正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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帰還

 

 

 

崩壊する世界。

まさか、自分の幻術が破られるとは思っていなかった、この『偽りの世界』の主は、驚いてその場へ座り込んでしまった。

 

「あなたが犯人ですね。おチビさん」

 

 

 

 

 

 

「な、なんだってー!! さっきまでの大ピンチは、全て夢!?」

 

「正確には幻覚(ハルシネーション)です」

 

夕映から先ほどまでの戦いの真実を聞いたハルナは盛大に驚き、他の者たちも驚きや納得をする。

通りでケルベロスやヒポグリフが倒しても倒しても起き上がるはずだし、それなりの怪我を負っていたこのかや夕映、のどか等の傷も実際は多少赤くなっていたり擦り傷程度の軽傷だ。

 

「こぉの、おチビー! バカガキ! フラれたばっかの憧れの人と戦わせるなんて、どーゆー神経してんのよッ!? 乙女心を弄んで! ぶん殴るくらいじゃすまないわよー!!!」

 

「ひゃうっ!?」

 

幻覚とはいえ、フラれたばかりのタカミチと戦うことになったアスナはものすごい勢いで幻覚を見せていた帽子の子供をまくし立てる。何故かその場のノリで古も一緒になって。

年上2人に迫られ帽子の子は後ずさり、その拍子に帽子が落ちて可愛い女の子の素顔が露わになった。

 

「まーまー、アスナそのへんにしとき。その子泣いとるえ?」

 

「す……すみまひぇん……ひっく」

 

「うっ」

 

さすがのアスナも、小さい女の子を泣かせえしまった為我に返る。

このかは女の子に近づき、安心させるよう頭を撫でた。

 

「驚かせてごめんな。もしよかったら、どうしてこんなことしたのかお姉ちゃんに教えてくれへんかな?」

 

「……う、うん」

 

笑顔で話すこのかに安心したのか、女の子は事情を説明し始めた。

 

「あ、あのね?パパがオコジョになっちゃうから、どうしても何かしたくて。それで・・・ご、ごめんなさい」

 

少女は ペコリ と頭を下げる。父親の為に戦おうとした小さな少女。少し怒られただけで泣いてしまうほどなのだ。怖くなかったはずが無い。

何故こんな小さな女の子が、そんなことをしなければならないのだろう?

 

記録の剣(オルナ)で見たシロウの記憶で、超がやろうとしてることは知ってる。

確かに魔法を公にすることで未来の多くの人を救えるというんなら、超のしていることは悪い事じゃないのかもしれない。

でも、その為に「現在(いま)」の時代の人達が辛い思いをするのは何か違う気がする。

超にとって護りたい“今”は“未来”でも、自分達にとって護りたい“今”は“現在”なのだから。

 

「そっか、お父さんを助けたかったんやね。……あのな、ウチらが今やろうとしていることが成功すれば、みんな助かるかもしれへんのや」

 

「お父さんも?」

 

「うん。でもな、その為にはどうしてもネギ君と会わないけないんよ」

 

このかは撫で続けていた手を一度止め、少女の目を見つめる。

 

「だから、お姉ちゃんを信じて、ここを通してくれへんかな?」

 

「……(コクリ)」

 

このかの真剣な思いか通じたのか、少女は小さく頷くと通路の奥へと走っていった。

 

「さ、みんな行くえ!」

 

「おおっ! さすがこのか!」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

みんなが気合を入れ直しいざネギを助けに向かおうとした時、千雨がそれを止めた。

 

「いいのかよ、このまま進んで! 今の一戦なんとも思わなかったのか!? 今回はたまたま怪我もしなかったし、近衛の説得で相手も引いてくれた。でも、次もそうなるとは限らねー! 私達はただの女子中学生なんだぞ? 使命や宿命を背負った物語の登場人物じゃねーんだ!」

 

メンバーの中で一番一般人に近く、今までの平穏な暮らしを望んでいる千雨が問いかけた。

これから先、怪我をするかもしれない。また辛い戦闘があるかもしれない。それでも進むのか?と。

ハルナを除くメンバーは、前にも似た問いをシロウにされたことがある。

 

