「さて、これからどうするか……」
独りで行動すると決めたのはいいが、具体的な案は何もない。
先ほど超が懐中時計で何かをして姿が消した時、周囲の魔力が急速に時計に収束していた。
世界樹の影響で今の学園内の魔力の密度は高い。その魔力を使っての転移だとすれば、相当遠くまで逃げられるだろうし、超の言った「3日目に会おう」という言葉。最悪の場合、時間移動の可能性も考えておく必要がある。
科学の力で
「士郎~どこ~?」
「何だ?」
「へっ?」
私が返事をしたせいで驚く、白い髪に赤い瞳の見た感じ17、8歳くらいの少女。
しまった。考え事をしていたからつい返事をしてしまったが、どうやら私の事ではないらしい。
にしても、この少女どこか見覚えのあるような……
「ああ、申し訳ないお嬢さん。私はエミヤシロウというものでね。名前が同じだからつい反応してしまった」
「あら? 私が探していたのも衛宮士郎よ」
「何?」
「もっとも、探してたのは私の弟の衛宮士郎で貴方じゃないわ。でも驚きね、まさか同姓同名の人がいるだなんて」
私の弟の衛宮士郎……だと?
ありえない。切嗣と私の間に血の繋がりはない。それは、たとえ平行世界といえども同じはずだ。
まさか、この世界でも士郎が衛宮の養子になっているというのか……?
「失礼だが、君の名前は?」
「私? 私の名前は衛宮イリヤ。本当はイリヤスフィール・フォン・
「イ……リヤ?」
よく見てみれば、少女は身長や体つきこそ女性らしいものだが、雪の様に白い髪と肌、そして赤い瞳。確かにイリヤが成長したといった感じの外見だ。
ということは、この少女は平行世界のイリヤということになるのだろうか。
だが見た感じ、この少女は
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない。それで? 探していると言っていたが、君の弟はどうかしたのか?」
「ええ、家族で麻帆良の学園祭に遊びに来たんだけど、はぐれてしまって。今、お父様とお母様と手分けして探してるの」
父と母か、父は切嗣だとして、母親か……
シロウの記憶では確かイリヤの母親、つまり切嗣の妻の名前はアイリスフィールという女性だったと記憶している。
「では、私も探すのを手伝おう。この学園の事はある程度把握しているから、力になれるだろう」
シロウはこの世界の衛宮士郎をこの目で見てみたいという思いもあり、イリヤに自分も探すのを手伝うよう提案する。イリヤは最初こそ申し訳ないからと断ったものの、多くの人ごみの中一人で探すのは困難だと最終的には了承してくれた。
「じゃあお願い」
「了解した」
とは言ったものの、この人の多さでは歩いて探しても見つけるのは難しいだろう。
アナウンスをして呼びかけようかとも考えたが、これだけ賑わっていると聞こえない可能性の方が高い。
ならばと提案したのは、つい先日超と共に乗った飛行船から探すというもの。
イリヤはそんなところから探せるのかと訝しんだが、方法があると伝えると納得してついてきてくれた。
「できれば飛行船乗り場に着く前に、君の弟の特徴を教えてもらえると助かるんだが」
「それはいいんだけど……」
人ごみを押しのけながら飛行船乗り場に向かう中、イリヤは不機嫌そうに立ち止まり手を差し出してきた。
一瞬の後、シロウは答えにいきあたる。
立ち止まったことで出来た小さな空間でシロウは一礼し、イリヤの手を取った。
「これは気が利かなくて失礼。しっかりとご案内させていただきますよ
「ええ、よろしくシロウ」
満足のいく答えをしたシロウにイリヤは上機嫌で応え、飛行船乗り場へと向かう。
その後、無事飛行船に乗り込んだのはいいんだが……
「うわーすごーい! 見て見てシロウ! 人があんなに小さくなってる!」
と、こうなったわけである。
君は弟を探していたのではなかったかね?
