妖怪ウォッチを手に入れたのが、ケータではなくカズマだったら?   作:カジ

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最凶の妖怪

 「今日は天気良いなあ、絶好のクエスト日和だ」

 

 快晴。雲一つなく、太陽が明るく輝いている。カズマ達はとあるクエストに出発しており、今は目的地まで移動中だ。

 

 「…私の心は曇り空なんだけど」

 

 「何だよアクア。俺の考えた作戦に文句あるのか?」

 

 アクアは今、頑丈な檻に閉じ込められて、荷台で運ばれている。何故こうなったかと言うと、いい加減バイト生活に嫌気が指したアクアが、高難度のクエストを受けようと言い出した。

 湖の水を浄化するクエストだが、当然そこに生息しているモンスターに襲われる危険がある。だから安全の為に、アクアを檻に入れているのだ。決していじめているわけではない。

 そして、一行は湖に到着。アクアを檻ごと湖に入れ、カズマ達は少し離れた所で様子を見守る。

 

 「…なんか、紅茶のティーバッグの気持ちが分かった気がする」

 

 湖に体を浸けているだけで、水の浄化は出来る。後はこれで、浄化が完了するのを待つだけだ。

 

 「何か起こるまでは、あたしたちは暇でウィスね」

 

 「ふわぁ〜、オレっちお昼寝するニャン…」

 

 モンスターが出てきてアクアがピンチになったら、カズマ達が一気に檻を引き戻す作戦だったが、開始から数十分。特に変わった様子はない。

 

 「アクアー、トイレ大丈夫かー?」

 

 「はあ!?と、トイレとか、一度も行ったことないんですけど?!」

 

 アクアの謎の強がりに、はいはいとカズマは受け流す。

 

 「まったく、アクアは強がりですね。まあ私も、トイレなんて行きませんが」

 

 「お二人は昔のアイドルでウィスか」

 

 「わ、私もトイレは行かな…行か」

 

 ダクネスは流石にちょっと恥ずかしいのか、このノリに上手く乗り切れていない。

 

 「無理するなダクネス。こいつらには今度、一日じゃ終わらないクエストを…」

 

 いや、待てよ。この時、カズマはあることを思い付いた。変に強がったアクアとめぐみんの二人には、時間のかかるクエストを受けて、どこまでトイレを我慢出来るか確かめてやるつもりだった。

 だが、今度と言わず今すぐにでも確かめる方法があるではないか。

 

 「…へ〜、二人はトイレ行かないんだあ」

 

 「はっ?!」

 

 ウィスパーだけが、カズマの考えてる事が何となく分かって冷や汗をかいた。我がご主人様ながら、この悪そうな表情。これは間違いなく、良からぬ事を考えてる顔だ。

 

 「アクアさん、めぐみんさん!悪いことは言いませんから、さっきのセリフ今すぐ取り消した方がいいでウィスよ!」

 

 「はあ?べ、別に。本当のことだもん」

 

 「そうです。紅魔族は、トイレなんか行きません」

 

 「そんなこと言ってる場合じゃ…あ!ほらほら、カズマくんがあの妖怪を召喚しようとしてますよ!」 

 

 ウィスパーの忠告を二人は無視し、カズマはポケットから一枚のメダルを取り出す。トイレなんか行かない、つまり催したことが無い。そう言ってしまった二人に、カズマはあの妖怪を召喚した。

 

 「出てこい、モレゾウ!」

 

 ウォッチから光が反射し、その中から妖怪が出現する。

 

 「も、モレゾウ?」

 

 「な、何ですかこの妖怪は。よく分かりませんが、物凄く嫌な予感がするのですが…」

 

 カズマが召喚したのは、ゴーケツ族のモレゾウ。小さい象みたいな可愛らしい妖怪だが、実は恐ろしい能力を秘めている。

 

 「モレゾウ、アクアとめぐみんに取り憑いて」

 

 「「!!」」

 

 モレゾウに取り憑かれたアクアとめぐみんは、急に足の間に手を挟んでもじもじし始めた。

 

 「こ、これは…」

 

 「まさか…」

 

 嫌な汗が二人の背中に流れる。モレゾウがどんな妖怪か分かったようだが、もう遅かった。モレゾウは人に尿意を催させる妖怪。取り憑かれたら最後、凄くトイレに行きたくなってしまうのだ。

  

 「あーー!ちょっ…待っ…あーーー!!」

 