《一度良く考えてくれ。こちらの世界に足を踏み入れるのかどうかを》

 

アスナとここにはいない刹那の2人は、自身の決意や答えをシロウに述べた。その思いは今も変わらない。

けれど、他のメンバーは明確な何か(・・)を出したわけではない。

だが、それぞれがよく考え、悩んだ末、この場にいる。

そして、千雨の問いに一番に答えを出したのは普段あまり自己主張をしないのどかだった。

 

「すごく怖いけど。今私達が何とかしないと、もう二度とネギ先生と会えなくなっちゃうから」

 

ただ、ネギに会いたい。それは幼稚な答えなのかもしれない。

けれど、のどかにとっては大切な、一番の理由。

 

「それは、命を懸けるほどのことなのか!? そんな覚悟ができてんのかよ!? いや、覚悟をする意味があるのか!? こう言っちゃなんだが、あのガキと私らの関係は、ただの先生と生徒……」

 

「確かに命を懸ける程かどうかなんて、私にはわかんない。でも、ネギ1人じゃ何にもできないから、私達が助けてあげなきゃでしょ?」

 

尚も自身の考えを述べる千雨の言葉を、アスナが遮る。それに続くように、このかも口を開いた。

 

「千雨ちゃんも、あんま難しく考えん方がええよ? みんなが動いてる理由なんて、誰かに会いたい。誰かを助けたい。っていう単純な理由なんやから」

 

離れてみてはじめて強く会いたいと思った。もう会えないと思った時は、何も考えらないほど頭が真っ白になった。これが恋心なのか? と聞かれても「はい」と答えられるかはわからない。けれど、会いたい。

もう一度、シロウに会いたい。このかはそう思ったのだ。

 

「いつかは、ちゃんと覚悟せなあかんと思う。けど、覚悟ってのがどういう事かわからない今は、自分の気持ちに従うのが一番だと思うんよ」

 

このかの言葉にみんなが頷く。その姿を見て、千雨も溜息と共に決心……もとい諦めた。

 

「……まぁ、私も世界があんな謎の魔獣が闊歩するファンタジーワールドになるのはごめんだから」

 

千雨が照れ隠し&自分を納得させる為にブツブツ呟いているうちに、このか達は通路の奥へと進む。

 

「って、コラ待てよテメーら!私も一緒に行くって!」

 

1人残された千雨は、急いでこのか達を追いかけていった。

 

 

少女の進んでいった道を追い通路を進むと、明るい光が見えてくる。まるで地上に出たかのような明るさに思わず目を細め、だいぶ目が慣れてきて視界がよくなると人影が見えてきた。

現れた人影は、先ほどの少女と少女の父である弐集院先生。そして……自分たちの元担任、タカミチ。

一歩前へ出たタカミチに、皆は即座に構える。その姿を見たタカミチは、小さく笑い口を開いた。

 

「行きなさい、アスナ君」

 

「へ……」

 

タカミチの発言に、皆気が抜けてしまう。

 

「立場上協力はできないけど……10分ほど居眠りをしちゃうなんてことは、僕でもあるかもな。寝てないし」

 

「あ……ありがとうございます!」

 

皆呆けていたが、タカミチが自分たちを見逃してくれると理解した瞬間アスナは頭を下げ、他のみんなも笑顔でお礼を言ってタカミチの横を通り過ぎる。

アスナが通り過ぎようとした時、タカミチはその手をアスナの頭の上に置いて一言「がんばって」と言った。

アスナは一度振り返ってタカミチの背中を見つめ、先に進んだハルナ達の後を追う。

そんなアスナの姿に安心し、みんなと同じようにお礼を言って先へ進もうとしたこのかを、タカミチは呼び止めた。

 

「このか君」

 

「はい?」

 

「エミヤの事を頼んでいいかな?」

 

「しろうを?」

 

