣がスクナへ集まっているのではないかと錯覚させるほどだ。

そして、

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

シロウが小さく呟いた瞬間───世界から音が失われた。

 

「くっ! なんという爆発だ」

 

驚愕。あろう事か、スクナに刺さった剣が一斉に爆発を起こしたのだ。あれでは、いくら大鬼神と呼ばれるスクナでもただでは済まない。

煙で視界が晴れぬ中、エヴァはシロウの姿を探す。

しばらくして煙が晴れると、首から上、頭だけを残し吹き飛んだスクナと、エミヤシロウがただずんでいた。

 

「跡形も無く消し去るつもりだったのだが、存外にしぶとい」

 

体を吹き飛ばされ、頭だけだというのに、尚スクナはこちらを睨んでいる。

シロウが傍らの剣を掴み、止めを刺そうとした瞬間。

 

「────む?」

 

スクナの口内が輝きだし、高密度の魔力を感知する。

 

「往生際の悪い。残る全魔力を放出する気か」

 

それはおそらく、先ほどシロウに放った魔力の砲撃と同じものだろう。ただ違うとすれば、それは威力。

これより放たれるであろう一撃は、魔力量から推測するに、先の数十倍の威力が予想される。

 

「はぁ……はぁ……み、皆さん、僕の後ろへ。何とか防いでみせます」

 

「その怪我じゃ無理よ、ネギ!」

 

「そうですよ、ネギ先生!その怪我と魔力量で無茶をすれば、先生の命に係わります!」

 

「ですが、僕が守らないと。……父さんなら、きっと……こうすると思います。だがら、僕も」

 

英雄の父親ならばこうしただろうと、自らを犠牲にしてでも皆を護ろうとするネギ君を、アスナと刹那が必死に止めている。

それはまるでかつての衛宮士郎だ。正義の味方に憧れて、自身が一番ボロボロなのに他人を護ろうとする。

そんな危うさを感じていると急に腕を掴まれ、意識がそちらに向けられる。

 

「しろう」

 

シロウの腕を掴んでいたのはこのかだった。その手は僅かだが震えている。

無理もない。見かけによらず胆の座っているこのかだが、この状況だ。限界が来てしまったのだろう。

 

「安心しろこのか。君達は私が必ず護る」

 

「……うん」

 

シロウが頭に手を乗せ言うと、まだ若干固さはあるものの小さく微笑み、ネギ達の方へと向かった。

このかが離れていくのを確認してから、シロウを見ていたエヴァは口を開いた。

 

「近衛このかにああ言ったという事は、何か策があるんだな?」

 

「なに、策というほどの事ではないが、アレを止める手段ならばある」

 

一、アイアスの多重投影。

不明。残る魔力では、砲撃が止むまでアイアスを維持できるかどうかがわからない。

二、壊れた幻想。

却下。固有結界内の武器を爆発させれば、砲撃を防ぐ事は可能。

しかし、その場合このか達が巻き込まれてしまう。

三、スクナの砲撃と同等かそれ以上の一撃で相殺、または飲み込む。

可能。自らの禁を破れば問題はない。

 

「皆、私の後ろから動くな」

 

シロウの手には、いつの間にか新たな剣が握られている。

数多くの剣が存在するこの世界の中でも一際輝きを放っている剣。

 

シロウは剣へと視線を落とすと、皆に聞こえないよう小さな声で呟いた。

 

「セイバー。夢に敗れたオレに、この剣を使う資格は無いのかもしれない。けど、護りたいんだ。だから、少しでいい。オレに力を貸してくれ」

 

シロウは自らに、二振りの剣を使う事を禁じていた。

一つは彼の騎士王が用いた星の聖剣に限りなく近い贋作。

理由は、単にあの剣は完全に投影ができないという事だけでなく、今の自分が使ってしまえば剣の輝きを鈍らせてしまうような気がしたから。

もう一つは、少女が王になる為に抜いた選定の剣。

理由は、大切な人の命を奪うのに使ってしまったから。

 

だが、シロウはその禁を破る。

 

