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凛と共に士郎は倫敦にある魔術協会の総本山「時計塔」へ。
凛の弟子、小間使いという枠で来た士郎は、基本的に凛から魔術指導を受け、それ以外の凛が授業で忙しい時間などは鍛錬やアルバイトをしていた。
一年経つ頃には凛の伝手もあり、時計塔内の雑用なんかは手伝わせてもらえるようになり、暇な時は凛の後見人であり、時計塔での講師でもあるロード・エルメエルメロイⅡことウェイバー・ベルベットが士郎の魔術を視てくれることもあった。
そして今日は、ウェイバーに頼まれた雑用を済ませ荷物を彼に届けている最中である。
「失礼します。ウェイバー教授、入りますよ?」
ドアををノックしても返事はない。
だが、いつもの事なので士郎は一声掛けて中へ入る。
「ファック! また負けた!」
この開口一番暴言を吐いて、「大戦略」と書かれたTシャツを着ている男が時計塔のプロフェッサーとまで呼ばれた大教授。ウェイバー・ベルベットである。
「おい、エミヤ! つっ立ってないで手伝え!」
「……はいはい」
ウェイバーは魔術の才能はないが講師の才能は時計塔随一と言うことで、当初は士郎の修業方針などを固めるために通っていたのだが、雑用から何やら手伝っているうちに気に入られ今ではゲームをする仲に。
ひとしきりゲームに付き合うと、ようやくウェイバーは本日の本題に入ってくれた。
「さて、じゃあ頼んでおいたものを見せてもらおうか」
「はい」
士郎は麻布で包まれた箱を渡し、ウェイバーは中身を確認する。
中に入っていたのはアルファベットの書かれてる板と、穴の開いた金属。
「これがなんだかわかるか?」
「えっと、ウィジャ版ですよね?」
「まぁ、半分正解だな。ウィジャボードは、降霊術もしくは心霊術を崩した娯楽のために用いる文字版で、1892年にパーカー・ブラザーズ社が占い用ゲーム用品として発売した商品だが、こいつはそれ以前のものだ。だから名はない」
「はぁ、何故こんなものを?」
「ある人物に届けるよう頼まれてな。あの人には借りがあるから仕方がない」
借りがあるという割にはウェイバーの表情は楽しそうだ。
彼には珍しく、それなりに気に入っている相手なのだろう。
「これをお前に届けてほしい」
「それは構わないんですけど、俺でいいんですか? 教授ならもっと信用のおける使用人とかいるんじゃ」
「相手の方にいろいろ事情があってな。だが時計塔の連中は信用できん、正直気に入らん。それに引き換え、この一年見ていたがお前みたいなお人好しならまぁいいだろう。遠坂には私から話しておいてやる。行って来いエミヤ」
という流れで、士郎はウェイバーから預かったウィジャ版を持ち一人日本へ飛び立った。
荷物の届け相手はなんと封印指定の「人形師」蒼崎橙子。
元々は荷物を渡したら帰るつもりだった士郎だが、橙子は士郎の高度な解析魔術に目をつけ、表の仕事を手伝わせる。士郎も彼女の人形に興味があり、色々な知識や魔術についても教えてくれるというので、しばらく滞在することに。
「お前の世界にも
自身が人形使いであるエヴァが興味津々と言った感じで聞いてくる。
「いるにはいるが、君のように戦闘補助等の目的で人形を作るものは少ないな」
シロウ自身、橙子しか人形師に会ったことは無いが、戦う時は魔術や使い魔を使っていたのでおそらく間違いないだろう。
「では何の為に人形を作る?」
「君には前に話したな、魔術師は魔法を再現しようとしていると」
「ああ」
「その理由が、魔法に到達することは“根源”に近づく、という事になるからなのだ」
「根源?」
「“根源”とは、この世の全ての存在・現象の原因。万物・万象の因果の連鎖を最果てまで遡った先にあるもの。大元の一。そこでは全ての情報を得る事ができ、物事の始まりと終わりを知る事ができるという。」