どういうことだろう? 確かにこのかはできる限りシロウの力になろうとは思っている。

けれど、このか1人ににできることなどたかが知れているだろう。

 

「彼を独りで戦わせないでほしいんだ。たぶん、独りで戦えば彼はまた自らが犠牲になるような手段をとるだろうからね」

 

戦場で積んだ経験による勘、とでも言うのだろうか。タカミチは、ランサーの槍がただの槍ではないことに気づいていた。

そして、そんなランサー相手にシロウがどうやって相打ちに持ち込んだのかを。

 

「でも、君ならそんな無茶をする彼を止められる気がするんだ」

 

「……うん。ウチがんばってみます。ほな」

 

一度頭を下げてアスナの後を追う。できる限り、頑張ってみよう。そう、決意して。

 

「なかなか頼もしい子達だね」

 

「……ええ」

 

自分たちにとっての過去、少女達にとっての現在の行く末を子供に託すことに不甲斐なさを感じながらも。彼女達なら、と期待し見送る魔法先生達であった。

 

 

 

 

 

 

「このか。高畑先生と何話してたの?」

 

皆に追いつくと、先ほどの事が気になったのかアスナが話しかけてきた。

 

「うん。しろうを独りで戦わせないでくれ、って」

 

「士郎を? なんか士郎と高畑先生って仲いいわよね」

 

言われてみれば、そうかもしれない。学園でも2人が話しているのはよく見かけるし、今日は特に心配していた。

そう言えば学園祭をシロウと見回った時、おかしなことがあったことを思い出す。

しかし、そんな思考は前を走るハルナの声でかき消されてしまった。

 

「見てあれ!」

 

何かと思い見てみると、向こうからネギ君が走ってきていた。

 

「ネギ!」

 

「アスナさん! みんな!」

 

ネギとの再会に、みんながネギに絡む。

抱きつき。小突き.。振り回す……振り回す!? ちょっとやり過ぎな気もするが、無事会えてよかった。

 

「そ、そうだ! みんな大丈夫だったんですか!? 怪我とかは!?」

 

「大丈夫、大丈夫。色々あったけど、ピンピンしてるよ」

 

「修学旅行の時ほどではないアルよー」

 

特に怪我はしていないとはいえ、危険な目にあわせた事に変わりはない。

責任を感じたネギは、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「すいません。また僕のせいで皆さんに迷惑を……痛っ!?」

 

謝るネギを、アスナは軽く叩いた。

 

「またそんな言い方して頑固バカ。今回の事はあんただけの問題じゃないでしょ。それと……あんたは私達のマスターで、仲間なんでしょ?」

 

アスナの言葉にネギははっとする。気がつけば、みんながネギのことを見つめている。

その視線に気づいたネギは、力強く返事をした。

場が収まったところで、千雨とカモが現状のカシオペアが今使えないことや、世界樹のことを説明する。

世界樹の魔力で起動するカシオペアは、現在使えない。しかし、世界樹の根の中心部には、まだ魔力が残っている可能性があること。

 

「このまま。世界樹の深部へと潜る。準備はいいか?」

 

「「おおー!」」

 

千雨の声に気合を入れ直し、ネギ達は更に地下へと進んだ。ネギが幽閉されていた場所よりさらに深く下りていくと、通路にはちらほら世界樹の根が見え出してきた。

 

「見て! 世界樹の根が光ってる!」

 

「おお! 兄貴、カシオペアは!?」

 

カシオペアを確認すると、先ほどまで止まっていた秒針が カチッ カチッ と動き出していた。

 

「動いてる! 使えるよ!」

 

「よしゃあああ! これで、学園祭最終日に戻れるぜ!」

 

学園祭最終日に戻れると分かって、みんなは大喜び。これで、とりあえず一安心。

 

「後は、刹那姉さんと楓姉さんを待つだけだぜ。兄貴、刹那姉さんに連絡を」

 

「うん」

 

ネギがパクティオーカードで連絡を取ろうとした時、世界樹の根の光が スッ と消えていった。

 

