正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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開戦

「なんと……これは本当かね?」

 

私達から報告書を受け取った学園長は、声色こそ冷静だがその表情は驚きを隠せないでいる。

 

「全て事実だ。現に、このかと刹那は未来光景を見てきたのだからな」

 

「信じて、おじいちゃん」

 

学園長は隣に控えていた刀を持った女性教諭、葛葉刀子に意見を求める。

本心はこのかや刹那の言葉を信じているのだろうが、学園長という立場上冷静に判断をしなければならない故だろう。

 

「にわかには信じられませんが、お嬢様と刹那がこうまで言うのですから事実なのでしょう」

 

刀子教諭もこのか達の話を信じてくれたようだ。

このかをお嬢様と呼び、刹那のことも呼び捨てにしている。彼女は京都の近衛家……いや、神鳴流に関係があるのだろう。

 

「ふむ。報告は分かったぞい。後はワシらに任せて君達はしばらく休みなさい」

 

やさしい学園長のことだ、このか達だけでなく他の生徒達にも戦闘は避けさせ、大人だけで解決しようと考えているのだろう。

できれば私もそうしたいと考えている。だが、今回ばかりはそうもいかない。

 

「それでは駄目だな」

 

「む? 駄目とはどういうことかのう、エミヤ君?」

 

「魔法先生だけで手が回らないのは、すでに未来で証明されている。必ずしも同じ結果になるとまでは言わんが、はっきりと言おう。貴方たちは超を甘く見すぎだ。あのタカミチでさえ敗北したんだ。かなりの確立でこちらが負けることは目に見えている」

 

「ふむ……」

 

タカミチの敗北という言葉に、学園長の表情は険しくなる。未来の話を信じてはいるが、おそらくタカミチガ敗北する姿が想像できないのであろう。それ故に迷う。

そして数分の沈黙を破るように、カモが口を開いた。

 

「それなら、兄貴がバッチリ対策を練ってるぜ。ついては、これを用意してもらいてぇ」

 

カモはどこからかメモを取り出し、学園長へ渡した。メモに書かれた内容を見て、難しい顔をする学園長。

やはり、一般人でも魔力弾を放つことができる特殊なアイテムはそう簡単には集まらないのかと心配になる。

だが、その心配は杞憂に終わった。

 

「フフ……こっちにも独自の情報ルートがあってね。本国のクラウナダ異界国境魔法騎士団の、第17倉庫に大量に死蔵されているはずだぜ? 転移魔法で空輸すれば、夕方までには間に合うはずだ。アンタに、その程度の交渉を本国とできる力があることも承知している。これを、最低1000セット……できたら2500セット頼むぜ」

 

カモの言葉を肯定するかのように学園長の額には汗が浮かび始る。

本当にどこでそんな情報を手に入れたのか。こういうことに関しては、呆れを通り越して関心すら覚えるよ。

完璧に悪者キャラと化したカモに、刹那とこのかも目が点状態である。哀れなり学園長。

 

「……うむ。何とかしてみよう。まずは、魔法先生達を緊急召集せんとのぅ」

 

「すまんな学園長。その召集だが、私は参加できん」

 

「ほ? 何故じゃ?」

 

シロウのことも戦力に入れていたのだろう学園長は、間の抜けたような声を出す。

そんな学園長に申し訳ないと思いながらも、事前に用意しておいた辞表をだし、シロウは頭を下げた。

 

「どういう事か、説明してもらえるかのぅ」

 

「タカミチかガンドルフィーニ教諭から何か聞いていないのか?」

 

シロウがそういうと、学園長も後ろに控える刀子も思い当たる節があったのか反応を見せる。

その姿についつい苦笑いをしてしまう。

 

「というわけだ。出来る限り協力はするが、単独行動は大目に見てくれ」

 

「……うむぅ」

 

「では、色々と準備があるので我々は失礼する」

 

話を終え、私達は学園長室を後にした。

廊下をしばらく歩いたところで、カモがアスナ達の所へと向いそのタイミングでこのかは口を開く。

 

「しろう、ランサーのこと……」

 

このかはランサーの件について何を説明しなかった私を心配しているようだ。

しかし、ただでさえ超の事で手いっぱいの学園側に更なる問題を持ち込むわけにはいかないだろう。

 

