妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら? 作:カジ
「あー、暇だなあ。やることねー」
「カズマくん。そんなに暇ならいい加減学校行きなさいって」
「やだ、面倒くせえ」
「カズマは引きニートだから無理ニャン」
「やかましいわ居候猫」
引きこもりの少年、佐藤和真。不登校で家から殆ど出ない引きこもりだが、彼には変わったことがある。それは、妖怪と友達になっていること。
引きこもりになる前、近所の森の奥まで虫取りをしていた時。一つのガシャガシャを発見した。なんとなく回したガシャだったが、出てきたカプセルを開けると、その中からウィスパーという妖怪が現れた。
「はあ、これじゃあ将来が心配でウィス」
この語尾にウィスを付け、白くて紫色の唇をした気持ち悪いのがウィスパー。カズマに妖怪ウォッチを渡した張本人。
「ちょっと!誰が気持ち悪いですって!?」
「事実ニャン」
「んだとジバ野郎!」
寝転がってチョコボーを食べているのが、地縛霊猫妖怪のジバニャン。交差点で寸止め事故を起こしていたが、カズマと出会って友達になった。
他にも様々な妖怪と友達になったが、あることがキッカケですっかり引きこもってしまったのだ。
「いや、俺も学校行きたいんだけどさあ、ヒキコウモリが取り憑いているからなあ。学校行きたくても行けないだわこれが。いやー、マジで残念だわー」
「何言ってんですか。ヒキコウモリはとっくに取り憑くのやめて、今は大人しく暮らしていますよ」
過去に人を引きこもらせる妖怪、ヒキコウモリに取り憑かれたカズマだったが、それ以前から引きこもっていたので効果はなかった。
「あのー、カズマさん。耳寄りな情報がありますよ」
「ん?どうしたヒキコウモリ」
ヒキコウモリは現在、カズマの部屋のクローゼットに住まわせて貰っている。中は優雅に引きこもれるように、パソコンやWiFi設備が充実している。
「カズマさんが欲しがっていたゲームの最新作が、今日発売されるみたいですよ」
「マジか!こうしちゃいられねえ!すぐ買いに行くぞ!」
緑色のジャージに着替えて、久しぶりの外出をするカズマ。
「カズマ、ついでにチョコボーも買ってくれニャン」
「しょうがねえなあ。一本だけだぞ?」
「やったニャン!ありがとニャンカズマ!」
「あんのー、カズマきゅん?あたくしにも何か…」
「さあ行くぞ!」
「っておい!」
ジバニャンとウィスパーを連れて、ゲームを買いに外出する。途中でコマさんやコマジロウと出会ったり、ハナホ人と遭遇して鼻をほじらされたりしたが、何とかお目当てのゲームを買えた。
「いやー、何だかんだかんだ何だありましたが、無事に買えて良かったでウィスね」
「ああ。これでまた有意義に引きこもれるぜ」
ウキウキ気分のカズマを、呆れたように見るウィスパーとジバニャン。すると、カズマは歩きスマホをしている女子高生を発見する。危ないなあと思いつつ見ていると、カズマはゲームが入った袋を放って走り出した。
「カズマ!?」
「カズマくん!?」
女子高生は気付いていなかった。自分に迫りくる、トラックの存在を。カズマはその子を守るべく、必死に走った。そして、静かに息を引き取った………
「…とまあ、こんな感じで死んだの。思い出した?」
「あ、ああ。何となく」
カズマは今、椅子に座ってアクアという女神様と対面していた。自分の死を告げられ、儚くも短い人生が終わったと実感する。
女の子を助けて死んだ、つまり悲劇のヒーロー。カズマはそう思っていたが、実はそうではない。トラックと思っていたが、トラクターの間違いだった。しかも、普通に止まれる速度で走っており、女子高生もカズマが突き飛ばしたせいで怪我を負ってしまった。
死因は、トラックと勘違いしたトラクターに轢かれたと思い込んだショック死。ついでにおしっこを漏らしていたという結末。
「プークスクス!何てマヌケな死に方なのよ!超ウケるんですけどー!」
「う、うるせえ!人の黒歴史をイジるんじゃねえ!」
女神とはおもえないほど、カズマを笑い飛ばすアクア。ひとしきり笑い終えた後、ようやく死後の案内を始める。
3つある選択の一つを選べるのだが、天国でただひたすらのんびり暮らしたり、記憶を消して生まれ変わるなど、いかんせんどれもぱっとしないようなものだった。
「あなた、ゲームは好き?」
「まあ、好きだけど」
「そうよね。ゲームを買うために久しぶりに外出するくらいだもんね。しかもそのせいで死んでるし」
「ほっとけ!」
最後の選択は、異世界で魔王を倒すこと。ゲーム好きの現代っ子のカズマにとっては、何となく理解の出来るものだった。
「もちろん。行ってすぐゲームオーバーなんて話しにならないから、対抗出来るための特典を用意してるわ」
アクアはそう言って、分厚い本を取り出す。それには色々な武器や能力が載っていて、確かにこれならどんなやつでも魔王と戦えると思った。
「選べるのは一つだけだから慎重にね。んじゃ、決まったら教えて」
アクアは寝そべってポテチを食べ始めた。なんか異世界行きが決定した感じだったが、消去法で異世界しかないと諦めた。
(ジバニャンや皆、心配してるだろうな…)
残された友達妖怪を思い、少し目頭が熱くなる。もう会えないと思うと、やっぱり寂しい。瞼を閉じて、今までの思い出が駆け巡る。
ぶようじん坊に取り憑かれて、好きな子の前で社会の窓を全開にしたこと。バクロ婆が、親にエロ本の隠し場所を喋ったこと。おならず者が取り憑き、公衆の面前で屁を……
(ろくな思い出がねえええええ!!)