「世界樹の光が……消えていく!?」

 

「マズイ! 魔力が消えてってんだ!! あの光を追わねぇと!」

 

消えていく光の後を追うのだが、このか達が後ろの方で立ち止まってついてこない。

 

「みなさん、どうしたんで……すか?」

 

ネギが声をかけると、通路の脇道から ヌウッ と巨大な生物が顔を出した。

ごつごつとした体に、凶悪な牙。腕の代わりある大きな翼。その姿は、まさしく……

 

「ドドド、ドラゴン!!!」

 

ネギには、そのドラゴンに見覚えがあった。前にナギの手がかりを探しに図書館の地下深くに潜ろうとした際、行く手を阻んだドラゴンである。

 

「み、みんな逃げてください!」

 

ネギの掛け声であたふたとしながらも世界樹の最深部へと向かって逃げる。ネギは杖に、のどか、千雨、ハルナを乗せ。夕映をアスナが、このかを古が抱えて走る。

 

「グルルゥ……」

 

深部へと進むにつれ通路が狭くなり、体の大きいドラゴンは、つっかえて進行速度が遅くなる。

このままでは逃げられると思ったのか、ドラゴンの口から煙が出始める。

 

「まずい、兄貴! あのドラゴン火を噴く気だ!」

 

ネギは杖を止め、障壁で炎に備えるが、その時このかの持つ『全てを救う正義の味方(エミヤ)』が一瞬光った。

 

「グ……グルゥ……」

 

するとドラゴンの動きが止まり、僅かだが怯えだす。まるで、竜殺し(・・・)の武器でも向けられたかのように。

 

「よくわかんねぇけど、チャンスだぜ兄貴。今のうちに刹那の姉さんを」

 

「うん」

 

ネギはカードを取り出し、念話を送る。

ネギが呪文を唱えると、魔方陣が現れそこに刹那が召喚された。

 

「ネギ先生、ご無事で!」

 

「刹那さん、おつかれさまです! それで、あの、いきなりなんですが、アレ倒せますか?」

 

ネギが指を刺す方向にいるのは、静かに唸り声を上げるドラゴン。

真剣な表情でネギの指差す方向を睨んだ刹那だが、ドラゴンを見た瞬間目を丸くした。

 

「せ、西洋竜ですかー。結構強そうですね。士郎先生なら倒せるでしょうが、専門の装備があっても未熟な私にはちょっと……」

 

退魔を専門とする神鳴流剣士の刹那でも、さすがに難しいようだ。そうと決まれば話は早い。

 

「じゃあ逃げましょう!」

 

ドラゴンの動きが鈍っているうちにと、みんなはまた全力で走り出した。

 

「せっちゃん!」

 

「お嬢様! ご無事でしたか」

 

「うん、しろうの刀が護ってくれたし、刀のおかげで、ウチも少しは戦えたんよ」

 

「そうですか。士郎先生の刀が……」

 

息を切らしながらも、元気そうなこのか。その姿を見て、刹那は ほっ とする。

別れ際のこのかの様子が心配だったが、元気になった様で安心した。

 

「……!」

 

ふと、前を走る古と目が合う。すると「約束は守たアル」とでも言うかのように、古が親指を グッ と立てた。

なので、刹那も感謝を込めて頷き返す。

 

だんだんと、木の根に宿る光に追いついてきた。通路を抜け、広い空間へとでる。

するとそこには、巨大遺跡の様で、中心の祭壇の様な場所には世界樹の残りの魔力が集まっている。

祭壇はおそらく魔力を集める装置になっているのだろう。

ネギ達が祭壇へたどり着いた時、丁度ドラゴンも通路を抜ける。

広い場所に出て翼を広げた姿は、通路で見たときより数倍その体を大きく見せた。

 

「兄貴、カシオペアは?」

 

「大丈夫、いけるよ」

 

再び、カシオペアの秒針が動き出す。

 

「よし、兄貴やっちまえ」

 

「楓さんがまだだよ!」

 