「彼の相手は私がするさ。なに、こうなることはわかっていた。やりようはあるさ」

 

学園を出ると、心配そうなこのかを刹那に任せ私は世界樹へと向かう。

現在は昼過ぎ、超が動く夕方までには数時間の猶予があるが、学園祭最終日の全体イベントを利用する作戦だ。超に気づかれている可能性は十分ある。いや、告知をしているのだから、知られていない方がおかしいだろう。

となれば、こちらの裏をかいて未来で起こった時刻より計画の開始時間を早める可能性がある。

その為、麻帆良全体を見渡すことのできる世界樹の枝の上は絶好の監視場所と言えよう。

 

「ふっ」

 

足を強化して、トントンッ と、世界樹の枝から枝へと登っていく。

丁度、麻帆良全体を見渡せる高さまできた時、このかから念話が入ったのでカードを額に当てる。

 

(しろう、今どこにおるん?)

 

「世界樹の枝の上だが、どうした?」

 

念話で話しながら、私は視力を強化してこのかを探す。

 

(ちょっと話したいことがあるんやけど、ええ?)

 

見つけた。

わざわざ刹那と分かれて戻ってきたということは、何か大事な話なのか。

この場所ならば何か起こればすぐわかる。多少の雑談くらいなら構わないだろう。

 

「わかった。とりあえず、世界樹に向かって歩いてきてくれ」

 

(了解や~)

 

念話を終え、私は世界樹を下り始める……やれやれ、登ったばかりだというのに。

もともと世界樹の近くにいたこのかは、私が下りる頃には、世界樹前の広場にまで来ていた。

 

「このか」

 

「あ、しろう」

 

呼び声に気づいたこのかが、てとてと と歩いてくる。

学園祭最終日ということもあってか、世界樹前の広場には人が多い。これでは、落ち着いて話などできそうもない。

 

「落ち着いて話せる場所に移動しようか」

 

「そうやね。でも、そんなとこあるん? ここに来るまで、どこも混んでたえ?」

 

「あるさ、上にな」

 

私が上を指差すと、このかが釣られて上を向いた。

 

 

 

 

「ひゃー、すごいなー」

 

世界樹の枝の上から見る景色に、感嘆の声を上げるこのか。

人がいないからという理由でつれてきたが、これほど喜んでくれたのなら良かった。

 

「ふふっ」

 

その時、このかが唐突に笑った。

 

「む、何かおかしかったかね?」

 

「ううん。なんか修学旅行の時の事、思い出しちゃって」

 

修学旅行……ああ、確かあの時も私が外を警戒し屋根にいる時、話がしたくてこのかがやってきたんだったか。

そうか。あれから、まだ数ヶ月しか経っていないのか。色々な事があったから、かなり前の事の様に思える。

 

「それに、しろうと2人っきりになるの久しぶりやなーって」

 

ふむ。言われてみればそうか。

修学旅行後からエヴァに魔法を習い始めたり、悪魔とアサシンが現れたり。平行世界の凛達にも会ったか……そして、学園祭が始まった。

 

「そうだな。君と仮契約(パクティオー)したあの日から、結構ドタバタしていたからな」

 

「……うん」

 

小さな返事が気になりこのかの方を見ると顔が赤い。

ふむ。仮契約(キス)の事を思い出させてしまうのは、少しデリカシーにかけていたか。

そう思い、私は話題をそらすことにする。

 

「そうだ。私に何か話があるのではなかったか?」

 

「あっ、そや!」

 

顔の赤みを残しつつ、このかは ポンッ と手を打つ。

自分の首からペンダントを外し、私に差し出してきた。

 

「これ、しろうに返しとこ思って」

 

このかの手のひらの上で、赤く光るペンダント。本来なら存在しえない物。

かつて、衛宮士郎という男が命の恩人の物だからと生涯持ち続け、英霊エミヤとして召喚された為、世界に1つしかない宝石が2つになった。だが、その2つの宝石も1つはエミヤと共に平行世界へと送られる。

そして、送られてきた世界で、宝石はまた2つとなった。

 

「ソレは、このかが持っていてくれ」

 

衛宮士郎(エミヤシロウ)はこの宝石で救われた。

それは命だけではない。多くの戦場を駆けた時も、精神的な支えとして救ってくれた。

ならば、御守り程度にはなるだろう。

 