 檻の中だから為す術もなく、ひたすら檻をガンガン揺らして尿意に耐えるアクア。

 

 「か、カズマ…!この妖怪、早く…どこかにやって…ください…!!」

 

 めぐみんは涙目で顔を赤く染め、両足で地面をトントン踏み鳴らして我慢している。

 

 「ん〜?紅魔族はトイレ行かないんじゃなかったっけ〜?」

 

 「〜〜〜〜!!そ、それは…」 

 

 ちょっと強がっただけなのに、こんないたずらされるとは思わなかった。今思うと、何であそこで変な意地張ってしまったんだろう。今はそれを凄く後悔している。

 

 「うぅ〜!は、早く…!謝りますからぁ…」

 

 「カズマくん。意地悪もそれくらいにしなきゃ駄目でウィスよ」

 

 「ウィスパーの言う通りだ。けしからん、実にけしからん。そういう役目は、次から私に回してくれ」

 

 「ダクネスさん、ちょっと黙っててくれません?」

  

 そろそろめぐみんも本当に限界のようなので、カズマはモレゾウからめぐみんを開放してやる。このままだと、しばらくめぐみんと口を聞いて貰えなくなりそうだし。

 

 「…ふー、助かりました。まったく、カズマは意地悪ですね。危うくもう少しで…」

 

 「え?もしかしてちびっちゃいました?めぐみんさ」

 

 この直後、ウィスパーの顔面にめぐみんの右ストレートが炸裂したのは言うまでもない。

 

 「…前が見えねえでウィス」

 

 「さて、次はあっちか。そろそろ許してやるかな」

 

 カズマの気も済んだので、アクアの方もモレゾウから開放してやる。と思ったら、何か様子がおかしい。さっきまでギャーギャー喚いていたのに、今はすっかり静かになっている。

 

 「…まさか」

 

 嫌な予感がして、カズマ達は近くまで様子を見に行った。

 

 「お、おい。アクア…」

 

 「…しばらく、ここから出たくない」

 

 文字通り身も心も塞ぎ込んでしまった。アクアの目が完全に死んでいる。湖の浄化が予定より早く済んでいるのは、気の所為だと思っておこう。

 

 「…カズマくん。後でちゃんと、謝りましょうね」

 

 「…そうだな」

 

 流石にやり過ぎたと、カズマも反省した。湖の浄化も終わり、カズマ達は街に帰ってきた。アクアはまだ檻の中から出たがらず、周りの人の奇怪なものを見る視線が痛い。

 今回の報酬は、話し合いでアクアが総取りして良いことになったが、まだ気が晴れないみたいだ。

 

 「おーいアクアー、いい加減出てこいよ。俺が悪かったって」

 

 「…嫌、私はこのまま売られていくのよ」

 

 どこにだ。とツッコミそうになったが、ここはグッと堪える。

 

 「帰ったらシュワシュワ奢ってやるよ」

 

 シュワシュワという単語に、ピクッとアクアが少し反応した。良かった、このままずっと暗かったらどうしようと思った。酒さえ与えておけば、後は自然と元通りになるだろう。

 

 「女神様!?女神様ですよね?!」

 

 「何だ?」

 

 振り返ると、豪勢な鎧を着た男がアクアを呼んでいる。その口振りからして、アクアと知り合いなのだろう。

 

 「何で女神様がこんな檻の中に!?ともかく、今出してあげますからね!」

 

 その男はなんと、素手で檻をこじ開けた。物凄い怪力の持ち主だと、カズマ達は驚く。

 

 「さあ女神様、こちらへ」

 

 優雅に手をアクアに差し伸べるが、ダクネスがその手を振り払う。

 

 「私の仲間に、気安く触れるのはやめて貰おうか」

 

 普段は変態な行動ばかり目立つが、仲間に怪しい奴が近付くのは見過ごせない。ダクネスはアクアと相手の男の間に割って入った。

 

 「おいアクア、誰なんだよあいつは。女神様とか言ってるし、お前の知り合いか?」

 

 「…え、女神?誰が?」

  

 「いやお前だお前」

 

 数秒の沈黙の後、アクアがハッと何かを思い出すように立ち上がった。

 

 「そうよ、私は…痛っ!」

 

 勢い良く立ち上がったせいで、檻の天井にゴンッ!と頭をぶつけた。涙目でタンコブを擦って、天井に気を付けて中腰で檻から出てくる。

 