「もうダメッ。無理、行こう!」

 

翼を広げ飛んでこちらへと向かってくるドラゴンにあせり、ハルナがネギを急かすが、まだ楓がきていない。

ドラゴンとの距離はおよそ50メートル。数秒もしないうちに、ここまで来るだろう。

やむを得ず、ネギがカシオペアを起動させようとした瞬間。

 

「拙者ならここに!」

 

額に汗を光らせた楓が到着した。

 

「みんなそろった。オールOK! 行こう!」

 

「みんな手をつないで! 絶対離しちゃダメよっ」

 

みんなは、しっかりと手をつなぐ。

ドラゴンは、その大きな口を開けて近づいてくる。

 

「みんな掴まってください! 行きます!」

 

カシオペアのスイッチを押した瞬間、空間に歪みが生じる。

間一髪。ドラゴンの牙がネギを捉える前に、ネギ達は時空を超えた。

 

「「わぁぁぁぁあああ」」

 

まるで、突風に煽られているかのような衝撃を受けること数秒。爆竹のような音と共に、衝撃が消えた。

 

「ぷあっ……どうなった! 成功したのか!?」

 

「ぐっ……」

 

「ネギ君、大丈夫!?」

 

このかは隣にいるネギの様子がおかしい事に気づく。大量の汗を掻き、とても辛そうな表情をしている。

だが、そう思ったのもつかの間、自分達のおかれている状況に驚愕した。

すぐ近くを飛ぶ飛行船に、この浮遊感。ここは、麻帆良の遥か上空なのだ。

 

「ななな、何で空の上なのーっ!?」

 

「知るかー!」

 

「落ちるー!」

 

「しししし、死んじゃう!」

 

これはさすがに不味い。ネギの様子を見る限り魔法でなんとかするのは難しそうだし、このかの完全治癒魔法も即死では意味がないし1人限定である。この状況に、刹那は翼をだそうと考えるが、それでも救えて2、3人と言ったところだろう。

全員が焦る中、呆れ交じりのある男の声が耳に届く。

 

「まったく、君達は何をしているんだ?」

 

そんな聞き覚えのある男の声と共に、体がふわりと軽くなり、ネギ達はゆっくりと地面に着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界樹の枝の上。そこに、一つの人影があった。

黒いシャツにズボン。浅黒い肌に白い髪。エミヤシロウである。

 

「今のところは以上無しか」

 

超が宣言したのは午後。裏を掻いてくる可能性も考えて警戒していたが、どうやら心配ないようだ。

ということは、宣言通り午後からが勝負ということか。

 

「……む?」

 

強い魔力と歪みを感じ空を見上げると、突如このか達が現れ、あたふたとしながら落下している。

何であんな所に現れたのかは知らないが、あれは助けた方がいいのだろうな。

 

「手間をかけさせる。投影(トレース)開始(オン)

 

シロウにしては珍しく日本弓を投影して枝を蹴り、虚空瞬動で落下地点へ先回り。

思ったよりも余裕があったので、一言呆れて出た言葉を吐いてから弦を引いた。

 

「まったく、君達は何をしているんだ? ───体は剣で出来ている(カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテ・イル) 風よ(ウエンテ)

 

弦を放つと同時に放たれた初級の風の魔法は弓の力によって増幅され、落下するこのか達の勢いを殺し、ゆっくりと地面に下ろす。

シロウが持っている弓の名は、『梓弓』。主に呪術や魔術的な儀式に使用される弓である。

本来は梓巫女と呼ばれる巫女達がトランス状態になる為に使用されるが、武器の効果としては、使用者の呪術、魔術の効果を増幅する力がある。

 

「どういうことか説明してくれるかね……どうしたみんな?」

 

何故こんなことになったのか理解できず訊ねてみたのだが、みんな周りをキョロキョロとして、どこか挙動不審である。

 

「士郎先生がいるって事は……」

 

「戻っ……た?」

 

「せ、成功だー!!」

 

みんなが一斉に喜びだした。いや、だから何なのだ?