「ええの?」

 

「ああ。たいして魔力が篭っているわけではないが、御守り代わりにな」

 

「ありがとう」

 

このかはペンダントを再び首に掛ける。

このかの話したかった事とは、ペンダントの事だけなのだろうか。それなら、わざわざ引き返してまで来ることはないと思うのだが。

 

「このか。話というのは、ペンダントの事だったのか?」

 

「ううん。ペンダントもやけど、しろうのアーティファクトの事でちょっと」

 

「アーティファクト?」

 

疑問に思いながらも、このかの話を聞いた。

私が消滅した未来で、このかがピンチの時に『全てを救う正義の味方(エミヤ)』がこのかを護り。

このかが『全てを救う正義の味方(エミヤ)』を手にした状態で魔法を使うと威力が上がり。ドラゴンに向けると、ドラゴンが怯えだしたらしい。

 

「それって、しろうの刀の能力なん?」

 

「いや。私自身どれほどまで能力を付加できるかは試していないので分からないが……」

 

魔法の威力を上げる程度の能力なら付加できるだろうが、

自らの意思で動いたり、ましてや竜殺しのような付加能力を付けられるものなのか?

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

その時、私とこのかのパクティオーカードが光だす。

眩しさに目を瞑り、再び目を開くと、そこには鮮やかな世界が広がっていた。見渡す限りの花畑。

そして、私とこのかの立っている場所には、一本の大きな櫻の木が花を咲かせ、その根元に『全てを救う正義の味方』によく似た刀が突き立っていた。

 

「なんだ……ここは……」

 

見た事もない景色なのにどこか暖かく、懐かしい気持ちになる。

私はこの世界を知らないが知っている。そう、この感じはまるで───。

 

「固有結界……なのか」

 

「しろう。これって、しろうの刀とちゃう?」

 

『全てを救う正義の味方』によく似た刀を指差し、このかが言う。

確かによく似ている。見た目もさることながら、解析できないという点も。

 

「いや……似てはいるが微妙に違う」

 

「?」

 

全てを救う正義の味方(エミヤ)』は、莫耶のように刀身が薄く濁っていて鍔はなく、柄には赤い布が巻かれ、柄頭から垂れているのに対し。櫻の根元に刺さる刀の刀身は鏡のように輝き、鍔はなく、柄には赤紫の布が巻かれている。もちろん、布は柄頭から垂れてなどいない。

 

「ホントや。微妙にちゃうわ」

 

このかが刀に触れようと、手を伸ばすと。

 

「ひゃっ!?」

 

「またか」

 

光と共に先ほどの世界が消える。私達は元の世界樹の枝の上に戻っていた。

 

「あ、戻ったわ」

 

あれは何だったのだろうか? 今までの『全てを救う正義の味方』の使い方が頭に流れ込んでくるのとは違う。

それに、今回はこのかも一緒だった。

 

「……(『全てを救う正義の味方(エミヤ)』よ、貴様はいったい何なのだ)」

 

「なぁしろう。あっちの方、なんか騒がしくない?」

 

「何?」

 

このかに言われ『全てを救う正義の味方』の事を考えるのを中断する。

時が来れば、また『全てを救う正義の味方』自身が見せるだろう。

 

視力を強化して、このかの指差した方向を見る。

 

「動き出したか」

 

見えたのは、海の中から現れるロボの軍団。どうやら、思いのほか時間が経っていたらしい。

 

「このか。カードでネギ君に連絡を取れるか?」

 

動き出したと言うことは、あらゆる連絡手段が妨害されているだろうが、一応確認する。

 

「……ダメや、通じひん」

 

ネギの方に連絡を入れておきたかったがしかたあるまい。この騒ぎなら誰かしら気づいてネギを起こすはず。

このかを1人残すわけにもいかないし、ランサーが現れるまでは私はここから矢でロボの迎撃に専念するとしよう。

 

「すまんな、このか。しばらくはここからロボを迎撃する。退屈かもしれんが我慢してくれ」

 

「うん。別にええよ」

 

体は剣で出来ている(カラダ・ハ・ツルギ・デ・デキテ・イル) 魔法の射手(サギタ・マギカ) 闇の11矢(セリエス・オブスクーリー)