「わー」
「……」
イリヤの無邪気な笑顔を無言で見つめる。あんな笑顔を見せられてはなにも言えない。
仕方なく自分だけでも士郎を探す事にする。幸いな事に、士郎の外見は昔の私と同じ赤髪らしいから見つけやすいだろう。そう思い魔術で視力を強化すると。
「あら、貴方魔法使いだったの」
なんて、特に驚いた様子もなくイリヤが言ってきた。
あまりにも自然に気づかれた為一瞬反応が遅れたが、こちらも冷静に聞き返す。
「……何の事かね?」
「隠しても無駄よ。今、貴方の眼に僅かだけど魔力の移動が感じられたわ。にしても器用ね、腕や足とかの部分強化なら見た事あるけど、まさか眼球だけを強化するなんて。でもま、それなら確かにここからでも下の人達が見えるわね」
イリヤに言葉に驚かずにはいられない。微量な魔力の変動を察知しただけでなく、どの部分を強化したかまで見抜かれるとは。
「君も魔法使いなのか?」
「えっ!? 貴方、アインツベルンを知らないの!? 魔法使いなのに?」
む、もしかして元の世界のアインツベルンと同じで、こちらの世界でも結構有名な魔法使いの家系なのか?
だとしたら、これは失態だな。
「ああ、これは失敬。私が魔法に関わったのはつい最近でね、あまり魔法世界の情勢には詳しくないんだ」
「つい最近? そんな器用な事ができるのに?」
イリヤはこちらを訝しむ様な目でに見てくる。確かに、少し怪しいかもしれないが、魔法に関わったのがつい最近というのは嘘ではない。
しかし、それではあまりにも怪しいので、濁しつつ事実を話すことにする。
「私は父から魔力の扱いを教わりはしたが、魔法を教わる前に父が亡くなってしまってね。最近まで
「……ごめんなさい」
イリヤは少し暗い表情で小さく答えた。父の死のことは言うべきではなかったと後悔する。
いらぬ気遣いをさせてしまった自分に腹立たしさを覚えつつも、空気を切り替える為に出来るだけ明るい声で切り出した。
「っと、そうだ。早く君の弟を探してやらねばな。あそこに双眼鏡があるから君はアレで探したまえ」
「ええ、そうするわ」
シロウとイリヤはそれぞれ眼と双眼鏡を使って衛宮士郎探しを再開する。
飛行船から地上を見ていると様々なものが見える。その中に、屋根やら壁やらを飛び跳ねている人を見つけた。
「あれは、ネギ君と……茶々丸に千雨か?」
何故疑問形になったかというと、ネギはこの間のアスナとデート時の大人姿で、千雨だろう少女は、幼稚園児くらいになっていたからだ。
ネギ達から少し離れたところにマイクやカメラといった機器を持った人達が大勢いる所を見るに、武道会のインタビューから逃げてきた、といったところだな。
それから視線を移し、世界樹付近を見ると、大人ネギと亜子を見つける。
「む、おかしいな? 確か向こうにもネギ君がいたはずだが?」
その後、さらにこのかと歩く子供ネギを見つける」
「これで、3人目か。一体どういうことだ? 同じ時間軸に3人のネギ君だと?」
これは後で、ネギに事情を聞く必要がある。そんな事を考えていると、「見つけたー!」というイリヤの声が聞こえ、そちらに駆けつける。
「どこだ?」
「ほら、あそこ!
「GALAXY WAR……あれか!」
確かに、GALAXY WARと書かれたアトラクションの所に、赤毛の少年がキョロキョロと立ちつくしている。
このまま、飛行船が下りるまで待っているとまた見失ってしまう可能性がある。
「仕方ないか……」
あたりに人が少ない事を確認し窓を開ける。
イリヤに「失礼」と一声かけ、お姫様抱っこをする。
私が抱えあげた事にイリヤは文句を言うが、のんびりしていて見失っては元も子もない。
「投影、開始」
シロウは少しだけ魔力の込めたナイフを人のいない方に投げる。次いでナイフを追うように放つのは氷の矢。
氷の矢がナイフに命中すると、形状を保てなくなったナイフの中の魔力が破裂し、爆竹程度の破裂音が飛行船内に響く。
「なんだ!?」
「何の音?」
「どうした!?」
乗客達が音に気を取られている隙に、イリヤを抱えた私は、窓から飛び降りた。
「ひゃぁぁぁああああああ!!!!????」
物凄い落下スピードにイリヤは叫ぶ。地面が段々と近づいてくる中、私は虚空瞬動で横に跳び落下速度を軽減し。
「
風の初級魔法を使ってうまく地面に着地した。
「大丈夫かね? イリヤ」
「……」
返事がない。やはり、いきなり飛び降りるのはまずかっただろうか?
