学園祭2日目 まほら武道会 本戦開幕
まほら武道会本選に出場が決まったネギ、小太郎、アスナ、刹那と別荘の持ち主であるエヴァ、付き添いのこのかは別荘で休憩や調整をしていた。
かくいうシロウも軽く体を動かした後、日課になっている
最近では術式兵装の持続時間もかなり延び、実践でも問題なく使えるレベル。
相変わらず他の魔法は進歩が無いが、闇の魔法に関していえばエヴァが呆れるほどの速さで進歩している。
以前失敗した
「順調そうだな」
「エヴァか。どうした?」
ネギ達に闇の魔法を見せるわけにはいかないという理由で、かなり離れた岩場で修行していたのだが、そこにエヴァがやってきた。ネギ達の修業を見るといっていたのにここに来たということは何か話があるという事だろう。
「お前の修行の進み具合を見にきたのともう一つ。お前が武道会に参加した理由を知りたくてな」
「なに、少し腕試しがしたくてね。それに賞金一千万円というのも魅力的だと思うが?」
超のことは伏せ誤魔化す……つもりだったのだが、エヴァの目はスッと細まり真偽を見極めようとする。
数秒無言の時が流れた後、エヴァは口元を吊り上げ笑った。
「嘘つけ。お前がそんな理由で武道会なぞ参加するものか。大方、超鈴音の事だろう」
「驚いたな……君の所にも超が来たのか」
「馬鹿者。私は茶々丸のマスターだぞ?」
なるほど。ここ最近エヴァは一人かチャチャゼロと共に行動をしていて茶々丸と一緒にいるところは見かけていない。つまり、茶々丸は製作者である超側につき、超はそのことについてエヴァに了解を得に来たという事か。
「そうか、ならば君に話しておくことがある」
私は昨日の事をエヴァに話した。超の企みに誘われたこと、ランサーがこの世界にいるかもしれない事。
「で、お前はそれを1人で、しかも誰にも知られずに解決しようとしていると? つくづく、お人よしだなお前は」
エヴァは呆れたように言う。その言葉に対し反論できなかった。
一人で戦うことが無茶なことはわかっている。しかし。
「まだ覚悟のできていない者達を巻き込むわけにはいかないからな。それに、これは私の問題だ。他の魔法先生に頼るわけにもいかんよ」
「……そうか(なるほどな。超鈴音がどうやってシロウを抑えるのかと思ったが、まさかランサーを従えているとは。まぁ、約束した以上私は誰にも助力する気は無い。今回はせいぜい傍観に徹させてもらうとするか)」
「ああ、そうだエヴァ。ちょっと聞きたい事があるんだが」
「なんだ?」
ほぼ完成しつつあるアレの最後のピースを埋める為、闇の魔法の開発者であるエヴァに助力を乞う。
「……ふむ。まぁ理論上は可能だな。発想も面白い。お前の体がもつというのなら、圧縮のイメージを変えてみたらどうだ? 純粋な魔力ではなく形あるものなのだから、圧縮というよりサイズを縮めるようなイメージにしてみろ」
なるほど。確かに無形の魔力の様に圧縮するイメージより、そのままの形でサイズを小さくするイメージの方がやりやすいかもしれない。上手くいけば不安定だった圧縮も安定し、技の発動までにかかる時間も短縮できるかもしれない。
「まぁ、考えるよりまずやってみろ」
「そうだな───
術を発動した瞬間吹き荒れる暴風。海を水平に走る黄色い閃光。
閃光は1km程進むと大爆発を起こし、暫くの間海を分断させた。
そして、爆発によって舞い上がった海水が土砂降りの様に降り注ぐ。
「貴様のせいでずぶ濡れではないかっ! 死ね!」
「やれといったのは君だろう! それに、君は水着なのだからいいではないか!!」
こちらは私服だぞ!? 確かに術の威力が予想以上に強く、こんな事態を招いたことは反省すべき点がある。
威力に唖然とし傘を投影できなかったこともまぁ、百歩譲って私が悪かったといえよう。
しかし、死ねというのはあまりにも言い過ぎではないだろうか? と抗議したい。
「どうしたの!?」
「何の音ですか!?」
「しろう、エヴァちゃん大丈夫~?」
修行中だったネギと小太郎。稽古をしていたアスナと刹那。それを見ていたこのかも、ものすごい音に驚き集まってきた。
「って、海が割れてるじゃないの!?」
「ほんまやー。すごいなぁ」
真っ二つに割れた海は次第に元に戻り、光の発射地点と思われる場所ではシロウとエヴァがもめている。
そんな2人をネギ達はポカーンと見ていたが、小太郎が口を開いた。
「い、今のシロウ兄ちゃんがやったんか!?」
「ん? ああ、そうだが?」