 

呪文を呟くと、11本の闇属性の魔法の()が背後に停滞する。

弓を投影し、見るものを惹き付ける流れるような動作で矢を放っていく。放たれた闇の矢は吸い込まれるようにロボの額に命中し、次々とその活動を停止させていった。

現在、シロウの出せる矢の最高本数は11本。矢が無くなるとすぐに新たな魔法の射手(サギタ・マギカ)を待機させる。

魔法の射手(サギタ・マギカ)3本分くらいで、宝具ではない剣1本と同じくらいの魔力を消費する。

そして、投影と違いわざわざ破棄せずとも命中すれば霧散するので投影剣よりも効率がいい。

 

「む~。しろうの矢、当たってるん?」

 

ここから浜辺までは、かなり離れている。

このかは私が矢を放っている方向を、眉間にしわを寄せながら一生懸命見ているようだが見えないらしい。

 

「ああ。麻帆良の学生達も、次々とロボを迎撃している。今回の件が終わったら、エヴァに魔力による身体強化を習うといい。そうすれば、君も視力を強化したり出来るようになるだろう」

 

「うん、そうするわ」

 

倒しても倒しても、一向に減っている気配が無いロボ軍団。イベントに参加している麻帆良の生徒達も、だんだんと広場へと後退させられる。

 

「……不味いな。魔法先生達はまだか」

 

矢で援護はしているが、6箇所全てを同時に援護する事など出来るはずも無く、苦戦を強いられる。

その時、鳴り響いた轟音。

 

「来たか」

 

イベントのヒーローユニットとして現れた、アスナと刹那がロボを破壊していく。

見れば他の箇所でも魔法先生 生徒達がイベントの演出という事で、制限無く魔法を使いロボの迎撃を開始していた。

 

「む?」

 

魔法先生、生徒達が動き始め、こちらが優勢になったのも束の間、海から巨大ロボ(スクナモドキ)が現れる。

スクナモドキも他のロボ同様ビームを発するが、これも服や装備が弾かれるだけで殺傷能力はゼロの様だ。事前に情報があった為か、スクナモドキにいち早く反応した魔法先生達が連携してスクナモドキの動きを止める。

 

「超に操られいくらか霊格が落ちているとはいえ、あの鬼神をこうも簡単に抑えるとはな」

 

そして、タカミチの豪殺・居合い拳がスクナモドキの腕を吹き飛ばし、腹に大穴を明ける。

頭部の機械を破壊すれば超の支配からとかれスクナモドキは手に負えなくなるが、あれならばスクナモドキの自由を奪えるだろう。刹那とアスナも一緒にいたし、あちら側は心配ない。

他のスクナモドキの方へ目を向けるが、どこも概ね魔法先生達が抑えている。

が、1箇所だけ魔力溜まりへと突き進むスクナモドキがいた。

 

「やはり手が足りなかったか……あれは!」

 

スクナモドキの進む先。

殆どの生徒達が撤退した中、魔力溜まりのポイントである広場に見覚えのある3人の子供が取り残されていた。

 

「鐘達が何故あんな所に!」

 

そこにいたのは、前に幼稚園の前でであった仲良し3人組の氷室鐘、蒔寺楓、三枝由紀香だった。

鐘達は3人ともローブを着ていることからイベントに参加していた事が分かる。由紀香が座り込んでいる所を見るに、おそらくは由紀香が転んでしまい逃げ遅れてしまったのだろう。

 

I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)

 

私は、即座に弓を引く。

 

 ───偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!

 

空を切り裂く音速の矢は、一瞬にしてスクナモドキを捉え。

上半身と下半身を2つに断つと、魔力となって霧散する。

 

「このか、すまんが一緒に来てくれ。怪我人だ」

 

「う、うんっ!」

 

私はこのかを抱え、瞬動で鐘達のいる広場へと向かった。

屋根から屋根へと渡り、ものの数十秒で困惑している鐘達の元へ辿り着く。

 

「鐘、楓、由紀香!」

 

「士郎さん!?」

 

「レッドの兄ちゃん!?」

 

「正義のお兄さん!?」

 

広場につくと目に涙を溜めた3人が抱き着いてきたので受け止め無事な姿を確認する。

由紀香は転んだ時に足を擦り剥いてしまったみたいだが、これくらいなら平気だろう。

 