赤い少女に言った「頑張っていく」という言葉を嘘にしない為に。

雪のように白い姉との約束を守る為に。

自分を正義の味方と呼んだ、やさしい少女を護る為に。

 

スクナの口内が発射直前と言わんばかりに輝きを増し、それに合わせてシロウの握る剣も金色に輝きだす。

それは、なんという輝き。なんという存在感。

その剣は不完全でありながら、本物(オリジナル)にも劣らない真に迫った迫力を醸し出す。

 

「グァァ!!」

 

スクナの口から発射される高密度の魔力。それは、一直線にシロウへと向かう。

今回シロウが投影したのは、本来ならば投影する事すら許されない、人々の願いによって星の内部で結晶・精製された神造兵装。

"最強の幻想(ラスト・ファンタズム)"。

 

その真名は─────

 

『────約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!!!』

 

───それは、文字通り光の線だった。

触れるモノを例外なく切断する光の刃。

拮抗したのはほんの一瞬。砲撃などまるで無かったとでも言うように、光の刃はスクナの頭を飲み込んだ。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)を地上で使えば被害は計り知れないだろう。

故に、シロウは固有結界を展開した状態で、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を使った。

 

光の本流が収まると、赤い荒野も、スクナの頭も、そして、黄金に輝く剣も消えていた。

 

「見事だな」

 

エヴァは満足していた。自分の知らない魔法が見れた事と、エミヤシロウという人を超えた存在に。

だが、同時に疑問を抱く。先ほど、シロウはエクスカリバーと叫んだ。

それは、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう英雄アーサー王の代名詞とも呼べる剣。

シロウは一体何者なのか。ヤツの使う魔術とは一体何なのか……

しかし、そんなエヴァの思考は、勝利を喜ぶ子供達の声で中断される。

 

「しろうの勝ちや~」

 

「やったー」

 

スクナが消えた事で喜ぶのも束の間。

 

「ネ、ネギッ!」

 

ネギが倒れアスナが叫ぶ。

その体は右腕から胸あたりまで石化し始めていて顔色は悪く、呼吸がどんどん乱れていく。

 

「どうしたでござるか!?」

 

そこに、楓、夕映、真名、古の4人も遅れてやってくる。

 

「……危険な状態です。ネギ先生の魔法抵抗力が高すぎるため、石化の進行速度が非常に遅いのです。このままでは首部分まで石化した時点で、呼吸ができずに窒息してしまいます」

 

茶々丸がネギの容態を確かめ説明する。

抗魔力が高い故の危機。偉大なる父親から受け継いだ才能が仇となるとは……

と、そこまで考えてシロウはある違和感を感じた。何か、何か重要なことを見落としていないか?

 

「エヴァちゃん、何とかなんないの!?」

 

「私は治癒系の魔法は苦手なんだ、不死だから」

 

おろおろするアスナとエヴァ。

 

「そうだ! シロウ貴様はどうだ!! って、何をこんな時に呆けている!」

 

「別に呆けていたつもりはない。……すまないが、私も治癒の魔術は使えん」

 

固有結界の中には呪いを消したり、傷を癒す物もあるが、現状では真名を解放するほどの魔力が足りない。

ガラにもなく激情に任せて大技を使ってしまった自分の迂闊さが嫌になる。

 

「くっ、この役立たずめ!」

 

エヴァの暴言は聞き捨てならないが、今はそれよりもこの嫌な感じが気になる。

本当に小さな違和感だが、その見落としがとんでもない結果を招いてしまいそうで……

 

「アスナ、ウチネギ君とチューしてもええ?」

 

「ちょっ、こんな時に何言ってんのよ!?」

 

「なるほど、仮契約か」

 

「うん」

 

確かに、シネマ村で見せたこのかの治癒魔法は相当なものだ。仮契約によって潜在能力が開花すれば、ネギを助けられるだろう。

 

「……シネマ村? ……そうか!!」

 

「よっしゃ、そうと決まればさっさとヤッちまいましょう!」

 