「その根源と人形とどう関係がある?」
「大抵の人形師は、自身の人形、自身と全く同じ
伽藍の堂で士郎は3人の人物と出会う
眼鏡に全身黒一色の服を着て、片目を髪で隠している(何でも昔とある事件で怪我をしたらしい)人がよさそうな感じの黒桐幹也。
黒髪のショートカットで和服を着ている両儀式。
幹也の妹で橙子に魔術を習っている黒桐鮮花。
伽藍の堂で士郎は主に幹也と共に雑務、橙子による魔術指導、式による実戦形式の剣の指導を受けた。橙子と式の容赦無い指導により士郎はめきめきと実力を上げていく。
数ヵ月後、橙子の仕事もひと段落つき、魔術関連の知識や技術も身に付いたので倫敦にもどる事にした。
「頑張ってね士郎君、僕は君の夢を応援してるよ。でも、残念だなぁ、士郎君がいれば僕にちゃんと給料が入るのに」
そういって幹也は橙子を見るが、当の本人はそっぽを向いてタバコを吸っている。
ちなみに、何故士郎がいると橙子が給料を払うのかというと、士郎の解析の魔術によりいいものを安く買う事ができ無駄使いが減り、橙子の表の仕事である建築関係の方でも役立ち儲かっているからだ。
「衛宮、お前には剣の才能は無いけど、目がかなりいい。鍛錬を続ければかなり強くなれるはずだ」
「ほら式、ちゃんと士郎君にお礼を言わないとダメだよ」
「うっ、……その、兼定ありがとな」
幹也に言われ、式は微妙に頬を赤く染め、ぶっきらぼうに礼を言った。
士郎は剣の指導をしてくれた礼に、投影した九字兼定をプレゼントしたのだ。
「はぁ、せっかく弟弟子ができたと思ったのになぁ~。本当に行っちゃうの? 士郎君」
「すいません、鮮花さん」
あからさまにがっかりする鮮花。
彼女は士郎の事を弟のように可愛がっており、士郎も照れくささはあったもののそんな彼女の気遣いが嬉しかった。
「士郎、何か困った事があったらいつでも訪ねて来るといい。本当は色々と手伝ってくれた礼にプレゼントを製作中なのだが、間に合わなくてな。お前みたいな危なっかしい奴には必要になるだろうから、完成ししだいお前に届けよう」
「何から何までありがとうございます。お世話になりました」
橙子たち伽藍の堂の人たちに別れを告げ、士郎は倫敦へ戻る。
その途中、行き倒れのシスターを助けた挙句、巻き込まれて吸血鬼と戦うことになったり。
暴漢に襲われそうだった金髪のお嬢様を助けて執事にスカウトされたりと色々あり、当初の予定より大幅に帰宅が遅れ、凛に怒られたのは言うまでもない。
後にシロウは語る……真冬のテムズ川は寒かったと。
ある日、以前助けた女性ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトから本格的に執事としてアルバイトをするよう連絡が来る。
長期間倫敦を空け、職を失っていた士郎にとっては願ってもない話だったので受けることにしたのはいいのだが……。
ルヴィアが専攻する宝石魔術の研究をする為、同じ学科の人と会うから士郎も同席しろと言ってきた。
何でもルヴィアとその人は仲が悪いらしく、いつも喧嘩になってしまうらしい。だからそうならないよう仲介を頼みたいと。
「……何かいやな予感がする。確か遠坂の専攻も宝石魔術だったよな」
すでにその人は客間に待たせているらしいので、急いで向かう。
ルヴィアの後に続き部屋に入る。その場所にいたのは……
「おまたせしてすみませんわ。こちら、私の執事のシ……どうしましたの?」
「……(おお、ゴッド。あんたは俺が嫌いなのか?)」
部屋で待っていた人は、俺の顔を見るなり口をあけて固まる。
かく言う俺も固まってしまう何故なら、そこにいたのは───遠坂凛だった。
「……なんでさ」
「士郎!?」
「え? お2人は知り合いでしたの?」
驚くルヴィアをよそに、凛はマシンガンの様に大量の文句を士郎に浴びせかける。
「何でアンタがルヴィアんとこの執事やってんのよ!」
