「着いたぜ」
ランサーが連れてきた場所は、我がクラスの桜子、美砂、円、亜子の4人が「でこぴんロケット」というバンド名で演奏をした世界樹前のライブ会場。
人避けの結界が張ってあるのか、辺りは無人である。
「1つ聞くが、ランサー。アレは何だ?」
四方に浮遊する小型の機械。
見た感じ、偵察目的に使用されるものだろう。
「ああ、ありゃ俺達の戦いを中継するもんらしいぜ? ったく、見せもんじゃねぇってのによ」
口で言うほど、ランサーは関心がないようだ。
にしても、魔法の存在を公にする為に私達の戦いも利用するか。まったく、侮れないやつだな、超鈴音。
「んじゃ、始めますかねぇ!」
ランサーは、虚空から
それに応えるように私も干将・莫耶を投影し腕を下げる。
「はぁぁあっ!」
「ふっ!」
激突する双剣と槍が火花を散らし、嵐のような攻防戦が始まった。
シロウがランサーと戦闘を始め、ネギも上空4000mで超と戦闘を始めた。
その頃、地上の生徒達は、皆モニターに夢中になっていた。
「いよいよ、ラストバトルが始まりました! 遥か上空4000mで戦うのは、悪のラスボス超鈴音と子供先生ネギ・スプリングフィールド!」
「頑張れー、子供先生!」
「負けるな、ネギ君ー!!」
和美の進行のもと、イベントはどんどん盛り上がっていく。
「そして、世界樹前のライブ会場で戦うのは、今イベントの隠しキャラと言っても過言ではありません。謎の青き槍兵、ランサーVS我らが麻帆良のジャスティス、エミヤシロウ!!」
「いけー! ジャスティスー!!」
「頑張れ、衛宮せんせー!!」
「今回のイベントは,
この2つの戦いに勝利できなければ私達の負けとなってしまいます! 皆さん、張り切って応援いたしましょう!! 尚、危険ですので戦場には絶対に近寄らず、モニターから観戦をしてください!」
たくさんの生徒達や一般参加者の中に紛れ、シロウが今まで出会った人達も戦いの様子を見ていた。
「素晴らしい動きですわ、シェロ」
ランサーの猛攻を、全て受けきるシロウに賞賛を送るルヴィア。
そして、ルヴィアのいる位置から少し離れた場所にいる子供連れの家族。
「葵、凛、桜。見なさい、シロウ君が戦っている」
「あら、ほんと」
「アイツ、あんなに強かったんだ」
「シロウさん、かっこいい」
時臣達は、皆モニターに夢中である。
もともとは学園祭を家族で楽しむ為に来ていたのだが、色々と事件が起きている事に時臣だけは気づき、エヴァから大体の事情を聞いていた。
「……(頑張ってくれ、子供先生にシロウ君。我ら魔法使いの未来は、君達に懸かっている)」
「はっ!」
振り下ろされる莫耶が、ランサーの首を狙う。
「おぉっと!」
それを、ランサーは槍で受け止めると同時に弾き即座にこちらの胸目掛けて突きを出す。それを薄皮一枚で躱し、弾かれた莫耶を再度投影しつつ干将をランサーの腕目掛けて振り上げる。
だが、それもランサーは体を逸らすことで躱し、鞭のような蹴りがシロウをステージの壁まで吹き飛ばした。
ここまで、なんとかランサーに隙を与えずにきたが、ここにきて最大の隙を与えてしまった。
「終わりだぜ、アーチャー」
ゲイ・ボルクに周囲の魔力が収束する。
『
『
不可。
アイアスの盾では、因果の逆転までは覆せない。
『
却下。
逆光剣では、相打ちという結果しか生み出せない。
この戦いは相打ちではなく、勝たなければならない。
───ならば。
「
手には銀色に輝く剣が握られる。
この剣はおそらく私の保有する宝具の中で、唯一ゲイ・ボルクの呪いに対抗できる可能性を持つ宝具。
『
因果を逆転させる紅い槍に対抗すべく投影したモノ。
それは、因果の呪いすらも凌駕する幸運。
『
駆ける紅い軌跡と走る白い軌跡。
2つの軌跡は交差し、互いを打つ。
「がっ!?」
「ぐっ!」
クラウ・ソラスを受けたランサーは左腕が完全に消滅し、その場に膝をつく。
だが、その眼光は怒りに燃えシロウの方を睨み付ける。
「アーチャー……貴様、俺の
「ぐっ……ケルト神話縁の君に、相応しい剣だろう?」
精一杯の強がりで皮肉を言うが、心臓を逸れたとはいえゲイ・ボルクは右肺を貫いた。