カモが大急ぎで魔法陣を描く。

その時、シロウは既に動き始めていた。シネマ村の事を思い返して思い出した。

白髪の少年は初めて会った時とシネマ村に入る前に襲ってきた時に水のゲートを使って移動していた。

エヴァが少年を吹き飛ばしたのは確か湖の向こう側。そして、このかとネギの後方にできた不自然な水たまり。

 

「そこかっ!」

 

十数本の剣を投影し射出したのとほぼ同時に水面から石の槍が飛び出し、激しい金属音を鳴らし剣と共にごとりと地面に落ちる。そして、間髪入れずに投影した金剛杵(ヴァジュラ)を叩きこんだ。

 

「ぐっ!?」

 

苦しそうなうめき声と共に水たまりから現れたのは白髪の少年。

金剛杵(ヴァジュラ)がその腹部に深々とめり込んではいるが、致命傷になっている気配はない。

 

「まさか気づかれるとはね。やはり君は邪魔な存在だ」

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「!!」

 

少年の腹に突き刺さっていた金剛杵(ヴァジュラ)が爆発する。

 

「ここまでとは予想外だったよ。……僕の名はフェイト・アーウェルンクス。君が死ななければ、また会うだろうから覚えておくといい」

 

半身を吹き飛ばされて尚、フェイトと名乗った少年は無表情を貫き、水になり消えていった。

 

「幻影か……!?」

 

私は足に力が入らず、思わずその場で膝を着く。

 

「しろうっ!」

 

ネギの治療を終え駆け寄るこのか達に心配ないと告げたいが、体は思うように動いてくれない。

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)に固有結界。それに、約束された勝利の剣(エクスカリバー)金剛杵(ヴァジュラ)……魔力を使いすぎた。

 

「しろう!」

 

「シロウさん!」

 

このかやネギ達の声が遠のき、視界が黒く暗転してゆく。

ああ、拙いな。すまない皆。

 

 

 

 

 

 

「……む、朝? ここは」

 

障子の隙間から射す、日の光で目を覚ます。

 

「おはようございます。衛宮先生」

 

横には茶々丸が正座していた。心なしかホッとしているように見える。

 

「ここはこのかさんのご実家で、先生は昨日フェイトと名乗る少年を迎撃後、魔力不足による疲労で倒れられたのです」

 

私が思案しているのに気付いたのか、茶々丸は聞く前に簡潔に現状を説明してくれた。

それと同時に、昨日の事を思い出す。

 

「その後、このかさんの御実家へ帰還し、勝利を祝って宴会が行われました。おそらく皆さんはまだ寝ておられるかと」

 

皆で宴会をしていたというのに、茶々丸はここにいる。

ということは、私を見ていてくれたのだろう。悪いことをしてしまった。

 

「すまない茶々丸」

 

「何故謝るのですか?」

 

心底訳が分からないといった顔の茶々丸。

何故と聞かれても困る。謝った理由は私のせいで茶々丸が皆との時間を過ごせなかったからだ。

ただ一言そういえばいいというのに、気にも留めていない茶々丸の表情に、その一言が出なくなってしまった。

 

「……いや」

 

妙な沈黙を打ち破るべくようやく口を開いた瞬間 スパーン と障子が開かれ、現れた人物によって場の空気は吹き飛ばされた。

 

「起きたかエミヤシロウ。ならば貴様に聞きたいことがある」

 

言うだけ言って縁側へと移動するエヴァに茶々丸と2人で苦笑いをかわし、まだ重さの残る体に活を入れ部屋を出た。

 

「何だ、エヴァ?」

 

と聞いてはみたが、エヴァの聞きたいことはだいたい予想がつく。

たぶん破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)と固有結界。それに、約束された勝利の剣(エクスカリバー)の事だろう。

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)は元からエヴァを呼ぶつもりでいたから仕方ないとはいえ、やはり固有結界と約束された勝利の剣(エクスカリバー)を使ってしまったのは、自分でも熱くなりすぎたと反省している。

昔の私なら、こんなミスは犯さないだろうが、いい意味でも悪い意味でも私は変わったらしい。まさか、誰かの為にあそこまで激憤する事ができようとは。

だが、後悔はしていない。あの場面で怒るのは、なんというか……正しい気がするから。

 