「おもしろーい! シロウ!もう一回!」
「は?」
「だ・か・ら! 今のもう一回!」
いや、無理だろう。今のは士郎を見失わない為の行為で、アトラクションではない。
人目のことを考えると、緊急時でもない限り二度はやりたくない。
「君の目的は弟を探す事だろう? わがままを言ってないで行くぞ」
「むー、仕方ないなー」
見た目が成長してるから中身が大人かと思えば、私の知るイリヤとなんら変わらない子供っぽさを見せる。
そういえば、あのイリヤも見た目は小さかったが……
「当時の私よりも年上だったな」
そんな事を考えながら歩き出す。GALAXY WARに近づくと、すぐに士郎は見つかった。
「こら士郎! 1人でどこか行っちゃダメって言ったでしょう!!」
イリヤは左手を腰に当て、右手の人差し指をピッと立てて説教する。
こうやって見ると、イリヤもしっかりお姉さんだな。
「げっ、イリねぇ! 大丈夫だよ、俺もう14なんだから子ども扱いすんなよ」
衛宮士郎は生意気なガキだ。と、思ってしまうのは同族嫌悪というものなのだろうか?
いや、私はこんな少年時代ではなかった……と信じたい。
「14歳なんてまだまだ子供でしょ? お父様もお母様も、凄い心配して今も探してるんだから、反省しなさい!」
「うっ、ごめんなさい……っていうか、それ誰イリねぇ?」
「人に向けて指をさすな小僧」
「何だと!」
指をさす衛宮士郎に、思わず口元を歪めてしまう。
そんな睨みあう2人に、容赦ないチョップが脳天を直撃する。
「やめなさいっ」
「何をする、イリヤ/何すんだよ、イリねぇ!」
反論がそろう2人。それが腹立たしくて、2人は再度睨みあう。
「士郎、その人は士郎を探すのを手伝ってくれたんだからちゃんと御礼言いなさい。シロウも大人気ないわよ? ちゃんとあやまりなさい」
「……ありがとう……ございます。さっきは、すいませんでした」
「いや……こちらも……すまない」
イリヤの迫力に負け、2人とも渋々だが謝る。やはり「姉は強し」という事なのだろうか?