衝撃の事実にネギと小太郎は唖然とする。2人はどこか心の中でシロウには勝てるかもしれないと思っていたのだ。今回の大会では刃物の使用が禁止の為、シロウは宝具は使えない。その上、シロウに魔法の才能がないことを知っているネギは接近戦にさえ気を付ければ可能性があると。小太郎は純粋にシロウの戦闘を見たことがない為、その実力を測りかねている。しかし、目の前の光景はそんな2人の希望を易々と打ち砕いた。
「安心したまえ。武道会で私は身体強化の魔術くらいしか使う気はない」
「え? 本当ですか」
「ああ、超はああ言ったが武道会だからな。まあ、君達が魔力を使う事には何も言わんよ、これはあくまで私の考えだからな」
そう言うと、ネギ達の顔に安堵が見られた。
「だが、簡単に負けてやるつもりは無いぞ」
「はい! お互い頑張りましょう!」
その後、別荘内で一日休養を取った後、武道会会場である龍宮神社へと向かった。
「ほな、みんな頑張ってな。ウチは観客席に行ってるわ」
「ああ、また後でな」
私達本選出場者は控え室へ行かなければならないので、このかはここで別れる。
控え室には既に他の参加者が揃っていた。タカミチを見つけたネギは2、3こと言葉を交わし戻ってくる。
その眼には動揺の色はない。あるのは1人の男としてタカミチと戦う覚悟。
弟子入りテストの日からどれだけ成長したか見せてもらうとしよう。
「只今より、まほら武道会一回戦第一試合に入らせて頂きます!!」
まほら武道会は和美のアナウンスで開幕を告げる。
まほら武道会本戦ルール
15m×15mの能舞台で行われる15分一本勝負
ダウン10秒
リングアウト10秒
気絶
ギブアップ で負けとなる
時間内に決着がつかなかった場合、観客によるメール投票により勝敗が決まる
シロウは選手席からではなく、舞台が見渡せる神社の屋根の上で戦いを観戦する。
一試合目 佐倉愛衣 VS 村上小太郎
試合が始まると愛衣はすぐにアーティファクトであるホウキを出すが、瞬動により一気に接近した小太郎の掌底による風圧でリングアウト。小太郎の勝利となった。
「あぶあぶ!?」
リングアウトで水へと落ちた愛衣が ばちゃばちゃ と慌てている……まさか、泳げないのか?
そう思った瞬間、シロウは瞬動で移動した。
「わ、私、泳げなっ、あれ?」
「大丈夫か?」
溺れていたはずの愛衣はいつの間にかシロウに抱きかかえられていた事実に、顔を耳まで真っ赤にしてお礼を言った。
「おおーっと! 麻帆良のジャスティスことエミヤシロウ選手、溺れていた佐倉選手を救出しお姫様抱っこ。そんな光景に観客からは盛大な拍手と歓声が起こっております!! エミヤ選手、勝利した小太郎選手を差し置いて観客の視線を釘付けだだぁぁぁあああ!!」
その光景を見た和美は、すかさず場を盛り上げるために観客を煽る。和美の煽りに盛り上がる観客。
確かに和美を司会にした超の采配に間違いはない。ないのだが、もう少し何とかならないだろうか? これでは勝利した小太郎があまりにも可哀想ではないか。和美よ、もう少し考えて実況してくれ。
二試合目 大豪院ポチ VS クウネル・サンダース
開始早々大豪院が猛攻をかけるも、全ていなされクウネルのカウンター気味の右掌底が決まり、一撃ノックダウン。
第三試合 長瀬楓 VS 中村達也
一般人にしては珍しく、気を使った「遠当て」を使いこなし戦う中村だが、それだけで楓を倒せるわけも無く、音も気配も全く感じられないような完璧な瞬動「縮地」によって後ろを取られ、手刀により気絶。楓の勝利となる。
「さて、次は古 対 真名か。一回戦注目のカードだが……まさか今さらここで観戦というわけでもあるまい?」
「おやおや、気づかれてしまいましたか。流石ですねぇ」
シロウはいきなり現れた背後の気配に声をかける。
現れたのはローブによって顔を隠した武道会参加者クウネル・サンダースだった。
「私と賭けでもしませんか?」
「遠慮する。賭け事はあまり好きではないのでね」
「フフッ、つれませんねぇ。非常に残念です」
そういうクウネルは、ちっとも残念そうに見えない。それに多少の闘気を向けても全く防御の姿勢すら取らない。
敵意があって近づいたわけではないようだが……
「貴方が勝てば、いい情報を教えてあげようと思ったんですがね。アーチャー」
「……何故その名を知っている。───貴様、何者だ」
アーチャーと言う名を出したクウネルに威圧的に問う。先ほどの真意を測るための威嚇等とは比べ物にならない、鋭く洗礼された敵意。
その姿に満足したのか、クウネルは頷くと表情を真剣なものに変えた。
「アーチャーと言う名を知っている理由はまだ言えませんが。私が何者かと言う質問の答えぐらいでしたら、貴方が賭けに勝てば教えましょう。もちろん、先ほど言ったいい情報と一緒に」