「答えられるかどうかはわからんが、一応聞こうか」

 

「私の呪を解いた短剣とスクナとの戦闘で見せたあの魔法。そして、エクスカリバーと貴様が呼んだ剣は何だ?」

 

エヴァは言いながら麻帆良で呪を解いた時の事を思い出す。

 

 

 

 

 

「う~む、やっぱり無理かも?」

 

「おいっ! 無理かも? じゃない、このじじいっ! 貴様の孫のピンチだろ!! 何とかしろ!!」

 

ネギから本山が襲われたと連絡があり、学園長はエヴァを向かわせようとしたが、思いのほか呪が強力すぎて一時的でも麻帆良から出すことができない。

 

「くそっ!」

 

せっかく 興味をそそられる事=弟子の育成 を見つけたというのに、このままではその楽しみを失ってしまう。

何より、あれだけカッコよく「私が全てを終わらせてやる!」と言ったのに、行けませんでしたでは洒落にもならん。

ぶつぶつとエヴァが悪態をついていると……

 

一羽の鳥が窓をつついていた。

 

「何だ? 茶々丸」

 

「はい」

 

茶々丸は窓を開け鳥を中へと入れる。

鳥の足についている紙を確認して、茶々丸は驚いた。

 

「……マスター、衛宮先生からです」

 

「何?」

 

茶々丸の抱えた鳥を見ると、短剣を持っている。

エヴァは鳥から短剣を受け取りメモを読んだ。

 

〝もし君がこちらに来なければならないような事態になった場合

この短剣を軽く突き刺してくれ

                エミヤシロウ〟

 

必要最低限の事しか書いていない所が、なんともシロウらしい。

しかし、手紙を受けとったエヴァにしてみれば、何がなんだかわからない。

 

「?」

 

不可解に思いながらもシロウが意味も無くこんな事をするわけもないか、とエヴァは短剣を胸に軽く突き刺す。

すると……

 

「っ!?」

 

ガラスの割れるような音と共に、あれほど苦労しても解呪する事が出来なかった登校地獄の呪が解けた。

いや───破壊された。

 

「なっこれは!?」

 

「なんと出鱈目な……いや、流石はエミヤ君と言うべきかのぅ」

 

こうして、呪の解けたエヴァは京都へ向ったのだった。

 

 

 

 

 

エヴァの質問は、やはり予想通りのものだった。

 

「悪いが教えることはできん」

 

「貴様……」

 

エヴァの睨みは更に鋭さを増す。

ならば、何か言われる前に、先に防波堤を作っておくとしよう。

 

「アレかね? こちらの魔法使いは何の対価もなしに他人の情報を知りえると? いや、これは失敬。あまりこちらの魔法使いの事情は良く知らなくてね」

 

あえて私は口を皮肉げに吊り上げて言う。

 

「ぐぐぐ……!」

 

エヴァも痛いところを突かれたのか少し黙る。

さて、こうしてエヴァをからかうのも面白いがそろそろ本題に入るとしよう。

 

「……そうだな。こちらの条件を飲んでくれるのであれば、多少の情報くらいは提供しよう」

 

「条件だと?」

 

エヴァは不可解そうにこちらを見るが、しばらく考えて1人頷くと、

 

「いいだろう、その条件を飲んでやる」

 

肯定の言葉を示した。

これはもう驚きを通り越して、溜息しか出ない。

 

「はぁ……君は内容も聞かずに条件を飲むというのかね?」

 

「フッ、齢600年を超える真祖の吸血鬼をなめるなよ? 貴様如き若造が望むものなど、簡単に用意してやるわ」

 

どこかの慢心王の如く ふふん と、えらそうに言うエヴァ。

凛のような性格+ギルガメッシュのような態度=……いや、考えるのはやめよう。

それにしても若造か。守護者となった私は時間という概念から外されるし、元は英霊。体感と言うのもおかしいが、私の経験した様々な時間を合わせれば、それこそ数百歳分くらいにはなると思うんだが……