「何でって、ルヴィアが執事のバイトとしてスカウトしてくれたから……うぉわ!?」
いきなり視界の横を黒い塊が通り過ぎた。凛のガンドだ。
「そりゃ、バイトするのはいいけど、何でよりにもよってこんなヤツの所で執事なんてやってんのよー!!」
叫びながら凛はガンドを連射してくる。
流石にこの数は避けきれないと思った瞬間、士郎に当たる寸前でガンドは掻き消えた。
「ミス遠坂。
「あら、私の士郎をどうしようと、私の勝手だと思いますけど? ミスエーデルフェルト」
笑っているのに笑っていない2人。
そして、士郎は心に誓った。「あかいあくま」と「きんのあくま」は怒らせてはいけないと。
その後、凛とルヴィアはふらっと時計塔にやってきた魔法使い、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグから宿題を出され、宝石剣の製作を始めた。
宝石剣の製作を始めてからは、凛も忙しい為か士郎の魔術を見ることができなくなってきた。
あまり凛に迷惑をかけたくないという思いと、世界を見て回りたいという思い。
そして、だいぶ魔術師としても経験を積めた為、士郎は世界を旅することを決意する。
それから3年……
フリーランスの魔術使いとして各地を回っていた士郎は、依頼を受ける魔術協会が近いという理由で再び倫敦に部屋を借り拠点としていた。
様々な国を回るうちに、生前の衛宮切嗣の話を耳にすることもできた。
『
その実力を買われアインツベルンのマスターとして第四次聖杯戦争に参加した事。
士郎は信じられなかった。あの切嗣がそんな事をしていたなんて。
前に切嗣が言っていた言葉を思い出す。
《誰かを救うということはね、他の誰かを救わないということなんだ》
「
ある時、珍しい人物が士郎を訪ねてきた。
「やあ、久しぶりだね士郎君」
「よぉ、衛宮」
「幹也さん、式さん! よく俺の居場所がわかりましたね」
訪ねてきたのは幹也と式だった。
「こいつは何かを“探す”と言う事に関しては天才なんだ。それより衛宮、お前に悪い知らせだ」
この2人がわざわざ倫敦まで来るということは、なにか緊急事態ということだろう。
士郎は幹也と式を部屋に上げ話を聞く。
何でも、冬木市で今異変が起きてるらしい。そのことに気づいた橙子が士郎と連絡を取るために衛宮邸を訪ねた際イリヤと出会い、すぐに士郎を呼んでほしいと言われたそうだ。
「橙子さんは、今イリヤちゃんの様子を見る為に君の家にいる。早く……帰った方がいい」
幹也のあまりにも真剣で重い言葉に士郎は頷き、直ぐに支度をして日本の衛宮邸へ飛び立つ。
衛宮邸に着きすぐに家へ入る、すると玄関にはアインツベルンのメイド セラが立っていた。
「お嬢様がお待ちです、エミヤシロウ」
セラに連れられ離れにある客間へ行くと、そこには険しい顔の橙子と布団で横になるイリヤの姿が。
「士郎か、久しぶりだな」
「橙子さん、イリヤは」
無言で首を振る橙子。
眠っていたイリヤが目を開けるのを見て、橙子は部屋を出て行った。
「あ、シロウ。間に合ってよかった」
「イリヤ、いったい何があったんだ」
微笑んだ後、力無く起き上がろうとするイリヤを慌てて支える。
「うん、今から全部話すね」
イリヤはゆっくり話し始めた。士郎が旅に出てすぐ桜が倒れた事。
その原因は、桜の祖父である間桐臓硯の仕業で、臓硯は大聖杯に細工をし、士郎とセイバーが小聖杯を壊した後、英霊の魂をこの世に止め第四次聖杯戦争の聖杯のカケラを埋め込んでいた桜の体に入れたらしい。
桜は自分のせいで士郎に迷惑がかかるのを嫌がった為、イリヤが桜の中にある英霊の魂を半分自分の中に移し、その間に凛が何とか桜を助ける方法を探していたらしいのだが、もともとホムンクルスであるイリヤの寿命は短く、負担のかかったイリヤが倒れ英霊の魂を体に止めておく事ができなくなり全ての英霊の魂が桜の下へ行ってしまう。