クウネルの真剣な表情を見れば、嘘をついていない事がわかる。敵か味方かはわからないが、私に対して敵意をもっているようにも見えない。それに、この男がアーチャーと言う名を知っている理由も気になる。
ならばここは賭けに乗るべきだな。
「……いいだろう。で、賭けの内容は?」
「これから始まる、龍宮真名と古菲の試合の勝者などいかがでしょう? チップは、私は私の正体と貴方に有益な情報。貴方は貴方の記憶と言う事で」
「記憶?」
「ええ、正確には記録ですかね。私のアーティファクトの能力で、他人の過去を本にできるのです。とは言っても、貴方から記憶が消えるわけではないのでご安心を」
他人の過去を本にするだとアーティファクトか。仮契約によるアーティファクトはその者に合ったモノが精霊によって自動的に選出されると聞く。何をたくらんでいるかは知らないが、なるほど理解した。この男は性格が悪い。他人の過去を知りたいなんてヤツに、ろくなヤツはいない。
「もう一つ。何故、彼女達を賭けの対象に?」
「特に意味はありません。しいて言うなら、観客達にとって一番の注目カードだからですかね」
フードで顔は良く見えないが、先ほどと変わらない口調。どうやら本当に意味はないらしい。
「ふむ……では、私は古に賭けよう」
「おや? これは驚きですね。実力的には龍宮さんの方が上では?」
表情が変わったような気がするところを見ると、本当に驚いたらしい。
それでも僅かな変化でしかないのだから、つくづくわからん男だ。
「確かに実力でいえば真名の方が上だろう。しかし、古は一般人の中では最強クラスであり、数多くの部員の上に立つ者だ。死合いならいざ知れず、試合ならばそういった想いの差で真名に勝てる可能性も低くは無い。むしろ可能性が高いと考える」
人の上に立つ者。人の想いを背負った者は強い。その点を考えれば、古に勝機は十分ある。
それに、これは推測だが真名はどこか本気じゃないような気がする。いや、本気ではあるのだろうが、あくまで試合での本気という感じがするのだ。
「では、私は龍宮さんの方に賭けましょう。フフッ、結果が楽しみです」
第四試合 龍宮真名 VS 古菲
「それでは、まほら武道会第四試合レディ……ファイ!!」
開始の合図と同時に観客達に動揺が走る。なんと、古と真名の両名が動きを見せる前に古が吹き飛んだのだ。
否。吹き飛ばされた。
「今のは、500円玉か」
和美にも、会場の一般客も突然古が吹き飛んだように見えただろうが、シロウの目にははっきりと見えていた。
真名の手から弾かれた、常人では捕らえきれない速さで打ち出されたコインを。
コインを打ち出す技術。確か名を羅漢銭。
中国に伝わる暗器の一つで、コインを飛ばす技術の事。
達人ともなれば一息に5打打つ事ができるというそうだが、真名が使うのであればそれ以上と考えていいだろう。
「おや? いきなり決まってしまいましたね」
「つまらん芝居は止めろ。お前にも見えていたのだろう?」
コインが当たる瞬間、古は自ら後ろに跳び威力を逸らしたの。
着地には失敗したようだが、受け身も取れていたしほぼダメージはないと考えていい。
起き上がった古は真名の放つマシンガンのような羅漢銭の連打をかわし、八極拳の活歩(瞬動の様な歩法)で一気に接近し真名の右腕をとるが、後ろに回した左手で羅漢銭を顎に放たれ体勢を崩してしまう。
そこに、体勢は立て直させないと言わんばかりの羅漢銭の連打。ついに古は倒れてしまった。
意識はあるようだが、その眼にはもう戦う意思は見えない。負けを認めようとしている。
「どうやら、賭けは私の勝ちのようですね」
クウネルの言葉には答えず私は古を見つめる。
古、君はここでは終わらないだろう?麻帆良に来てまだ数ヶ月しかたっていないが、私は知っている。朝早くから彼女が鍛錬を行っていることを。そして聞こえるだろう。君を応援する者達の声が。
「くーふぇさん! しっかりーッ!!」
観客達の中から聞こえた一際大きなネギの声。すると先ほどまで諦めかけていた古の拳が握り締められた。
「フッ、どうやらまだ終わっていないらしいぞ?」
「……おや?」
古は止めを刺そうとした真名の羅漢銭を腰に着いていた布で全て叩き落し、布を真名に巻きつけ左手を封じた。真名に右手のコインで布を外されてしまったが、古は羅漢銭を打たせない為、布の槍で猛攻をかける。
布槍術とは珍しいが、中国には武器を使った格闘術も数多くある。中国武術研究会の部長である古ならば、使えても不思議ではない。
真名は布の槍の雨の中、隙間を縫うように羅漢銭を放つ。その一撃は布を操る古の左腕に直撃し腕の骨を折る