「さあ、帰るわよ士郎」
士郎の手を取り帰ろうとするイリヤだが、士郎はその場で踏ん張りGALAXY WARを指さしながらどうしてもやりたいから一度だけと駄々をこねる。
そんな士郎に溜息を吐きつつも、イリヤは一度だけといって一緒にアトラクションの列に並んだ。
衛宮士郎がどんな生活をしているのか気になったが、この楽しそうな2人を見てると大丈夫な気がする。
この世界の彼は、決して英霊エミヤなんてモノにはならないだろう。
「何してるの? 早く行こう、シロウ」
「む?」
「俺ならここにいるけど?イリねぇ」
自分の事を呼ばれたと思った士郎が首をかしげている。
しかし、今のイリヤが言ったシロウは、私に向けられたものだった。
「士郎じゃなくて、あっちのシロウに言ったの。士郎とあの人は同姓同名なのよ」
「へ~俺と同じ名前なのか。凄い偶然だな」
大して気にした風もなく、2人は私の手を引いていく。
「待て待て、何故私も行かねばならんのだ」
「えっ、こないの? せっかくここまで来たのに?」
考えもしなかった! とでも言うような表情で驚くイリヤ。
ならば、逆に聞きたい。何故、私が一緒に遊ぶと思っていたのか、と。
「いや、私の目的は君の弟を探すのを手伝う事だろう。遊ぶ理由がない」
「いいじゃない、理由なんかなくても。士郎もいいよね?」
「俺は別に構わないぞ」
おい、小僧。貴様さっきまで、私の事を嫌っていた雰囲気だったのに何故すんなり受け入れる。
男なら一決めたことは最後まで貫き通せ。
「それとも何? 貴方はレディの誘いを断るの?」
こう言われては、何も言い返すことができない。
それにもし断れば、何を言われるか……最悪、泣かれるかもしれない。
「そうだぞ、アンタ。女には優しくしろ、後が恐いからって親父が言ってたぞ」
貴様は黙っていろ、衛宮士郎。それと切嗣、貴様は子供に何を教え込んでいる。
いやまて、私も切嗣に同じ事を言われた記憶が……
「ああ、わかった降参だ。ご一緒させてもらうよ」
両手を挙げ降参のポーズをしながら仕方なく私も列に並ぶ。
しばらくすると、私達の順番になり、アトラクション用の銃を渡され乗り物に乗る。
このアトラクションは、手持ちの銃でCGの宇宙船を攻撃し撃墜するものらしい。
最初に名前を登録でき、上位入賞者は出入り口にあったモニターに名前が残るそうだ。
「私は名前そのままでいいけど、2人はどうするの?」
同じ名前だからどう登録するのか?と聞いてくるイリヤ。
別に名前がかぶっても構わないのだが、小僧に駄々をこねられても困る。
「それならば、私はアーチャーと」
「アーチャー?」
「気にするな。渾名みたいなものだ」
名前を登録し終わると、乗り物が動き出す。
「言っとくけど、アンタには絶対負けないからな」
宇宙船を撃ちながら、敵意剥き出しといった感じで言ってくる士郎。
子供ゆえなのか、コロコロと感情が変わるやつだ。
「フッ、図に乗るなよ小僧。お前如きが、私についてこれるか?」
「うるせぇ! テメェのほうこそ、ついてきやがれっ!」
私が船を撃墜しながら、挑発の意味を込めてからかうと士郎もムキになって銃を撃つ。
「ホント、2人とも子供よね」
そんな2人を、イリヤは温かく見守るのであった。
結果
1位 ARCHER PERFECT
2位 NEGI 500Pt
2位 SIROU 500Pt
4位 NORI 497Pt
「私の勝ちだな」
「くっそー!」
勝ったのは私だった。
私は全機撃墜、ノーミスのパーフェクト。
衛宮士郎は全機撃墜だが、ミスがあった為最高得点の500Pt。
「未熟者め、もっと洞察力を鍛えろ」
「くっ、まさか撃っちゃいけない機体があったなんて」
そう、このゲームには撃墜しなければならない宇宙船の他に、撃墜してはいけない味方機があるのだ。