その結果、自身の魔力を制御できなくなった桜は黒い影と共に大聖杯のある場所。柳洞寺地下へと向かったらしい。
「もうそろそろ限界……かな?」
全てを話し終えたイリヤは、一仕事終えたかのように体の力を抜いた。
支えているイリヤの体は体温が失われ、どんどん冷たくなっていく。
「シロウ、桜と臓硯は手ごわいわ。決して油断しちゃだめよ?」
「わかった、後は俺が何とかするから! 大丈夫だから! だから、もう!」
喋るな。そういう前に、イリヤの体から力が スッ と抜ける。
「私はお姉ちゃんなのに、シロウに何も出来なくって……ごめんね」
最後にそう言ってイリヤは息を引き取った。
悲しみの感情を心の奥に封じ込め、士郎は準備を始める。そんな士郎に近づく気配が2つ。
「セラ、リズはどうしたんだ?」
「……あの子は、お嬢様と共鳴していますから」
「そうか……」
それだけでわかってしまった。イリヤが死んだと言うことは、リズも……。
「行くのか、士郎」
「はい。橙子さん、イリヤの事ありがとうございました」
「気にするな。その分はきっちりお前に請求させてもらう。だから……死ぬなよ」
橙子の返事には答えず、イリヤの事をセラに任せ、士郎は柳洞寺へ向かった。
柳洞寺の頂上に着くと士郎は地面に手をつけ解析の魔術を行う。士郎は橙子の魔術指導によりかなり大きなものまで構造を把握できるようになっていた。
「見つけた」
林の中にある岩に隠された通路を見つけ向かう途中、士郎は思いがけない人物にあった。
「士郎君?」
「シエルさん? 何故ここに」
そこにいたのは、以前倒れているところを助け、吸血鬼討伐を手伝ったシスター。教会の埋葬機関第七位「弓のシエル」だった。
彼女は冬木の異変に気づき、教会側からの依頼で調査に来たらしい。
「中に、入るつもりですか?」
「はい、中に俺の後輩がいるんです。あいつはきっと苦しんでる。なら、俺が助けてやらないと」
揺るぎない意志のこもった士郎の目を見たシエルは、溜息を吐くと道を開けてくれた。
「1時間。あと1時間で埋葬機関の増援が来ます。それまでは君の好きにしなさい。それと、そんな装備では心もとないでしょう?」
そういって彼女が渡してくれたのは、ある聖人の聖骸布でできた外套。
「何でこれが……」
それは、見覚えがあった。聖杯戦争で凛の相棒を務めていた赤い弓兵の身にまとっていたものと同じだったのである。
「いいですか! 前回吸血鬼の討伐を手伝ってくれたことと、おいしいカレーをごちそうになったお礼にそれはあげます。なので、決して無茶はせず生きて帰ってくると約束してください」
渋々見送るシエルに礼を言い、しばらく進むと広めの空洞へと着く。そこで何者かの気配を感じた士郎は干将・莫耶を投影し構えた。闇の中から姿を現したのは顔を仮面で覆った黒い騎士。
「まさか、お前は……!!」
黒い騎士はもの凄い勢いで突進してくる。
騎士の剣を干将・莫耶を交差して受け止め、体をずらして切りつける。
かわされたものの剣先は仮面に掠り、仮面はひび割れその顔が露わになる。
「やっぱり、お前だったのか」
仮面の下から現れたのは。
「セイバー」
士郎のよく知る、パートナーの顔だった。
「シロウ……ですか。その格好、まるでアーチャーの様だ」
そう、士郎は冬木を出て数年間で身長が伸び筋肉もついた。
今の干将・莫耶を持ち赤い外套を羽織る士郎は、髪と肌の色、そして黒いボディーア-マーをつけていないところ以外アーチャーと瓜二つなのである。
「セイバー、そこをどいてくれ。俺は、臓硯を倒して桜を救わなければならない」
「臓硯はサクラの手によって死んだ。私はサクラにここを誰も通すなと言われている。たとえ相手がシロウでも例外ではない」
セイバーはここを通す気が無いようだ、ここを通るにはセイバーを倒さなければならない。
自分にセイバーを倒す事が出来るのか? 彼女を殺す事が出来るのか?