が、古はひるまず羅漢銭を放った真名の一瞬の隙をついて布を巻きつけ、自分の方へ引き寄せた。
真名は古に対して接近戦は不味いと感じ残る全てのコインを古の鳩尾へと打ち込む。古の掌は真名の腹に触れることに成功したが、そこで膝をつく。
「終わりましたね」
「ああ、賭けは───」
会場の誰もが古の負けだと思った。だが、結果は。
「───私の勝ちだ」
瞬間、真名の背中側の服が破けその場に倒れこんだ。
古は最後の力で浸透系の技を繰り出し、勝利を掴んだ。
勝利した古は大歓声の中、笑顔で手を振りながら医務室へと歩いていった。
「貴方は行かなくてよろしいので?」
「なに。彼女の友人に
「ええ。それではお話しましょう」
クウネル・サンダースはフードを外し語り始めた。
彼の本名はアルビレオ・イマ。
ネギの父親であるナギ・スプリングフィールドの仲間で『
今は世界樹地下に暮らしていて、知っているのは学園長だけらしい。
武道会の参加理由は、ナギとの約束でネギに用事がある為だそうだ。
「話はわかった。だがクウネルよ、何故君はそれを私に話す?」
「貴方には、色々とお世話になりましたから」
そう言ったクウネルの表情は、どこか懐かしそうな悲しい表情をしていた。
だがその真意を確かめる間もなく、一変していつものにやけた表情に戻る。
「それと、アルで構いませんよ。私も貴方の事はエミヤと呼びたいですからね」
「了解したよアル。君の事だ、どうせ「色々とお世話になりましたから」という言葉の意味を追求しても何も答えてはくれないだろう」
「ええ。よくおわかりで」
話す気がないのなら、彼についての追及はここまでにしておこう。
それよりも今は気にすべきことがある。
「では、いい情報とやらを聞こうか」
するとアルは真面目な表情に変わる。
「貴方も気づいているとは思いますが。超鈴音にランサーがついています」
「君はランサーの事も知っているのか?」
「いえ、直接は。彼が「人あらざる存在」だと言う事はわかりますが、素性については又聞き程度です」
直接目にしたことはないが、ランサーの事を知っていて、その正体についても誰かから聞いている。
遠まわしに説明をするからには、おそらくその誰かというのはアルが私に話せない事柄に関係しているのだろう。私のクラス名も知っていたことだしな。
まだ油断はできないが、聖杯戦争や私の世界がらみでアーチャーと言う名を知った訳ではない様なので一先ずは安心か。
「いやぁぁああああああ!!!」
「ん?」
その時、いつの間にか始まっていた第五試合 田中 VS 高音・D・グッドマン。
何故か高音は半裸で田中を殴り飛ばしていた。その様子に溜息を吐かずにはいられない。
「何をしてるんだ……」
「おやおや」
シロウは愛用の赤いコート(素材は聖骸布)を投影する。それは戦闘時に着用する外套ではなく、あくまで私生活で出かける時に着用するものである。
「大変ですね貴方も」
「まあな。だがこの学園にいるうちに、こういった騒動にもだいぶ慣れた」
シロウは愛衣の時同様、瞬動で高音の下に移動しその肩にそっとコートをかけた。
「やはり、貴方は私達に出会う前も変わらないのですね……」
「全く、何をやってるんだ君は」
「え、衛宮先生!?……申し訳ありません」
大勢の前で肌を晒してしまった為か、それともシロウに見られてしまった為か、高音は顔を真っ赤にして体を抱え込む。
「おおーっと、またもでましたこの色男! ジャスティス エミヤシロウ。颯爽と登場し高音選手にコートをかける姿を見て女性客からは黄色い声が、男性客からはブーイングがだされています!!」
またかっ!!
これ以上観客を煽るのは本当に止めてほしい。
「後で和美は説教だな……」
今すぐにでも説教をしたい気持ちを抑え、舞台の中心で縮こまっている高音をつれて足早に選手控え室に向かう。
「あ、あの。私、着替えを取りにいってきます。ありがとうございました」
「そうか。そのコートは返さなくていいから着て行くといい」
「はい。本当にありがとうございます」
控室につくと、高音はペコペコ頭を下げて足早に更衣室へと向かった。
「さて」
次はネギの試合か。控室にいないということは、既に舞台に向かっているか、古の見舞いに救護室に行っているのだろう。少し様子を見てくるかな。
「ああ、そうそう。もう一つお教えしておきたいことが」
「うぉ!?」
いきなりアルが現れた。
「な、何かね?」
わざわざ転移してまで来たという事は、何か重要な事だろうか?
「エヴァンジェリンの名前はご存知で?」
エヴァの名前? エヴァの名前がどうかしたのだろうか?
確かフルネームはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだったはずだ。
「ええ。そしてミドルネームの部分のA・Kは、実はアタナシア・キティというんです」
アタナシア・キティ?それはなんともまあ顔に似合わず、いや、顔には似合っているが性格に似合わず可愛らしい名前だな。しかし、それがどうしたというのだろう。
「彼女はキティと呼ぶと面白いくらいに怒ります」
「ほう?」
今の言葉にピンと来た。予想していた重要な要件とは違うが、これはこれで今後にとってかなり重要な情報だ。アルの顔を見れば言いたいことはすぐにわかった。そのかわいらしい名前を使って、エヴァをからかえという事だろう。
今まで食えん男だと思っていたが、ふむ、なかなかどうして気が合いそうだな。
「つまり、そういうことかね?」
「はい。そういうことです」
2人はお互い不敵な笑みを浮かべ、手を握り合う。
「アル。君とはいい関係が築けそうだ」
「それは何よりですエミヤ」
「クックックッ」
「フフフ」
ここに最凶コンビが結成した……
「大変お待たせしました。只今より、第六試合 ネギ・スプリングフィールド選手 VS タカミチ・T・高畑選手の試合を始めたいと思います!」
シロウが再び屋根の上に戻った時、丁度第六試合の開始が告げられた。
舞台の上には緊張気味のネギと嬉しそうな顔のタカミチが立っている。
実力的には圧倒的にタカミチが上。そんな相手にネギはどう戦うか。
「君の戦いを見せてもらおう」
「それでは、第六試合。レディ───ファイッ!!」
和美の開始の合図と同時に、ネギは
ネギはタカミチの攻撃を全て受けきり、瞬動を成功させ背後を取る。
「以前一度見たことはあるが、客観視すると本当に出鱈目な技だな」
居合い拳と呼ばれるタカミチが放った拳。
ポケットを鞘の代わりに拳を走らせ放つその高速の技は、傍から見れば目視は敵わず、受けたものは突然衝撃を受けたように感じるだろう。
それ故、予選の時観客達はタカミチの周囲の選手達が自然に倒れていくように見えていた。
だがネギはしっかりと居合拳に対応しタカミチに接近。接近されたタカミチはポケットから拳を出し右のストレートを放つが、それをネギはさらに瞬動を使い避け、八極拳で上手くタカミチのガードをすり抜け打撃を与えつつ、魔法の射手も組み入れた連続攻撃で反撃する隙を与えない。
「雷華崩拳!!!」
収束する複数の雷の矢がネギの腕へと巻きつき、タカミチの腹へと放たれステージ外まで吹き飛ばされる。
「雷華崩拳。魔法の矢を拳に乗せて直接叩き込む技とは。やるじゃないかネギ君」
オリジナル技とは恐れ入ったが、直撃とはいえ相手はタカミチ。あの程度の威力では、大したダメージは与えられてないだろう。
案の定、水煙の中から現れたタカミチはほぼ無傷だった。
戦闘が再開されネギは何とか距離を離されないように戦うが、蹴りにより距離をとられ、居合い拳の連打によって近づく事ができない。
先ほどと同様、瞬動で接近しようとするもタカミチに同じ手が二度も通用するはずが無く、半身を逸らし足をかけ破られてしまう。
タカミチの居合い拳の射程は約10mで能舞台の四方は15m。おまけに瞬動も使えるとなると、いよいよネギの逃げ場はなくなる。
「魔力と……気? あの技は確か」
ネギと何か話していたタカミチの手が光りだす。そこ光景に私は見覚えがあった。
以前別荘でタカミチと手合わせをした際、最後にタカミチがアレを使っていた。あの時はまだ気について詳しく知らなかった為気づかなかったが、エヴァの修業をするうちに自ら使用することは敵わずとも、他者の気を感じることはできるようになったのだ。
タカミチは右手と左手にそれぞれ気と魔力を集め、2つを合成させたタカミチの体からは魔力とも気とも違う力が溢れ、まるで大砲のような居合い拳を放ち舞台に穴を開けた。
「あれは、咸掛法という技法で、気と魔力 相反する2つの力を合成するとても高度な技法です。そして今のは咸掛の気を拳に乗せて放つ居合い拳。豪殺・居合い拳。タカミチの師が得意とした技です」
「いきなりなんだ。聞いてもいないことをベラベラと」
古の試合の時同様、いきなり現れたアルに顔を向けずに問いかける。
いいかげん転移によってアルが現れるのにも慣れた。いちいち文句は言うまい。
「いえいえ。ただ、知りたいかと思いまして。それでは、私はこれで」
言いたい事が終わるとすぐに消えてしまった
「本当に、それだけの為に来たのかっ!? ……まったく」
試合の方に視線を戻すと、居合い拳と豪殺・居合い拳の併用でネギはどんどん追い詰められていた。距離を取れば豪殺・居合い拳で狙われ、接近しようとすれば居合い拳で阻止される。
ついにネギは避け切れず、あえなく
ネギ・スプリングフィールド。ここで、立ち上がる事ができなければ、君の想いは所詮その程度。いつか理想に溺れる事になるだろう。
ナギに追いつきたいというのなら、大切な人を守りたといういのなら。
多くの人を救い、
「
タカミチの豪殺・居合い拳を受けたネギはもはや虫の息。
会場はざわめき、和美もタカミチの勝利にして試合を止めようとしている。
そんな周囲など気にも留めず、タカミチはネギを見下すように言った。