撃ってしまったからといってポイントが下がる事はないが、パーフェクトを出す事はできなくなる。
「さあ、もういいでしょう? お父様達の所に戻るわよ」
「はーい」
イリヤは士郎の手を引いて歩き出す。どうやら、ようやく解放してもらえるようだ。
と、思ったのだが、イリヤがこちらに振り向いた。
「今日はありがとうシロウ。お礼に今度家へ招待するわ」
「……ああ、楽しみにしておくよ」
こうして、シロウは懐かしき姉と別れ、再び超の捜索を始めようとした時ポケットの携帯が鳴った。
「もしもし?」
「エミヤ、緊急事態だ」
「どうした」
「超君が僕らに対し宣戦布告を突き付け……退学届けを出してきた」
タカミチの話では、超の今までの行動と言動、武道会の最中インターネットで明らかに故意に出回った「魔法」という単語。美空とココネが見たという、対魔法先生用であろうロボの軍隊に巨大ロボ。今日出された退学届け。
これらの事により、超鈴音の目的が魔法を公にする事、そして、その後逃亡を考えていると学園長が判断したらしい。
それに伴い、魔法先生には超の目的の阻止、及び身柄の確保が命じられたと。
「やはり、こうなってしまったか」
出来ればこうなる前に超ともう一度会いたかったが……
「……ところでタカミチ。君たちの組織から抜けた私にそんなことを話してもいいのか?」
シロウの問いかけに、タカミチは笑って答えた。
そんなことは構わないと。同じ魔法先生としてではなく、一人の友人として協力を求めたいと。
「エミヤ。今の話を聞いてネギ君が飛び出していってしまったから、頼めるかい?」
「クッ、友人の頼みなら仕方あるまい。引き受けたよ。それと……感謝する」
タカミチとの電話を切り、暗くなってきた麻帆良を駆ける。
程なくして、屋根から屋根へ飛び移るネギを発見した。
タカミチから全て聞いたことを説明すると、ネギは深刻そうに口を開いた。
「シロウさん……僕、超さんと話してみようと思います」
「話してどうする」
「できる事なら説得して、話し合いで止めたいです」
「もし、超がそれでも止めない時は?」
ネギは一度黙り、覚悟を決め真剣な表情でシロウを見る。
「その時は───僕自身の手で超さんの目的を阻止します」
もしここでネギが明確な答えもなく超に挑もうとするのであれば、やはり私は1人で超を止めにいっただろう。
しかしネギは言った。自分の手で超の目的を阻止すると。自分の手で超を止めると。
ならば私はネギに力を貸し、戦いはランサーの相手だけに専念しよう。
「わかった。なら、その場に私も付き合おう。そして、できるかぎり君に力を貸そう」
「ありがとうございます」
その後、ネギは超に世界樹の麓にある空中庭園に来るようメールをした。
超を待つ間、飛行船に乗っていた時に見た複数のネギについて尋ねると「あれは、超さんに貰ったタイムマシンのせいです」と言われた。
使用者とそれに密着した同行者を時間跳躍させる科学アイテムで、駆動エネルギーには使用者の魔力が使われているらしい。
俄かに信じ難い事ではあるが、実際に同じ時間軸にネギを数人確認しているので信じるしかないだろう。
それならば、武道会終了後に超が突然消えたのも納得がいく。
「ネギ坊主、話とは何かナ……おや? エミヤ先生も一緒カ」
ネギとの話を終えたとき、丁度ローブに身を包んだ超が現れた。
「安心したまえ、今日はネギ君の付き添いだ。君とネギ君の話に口をはさむ気はないから安心したまえ」
「フム。では、その言葉を信じよう」
そう言うと、超はネギの方へ視線を移す。
「超さん……なんで急に退学届けを? そして、なんで悪い事をしようとするんですか?」
「フフ、直球ネ、ネギ坊主。魔法先生達に話しを聞いたカ?」
「タカミチを捕まえて地下に閉じ込めたり、魔法を世界にバラすなんていうのは悪い事です。僕は他の魔法先生から話しを聞いただけだから、超さん自身から話を聞くまで信じません……だから、話してください」