そんな迷いは剣を鈍らせる。セイバーの剣の嵐を捌ききれず、士郎は傷を追っていく。
だが、唐突にセイバーの剣撃が止んだ。セイバーは剣を地面に突き刺し仁王立ちしている。
「シロウ、貴方の理想はその程度だったのか」
「え?」
「あの丘で私に言った言葉は嘘だったのか」
5年前の聖杯戦争。セイバーとの別れを思い出す。
《貴方は……やはり、正義の味方を目指すのですね?》
《ああ、俺はいつか正義の味方になってみせる。俺を救ってくれた切嗣じいさんの様に》
───そして、いつも俺を助けてくれた、お前の様に。
「闇に染められたとはいえ私は騎士だ。そのような腑抜けた剣、私を侮辱しているとしか思えない……シロウ。貴方にとって、私はその程度の存在ですか」
そうだ、あの日セイバーに誓ったんだ。
切嗣の憧れた、正義の味方になると。
いつか、セイバーに追いつくと。
「おしゃべりがすぎたな……いくぞ、シロウ」
「ああ、こいセイバー」
セイバーは黒いエクスカリバーを構える。
士郎も迷いを払い剣を投影する。その手には干将・莫耶ではなく、
お互い地面を蹴り剣を振る。
セイバーの剣は全てを叩き伏せるような一撃を放つ王の剣。
対する士郎はセイバーの剣を時に受け止め、時に受け流し、時にかわす、無骨に鍛えられた戦士の剣。
迷いの消えた士郎の剣は、完璧とは言えずともセイバーの剣を防ぎ致命傷を避ける。
「シロウ! 貴方にこの一撃が防げるか!!」
後退し、距離を取ったセイバーの剣から黒い魔力が噴出す。
『
漆黒の魔剣から放たれるのは人々の絶望。
黒き暴力が士郎を襲う。本来であれば回避をするか、盾を投影し防ぐべきだが士郎の行動は違った。
士郎は自ら魔力へと駆け出す。
「うぉぉぉぉおおおおお!
そして、
面で飲み込む黒い魔力に、士郎は一点集中させたカリバーンの魔力をぶつけ自身の体と服を魔力で強化しダメージを最小限にする。
視界が晴れて最初に見えたのは、驚愕するセイバーの顔。
自らの手を見れば、そこにはヒビが入ってはいるがまだかろうじて存在している黄金の剣。
今ならセイバーを斬れる。そう思って振りかざした剣は、無慈悲な一撃に粉々に粉砕された。
「驚いた。まさか、エクスカリバーに耐えるとは。成長しましたねシロウ……ですが、ここまでです」
「く……そ……っ!」
届かなかった。自身の持ちうる最高の剣を投影して、その身すら犠牲にして挑んだが彼女には届かなかった。
ここで自分が死んだら誰が桜を助ける。桜を助けるためにはセイバーを退けなければならない。
「(どうしたら勝てる。何があれば勝てる……)」
士郎は必死に自身の中から勝てるモノを検索する。だが、該当する武器が見つからない。
どんなに強い聖剣も、魔剣も、槍も、矢も、何をイメージしても勝てる気がしない中、思い浮かんだのはあろうことかアーチャーの使っていた夫婦剣。
弓兵でありながら双剣を好んで使い、ランサーの槍を防ぎ、バーサーカーに6度も死をあたえる偉業を成し遂げた。
そんな男が干将・莫耶を使っていたのは何か意味があるはずだ。
「
イメージするのは27本の剣群。
「
その全てをセイバーに向けて放つが、いとも容易く一薙ぎで剣群を叩き落す。
だが、それでいい。目的は時間を稼ぐことだ。
「
士郎は剣に内包された魔力を爆発させ煙幕を作る。
僅かにできたこの隙に、干将・莫耶をより詳しく解析する為に。
陰陽を体現した夫婦剣。最高の素材と人命で打たれたために剣としての性能も高いが、巫術、式典用の魔術兵装としての側面を持つ。
違う。
揃えて装備すると対魔術と対物理が向上する。
違う。
製作過程の出来事から紛失してもどちらか一方を所有していれば、もう片方は必ず持ち主の元へ戻るといわれ、互いに引き合う性質を持つ。
見つけた!