 「そうよ、私は女神よ。女神扱いしてくれる人が全然いないから忘れてたわ」

 

 「忘れんなよ」

 

 「さあ!この女神様に何のご用かしら!」

 

 自分の存在を思い出し、女神らしく堂々と胸を張って腕を組む。目の前の男と目が合い、アクアは首を傾げた。

 

 「どちら様?」

 

 「ミツルギです!あなたに魔剣グラムを頂いた…」

 

 「ミツル…ギ?魔剣グラ…ム?」

 

 まるで初めて聞いたかのように、アクアの頭に疑問符が浮かんでいる。どうやらアクアは完全に覚えてないらしく、ミツルギという男は項垂れた。

 

 「あらら、アクアさんはすっかり忘れちゃってるみたいでウィスね」

 

 「まあ、何人も送ってるみたいだから、よっぽど印象の強い人以外覚えてなくて当然ニャン」

 

 「てことは、こいつも俺と同じ転生者か」

 

 改めて、カズマはミツルギと自分の装備の違いを見比べる。見るからにお高そうな鎧に、転生特典で貰ったチートの剣。きっとこいつは、大した苦労もなく異世界を満喫してきたのだろうと、少しムカついてくる。

 アクアから現在の状況を聞いたミツルギが、突然カズマに掴みかかってきた。

 

 「君は女神様をいったい何だと思っているんだ!」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ。確かに最初は困ったけど、今はもう楽しく暮らしてるし。カズマも…そこまで悪い人じゃないのよ。多分。今日のアレは流石に堪えたけど…」

 

 「おい、ちゃんとフォローしろ」

 

 アクアが間に入って宥めてくれるが、ミツルギは手を離そうとしない。

 

 「おい、いい加減にしろ。初対面で、礼儀知らずにも程がある」

 

 「あたしのカズマきゅんに、何してくれちゃってんですかあ?おう?」

 

 ウィスパーが見えていないのを良いことに、ミツルギにガンを飛ばしている。

 

 「カズマ、こいつにオレっちの百裂肉球かましてもいいニャン?」

 

 「私の爆裂魔法も撃っていいですよね?」

 

 指をボキボキ鳴らして、既に臨戦態勢のジバニャンとめぐみん。特にめぐみんに爆裂魔法を撃たれると、辺り一帯が吹き飛んでしまうので、それはやめろとカズマは二人を落ち着かせる。

 

 「君たち、こんな最弱冒険者と一緒で辛かっただろう。僕のパーティーに入れば、もっと良い装備を買ってあげるよ。ん?どうだい?」

 

 あまりにもキザな成金野郎全開なセリフに、めぐみん達はドン引きした。

 

 「ちょっと、何あの人。私が言うのもなんだけど、まじアレなんですけど」

 

 「私は基本受け専門だが、今ばかりは攻めに回りたい」

 

 「そろそろ、撃っていいですよね?爆裂してもいいですよね?」

 

 満場一致でミツルギは嫌という結論になった。ここまであからさまな誘い方では、そりゃ振られるのも当然だろう。

 

 「カズマくん、そろそろ行きましょ」

 

 「こんなやつ相手にしてもしょうがないニャン」

 

 「そうだな。じゃ、そういうことで」

 

 この場を去ろうとするカズマ達だが、ミツルギがその前に立ち塞がった。

 

 「…まだ何か?」

 

 そうは言いつつも、この後の展開は大体分かっている。この手のタイプは、欲しい物は自分の手にするまで諦めないのだ。

 

 「女神様を、こんなパーティーに置いておけない。悪いが、僕と決闘してもらう」

 

 「ほんとに悪いぞ」

 

 「僕が勝ったら、女神様を僕のパーティーに入れて貰う。君が勝ったら、何でも言うことを…」

 

 「先手必勝!!」

 

 「え?」

 

 言い終わる前にミツルギの隙きを突き、剣で襲いかかる。突然始まった決闘に、言い出しっぺのミツルギは防戦一方。最終的にはスティールで剣を取られ、頭に一撃を喰らってミツルギが負けてしまった。

 剣の腹で叩いたから、死んではいない。

 

 「結構呆気なかったニャンね」

 

 「それにしても、いきなり不意打ちを決めるとは、流石カズマくんでウィスね」

 

 「油断してるこいつが悪いんだよ」

 

