正義の味方にやさしい世界   作:アンリマユ

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吸血鬼の存在

 

 

 

「「衛宮先生ーさよーならー」」

 

「ああ、気をつけて帰るんだぞ」

 

乱雑に並べられた机。食い散らかされた食べ物。その他紙コップや皿、空のペットボトル等のゴミを皆が帰った後シロウは後片付けている。

勘違いしないように言っておくが、3-Aの生徒達は断ったが、パーティーの礼だといってシロウが強引に仕事を奪ったのだ。

ちなみにそれでも引かずに手伝うとこの場に残ったのは、このかとこのかのせいで巻き添えを食らった神楽坂の2人だ。(ネギ君は用事があるらしく先に帰った)

 

「よし、そろそろ帰ろうか。2人ともありがとうな」

 

「「はーい」」

 

3人で歩く帰り道。ちょうど桜の咲く季節。

桜通りと呼ばれているだけあって、寮まで続くしばらくの道のりは桜並木となっている。

昼に花見をするのもいいかもしれないが、月明かりに照らされ舞い散る桜色の花弁もとても美しい。

そんな道を歩いていれば、話下手な私シロウでもそれなりに会話は進むというものだ。

 

「そうか、ネギ君はこのかと神楽坂の部屋に住んでいるのか」

 

「そーなんですよ。衛宮先生、何とかならな……りませんか? 先生の部屋に住むとか」

 

返事をしたのはツインテールの似合う元気な子、神楽坂アスナだ。

 

「いや、寮長としての仕事もあるからな。それに学園長の指示なら、勝手に私の部屋に住まわせるわけにもいかんよ」

 

たぶん学園長にも何か理由があるのだろうから、勝手に対処するわけには行かない。

……そうだよな学園長?

 

「そっかー……じゃない、そうですかー」

 

ガックリと肩を落とす神楽坂。

そんなに嫌なのだろうか?

 

「神楽坂。君の敬語に違和感を感じるのだが……もしかして敬語は苦手か? だとしたら早々に克服することだな。でないと後に後悔することになる」

 

ちなみに、このかがシロウに対してタメ口なのはもうあきらめている。

一応、パーティーの最中に注意はしたが、一向に変わる気配はない。

 

「うっ……すいません。このかがタメ口だからつい……」

 

神楽坂の落胆様、自分でも気づいてはいるという事か。

パーティー中、タカミチやしずなには敬語がつかえていたから、おそらくはシロウの容姿も関係しているのだろう。

元の姿だったのならば、つい敬語を忘れるなどという事態も起きまい。

 

「そうだな……。では、普段は敬語でなくても大目に見よう。 無論、校内や授業中に敬語を怠るようであれば、それは注意させてもらうが」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「本来はよくはないのだろうが、私は正規の教員ではないからな。学校外でまでうるさくは言わんよ」

 

「そ、そう? じゃあ、このかと同じで士郎って呼ぶ……ね? 私のことはアスナでいいから」

 

シロウの言葉を聞くと、アスナは上目づかいで恐る恐る口を開いた。

その姿を見れば、普段のアスナを知るクラスメイト達は大爆笑するだろう。

 

「クッ、了解したよアスナ」

 

そんなことを話していると「キャァァアアアッ!」と女性の悲鳴が聞こえた。

3人の中に走る緊張感。女性の悲鳴が否応なしに今朝の佐々木まき絵の事と生徒達の中で流れていた噂を思い出させる。

“桜通りの吸血鬼”今シロウ達はその桜通りにいるのだ。

 

「私は様子を見てくるから2人は桜通りを使わず寮までもどれ! 何かあれば悲鳴を上げろ、その時はすぐに駆けつける!」

 

このかとアスナ返事を待たず、シロウはその場を後にする。

どこまでも続く桜並木。走れども景色が変わらない道は、まるで幻術にでもかけられたような気分になる。

しかし、その光景もようやく終わりを告げる。並木道の途中、少し開けた場所に黒き外套に身を包んだ吸血鬼と、裸の少女を抱くネギがいた。

 

「……!?」

 

シロウが一歩近づくと、吸血鬼は飛んで逃げる。

だが、確かに見た。月の光に照らされて、闇夜に輝く金色の髪を。

 

「ネギ君、無事か?」

 

「シロウさん! はい、僕は大丈夫ですけど……」

 

ネギの腕の中には裸で気を失う少女の姿が。

 

「その子は、3-Aの宮崎のどかか。噛まれたのか?」

 

「いえ、気絶してはいますが噛まれてはいません」

 

そう言うネギの腕からは血が滴っている。

見た目ほど酷いけがではないが、吸血鬼と接触し戦闘になったことがわかる。

 

「宮崎さんを頼みます。僕は犯人をおいますので。心配は無いですので先に帰っていてください」

 

「待て、ネギく……!」

 