だが、なぜ心臓へ必中必殺のゲイボルクを躱すことができたのか。
これぞ、『
ケルト神話に登場するダーナ神族の王、銀の腕のヌアザの所有する剣で、鞘から放たれれば相手は抵抗する事すら出来ずに二分される不敗の剣であると伝えられる。
一説では所持者に幸運をもたらすとされ、”幸運をもたらす者”と呼ばれる事もあるという。
それにより、シロウの
だが、喜ぶのはまだ早い。
ゲイ・ボルクによる即死を回避できたとはいえ、お互い片腕が使い物にならない。
これで勝負は五分。いや、残りの魔力量を考えれば圧倒的にシロウが不利だろう。
「……やれやれ、これはどうしたものか」
目の前で起こった信じられない光景に、僅かながら焦りを覚える。
世界からのバックアップなのか、消滅したはずのランサーの左腕が再生していく。
「悪りぃなアーチャー。俺も一対一の戦いに水を差されるのは納得いかねぇが……まぁ、お互い理不尽な戦いは慣れっこだろ? 英雄ってのは、いつも理不尽な命令で死ぬもんだ」
ランサーはめんどくさそうに、けれど感慨深げに言った。
「クッ、確かに。君の言う通り、理不尽な戦いは多かった。それは同感だが……」
「
今までシロウとランサーの戦いを見ているだけだったこのかが、アーティファクトを出した。
「生前、私は誰かの命令で戦ったわけではないし、今の私に死ぬ気は毛頭ない」
このかが手に持った扇子を振るうと、魔力に包まれ肩の傷がいえる。
ゲイ・ボルクの呪いが強力とはいえ、あまりに強力で一日一回という使用制限がつくほどの完全治癒魔法。
その力はゲイ・ボルクの呪いを消し去り、完全に傷を癒した。
「俺のゲイ・ボルクの呪いを消すほどの治癒術師とは。テメェは、つくづくマスターに恵まれてやがる」
「そうだな。そのことだけに関して言えば、私はサーヴァントの中で最も幸運なサーヴァントだろうよ」
凛もこのかも、私などにはすぎたマスターだ。
彼女たちのおかげで、凡俗なこの身でも英雄たちと渡り合うことができる。
さて、ランサーに超再生能力があると分かった以上、それを上回るダメージを与えなければならない。
だが、ランサー程の使い手に確実に殺せる一撃を与えるのは難しい。
「できれば、使いたくなかったのだがな。───
私が右手を上げると同時に投影された剣が、四方の小型偵察機を破壊する。
「なんのつもりだ、アーチャー」
「なに。これから使う
魔法という単語にランサーは眉をピクリと動かしたが、気にせず私は空を見上げ、この戦いを見ているであろう人物に声をかける。
「というわけだ。エヴァ、ここら一帯に結界を張ってくれないか?」
「なんだ、気づいていたのか。つまらん」
「ケケケケケケケ」
すると、箒に乗ったエヴァと背中の羽で飛ぶチャチャゼロが現れた。
「まあいい。見物料代わりだ、それくらいならしてやる」
エヴァが指を鳴らすと、周囲が結界に包まれる。
「一応強力なやつを張っておいたが、貴様のアレには耐え切れんから気をつけろ」
「わかった」
私が返事をすると、エヴァは再び飛び上がり空からこちらを見物する。
「このか、君の
「うん。契約執行 このかの従者 エミヤシロウ」
呪文と共にこのかから膨大な魔力が流れ込んでくる。
流れ込んでくる魔力を全て『
そして、私はカラドボルグを投影した。
「何をするつもりだ、アーチャー」
「それは、見てのお楽しみだよ。───
呪文と共にカラドボルグは音を立てて球状へと圧縮され。
「
そして、その球体を握りつぶすと同時に体内へと吸収する。
その瞬間。私の体からは魔力が溢れ、電気が放電され周囲の地面を抉る。
術式兵装。
『
「おいおい、何の冗談だこりゃあ……」
流石のランサーも、驚きを隠せずにいる。それは当然だ。
本来武器である宝具を取り込むなど不可能。仮にできたとしても、肉体が宝具の神秘に耐えられるはずがない。それはシロウとて例外ではない。
故にシロウは『全て遠き理想郷』を起動させ肉体を修復し続けることによってそのリスクを相殺している。
シロウ自身の魔力だけでは、万全の状態であっても長くて20秒が限度というところだろう。
これは、シロウの宝具を投影できるという特性。
体内の『