ネギの真剣な眼差しに、超は一度眼を閉じ口を開く。
それでも、世界に魔法を公にする考えは変わらないと。
「……さあ、それを聞いたネギ坊主はどうする?」
先ほどのシロウに似た質問。既にネギの気持ちは決まっている。
「僕は先生ですから。生徒が悪い事をするというのなら、全力で止めます!」
「それは面白い」
その瞬間、世界樹が光りだす。超は目を開け、世界樹のほうを眺めて言った。これで自分を止めるのは難しくなったと。超の言葉に、その態度に疑問を感じた。実力的にはネギの方が上であるにも関わらず、超には焦りが感じられない。それはまるで、魔法先生に囲まれた時と同じように。
「現実が一つの物語だと仮定して、君は自分が正義の味方だと思うかネ? 自分の事を悪者だと思った事は?」
それは、わからない。ネギ自身、正しい事と思って行動しているが、他の人から見ればそれは悪なのかもしれない。同様に、超は正義だと思い行動しているのだろうが、ネギや魔法先生はそれを悪だと判断している。
「世に正義も悪も無く、ただ百の正義があるだけ……とまでは言わないが。───思いを通すは……ただ、力ある者のみ」
瞬間、超の姿は消え、ネギの背後に現れる。ネギは咄嗟に瞬動でその場を離れるが、超が使ったのは瞬動ではない。本当に一瞬で、まるで瞬間移動したかのごとく一瞬で移動したのだ。
「ネギ坊主。私を止めたくば、力ずくで止めるとイイ。ネギ坊主が勝てたら、私も悪い事は止めると約束するヨ。その代わり、負けたらこちらの仲間になってもらうよ!」
返答を待たず振るわれる超の拳を、ネギはギリギリで躱し構える。
交差する拳と掌底。ネギ相手に戦いを挑むだけの事はある。古には及ばないにしろ、その洗礼された一連の動きが超が相当の実力者であることを物語っている。
しかし、魔力で身体能力を強化したネギと戦えている理由はそれだけではない。
超の着ている服からは、戦闘を開始してから常に機械の駆動音が聞こえる。何かしらの補助が行われているに違いない。
「
だが、魔法がつかえるネギの方が僅かに実力が上なのは変わらない。
ネギは捕縛専用の魔法の射手で超を捕らえ、勝利を確信するが……
「残念だたネ、ネギ坊主」
超は再び、謎の瞬間移動によりネギの背後に回りこむ。
「ちょっと痛いが、これも勝負ネ。悪く思うなナ」
超が放つ電気を帯びた拳にネギは敗北を感じその眼を強く閉じるが、いつまでもその拳は襲ってこない。
ネギがゆっくりと目を開けると、超の拳はシロウによって止められていた。
「エミヤ先生、手は出さないのでハ?」
「いやなに、お互いが納得したうえでの戦闘ならば手は出さないんだがな。今回はどうも納得のいっていないネギ君を強引に戦闘に誘導したように思えてね」
「あはは……でも、こちらも先生の対抗策は考えてあるヨ」
「!!」
敵意を感じた私は超の手を離し咄嗟に横へ飛ぶ。
すると、先ほどまで私がいた場所を真紅の槍が通り抜けた。
その深紅の魔槍の持ち主は……
「やはり君か、久しぶりだな───ランサー」
「よぉ、アーチャー。その姿、確かに面影がある。本当にテメェがあの坊主だったとはな」
若返っている私の姿を見て、大して驚いた様子も無く言うランサー。今の彼にとって、私が誰かなどどうでもいことなのだろう。
ネギのことも気にはなるが、少しでも隙を見せれば。
「オラァ!よそ見してんじゃねぇぞ!!」
「くっ!」
ランサーの槍を干将・莫耶で防ぐ。
超の瞬間移動のトリックを見破らない事には、ネギに勝ち目は無い。
だが、こちらもネギを気にかけつつ相手ができるほど甘い相手ではない。
「待てぇ!」
その時、超とネギの間に丁度現れたのは刹那と楓。
「刹那! 楓! 私はランサーの相手で手一杯だ、ネギ君を頼む!」
「はい!」
「御意!」