まあいい。それよりも、まさかここまですんなりいくとは思わなかった。

 

「で、条件とやらは何だ?」

 

「ああ、それは……「士郎先生」刹那?」

 

私がエヴァに条件を話そうとした瞬間、刹那の呼びかけによって中断される。

 

「士郎先生、エヴァンジェリンさん、お話中すいません。昨夜のお礼を言おうと思いまして」

 

刹那は深々と頭を下げる。

 

「気にするな」

 

「ふん」

 

私はいいのだが、エヴァは話を中断させられたのが気に食わないのかちょっと不機嫌になる。

 

「で、どうしたんだ? こんな朝早……くも無いが、まだ皆は寝ているだろう?」

 

魔力不足により、いつもより遅くおきてしまった私ですら、皆より起きたのが早い。

そんな時間に身支度を整えている刹那は、何か重要な話があるとしか考えられなかった。

 

「はい、御2人にはお礼を兼ねてご挨拶を、と思いまして」

 

「挨拶?」

 

聞き返すと、刹那は少し目を伏せた後口を開く。

 

「私はお嬢様を守り、近衛家へご恩を返す事ができました。ですから私は旅に出ようと思います」

 

「……刹那よ。前に私がこのかの心も救わねばならない、と言ったのを覚えているか?」

 

「……はい。ですが士郎先生ならお嬢様の心も体も護る事ができるでしょう」

 

覚えていて尚この決断。刹那も頑固だな。

どう見ても未練があるのが丸分かりではないか。

なら私は止めなければならない。ここで刹那を行かせてしまえばどうなるか、私は身をもって知っているのだから。

 

「確かに私はこの身に代えてもこのかを護るし、できる限り心も護ろう」

 

「……」

 

「だがな、いくら私がこのかを護り続けたところで、私は私以外にはなれんのだよ」

 

「士郎先生以外には……なれない?」

 

刹那はよくわからないといったような顔をする。事実わかっていないのだろう。

私も昔は人の生死だけを重んじて、その心の事までは考えていなかったからな……

いや。「昔は」どころではない。今でもよくわからないでいる。

わかっているのは、「この世界で過ごして、大切な事がわかりかけているような気がする」と言う事がわかっているだけ。

 

「そうだ、私は私としてでしかこのかを護る事はできん、刹那の代わりにはなれない」

 

だから上手くは説明できない。それでも、刹那には伝えなければいけない。

そうでなければ、悲しむ人がいるから。

 

「私の代わり……」

 

「私がいても、このかの親友である桜咲刹那はいなくなる。そうなってはこのかは悲しむだろう」

 

「ですが、これは一族の掟なんです。正体を知られたら私は去らなければならない」

 

あれほど自分の羽を嫌っていたというのに、そこまで一族の掟に拘るとは……つくづく思うよ、やはり君は彼女に似ている。

その頑ななまでの頑固な所とか、自分よりこのかに相応しい人間がいるという考え方とかな。

 

「つまり君は、このかよりも一族の掟を守る方が大事だと。自分はこのかに相応しくない人間だったと、そういうことかね?」

 

少し意地の悪い言い方になってしまうが、これくらいわかりやすい方がいいだろう。

 

「なっ!? 違う! 私は、私だって本当はこのちゃんと!……でも、私では……掟が……」

 

刹那は怒鳴るように言う。それを聞いて、少し安心した。

このかは刹那と一緒にいたいと思っているし、刹那もこのかと一緒にいたいと思っている。

それなら、何も心配はいらない。

 

「ならば去る必要は無い。このまま、このかの傍にいればいい」

 

「ですがっ!」

 

まだ迷っている刹那にさも当然のようにシロウは言う。

 

「何を迷う? このかには刹那が必要で、刹那もこのかと共にいたい、それならば迷う事など無い。もし君が掟の事を心配しているというのなら気にする事は無い」

 

「え?」

 

シロウの言葉にうつむいていた刹那は顔を上げる。

 

「掟に従わなかった事で刹那や他の皆に災いが降りかかるというのなら、私がその悉くを排除して見せよう」

 

「士郎先生……あ、れ?」

 

刹那は知らずの内に涙が出ていた。

 

自分は此処にいてもいいのだろうか?