「このか、頼めるか」

 

「うん、まかして」

 

このかはポケットから練習用の杖を取り出し、呪文を唱える。

 

「プラクテ・ビギ・ナル 汝が為にユピテル王の恩寵あれ 治療(クーラ)

 

すると、怪我をした由紀香の足が淡い光に包まれ、傷が癒えた。

 

「すごーい! 怪我が治った!」

 

「すげー!」

 

「なんと!」

 

このかが怪我を治した事ではしゃぐ子供達。

京都の一件で魔法の存在を知ってから数ヶ月。軽い怪我ならアーティファクトがなくても治癒することができる。このかも随分と成長したものだ。

 

怪我が治り、泣き止んだ由紀香は、このかの服の裾を くいくいっ と引き、期待の眼差しを向ける。

みれば、鐘や楓も同じ期待に満ちた目をしている。

 

「お姉さんも正義の味方なの?」

 

その問いに困った顔を見せたこのかはこちらを見て何か思いついたのか、突然立ち上がりポーズをとった。

 

「お姉ちゃんはなー、正義の魔法使いなんよ!」

 

「「正義の魔法使い!!」」

 

このかの答えに、子供達は目をキラキラと輝かせる。

このかが何を思ってそう答えたのかはわからない。もしかすると私を気遣っての答えなのかもしれない。

だが、まさか正義の魔法使いとは。いや、実にこのからしい。

 

「ここら辺は危ないから、3人ともここから少しいった所にある、避難所にいったほうがいいえ」

 

「「はーい」」

 

「レッドの兄ちゃん!今度また遊んでくれよー!!」

 

「その時は、魔法使いのお姉さんも一緒にねー!」

 

「色々と、ありがとうございました」

 

妙に聞き分けが良く返事をした3人は ぶんぶん と手を振りながら去っていった。

3人の姿が見えなくなるまでその背を見送っていたその時。

 

「!?」

 

私達のいる広場が光りだす。

後ろを振り返れば、さっき胴から真っ二つにしたはずのスクナモドキが腕だけで這ってポイントへと到達してしまっていた。

 

「まだ動けたか!」

 

足を失ったからと油断していた。

生物兵器……生物だから、あれほどのダメージを受ければ動けまいと判断したのが甘かった。

超の作った科学装置による制御で、生物というよりは任務を遂行する為だけの機械に近かったというわけか。

 

「しろう、あれ見て!」

 

このかの声に振り向くと、魔法先生達が抑えていたはずのスクナモドキ達がポイントへ向かいゆっくりと動き始めている。

そして、かすかに聞こえる銃声や剣戟音。

 

「超や真名達が動き出したか!」

 

不味い。予想よりも早く動く事は推測していたが、それにしても早すぎる。

刹那やアスナが心配だが、向こうにはタカミチがいる。ならば、ランサーが現れる前に、ネギを起こしに行く方がいいだろう。

 

「このか、予定より早いがネギ君を起こしにいくぞ」

 

「うん!」

 

私はこのかを抱えると、足を強化した状態でさらに瞬動を使う。

多少肉体に負荷がかかるが、今はそんな事を言っている場合ではない。

このかに投影した外套を被せながら、シロウは図書室へと駆ける。

イベントに参加している生徒達の人ごみを避ける為、屋根の上を瞬動で移動していたのだが、屋根の上にもロボ達が現れ始め、止むを得ず走りに変える。

 

「瞬動は途中で方向転換ができないのが難点だなっ!」

 

新たに現れ始めた、銃を持ったロボの弾丸をギリギリでかわす。

 

「!!」

 

避けた弾丸が石に当たり、直径2m程の黒い球体となって石を飲み込んだ。

私の記録には無いが、アレがネギが未来のタカミチから聞いた特殊弾というヤツか。

石が消えたという事は、おそらく転移系の魔法弾。一撃でも食らえばアウトだな。

 

「しろう、どうしたん?」

 

動きを止めたのを不審に思ったこのかが外套から顔を出す。

 

「ロボ達がネギ君の言っていた特殊弾を使い始めた。スピードは落ちるが、ここからは慎重にいく」

 

言いながら、私は梓弓を投影しこのかに差し出す。

 