そして、このかによる魔力供給の3つが揃って、初めてできる戦い方である。
「いくぞ、ランサー」
「!!」
瞬間、シロウの姿がランサーの視界から消え、背後から衝撃が訪れる。
「がぁっ!?」
見れば、いつの間にかシロウに回り込んでランサーに拳を当てていた。
その速さは、正に雷速。サーヴァント中最速といわれるランサーが反応できなかった。
「俺が反応できないほどのスピードだと!?」
次いで気がつけば、シロウはランサー目の前にいて剣を振りかぶっている。
「うぉぉおおおお!!」
常人離れした反応速度で何とか剣を防ぐが、力もろくに乗ってない出鱈目な防御では防ぎきれるわけもなく、ランサーは吹き飛ばされ観客席へと突っ込む。
シロウが使っている剣は、何の変哲もない普通の剣。
別荘で修行した際、宝具を取り込んだ状態でCランク以上の宝具を投影するとあまりの神秘に誘爆してしまう事が判明した。
つまり、普段愛用している干将・莫耶を始め、殆どの宝具は闇の魔法発動時に使えない。
しかし、使用している武器に取り込んだ宝具による付加効果(『硬イ稲妻』の場合は硬質化と雷の属性)を付加する事ができる。
「へっ……やるじゃねぇか、アーチャー。まさか、俺達の世界にはない
瓦礫の中から、ボロボロのランサーが愉しげに起き上がる。
その時、魔力溜まりとなっていた6つの基点から光の柱が立つ。
「どうやら、嬢ちゃんと坊主の戦いも
「いいだろう」
ランサーの体から青い魔力が溢れ出し、それに応えるようにシロウの体からも大量の電気が放電される。
「聖杯戦争じゃ魔力の関係で使えなかったが、俺のとっておきを見せてやるよ」
言うや否や、ランサーは空に文字を刻む。
ランサーの四肢に魔力が集まった事から、ルーン魔術による身体強化だということが分かる。
次いで地面にもルーンを刻む。それは見覚えがあった。
───
その陣を布いた戦士に敗走は許されず、その陣を見た戦士に退却は許されない。
赤枝の騎士に伝わる一騎打ちの大禁戒。
つまり、彼のすべてを掻けた一撃がくるという事。
「
呪文と共に左右に5本ずつ、合計10本の剣を空中で待機させる。
2列に並んだ雷を纏う剣は呼応しあい、まるでレールの様に道を作る。
「その心臓───貰い受ける!!」
ランサーは空高く跳躍。否、飛翔する。
それは、『突き穿つ死翔の槍』を放つ時よりさらに高い。
「───
更に投影したのはアーサー王伝説に出てくる円卓の騎士の1人、トリスタンが使ったとされる弓。
『
トリスタンはこの弓を使って寸分の狂いなく狙った場所を射たと言われる必中の弓。
しかし、それはあくまでトリスタンの腕によるもので『
これから使おうとする魔法には、普通の弓では耐え切れないうえ、反動が強すぎてシロウですら多少の誤差を生んでしまう。
故に、シロウはその後差を埋める為、そして全力で次の一撃を放つ為に『無駄無しの弓』を投影した。
『
空中で体勢を変えたランサーは、あろう事かゲイ・ボルクの柄の端に足をかけ、大きく体を仰け反らせた。
伝承によれば、クー・フーリンはゲイ・ボルクを足で投擲したといわれている。それはその神話の再現。
『
シロウの放電はさらに激しくなり、剣で出来たレールもそれに呼応して激しく輝きだす。
『────
『────
闇の魔法で取り込んだカラドボルグの術式を解放し
固い稲妻の名を持つ魔剣の力を再現したその魔法は、全てを貫く稲妻と化す。
真名開放と共に蹴り出される紅い魔槍と、電撃のレールより射出される雷の剣。激突する紅い流星と白い稲妻。
初めこそ拮抗していた紅と白だが、『
「見事な一撃だったよ。クー・フーリン」
ボロボロになったライブ会場の観客席に横たわるランサー。その四肢は、高温で焼かれたように爛れ、動けるような状態ではなかった。
それでも、意識を失っていないのは流石としか言いようが無い。
「……ハッ、俺の負けかよ」
負けたというのに、ランサーはどこか清々しい笑顔を浮かべている。
最後の一撃は本当に凄まじい一撃だった。
私が勝てたのは、このかという
「……ちっ、本当に世界ってヤツはウゼェな。俺は敗北を認めたってのに」
アレほどまでボロボロになったというのに、ランサーの体は回復を始めている。