もっと、お嬢様と共にいてもいいのだろうか?

たくさんの友人の中、楽しく過ごしていいのだろうか?

 

「だから刹那。君はこのかと共にいてもいいんだ」

 

「刹那さ~ん」

 

「せっちゃ~ん」

 

そこへ、タイミングよくアスナとこのかがやってくる。

話を聞くと、どうやらホテルにに放っておいた身代わりの式紙に問題があったようだ。

 

「せっちゃーん、早よいくえ~」

 

手を振るこのかの方へいまだ踏み出せずにる刹那の背を軽く押してやる。

 

「ほら、このかが呼んでるぞ。行って来い刹那」

 

「ありがとうございます。……いってきます、士郎先生」

 

そう言って微笑んだ刹那の顔は、今まで見た中で一番子供らしく、可愛らしい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

その後のシロウ&エヴァ

 

 

「ずず……ふぅ……若いっていいよなー」

 

茶を啜りながらそんな事を言うエヴァ。

 

「いきなり老け込まないで下さい、マスター」

 

「ババ臭いぞエヴァ」

 

そんなエヴァに、シロウと茶々丸が同時につっこむ。

 

「誰がババアだぁぁぁああーーーー!!」

 

エヴァは鬼の形相でシロウの首下へ掴み掛かる。

とはいえ、魔力による補助を行っていないエヴァの筋力ではまったく意味が無い。

つまり、どんなに首を絞められようと苦しくないのだ。だからこそ、冷静にからかいたくなってしまう。

 

「私はババ臭いと言っただけで、ババアとは言っていない。ふむ、君は自分をババアだと思っていたのか。なるほど。いや、間違いではあるまい。見た目こそ幼女のそれだが、年齢で言えば君は立派なババアだよ」

 

見る見るうちに赤くなるエヴァを見て、ついつい饒舌になってしまう。

エヴァは顔だけに止まらず、全身を真っ赤にして怒り、終いには青筋が浮かぶ。

 

「ふっ、貴様はいつもいつも私をからかって……そうか貴様は死にたいのか、そうかそうか」

 

エヴァからはかなりの魔力が溢れている。

顔は今まで見たことがないほどとてもいい笑顔だ。

 

マズイ。あの笑顔はマズイ。

体中からあの笑顔は危険だと警告される。

薄っすらと残る記憶が蘇る。あれは、遠坂凛がキレた時と同じ笑顔ではないか?

 

「士郎ブッ血KILL!!」

 

そう言って魔力の篭った見事な右ストレートを放つ凛。

……いやな光景が頭に浮かんだ。

 

「ま、まてまて、君をからかった事は私が悪かった! 謝罪しよう!」

 

「今更遅い! リク・ラク・ラ・ラック……」

 

エヴァが始動キーを呟き始める。

なにか、何か話題を逸らさなくては!

 

「そ、そうだ! さ、先ほど言った条件を聞かなくて良いのかね?」

 

「む、そうだったな」

 

エヴァは先ほどの話を思い出したのか、魔力を霧散させていく。

何とか誤魔化せたようだ。

 

「で? 条件は何だエミヤシロウ」

 

「ああ────私に、この世界の魔法を教えてくれないか?」

 

 

 

 

こうして、エミヤシロウの修学旅行は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 




なんとか修学旅行編は終わりました。
次は……間にちょこちょこはさんでから、オリジナル展開を混ぜつつ紳士な魔族のおっさん&エロスライムが出てくるところかな?

宝具紹介

約束された勝利の剣(エクスカリバー)

アーサー王のシンボルにしてセイバーの宝具。人造の武器ではなく、星に鍛えられた神造兵装。
宝具として最強に最も近いとされ、聖剣というカテゴリの中では頂点に立つ。剣としての性能を重視しているため、華美な装飾はほとんど施されていない。
人々の“こうであって欲しい”という想念が地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精錬された“最強の幻想(ラストファンタズム)”。栄光という名の祈りの結晶。



それでは、また次回!!
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