シロウにのどかを預けると、ネギは舞い散る桜の花びらを巻き上げながら、ものすごい速度で走っていく。

魔力による身体強化か、はたまたこの世界特有の魔法の力か。子供とはいえ、流石魔法使いといったところだ。

しかし、他人に危険が及ばぬ様にする為とはいえ、1人で犯人を追うというのはいただけない。

相手が吸血鬼だというのならば尚更だ。

 

「くっ、宮崎をこのままにもしておけないか」

 

シロウは外套を投影するとのどかに羽織らせ、足に強化をかけて桜通りを一気に寮まで駆け抜ける。

ネギのように見た目こそ派手さはないが、その速さは人ひとりを抱えているとは思えないほどである。

桜通りを抜けた先、巨大なマンションのような建物の入り口付近に、先に寮へと帰したこのかがいた。

 

「しろう、早かっ……って、のどか!? どうかしたん!?」

 

寮へと入ろうとしていたこのかはシロウを見つけると踵を返し、外套に包まれ気絶しているのどかの下へと駆け寄ってきた。

 

「事情は後で話す。悪いがアスナと2人で宮崎を……まて、アスナはどうした?」

 

そこまで言ってふと気づく。別れる前までこのかと一緒にいたアスナがいないではないか。

別れてからここまでシロウが来る時間を考えれば、すでに部屋にいるという事は考えにくい。現に、このかはちょうど寮へ着いたところのようだし。

 

「アスナならネギ君を迎えに行くゆーて、途中で別れたえ」

 

「なっ……!? はぁ、すまないこのか。宮崎を頼んだぞ」

 

「ん。了解や~」

 

のどかをこのかに頼み、シロウは寮の裏へと回る。

周囲に人がいないか細心の注意を払い、身体を強化して寮の壁面。主に換気口や雨樋のパイプなどを足場に一気に屋上へと駆け上がる。

 

「さて、ネギ君とアスナはどこに行ったのか」

 

強化した視力で見えるのは街頭や部屋の電気で明るい街。さすが学園都市とまで呼ばれる麻帆良。夜でも明るい為よく見える。

先ほどまでいた桜通りは桜の花弁のおかげか、桃色に光って幻想的な空間を作り上げている。

 

「ふむ。このような事態でなければ、ゆっくりと眺めていたいものだが……いたな」

 

桜通りから少し離れた場所の民家の屋根の上。ネギと逃げた吸血鬼、もといエヴァンジェリンを見つける。

何故か下着姿で息を荒げているエヴァンジェリンに、杖を構えるネギ。おかしな図ではあるが、誰が見てもネギが優勢なのは明らかである。

 

「どうやら追い詰めたようだな。やるじゃないかネギ君」

 

しかし、新たに現れた人物? 絡繰茶々丸によって形勢は逆転する。

魔法を出そうにも呪文を唱えきる前に茶々丸による攻撃を受け、ネギは魔法を使うことができない。

そうなれば、多少魔法による身体強化が可能とはいえネギは10歳の少年。ロボットに勝てる道理はない

 

「なるほど、アレが魔法使いの従者(パートナー)の役割ということか」

 

今エヴァンジェリンは何もしていないが、本来は従者が敵と戦闘している間に後衛の魔法使いが魔法で攻撃するのだろう。

その辺りはシロウの世界でのあり方と似ている。だからこそ、凛は聖杯戦争でセイバーを引き当てたかったのだ。

ネギは何とか呪文を唱えようとするが悉く茶々丸に邪魔されてしまっている。

ネギの主な攻撃手段は魔法。接近戦に慣れていないネギの勝利はゼロに等しいだろう。

頑張ってはいたが、ついに、茶々丸の攻撃を裁ききれなくなったネギは、エヴァンジェリンに血を吸われそうになる。

 

「まあ、ネギ君も頑張ったし2対1だからな。学園長との約束はあるが……矢一本分くらいは助けてやるか」

 

シロウは黒塗りの弓と先端がゴムで加工された矢を投影。

加工してあるので刺さることはないが、この離れた距離からの遠距離射撃。当たれば常人なら痛い程度では済まないだろう。

だが、相手は真祖の吸血鬼。ネギの首筋に噛みつこうとしているエヴァンジェリンの額を、シロウは容赦なく射った。

 

「も゛っ!?」

 

「マスター!?」

 

変な声を上げて、エヴァジェリンがのけぞる。

そこへ……

 

「ウチの居候になにすんのよー!」

 

「はぶっ!」

 

アスナの綺麗な跳び蹴りが炸裂して、エヴァンジェリンは吹っ飛んだ。

 

「クッ、くはははははは。見事な一撃だアスナ」

 

あまりにもタイミングよく登場し、あまつさえエヴァンジェリンへの見事な跳び蹴り。本当に、見事としか言いようがない。

綺麗に決まった一撃で、エヴァンジェリンは数メートルも飛んだのだから。これはもう笑うしかあるまい。

だが、それと同時に疑問に思うこともあった。

 

「アスナのあの力は……」

 

エヴァンジェリンの周囲には魔力の壁のようなものがあった。

だがアスナはそれを破壊して、否まるで魔力の壁など無いかの如く蹴りを入れたのだ。

 

「……完全魔法無効化能力(マジックキャンセル)?」

 

完全魔法無効化能力(マジックキャンセル)”その名の通り魔力を無効化する能力の事だ。

確かにその能力だけならばシロウの知る宝具にも似たようなものがあるから、それほど珍しくも無い。そう、その効果だけならば。

だがしかし、何の魔法道具(マジックアイテム)も無しに、1人の人間が完全魔法無効化能力などを持っているものなのだろうか?