「このか。魔法の射手(サギタ・マギカ)を撃つ時はこれを使え。矢1本でもロボの動きを止められる程度には威力が上がる」

 

「うん」

 

シロウは投影した干将・莫耶を、このかは梓弓を構える。

 

「ふっ!」

 

魔法の射手(サギタ・マギカ) 光の1矢(ウナ・ルークス)!」

 

シロウとこのかは、ロボを倒しながら着々と進んでいく。

しかし、一般生徒達はロボの特殊弾に当たり、次々と脱落していった。

 

「フハハハハハ!! 苦戦しているようネ、魔法使いの諸君!」

 

その時、麻帆良全体に響いた超の声。

空を見上げれば、巨大な立体映像(ホログラム)の超がいた。

 

「私がこの火星ロボ軍団の首領にして、悪のラスボス 超 鈴音 ネ。流石は麻帆良の生徒諸君、やられても復活可能というルールは君達には優しすぎたようね。そこで、新ルールを用意したヨ」

 

何故超が。この目で確認したわけではないが、超はタカミチ達と戦っているのではなかったのか?

脳裏に最悪のパターンが浮かび上がる。

超が無事という事は、タカミチが敗北。スクナモドキ達の動きを見る限り、ヒーローユニットのアスナ達や魔法先生達もやられた可能性が高い。

 

超は例の特殊弾を掲げ、新ルールを説明する。

特殊弾に当たると即失格。特殊部屋に強制連行され、ゲーム終了まで眠る事になる。

 

「ちなみに、君達の頼みの綱のヒーローユニットは既に私の部下がほぼ始末した。君達の力で、我が火星ロボ軍団の進行を止められるカナ? 諸君の健闘を祈ろう」

 

ヒーローユニットがやられたという事実に、生徒達にざわめきが起こる。

上手い手だ。ヒーローユニットの出現で上がっていた参加者達の士気をヒーローユニットを排除する事で下げさせる。これは、ますます厳しい戦いになる。

 

「さあ! ついに現れました、悪の大ボス超鈴音!!」

 

「この声……和美か!」

 

超に対抗するかのごとく、マイク片手に和美が参加者を煽る。

 

「超鈴音はゲーム中、エリア内のどこかに潜んでいます。発見した方には、ボーナスポイント+特別報奨金をプレゼント! 尚、これには一般の方もご参加できます!」

 

和美の機転により、士気の下がっていた生徒達はやる気を取り戻す。

やはり、和美を協力させたのは正解だった。武道会の時もそうだったが、彼女はイベントの司会などが妙に上手い。

生徒達が活発に行動し始めた為か、ロボ達も数が減っていき行動しやすくなる。

 

「よし、今のうちだ。一気に行くぞ、このか」

 

「了解や」

 

ロボを倒しながら進み、超包子の路面電車屋台が止まる開けた場所に出る。

すると、屋台の中にいるネギを発見した。

 

「……」

 

ネギの目が覚めた。それは喜ばしい事だが、彼らは何故屋台の中にいる?

ここからでは会話を聞き取る事はできないが、まるで何者かから隠れているような……。

 

「あ、ネギ君達や。ネギく……むぐっ!?」

 

「まて、このか。様子がおかしい」

 

ネギを呼びながら出て行こうとするこのかを止め、物陰に隠れる。

辺りに敵の姿が見えないのに屋台の中に隠れているという事は、おそらく狙撃手に狙われている。

私はネギ達を狙撃するのに最も適した場所を探す。

 

「……あれか」

 

ネギ達の居場所から1km地点に狙撃手を発見。高い建物の屋根の上には、黒いローブを身に纏う真名の姿があった。

私が真名の姿を捉えた瞬間、彼女は特殊弾を撃ち超包子の屋台ごとネギ達を黒い球体に包み込んだ。

 

「しまった!」

 

黒い球体は段々と小さくなっていき、屋台を完全に消し去った。

隣の屋台にいた楓とハルナは無事だったようだが、ネギ達は完全に跳ばされた(・・・・・)

これで、こちらの状況が不利になったかと思われたが。

 

「あ、ネギ君無事や!」

 