「シロウ……貴方は、いったい何をした」
戸惑うようなセイバーの声。明らかに動揺している。
それもそのはず、煙が晴れるとそこには干将・莫耶を手に立ち上がる士郎の姿。
幾度の投影に加え、己の実力を超える解析により肉体的にも負荷がかかり、その結果、士郎の髪はわずかに白くなっていき、肌も黒く変色してきた。まるで、アーチャーの様に。
「今度はこっちから行くぞ、セイバー」
士郎はセイバーに向けて干将・莫耶を全力で放つ。飛翔する鶴翼は、左右同時からセイバーへと襲いかかり、その攻撃をセイバーは当然の如く迎撃し剣を弾き飛ばした。
軌道を狂わされた干将・莫耶はセイバーの背後へと飛んでいき、好機と見たセイバーは士郎へ接近する。
まっすぐに突っ込んでくるセイバーに対し、新たな干将・莫耶を投影して構える。
「……一つ」
干将・莫耶ごと両断せん一撃を放つセイバー。そんなセイバーに有り得ない方角から奇襲があった。
「なっ!?」
驚愕の声を上げ、未来予測じみた超直感でセイバーは背後から飛来した莫耶をかわす。
その隙をつき、士郎は干将を叩きつけるが、セイバーの剣に砕かれた
「二つっ!!」
再び背後から飛来する干将。それは投擲し、セイバーに弾かれた一度目の剣だ。
干将莫耶は夫婦剣。その性質は磁石のように互いを引き寄せる。
つまり、この手に莫耶がある限り、干将は自動的に士郎の手元に戻ってくる。
「終わりだっ!」
「甘い!」
神業めいた反応速度を以って、セイバーは背後からの奇襲を避ける。
再びできた隙。無防備な胸元へ莫耶を伸ばすが、二度目はないと言わんばかりに、俺が繰り出す前の莫耶をセイバーの剣が打ち砕いた。
「今のは良い読みでした。あと二手、いえ一手あれば私に届いたかもしれない」
称賛を贈り剣を振り下ろすセイバー。だが、士郎は笑っていた。
「やっぱりお前はすごいよセイバー」
セイバーの事を良く知るからこそ、自分の剣技が破られることくらいわかっていた士郎は、既に最強の守りがイメージ出来ていた。
「
具現せし幻想は、士郎が持つ唯一本物の宝具『
全ての干渉から所持者を守るその力は、この世全ての悪に染められしセイバーを本来の姿へと戻した。
セイバーが正常になって動きを止めた瞬間を狙って、さらに投影していた『
「……シ……ロウ?」
「ありがとうセイバー。
魔力の供給減を失ったセイバーはわずかに微笑み、光となって消えた。
「……桜を、止めないと」
士郎はボロボロの体で歩き出す。
ここで止まるわけにはいかない。だって、助けを求めてるやつがいるから。
空洞を進むと、セイバーと戦った場所より更に広い空間に出る。
そこには、15年前の大火災の時に見た黒い太陽と、白く染まった髪に黒い服を着た桜が立っていた。
「必ず来ると思ってました先輩。喜んでもらえました? 先輩の為に、セイバーさんを呼んだんですよ? くすくす」
「桜……もう止めよう。臓硯はもう死んだんだろう? だったら何故こんな事を……」
「先輩のせいですよ? 先輩が中々帰ってきてくれないから、わたしはこうなったんです。わたしが悪い子になれば、正義の味方の先輩は私を叱りにきてくれるでしょう?」
桜は歪んだ笑顔を見せて言う。
誰だ。いや、なんだアレは。
「さぁ、先輩……
瞬間、桜の周りには数体の黒い影の巨人が現れる。
アレはまずい。アレは5年前の聖杯戦争で言峰が使った
アレは並大抵の宝具では倒せない。そう感じた士郎は、セイバーとの戦闘で満身創痍の状態の体に魔力を通し、
「はぁ……はぁ……くっ!」
戦い始めて数十分、士郎は限界を迎え膝をつく。
大聖杯から無尽蔵の魔力を引き上げる桜は、何度士郎が影の巨人を消してもすぐに新たな巨人を作り出してしまう。
「あら、もう終わりですか先輩? くすくす、案外だらしないんですね」
士郎の知る桜はそんな冷たい顔で笑わない。
桜の笑顔はもっと暖かな笑みだった。けれど、今の桜にはもはや昔の面影は無い。
桜は完全に
「……俺に桜は救えないのか? 冬木の人達を救えないのか?」
薄れゆく意識の中、切嗣の言葉が頭をよぎる。
《誰かを救うということはね、他の誰かを救わないということなんだよ》
切り捨てるべき1を即座に切り捨て、生かすことのできる9を救った衛宮切嗣。
今の士郎には桜をすくう手は無い。
ならばどうする?