何にしろ、今日の報告もかねて後で学園長にでも聞いてみるとしよう。……だが、今はそれよりも。

 

「私に何か用かね?」

 

ネギの方はもう大丈夫そうなので、先程からこちらを見ていた人物へ問いかける。

シロウの問いかけで屋上の入り口から出てきたのは……

 

「……桜咲刹那か」

 

野太刀を手にこちらを警戒する、桜咲刹那だった。

 

「衛宮先生、貴方は何者ですか?」

 

「私が何者かだと? おかしなことを言う。今日から赴任してきた3-Aの副担任だと自己紹介をしたはずだが……君は聞いていなかったのか? だとしたら気を付けたまえ。ほかの授業でそのように呆けていれば、成績に響くぞ」

 

「そんなことはわかっています。私が聞きたいのは、あなたの目的です。このかお嬢様に危害を加えるようならば、排除します」

 

学園長から、刹那がこのかの護衛をしている事は聞いていたが……なんというか、抜き身の刀みたいな娘だ。

殺気の鋭さから14歳とは思えない実力があることはわかる。だが、簡単に折れてしまいそうな脆さも感じる。

 

「排除するとはまた物騒だな。意気込むのはいいが、あまり気を張りすぎると足元をすくわれるぞ?」

 

「話をはぐらかさないで下さい!! 貴方はいったい何なんですか!」

 

一向に話が進まないことに苛立ちを感じたのか、刹那は野太刀を鞘から抜き構える。

 

「はぁ……わかった。きちんと説明するから、まずは刀を下げてくれ」

 

大きく溜息をつき、両手を上げて降参の格好をするシロウを見て、ようやく刹那は構えを解いた。

無論、今だ野太刀は鞘から抜かれたままだが。

 

「私に目的は特にはないんだが……そうだな、しいて言うならば、今は麻帆良の警備とこの寮の管理、そしてこのかの護衛だな」

 

「お嬢様の……護衛? それはどういう」

 

シロウを警戒していた桜咲刹那だったが、予想外の答えに戸惑いを見せる。

 

「ふむ。昨日の今日ではまだ連絡はいっていないか。いや、そもそもあの老人は連絡する気があるのかどうかさえ怪しいな」

 

「は? 何を言って……」

 

「私は手を上げてここから動かないから、学園長に確認を取りたまえ。携帯電話くらいは持っているのだろう?」

 

「はぁ、では失礼します」

 

完全に拍子抜けの回答を得た刹那は、先ほどまでの殺気はどこへやら、呆けた様子で携帯を取り出した。

 

「もしもし、桜咲です。あの……ええ……えっ? は、はい! ……わかりました」

 

電話を切ると、刹那はものすごい勢いで頭を下げた。

それはもう、頭が取れるのではないかというほどに。

 

「申し訳ありません! 学園長に確認を取りました。大変失礼なことを……!!」

 

「い、いや。桜咲そこまでかしこまる必要はないぞ? 今回の件は連絡をちゃんとしていなかった学園長の落ち度だ。それに、このかの護衛という役職に関しては君の方が先輩だからな」

 

「いえ。先ほどの射を拝見させていただきましたが、弓に詳しくない私でも素晴らしい腕だという事がわかりました。お互いこのかお嬢様を護る為に全力を尽くしましょう。それと、私の事は刹那で構いません」

 

同じ目的を持つシロウに仲間意識でも芽生えたのか? いや、それだけではあるまい。学園長はいったいどんな説明を彼女にしたのだ?

まぁ、それはおいおい問い詰めるとして……。

 

「さて、では刹那よ。私は事後処理があるからもう行くが、君ももう部屋へ戻りたまえよ」

 

そう言って、シロウは来たとき同様、寮の壁面を駆け下りる。途中屋上から「えええ~~~!?」という刹那の声が聞こえたが……まぁいいか。

というより、帰りは別に普通に階段を使ってもよかったんだと降りてから気づく。

 

「ふっ……!」

 

膝を曲げ勢いを殺し、寮の裏手の草の上にきれいに着地。

 

「このかとネギ君、それから学園長に状況説明……ああ、後アスナにもか」

 

面倒だ、と呟きながらも、どこか楽しげな表情でシロウは歩いていく。

こうして、エミヤシロウ初赴任の一日は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい……うん。シリアス展開まで行かなかった……。刹那登場辺りが多少シリアスと言えばシリアスかもしれませんが、次回はもうちょっとシリアスな部分が出てくるかな?……だといいな。
では、また次回!
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