もっとも、ダメージが大きかったせいか、回復のスピードは微々たるものだ。
「そう言うなランサー。英雄というのは、いつも理不尽な命令に従うものだろう?」
私が先ほど言われた言葉に似せて皮肉を言うと、ランサーは重傷とは思えないほど盛大に笑った。
「ハッ、違ぇねぇ。……おい、エミヤ。どうせ最後になるんだ、テメェに俺の知る情報を教えておいてやるぜ」
回復しきっていない体では話すのもキツイだろうに、ランサーは語りだす。
今現在、私がいる世界。
ずっと平行世界だと思っていた世界は、実は平行異世界というものらしい。
「平行……異世界?」
「ああ」
平行異世界。聞いた事が無いな。
異世界というぐらいだから、普通の平行世界とは違うのだろうが……。
「平行異世界。それは、数々の平行世界の歪が重なり合い生まれた元が同じだけの完全に独立した世界だ」
平行異世界。
平行世界の歪が重なり合って出来た独立世界。
平行異世界には
では、何故アサシンやランサーが現れたのか。それは、
故に、エミヤの抹消は、エミヤに縁のある者しか行えない。何の繋がりも無い者を異世界へなど送り込めないからだ。
「そういうことだったのか……」
アサシンから「答えを得たエミヤ」が必要の無いアラヤが私を抹消しようとしているのは聞いていた。
だが、何故第五次聖杯戦争のサーヴァントであるアサシンが現れたのかが疑問だったが、これでようやく納得がいった。
「気をつけろよエミヤ。お前がこの世界にいればいるほど霊長の抑止力とこの世界の繋がりは強くなっていく」
時間が経つにつれ、元の世界とこの世界の繋がりが強くなっている。故に、最初は亡霊に近い架空の英霊である佐々木小次郎が送られたが、今回は英霊であるクー・フーリンが送られてきている。
ランサーの話では、そのうちクラスに縛られていない状態で第五次聖杯戦争のサーヴァントが送られてくる可能性もあるらしい。
「ま、そんなところだ。……さてと。んじゃ、そろそろかねぇ」
完治はしていないが、手足を動かせる程度には回復したランサーがよろよろと立ち上がる。
私はいつでも『
アサシンとの戦闘で知ったのだが、『全てを救う正義の味方』には世界との繋がりを断ち切る力がある。
その為には相手もそれを望まなければならないわけだが、敗北を認めた今のランサーならば、解放してやる事が出来るだろう。
しかし。私が『全てを救う正義の味方』を使うことはなかった。何故なら。
「ごふっ……!」
「ランサー、何故」
ランサーは自身が暴走する前に、自らの心臓にゲイ・ボルクを突き刺していた。
「そこまで面倒かけられるかよ。……誇れよ
その言葉を切欠にランサーの体は崩壊を始める。自らの心臓を貫いて尚、光の御子は倒れることはない。
「ああ、忘れてたぜ……ふん!」
「ぐっ……!?」
ランサーは何を思ったのか、突然私の顔を殴りつけた。
そして私を殴った方の拳をしっかり握り、天を仰いで無邪気に笑う。
「
死に体で尚折れることなく直立するその光景は、伝説に伝えられるクー・フーリンの最後と同じ、真の英雄に相応しい最後だった。
「しろう、勝ったん?」
少しはなれた所にいたこのかが、よろよろとやってきた。
慣れない魔力供給をした為か、顔には疲労の色が見える。
「ああ、君のおかげだ。感謝する」
「よかっ……た」
このかが倒れそうになる所を、間一髪で抱きとめる。
「すー……すー……」
規則的に聞こえる寝息。
少し心配だったが、疲労により寝てしまっただの様なので安心した。
「本当に助かったよ、このか」
大切な事を教えてくれた、やさしい少女の頭を撫でる。
「さて、ネギ君の方はどうなったか……」
近くにエヴァの気配が感じられない。きっと私とランサーの決着がついたので、ネギの戦いを見に行ったのだろう。
「ネギ君、私は勝ったぞ」
日が暮れ星が輝き始めた空を見つめ、そう一言だけ呟いた後、シロウは眠るこのかを背負い世界樹前の会場を後にするのであった。
奇跡の連続更新。治すところが多々ありましたが、盛り上がるシーンのおかげでかなり速いペースで仕上げることができました!
ランサーのアニキかっこいい!
次回は遂に学園祭篇最終回です! お楽しみに!