桜を殺す。
誰が?
俺が。
桜を殺さなければ、冬木に住む人はもちろん、たくさんの人々が死ぬ事になる。
それはダメだ。
だが俺に桜を殺す事ができるのか?
無理だ。
大切な人を切り捨てる重みに耐えられるのか?
耐えられない。
ならばどうする?
耐えられないのなら、耐えられるものになればいい。
「……そうだ────この体は、硬い剣で出来ている」
なら、大抵の事には耐えられる。
さあ行こう。この身は一振りの剣なのだから。
「
「うそ!?」
桜は驚愕した。すでに動く事の出来ないはずの士郎が動いた事ではなく、今一瞬だけ現れた、無限ともいえる剣の存在する荒野の世界に。
「……
「えっ!?」
士郎の声に桜は振り返る。いつの間にか影たちには無数の剣が突き刺さっていて、それが一斉に爆発を起こす。
「え……あ」
爆発の閃光に目が眩んだ桜は胸に違和感を感じ見てみるとそこには黄金に輝く剣が刺さっていた。
剣の先には髪は白くなり、肌は黒く変色し、血の涙を流す士郎の姿。
そこでようやく桜は理解した。自分は士郎に殺されたのだと。
「ありがとうございます先輩……そして、ごめんなさい」
士郎は桜を抱きかかえ呆然と立ち尽くす。
「士郎っ!! 桜っ!!」
そこへ、どこで話を聞きつけたのか、慌てた様子で凛がやってきた。
「遠坂……? お前、倫敦にいるんじゃ」
「え、アーチャー? アンタなんでここに……う、そ。あなた……士郎なの?」
かつての自分のパートナーと瓜二つの士郎の姿を見て唖然とする凛。
だが、士郎に抱えられている桜に気づき正気に戻る。
「衛宮君。桜を……殺したの?」
「ああ」
「っ!」
表情を変えず冷静に言う士郎に、凛は必死で感情を抑え込む。
「そう……
凛の手からは強く握りすぎたせいで血が出ていた。
そうでもしないと、彼女は魔術師としての自分を保てなかったのだ。
「帰りましょう」
「俺は、アレを破壊しなければならない」
士郎はアンリ・マユの方を向いて言う。
「アンタ1人でなんて無理よ。私も手伝う」
「ダメだ。アレを破壊するにはエクスカリバークラスの宝具が必要になる。だが宝具を使えばこの空洞は崩れ落ちるだろう。それでは桜をつれて逃げるのは難しい」
「アンタはどうすんのよ!!」
「俺1人なら何とかなる。宝具の投影も無理をすれば後2回はできるし、単独行動は俺の得意分野だ」
士郎の背中を見て、凛はアーチャーと別れた時の事を思い出す。
アーチャーの最後の台詞を。
《凛達が先に逃げてくれれば私も逃げられる。単独行動は、弓兵の得意分野だからな》
凛はもう士郎と会えないような気がした。
だからこそ、あの時と同じように。いや、あの時以上に強く言葉にする。
「わかったわよ、勝手にしなさい! その代わり終わったら私の所に顔を出す事。いいわね!」
「ああ、善処しよう」
「善処じゃなくて必ずよ!」
凛は士郎から桜を預かると、直ぐに出口に向かった。
「遠坂。恨んでもらって構わない、ごめん」
凛が洞窟を出てしばらく経った。
今ならたとえ洞窟が崩れても、凛たちが巻き込まれることはないだろう。
「さて、そろそろ遠坂は脱出しただろう……投影、開始」
残りの魔力を総動員して士郎の知りうる最強の幻想をここに具現する。
それはセイバーが使う人々の祈りを込めた聖剣。完全に投影する事は出来ずとも、その剣は大聖杯を
『────約束された勝利の剣《エクスカリバー》!!!!』
大聖杯破壊後、士郎は凛との約束を守ることなく旅に出た。
ある時、士郎はとある町の原子炉で起きた
「契約しよう────我が死後を預ける。その報酬をここに貰い受けたい」