特殊弾によって巻き起こった煙の中から、無傷のネギ達が現れた。

ネギの手には懐中時計型航時機(かいちゅうどけいがたタイムマシン)カシオペアがある。

なるほど、極短距離の時間跳躍で特殊弾をかわしたというわけか。

 

「ここは、拙者が……龍宮真名は、拙者が引き受ける。いけ、ネギ坊主」

 

「いや。ここは、私に任せてもらおうか」

 

1人で足止めしようとする楓を止める。いくら楓が忍者とはいえ、真名相手に一発もくらわず1kmの距離を縮めるのは至難の技だろう。

 

「「シロウさん!!/士郎殿!!」」

 

「ウチもいるえ~」

 

私の後ろから、このかも顔を出す。

 

「このかさんも、無事でよかったです」

 

「それよりも、ネギ君。ここは、私に任せて先に行け」

 

「で、でも……」

 

戸惑うネギ。時間跳躍弾を使う真名にカシオペアのない私が対応できるか心配しているようだ。

そんなネギに、私は不敵に笑う。

 

「遠距離戦は私の得意分野だ。それに、君は超を止めるのだろう?」

 

「……わかりました。ここはお願いします!」

 

一瞬迷ったネギだが、超の事は自分が止めなければと思い。この場をシロウに任せて、先へ進む事を決意しその場を去った。

現在、この場に残っているのはシロウとこのか。そして……

 

「何故、君まで残っているのかね? 楓」

 

私に付いてきていたこのかはまだわかる。だが、楓が残った理由が分からない。

まさか、気づいている(・・・・・・)とは思えないが……

 

「んー、士郎殿1人では多少キツイかと思ったでござるよ」

 

「私はアーチャーだぞ? 遠距離戦で遅れをとる事は無い」

 

「真名1人ならば、拙者も残りはせなんだが……もう1人いるとあっては」

 

やはり、楓は気づいていた。この場所に来てから、私に向けて放たれる闘気。

これは、間違いなくランサーのもの。

 

「気づいていたのか」

 

「拙者、幼少の頃より山で育った故。そういうのには敏感なんでござるよ」

 

ランサーは2対1になる様な闘い方はしないだろうが、真名は容赦なく隙を突いてくるだろう。

いくら私でもランサーの相手をしながら真名ほどの狙撃手(スナイパー)の弾丸をかわすのは難しい。

ならば、真名は楓に任せた方がいいか。

 

「わかった。だが、いくら君でも、真名の弾丸を避けながら近づくのは容易ではないだろう?」

 

私は話しながら弓と矢を投影する。

投影した矢は骨子を歪ませ、(パワー)よりも速さ(スピード)に特化させた『赤原猟犬(フルンディング)』。魔力を少なめにし、威力もできる限り抑える。

 

「楓、真名の所まで何秒でいける?」

 

「んー、この距離ならば3秒ほどかと」

 

真名の銃は先ほど見た限りボトルアクション。空の薬莢を出し狙いをつけて次弾を発射するまでに真名なら1,5秒かかるかかからないかといったところだろう。

ならば、一度目の弾さえなんとかすれば、後は楓が到達できる。

 

「魔力を溜める。30秒防いでくれ」

 

「うむ」

 

言うと同時に楓はクナイを投げ、真名の弾丸を空中で止める。

それが数度繰り返され、ようやく魔力が溜まった

 

「準備完了……私が矢を放つと同時に行け」

 

「御意」

 

狙うのは、真名の構えるライフルの銃口。

私は弓を引き、楓は両脚に気を巡らせ力を込める。

 

「行け!『赤原猟犬(フルンディング)』!!」

 

縮地无彊(しゅくちむきょう)

 

私の放ったフルンディングを追う様に、楓は超長距離瞬動で跳ぶ。

 

 

 

 

 

 

音速で飛ぶ矢。

シロウが矢を放つ瞬間、真名は引金を引いた。

弾丸はシロウの放った矢に当たり、転移させるはずだったのだが……

 

「!?」

 

転移でさせることがきず、矢がこちらへ向かってくる。

驚くことに弾が矢に当たり、黒い球体が矢を飲み込む前に矢は通過してしまったのだ。

真名の銃はボルトアクション。次弾の装填までに一瞬の隙ができる。

だが、その一瞬で勝負はついた。

1kmの距離を一瞬で零にした矢は、真名のライフルを射抜いた。

 