「ネギ君。あきらめるのか? 君の想いはそんなものなのか? 僕程度に勝てないようでは、それよりも高みにいるナギやエミヤに追いつくことはできないよ」
タカミチの言葉を聞いて最初に脳裏に浮かんだのは父の背中。次第に意識がクリアになっていき、ぼやけている視界に人影が写る。
頭の中の父は振り返り、その人影と重なった。ネギが追いつきたいと願った、もう一人の人物。
「シロウ───さん?」
晴れていく視界の中見えたのは赤い外套を纏う騎士の姿。
赤い騎士はまるで「ここまで来い」と言うかのようにネギを見ている。
視界が完璧に晴れると、そこにいたのは赤い騎士ではなく、黒いシャツにズボンという普段と同じシロウの姿だった。
和美によりタカミチの勝利が宣言されそうになる中、私はネギと目が合った。
私の遥か遠くを見据えるその眼は、焦点が合っていくにつれてしっかりと私を認識する。
その眼には何が込められていたのか……。ただ、私には「必ず追いつく」と言っているような気がした。
聞こえてくるアスナやのどか、古や刹那の声援にネギは立ち上がる。
その表情はボロボロの姿に反して自信に満ち、勝利を確信していた。
ネギはタカミチが構える前に光の矢を9本背後に待機させ接近。ギリギリ反応できたタカミチの蹴りで場外の水の中へ落ちるが、直ぐに舞台へ戻り高々と宣言した。
「タカミチ、最後の勝負だ!」
「受けてたとう、その勝負!! 次が最後の一撃だ!!」
タカミチは快くその申し出を了承し、再び咸掛の気を纏う。
『
『豪殺 居合い拳!!』
ネギは魔法の射手を瞬動によって全身に乗せた体当たり。対するタカミチは大砲のような威力の豪殺・居合い拳。
ネギは豪殺・居合い拳がぶつかる瞬間、風障壁によって豪殺・居合い拳を相殺。無防備となったタカミチは体当たりをモロに食らう。しかしタカミチはまだ倒れない。ダメージは受けているが、直ぐにネギの姿を追う。
だが、既に勝敗は決した。
「───
舞台上に静かに響く声。
声の先には
「最大、桜華崩拳!!!」
9本の光の矢を乗せた拳は問答無用にタカミチを舞台へとめり込ませ、敗北を認めたタカミチ。
それを確認した和美が高々とネギ君の勝利を告げる。
「ネギ・スプリングフィールド。君の戦い、確かに見せてもらったよ」
オリジナル技に遅延呪文。タカミチが正面から戦うように誘導した言葉。見事としか言いようがない。
初めて出会った日から大きく成長した少年に心の中で賛辞を贈りつつ、シロウは己の戦場へと向った。
「舞台の修復で長らくお待たせしました。第七試合を始めたいと思います!!」
いよいよ始まる第七試合。今回の試合は私は虎竹刀ではなく、2本の中華剣を模した木刀を投影し持ってきた。いくら数か月前までは素人とはいえ、アスナは運動神経がよく最近では刹那に剣を習っている。そして、ネギからの魔力供給もあると考えると、使い慣れた干将・莫耶に似た形状の武器が一番いいと判断したからだ。
対するアスナの武器はアーティファクトであるハリセン。それはいい。、とより想定していたことだ。だが、一つだけ想定外。疑問に思う事がある。
「アスナ。何故君はそんなフリフリの服を着ているんだ?」
「う、うっさいわね。朝倉に無理やり着せられたのよ」
恥ずかしそうに頬を染めるアスナが来ていたのは、フリフリの沢山ついた可愛らしい服。
某オタクの集まる街に行けば、メイド服としても通用するようなものだった。
和美に対していろいろと言いたいことはあるが、見た目はどうあれ今回アスナは真剣勝負を所望だ。
今はそちらに集中するとしよう。
「麻帆良のジャスティス エミヤシロウ選手と戦うのは、元気いっぱいな女子中学生、神楽坂アスナ選手! さあ、ジャスティス相手に少女はどこまで戦えるのか!! 第七試合 神楽坂明日菜 VS エミヤシロウ。レディ───ファイ!!」
開始の合図を告げられても私もアスナは動かない。
何故なら彼女の目が語っているから。言わねばならないことがあると。
「士郎。私、士郎の過去見たりとか、アサシンの事件とかあったけど、まだ魔法の世界に関わるっていうのがいまいちよくわかんない」
「ああ……」
「でもね。あの時エヴァちゃんに、魔法の世界に足を踏み入れる理由をネギのせいにするなって言われて、考えてみたの。私は何の為に、戦うのかって」
アスナは最初こそ照れたような感じで話していたが、真剣な顔に変わる。
「そしたらね、ネギの事がほっとけないんだってわかった。士郎から見れば、中途半端な甘い決意かもしれない。でも、いつもボロボロになりながら戦ってるネギを見て、助けたいって思ったの。必死になって頑張るあいつの笑顔を見て、綺麗だなって思ったの。だから───だから私は、この世界に足を踏み入れる。ネギを守る為に」
アスナのその眼には昨晩と同様、いや、昨晩以上に迷いない意志が宿っている。
彼女は言った。甘い決意だとわかっていると。それでも守る為に戦うと。
確かに、アスナの言う事は甘いし、魔法の、裏の世界の怖さをわかっていない。
しかし、私も……オレも始めはそうだった。オレを救ってくれた切嗣にの笑顔が綺麗だったから憧れ、オレもそんな風に誰かを助けられる存在になりたくて、正義の味方を目指した。
オレの、そして私の理想は借り物だったけど、アスナは誰に言われるでもなく自分自身で考え、ネギを守る為に戦う道を選んだ。
そんな彼女を否定する事は私にはできない。
「いいだろう。ならば、その決意を証明して見せろ」