 

「一体全体どうし……?」

 

その時、急にこのかが抱きついてきた。しかも、泣きながら。

 

「ど、どうしたこのか?」

 

「よかった、また会えて」

 

また会えて? 何を言っているのだろう? このか達と別れてから、さほど時間はたっていない。

別荘の中では2日ほど経っているかもしれないが、泣くほどの事ではないだろう。

その時、ふとこのかの首にかかるペンダントが目に入った。

 

「ちょっと待ってこのか」

 

このかの首から下げられタペンダントを手で取る。この輝く赤い宝石は、まさしく凛のペンダント。

しかし、なぜこのペンダントがここにもある? 自分のペンダントは、肌身離さず持っている。

この世界のものかとも思ったが、傷の位置残留する魔力などシロウの持つもとを全く同一である。

 

「このか、どうしてこのペンダントを持っているんだ」

 

「あ、それはやね……」

 

「ネギ先生!!」

 

「ネギ!?」

 

このかが涙を拭いて質問に答えようとした時、ネギがその場に倒れた。

シロウは慌てるアスナ達手で制し、すぐさまネギに駆け寄り容態を確認する。

 

これは、過剰な魔力の使用による疲労と、魔力の枯渇による眩暈だな。

外傷も見当たらないし、しばらく休めば回復するだろう。

 

「どこか、落ち着いて休ませる事ができる場所はあるか? とりあえず、そこで事情を聞かせてもらおう」

 

「は、はい! 図書室なら学園祭中は誰も使わないので、大丈夫だと思います」

 

図書室の鍵を持っているのどかを先頭に、ネギを抱えて移動した。

図書室へ到着すると、とりあえずネギをソファーに寝かせ、みんなに事情を聞いた。

超の罠にはまり、一週間後の未来に飛ばされたこと。

その未来では、シロウはランサーと刺し違えて消滅こと。

世界に魔法の存在が公になり、魔法先生や魔法生徒達が大変なことになっていること。

 

「それで、消えたしろうがこの剣を残していったんよ」

 

このかは、記録の剣(オルナ)を差し出す。

未来の私がオルナを残したということは、対策を立てれば何とかできるということか。

オルナをつかんだ瞬間、未来で起こった出来事が頭の中に入ってくる。

 

「……なるほど、何があったかは概ね理解した。カモ、ネギ君が回復するまでには、どれくらいかかる?」

 

「そうだな、兄貴なら半日も寝てりゃ回復するぜ」

 

半日、超が動き出すであろう時間にはギリギリ間に合わない。

となれば、最悪の場合も考えてネギ抜きでの作戦を考えなければならないということだ。

 

「では、午後までに対策を考えるぞ」

 

「「おおー!」」

 

まずは、剣の記録と、ネギが未来のタカミチから聞いた情報を確認する。

超が動き出したのは昼過ぎ。午後7時までの間に、2500体のロボと、6体の巨大生物兵器(スクナモドキ)で6箇所の「魔力溜まり」を占拠。直径3kmの巨大魔法陣を作り、全世界に対する「強制認識魔法」を発動させる。

 

「ここまでで重要なことは2つ。1つは、6箇所の魔力溜まりのどれか1つを死守すること。2つ目は、2500体ものロボを、どう相手するかだ」

 

「旦那の魔法で、何とかなりませんかねぇ?」

 

「それは無理だ。ロボの相手だけならば可能だろうが、私の魔術では一般人に被害が出てしまう。それに、おそらくはランサーがそんな暇を与えてはくれないだろう」

 

「そうっすか」

 

私が基点の1つを守ればスクナモドキに占拠させはしないが、ランサーがそれを許さないだろう。

となれば、戦闘力の高い刹那や楓に任せるという事になるが、刹那達が守りに入ってしまえば超と真名+2500対の対処が難しくなる。

(ロボ)を抑えれば(スクナ)に押し切られる。かといって、力《スクナ》を押さえれば、(ロボ)に押し切られる。

その他にも魔法を発動させない為に術者を潰すという方法もある。

おそらく、彼女達の中で一番戦闘に向いていない聡美がその役割を担っているだろうが、超と真名がそれをさせないだろう。

うまい手だ、どれを選んでもこちらが敗北する。せめて、もう少し協力者がいれば状況は変わるのだが……

 