「くっ! 流石は士郎さん。アーチャーのクラスは伊達じゃないなっ!」

 

毒づいてはいるが、そんな事をしている暇はない。

なぜなら、すぐそこまで楓が迫っているからだ。

このまま、接近されては拙いと判断した真名は、転移魔法符で楓の背後へと転移する。

 

「転移魔法符でござるか!!」

 

至近距離で放たれた弾丸を、楓は空中で体を捻ることによって避けた。

 

「一枚80万円と高価だが、お前になら惜しくない」

 

「それは……光栄でござるな」

 

楓と真名はお互い笑い、クナイと銃が交差した。

 

 

 

 

 

 

「楓ちゃん、大丈夫?」

 

見えないこのかは、心配そうに聞いてくる。

 

「ああ。彼女なら、見事に真名を抑えてくれるだろう」

 

楓が真名と対峙する所は確認した。

では、私も私の戦いに専念するとしよう。

 

「なぁ、ランサーよ」

 

「気づいてやがったかよ、アーチャー」

 

よく言う。自分から闘気を放ち、私を誘っていたというのに。

 

「一応あのお嬢ちゃんが、戦う場所が用意してくれたんでな。ついてきな、アーチャー」

 

ランサーは背を向け移動し始める。

戦闘が始まれば、このかに危険が及ぶ可能性がある。ならば、このかはとはここで分かれた方がいいだろう。

 

「このか、ランサーとの戦闘は危険だから、君は避難所にでも「ダメっ!」……む」

 

このかの安全を考えて言ったのだが、力強く否定されてしまった。

 

「1人やったら、しろうは必ず無茶するやろ? ウチは、それを止める為に付いてく」

 

口を結んで、少し怒った様に言うこのか。これでは、何を言っても意見を変えなさそうだ。

 

「いや、しかしだな……」

 

「しろうは、どうしてもっと自分を大切にしないん?」

 

先程とは、うって変わって暗い表情になるこのか。その言葉に、私はひどく動揺してしまった。

生前も、凛に言われた事があった。

 

《士郎。アンタはもっと、自分を大事にしなさい》

 

自分を大切にしろ、か。

だが、私が刺し違えてでもランサーを倒さねば、麻帆良に住む大切な人たちを守る事ができない。

 

「しろうは、残された人の気持ちを全然分かってへん」

 

残された人の、気持ち?

 

「ウチは、エヴァちゃんの手紙でしろうが死んだって知って、(オルナ)でその瞬間を見て、何も考えられなくなるくらい悲しかった」

 

「……」

 

このかの叫びに、私は何一つ反論する事ができない。いや、してはいけないのだと思う。

このかの言っている事は、私にとって足りない……とても大切なものだと思うから。

 

「だからしろう。お願いやから、自分が死んでもなんて考えないで。絶対勝つって約束して」

 

「フッ……駄目だな私は」

 

このかを泣かせてしまった。

京都で刹那に「心も護らなければならない」等と偉そうに説教をしておきながら、私自身それができていなかった。

 

皆の為に。

このかの為に。

そして、自分自身の為に。

私は戦いに勝利し、必ず生き残ろう。

 

「誓おう。私は必ずランサーに勝つ。主よ(マスター)、まだまだ未熟な従者だが、力を貸してもらえるか?」

 

「うんっ! もちろんや!」

 

このかは、目尻に浮かんだ涙を拭いながら微笑んでくれた。

 

「……俺はアーチャー1人だろうが、嬢ちゃんとの2人だろうがどーでもいいんだけどよ? 意気込んで案内しようとした、俺の立場はどうなんのよ?」

 

私が付いてこないので、戻ってきたのか。いつの間にか隣に立っていたランサーが愚痴をこぼした。

 

「いたのか、ランサー」

 

「気づかへんかった」

 

「ああそうかよ……まぁ、今度は付いてきてくれよ?」

 

再び案内を始めるランサーの背中は、先程とは違い哀愁が漂っていた。

 

 

 

 




お久しぶりです。一応不定期ですがまだ更新する意思はありますよ?
さてさて、始まりました学園祭3日目。最終決戦開幕です。
次週はみなさんお待ちかね、ランサーとの因縁の対決に決着がつきます!

それではまた次回!!
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