彼女達がいればネギは大丈夫だと判断し、全ての意識をランサーの迎撃に向ける。
「はっ、なかなか頼もしそうな嬢ちゃん達じゃねぇか」
「ふん。無駄口を叩いてると、足元をすくわれる所ではすまないぞランサー」
「ぬかせ! アーチャー」
私はランサーの槍の雨を防ぎつつも、ネギ達に被害が及ばぬよう少しずつその場を離れる。
幾度目かの槍を弾かれたランサーは、一度距離をとった。
「腑に落ちんな……ランサー、2つほど聞きたい事がある」
「あ? なんだ?」
「まず1つ。君は本気ではないな」
彼が本気だったなら、私は多少なり傷を受けているだろう。だが、今の私は無傷だ。
この世界に来ていくらか成長したかもしれないが、それだけでランサーの槍を防げると思うほどうぬぼれてはいない。
「よくわかったな。まぁ、それは俺があの嬢ちゃんに協力するっつー個人的な理由だから気にすんな」
理由は話さないが、ランサーが今手を抜いているのは超の指示と言うことか。
本気で戦わせないということは、きょう決着をつける気はないという事。やはり超はあくまで学園祭3日目にこだわるのか。
「では2つ目……何故君はアロハシャツなんだ?」
これは、彼が現れた時から思っていた疑問。
今のランサーの格好は聖杯戦争の時のような青い鎧ではなく、派手な柄のアロハシャツに黒いジーンズといったラフな格好だ。
「んなもん、祭りだからに決まってるじゃねぇか。テメェは祭りに鎧で参加するのかよ?」
ああ、そうか。つまり、理由は無いんだな
ただ単に、祭りに参加するのに鎧姿ではおかしいから着ただけだと。
そこへ、超と戦っているはずの楓がやってきた。
「どうした楓」
「事情は移動しながら話す故、着いてきて欲しいでござる」
何かあったのかとも思ったが見た限りどこも負傷はしておらず、焦りは感じたものの危機感は感じられなかった。
ということは、なにか別の要因で急いでいるという事か。
「ランサー、この勝負預けるぞ」
「ちょっ、待……!」
私はランサーの言葉を待たずに瞬動で楓の後を追い事情を聞く。
楓の話によると、超が退学する事を知った3-Aの生徒達がお別れ会を企画したらしい。それで超を上手くそこに誘導し、戦闘を回避したそうだ。
戦闘を止めたという事は超の目的はあくまで魔法を公にする事で、一般人に危害を加える気は無いという事か。それともクラスメイトだからなのか……
「超殿にも一度はこういう席が必要でござるからな」
「そうだな……」
今は敵対しているとはいえ、2年以上一緒にいたクラスだ。勝敗に限らず、今回の件が終われば超はこの学園を去る気でいるだろう。
それなら、こういった心の整理も必要だ。
「へーそういうことか。じゃあ俺も今日は止めとくわ」
「「は?」」
いきなり会話に割り込んできた男に一瞬呆けるシロウと楓。
なんと、ランサーは瞬動のスピードに走りで追いついてきたのだ。
「にしても面白い術使ってんな。こりゃ戦うのが楽しみだぜ!」
「「……」」
この様子だとランサーも今日は戦う気が無いようだ。
楓の方を見ると彼女も同意権なのか頷いた為、そのまま連れて行くことにした。
「ここでござる」
お別れ会会場である麻帆良学園の屋上に着くと、皆からのプレゼントに埋もれた超の姿があった。
「あー、遅いよ士郎先生ー!」
「先生も超になんかあげなよー」
「む?」
シロウのの事に気づいた、裕奈とまき絵がすぐさまその手を掴み他の生徒も集まってくる。
そして、シロウの後ろにいたランサーに気づいたハルナが指をさして「誰?」と首をかしげた。
さて、なんと言えばいいか・・・
「おう! 俺はエミヤの友人のセタンタってんだ。超の嬢ちゃんとも知り合いだから、俺も参加させてもらいにきたぜ」
ランサーは幼名を使って上手くその場を誤魔化す。
誤魔化せたのは何よりだが、いつから君は私の友人になったのかね?