 チート武器を持ってるから、絶対に勝てると高を括っていたのだろう。決闘に卑怯もくそもない。むしろ、チート武器持ちで冒険者に決闘を挑むこいつの方が卑怯と言うものだ。戦利品として、魔剣グラムはカズマの手に渡った。

 

 「ぐ…ぐぐ。おのれ…」

 

 「うおっ、しぶといな」

 

 頭に大きなタンコブを作って、ミツルギが何とか起き上がった。

 

 「ま、まだだ…まだ負けてない…」

 

 「往生際が悪いぞ。もう勝負は着いただろうが」

 

 「ふ、ふざけるな!あんなの認めないぞ!」

 

 やれやれ、カズマは呆れてため息をつく。仕方ない、こうなったらもう一発お見舞いしてやるか。そう思った次の瞬間、何かがミツルギの頭に降りてきた。

 

 「お、お前は…!」

 

 「な、何だ?どうしたんだ?」

 

 ミツルギには、その姿を確認することは出来ない。しかし、それの正体を知っているカズマ、ウィスパー、ジバニャンは戦慄している。

 

 「か、カズマくん!まずいでウィスよ!」

 

 「あいつは危険ニャン!」

 

 「くそっ!こんな時に!」

 

 「何だ!?何かいるのか!?」

 

 カズマの只事ではない様子に、ミツルギも不安に駆られる。ミツルギの頭に乗っているその妖怪は、横に広い楕円形の顔。なんと言っても特徴的なのは、大きな鼻…の穴に突っ込んだ二本の指。

 そう、彼は最凶の妖怪と言っても過言ではない。妖怪ハナホ人だった。

 

 「な、なんかまずい予感がします!逃げますよ二人とも!」

 

 「あ、ああ」

 

 「カズマ、あとよろしく!」

 

 「ああ待て!ずるいぞお前ら!」

 

 カズマ達の様子から嫌な予感を察して、めぐみん達は離れた場所まで避難する。

 

 「そ、そうだ!俺もさっさと逃げ…」

 

 「おっと、どこへ行こうと言うのかね?」

 

 カズマもこの場から逃げようとしたが、何も知らないこの馬鹿に捕まってしまう。

 

 「だああああ!どけ!今はお前に構ってる暇はないんだよ!」

 

 「ふっ。そんなこと言って、逃げようたってそうはいかない」

 

 「お前から逃げたいじゃねえ!は、早くしないと…」

 

 その時、カズマの手が勝手に動き出した。カズマだけじゃない、ウィスパー、ジバニャン、そしてミツルギ。4人は両手を組んで、人差し指を二本立てた。

 

 「こ、これは…まさか!?」

 

 ゆっくりと二本の指が、自分の2つの鼻の穴目掛けて上がってくる。ここまで来ればさすがのミツルギも、これがどういうことかは理解出来た。

 

 「き、君の仕業か!?こんな卑劣で、お下劣な真似をするのは…!」

 

 「違うわ!俺も同じ状況…だろうがっ!」

 

 精一杯力を込めて腕を押し戻そうとしているが、ハナホ人の強力な念力の前では無力。こうなったらもう、誰にも救うことは出来ない。

 

 「や、やめろ…やめてくれえええ!!」

 

 後数センチのところまで指が迫り、ミツルギは遂に叫び出す。公衆の面前、その中にはパーティーメンバーの女の子もいる。その子達の前でこんな姿、晒したくなかった。

 

 「…ウィスパー、ジバニャン。俺達、死ぬ時は一緒だ」

 

 「…でウィス」

 

 「…ニャン」

 

 カズマ達も全てを諦め、最後は悟りを開いたように、とても良い笑顔だった…………

 

 「あー、ちくしょうハナホ人め。次あったら覚えてろよ」

 

 「あいつだけは油断出来ないでウィスね」

 

 「次こそオレっちの百烈肉球お見舞いしてやるニャン」

 

 二本指で鼻をほじる3人。周りの人からの視線も、もう慣れて何とも思わなくなった。実際見られているのはカズマだけだが。ちなみに、ミツルギはすっかり肩を落として帰って行った。鼻に指を突っ込んだまま。

 

 「…ハナホ人、なんて恐ろしい妖怪なのかしら」

 

 「あいつだけは出会いたくないですね」

 

 「こ、公衆の面前であんなことを…!し、しかしあれは…いや、でも!」

 

 一人で葛藤しているダクネスは置いといて、アクア達は報酬を受け取りにギルドに向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 




どうしても湖の回ではモレゾウを出したかった。
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