「僕に……いい考えがあります」

 

「ネギ君?」

 

寝ていたネギが起き上がり、作戦を説明し始めた。

まず、簡単な呪文を唱えるだけで魔力弾の放てる魔法具を大量に準備する。

そして、毎年行われる学際最終日のイベントを利用して、一般生徒達に準備した魔法具でロボ達と戦ってもらうという作戦だ。

確かに、この作戦ならば、数という超達の武器を1つ封じたことになる。

 

「確かに、大胆な作戦ですね」

 

「ふむ。それは超殿も予想外でござろうな。だが、可能なんでござるか?」

 

「それは大丈夫です。今年も大会の主催者は雪広コンツェルンですから」

 

雪広コンツェルン……なるほど、あやかの父親が主催者ということか。

だが、このやり方には相応のリスクもある。

 

「シロウさん」

 

「何だ?」

 

ネギが真剣な眼差しでこちらを見つめている。が、何が言いたいのかは、大体予想がつく。

 

「軽蔑しますか? 一般人を巻き込んだり、いいんちょさんを利用する僕を」

 

そう。ネギのやろうとしていることは、自分に好意を抱いてくれているあやかを利用し、一般人を騙して駒として使おうとしている。

その事実だけを見れば、決してほめられたものではない。

 

「私だったらそんな手は使わないだろうな。学園長に頼んで学園祭を中止してもらい、一般人の非難が完了した時点で基点となる場所ごとロボ共を殲滅し一掃する」

 

この方法ならば、おそらく被害は建物だけで怪我人は一切出ないだろう。これが私のやり方。

ネギのような方法はとらない。……いや、私にはネギのような方法はとれないといった方が正しいか。

 

シロウの言葉にネギは唇を噛み、自分の立てた作戦を嫌悪する。

しかし、そんなネギを見るシロウの目は、とてもやさしいものだった。

 

「だが……君の作戦は、現状でできる最善の策だ。君らしい、いい作戦だといえる」

 

「……え」

 

「確かに私の方法の方が怪我人は少なくて済むだろう。だが、それは人の命を数でしか見ていないやり方だ。それに比べて君のやり方は来場者に不安や恐怖を与えることなく、且つ効率のいい作戦。人々の心を重んじている。私には決してできない方法だ。だから君は自分の選択を誇っていい。後は仲間を信じてしっかりと休め」

 

シロウの言葉でいくらか心が軽くなったのか、ネギはからは目を閉じてすぐに寝息が聞こえてきた。

その寝顔に小さく笑みをこぼし、気持ちを切り替えてアスナ達の方へ向く。

 

「よし。では、皆分担して取り組むぞ。アスナと古はあやかの所へ。ハルナ、のどか、夕映は大会の告知。楓は和美を捕まえて協力させろ、渋ったら私の名前を出せ。千雨はネット関係の対処。そして、私とこのかと刹那は学園長に事情を説明しに行く」

 

「うっ、いいんちょね……了解」「任せるアル」

 

「OK」「はい~」「わかりました」

 

「御意」

 

「ま、しかたないからやりますよ」

 

「うん!」「はい」

 

「それぞれの役割が終了し次第、戦える者は戦闘の準備、戦えない者はここでネギ君の様子を見ていてくれ。解散!」

 

 

こうして、2度目の学園祭最終日が始まった。

 

 

 

 

 

 

 




だいぶ間が空いてしまいまして申し訳ありません。中々落ち着いて書く暇がなく、今後も不定期に続きが更新されると思いますが、気長に待っていただけるとありがたいです。

てなわけで、戻ってきました学園祭最終日。
今度こそ超の野望を阻止することはできるのか!

それではまた次回!!
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