こうして士郎は人を超えた力を手に入れ、多くの人を救い英雄と呼ばれる存在まで登りつめた。
世界を回る最中、士郎は様々な人と出会う。
真祖の姫君を守る為、世界を敵に回し戦う殺人貴。
遠坂の師であり、死徒二十七祖 第四位のキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。
それでも士郎の理想は変わる事は無かった。
士郎は何度も裏切られ欺かれた。
挙句の果てには救った筈の男に罪を被せられる。
死ぬ思いで争いを収めてた士郎は争いの張本人だと言われて、体中を剣で串刺しにされ傷の手当てをするどころか、体に刺さった剣を抜かれる事も無く牢屋に閉じ込められた。
ついに正義の味方を目指す錬鉄の英雄に最後の時が訪れる。
「……これで、いよいよ私も終わりか」
人などくるはずも無い牢屋に足音が近づいてくる。
現れたのは思いもよらない人物。
「久しぶりね、衛宮君」
「遠坂……か」
それは数年前の事件を最後に会うことの無くなった人物、遠坂凛だった。
「何故ここに?」
「協会からの指示でアンタの死体を回収するよう言われたのよ。封印指定の剣製の魔術使いさん」
「……そうか」
うすうす感づいてはいた、
となれば理由は一つだけだろう。
「君でよかった」
「っ!!」
自分の死体を回収するのが凛でよかった。
仇を取る事もできるし、協会からの依頼も果たすことができる。これで少しは恩を返すことが出来るだろう。
「何でアンタはそうなのよ! アンタそれでいいの!!」
怒った様にに叫ぶ凛。
ああ、本当に彼女らしい。
自分に対してここまで本気で怒ってくれるのは、もはや彼女だけだろう。
「ああ、悔いは無いよ。遠坂も私の死体を持っていけば、それなりに地位が上がるだろう」
「ふんっ、見くびらないで頂戴! 私はね、遠坂凛なの! 元弟子を売ったりするような事はしないわ。アンタの死体は私が桜の仇として、この世から消し去ってあげるんだからっ!」
あくまで士郎の為ではなく、自分が桜の仇討ちをする為だと言い張る凛。
それは彼女の言う心の贅肉だ。自分の地位を危うくしてまでそんなことをする義理がどこにあるというのか。
「待てっ! そんな事をしたら遠坂がっ……ゴホッ、ゴホッ」
大声を出したせいで吐血する。
「これから死ぬくせに人の心配してんじゃないわよ。私だってね、考えも無くこんな事やったりしないわ。だから……安心して死になさい」
そう言って遠坂は牢を後にする。
次の日、士郎は絞首台へと連れて行かれた。首に縄をかけられた時、朦朧とする意識の中離れた所に凛を見つける。
凛の目からは涙が零れ落ちていた。
「……(参ったな、遠坂を泣かせてしまった。ほんと、彼女には感謝してもしきれない)」
士郎の首にかけられた縄が締まる。
薄れ行く意識の中、気がつくと士郎は赤い荒野に立っていた。
「これで私は、守護者になってもっとたくさんの人を救うことが出来る」
その丘で士郎は一つの詩を謳う
────体は剣で出来ている
血潮は鉄で 心は硝子
幾度の戦場を越えて不敗
ただの一度も敗走はなく
ただの一度も理解されない
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う
故に、生涯に意味はなく
その体は、きっと剣で出来ていた
こうして英霊エミヤは誕生した。
はいというわけで、エミヤの過去《中》終わりです。結構足早で、色々な人との出会い部分などはかなり端折らせて書かせていただいていますが、それは後に回想やらエミヤの日常やらで掘り下げていきたいと思います。
それでは、また次回。