「はい!」
その言葉と同時に2人は弾け、ハリセンと木刀が交差する。
すると、木刀自体には傷一つつかなかったが、木刀に掛けておいた強化の魔術が若干ながら弱まった。やはりアスナのハリセンには
投影品が物質として認識されているからなのか、根本的な形態が違うからなのかはわからないが、一撃で魔力に戻される事はないようだ。
私は再度木刀に強化を掛け直し、迫りくるハリセンの乱打を悉く受け止める。
ネギから魔力供給を受けているとはいえ、アスナは筋がいい。強化を施しているシロウと、本気ではないとはいえ打ち合う事ができている。
だが、数十合打ち合った時、アスナに変化が表れた。
「ちょっ、アンタいきなり頭に話しかけないでよ!」
「?」
いきなり1人で話し始めたと思ったら、アスナのスピードが急激に上がる。
受け止めるのは危険と判断し、ハリセンを捌きながら観察する。すると、アスナの体からは先程とは違う力が溢れている。
タカミチの咸掛法に似ている気がするが、その力は不安定ですぐに霧散してしまった。
しかし、アスナはまた何か独り言を呟いた後、魔力と気を合成させ、今度は完璧に咸掛法を使う。
「やはり咸掛法か。だが、何故アスナが。確か、かなり高度な技法だといってなかったか?」
ふと視線を感じ選手席を見ると、ニッコリ笑ったアルの姿。
「シロウ!必ず勝て!負けたら殺す!!」
と、何故か激怒して応援するエヴァの姿。まあ、エヴァの方はどうせアルにからかわれたのだろうから置いておくとして。アスナの様子がおかしいのはアルのせいで間違いなさそうだ。
大方念話か何かで話しかけたのだろうが……
「ちっ!」
そんな事を考えているうちに、アスナノ技のキレがどんどん増してくる。
咸掛法により身体能力が大幅に向上したアスナの力に、木刀が耐えられなくなってきている。
なんとか弱まる度に強化を掛け直してはいるが、これ以上スピードが上がればそれも間に合わなくなる。
「なに?」
仕方なく、シロウは攻めに転ずるが、二刀による振り下ろしからの横薙ぎの一閃をアスナは回りながらしゃがんでかわし、遠心力を使って勢いを乗せシロウの胴を狙ってきた。
おかしい。今の一連の行動は洗礼され過ぎている。いくら身体能力が向上したとはいえ、戦闘スタイルまで変わるわけがない。
「確かめてみるか……」
腕を下げ、いつもよりわかりやすく
しかし、アスナはそこを狙ってはこない。気のせいの可能性もあるので、様々な状況で様々な場所に隙を作るがアスナはわざわざ防御している部分を力技で強引に狙ってくる。
アスナらしいといえばそうかもしれないが、明らかな隙にまで反応すら示さないというのはさすがにおかしい。
これは、私のわざと隙を作るという戦法を知っていなければできない戦い方だ。
この戦い方は、隙あえて隙を出すことによって敵の攻撃を絞り、そこから反撃に転ずるカウンターだ。
アスナは私の戦っているところを見たことがあるが、だからといってそれを崩す戦い方をすぐに見抜けるほど経験を積んでいるわけではない。
という事は、アスナに指示を出している人物がいる。そして、おそらくそれはアルビレオ・イマだ。
アーチャーという名を知っていたのだ、私の戦法を知っていてもおかしくはない。
何故そんなことをしているのか、それは私には見当もつかないが……アスナよ。人の力を借りて戦っても、君の決意は示せんぞ。
「ちょっと待って、クウネルさん! この戦いは、自分の力で戦わなきゃ意味が無いんです……え……うっ」
アスナの様子がおかしい。どうやらアルの協力を断ったようだが、少しうずいた後雰囲気がガラリと変わってしまった。
次いでアスナのハリセンは大剣へと変わり、瞬動で私に接近すると、何の躊躇もなく大剣を振り下ろしてきた
「くっ!」
体を半身に逸らしてギリギリで躱す。不意の一撃をなんとか躱すことはできたが、今のスピードにパワー、そして技能。いつまでも躱し続けるのは不可能だ。
「アスナ! それは、まずいって!!」
和美も異変を感じ取ったのか、マイクをオフにしてアスナを制止するも、声は届かずアスナは剣を振るう。
その顔に表情はなく、瞳孔が開いている。今のアスナは完全に我を忘れている。
アスナの剣は次第に鋭さを増していくが、絶対に受けるわけにはいかない。無論自身が危ないということもあるが、それ以上にアスナが正気に戻った時自らの剣で私が怪我を負ったと知ったらどうなるか。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
「アスナ。君はネギ君を守るのではなかったのか?」
シロウの声にアスナが反応する気配はない。
アスナの大剣をいなした左手の木刀が砕け散り霧散する。
「今の君は確かに強い。だが、その力では守るべき者でさえ傷つけてしまうぞ」
剣が頬を掠め血が滲む。己の弱さに歯がゆさを感じつつも、残された木刀で大きな怪我だけは避ける。
未だその剣は止まらないものの、少し速度が落ち剣筋が鈍り始めている。
「他人の力を借りて得たその力で戦って、君が綺麗だと感じたあの笑顔と同じ笑顔が自分に出来ると思うのか?」
更に剣は鈍る。しかし、同時に残された木刀もその形状を維持できず霧散してしまう。
「ネギ君を守るという君の決意は、その程度のものかっ!」
無防備な私に振り下ろされた大剣はこの身を両断する直前。額に触れるか否かという所で完全に停止した。