「じゃーお兄さんも超になんかあげてよ」
「俺もかよ。しゃあねーなー」
こうしてシロウは投影したアゾット剣。ランサーは片耳のイヤリングを外し超にプレゼントすることになった。
「アイヤー、これはこれは。いい物をもらたヨ(英霊の所持物など、そうは手に入らないからネ♪)」
シロウとランサーがプレゼントを渡し終えると、親友である古から双剣のプレゼントが行われ暖かな拍手に囲まれる。
そして、超の別れの挨拶となった。
「この2年間はとても楽しかたネ。今日はちょと感動してしまたヨ……ありがとうみんな。私はここで学校を去るが……皆は元気で卒業してほしいネ」
湧き上がる歓声と拍手、そしてそれぞれが告げる別れの言葉。
超の挨拶が終わり皆で食事楽しんでいる時、まき絵が超の故郷について聞いた。
「私の故郷カ? どうしても知りたいカネ?」
「「うんうん!」」
まき絵だけでなく、他の生徒達も興味津々といった感じで集まってくる。
「実は、私は……火星から来た火星人ネ!!」
「「うぉおーぃい!!」」
「またそれか! 貴様ー!!」
超の発言に、亜子、風香、裕奈だけでなく、刹那までツッコミを入れている。
超が正直に自分の故郷を言うとは思ってなかったが、流石に火星はボケ過ぎだろう。
「なんつーか、お前面白い所で教師やってんだな」
「……まぁ、な」
クラスメイトにもみくちゃにされながら、超はネギそして私と順に視線を巡らせる。
「いやいや、火星人ウソつかないネ。今後百年で、火星は人が住める世界になる……私は未来からやってきた、ネギ坊主の子孫ネ!」
「「あはははははははは!!」」
超のネギの子孫発言に、またもみんなに笑いが起こる。どうやら、みんなは超の冗談だと思っているようだが。
「今の超の眼……」
私には冗談には思えなかった。彼女の顔は真剣だったし、ネギの子孫という話は置いておくとしてもタイムマシンがあるという事は本当に未来人の可能性がある。
いや、むしろ未来人だという方が色々とつじつまが合うし、事実私もその可能性を考えていた。
私に言った過去の改竄の話、魔法を公にするという目的、高度な科学技術。
「未来人……か」
その後、お別れ会は朝まで続きみんな疲れて寝てしまう。
ランサーはいつのまにかいなくなっていた為、起きているのは私、超、ネギ、刹那、楓、それと……夕映と千雨も起きているようだ。
「連日の徹夜で、さすがに3-Aの猛者たちもお休みのようネ」
超は屋上より一段高い屋根の上に移動する。ネギは後を追い、シロウを含む他の者はいつでも動ける状態でいる。
そんな緊迫した空気の中、ネギは先ほどの未来人の話は本当かと超に問いかけた。
「ハハハ、あまりに突飛だと、信じてくれないものネ。……私は『君達にとっての未来』『私にとっての過去』つまり、『歴史』を変える為にここへ来た。それが、本当の目的ネ」
やはり、超は未来人。
未来に起こる事件、彼女にとっては既に起きてしまった事件を変える為にこの時代に来たのだ。
「世界樹の魔力を使えば、それくらいの時間跳躍も可能ネ。そんな力が手に入ったら、ネギ坊主ならどうする? 父が死んだ10年前、村が壊滅した6年前……不幸な過去を変えてみたいと思わないカ?」
「思いません」
迷うと思った。先ほどは超の真の目的を知らないから超を止めると言っていたが、超の目的と理由の両方を知った今、ネギは超を止めることを戸惑うと思った。
だが、真実を知ったネギは迷わず否と答えた。
「シロウさんが、言ってました。「死者は蘇らない。起きた事は戻せない。そんなおかしな望みは持ってはいけない」って。昔の僕なら、迷っていたかもしれません。でも、シロウさんの過去を見て思ったんです。父さんの事や村の事があったから、今僕はここにいるんだと。だから、そんな事は望めません」
ネギの答えに対し、超は嬉しいとも悲しいとも取れるような微妙な笑顔を見せた。
「フフ、残念ネ。やはり、この時代にエミヤ先生というイレギュラーがいるという事が問題だったようだネ……」
「超さん……」
「……今日の午前中はまだ動かない。また会おう、ネギ坊主。次に会う時は───」
───敵同士ネ♪ そう言い残して、超は消えた。
麻帆良学園学園祭 三日目が始まる。
わりかし早めの更新です。
前回まで戦闘やシリアスな話が多かったので、少し日常シーンをはさみました。
そして少し出てきたランサーの兄貴。彼の本気の戦闘は次くらいで書きたいと思っています。
それではまた次回!!