妖怪は基本的に人を困らせる能力を持つ者が多い。カズマはなんやかんやで妖怪に好かれる体質を持っており、それ故に取り憑かれやすかったのだ。
「ねえ、決まったー?早くして欲しいんですけどー」
「分かってるよ。もうちょっと待っ…」
…ズマー!
「ん?何か言った?」
「え?何も言ってないわよ」
…ズマきゅーん!
いや、空耳じゃない。もはや聞き飽きたこの声。カズマはバッ!と振り向いた。
「カズマー!」
「カズマきゅーん!」
「ジ、ジバニャーン!」
「いや、あの…あたくしもいるんでウィスけど」
遠くから走ってくるジバニャンを、カズマは強く抱きしめる。
「二人とも、どうしてここに?」
「カズマの魂を追いかけて、ここまで来たニャン!」
「いやー、ビックリしましたよ。急に走り出したと思ったら、次の瞬間にはぽっくり逝っちゃってるんでウィスから」
ついさっき別れたばかりなのに、久しぶりの再開に感じる。死んだ自分を心配してここまで追ってきてくれた二人に、カズマは素直に嬉しかった。
「ちょっとー、勝手に入って来られても困るんだけど」
「カズマ、あの人だれニャン?」
「ああ、あれは…」
「ちょい待ちー!そういうのはあたくしの出番でウィスー!」
「いやあの、ウィスパー?」
ウィスパーが妖怪パッドで妖怪の名前を猛烈に探し始める。
「ええ、知ってます知ってますよー!あれはでウィスねー…妖怪口の周りにポテチ付いてる女!じゃなくて、妖怪パンツ履いてるのか履いてないのか分からない女!でもなくて…ええと、妖怪、妖怪…」
ウィスパーは本名、妖怪シッタカブリ。その名の通り、すぐに知ったかぶりをする妖怪である。いつもいつも知らないのに知ってると言いながら、妖怪パッドで検索してカンニングしているのである。
しかし、今回ばかりは見つからないのは当然だ。そもそも、アクアは妖怪ではないのだから。
「で、結局だれニャン?」
「自称女神妖怪のアクア」
「誰が妖怪よ!あと自称じゃないから!本物だから!」
拉致があかないのでカズマがさっさとアクアを紹介する。
「あなた達妖怪ね。ここは死後の人間を案内する場所なの。関係ない人…ああいや、妖怪は出ていきなさい」
「嫌ニャン!カズマはオレっちの友達ニャン!このままお別れなんてしたくないニャン!」
「そうでウィス!カズマくんの行くところ、この敏腕妖怪執事ウィスパーありでウィス!」
「ジバニャン…」
「はいはい、どうせそう来ると思ってましたよ。どうせあたくしは
カズマとの結束を見せつけ、断固として居座るウィスパーとジバニャン。アクアも仕方なく、二人の同行を許した。
「ははーん、なるほど。つまり今は異世界へ行くための特典を選んでる最中でウィスね」
3人で特典の本を見つめ、一緒にどれが良いか考える。
「カズマ!この剣とかカッコいいニャン!」
「お、それも良いなあ!」
「カズマくん!伝説の剣、ドンパッチソードもありまウィスよ!」
「それはいらない」
あれでもないこれでもないと、色々あり過ぎるゆえに迷ってしまう。妖怪迷い車でも憑いてるのかと思った。
「いい加減に決めてよね。どうせ何選んでも、元がヒキニートなんだから大して変わらないって」
プチッ。さすがにアクアの言動に、カズマも腹が立ってきた。もういい、もう許さん。こいつには仕返ししなくちゃ気が済まねえ。
「…ああ、決めたぜ」
カズマは腕をスゥと上げて、ビシィッ!とアクアを指差した。
「じゃああんたで」
「はいはい私ね。それじゃあ……はい?」
アクアの頭に、?マークが浮かんでいる。アクアが文句を言う前に、カズマとアクアの足下に魔方陣が出現した。
「承りました。アクア様の仕事は、私が引き継ぎます」
羽の生えた美少女が舞い降り、アクアは絶望的な顔になる。
「ちょっ、ちょっ…!ちょっ待っ!聞いてない!こんなの私聞いてない!女神を特典扱いとか反則よ!訴えてやるー!」
アクアの喚きも虚しく、異世界行きの準備が始まる。
「カズマ!オレっち達、いよいよ異世界に行くニャンね!」
「どこへ行こうと、このあたくしにお任せあれでウィス!」
ジバニャンとウィスパーも、カズマにしがみついて魔法陣に飛び込む。
「佐藤和真さん、あなた達の幸運を祈ってます。無事に魔王討伐出来た暁には、何か一つ願いを叶えてあげましょう」
「マジか!?」
「私の決め台詞取られた~!」
「それでは、佐藤和真さん御一行のご案内〜」
こうして、人間一人、女神一柱、妖怪2体。異世界へ飛ばされることになったのだった。