刃が触れたのか剣圧かはわからないが、額を温かな血が滑り落ちる。
「その力……君には必要か?」
「……違う。私は」
大剣の向こうのアスナの瞳は、次第に光を取り戻す。
そして、アスナは剣を手放すと会場全体に響き渡るほど盛大な音を立てて、自分の頬をおもいきり叩き、頭を下げた。
「ごめんなさい! 私よく覚えてないけど、途中で何がなんだかわかんなくなっちゃって! 士郎に怪我もさせちゃうし!」
私の言葉がきっかけとはいえ、自力で自我を取り戻したか。
それがどれほど大変なことで、彼女がどれだけショックを受けたか。似た経験のある私にはよくわかった。
「本当にごめんなさい!!」
アスナの言葉には罪悪感と悲しみ、自分への怒りが込められている。
自分のしたことの大変さを分かっているのなら、これ以上私からいう事は何もない。
故に、謝罪への答えは言葉ではなく行動で示そう。
「え、え~なんだかよくわかりませんが、神楽坂選手の剣は本物のようなので大会規定により…」
「待て、和美」
「へっ?」
試合を終わらせようとした和美を止め、アスナを見据える。
「神楽坂明日菜。今度こそ、君自身の力を見せてみろ」
「えっ……? でも試合は」
驚くアスナをよそに私は新たな木刀を、そして赤い外套を投影し身に纏う。
さぁ、ここからが本当の勝負。エミヤシロウと神楽坂明日菜の真剣勝負だ。
「おっと、エミヤ選手どこからともなく赤いマントを……じゃなくて!!」
「戦闘続行を許可するネ!」
勝手に試合を続行しようとするシロウを和美は止めようとしたが、いきなり現れた超が戦闘続行の許可を出した。
「かすり傷はあれどエミヤ選手に大きな怪我はないし、何より彼自身戦う気満々ネ。今後神楽坂選手が先程の剣を使わないというのなら、特別に許可するヨ♪」
「え、え~と、というわけで。主催者よりOKが出たので、試合を続行したいと思います!!」
主催者の許可が出たということもあり、半ばやけくそ気味に試合続行を告げる和美の声に会場からは歓声が湧き上がる。
そんな様子を、アスナは ぽかん と見ていた。
「ほら、許可が下りたんだ。ぼーっとしてないでハリセンを構えろ」
言われ、いつの間にか大剣から戻っていたハリセンを拾い構えるアスナ。
アスナは嬉しかった。シロウが外套を羽織った事が、自分を認めてくれた気がして。
だからこそ、さっきまでの罪悪感や怒りはすべて捨てる。シロウの返事に応える為に。
「行きます!!」
今のアスナの攻撃に先程までのパワーやスピード、技術はない。だが、今の試合で受けたどの一撃よりも重く、想いの詰まった剣だった。
そこに持ち前の運動神経を生かした蹴りなどの体術による連携も組み込まれ、再びシロウは防戦を余儀なくされる。
「フッ、アルの力など借りなくても、十分戦えるではないか」
本来のスタイルの戻ったアスナの攻撃は、予想よりもはるかに強い。
まだ甘い所は多々あれど、刹那を師に鍛えた剣術は時折鋭い一撃を放つし、アスナの蹴りは常人なら骨にひびが入ってもおかしくない威力をもっている。
だが───
「まだ、私に勝つには早いな」
アスナはその言葉を聞いて一気に突進し、ハリセンを振り上げる。
私はアスナが振り下ろしたハリセンを体をずらして躱しハリセンの先端を右の木刀で上から押さえつけ、左の木刀でアスナが握っている柄の部分を弾いた。
「あ……」
会場に響いたハリセンの落ちる音。アスナは武器を飛ばされ、首に木刀を当てられる。
「私の勝ちだな」
「……うん」
その時のアスナの顔は負けたにもかかわらず、とても清々しい笑顔だった。
「決まったーーーー!! 多少トラブルはありましたが、第七試合 エミヤシロウ選手の勝利です!!」
湧き上がる歓声の中、アスナはハリセンを拾い上げると姿勢を正し深々と頭を下げた。
「士郎……ううん。士郎さん、ありがとうございました」
「どうした、改まって?」
「うん。なんか、今はそんな気分なの」
彼女の顔はとても清々しく晴れやかで眩しくて、遠い昔の大切な人を思い出す。
いつも天真爛漫で、暗い顔は決して見せず、その笑顔でいつもオレを励ましてくれた姉のような存在。
オレにとって藤村大河がそうであったように。ネギにとって神楽坂明日菜は大切な姉なのだろう。
観客席から勝負を称えのにやってきたネギと言葉を交わすアスナを見て、自分と大河もこんな風に見えていたのかな、と思う。
「さ、行こっか士郎!」
「ああ、そうだな」
そう言って振返るアスナに笑顔で頷く。
神楽坂明日菜。君の決意、確かに見させてもらった。その道は辛く険しいもので、時には立ち止まることもあるだろう。だが、君は自らまた歩き出せる強さを持っている。
もしもそれを邪魔するものが現れた時は────全霊をもって君を護ろう。
それが、神楽坂明日菜の決意に対するエミヤシロウの答えだった。
はい。少々詰め込んで長くなってしまいましたが、アスナの決意「完」です。どうでしたでしょうか? 毎回次の話の投稿までにかなり間が空くため、キャラブレしてないかとても心配です。コワイワー。
さてみなさん、話は変わりますが新しいFate/stay nightのアニメがようやく始まりますね! ヘヴンズフィールも映画化するのでとても楽しみ! この勢いに乗じて、私も投稿スピード上げられるよう頑張ります!
それではまた次回!!